2026年10月5日月曜日

MIMフィードストックの健全性へのリサイクルの影響

近年発表されたハンガリーの大学とMIMメーカーAFTとの共同研究を共有します。 この論文は、MIMフィードストックの再利用(リサイクル)が、熱分解特性、レオロジー特性、収縮率等に与える影響を定量的に評価しています。

《MIM仕様》

粉末:4605、 バインダー量:45VOL%、 バインダー成分(推定):P-W55wt%、PP25wt%、SA5wt%、C-WAX15wt%

試験片:ASTM準拠 ISO2740のAタイプ(穴あき)

脱脂焼結時間:30H 「内訳:一次脱脂:加熱脱脂(~230℃)×5H、二次脱脂:加熱脱脂(~630℃)×7H、焼結1330℃、雰囲気:N2 」

《試験分析内容》「成形→粉砕→成形」をリサイクル1回とする。連続リサイクル8回分までの試験分析を行う。

MFI(Meit Fow Index)、SEM-EDS(微細構造解析-元素分析)、DSC(示差走査熱量測定)、TGA(熱重量分析)、収縮率

《結果》

・再生4サイクルまで、標準的な射出条件で熱的および流動特性は維持される。

・収縮率は再生4サイクルまで一気に上昇している。これはSAやWAX類の蒸発によるものである。

・WAX類の蒸発により粘度は上昇すること、PP高分子のポリマー鎖が再生で切断され粘度が低下すること、両者が相殺して粘度が維持されている。

参考文献:”Impact of recycling on polymer binder integrity in metal injection molding”, György Ledniczky, Ferenc Ronkay, Pál Hansághy & Zoltán Weltsch, Scientific Reports |  (2025) 15:21600 

【珈琲ブレイ句】WAX類の蒸発を炭素量測定により検証しており、素晴らしい論文です。

少し疑問点もあります。このバインダーは実際にAFT Hungary Ltd.でMIM製造に使われているのでしょうか? おそらく研究用の材料だと思われます。なぜなら、バインダーが多すぎるのです。

もう一つの疑問は、一次・二次の加熱脱脂の焼結(シングルステップ系)で30Hで完了しています。ポリマーがPPではないかもしれません。POMあるいはPMMAの可能性があります。

【補足】 実際のMIM現場では、リサイクルだけを単純に繰り返すことは行われていません。リサイクルを繰り返す度に、バージン材を定量混ぜて成形材料としています。そうすることで1回目から安定した品質を確保することができます。 詳細は「MIM指南書P84 4.1.3 リターン材の利用法」を参照してください。

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2026年10月1日木曜日

マイクロMIM(μ-MIM)の粉末はナノサイズが有利

微細な金属粉末を使用することは、マイクロMIM(μ-MIM)において重要な寸法精度や表面特性を改善するための有力な方法です。これは、微細な金属粉末は、焼結温度を低下させるこができるので、結晶粒の成長を抑制できるからです。MIMプロセスにナノ粒子を適用する特徴をまとめると・・・

利点は、①低温焼結における相対密度の向上 ②焼結温度の低下 ③焼結体の結晶粒径の微細化 ④硬度の向上 ⑤表面特性の改善 などが挙げられます。 

一方、課題は、①フィードストックの粘度上昇 ②酸化 ③凝集が存在しやすいなどがあります。


【珈琲ブレイ句】結晶粒径が小さいことによる効果、「摩耗深さ」の事例を共有しておきます。

ナノ粉末は焼結温度650℃で相対密度が96%になり結晶粒径が0.97μmと微細なので、摩耗深さは約2.1μmと僅かです。一方、マイクロMIMで主流の粒径3μmの粉末では、焼結温度1100℃で、摩耗深さは3倍の約6.2μmになっています。

ナノ粉末は今までのMIMと異なり焼結温度が600℃代であることを学びました。ナノ粉末は別世界ですね!

《補足)》このブログで「マイクロMIM」に限定したのは、ナノ粉末のコストが高価(1kgあたり数十万円)だからです。

参考文献:" Advantages and Limitations of Using Nano Sized Powders for Powder  Injection Molding Process  : A Review "    Javad Rajabia, Norhamidi Muhamada, Abu Bakar Sulong a, Abdolali Fayyaza, Azizah Wahia aDepartment of Mechanical and Materials Engineering, Faculty of Engineering and Built Environment, Universiti Kebangsaan Malaysia, 43600 Bangi, Selangor, Malaysia, 59 (2012) 137–140 | www.jurnalteknologi.utm.my | eISSN 2180–3722 | ISSN 0127–9696 



2026年9月15日火曜日

歯科矯正用シングルブラケット製造におけるMIMの多因子最適化

 歯科用矯正ブラケットのMIM成形において、Moldflowシミュレーションと応答表面法(RSM)を組み合わせ、体積収縮や未充填欠陥を最小化する金型温度・溶融温度・射出速度・ゲート位置を最適化した事例を共有します。

"Multi-factor optimization on metal injection molding in orthodontic single brackets manufacturing"   The International Journal of Advanced Manufacturing Technology (2026年)

始めに、Moldflowシミュレーションと応答曲面法(RSM)を組み合わせ、単一の歯科矯正用ブラケット製造における金型温度、溶融樹脂温度、流速、射出位置といったMIM成形工程の主要パラメータの最適化を行っています。

さらに、中心複合計画法(Central Composite Design, CCD)を用いて、溶融温度、射出速度を連続量として扱い、応答の形を連続的な曲面としてモデル化して最適値を見つけています。

【MIMフィードストック】

Moldflow Synergy 2018の材料ライブラリより。JKMB-MIM-1グレードのステンレス粉末原料、バインダー:38.5vol%、溶融密度:4.8922g/cm3、固体密度 5.1824g/cm3

【因子と水準】

溶融温度: 100、125,150,175,200℃

金型温度: 10、15,20,25,30℃

射出速度: 20,60,100,140,180 cm3/s

ゲート位置:  ボトムゲート、サイドゲート


図3.歯科用矯正ブラケットのゲート (a)サイドゲート (b)ボトムゲート

【最適値(特性値:収縮率が小さい、充填率が高い)】
溶融温度:137.89℃、金型温度:25℃、射出速度:127.56cm3/s、ゲート:ボトムゲート
【確認実験】予測値とシミュレーション値の差:3%未満

【珈琲ブレイ句】
 歯科用矯正ブラケットはサイドゲートで製造したことがありますが、この研究ではボトムゲートが良いという結論です。ボトムゲートにするにはホットランナー金型になりますね。

