2026年7月4日土曜日

BASF法の不良と対策のまとめ 

 BASF法Catamold®の不良と対策をまとめました。

Ⅰ.触媒脱脂工程における不良と対策

触媒脱脂特有の不具合は、「酸(硝酸)の濃度・供給量」「処理温度」「炉内のガス循環」のバランスが崩れたときに発生する。

A.クラック(ひび割れ)・割れ

《原因》凝縮水の発生: 炉内のキャリアガス(窒素)流量が不足すると、分解ガスや微量の水分が炉内で凝縮し、成形体に付着して局所的な応力集中や化学的アタックを引き起こす。

《対策》窒素ガスによるパージ流量を増やし、分解ガスを速やかに炉外へ排出(排気燃焼)させる。

B.変形・ダレ(スランプ変形)

《原因》炉内温度のオーバーシュート: 触媒脱脂の適正温度は通常110℃〜120℃ですが、これがPOMの融点(約160℃〜170℃)に近づく、あるいは局所的なホットスポットがあると、バインダーが軟化・溶融して自重で変形する。

《対策》炉内の温度均一性(バリデーション)を定期的に確認し、温度管理を徹底する。自重による変形を防ぐため、オーバーハング部や複雑形状部には専用のセッター等でバックアップを行う。

C.脱脂残りおよびそれに起因する脱脂割れ

《原因》①炉内のガス循環不良: 炉内にワークを過密に詰め込んだり、ガスの流れが遮られたりすると、硝酸蒸気が行き渡らない箇所(未脱脂部)が生じる。②肉厚部の拡散限界: 肉厚品の場合、中心部まで酸が拡散するのに時間がかかるため、表面が先に脱脂され、内部が未脱脂のまま次の熱脱脂・焼結工程に回ると、残ったバインダーが一気にガス化して製品を破裂させる。

《対策》①炉内のワーク配置(チャージング)に適度な空間を空け、気流を均一にする。②肉厚品に対しては、脱脂時間を単純延長するか、あらかじめ設計段階で「リブ化」や「肉盗み」を設け、均一な肉厚にする。

Ⅱ.成形工程に起因する不良



【珈琲ブレイ句】BASF法Catamold®の不良についてまとめましたが、最も重要なのは成形工程における品質の確保であり、これは溶媒脱脂法や加熱脱脂法と共通する基本管理項目です。

 良質な成形体があれば、BASFの優れた脱脂技術は、相対的に生産性の面で有利かもしれません。その理由は、何といっても『表面からPOMを直接ガス化(解重合分解)させる』ところです。表面から一定の速度で分解が進行するため、処理時間は肉厚に比例するのみであり、加熱脱脂法と比較すると短時間での処理が可能です。

脱脂率の定量管理(重量測定)と排気・安全管理を適切に行えば完璧です。



2026年7月2日木曜日

ベッディング(敷粉)の隠れた危険を考える

ベッディング(Bedding)とは、粉末のベッドを作る技術。 敷粉、離型材、焼結防止材、溶着防止材。

《使用する目的》焼結時の自由な収縮を助け、セッターとMIMの摩擦抵抗を減らして焼結変形を防止する。また、溶着防止、拡散接合防止のために使用する。

《方法》①セラミックスプレーを使用する。 例えば、セラコートスプレー(アルミナ99%)。 ②セラミックビーズを使ってスラリーを自作する。例えば、東ソー・ジルコニアビーズTZ-B 30をPVA3wt%溶液に溶かし、塗布後乾燥させる。実験であればスティック糊を塗って粉を掛ける。

《効果》①収縮変形の際に、MIMとセッターの間でボールベアリングのような役割をして、摩擦による焼結体の変形を防止する。②金属同士の拡散接合を阻止する。変形アシスト追従駒法のセラミックコーティングとして使用する。MIM指南書 P30 図2.14

《隠れた危険》①塗布したセラミックの微細粉末が炉内を浮遊して、炉内の断熱材等を汚染する。②トラップされないセラミック微細粉末が、ロータリー真空ポンプやメカニカルブースター真空ポンプに流入して、摺動部分や回転軸のクリアランスの摩滅材として働きポンプの機能を低下させる。

《対策》①日常対策としては、セラミックや黒鉛製の防波堤、防風林等の囲いの中に脱脂体を並べ、ガス流の影響を受けない環境で焼結する。 ②定期的な真空系の設備保全の実施。 


【珈琲ブレイク】 ベッディング(敷粉)に使用する微細セラミック粉末は微量なので、炉内浮遊は深刻に考えなくてもよいかもしれませんが、長期間稼働の危険予知としてまとめておきました。

一方、アルミナ粉末を大量に使用されている場合は、粉末浮遊対策を考慮した方が無難です。


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2026年7月1日水曜日

射出圧力および流量が成形体特性に及ぼす影響について

「射出圧力および流量が成形体特性に及ぼす影響」という大変優れた論文について、いくつかの発展的な疑問点とその原因について考察いたしました。

参考論文:"Influences of Injection Pressure and Flow Rate to the Green Properties", International Journal of Engineering & Technology, 8 (1.12) (2019) 51-54 

論文の目的:射出圧力と流量が、グリーン体(成形体)の表面欠陥、密度、および強度に及ぼす影響を明らかにする。


実験条件と結果(平均成形体密度)

要因効果図

《疑問点》 流量と成形体密度の要因効果図(Fig,3)において、中間圧力の650barのデータだけが、他の2水準と大きく傾向が異なっている。

《原因の仮説》 実験に使用した射出成形機には「油圧式の流量補償機能」が備わっていると推測されます。この機能により設定流量が保証されますが、一方、実際の射出圧力は設定値から乖離している可能性があります。 具体的には、流量を維持するために成形機側で圧力を制御した結果、一部の条件でいわゆる「圧力飽和状態」に陥っているのではないかと疑っています。これは、実際の圧力波形を観察・比較することで検証可能です。

《対策案》 MIMフィードストックは擬塑性流体であり、流量(せん断速度)を変化させると、見かけ粘度は対数スケールで大きく変動します。 そのため、一律の設定ではなく、各流量水準ごとに「実際の圧力が飽和しない適切な射出圧力(大・中・小)」を個別に割り当てるような「水準組み合わせの最適化」を行うことで、傾向の乱れを解決できると考えます。実験計画にあたっては、事前に多少の予備実験も必要です。

【珈琲ブレイ句】本論文に関する私見ですが、そもそも油圧サーボ射出成形機においては、実験因子として「流量」のみを考慮すれば十分であり、「射出圧力」の設定は不要ではないかと思います。むしろ、他の主要な成形条件(金型温度、樹脂温度、保圧など)の影響について、研究のリソースを割いた方がより有意義であると感じました。

