2026年5月23日土曜日

BJT「EX-ONE」による工具鋼M2の積層実験を掘り下げる

バインダージェット「EX-ONE」による工具鋼M2を使った積層実験論文(2024年)をまとめました。工具鋼として必要な焼結体組織の健全性という切り口で深く研究されています。たいへん勉強になるすばらしい研究論文です。

参考文献:「Additive manufacturing of AISI M2 tool steel by binder jetting (BJ): Investigation of microstructural and mechanical properties」、Journal of Manufacturing Processes 132 (2024) 686–711 、Amit Choudhari 、Mechanical Engineering Department, Cleveland State University, Cleveland, OH, USA、他

粉末:SANDVIK社(米国)ガスアトマイズ法、AISI M2 HSS粉末、平均粒径10μm

バインダー:Aquafuse (BA005) 水性バインダー

BJT:EX-ONE 

1. 積層(印刷)プロセスの最適条件

Layer Thickness(積層厚み): 50μm 

Binder Saturation(バインダー飽和度): 70%

Oscillator Speed(オシレーター速度): 2,700 rpm

The recoating speed(リコート速度): 24 mm/s

Roller Rotation Speed(ローラー回転速度): 250 rpm

Roller transverse speed(ローラー移動速度): 24 mm/s(リコート速度と同期)

Binder Set Time(定着時間): 5 sec

Drying Time(乾燥時間): 15 sec

2. 脱脂(Debinding)プロセスの条件

第1ステップ(溶媒除去): 150 °C まで 1.0 °C/min で昇温、60 min 保持

第2ステップ(ポリマー分解): 400 °C まで 0.5 °C/min で緩慢昇温、120 min 保持

雰囲気: アルゴン(Ar)ガス流量 2 L/min の不活性雰囲気

3. 焼結(Sintering)プロセスの最適値

焼結温度(Sintering Temperature): 1,280 °C

保持時間(Holding Time): 60 min

雰囲気(Atmosphere): 高真空10-4~10-5Torrまたは アルゴン+水素(Ar + 5%H2)混合気流

冷却速度(Cooling Rate): 空冷(Air Cooling)

*1,280 °C × 60 min + 空冷の組み合わせが、過度な液相による自重変形を起こさず、最も高い圧縮強度(3,580 MPa)と健全な微細組織(微細に分散した炭化物組織)を得られる。

【珈琲ブレイ句】実験では、平均粒径5μmの粉末も用意されましたが、予備実験の不良率が80%のため本実験には使用されていません。やはり微細粉末は流動性が悪いのですね。
 流動性を高めるために、「乾燥環境の管理」の重要性が説かれています。また裏技として、「湿った粉末の復活法」が2つ紹介されています。①180~200℃のオーブンで2-3H焼成する。②1~10torrの真空状態で10~15分間放置する。
 結論は、焼結後に空冷(Air Cooling)が良いとのことですが、この実験はおそらく管状焼結炉を使っているので試験片を、焼結直後に空冷できたのではないかと思われます。量産炉であれば、密度の大きなアルゴンガスを使って炉内の水冷クーラー(熱交換器)を回す方法になるのでしょうか? 工具鋼は組織の課題があるので難しいところです。




2026年5月16日土曜日

技術コンサルタントがネガティブに感じた事例①

《前書き》

 技術コンサルタントとして現場を観察していると、ネガティブで深刻な問題に気づくことがあります。たとえば、「技術のブラックボックス化」や、「勘と経験」に依存した場当たり的な対応への回帰です。コンサルタントの役割は、こうしたリスクを可視化し、背景や原因を整理したうえで、改善策を提案することだと考えています。

 しかし実際には、提案が十分に受け入れられず、大きな改善につながらないケースも少なくありません。その背景には、現場側の「変化に対する不安」や、「外部からの指摘に対する抵抗感」があるように感じています。強く指摘すれば関係性を損なうので、現実には難しいバランスが求められます。

 【珈琲ブレイ句】

 前日のブログでも書きましたが、寸法のチューニング目的で焼結温度を下げる対策などもネガティブな事例です。ここで、もうひとつネガティブな事例を紹介しておきます。

『MIMの脱脂焼結工程で、焼結体にテンパーカラーによる表面変色がついたため、対策として、アルゴン圧力コントロール下での焼結が完了したのち、炉内冷却前に、アルゴン(窒素)を封入して外気圧より炉内の圧力を高くする。その結果テンパーカラーが無くなった。さらに、この条件が標準になっていた。』

