2026年3月30日月曜日

マルチモーダル粉末配合による高タップ密度化

 バイモーダル粉末配合の概念図を見つけたのでアップします。大きな粉末と小さな粉末を配合することで、配合粉末の嵩密度は、それぞれ単体の嵩密度より高くなり、配合比のどこかに最高密度があることがわかります。


【珈琲ブレイ句】この事例は、2種類(バイモーダル)ですが、3種類だとトライモーダルになり「大豆に小豆を混ぜて、その隙間に胡麻を入れる」イメージです。 広義で、2種類以上をマルチモーダル粉末配合と呼んでいます。

ここで、注意することは、1種類には分布があることです。つまり「峰」なので、実際の配合は上図のように単純なモデルではありません。最大タップ密度となる配合比は、実験で見つける必要があります。

関連BLOG:二峰分布混合の威力

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2026年3月29日日曜日

バインダージェット(BJT)の「グリーン体」を科学する

金属AM(バインダージェット:BJT)に関する非常に興味深いレビュー論文*1に目を通しました。MIM屋にとって、BJTは「金型のいらないMIM」として親しみやすい反面、その「グリーン体」の脆さや密度のバラツキに頭を悩ませることも多いはずです。今回は、論文から見えた「グリーン体造形の科学」を、実務の視点で表にまとめたので共有します。

参考文献*1:“Binder jet additive manufacturing: a review of modelling approaches and experimental observations on green part printing” ,Mohan Sai Ramalingam , K. N. Chaithanya Kumar , Shashank Sharma , Sameehan S. Joshi & Narendra B. Dahotr、(Virtual and Physical Prototyping, 2025)


【珈琲ブレイ句】 結論は、「グリーン体がすべてを決める」です。MIMでも同様ですが、後工程(脱脂・焼結)が高度な工法であっても、成形体(グリーン体)の品質が悪ければ、最終製品の密度も精度も上がりません。

BJTにおけるグリーン体の品質は、大きく分けて以下の3つの相互作用で決まります。

1. 粉末特性: 粒径分布と形状(球形か否か)。

2. バインダー特性: 粘度と表面張力(染み込みやすさ)。

3. プロセス: 層の厚みと液滴の間隔、そしてヘッドの移動速度。

特に興味深いのは、バインダー液滴が粉末床に衝突した瞬間、単なる「染み込み」だけでなく、「慣性による広がり」が初期の解像度を支配するという点です。

2. 計算モデリング(DEM vs CFD)の使い分け

論文では、目に見えないミクロな挙動を解明するために2つの手法が挙げられていました。

DEM(離散要素法): 粉末一つ一つの「粒」を計算します。ローラーで粉を敷く際の「充填のムラ」を予見するのに適しています。

CFD(流体解析): バインダーという「液」の動きを計算します。毛細管現象で粉の隙間にどう浸透するかを可視化します。

最近ではこれらを組み合わせた「マルチフィジックス解析」が進んでおり、現場の「勘」が理論で裏付けられつつあります。

やはり、「《ミクロ》シミュレーション」と「《マクロ》パラメータ設計と検証」の合わせ技で、技術の差別化できることがわかりますね。

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2026年3月24日火曜日

世界のトップレベル「INDO-MIM社のBJT技術」から学ぶこと

INDO-MIM社のBJT(バインダージェット)技術は、間違いなく世界トップレベルにあると感じています。今回、「なぜBJTで相対密度99%を実現できたのか」という切り口から、その驚異的な強みの理由を考察しました。

  • 理由1 ガスアトマイズ粉末の内製化。ASBAnti-Satellite Blower)技術によるサテライトのない真球状粉末の実現。
  • 理由2 マルチモーダル粉末配合による高タップ密度化。
  • 理由3 濡れ性・浸透性を向上させた最新バインダーの採用。
  • 理由4 「超音波リコーター」と「チャンバー内の温湿度・静電気管理」による、積層段階での充填率(グリーン体密度)の極限化。
  • 理由5 工具鋼の焼結におけるSSLPSSupersolidus Liquid Phase Sintering:超固相線液相焼結)の採用。

【珈琲ブレイ句】金属BJTの最大のネックは、微細粉末の流動性の低さです。そのため、通常はMIM用より少し大きめの粉末が使われますが、結果として焼結密度が上がりにくいという潜在的課題を抱えています。

INDO-MIMは、この課題を見事に解決しています。超音波を用いたリコート手法は、粉末の流動性を補う最善策と言えるでしょう。もちろん、粉末自体の「サラサラ化」も不可欠です。究極の技術を目指すエンジニアたちが互いに切磋琢磨する姿には、同じ技術者としてワクワクさせられます。

この知見は当然、本業のMIMにもフィードバックされています。後発でありながら、なぜ彼らが世界の頂点に立てたのか。その加速度的な技術開発力は、日本の製造業も大いに見習うべき点があるはずです。Japan is Back


《広告》ここで少し宣伝をさせてください。私は固体潤滑粉末を0.3wt%混ぜて流動性を向上させるBJT関連特許を持っていてます。現行のBJT装置でも効果(不良率の低減)が期待できます。 現在、社会実装に向けたパートナーを募集中です。ご興味のある方は、ぜひ弊事務所までお声掛けください。