また、本実験は二元配置実験の構成なので数理統計学に基づく分散分析を試みました。その結果、F検定において射出圧力および流量のいずれも有意差は確認されませんでした。したがって、要因効果図にみられる傾向は、統計的には誤差範囲にすぎない可能性が高いと考えられます。



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2026年6月26日金曜日

BASFが触媒脱脂の困難を普通に変えたこと

 【珈琲ブレイ句】MIMのバインダー脱脂方法は、これまで世界の研究者・技術者によって様々なアプローチが試みられてきました。

物理的除去法(溶媒抽出脱脂、超臨界流体脱脂)、化学的除去法(触媒分解脱脂、雰囲気ガス反応脱脂)、熱的除去法(加熱熱分解脱脂、ウイッキング法)、電気・電磁的除去法(マイクロ波加熱脱脂)、生物学的除去法(バイオ分解脱脂)などが挙げられますが、量産技術として確立したものは僅かです。

黎明期の量産MIMにおいては、パーマテック法(Permatech)に代表される溶媒脱脂と、ウイテック法(Wiech)に代表される加熱脱脂が主流であり、これらは現在でも広く普及しています。また当時は、アルミナ粉末にグリーン体を埋め込んでバインダーを吸い出すウイッキング法も、一部の量産ラインで採用されていました。

その後、独BASF社からポリアセタール(POM)樹脂をベースとした触媒脱脂法が登場します。高分子樹脂を酸触媒によって固体から直接ガス化させるという奇抜なアイデアには、当時とても衝撃を受けたことを覚えています。ワックス類をほとんど含まないフィードストックゆえに射出成形が困難(金型温度100℃超え)であり、決して主流にはならないだろうと考えていました。

しかし、BASF社は「MIMスクール」を立ち上げて世界中の若い技術者にノウハウを伝授し、「困難を普通に変換させる」ことに成功しました。その結果、BASFの高精度MIM製法は瞬く間に世界へと広がりました。同社の経営・技術戦略には、まさに脱帽するほかありません。

さらに近年では、日本の樹脂メーカーが流動性を大幅に改善したMIM用のPOM樹脂を開発しており、さらなる追い風となっています。

2026年6月23日火曜日

【MIM指南書(増補・セルフ)】5.25バインダーの分離 の追加

  【MIM指南書(増補・セルフ)】 5.25 バインダーの分離 の追加

P157 「第5章 MIM不良24種の原因と対策」の「表5.1MIM不良一覧」へ「5.25 バインダーの分離 」を追加し、MIM不良25種へ 変更してください。

下のページを印刷して、P184とP185の間に挟んでください。。


【珈琲ブレイ句】日本のMIMメーカーによる改善事例の発表で知ったMIM不良です。バインダーが分離・偏析してポーラス状の不良になるという内容で、初めて知った不良でした。この事例をきっかけに、「分離・偏析による不良」を調査しそれらの原因と対策をまとめました。

この事例の対策は、製造条件では解決せず、最終的にバインダーの仕様を変更されていました(仕様の詳細は不明)。結局、最初のレシピの選定が重要だということです。

基本のMIMバインダー仕様は、MIM指南書P57の表3.3にまとめています。

2026年6月22日月曜日

【MIM指南書(増補・セルフ)】誤記訂正

 【MIM指南書(増補・セルフ)】 表4.6内の誤記訂正をお願いします。


P154 4.5 熱処理・表面処理の実際 表4.6 MIM部品の熱処理表面処理

誤: 黒染・黒色参加

正: 黒染・黒色酸化


【珈琲ブレイ句】MIM製SKD11(ダイス鋼)の黒染め処理で黒色にならず初品がNGになったことがあります。原因は大量のCrによる表面の不動態皮膜(酸化クロム)に阻害されて鉄の酸化反応が正常に進まなくなった可能性があります。仮説を検証をする時間が無かったのでレイデント処理に変更しで黒色に仕上げました。


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2026年6月21日日曜日

市販MIMフィードストックの拡大率と推定バインダー量

市販されているMIMフィードストックの拡大率(伸び尺)をまとめたので共有します。D2219


 【珈琲ブレイ句】
ドイツのPoly-MIM社は、すべてのお客様のニーズに対応すべく、多様な拡大率(伸び尺)を用意しています。全55材種に対し、拡大率のバリエーションは8種類に及びます。

なかでも拡大率1.216は、MIMの黎明期の名残だと思われます。この拡大率は精度±0.5%程度が限界の材料です。当時の金属粉末の品質(粉末形状、サテライト、タップ密度)が高くなかったため、バインダー量を多めに添加する必要がありました。焼結精度が悪いので今後衰退していくと思われます。

拡大率で最も種類が多いのは1.1669のグループです。これはBASF社の「Catamold-310N」と同等で、同社の量産実績精度は±0.3%を誇ります。

さらに注目すべきは、1.1515や1.1450といった、より小さな拡大率が存在することです。収縮率が抑えられていることから、これらはさらに高い寸法精度が出せることが推察できます。攻めていますね!!

関連BLOG:量産品のMIM精度を考える

関連BLOG:バインダー量と伸び尺の関係

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2026年6月19日金曜日

【MIM指南書(増補・セルフ)】MIMの表面粗さ

 MIM指南書 P8 5.高表面品位 の追加説明です。 下図を縮小印刷してP9の下の空欄へ、貼り付けてください。

《補足》「as sinterd (焼結体そのまま)」には、MIMの表面付着物を除去する目的で、軽くガラスビーズ・ショットブラストを行ったものも含みます。ただし、ブラストを掛けすぎると表面あらさが劣化するので、次の条件が前提です。「差圧式ショットブラスト、ガラスビーズJIS-F220、空気圧力3kg/cm2、ショット時間最大3秒間。また、ガラスビーズは割れる*1)と表面粗さが劣化するので、定期的なメディア交換管理を行うこと。」

*1 ガラスビーズの割れが問題であれば、高価であるが耐衝撃性に優れているジルコニアビーズに変更すること。

微粉MIMとは、粒径3~5μmの微細粉末を使ったMIM。μMIM®、マイクロMIM、Micro MIM


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2026年6月18日木曜日

INDO MIMが取得している認証資格

MIMだけでなくSinterbased Metal AMでも先導する「INDO-MIM」が取得している主な認証資格をまとめました。

ISO 9001(品質全般)

IATF 16949(自動車産業)※欧米の大手自動車メーカー・産業団体が策定した世界基準

ISO 13485(医療機器)

AS/EN/JIS Q 9100(航空・宇宙・防衛分野)

ISO 14001(環境対策)

ISO 45001(労働安全衛生)


