2024年1月30日火曜日

一次脱脂は溶媒脱脂と触媒脱脂がベストな理由

 【珈琲ブレイク】MIMは成形、脱脂、焼結で金属の部品が作られます。脱脂は「一次脱脂」と「二次脱脂」に工程分割され、それぞれ目的が異なります。

一次脱脂の目的は、原理が全く異なる溶媒脱脂(水脱脂)と触媒脱脂に共通する表現を使えば「一次脱脂の目的は開気孔構造を作ること」です。このスポンジ構造(多孔質三次元構造体)が、二次脱脂(Debinder)である「加熱脱脂」で発生する多量の体積膨張した分解ガスを逃がす排気経路になります。この排気経路(煙突)が完璧であれば二次加熱脱脂で膨れや割れを防止することが容易になるのです。溶媒脱脂と触媒脱脂の一次脱脂は、表面から内部へ開気孔構造を作りながら進行していくのです。

開気孔構造=二次加熱脱脂の排気経路(煙突)

一方、一次脱脂に加熱脱脂を使う方法は存在し、日々進化しています。私も一部の材質で利用していました。工程日数短縮などコストダウンに貢献してくれるからです。しかし、一次加熱脱脂工程の初期は開気孔構造ではないことをよく理解して脱脂条件を決め、さらに適切なMIM形状を設計する必要があります。さらに、残留炭素が増える傾向がありますので焼結体のC%の管理図によるコントロールと、日常設備管理として脱脂焼結炉の真空排気系能力の維持が必要になります。


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2024年1月28日日曜日

MIM指南書増補セルフ 第5章

 【MIM指南書(増補・セルフ)第5章 MIM不良24種の原因と対策

下記内容を手書きで追加願います。

P158 原因3として「フィードストックの不均質性(poor homogeneity) 粒子間距離のバラツキ」

P158 対策7として「混錬条件(時間、温度、回転数)の見直し。再混錬。」

P161 対策6として「MKS処理(不二製作所)を行い離型抵抗を減らす。」

P163 原因4として「射出圧により型が変形しPL部に隙間が発生した。」

P163 対策5として「サポートピラーを中心部に配置する。」

P165 現象 英語訳として 「joint line」を追記

P170 原因1の誤記訂正 誤:量がい 正:量が多い

P170 原因4として「焼結中のスランプ。例:SUS630の焼結では、1200℃をピークに強度が下がる。」

P170 対策6として「最終焼結温度の保持時間を短くする。」

P174 対策9として「Ar雰囲気分圧焼結の減圧を下げる、例えば5torr(666Pa)、ただしCrなどの蒸発に注意すること(P138)」

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2024年1月25日木曜日

英国CMGのFFF用フィラメント

 英国のMIMメーカーであるCMGが販売しているMetalAM(FFF)用フィラメントの拡大率(伸び尺、scaling factor、oversize shrinkage factor)を記録する。

積層物(グリーン体)の一般的な拡大率  x/y/z %

316L: 118/118/117 %

17-4PH: 119/119/118 %

H13 工具鋼: 119/119/118 %

100Cr6: 119/119/118 %

・ 銅: 119/119/118 %

IN625: 119/119/118 %

IN718: 119/119/118 %

【珈琲ブレイ句】先陣を切ったBASFのようにMIMメーカーがMetalAM用フィラメントを造ることは素晴らしいことです。なぜならMetalAM(Sinterbased Metal AM)が広まれば、連鎖的にMIMも広く普及するからです。

さらに素晴らしいことがあります。それはBASFもそうですが「技術情報を公開している」ことです。そしてどちらも触媒脱脂を採用しており技術的兌換性もあるのです。さらに積層装置は一般のFFF装置で積層できる可能性があり、3Dプリンターの選択肢が広いのです。