 大変勉強になるすばらしい研究論文ですが、3つ気になるところがあるのでメモしておきます。
①金型温度の水準が低すぎないでしょうか? 
②確認実験を「実物の成形体」でも行っているのか?
③ホットランナーでボトムゲートにした時のエジェクターの配置が気になります。この小さな部品で実現させるには、相当な「金型方案設計技術」が必要です。
 




2026年8月23日日曜日

AIによる成形条件自動調整システムにおけるベイズ最適化

㈱MAZINが、東京都立産業技術研究センターの公募型共同研究(2020年)で行った「AIによる成形条件自動調整システム」について共有化しておきます。これは、ベイズ最適化とAIを使った最適成形条件探索方法の開発です。

《概要》良品成形(熟練者による条件)と同じ品質になるように、ベイズ最適化とAIを使って成形条件を自動調整するシステム。

金型内部の圧力データを活用した動的ベイズ学習モデルによる状態推定を行うことで不具合原因の究明を効率化する「金型内部状態推定方法の開発」。

《効果》非熟練者への技能伝承が十分に行われていない現場であっても、成形条件の設定時間(段取り時間)を短縮することができる。また、金型内部状態推定方法を適用することにより、不具合原因の究明を効率化させることができる。


【珈琲ブレイ句】このシステムは、熟練者により設定された条件によって得られた金型内の圧力波形を基準とします。新たに、別の人が成形段取りを繰り返すと、AIが自動的に学習して調整条件を見つけてくれます。この新たな最適条件で生産を始めればOKというわけです。人だけでなく、成形機が変わっても同じ品質の成形体が得られるというものです。

これにより、熟練者がいなくとも、4Mが少し異なっても、瞬時に成形条件をチューニングしてくれるという素晴らしい開発です。

ただ、気になるところがあります。初期値(基準値)を用意する必要があり、量産後の段取り時間短縮・リードタイム短縮が目的ということです。 それは、量産前、試作段階の条件出しは対象としていません。熟練者に頼らない条件出しの最適化が望まれます。

これを解決するのが、品質工学(タグチメソッド)パラメータ設計ですね。試作研究段階で、ロバスト性の高い最適条件を設計できます。

さらに、その先には、Taguchi-Bayesian Optimization(タグチ・ベイズ最適化)の世界が待っています。

情報元:株式会社MAZIN「動的ベイズ学習モデルによる射出成形機のloT化」~射出成形の日々の条件調整でお困りの方へ~

関連BLOG: タグチメソッド・パラメータ最適化とベイズ最適化の比較

関連BLOG: タグチメソッド・パラメータ最適化とベイズ最適化②

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2026年8月15日土曜日

Indo-MIMの垂直統合戦略から学ぶ

Indo-MIMの垂直統合戦略が素晴らしいのでまとめておきます。

①「MIMだけじゃなく削り出しで高付加価値品も作る」

材料証明・品質保証(NADCAP等)のハードルが高い航空宇宙関連の部品を受注するために、「航空宇宙・精密機械加工事業部」を立ち上げています。NADCAP認証、AS/EN/JIS Q 9100、ISO 13485を取得し、航空宇宙分野や医療分野へ進出しています。

②「Indo-MIMに頼めば何とかしてくれる」

MIMと精密機械加工事業部の両方を活かした補完関係により、あらゆる「要求仕様・数量・予算」に対して最善のソリューションを提示できます。窓口を広く取ることで、金属加工業としての差別化を図っています。

「安全第一の重要構造部材や大型部品、小ロット品には精密削り出し加工が適しており、複雑・小型で一定の数量が出ている機構部材にはMIM+精密後加工が非常に有効である」という、適材適所の役割分担を明確化し営業活動で生かしています。

また、金属3Dプリンター(BJT方式のSinter-based Metal AM)による部品も内製化しています。MIM化へ向けた試作や、MIMでは成形が難しい部品の、短納期・少量生産にも対応しています。

③「生産体制は基本と最先端の融合」

リーン生産方式(トヨタ生産方式)、品質管理(TQC)、工程FMEAなどの基本の生産体制を確立しています。さらに、精密機械加工事業部では、OEEを活用したスマートファクトリーシステムを構築し、加工機械の稼働時間や、工具の履歴データまでIoT化して一か所で見える化管理をしています。

【珈琲ブレイ句】 INDO-MIMの成長とポジショニングを見ると、優れた技術力に加え、マーケティングや事業構造の組み立て(営業戦略)が非常に緻密で洗練されています。グローバルで存在感を増す強力なライバルですが、現場の愚直なカイゼン精神や細やかな品質追求は、日本メーカーが得意とする領域そのものです。この戦略的アプローチを参考にしつつ、自社の強みを再定義して立ち向かいたいですね。

ちなみに、精密機械加工事業部では、DMG森精機の多軸マシニングセンタや大隈重工の複合加工機等、日本の工作機械が精密加工を支えています。

関連BLOG: BJTとMIMの境界線

関連BLOG: 世界のトップレベル「INDO-MIM社のBJT技術」から学ぶこと

関連BLOG: INDO MIMが取得している認証資格


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2026年7月27日月曜日

Sinterbased Metal AMの高強度化はHIP処理

 【珈琲ブレイ句】

Sinterbased Metal AM のBJT品やMEX品のボイドを完全に無くすのは至難の業です。

MEXの研究論文では、「積層厚みが小さい方が密度が高くなる*1」と結論を出しています。一方「積層厚みが小さいほどボイドが多くなる*2」という報告もあります。

一方、ボイドが残存していても、『欠陥を前提としたデジタルツイン技術』を使えば、不良率を大幅に低減させることができるという救済技術も存在します。

    Sinterbased Metal AMの高強度化はHIP処理がBest!

しかし100%合格品で最高強度を望む場合には『焼結体にHIP処理を行う』ことがBESTな方法だと考えています。

さらに可能性があるBetterな方法は『温間CIP』です。『油圧発生装置に増圧装置を接続し、作動油の温度を上げてCIPを行う方法です。』MIM成形体でのCIP実験で効果を確認しています。

注意すること。HIPとCIPは「閉気孔(へいきこう)体」にだけに効果があります。「開気孔(かいきこう)体」である脱脂体や仮焼結体には効果がありません。 

都立大学の研究では、仮焼結体にコーティングしてHIPを行っていました。すばらしいアイデアです。


関連BLOG:MIMにおけるHIPとCIPの活用法をまとめる


*1  「Optimization of composite extrusion modeling process parameters for 3D printing of low-alloy steel AISI 8740 using metal injection moulding feedstock」 Abdullah Riaz , Philip Töllner , Alexander Ahrend , Armin Springer , Benjamin Milkereit , Hermann Seitz ,Materials & Design Date: July 2022 Article: 110814 Volume: Volume 219