【珈琲ブレイ句】自動車、医療、そして敷居の高い航空宇宙まで、あらゆるハイテク産業の要求に応えられる体制を整えている点に、同社の強固な経営戦略が見て取れます。限界を設けず、最高峰の品質マネジメントに挑み続けた結果が、現在の「世界シェアNo.1」という実績に繋がっているのですね。

関連BLOG:世界のトップレベル「INDO-MIM社のBJT技術」から学ぶこと


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2026年6月17日水曜日

【MIM指南書(増補・セルフ)】セラミックコート

 MIM指南書 P30 のポイントの下へ手書きで追加して下さい。

おすすめ(実績あり):セラコートスプレー ㈱オーディック アルミナ99%


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2026年6月10日水曜日

タグチメソッド・パラメータ最適化とベイズ最適化②

  【珈琲ブレイ句】タグチメソッド(品質工学)とベイズ最適化の関係性を、簡単にまとめました。

両者の関係性

《ベイズ最適化の強み》 過去のデータや物理シミュレーションを学習し、多次元空間の「未知の交互作用」を推測しながら、最小の実験回数でピンポイントな最適解へ到達する。

《品質工学の強み》 単なるピーク(山頂)探しではなく、製造ロットブレや環境変化(誤差因子)に耐える「なだらかな、崩れない山(ロバスト・頑健なシステム)」を作る。

現代の製造業データサイエンスでは、ベイズ最適化という強力な「探索エンジン」のなかに、タグチメソッドの「誤差因子を織り込んでロバスト(頑健)にする」という思想をどうアルゴリズムとして組み込むか、という方向で両者の融合が進んでいる。

天国の田口玄一先生に直接聞いてみたいテーマです。聞いてもほとんど理解できないけど・・・。

関連BLOG:タグチメソッド・パラメータ最適化とベイズ最適化の比較

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2026年5月27日水曜日

なぜLOMI溶媒脱脂装置はノルマルヘキサンを選んだのか

 「なぜLÖMI 溶媒脱脂装置は、溶媒にノルマルヘキサンを選んだのか」をテーマにその理由を考えてみました(私見です)。

塩化メチレン、パークロロエチレン、ノルマルヘキサンで比較しています。

《理由1:バインダー構造との相性(HSP値の適合性)》

MIMバインダーの溶解性は、単一の鉱物油に対する攻撃力の強さである「Kb値」だけで決めるのではなく、溶かす樹脂の極性に近い「溶解度パラメータ(HSP値)」が決定打となります。ノルマルヘキサンのKb値は塩化メチレンに及びませんが、バインダー成分としてEVAを使っている場合、ヘキサンだけが、EVAとの相性が非常に良く、成形体の保形性を維持しながら、効率的に抽出・脱脂することができます。

《理由2:抽出速度(拡散性)の向上》

ノルマルヘキサンのKb値は塩化メチレンに及びませんが、沸点が高いため、50℃程度に加温して処理を行うことで、溶媒の拡散性が高まり脱脂速度は飛躍的に向上します。

仮にEVAを配合しないMIMバインダーであれば、処理温度を90℃程度まで上げられるパークロロエチレンの溶解性が最も良く、次いで塩化メチレン、ノルマルヘキサンの順になります。しかし、下記の総合評価によってノルマルヘキサンが選ばれています。

《理由3:資源の100%内製リサイクル(経済性と品質の安定)》

ノルマルヘキサンは蒸留再生が容易で、装置の構造もシンプルにできます。蒸留すれば約90%のヘキサンを新品同様のクリーンな液として回収・再利用が可能です。

装置内で手軽に蒸留再生ができれば、常に新鮮なヘキサンを脱脂槽に供給できるため、脱脂プロセスの時間や仕上がり品質を一定に保つことができます。

《理由4:安全性の克服(防爆技術の確立)》

ノルマルヘキサン最大の欠点は、引火点が極めて低い(約 -22℃)点です。しかし、LOMI装置は、欧州の厳格な防爆規格である「ATEX認証」をクリアし、「溶媒脱脂・乾燥・溶媒再生」を密閉一体化させた革新的な安全システムを開発・提供することで、このリスクを完全に克服しています。

《理由5:環境・人体への毒性リスクの低減》

塩化メチレンは、高い発がん性リスクや環境負荷、厳しい法規制が大きな課題となります。一方、急性毒性(致死量)のモノサシで比べると、ノルマルヘキサンは塩化メチレンより約12倍〜15倍安全(毒性が低い)であり、現場の作業環境改善の観点からも極めて有利です。


【珈琲ブレイ句】LÖMI 溶媒脱脂装置を宣伝しているわけではありません。素晴らしい製品化技術を教材として学んでいるだけです。私の現役時代は、自社で溶媒脱脂・蒸留再生装置を作っていました。また、独立して2年間、都立大学でお手伝いをした時も、自分で蒸留装置を作ってn-ヘキサンを蒸留再生していました。大学の実験装置(ストレージャー、フラスコ、ラバーヒーター、温調器、螺旋銅管、ブロアー他)で、溶媒脱脂・蒸留再生ができるのです。この「扱いのシンプルさ」こそが、工業生産においてヘキサンが選ばれる隠れた最大の理由なのかもしれません。

関連BLOG:溶媒脱脂の溶媒比較一覧表

関連BLOG:なぜ溶媒脱脂推しなのか説明します

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2026年5月23日土曜日

BJT「EX-ONE」による工具鋼M2の積層実験を掘り下げる

バインダージェット「EX-ONE」による工具鋼M2を使った積層実験論文(2024年)をまとめました。工具鋼として必要な焼結体組織の健全性という切り口で深く研究されています。たいへん勉強になるすばらしい研究論文です。

参考文献:「Additive manufacturing of AISI M2 tool steel by binder jetting (BJ): Investigation of microstructural and mechanical properties」、Journal of Manufacturing Processes 132 (2024) 686–711 、Amit Choudhari 、Mechanical Engineering Department, Cleveland State University, Cleveland, OH, USA、他

粉末:SANDVIK社(米国)ガスアトマイズ法、AISI M2 HSS粉末、平均粒径10μm

バインダー:Aquafuse (BA005) 水性バインダー

BJT:EX-ONE 

1. 積層(印刷)プロセスの最適条件

Layer Thickness(積層厚み): 50μm 

Binder Saturation(バインダー飽和度): 70%

Oscillator Speed(オシレーター速度): 2,700 rpm

The recoating speed(リコート速度): 24 mm/s

Roller Rotation Speed(ローラー回転速度): 250 rpm

Roller transverse speed(ローラー移動速度): 24 mm/s(リコート速度と同期)