《疑問?》CMGの発表しているscaling factor(拡大率、伸び尺)は、z方向が小さくなっています?? Z方向の収縮率は重力の影響で大きくなると思うのですが(拡大率も大きくなる)謎です!!?? ちなみにBASFのUltrafuse316Lの拡大率は、XY120%、Z126%です。

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2024年1月21日日曜日

プラズマアトマイズを掘り下げる②

 AP&Cのプラズマアトマイズ粉末の中でMIM用粉末だけまとめる。

高純度チタンCpTi:   Grade2、粒度分布 (PSD) 0 20 μm(D50=12μm)、O=0.21%、ASTM B348ASTM F67ASTM F1580 に準拠

チタン合金(Ti-6Al-4V等) Grade5、PSD= 0  20 μm(D50=13μm)、O=0.21%、ASTM B348ASTM F136ASTM F1580ASTM F2924ASTM F3001AMS 4998準拠

Ni基超合金(718,625):PSD= 0  20 μm(D50=10μm)、O=0.21%、ASTM B472ASTM B637ASTM F3055ASTM F3056AMS 5596AMS 5662AMS 5666に準拠

【珈琲ブレイ句】AP&C社は、大手整形外科メーカーや航空宇宙メーカーと協業で10 年以上の実績があり、品質とコストで競争力のある会社です。ここが造る粉末はサテライトが無く、ほんとうに惚れ惚れする球体です。品質が良い理由は3つ。①材料が高純度ワイヤーで機構的に汚染されない。②正確な材料送り速度と印加エネルギー制御 ③材料投入から不活性ガスAr雰囲気内での噴霧化により酸素汚染を最少化

関連ブログ:プラズマアトマイズを掘り下げる

関連ブログ:日本が発明したアトマイズ法「CFJA法」

【MIM指南書増補セルフ】印刷してP62の表3.8の4行目の下に貼り付けてください。


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2024年1月19日金曜日

水溶性MIMフィードストックを深堀する

 市販されている2種類の水溶性MIMフィードストックを比較した論文(仏CEITT-MDTS研究所)の概要を記録する。

《フィードストック2種》①PolyMIM🄬316L:POLYIM社(ドイツ)平均粒径18μm ②AquaMIM🄬316L:RYER社(アメリカ)平均粒径23μm

《実験条件》一次脱脂:脱塩水浸漬(30,50,70℃×10H)、Zschimmer and Schwarz 酸化防止剤4000(2%)、二次脱脂・焼結:H2雰囲気、600℃×3H+1350℃×2H+炉冷 脱塩水:塩分をフィルタ等で除去した水、蒸留水と区別される)

《水脱脂の結果》水温が高いほど重量減少が大きい。PolyMIMは50℃と70℃の差が少なく、50℃9時間でデータシート値の3.8%減に達した。一方AquaMIMは70℃8時間でデータシート値5.5%に対して5%に達した。

《焼結体の結果》バインダ量TGA測定値%、平均収縮率%、密度(g/cm3)、引張強度(MPa)、降伏強度(MPa)、硬度(HV)は以下の通り

PolyMIM🄬316L:7.68%,14.3%,7.90g/cm3,450MPa,140Mpa,150

AquaMIM🄬316L:7.72%,14.3%,7.87g/cm3,430Mpa,138Mpa,140

     参考文献:PIM-International Vol.5 No.1 March 2011 P53

【珈琲ブレイ句】バインダー組成にどんな水溶性ポリマーが使われているのか不明ですがどちらも9時間程度の温水(50~70℃)で一次脱脂することができています。水脱脂のメカニズムは2つ、「毛細管力」と「濃度勾配からの平衡拡散」です。顕微鏡観察では水脱脂による膨潤や亀裂は観察されません。このように一次脱脂を行うことで加熱脱脂性が有利な「開気孔構造」ができるので、品質問題なく二次脱脂(加熱脱脂)へ移行させることができるということですね。

最終品質ではPolyMIM🄬316Lの機械的性質が少し優れています。この原因は2つ考えられます。①粉末平均径が小さいことが影響している可能性がある。②残留炭素量が相対的に多い可能性がある。

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2024年1月16日火曜日

リファサーモはMIMに使えるか?