*2  「Taguchi DoE analysis and characterization of 17-4 PH stainless steel parts produced by material extrusion (MEX) process 」Mahmoud Naim, Mahdi Chemkhi,, Julien Kauffmann, Advances in Industrial and Manufacturing Engineering 8 (2024) 100138

 

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2026年7月26日日曜日

開放特許のご案内

MIM(金属粉末射出成形)及び Sinterbased Metal AM技術の普及とモノづくり現場での活用を促進することを目的として、当事務所が保有する特許技術を開放特許にいたしました。

 INPIT(開放特許情報データベース)       

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特許明細書は、上記のINPITあるいは、

 特許庁情報プラットフォーム簡易検索 にて閲覧願います。

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特許第7599076号 粉末積層造形法 

 ポイント:砂絵の方法で立体物を積層していくアイデアです。インクジェットで描いた形状へ粉末をドカッと振りかける方式なので粉末の流動性は関係ありません。 特に、超微小な積層物の造形で威力を発揮すると考えています。


特許第7231803号 バインダージェット法に用いる積層造形用金属粉末材料

 ポイント:金属粉末にメラミンシアヌレートを少し混ぜると粉体の流動性が著しく向上します。その現象効果を利用してリコーティング工程の品質を向上させ、最終焼結体のボイドを低減させることができます。メラミンシアヌレートは、加熱脱脂で固体から気体へ昇華させて除去するので焼結体に残留することはありません。 微細粉末を使った焼結体密度向上を目指す方にお勧めです。


実用新案登録第3254595号 射出成形ブリード量測定用金型

 ポイント:MIMフィードストック開発におけるブリード量を測定するための金型です。ろ紙に染み込ませて計量させます。また、ブリードがガス逃げを塞ぐことによって発生する不良(焼け、膨れ、充填不良)で困っているユーザーによるMIMフィードストック選定の相対評価の尺度として使用します。


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【「Qサーモ®」無償開放のお知らせ】

多くの皆様に「Qサーモ®」をご活用いただくための無償開放のお知らせです。

ぜひ皆様で『Qサーモ®』 を自由に活用してください。

特にMIMメーカーの皆様におかれましては、自社のMIMフィードストックを用いてQサーモを製作していただき、品質管理(管理図X-Rによる、粉末品質の管理、熱処理履歴の管理、寸法不良の低減)にお役立てください。

焼結密度の平均値が突然変化した場合、Qサーモを基準(物差し)として比較・分析することで、変化の原因を特定しやすくなります。


Qサーモ®の目的とメリット

① MIM/CIM成形品およびSinter-based AMの寸法精度向上 量産品と共に「Qサーモ®」を炉内定点に配置・測定することで、目に見えない熱履歴(ガス対流、伝熱、輻射)の管理図化が可能になる。フィードストックのロット間、リターン材配合ロット間の平均収縮率の変化の把握(管理図)と、異常値への対策。

② 焼結炉間の差の把握と調整  同じ条件でも、焼結炉によって焼結品の品質に差が生まれます。機差の設定温度をチューニングするための一つの物差しとする。

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熱処理炉の熱履歴センサーは市販されています。 日本製「リファサーモ」、独製「TempTAB 」どちらも、Qサーモと同じ目的で使う物差しです。しかし、セラミック製なので、金属のMIMと焼結特性が一致しません。 その欠点を補うために、QサーモをMIMフィードストックで作り、量産MIMと同時に脱脂・焼結を行う方法をお勧めします。

Qサーモによる管理の実際 粉末製造ロットが変わったタイミングで、Qサーモをまとめて成形し、冷暗所、乾燥剤の中で、長期間管理(参考品保管)します。複数の粉末ロット品を重複管理しておけば、粉末ロット間の変動も把握することができます。例えば、3種のロットの違うQサーモを一か所に隣接させて焼結して、同じ焼結寸法になれば粉末ロットの差なしで合格です。一方、焼結ロットの違いで差が出たら、熱履歴の差の原因を探して潰すか、プログラム温度の補正値変更として管理します。そして、同時に粉末メーカーへ改善をお願いします。

思いもよらない効果も 粉末は同じスペック合格品でも、ロット間で変動(全く同じ成形条件・焼結条件でも焼結密度の平均値がズレる)します。その粉末ロット間変動の情報を粉末メーカーに開示して改善をお願いしていました。このようにQサーモという物差で、焼結密度の相関管理を厳しく行っていたら、何故か、粉末の品質が、だんだん良くなっていきました。Qサーモ基準の改善依頼は説得力があったようです。

『MIM指南書』(2020年10月発刊)のP152-153にてQサーモ®詳細を解説しています。 

関連BLOG:「焼結ばらつき」はどうやって管理するのか

関連BLOG:リファサーモはMIMに使えるか? 

関連BLOG:熱履歴センサーTempTABを掘り下げる

関連BLOG:品質は「分散」と「平均値」の合わせ技で決まります

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2026年7月23日木曜日

市販MIM用フィードストックによるMEX事例(相対密度98%)

 市販のMIM用フィードストックを使ったMEX方式による積層技術の研究論文を共有します。


MEX装置:独AIM3D 社製「ExAM 255」MEX方式(スクリュー押出式) 3D プリンター


材料:独polyMIM GmbH 社製、市販フィードストック「polyMIM® 8740」の再生顆粒リサイクル品(水溶性バインダーPEG系)

実験の特性値:グリーン体の表面あらさ(非接触レーザー走査顕微鏡)、グリーン体の密度(アルキメデス法)

積層最適条件:押出倍率 107.6%、押出温度 180 ℃、ノズル速度 20 mm/s、積層厚み 0.050 mm 

結果1:グリーン体の相対密度>98%、グリーン体の表面粗さRa = (2.3 ± 0.1) μm


一次脱脂条件:一次脱脂(溶媒脱脂)60℃の水中(2Vol%防錆剤Inhibitor 4000)48時間

二次脱脂・焼結条件:乾燥大気中105℃で2時間、3.5 K/min、1.3 K/min、0.5 K/min、0.2 K/minの昇温速度で、200℃、300℃、440℃、450℃まで加熱。450℃で3時間保持後、0.5 K/minの昇温速度で600℃まで昇温し1時間保持。3.3 K/minの昇温速度で1280℃まで昇温2.5時間焼結。冷却1280℃から800℃までは炉冷、800℃から室温までは8.5 K/minの冷却速度で冷却。

結果2:焼結体の相対密度>98%


参考文献:「Optimization of composite extrusion modeling process parameters for 3D printing of low-alloy steel AISI 8740 using metal injection moulding feedstock」 Abdullah Riaz , Philip Töllner , Alexander Ahrend , Armin Springer , Benjamin Milkereit , Hermann Seitz ,Materials & Design Date: July 2022 Article: 110814 Volume: Volume 219