Binder Set Time(定着時間): 5 sec

Drying Time(乾燥時間): 15 sec

2. 脱脂(Debinding)プロセスの条件

第1ステップ(溶媒除去): 150 °C まで 1.0 °C/min で昇温、60 min 保持

第2ステップ(ポリマー分解): 400 °C まで 0.5 °C/min で緩慢昇温、120 min 保持

雰囲気: アルゴン(Ar)ガス流量 2 L/min の不活性雰囲気

3. 焼結(Sintering)プロセスの最適値

焼結温度(Sintering Temperature): 1,280 °C

保持時間(Holding Time): 60 min

雰囲気(Atmosphere): 高真空10-4~10-5Torrまたは アルゴン+水素(Ar + 5%H2)混合気流

冷却速度(Cooling Rate): 空冷(Air Cooling)

*1,280 °C × 60 min + 空冷の組み合わせが、過度な液相による自重変形を起こさず、最も高い圧縮強度(3,580 MPa)と健全な微細組織(微細に分散した炭化物組織)を得られる。

【珈琲ブレイ句】実験では、平均粒径5μmの粉末も用意されましたが、予備実験の不良率が80%と高いため本実験には使用されていません。やはり微細粉末は流動性が悪いので、EX-ONEの標準仕様では使えないということですね。

 粉体の流動性を高めるために、「乾燥環境の管理」の重要性が説かれています。また裏技として、「湿った粉末の復活法」が2つ紹介されています。①180~200℃のオーブンで2-3H焼成する。②1~10torrの真空状態で10~15分間放置する。

 論文の結論は、焼結後に空冷(Air Cooling)が良いとのことですが、この実験はおそらく管状焼結炉を使っているので試験片を、焼結直後に空冷できたのではないかと思われます。量産炉であれば、密度の大きなアルゴンガスを使って炉内の水冷クーラー(熱交換器)を回す方法になるのでしょうか? 工具鋼は組織の課題があるので難しいところです。




2026年5月14日木曜日

MIMの密度は望目特性ではなく望小特性と考える理由

 【珈琲ブレイ句】MIMの成形体密度および焼結体密度をタグチメソッドの特性値として扱う際、私は「望目特性」や「望大特性」ではなく、あえて「望小特性」として扱っています。その論理的背景について、あくまでも「個人的な意見」として共有します。

《理由1》品質工学の観点

一般的には、密度は高いほど良いと考えられるため、「望大特性」として扱いたくなります。しかし私は、理論密度から実測密度を差し引いた“密度差”を特性値とし、それを「望小特性」として評価すべきだと考えています。

その理由は、「望大特性」のSN比には、ばらつき評価において平均値の寄与が過度に反映されやすい傾向があるためです。すなわち、平均値が高い条件では、ばらつきの影響が相対的に見えにくくなる場合があります。

一方、「理論値−測定値」という偏差を用いて「望小特性」として扱えば、理論密度への到達度と安定性の双方を、より直接的に評価しやすくなると考えています。

《理由2》MIM技術の観点

また、「望目特性」を選択することには、平均値そのものを調整・管理する意図(いわゆるチューニング)が含まれます。しかし、MIM技術において、特に焼結密度を意図的にコントロールする運用については、私は否定的な経験しか持っていません。

実際に、焼結体寸法を調整する目的で焼結温度を下げるチューニングが行われている現場を見たことがあります。しかし当然ながら、そのような条件ではMIM焼結体の品質は低下し、表面品位だけでなく機械的強度も悪化していました。

私は、MIM焼結体の寸法調整は、焼結条件によって密度を犠牲にして行うべきではなく、バインダー量の微調整によって対応すべきだと考えています。

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2026年5月12日火曜日

あるL27直交表を使った実験の残念なところ

参考文献:Green density optimization of stainless steel powder via metal injection molding by Taguchi method  ,AM Amin1, MHI Ibrahim1, MY Hashim3, OMF Marwah2, MH Othman3, Muhammad Akmal 

 「田口メソッドによる金属射出成形を用いたステンレス鋼粉末のグリーン密度最適化(2017)」と題する研究論文を読んでみました。すばらしい実験なのですが、残念なことが2つあります。

ひとつは、L27直交表の交互作用列に因子が割り付けられているので交互作用と割り付け因子の効果が交絡して評価できないのです。

ふたつめは、特性値である成形体密度が望目特性として分析されています。個人的には成形体密度は理論値に近ければ良いと考えています。

そこで、特性値を成形体密度と理論値との差の望小特性として解析し直しました。理論値は不明なので、実験内の最大値に+0.004を加えた「5.13g/cm3」としました。

D2215







単独に評価できる因子は、1列A,2列Bと5列Eの3つだけです。Eは誤差としてプーリングしたのでAとBだけの要因効果図を描きました。

A射出温度は第2水準と第3水準の間が良いと判断されます。温度をさらに上げても成形体密度の向上はわずかであることがわかります。むしろ熱劣化の可能性があるので温度を上げすぎない方がよいでしょう。

B射出圧力は、水準2が最適条件です。実験範囲内で射出圧力に上限(最適値)があるということは注目すべき結果です。分散分析で寄与率が28%と一番高く、F検定でも有意であることがわかります。


【珈琲ブレイ句】L27直交表には単独に3因子しか割り付けできません。各列の成分が示す交互作用を研究する直交表です。(余談ですが、どうしても残りの4因子をL27に割り付けたければ3群の交互作用成分の多い列を選ん方が良いと思います。9,10,12,13列)そして確認実験をして再現性を確認する必要があります。

一方、タグチメソッド用のL18直交表であれば、18行の実験で8因子を割り付けることができます(2水準1因子+3水準7因子=8因子)。



2026年5月7日木曜日

これから、直交表を使った実験を始める方にアドバイス

交互作用を全列に交絡させたL18直交表(18回の実験で8因子)を使うことをお勧めします。 タグチメソッドは交互作用の研究は行いません。また、分散分析も不要です。要因効果図を描いて最大値の水準を選び確認実験を行って再現性があればOKです。

昔、TM研(タグチメソッド研究会、計量管理協会)で学んでいたとき、田口先生が来られて「分散分析など難しいことを教えるから現場が使わないんだ」と仰っていました。実験計画法上下(丸善)の著者でもある田口先生ですが、「やっぱり天才は、発想と言動が、ぶっ飛んでいるな~!」と思いました。

その真意は、たぶんこんな感じではないかと推察しています。

『実験計画法は「Why」の追求、タグチメソッド(品質工学)は「How」の追求。 現場で早く最適なパラメータを見つけて早く展開する。現場の改善が先で、なぜそうなるのかは後でも良い。現場に使ってもらうことを優先せよ。』