 現場は「炉内を陽圧(大気圧より高く)にすれば、外気の巻き込み(酸素の侵入)が防げて変色(酸化)を抑えられる」という近視眼的な「対策」です。ここには大きな3つの問題があります。

1. 冶金学的な問題

 変色の「真因」の追究が不十分である。

 テンパーカラーが発生したということは、炉内の高温域、あるいは冷却の特定フェーズにおいて、許容値以上の酸素が存在していたことを意味します。その根本原因としては、炉体や配管・バルブからの微小なリーク、あるいはガス導入経路での大気巻き込み等が考えられます。しかし、この現場対応は「大気が入ってくるからガス圧を上げて押し返す」という対症療法に留まっています。高温焼結中のリークは、そのまま問題が表面化することなく継続していきます。

2. 設備保全管理の問題

 リークの根本原因を特定し、恒久対策を迅速に講じる設備管理体制(システム)が機能していない。

3. プロセス管理(再現性)の欠如

 「焼結完了の段階でアルゴンや窒素を封入する」という個別のオペレーションが、一時的な応急対策であればやむを得ませんが、現場の裁量に依存したプロセス管理では、長期的な品質の再現性に懸念が残ります。この運用が仮に社内標準として定着しているのであれば、品質管理・QCDを組織的に統制すべき技術部門の「技術統治(技術ガバナンス)」が脆弱である可能性を示唆しています。


関連BLOG:「テンパーカラー」は「MIM設備保全の警告信号」


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2026年5月14日木曜日

MIMの密度は望目特性ではなく望小特性と考える理由

 【珈琲ブレイ句】MIMの成形体密度および焼結体密度をタグチメソッドの特性値として扱う際、私は「望目特性」や「望大特性」ではなく、あえて「望小特性」として扱っています。その論理的背景について、あくまでも「個人的な意見」として共有します。

《理由1》品質工学の観点

一般的には、密度は高いほど良いと考えられるため、「望大特性」として扱いたくなります。しかし私は、理論密度から実測密度を差し引いた“密度差”を特性値とし、それを「望小特性」として評価すべきだと考えています。

その理由は、「望大特性」のSN比には、ばらつき評価において平均値の寄与が過度に反映されやすい傾向があるためです。すなわち、平均値が高い条件では、ばらつきの影響が相対的に見えにくくなる場合があります。

一方、「理論値−測定値」という偏差を用いて「望小特性」として扱えば、理論密度への到達度と安定性の双方を、より直接的に評価しやすくなると考えています。

《理由2》MIM技術の観点

また、「望目特性」を選択することには、平均値そのものを調整・管理する意図(いわゆるチューニング)が含まれます。しかし、MIM技術において、特に焼結密度を意図的にコントロールする運用については、私は否定的な経験しか持っていません。

実際に、焼結体寸法を調整する目的で焼結温度を下げるチューニングが行われている現場を見たことがあります。しかし当然ながら、そのような条件ではMIM焼結体の品質は低下し、表面品位だけでなく機械的強度も悪化していました。

私は、MIM焼結体の寸法調整は、焼結条件によって密度を犠牲にして行うべきではなく、バインダー量の微調整によって対応すべきだと考えています。

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2026年5月12日火曜日

あるL27直交表を使った実験の残念なところ

参考文献:Green density optimization of stainless steel powder via metal injection molding by Taguchi method  ,AM Amin1, MHI Ibrahim1, MY Hashim3, OMF Marwah2, MH Othman3, Muhammad Akmal 

 「田口メソッドによる金属射出成形を用いたステンレス鋼粉末のグリーン密度最適化(2017)」と題する研究論文を読んでみました。すばらしい実験なのですが、残念なことが2つあります。

ひとつは、L27直交表の交互作用列に因子が割り付けられているので交互作用と割り付け因子の効果が交絡して評価できないのです。

ふたつめは、特性値である成形体密度が望目特性として分析されています。個人的には成形体密度は理論値に近ければ良いと考えています。そこで、特性値として成形体密度と理論値との差を望小特性として解析してみました。理論値は不明なので、実験内の最大値に+0.004を加えた「5.13g/cm3」としました。