【珈琲ブレイ句】比較的新しい2022年の貴重な研究です。積層体の密度を優先させると表面粗さが悪くなるため、結論の最適条件は、密度と表面粗さを両立させた中間的な条件になっています。個人的には、密度を優先させたボイドの無い積層条件を採用するかもしれません。

使用した市販MIMフィードストックPolyMIM8740(NiCrMo鋼)は2種類ありますが、この研究で使ったものは、拡大率の大きな「1.2160」の方だと思われます。本研究の結果を追記すると、平均粒子径は2.39 µmとありますが、顕微鏡による測定なので「?」にしておきます。

また、熱重量分析ではバインダー量が 9.2 wt%と出ていますが、これはPP/PE系より密度の大きいPEG系バインダーを使用しているためです。体積率に換算すると約42vol% であり、適正な範囲内にあることが分かります。

(蛇足:バインダー量40%代は、一昔前のMIMバインダー量です。現在の高精度MIMは30vol%代です。MEXによる高精度MIMフィードストックを使った研究報告を待ち望んでいます。)

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2026年7月14日火曜日

産業用CTスキャンで何ができるのか?とその先を考える

 【珈琲ブレイ句】キャステムさんからCTスキャン受託サービスの案内メールが来たので、この機会に、素形材産業における産業用CTスキャンの利用技術について少し深堀したので共有します。

キーワードは「デジタルツイン技術」

 MIM製品では、検査で内部欠陥を極限まで排除するために製品設計、金型方案設計、成形条件を最適化することが基本です。しかし、金属3Dプリンター(Metal AM)による造形物において、欠陥のない完璧な製品を作ることは技術的に極めて難しく、Fコストの上昇を招いていました。

 そこで注目されているのが、『欠陥を前提としたデジタルツイン技術』です。従来は微細なボイドの検出だけで廃棄されていた部品を、産業用CTスキャンで得た「個体ごとのボイド位置や形状」を含むCAEモデルをそのままインポートします。

『そのまま=デジタルの双子(デジタルツイン)』

 そして、「この欠陥であれば実使用時の応力集中は許容値内であり、製品強度に問題ない」とデジタル空間でシミュレーションして合否判定を行う技術です。

 高価な一品一様の部品を無駄にせずQCDを最適化するこの手法は、自動車や航空宇宙業界で実用化されているようです。

CTスキャン利用技術のその先

3D静止状態だけでなく熱や圧力などの負荷、時間経過による内部挙動を捉える「4D技術(3D+時間)」も登場しており、CAE解析を補完するリアルタイム測定へ広がっています。

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2026年7月13日月曜日

熱履歴センサーTempTABを掘り下げる

熱処理炉の温度を測定する熱履歴センサーとして「TempTAB Orton社」があります。焼結後の寸法を測定することで、焼結温度を測る物差しです。

MIM焼結での採用実績があるというので調べてみました。

MIMの代表的な焼結温度である 1,250℃〜1,400℃ の 「TempTAB 650」 によるデータは次の通りです。条件は、大気雰囲気、昇温5℃/min" 、ピーク温度保持時間120分の標準マスターデータの一例です。センサーの製造ロット毎に専用換算表が付属しています。

ここで、MIMの焼結条件(Ar,N2,H2など)に変えた場合の換算表は、Orton社から提供されません。この大気雰囲気のデータを補正して使います。その補正量(ズレ量)を次の通りです。



N2窒素雰囲気は、大気雰囲気の換算表がそのまま使えて、アルゴン雰囲気では、マイナス2℃、水素100%雰囲気では、マイナス16℃の補正が必要であることがわかります。

但し注意が必要です。TempTABが受ける熱履歴によって、焼結寸法は変化します。ピーク温度までの上昇速度、ピーク温度、ピーク温度保持時間、ガス対流、熱輻射、熱伝導を十分考慮する必要があります。したがって、1325℃におけるズレ量を、そのまま単純に基本換算表全体のシフト補正値として使うことは危険だと感じます。


【珈琲ブレイ句】昔、熱履歴センサーの「リファサーモ」を使って、MIM焼結条件における実力を調べたことがあります。予想通り、付属の換算表はそのまま使えませんでした。また、単純な一次関数ではありませんでした。

関連BLOG: リファサーモはMIMに使えるか?

《提案》実際にMIM焼結で熱履歴センサーを使う場合は、信頼性が確保された焼結炉を使って実験データを集め、散布図から多項式を求めることをお勧めします。最高温度保持時間、導入ガス流量を標示因子として現状のMIM焼結条件に合わせる必要があります。


《ことば》「熱履歴センサー」とMIM指南書P152の「相対温度計」は同じものです。「相対温度計」は、管理図に使うことを目的として、焼結ロット毎の温度の変化を相対的に把握するための温度計という意味です。また、熱履歴センサーというのは、Process Temperature Indicatorの意訳です。 また、MIM指南書P153 図4.35に Qサーモによる管理図を使った改善例を載せています。

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2026年7月10日金曜日

粉末冶金分野におけるガスアプリケーション

MIM製造だけでなく、粉末冶金・アプリケーション全体で使われているガスの機能と特徴についてまとめたので共有します。

【各ガスの機能と特徴】

アルゴン(Argon)

 機能: 最も不活性な雰囲気を必要とするプロセスで使用される 。チタン、ニッケル、コバルト合金などの先進材料は、高温下で酸素や窒素と非常に反応しやすくなる 。アルゴンを使用することで、インクルージョン欠陥などの原因となる有害な金属酸化物や窒素化合物の形成を完全に防ぐことができる。

 特徴: 窒素とさえ反応(窒化)してしまうチタン(Ti)やアルミニウム(Al)などの活性金属・難焼結性材料の処理に不可欠である。


窒素(N2)

 機能: 経済性に優れた準不活性ガス。

 特徴: 多くの鉄鋼系材料やステンレス鋼などの処理において、酸化防止の保護雰囲気やパージガス、冷却ガスとして広く一般的に使用される(ただし、高温で窒化が問題になる材料には回避が必要)。


水素(H2)

 機能: 強力な還元性ガス。

 特徴: 金属表面の微細な酸化皮膜を除去(還元)し、粉末同士の拡散・焼結を促進する。また、熱伝導率が高いため、炉内の均熱性向上や急速冷却にも寄与する。


【珈琲ブレイ句】機能とコストのバランスで選ばれていることがわかります。アルゴンはオールマイティですが、窒素でも問題が無いときは価格の安い窒素を使う。 焼結後の急速冷却が必要な時は、熱伝導率が大きい窒素を使う。還元が必要な時は水素を使うという使い分けですね。