田口先生は、交互作用を全列に交絡させたL18直交表を使うだけでなく、さらに外側に調合誤差を割り付けて、誤差による影響を積極的に実験に取り入れる方法を提案されました。これにより外乱・環境誤差等に影響を受けない頑健な条件を見つけることができます。これがタグチメソッド(品質工学)です。

関連BLOG:品質工学と実験計画法の違い


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2026年5月3日日曜日

マイクロ金属射出成形の田口メソッドを使った論文から学ぶ

 田口メソッドを用いたマイクロ金属射出成形における成形体強度を特性値とする射出成形のパラメータ設計より

Single Performance Optimization of Micro Metal Injection Molding for the Highest Green Strength by Using Taguchi Method 、Vol. 2 No. 1 (2010)  International Journal of Integrated Engineering

《実験仕様》

直交表:L27 3水準系  (27回の実験で5因子、それらの交互作用)

粉末:Epson Atomix SS316L-PF10F(TD:4.06g/cm3、D50:5.96μm)

バインダー(PMMA,PEG,SA:25,73,2)。 

粉末配合:61.5vol%、

テストピース:ダンベル型(外寸9×1.1×t0.8mm)、サイドゲートt0.32mm

特性値、成形体の強度(MPa)、反復5、膨大特性のSN比に変換して分析

《制御因子と水準》

《結果》


コメント:

有意な制御因子は、A、C、A×B


【珈琲ブレイ句】初めにあれ?と感じたのは、タップ密度が低いこと(TD:4.06g/cm3)、2014年のメーカー発表データでは4.5g/cm3ですから相当低いのです。2010年頃の粉末品質が良くないのか、タッピング密度の測定方法が旧式だったのか? あるいは記載ミスの可能性もあります。粉末写真の掲載があれば推測できたのですが・・・。

 本実験からわかることは、成形体の強度を高くするためには、「金型温度は高い方がよい」ということです。 金型温度は実験水準内の外、さらに高い方向に最適解があることがわかります。追加実験と確認実験は必要ですね。

 射出圧力Aと射出温度Bとの間に交互作用が発生しています。その理由を2つ考えてみました。 ①フィードストックの成分に潤滑材が少ない。SAを増やす、PWを付加する。②マイクロMIMの実験ということですが、粉末は普通のMIMに使用するPF10Fです。そのため小さなゲート近傍で金属粉末とバインダーが分離している可能性があります。マイクロMIMであれば、PF5くらいの微細粉末を使ったら結果が変わっていたかもしれません。


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2026年4月21日火曜日

ゲルベース金属3Dプリンティング技術を学ぶ

 米国のスタートアップ 3D Architech Inc. が開発したゲルベースの金属3Dプリンティング技術(GEMM: Gel-enabled metal manufacturing)について少しまとめておきます。同社 の共同創業者兼CEOである 成田 海(なりた かい)氏 が中心となって開発した、従来の金属3Dプリンターの常識を覆す高精度と低コストの両立を実現させた画期的な手法です。

3D Architech, Inc. 

《造形方式》 金属塩を含む特殊なゲル(感光性樹脂)を、光造形3Dプリンターで硬化させた「ゲルの造形物」を、脱脂、焼結還元を経て金属造形物へと置き換える。

《超微細造形》 従来の金属プリンター(MEX,BJT)の解像度が100μm程度であるのに対し、10μm以下という極めて微細な構造(マイクロラティスなど)の造形が可能。

《汎用プリンターの活用》 高価な装置を必要とせず、市販の安価な光造形機(SLA/DLP)でも造形が可能。

【珈琲ブレイ句】3D Architechの積層する金属材料は、金属粉末ではありません。ゲル化分子レベルの金属塩を造形するAM技術です。

目指すターゲットは、髪の毛よりも細い構造を組み合わせた「マイクロアーキテクチャ(微細格子構造)」です。10μm単位の極薄の壁や、複雑に絡み合う微細な管路など、他の方式では物理的に不可能な領域を狙っています。

MIMやMEX、BJTは部品を造形するものですが。3D Architechは、単なる「形」を作るだけでなく、金属の微細構造によって熱交換効率や触媒性能などの物理的な限界値を引き上げる金属の「機能」を再定義する可能性があります

現在、造形物は純金属が主流ですが、数種類の金属塩を使うことで合金も可能らしいです。日本人が発明した新技術に期待しています。

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2026年4月15日水曜日

4605低合金鋼の論文を読んで(カーボンコントロール)

ガスアトマイズ4605粉末、溶媒脱脂系バインダーを使ったMIMフィードストックによる焼結体の焼結密度、硬度、強度を特性とした研究論文( 2019年)です。

(99+) The Effect of Powder Loading and Binder System on the Mechanical, Rheological and Microstructural Properties of 4605 Powder in MIM Process

論文の要旨

4605低合金鋼のMIMにおけるレオロジー特性および機械的特性に及ぼすの粉末充填量の影響を調査した。バインダーはパラフィンワックス(PW)、ポリプロピレン(PP)、カルナバワックス(CW)、ステアリン酸(SA)を異なる割合で配合した2種類を比較した。粉末の配合量は、55、60、65vol%の3種の配合とした。焼結した引張試験片について、引張強度、硬度、密度、レオロジー特性を測定した。その結果、粉末配合量の増加に伴い、引張強度、硬度、密度が増加することがわかった。また、主鎖ポリマーの割合が高いほど、最終部品の機械的特性が向上することが観察された。最適な配合は、PW 55wt%、PP 25wt%、CW 15wt%、SA 5wt%の原料に、粉末を65vol%添加した系であった。試験片はMPIF 50引張試験用形状、ヘプタン溶媒脱脂、二次加熱脱脂・焼結(Ar雰囲気)。

【珈琲ブレイ句】粉末配合量が多いほど引張強度、硬度、密度が高くなっているのは納得できます。  一方、PPの割合が多いほど、同様に引張強度、硬度、密度が増加するという結果には注意が必要だと感じました。この主要因は炭素量で、PPの割合が多いほど炭素量が多くなっていることは論文から読み取れます。4605鋼なのにCが1wt%になっているものもあります(増加した残留炭素が0.5wt%程度ある)。 また、引張強度が高くなれば、衝撃強度は低くなっている可能性があり4605鋼の用途としては不適切な可能性があります 

 低合金鋼において、プロセス設計が不十分な結果として生じた「炭素増加」をポジティブに評価するのは、再現性の観点からも非常に危険です。「炭素による強化」を謳うのであれば、本来は「脱脂・還元を完璧に行い、カーボンフリーにした後に、狙った量のグラファイトを添加して制御したデータ」と比較すべきです。現状のデータは「バインダーが抜けきらなかった副作用を、引張強度、硬度、密度の数値向上で正当化している」という側面が強いのではないでしょうか。つまり 「カーボンコントロールに課題がある」という論点が見落とされている?ということです。

いろいろ学べる、すばらしい論文です。論文から二次脱脂・焼結プログラムFig.2を添付しておきます。MIM指南書P127 図4.22と比較してみてください。なぜバインダーPP類が炭素として残留したのか?