 ファインセラミックセンターJFCCが頒布している標準物質「共通熱履歴センサー(リファサーモ)」は、セラミックの大気焼結用に作られた”相対温度計”である。焼成炉の総合的な熱履歴の日常管理(統計的品質管理、管理図等)のための物差しである。リファサーモ(Mタイプ)をMIM脱脂焼結で試したデータを紹介する。


【珈琲ブレイ句】一流の熱処理メーカーではAMS 2750Dに従う温度管理を行い品質保証をおこなっていますが、MIM脱脂焼結炉で同程度の厳しい管理は行っているところは少ないと推察されます。複数の熱電対配線とデータロガーを設置するのは大変時間と手間がかかるのです。それでもMIM焼結品質を保証するためにはMIM脱脂焼結炉の熱履歴管理は必要不可欠です。そのひとつの方策として「リファサーモ」の様な「相対温度計」を量産品と一緒に焼結すれば、炉内定点観測による日常管理(管理図等)が可能になります。

リファサーモの主成分はアルミナ粉末ですが、金属粉末のMIMで使えるか試した結果、グラフ1の様に多項式で近似できることがわかりました。ただし実用化には少々問題がありました。それは、「イマイチMIM焼結体の寸法の感度と一致しない*1」のです。それで使うのをやめ相対温度計を自作することにしました。実際のMIM材料で(Qサーモ)を作る方法です。自社内の設備管理の範囲内でお勧めです。他にもいくつかメリットがありました。このQサーモについては、MIM指南書P152に記載しています。

*1 セラミック粉末と金属粉末との焼結速度傾向に差がある。MIM焼結では不活性ガスを流すので対流の影響を受ける。リファサーモの同一ロット品でも購入日によって差がある(社格±10℃)。

蛇足メモ:米国のOrton Ceramic Foundation が開発した相対温度計”TempTAB”は、大気、不活性雰囲気、還元雰囲気で使えるように設計されているようです。もしかするとMIMでも使えるかも?

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2024年1月10日水曜日

MIMの不良を連関図にまとめた(2/2)

  変形、組織、バリ不良を中心に、不良名とその原因および対策や改善のヒントを連関図にまとめた。(その2)

《MIM指南書・増補セルフ》印刷して"MIM指南書 第5章MIM不良24種の原因と対策 P157" に折りたたんで貼り付けてください。



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2024年1月8日月曜日

MIMの不良を連関図にまとめた(1/2)

 ウエルド、ヒケ、ボイド不良を中心に、不良名とその原因および対策や改善のヒントを連関図にまとめた。

《MIM指南書・増補セルフ》印刷して"MIM指南書 第5章MIM不良24種の原因と対策 P157" に折りたたんで貼り付けてください。



【珈琲ブレイ句】不良に対する原因は独立せず相互に依存しているので連関図としてまとめました。副作用(交互作用)も考慮しながら、原因を推定して「ベターbetter」な対策を試行して結果を確認・検証してください。


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2024年1月5日金曜日

ロー付け剤のMIMへの利用研究

 ステンレス鋼の真空ロー付けで使うNi基ロー付け剤BNi2をMIMへ利用する研究が面白いので記録しておく。

MIM粉末:析出硬化系ニッケル基超合金(IN718?)

高速拡散融点降下剤:Ni基ロー付け剤BNi2粉末Ni-7Cr-4.5Si-3Fe-3B

《実験の趣旨》ニッケル基超合金の固相線より低く低融点合金の融点より高い温度で液相を発生させ、毛細管力で多孔質構造に侵入させ拡散および粒子再配列による緻密化を期待する。最終的にはニッケル基超合金の液相焼結を促進させ結晶粒子を成長させることでクリープ強度の向上を図る。

《結果》BNi2を10wt%添加することで粒子成長が観察されるが、微細構造には有害な非平衡凝固生成物が含まれていた。

参考文献:”Liquid Phase Sintering of a Metal Injection Molded NickelBased Superalloy With Additions of BNi-2 Alloy Powder Using Differential Scanning Calorimetry”  Metallurgical and Materials Transactions A, available online September 8, 2023, 13 pp.