コストの概略値を調べました。アルゴンは窒素の6~8倍も高価です。

3種類の相対的な価格は次の通りです。

  窒素 (1) < 水素 (3~4) < アルゴン(6~8)

 アルゴンと窒素は、実質無料の空気をマイナス196℃程度まで冷却して液体にし、成分ごとの沸点の違いを利用して分離する深冷分離法で作られています。 

 アルゴンが高価なのは、空気中にわずか約1%しか含まれない希少なガスのためです。一方、窒素は空気中に約80%含まれています。

 水素は、水の電気分解で作ると思っていましたが、工業的には、天然ガス(メタンCH4)や石油などの化石燃料に高温の水蒸気を反応させる水蒸気改質法で作られているそうです。

 

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2026年7月4日土曜日

BASF法の不良と対策のまとめ 

 BASF法Catamold®の不良と対策をまとめました。

Ⅰ.触媒脱脂工程における不良と対策

触媒脱脂特有の不具合は、「酸(硝酸)の濃度・供給量」「処理温度」「炉内のガス循環」のバランスが崩れたときに発生する。

A.クラック(ひび割れ)・割れ

《原因》凝縮水の発生: 炉内のキャリアガス(窒素)流量が不足すると、分解ガスや微量の水分が炉内で凝縮し、成形体に付着して局所的な応力集中や化学的アタックを引き起こす。

《対策》窒素ガスによるパージ流量を増やし、分解ガスを速やかに炉外へ排出(排気燃焼)させる。

B.変形・ダレ(スランプ変形)

《原因》炉内温度のオーバーシュート: 触媒脱脂の適正温度は通常110℃〜120℃ですが、これがPOMの融点(約160℃〜170℃)に近づく、あるいは局所的なホットスポットがあると、バインダーが軟化・溶融して自重で変形する。

《対策》炉内の温度均一性(バリデーション)を定期的に確認し、温度管理を徹底する。自重による変形を防ぐため、オーバーハング部や複雑形状部には専用のセッター等でバックアップを行う。

C.脱脂残りおよびそれに起因する脱脂割れ

《原因》①炉内のガス循環不良: 炉内にワークを過密に詰め込んだり、ガスの流れが遮られたりすると、硝酸蒸気が行き渡らない箇所(未脱脂部)が生じる。②肉厚部の拡散限界: 肉厚品の場合、中心部まで酸が拡散するのに時間がかかるため、表面が先に脱脂され、内部が未脱脂のまま次の熱脱脂・焼結工程に回ると、残ったバインダーが一気にガス化して製品を破裂させる。

《対策》①炉内のワーク配置(チャージング)に適度な空間を空け、気流を均一にする。②肉厚品に対しては、脱脂時間を単純延長するか、あらかじめ設計段階で「リブ化」や「肉盗み」を設け、均一な肉厚にする。

Ⅱ.成形工程に起因する不良



【珈琲ブレイ句】BASF法Catamold®の不良についてまとめましたが、最も重要なのは成形工程における品質の確保であり、これは溶媒脱脂法や加熱脱脂法と共通する基本管理項目です。


 良質な成形体があれば、BASFの優れた脱脂技術は、相対的に生産性の面で有利かもしれません。その理由は、何といっても『表面からPOMを直接ガス化(解重合分解)させる』ところです。表面から一定の速度で分解が進行するため、処理時間は肉厚に比例するのみであり、加熱脱脂法と比較すると短時間での処理が可能です。

脱脂率の定量管理(重量測定)と排気・安全管理を適切に行えば完璧です。



2026年7月2日木曜日

ベッディング(敷粉)の隠れた危険を考える

ベッディング(Bedding)とは、粉末のベッドを作る技術。 敷粉、離型材、焼結防止材、溶着防止材。

《使用する目的》焼結時の自由な収縮を助け、セッターとMIMの摩擦抵抗を減らして焼結変形を防止する。また、溶着防止、拡散接合防止のために使用する。

《方法》①セラミックスプレーを使用する。 例えば、セラコートスプレー(アルミナ99%)。 ②セラミックビーズを使ってスラリーを自作する。例えば、東ソー・ジルコニアビーズTZ-B 30をPVA3wt%溶液に溶かし、塗布後乾燥させる。実験であればスティック糊を塗って粉を掛ける。

《効果》①収縮変形の際に、MIMとセッターの間でボールベアリングのような役割をして、摩擦による焼結体の変形を防止する。②金属同士の拡散接合を阻止する。変形アシスト追従駒法のセラミックコーティングとして使用する。MIM指南書 P30 図2.14

《隠れた危険》①塗布したセラミックの微細粉末が炉内を浮遊して、炉内の断熱材等を汚染する。②トラップされないセラミック微細粉末が、ロータリー真空ポンプやメカニカルブースター真空ポンプに流入して、摺動部分や回転軸のクリアランスの摩滅材として働きポンプの機能を低下させる。

《対策》①日常対策としては、セラミックや黒鉛製の防波堤、防風林等の囲いの中に脱脂体を並べ、ガス流の影響を受けない環境で焼結する。 ②定期的な真空系の設備保全の実施。 


【珈琲ブレイク】 ベッディング(敷粉)に使用する微細セラミック粉末は微量なので、炉内浮遊は深刻に考えなくてもよいかもしれませんが、長期間稼働の危険予知としてまとめておきました。

一方、アルミナ粉末を大量に使用されている場合は、粉末浮遊対策を考慮した方が無難です。


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2026年7月1日水曜日

射出圧力および流量が成形体特性に及ぼす影響について

「射出圧力および流量が成形体特性に及ぼす影響」という大変優れた論文について、いくつかの発展的な疑問点とその原因について考察いたしました。

参考論文:"Influences of Injection Pressure and Flow Rate to the Green Properties", International Journal of Engineering & Technology, 8 (1.12) (2019) 51-54 

論文の目的:射出圧力と流量が、グリーン体(成形体)の表面欠陥、密度、および強度に及ぼす影響を明らかにする。


実験条件と結果(平均成形体密度)

要因効果図

《疑問点》 流量と成形体密度の要因効果図(Fig,3)において、中間圧力の650barのデータだけが、他の2水準と大きく傾向が異なっている。

《原因の仮説》 実験に使用した射出成形機には「油圧式の流量補償機能」が備わっていると推測されます。この機能により設定流量が保証されますが、一方、実際の射出圧力は設定値から乖離している可能性があります。 具体的には、流量を維持するために成形機側で圧力を制御した結果、一部の条件でいわゆる「圧力飽和状態」に陥っているのではないかと疑っています。これは、実際の圧力波形を観察・比較することで検証可能です。

