2020年9月26日土曜日

高精度化に必要な「焼結機能窓 sintering window」とは?

 「sintering window」直訳すると「焼結窓」?「焼結機能窓」の方が目的が少しわかる。昔、私が勝手に作った言葉「焼結限界温度範囲」と同義である。焼結機能窓とは、焼結密度が最大でかつ組織が仕様を満たす焼結温度の範囲のことである。組織の仕様とは、結晶粒の大きさ、硬度、炭化物形状などの規格である。

 この焼結機能窓が広いとなぜ良いのか。

 それは、焼結炉内の温度バラツキがあっても出力品質(焼結密度、組織)が安定(バラツキが少ない)するので、寸法も安定し高精度化が実現できる。ロバスト性能が高いということである。

 特に高炭素鋼の焼結機能窓は狭い。急激に密度が上昇すると思えば、少し高温にすると溶ける。SUS440C、SKD11、D2、SKH51、M2等の焼結は苦労する。

 この対策にはどんなものがあるのか、2つ紹介する。

1)私が行った対策で、2種類の性質や粒径が異なる粉末を混合する方法。

2)成分がJIS規格から外れるが、炭化物を添加する方法。WC、TiC、TaC、NbC、VC 等を数%~10%混ぜると焼結機能窓が数10℃広がり、焼結温度も低温側にシフトするという論文がある。炭化物が粒子の成長を押さえる効果があると考えられている。ピン止め効果。


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2020年9月23日水曜日

水素雰囲気での脱脂の効果

 水素を脱脂に使った経験が無い。またその目的・意味もよく分からなかったのであるが、専門誌に興味深い論文を見つけたので、この機会に勉強する。

 ヨーロッパの研究機関フラウンホーファーIFAMによる、水素を使った二次脱脂・焼結の論文である。この論文は量産MIM脱脂焼結炉の排気を質量分析する試みが主目的であるが、この二次脱脂に水素を使っているので、この部分だけ抜き出してみる。実験は水素とArとの混合比を5水準に変えている。

【条件】粉末:BASFカルボニル粉、OM+CC+Ni (FEN2、C=0.35%)、バインダー:ポリアミド系、一次脱脂:溶媒脱脂、焼結体炭素測定:LECO


【結論】この実験では、水素100%で炭素が0.006%に減少している。Ar100%で炭素は0.321%で粉末の炭素0.35%とほぼ同じである。


【注目すべき事】水素にArを混ぜていくと、炭素が上昇し50:50~25:75では、粉末の炭素量より多くなっていることが面白い。中途半端の水素混合は炭素減少目的では逆効果ということだ。*1

【蛇足推定】このデータは二次脱脂と焼結中にガスを流しているので、もし真空還元工程を入れていたらどうなるのか推定してみる。混合粉末の酸素=0.27%と仮定して計算すると。

100:0=0%   75:25=0%  50:50=0.20%  25:75=0.30%  0:100=0%

【まとめ】二次脱脂に水素を使うと、炭素をゼロに近づけることができる。ただし、Arと混合させ水素濃度を落とすとその効果は減少するどころか、逆に炭素を増加させることがある。

*1 論文には理由は不明としながら仮説を述べている。意訳すると・・理由は2つ。ひとつは、水素100%の分解強度のピーク温度が300℃と一番低く、水素濃度が少なくなるとその分解強度(分解量)は減少し、分解カーブ(分布)は緩やかになり、温度も高い方へシフトする。ふたつめは、水素が粉末表面をクリーニングするため、残留バインダーが奇麗な表面と反応(浸炭)する。それはα鉄からγ鉄への相転移のタイミングと脱脂後期の残存部分と同期するため炭素が増加する。水素100%の時は、低温ですべてバインダーが分解されるのでこの影響を受けない。あくまで仮説の意訳。

《参考文献》Dr Thomas Hartwing : Powder Injection Moulding International March 2010 vol.4 No.1 P43


【珈琲ブレイ句】研究機関で量産炉を使い、その排気をインプロセスで質量分析する研究は素晴らしい試みです。ただ、一点気になるのは、ガスを大量に流しているところ。たぶん排気分析するためにガス流量が必要なのかなと思いました。量産でこんなにジャブジャブ流したらランニングコストが半端ない。それも窒素より高価なアルゴンだし。

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2020年9月18日金曜日

粉末冶金AMの第三の柱「LMM」が凄い

 金属粉末のAM(付加製造)は、直接溶融積層と粉末冶金積層がある。微粉末(MIM用粉末)が使えるのが後者で、その内訳は、フィラメント溶融積層とバインダージェット積層である。ここに近年第三の柱が加わった。これがもの凄く画期的な技術である。近い将来この技術が主流になる予感がする。

その技術は「LMM:Lithography based metal manufacturing」である。

《工程》

1 積層:溶融フィードストックをヘラで50μ敷いて、その上面に輪切りにした設計データ形状を「露光する」。輪切り形状写真印刷(光硬化)しながら積層造形を繰り返す。積層体は「Print Block」と呼ばれる。