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2026年3月30日月曜日

マルチモーダル粉末配合による高タップ密度化

 バイモーダル粉末配合の概念図を見つけたのでアップします。大きな粉末と小さな粉末を配合することで、配合粉末の嵩密度は、それぞれ単体の嵩密度より高くなり、配合比のどこかに最高密度があることがわかります。


【珈琲ブレイ句】この事例は、2種類(バイモーダル)ですが、3種類だとトライモーダルになり「大豆に小豆を混ぜて、その隙間に胡麻を入れる」イメージです。 広義で、2種類以上をマルチモーダル粉末配合と呼んでいます。

ここで、注意することは、1種類には分布があることです。つまり「単峰分布」なので、実際の配合は上図のように単純なモデルではありません。最大タップ密度となる配合比は、実験で見つける必要があります。

関連BLOG:二峰分布混合の威力

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2026年3月29日日曜日

バインダージェット(BJT)の「グリーン体」を科学する

金属AM(バインダージェット:BJT)に関する非常に興味深いレビュー論文*1に目を通しました。MIM屋にとって、金属-BJTは「金型のいらないMIM」として親しみやすい反面、その「グリーン体」の脆さや密度のバラツキに頭を悩ませることも多いはずです。今回は、論文から見えた「グリーン体造形の科学」を、実務の視点で表にまとめたので共有します。

参考文献*1:“Binder jet additive manufacturing: a review of modelling approaches and experimental observations on green part printing” ,Mohan Sai Ramalingam , K. N. Chaithanya Kumar , Shashank Sharma , Sameehan S. Joshi & Narendra B. Dahotr、(Virtual and Physical Prototyping, 2025)


【珈琲ブレイ句】 結論は、「品質はグリーン体で決まる」です。MIMでも同様ですが、後工程(脱脂・焼結)が高度な工法であっても、成形体(グリーン体)の品質が悪ければ、最終製品の密度も精度も上がりません。

BJTにおけるグリーン体の品質は、大きく分けて以下の3つの相互作用で決まります。

1. 粉末特性: 粒径分布と形状(球形か否か)。

2. バインダー特性: 粘度と表面張力(染み込みやすさ)。

3. プロセス: 層の厚みと液滴の間隔、そしてヘッドの移動速度。

特に興味深いのは、バインダー液滴が粉末床に衝突した瞬間、単なる「染み込み」だけでなく、「慣性による広がり」が初期の解像度を支配するという点です。

2. 計算モデリング(DEM vs CFD)の使い分け

論文では、目に見えないミクロな挙動を解明するために2つの手法が挙げられていました。

DEM(離散要素法): 粉末一つ一つの「粒」を計算します。ローラーで粉を敷く際の「充填のムラ」を予見するのに適しています。

CFD(流体解析): バインダーという「液」の動きを計算します。毛細管現象で粉の隙間にどう浸透するかを可視化します。

最近ではこれらを組み合わせた「マルチフィジックス解析」が進んでおり、現場の「勘」が理論で裏付けられつつあります。

やはり、「《ミクロ》シミュレーション」と「《マクロ》パラメータ設計と検証」の合わせ技で、技術の差別化できることがわかりますね。

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2026年3月24日火曜日

世界のトップレベル「INDO-MIM社のBJT技術」から学ぶこと

INDO-MIM社のBJT(バインダージェット)技術は、間違いなく世界トップレベルにあると感じています。今回、「なぜBJTで相対密度99%を実現できたのか」という切り口から、その驚異的な強みの理由を考察しました。

  • 理由1 ガスアトマイズ粉末の内製化。ASBAnti-Satellite Blower)技術によるサテライトのない真球状粉末の実現。
  • 理由2 マルチモーダル粉末配合による高タップ密度化。関連BLOG:二峰分布混合の威力
  • 理由3 濡れ性・浸透性を向上させた最新バインダーの採用。
  • 理由4 「超音波リコーター」と「チャンバー内の温湿度・静電気管理」による、積層段階での充填率(グリーン体密度)の極限化。
  • 理由5 工具鋼の焼結におけるSSLPSSupersolidus Liquid Phase Sintering:超固相線液相焼結)の採用。

【珈琲ブレイ句】金属BJTの最大のネックは、微細粉末の流動性の低さです。そのため、通常はMIM用より少し大きめの粉末が使われますが、結果として焼結密度が上がりにくいという潜在的課題を抱えています。

INDO-MIMは、この課題を見事に解決しています。超音波を用いたリコート手法は、粉末の流動性を補う最善策と言えるでしょう。もちろん、粉末自体の「サラサラ化」も不可欠です。究極の技術を目指すエンジニアたちが互いに切磋琢磨する姿には、同じ技術者としてワクワクさせられます。

この知見は当然、本業のMIMにもフィードバックされています。後発でありながら、なぜ彼らが世界の頂点に立てたのか。その加速度的な技術開発力は、日本の製造業も大いに見習うべき点があるはずです。Japan is Back


《広告》ここで少し宣伝をさせてください。私は固体潤滑粉末を0.3wt%混ぜて流動性を向上させるBJT関連特許(粉末自体の「サラサラ化」)を持っていてます。現行のBJT装置でも効果(不良率の低減)が期待できます。 現在、社会実装に向けたパートナーを募集中です。ご興味のある方は、ぜひ弊事務所までお声掛けください。

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2026年3月10日火曜日

焼結に使うガスと焼結体品質のまとめ

 MIMの焼結工程における雰囲気と焼結体の密度、および特徴(注意点)をまとめておきます。


【珈琲ブレイ句】〔◎:優れている、〇:◎より劣る、△:普通〕
 Arガスによる焼結体の密度を△としていますが、バッチ式真空焼結炉でArが一番使われていると思います。やはり不活性ガスは扱いやすいのです。導入ガスに期待する効果の代表的なものは、ステンレス鋼であればCr蒸発を抑えるための圧力制御になります。どうしても密度を上げたい方は、密度改善策としてAr+H2が一番密度が高くなるという実験報告(資料1)があります。
 H₂ガスは、酸化物還元(MO + H2 → M + H2O)、粒界拡散促進効果(ネッキング増加、高密度化)が期待できますが、表面の脱炭に注意が必要です。また、可燃性ガスなので排気で燃焼させる必要があります。
 N₂ ガスは、安価で使いやすいですが、炭窒化物形成や固溶(N2 → 2N)作用があるので、焼結体の客先スペックとのすり合わせが必要になる場合があります。逆に窒化物生成や固溶強化を利用する新しい方法も提案できるかもしれません。
 真空は、一般的に焼結密度が高くなる方向なので◎ですが、△は、ステンレス鋼のCr蒸発が気泡として焼結体に閉じ込められる事例報告から引用しています。対策として、真空 + 分圧H2で焼結できれば、高密度で最大級の耐食性を有するステンレス鋼が得られます。