【珈琲ブレイ句】研究結果は課題が残っていますが、今後の研究が期待される面白い内容です。

目的は違いますが、現役時代に銀ローを使ってMIM2部品(SUS316L)の一体化実験を行ったことがあります。焼結中に銀ローが侵入することで一体化するのですが、ロー剤が浸透した部分の収縮率が小さくなりポッコリと膨れてしまいました。結局2つの焼結品を普通に銀ローで一体化させることはできましたが、MIM技術ではなくなりました。

もしかすると、ロー付け粉末を数%添加したMIMフィードストックを作り、これで成形した2つのグリーン体を一体化焼結させると、新たな発見があるかもしれまんね。少なくとも局所ポッコリは無くなります。

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2024年1月2日火曜日

MIMフィードストックの評価項目は何か?

 市販のMIMフィードストックが登場している。また、自作する場合に「どんなMIMフィードストックにすればよいのか」。その評価項目(特性)を列挙しておく。

CSLに基づくバインダー量(Vol%):少ないほど変形が少なく高精度。焼結体の寸法の分散(標準偏差)。

バインダー濡れ性:接触角が小さい方が金属粉末との濡れ性がよい。

フィードストック均質性:フィードストック製造バッチからランダムサンプリングによる密度測定データの分散(標準偏差)、小さい方が均質性が高い。

相溶性:顕微鏡観察、2種の高分子ポリマーの混和性確認。ポリマー島状NG、連続線状Good。

流動性(キャピラリーフロー):せん断速度(log1/sec)VS 見かけ粘度(log poise)。直線が下方向ほど成形しやすい。成形限界粘度10^3poise

熱変形(脱脂・焼結):二点指示の中央変形量、変形量は小さい方が良く高精度。

液状化度:金型のPL等の隙間にバリが発生しない。低分子量、相溶性。

熱分解特性:熱重量分析、温度管理巾の広い傾斜プロファイル。脱脂・焼結炉のプログラム設計基礎データ。

残渣量:バインダーに起因する残留炭素量。バラツキが少ない方がよい。平均値が少ない方が良い、ゼロ望目(低炭素鋼、チタン合金等)。

【珈琲ブレイ句】MIMフィードストックの評価項目はたくさんあります。すべての項目をベストにすることは不可能です。特性値の間に交互作用が存在する組み合わせががあるためです。例えば、バインダー量を最小化すれば流動性は当然悪くなります。PLへの液状体侵入を押さえるために脂肪酸類を減らせば流動性が低下します。総合的な品質バランスを考えてフィードストックを開発する必要があります。

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2024年1月1日月曜日

MIMフィードストック構成材料の機能

MIMフィードストックを構成する材料の機能を連関図としてまとめる。


【珈琲ブレイ句】MIMフィードストックを構成する結合剤はその名の通り金属粉末を結合するものです。しかし各種ある添加物(構成材料)の機能は相互に依存していて単純ではありません。たとえばEVAやEGMAは主結合剤と副結合剤の相溶化剤ですが結合剤と考えることもできます。さらに可塑剤と潤滑剤の機能はかなり被っています。このように複雑なので連関図としてまとめてみました。 

MIMフィードストックのワックス・バインダー類は脱脂工程で完全に消失させてから焼結します。それぞれの熱分解温度を考慮した組み合わせが重要になります。熱分解温度はMIM指南書P132、表4.5に載せていますので参考にしてください。

【MIM指南書増補セルフ】 この図を印刷してMIM指南書のP56とP57の間に挟んでいただけると幸いです。

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