2 グリーンパーツ取出し:加熱して未照射のフィードストックを溶かす。フィードストック=金属粉末+フォトポリマー。100%再生材として使える。

3 グリーンパーツ洗浄:超音波洗浄

4 脱脂焼結:MIMと同じ脱脂焼結炉が使える。

《凄いと感じたところ》

・今は50μの層であるが、技術的には数ミクロンは可能であろう。

・リソグラフィーであるので将来はナノの世界になる。写真印刷。

・粉末が飛散することがない。再生100%は魅力。

《予想されるハードル》

・バインダーはフォトポリマーであるが、1種類だとすると脱バインダー工程で破裂する可能性が高い。熱分解温度領域の異なる数種類で設計されていれば脱帽*1。

・50μ層の一番下に光は当たるのか。屈折していくのか?

・フォトポリマーって何?紫外線硬化樹脂?残渣があると炭化する。

・金属粉末とポリマーの濡れ性に疑問? 密度が斑にならないようにしてね。

・CSLはどのくらいでしょうか?バインダーがジャブジャブだと精度が出ない。


《とにかく感動するIncusの動画》

YouTube  グリーンパーツ取出し ドライヤー?の影が観えるような・・・

チョコレートからアーモンドやカシュナッツを溶かしだす感じ。

YouTube 露光積層 シルクスクリーンの様にフィードストックを1層伸ばして露光する。この方式だとバインダージェット方式のノズルの目づまりという概念が無い。

【珈琲ブレイ句】*1 光硬化性樹脂を調べてみると4種類で構成されているそうだ。4種とは、モノマー、オリゴマー、光重合開始剤、各種添加剤(安定剤、フィラー、顔料)であり、アクリル系とポリエステル系が主流のようだ。光硬化すると重合架橋反応し硬化するので、硬化後は一つのポリマーと考えればいいのか? 熱分解曲線を調べてみると多段にはなっていないので、加熱脱脂が難しそうだ。


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2020年9月16日水曜日

海外のMIM用脱脂焼結炉を観てみた

 島津炉がコスパ優秀なので個人的には一押しであるが,昔の情報からの思い込みの可能性も否めない。執筆活動が一段落したので、最新情報収集のため海外の炉をチェックしてみると・・良さげの炉を発見した。ドイツのメーカーでしょうか,CARBOLITE GERO社のMIM用脱脂焼結炉のカタログをネットで観た。(本社はイギリスのようです)

MIM用はPDSタイプで、大きさは25,150,250リッターがある。1つの炉で脱脂と焼結ができるので、3-STD法(POM系、PMMA系)を視野に入れた焼結炉かな?(250Lは島津だと40*40*150相当ですね。)

黒鉛ではなく「モリブデン」でヒーターとレトルト(タイトボックス)を造っている。黒鉛からの汚染がないのでチタンなどの活性金属でも大丈夫ですね。ガスの排気にはアフターバーナーが付いており完全燃焼無害化するようです。環境に配慮している。

焼結温度は最大1450℃、真空、分圧、低加圧焼結も可能で、水素100%も可能となっており、ミスターパーフェクト! また、過熱ゾーンは3つに分かれ、それぞれ独立制御しているので炉内温度±5℃を実現できるそうです。

にわかに信じられないのですが、脱バインダーすべてをアフターバーナーで燃焼する。ワックストラップが無いという事でしょうか?ほんとかな・凄いな。燃焼のためにプロパンガスと圧縮空気を使うようです。ワックストラップ不要であれば便利ですね!!

ドイツらしい。スペックは最高!! 実は外観のデザインもカッコイイんです。これ一台あればすべての材料、どんなバインダーシステムでも生産が可能ですね。焼結炉の「ベンツ」ですね。・・・値段はあえて調べません。

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2020年9月12日土曜日

工程層別と連関図で24個のMIM不良を俯瞰する

やはり成形工程に起因する不良が多いですね。

手動式射出成型機INARIを改造した話

 INARIは安価で少ない材料で成形ができるので,研究開発に重宝している。しかし,玉に傷な部分があり改造した。

《イマイチなところ2つ》 ひとつ目「シリンダーがノズルと一体である」そのため,材料替えがめんどくさい。 ふたつ目「材料供給パイプの強度が低い」そのため,全体重を乗せて射出すると内圧でパイプが膨張する。一度破裂させたことがある。

《対策》

分解式シリンダーを造る。

《仕様》

シリンダー:ノズル分解可能。材質,NAK80(金型材料)HRC40

製造:金型メーカーに依頼した(大学から)

コスト:純正品より少し高いが,作業性,寿命を考えればお得。


◆写真を公開する◆

ポイント:純正パイプには膨れ防止の針金を巻いているところ。


針金補強から、本格的なブロックでパイプを補強するため、固定板を作り替えました。パイプは軽く圧入しています。)結果:パイプ変形なし、ヒートシンクの働きもあり、完璧です。