(資料1)Effect of Sintering Temperature and Atmosphere on Corrosion Behavior of MIM 316L Stainless Steel (2011)

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2026年3月8日日曜日

【MIM指南書(増補・セルフ)】Cr量の低下 P138

  【MIM指南書(増補・セルフ)】P138 「Cr量の低下」章へ、下記文章を追加します。印刷してP138とP139の間に貼り付けてください。


使用するガスは、アルゴンガスの他に水素ガスを使う方法がある。メリットは、水素の還元能力に加え、水素原子は小さいので金属の結晶格子内に固溶されるか、焼結体表面から系外へ放出されポアとしての残存が少なく焼結密度が高くなる可能性がある。デメリットは、CrMo鋼等では表面が脱炭し疲労強度が低下する場合がある。また、水素は可燃性ガスのため、炉外排気路に燃焼装置を取り付け完全燃焼させる必要がある。

また、窒素ガスを使う場合の注意点として、窒素ガスは不活性として扱われるが、焼結の高温域(1000℃以上)では多くの金属に対して「反応性ガス」あるいは「合金元素」として振る舞う。17-4PHを純窒素下 1,350°C 前後で焼結した場合、表面に窒化物(Cr2N)が形成され、耐食性が低下した事例がある。また、機械的特性も変化する。メリットは、窒素分子が原子状に解離し結晶格子内に固溶されるか、焼結体表面から系外へ放出されるため原子の大きなアルゴンよりポアとしての残存が少なく焼結密度が相対的に高くなる可能性がある。

また、アルゴン、窒素と水素の混合ガスも使われており、不燃性混合ガスとして「97%Ar+3%H2、96%N2+4%H2」などが使われている。


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2026年3月4日水曜日

製法が異なるSKD11粉末による二峰分布配合の効果

 私の古い論文ですが共有化します。アトマイズ製法が異なるガスアトマイズ粉末と水アトマイズ粉末を二峰分布配合した研究開発です。

開発の目的:焼結が難しい工具鋼SKD11の品質(寸法、分散、溶け、崩れ、密度、硬度)に対するロバスト性能を向上させることでフルチャージ焼結を実現させる。

《粉末》  水アトマイズ2種とガスアトマイズ1種の配合比研究

《結果》

《結論》
 水アトマイズ粉末の平均粒径をガスアトマイズ粉末よりも小さく設定し、両者の配合比を50:50~75:25とした二峰分布混合粉末を用いることで、焼結温度のバラツキに左右されにくい安定した品質の合金工具鋼(SKD11)を得ることに成功した。

 ポイント:圧力制御のガスを流すためタイトボックス内の温度バラツキは±10℃程度あります。図4の赤丸の配合であれば、この炉内温度の誤差幅20℃であっても、密度誤差幅が0.15g/cm3に収まっています。高炭素の工具鋼であっても高密度で溶けも発生しないフルチャージ生産が可能になりました。

引用論文:”Development of sintered SKD11 compacts with High Robust performance by Metal Injection Molding” Shoji Hachiga, Yoshihiro Shiina
特開2004年052051 金属焼結体の製造方法及び金属焼結体

【珈琲ブレイ句】一般的に「二峰分布(バイモーダル)配合」の採用は、寸法精度や焼結密度の改善に寄与します。
 本研究の真髄は、「二峰分布配合の効果」だけでなく、さらに「焼結特性の異なる粉末の組み合わせ」にあります。ガスアトマイズ粉末と水アトマイズ粉末では、焼結過程におけるネック形成や原子拡散のタイミング・速度、および液相温度が異なります。この焼結特性の異なる2種材を複合させることで、焼結プロセスにおいていわば「アクセルとブレーキ」を同時にコントロールする状態を作り出し、焼結品質の分散を最小化することに成功しました。これにより、かつて課題であった「フルチャージ時のSKD11の溶け」という致命的なトラブルの解消に成功しました。また寸法精度も±0.22%になりました。 付け加えると、一次脱脂は溶媒脱脂等による完璧な炭素コントロールが必要です。

2026年2月26日木曜日

Taguchi-MADMハイブリッド法を用いた3l6LステンレスMIMの最適化

タグチメソッド関係の論文を共有します。

3水準系 L27直行表を使い、グリーン体の3つの特性値(曲げ強度、外観品質、密度)、6つの制御因子(射出圧力、射出温度、粉末充填率、金型温度、保圧、射出速度)のパラメータ設計です。

表題にあるように、この論文の特徴は、MADM手法(多属性意思決定手法)により、3つの特性値を相関係数等を用いた評価により単一の「総合品質スコア(OQS)」に変換しているところです。変換法としてはSAW(Simple Additive Weighting)法が最も適していると判断されています。その結果、3つの特性値の重み付けは、曲げ強度35.7%、外観品質32.2%、密度32.1%とほぼ均等なっています。

【条件】MIMフィードストック:GA-SUS316L、ポリエチレングリコール73 wt%、ポリメタクリレート25 wt%、ステアリン酸2 wt%

【結果】制御因子の水準と最適値は次の通り。


    寄与率順に並べ替える


文献:「Optimization of the Metal Injection Molding Process with 3l6L Stainless Steel Powder and Influence Analysis of Process Parameters Using the Taguchi-MADM-Based Hybrid Method」、Ryong Hui Ri and Won-Chol Yang、ACS Omega 2025, 10, 985−994

【珈琲ブレイ句】近年(2025年)発表の意欲的な実験です。3つの特性値をひとつにするためにNADAMの5つ(SAW, WPM, TOPSIS, GRA, RSR)の中でどれが最適かを見つける研究が論文の半分以上を占めています。
 実験結果の考察をすると、気になるところがひとつあります。それは、粉末充填率は3水準64.5Vol%が一番良いので、さらにその先に最適値が存在するということです。さらに寄与率は4.91%なので、粉末充填率を大きくしても、総合品質に大きな影響は与えず、技術的に収縮率は小さくできるので寸法精度が向上することが期待できます。これは品質工学の転写性を使えば設計できますね。
 論文を読み進めるうちに、グリーン体から一歩進んだ「シルバー体」の世界はどうなっているのだろうと知的好奇心を強く刺激されました。未知の領域への期待を感じさせる素晴らしい論文でした。大変勉強になりました。