《対策案》 MIMフィードストックは擬塑性流体であり、流量(せん断速度)を変化させると、見かけ粘度は対数スケールで大きく変動します。 そのため、一律の設定ではなく、各流量水準ごとに「実際の圧力が飽和しない適切な射出圧力(大・中・小)」を個別に割り当てる「水準組み合わせ」を行うことで、傾向の乱れを解決できると考えます。実験計画にあたっては、事前に多少の予備実験も必要です。

【珈琲ブレイ句】本論文に関する私見ですが、そもそも油圧サーボ射出成形機においては、実験因子として「流量」のみを考慮すれば十分であり、「射出圧力」の設定は不要ではないかと思います。むしろ、他の主要な成形条件(金型温度、樹脂温度、保圧など)の影響について、研究のリソースを割いた方がより有意義であると感じました。

また、本実験は二元配置実験の構成なので数理統計学に基づく分散分析を試みました。その結果、F検定において射出圧力および流量のいずれも有意差は確認されませんでした。したがって、要因効果図にみられる傾向は、統計的には誤差範囲にすぎない可能性が高いと考えられます。



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2026年6月26日金曜日

BASFが触媒脱脂の困難を普通に変えたこと

 【珈琲ブレイ句】MIMのバインダー脱脂方法は、これまで世界の研究者・技術者によって様々なアプローチが試みられてきました。

物理的除去法(溶媒抽出脱脂、超臨界流体脱脂)、化学的除去法(触媒分解脱脂、雰囲気ガス反応脱脂)、熱的除去法(加熱熱分解脱脂、ウイッキング法)、電気・電磁的除去法(マイクロ波加熱脱脂)、生物学的除去法(バイオ分解脱脂)などが挙げられますが、量産技術として確立したものは僅かです。

黎明期の量産MIMにおいては、パーマテック法(Permatech)に代表される溶媒脱脂と、ウイテック法(Wiech)に代表される加熱脱脂が主流であり、これらは現在でも広く普及しています。また当時は、アルミナ粉末にグリーン体を埋め込んでバインダーを吸い出すウイッキング法も、一部の量産ラインで採用されていました。

その後、独BASF社からポリアセタール(POM)樹脂をベースとした触媒脱脂法が登場します。高分子樹脂を酸触媒によって固体から直接ガス化させるという奇抜なアイデアには、当時とても衝撃を受けたことを覚えています。ワックス類をほとんど含まないフィードストックゆえに射出成形が困難(金型温度100℃超え)であり、決して主流にはならないだろうと考えていました。

しかし、BASF社は「MIMスクール」を立ち上げて世界中の若い技術者にノウハウを伝授し、「困難を普通に変換させる」ことに成功しました。その結果、BASFの高精度MIM製法は瞬く間に世界へと広がりました。同社の経営・技術戦略には、まさに脱帽するほかありません。

さらに近年では、日本の樹脂メーカーが流動性を大幅に改善したMIM用のPOM樹脂を開発しており、さらなる追い風となっています。

2026年6月23日火曜日

【MIM指南書(増補・セルフ)】5.25バインダーの分離 の追加

  【MIM指南書(増補・セルフ)】 5.25 バインダーの分離 の追加

P157 「第5章 MIM不良24種の原因と対策」の「表5.1MIM不良一覧」へ「5.25 バインダーの分離 」を追加し、MIM不良25種へ 変更してください。

下のページを印刷して、P184とP185の間に挟んでください。。


【珈琲ブレイ句】日本のMIMメーカーによる改善事例の発表で知ったMIM不良です。バインダーが分離・偏析してポーラス状の不良になるという内容で、初めて知った不良でした。この事例をきっかけに、「分離・偏析による不良」を調査しそれらの原因と対策をまとめました。

この事例の対策は、製造条件では解決せず、最終的にバインダーの仕様を変更されていました(仕様の詳細は不明)。結局、最初のレシピの選定が重要だということです。

基本のMIMバインダー仕様は、MIM指南書P57の表3.3にまとめています。

2026年6月22日月曜日

【MIM指南書(増補・セルフ)】誤記訂正

 【MIM指南書(増補・セルフ)】 表4.6内の誤記訂正をお願いします。


P154 4.5 熱処理・表面処理の実際 表4.6 MIM部品の熱処理表面処理

誤: 黒染・黒色参加

正: 黒染・黒色酸化


【珈琲ブレイ句】MIM製SKD11(ダイス鋼)の黒染め処理で黒色にならず初品がNGになったことがあります。原因は大量のCrによる表面の不動態皮膜(酸化クロム)に阻害されて鉄の酸化反応が正常に進まなくなった可能性があります。仮説を検証をする時間が無かったのでレイデント処理に変更しで黒色に仕上げました。


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2026年6月21日日曜日

市販MIMフィードストックの拡大率と推定バインダー量

市販されているMIMフィードストックの拡大率(伸び尺)をまとめたので共有します。D2219


 【珈琲ブレイ句】
ドイツのPolyMIM社は、すべてのお客様のニーズに対応すべく、多様な拡大率(伸び尺)を用意しています。全55材種に対し、拡大率のバリエーションは8種類に及びます。

なかでも拡大率1.216は、MIMの黎明期の名残だと思われます。この拡大率は精度±0.5%程度が限界の材料です。当時の金属粉末の品質(粉末形状、サテライト、タップ密度)が高くなかったため、バインダー量を多めに添加する必要がありました。焼結精度が悪いので今後衰退していくと思われます。

拡大率で最も種類が多いのは1.1669のグループです。これはBASF社の「Catamold-310N」と同等で、同社の量産実績精度は±0.3%を誇ります。

さらに注目すべきは、1.1515や1.1450といった、より小さな拡大率が存在することです。収縮率が抑えられていることから、これらはさらに高い寸法精度が出せることが推察できます。攻めていますね!!