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2026年3月22日日曜日

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2026年3月10日火曜日

焼結に使うガスと焼結体品質のまとめ

 MIMの焼結工程における雰囲気と焼結体の密度、および特徴(注意点)をまとめておきます。


【珈琲ブレイ句】〔◎:優れている、〇:◎より劣る、△:普通〕
 Arガスによる焼結体の密度を△としていますが、バッチ式真空焼結炉でArが一番使われていると思います。やはり不活性ガスは扱いやすいのです。導入ガスに期待する効果の代表的なものは、ステンレス鋼であればCr蒸発を抑えるための圧力制御になります。どうしても密度を上げたい方は、密度改善策としてAr+H2が一番密度が高くなるという実験報告(資料1)があります。
 H₂ガスは、酸化物還元(MO + H2 → M + H2O)、粒界拡散促進効果(ネッキング増加、高密度化)が期待できますが、表面の脱炭に注意が必要です。また、可燃性ガスなので排気で燃焼させる必要があります。
 N₂ ガスは、安価で使いやすいですが、炭窒化物形成や固溶(N2 → 2N)作用があるので、焼結体の客先スペックとのすり合わせが必要になる場合があります。逆に窒化物生成や固溶強化を利用する新しい方法も提案できるかもしれません。
 真空は、一般的に焼結密度が高くなる方向なので◎ですが、△は、ステンレス鋼のCr蒸発が気泡として焼結体に閉じ込められる事例報告から引用しています。対策として、真空 + 分圧H2で焼結できれば、高密度で最大級の耐食性を有するステンレス鋼が得られます。

(資料1)Effect of Sintering Temperature and Atmosphere on Corrosion Behavior of MIM 316L Stainless Steel (2011)

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2026年3月8日日曜日

【MIM指南書(増補・セルフ)】Cr量の低下 P138

  【MIM指南書(増補・セルフ)】P138 「Cr量の低下」章へ、下記文章を追加します。印刷してP138とP139の間に貼り付けてください。


使用するガスは、アルゴンガスの他に水素ガスを使う方法がある。メリットは、水素の還元能力に加え、水素原子は小さいので金属の結晶格子内に固溶されるか、焼結体表面から系外へ放出されポアとしての残存が少なく焼結密度が高くなる可能性がある。デメリットは、CrMo鋼等では表面が脱炭し疲労強度が低下する場合がある。また、水素は可燃性ガスのため、炉外排気路に燃焼装置を取り付け完全燃焼させる必要がある。

また、窒素ガスを使う場合の注意点として、窒素ガスは不活性として扱われるが、焼結の高温域(1000℃以上)では多くの金属に対して「反応性ガス」あるいは「合金元素」として振る舞う。17-4PHを純窒素下 1,350°C 前後で焼結した場合、表面に窒化物(Cr2N)が形成され、耐食性が低下した事例がある。また、機械的特性も変化する。メリットは、窒素分子が原子状に解離し結晶格子内に固溶されるか、焼結体表面から系外へ放出されるため原子の大きなアルゴンよりポアとしての残存が少なく焼結密度が相対的に高くなる可能性がある。

また、アルゴン、窒素と水素の混合ガスも使われており、不燃性混合ガスとして「97%Ar+3%H2、96%N2+4%H2」などが使われている。


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2026年3月4日水曜日

製法が異なるSKD11粉末による二峰分布配合の効果

 私の古い論文ですが共有化します。アトマイズ製法が異なるガスアトマイズ粉末と水アトマイズ粉末を二峰分布配合した研究開発です。

開発の目的:焼結が難しい工具鋼SKD11の品質(寸法、分散、溶け、崩れ、密度、硬度)に対するロバスト性能を向上させることでフルチャージ焼結を実現させる。

《粉末》  水アトマイズ2種とガスアトマイズ1種の配合比研究

《結果》

《結論》
 水アトマイズ粉末の平均粒径をガスアトマイズ粉末よりも小さく設定し、両者の配合比を50:50~75:25とした二峰分布混合粉末を用いることで、焼結温度のバラツキに左右されにくい安定した品質の合金工具鋼(SKD11)を得ることに成功した。

 ポイント:圧力制御のガスを流すためタイトボックス内の温度バラツキは±10℃程度あります。図4の赤丸の配合であれば、この炉内温度の誤差幅20℃であっても、密度誤差幅が0.15g/cm3に収まっています。高炭素の工具鋼であっても高密度で溶けも発生しないフルチャージ生産が可能になりました。

引用論文:”Development of sintered SKD11 compacts with High Robust performance by Metal Injection Molding” Shoji Hachiga, Yoshihiro Shiina
特開2004年052051 金属焼結体の製造方法及び金属焼結体

【珈琲ブレイ句】一般的に「二峰分布(バイモーダル)配合」の採用は、寸法精度や焼結密度の改善に寄与します。
 本研究の真髄は、「二峰分布配合の効果」だけでなく、さらに「焼結特性の異なる粉末の組み合わせ」にあります。ガスアトマイズ粉末と水アトマイズ粉末では、焼結過程におけるネック形成や原子拡散のタイミング・速度、および液相温度が異なります。この焼結特性の異なる2種材を複合させることで、焼結プロセスにおいていわば「アクセルとブレーキ」を同時にコントロールする状態を作り出し、焼結品質の分散を最小化することに成功しました。これにより、かつて課題であった「フルチャージ時のSKD11の溶け」という致命的なトラブルの解消に成功しました。また寸法精度も±0.22%になりました。 付け加えると、一次脱脂は溶媒脱脂等による完璧な炭素コントロールが必要です。