2026年2月24日火曜日

PIM専用POMコポリマーFF520は何が凄いのか

 一般的にPOMのコポリマー(ジュラコン)は、ホモ(デルリン)より成形性は良いのですが、PPやHDPEと比較すると相対的に成形性が良くありません。しかし、PIM専用のFF520はその成形性(流動性)の課題を解決しています。さらに、グリーン体強度とのバランスも考えて開発されていることがわかります。流動性と靭性の散布図を描いてみました。


【珈琲ブレイ句】PIMバインダーとして使用するPOMは、成形を容易にするために粘度は可能な限り低くしMFRを高め、焼結前の成形品の損傷を防ぐために靭性(シャルピー衝撃強度)は可能な限り高くする必要があります。FF520は、MIM結合材で使われるPPやHDPEより靭性と流動性が高いのです。

 POMの脱脂は触媒脱脂(一次脱脂)が主流ですが、カタログでは加熱脱脂(二次脱脂:500℃,5℃/min,N2,残渣ゼロ)も可能であると書かれています。

◆開発のポイントを推察する◆

①ギリギリまで低分子化:低分子にすれば流動性は向上します。一方強度は低下するので、PPとHDPEを目標ターゲットにして低分子量成分をギリギリまで増やしている。

②分子量分布のナロー化:さらに、全体の分子量分布をシャープ(ナロー)に制御することで、高い流動性を確保しつつ、強度を支える「絡み合い」に必要な最低限の分子鎖を維持している。  

③ホルムアルデヒド対策:流動性が高いので低温で混錬し熱の影響を最小化する。酸化防止剤で安定化させるが、高せん断による局所的高温部で発生するホルムアルデヒドは、捕捉剤(ホルムアルデヒド・スカベンジャー)で化学的に吸着させる。

推察が間違っていたらごめんなさい。

それにしても旭化成ケミカルズの開発力は凄いです!! 頑張れ日本!!

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2026年2月13日金曜日

田口メソッドを用いた金属射出成形プロセスのパラメータ最適化

近年のMIMに関するタグチメソッドの事例を共有します。

《表題》田口メソッドを用いた金属射出成形プロセスのパラメータ最適化

《実験仕様》

制御因子:4因子(射出温度A、金型温度B、射出圧力C、流量DTable

直交表 L81

特性値:2つ(成形体欠陥Table2、成形体密度)

バインダー:PEG,PMMA,SA

粉末、粉末量:水アトマイズSUS316L62Vol

《結果》

成形欠陥に対する最適条件は、射出温度:150℃、金型温度:70℃、射出圧力:550bar、流量:15cm³/sA1B2C0D1

成形密度に対する最適条件は、射出温度:160℃、金型温度:70℃、射出圧力:650bar、流量:10cm³/sA2B2C1D0

 文献:「Parametric Optimization of Metal Injection Moulding Process Using Taguchi Method」Tan Koon Tatt, Norhamidi Muhamad, Che Hassan Che Haron, Abu Bakar Sulong, INTERNATIONAL JOURNAL OF INTEGRATED ENGINEERING VOL. 12 NO. 4 (2020) 210-219

【珈琲ブレイ句】この事例はL81という巨大な直交表を使い、4つの因子のすべての交互作用を研究している意欲的な実験です。成形体の欠陥と密度を特性値として、各々の最適条件を示しています。 交互作用の影響を考慮して選んだと思われますが最適値の選定には疑問があり、私ならA3(射出温度160℃、B3(金型温度70℃)を選びます。

 興味深いのは、特性値とする成形体欠陥の重み付け「Score(表2)」です。この欠陥の重みの技術的根拠が知りたいところです。 

 また、表題に「 Using Taguchi Method」とありますが、この事例は実験計画法とタグチメソッド(品質工学)が混在しています(海外論文に多い傾向)。品質工学では交互作用の研究は行いません。 MIMの製造現場では、実用的で再現性のあるベターな最適条件が必要なので、タグチメソッド(品質工学)で開発された混合系直交表L18が広く使われています。

 いずれにしても、すばらしい論文で、たいへん勉強になりました。

関連BLOG:品質工学と実験計画法の違い

D2179

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2026年2月7日土曜日

なぜm-MIM射出成形機はバリが出ないのか

 Sodickの「m-MIM射出成形機」はバリが出ないと公言しています。その理由をまとめておきます。結論から先に書いています。

《バリが出ない理由》

 m-MIM射出成形機は、プリプラ式で、射出量が正確だから。

 プリプラ式:射出量=スプルー+ランナ+成形体+バラツキΔ微小

 インライン式:射出量=スプルー+ランナ+成形体+バラツキΔ有

 バラツキΔ=バリ


《なぜプリプラ式は、正確な量をバラツキなく射出成形できるの?》

プリプラ式は、スクリューと射出シリンダが独立していて、図1のインライン式の3点セット(逆止リング)が無いため正確に射出成形ができる。 


図1

プリプラ式の逆流防止には逆止弁を使いますが、Sodickでは逆止弁の機能を前後可動スクリュー先端で行っており、さらに逆流防止機能を向上させている。(図2)

図2


《インライン式3点セットの特徴》

「計量工程」と「射出工程」で「逆止リングが少し移動する」ため、成形材料の逆流を完全に防げないという構造上の特徴があり、さらに、成形を続けると逆止リングとスペーサーが摩耗して、逆流が多くなっていくという管理課題もある。


【珈琲ブレイ句】決してインライン式を否定するものではありません。プラスチック成形ではインライン式の射出成形機が主流です。プラスチックは成形性が良く、材料自体の圧縮性が高いため、3点セットの特徴(逆流のバラツキ)も大きな問題にはなりません。

一方、MIMフィードストックは60〜70vol%が金属粉末であり、プラスチックに比べて圧縮しにくいため、射出量のバラツキを材料側で吸収できません。特に小さなMIM品の場合には、その傾向が顕著です。

 関連BLOG:MIMフィードストックにバラス効果はあるのか?


《主流であるインライン式射出成形機の欠点を最小化する3つの方法》

①成形品の大きさに合わせた射出成形機を使う

 小さい部品には、小型の成形機(大きさに合わて相対的精度上げる)

 関連BLOG:なぜマイクロMIMは専用の小型射出成形機を使うのか

②逆止リングの外径寸法設計の最適化

 関連BLOG:成形品重量ばらつきを与える「計量不安定因子」

 関連BLOG:プリプラ方式の射出成形機が改善された

③3点セットの寿命管理(ショット数管理で逆止リングとスペーサーを交換する)


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