関連BLOG:量産品のMIM精度を考える

関連BLOG:バインダー量と伸び尺の関係

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2026年6月19日金曜日

【MIM指南書(増補・セルフ)】MIMの表面粗さ

 MIM指南書 P8 5.高表面品位 の追加説明です。 下図を縮小印刷してP9の下の空欄へ、貼り付けてください。

《補足》「as sinterd (焼結体そのまま)」には、MIMの表面付着物を除去する目的で、軽くガラスビーズ・ショットブラストを行ったものも含みます。ただし、ブラストを掛けすぎると表面あらさが劣化するので、次の条件が前提です。「差圧式ショットブラスト、ガラスビーズJIS-F220、空気圧力3kg/cm2、ショット時間最大3秒間。また、ガラスビーズは割れる*1)と表面粗さが劣化するので、定期的なメディア交換管理を行うこと。」

*1 ガラスビーズの割れが問題であれば、高価であるが耐衝撃性に優れているジルコニアビーズに変更すること。

微粉MIMとは、粒径3~5μmの微細粉末を使ったMIM。μMIM®、マイクロMIM、Micro MIM


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2026年6月18日木曜日

INDO MIMが取得している認証資格

MIMだけでなくSinterbased Metal AMでも先導する「INDO-MIM」が取得している主な認証資格をまとめました。

ISO 9001(品質全般)

IATF 16949(自動車産業)※欧米の大手自動車メーカー・産業団体が策定した世界基準

ISO 13485(医療機器)

AS/EN/JIS Q 9100(航空・宇宙・防衛分野)

ISO 14001(環境対策)

ISO 45001(労働安全衛生)


【珈琲ブレイ句】自動車、医療、そして敷居の高い航空宇宙まで、あらゆるハイテク産業の要求に応えられる体制を整えている点に、同社の強固な経営戦略が見て取れます。限界を設けず、最高峰の品質マネジメントに挑み続けた結果が、現在の「世界シェアNo.1」という実績に繋がっているのですね。

関連BLOG:世界のトップレベル「INDO-MIM社のBJT技術」から学ぶこと


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2026年6月17日水曜日

【MIM指南書(増補・セルフ)】セラミックコート

 MIM指南書 P30 のポイントの下へ手書きで追加して下さい。

おすすめ(実績あり):セラコートスプレー ㈱オーディック アルミナ99%


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2026年6月10日水曜日

タグチメソッド・パラメータ最適化とベイズ最適化②

  【珈琲ブレイ句】タグチメソッド(品質工学)とベイズ最適化の関係性を、簡単にまとめました。

両者の関係性

《ベイズ最適化の強み》 過去のデータや物理シミュレーションを学習し、多次元空間の「未知の交互作用」を推測しながら、最小の実験回数でピンポイントな最適解へ到達する。

《品質工学の強み》 単なるピーク(山頂)探しではなく、製造ロットブレや環境変化(誤差因子)に耐える「なだらかな、崩れない山(ロバスト・頑健なシステム)」を作る。

現代の製造業データサイエンスでは、ベイズ最適化という強力な「探索エンジン」のなかに、タグチメソッドの「誤差因子を織り込んでロバスト(頑健)にする」という思想をどうアルゴリズムとして組み込むか、という方向で両者の融合が進んでいる。

天国の田口玄一先生に直接聞いてみたいテーマです。聞いてもほとんど理解できないけど・・・。

関連BLOG:タグチメソッド・パラメータ最適化とベイズ最適化の比較

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2026年5月27日水曜日

なぜLOMI溶媒脱脂装置はノルマルヘキサンを選んだのか

 「なぜLÖMI 溶媒脱脂装置は、溶媒にノルマルヘキサンを選んだのか」をテーマにその理由を考えてみました(私見です)。

塩化メチレン、パークロロエチレン、ノルマルヘキサンで比較しています。

《理由1:バインダー構造との相性(HSP値の適合性)》

MIMバインダーの溶解性は、単一の鉱物油に対する攻撃力の強さである「Kb値」だけで決めるのではなく、溶かす樹脂の極性に近い「溶解度パラメータ(HSP値)」が決定打となります。ノルマルヘキサンのKb値は塩化メチレンに及びませんが、バインダー成分としてEVAを使っている場合、ヘキサンだけが、EVAとの相性が非常に良く、成形体の保形性を維持しながら、効率的に抽出・脱脂することができます。

《理由2:抽出速度(拡散性)の向上》

ノルマルヘキサンのKb値は塩化メチレンに及びませんが、沸点が高いため、50℃程度に加温して処理を行うことで、溶媒の拡散性が高まり脱脂速度は飛躍的に向上します。

仮にEVAを配合しないMIMバインダーであれば、処理温度を90℃程度まで上げられるパークロロエチレンの溶解性が最も良く、次いで塩化メチレン、ノルマルヘキサンの順になります。しかし、下記の総合評価によってノルマルヘキサンが選ばれています。

《理由3:資源の100%内製リサイクル(経済性と品質の安定)》

ノルマルヘキサンは蒸留再生が容易で、装置の構造もシンプルにできます。蒸留すれば約90%のヘキサンを新品同様のクリーンな液として回収・再利用が可能です。

装置内で手軽に蒸留再生ができれば、常に新鮮なヘキサンを脱脂槽に供給できるため、脱脂プロセスの時間や仕上がり品質を一定に保つことができます。

《理由4:安全性の克服(防爆技術の確立)》

ノルマルヘキサン最大の欠点は、引火点が極めて低い(約 -22℃)点です。しかし、LOMI装置は、欧州の厳格な防爆規格である「ATEX認証」をクリアし、「溶媒脱脂・乾燥・溶媒再生」を密閉一体化させた革新的な安全システムを開発・提供することで、このリスクを完全に克服しています。

《理由5:環境・人体への毒性リスクの低減》

塩化メチレンは、高い発がん性リスクや環境負荷、厳しい法規制が大きな課題となります。一方、急性毒性(致死量)のモノサシで比べると、ノルマルヘキサンは塩化メチレンより約12倍〜15倍安全(毒性が低い)であり、現場の作業環境改善の観点からも極めて有利です。


【珈琲ブレイ句】LÖMI 溶媒脱脂装置を宣伝しているわけではありません。素晴らしい製品化技術を教材として学んでいるだけです。私の現役時代は、自社で溶媒脱脂・蒸留再生装置を作っていました。また、独立して2年間、都立大学でお手伝いをした時も、自分で蒸留装置を作ってn-ヘキサンを蒸留再生していました。大学の実験装置(ペットボトル、ストレージャー、フラスコ、ラバーヒーター、温調器、螺旋銅管、ブロアー他)で、溶媒脱脂・蒸留再生ができるのです。この「扱いのシンプルさ」こそが、工業生産においてヘキサンが選ばれる隠れた最大の理由なのかもしれません。

関連BLOG:溶媒脱脂の溶媒比較一覧表

関連BLOG:なぜ溶媒脱脂推しなのか説明します

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2026年5月23日土曜日

BJT「EX-ONE」による工具鋼M2の積層実験を掘り下げる

バインダージェット「EX-ONE」による工具鋼M2を使った積層実験論文(2024年)をまとめました。工具鋼として必要な焼結体組織の健全性という切り口で深く研究されています。たいへん勉強になるすばらしい研究論文です。

参考文献:「Additive manufacturing of AISI M2 tool steel by binder jetting (BJ): Investigation of microstructural and mechanical properties」、Journal of Manufacturing Processes 132 (2024) 686–711 、Amit Choudhari 、Mechanical Engineering Department, Cleveland State University, Cleveland, OH, USA、他

粉末:SANDVIK社(米国)ガスアトマイズ法、AISI M2 HSS粉末、平均粒径10μm

バインダー:Aquafuse (BA005) 水性バインダー

BJT:EX-ONE 

1. 積層(印刷)プロセスの最適条件

• Layer Thickness(積層厚み): 50μm 

• Binder Saturation(バインダー飽和度): 70%

• Oscillator Speed(オシレーター速度): 2,700 rpm

• The recoating speed(リコート速度): 24 mm/s

• Roller Rotation Speed(ローラー回転速度): 250 rpm

• Roller transverse speed(ローラー移動速度): 24 mm/s(リコート速度と同期)

• Binder Set Time(定着時間): 5 sec

• Drying Time(乾燥時間): 15 sec

2. 脱脂(Debinding)プロセスの条件

• 第1ステップ(溶媒除去): 150 °C まで 1.0 °C/min で昇温、60 min 保持

• 第2ステップ(ポリマー分解): 400 °C まで 0.5 °C/min で緩慢昇温、120 min 保持

• 雰囲気: アルゴン(Ar)ガス流量 2 L/min の不活性雰囲気

3. 焼結(Sintering)プロセスの最適値

• 焼結温度(Sintering Temperature): 1,280 °C

• 保持時間(Holding Time): 60 min

• 雰囲気(Atmosphere): 高真空10-4~10-5Torrまたは アルゴン+水素(Ar + 5%H2)混合気流

• 冷却速度(Cooling Rate): 空冷(Air Cooling)

*1,280 °C × 60 min + 空冷の組み合わせが、過度な液相による自重変形を起こさず、最も高い圧縮強度(3,580 MPa)と健全な微細組織(微細に分散した炭化物組織)を得られる。

【珈琲ブレイ句】実験では、平均粒径5μmの粉末も用意されましたが、予備実験の不良率が80%と高いため本実験には使用されていません。やはり微細粉末は流動性が悪いので、EX-ONEの標準仕様では使えないということですね。

 粉体の流動性を高めるために、「乾燥環境の管理」の重要性が説かれています。また裏技として、「湿った粉末の復活法」が2つ紹介されています。①180~200℃のオーブンで2-3H焼成する。②1~10torrの真空状態で10~15分間放置する。

 論文の結論は、焼結後に空冷(Air Cooling)が良いとのことですが、この実験はおそらく管状焼結炉を使っているので試験片を、焼結直後に空冷できたのではないかと思われます。量産炉であれば、熱伝導率が大きい窒素を使って炉内の水冷クーラー(熱交換器)を回す方法になるのでしょうか? 工具鋼は組織の課題があるので難しいところです。




2026年5月14日木曜日

MIMの密度は望目特性ではなく望小特性と考える理由

 【珈琲ブレイ句】MIMの成形体密度および焼結体密度をタグチメソッドの特性値として扱う際、私は「望目特性」や「望大特性」ではなく、あえて「望小特性」として扱っています。その論理的背景について、あくまでも「個人的な意見」として共有します。

《理由1》品質工学の観点

一般的には、密度は高いほど良いと考えられるため、「望大特性」として扱いたくなります。しかし私は、理論密度から実測密度を差し引いた“密度差”を特性値とし、それを「望小特性」として評価すべきだと考えています。

その理由は、「望大特性」のSN比には、ばらつき評価において平均値の寄与が過度に反映されやすい傾向があるためです。すなわち、平均値が高い条件では、ばらつきの影響が相対的に見えにくくなる場合があります。

一方、「理論値−測定値」という偏差を用いて「望小特性」として扱えば、理論密度への到達度と安定性の双方を、より直接的に評価しやすくなると考えています。

《理由2》MIM技術の観点

また、「望目特性」を選択することには、平均値そのものを調整・管理する意図(いわゆるチューニング)が含まれます。しかし、MIM技術において、特に焼結密度を意図的にコントロールする運用については、私は否定的な経験しか持っていません。

実際に、焼結体寸法を調整する目的で焼結温度を下げるチューニングが行われている現場を見たことがあります。しかし当然ながら、そのような条件ではMIM焼結体の品質は低下し、表面品位だけでなく機械的強度も悪化していました。

私は、MIM焼結体の寸法調整は、焼結条件によって密度を犠牲にして行うべきではなく、バインダー量の微調整によって対応すべきだと考えています。

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2026年5月12日火曜日

あるL27直交表を使った実験の残念なところ

参考文献:Green density optimization of stainless steel powder via metal injection molding by Taguchi method  ,AM Amin1, MHI Ibrahim1, MY Hashim3, OMF Marwah2, MH Othman3, Muhammad Akmal 

 「田口メソッドによる金属射出成形を用いたステンレス鋼粉末のグリーン密度最適化(2017)」と題する研究論文を読んでみました。すばらしい実験なのですが、残念なことが2つあります。

ひとつは、L27直交表の交互作用列に因子が割り付けられているので交互作用と割り付け因子の効果が交絡して評価できないのです。

ふたつめは、特性値である成形体密度が望目特性として分析されています。個人的には成形体密度は理論値に近ければ良いと考えています。

そこで、特性値を成形体密度と理論値との差の望小特性として解析し直しました。理論値は不明なので、実験内の最大値に+0.004を加えた「5.13g/cm3」としました。

D2215







単独に評価できる因子は、1列A,2列Bと5列Eの3つだけです。Eは誤差としてプーリングしたのでAとBだけの要因効果図を描きました。

A射出温度は第2水準と第3水準の間が良いと判断されます。温度をさらに上げても成形体密度の向上はわずかであることがわかります。むしろ熱劣化の可能性があるので温度を上げすぎない方がよいでしょう。

B射出圧力は、水準2が最適条件です。実験範囲内で射出圧力に上限(最適値)があるということは注目すべき結果です。分散分析で寄与率が28%と一番高く、F検定でも有意であることがわかります。


【珈琲ブレイ句】L27直交表には単独に3因子しか割り付けできません。各列の成分が示す交互作用を研究する直交表です。(余談ですが、どうしても残りの4因子をL27に割り付けたければ3群の交互作用成分の多い列を選ん方が良いと思います。9,10,12,13列)そして確認実験をして再現性を確認する必要があります。

一方、タグチメソッド用のL18直交表であれば、18行の実験で8因子を割り付けることができます(2水準1因子+3水準7因子=8因子)。