D2215







単独に評価できる因子は、1列A,2列Bと5列Eの3つだけです。Eは誤差としてプーリングしたのでAとBだけの要因効果図を描きました。

A射出温度は第2水準と第3水準の間が良いと判断されます。温度をさらに上げても成形体密度の向上はわずかであることがわかります。むしろ熱劣化の可能性があるので温度を上げすぎない方がよいでしょう。

B射出圧力は、水準2が最適条件です。実験範囲内で射出圧力に上限(最適値)があるということは注目すべき結果です。分散分析で寄与率が28%と一番高く、F検定でも有意であることがわかります。


【珈琲ブレイ句】L27直交表には単独に3因子しか割り付けできません。各列の成分が示す交互作用を研究する直交表です。(余談ですが、どうしても残りの4因子をL27に割り付けたければ3群の交互作用成分の多い列を選ん方が良いと思います。9,10,12,13列)そして確認実験をして再現性を確認する必要があります。

一方、タグチメソッド用のL18直交表であれば、18行の実験で8因子を割り付けることができます(2水準1因子+3水準7因子=8因子)。



2026年5月7日木曜日

これから、直交表を使った実験を始める方にアドバイス

交互作用を全列に交絡させたL18直交表(18回の実験で8因子)を使うことをお勧めします。 タグチメソッドは交互作用の研究は行いません。また、分散分析も不要です。要因効果図を描いて最大値の水準を選び確認実験を行って再現性があればOKです。

昔、TM研(タグチメソッド研究会、計量管理協会)で学んでいたとき、田口先生が来られて「分散分析など難しいことを教えるから現場が使わないんだ」と仰っていました。実験計画法上下(丸善)の著者でもある田口先生ですが、「やっぱり天才は、発想と言動が、ぶっ飛んでいるな~!」と思いました。

その真意は、たぶんこんな感じではないかと推察しています。

『実験計画法は「Why」の追求、タグチメソッド(品質工学)は「How」の追求。 現場で早く最適なパラメータを見つけて早く展開する。現場の改善が先で、なぜそうなるのかは後でも良い。現場に使ってもらうことを優先せよ。』

田口先生は、交互作用を全列に交絡させたL18直交表を使うだけでなく、さらに外側に調合誤差を割り付けて、誤差による影響を積極的に実験に取り入れる方法を提案されました。これにより外乱・環境誤差等に影響を受けない頑健な条件を見つけることができます。これがタグチメソッド(品質工学)です。

関連BLOG:品質工学と実験計画法の違い


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2026年5月3日日曜日

マイクロ金属射出成形の田口メソッドを使った論文から学ぶ

 田口メソッドを用いたマイクロ金属射出成形における成形体強度を特性値とする射出成形のパラメータ設計より

Single Performance Optimization of Micro Metal Injection Molding for the Highest Green Strength by Using Taguchi Method 、Vol. 2 No. 1 (2010)  International Journal of Integrated Engineering

《実験仕様》

直交表:L27 3水準系  (27回の実験で5因子、それらの交互作用)

粉末:Epson Atomix SS316L-PF10F(TD:4.06g/cm3、D50:5.96μm)

バインダー(PMMA,PEG,SA:25,73,2)。 

粉末配合:61.5vol%、

テストピース:ダンベル型(外寸9×1.1×t0.8mm)、サイドゲートt0.32mm

特性値、成形体の強度(MPa)、反復5、膨大特性のSN比に変換して分析

《制御因子と水準》

《結果》


コメント:

有意な制御因子は、A、C、A×B


【珈琲ブレイ句】初めにあれ?と感じたのは、タップ密度が低いこと(TD:4.06g/cm3)、2014年のメーカー発表データでは4.5g/cm3ですから相当低いのです。2010年頃の粉末品質が良くないのか、タッピング密度の測定方法が旧式だったのか? あるいは記載ミスの可能性もあります。粉末写真の掲載があれば推測できたのですが・・・。

 本実験からわかることは、成形体の強度を高くするためには、「金型温度は高い方がよい」ということです。 金型温度は実験水準内の外、さらに高い方向に最適解があることがわかります。追加実験と確認実験は必要ですね。

 射出圧力Aと射出温度Bとの間に交互作用が発生しています。その理由を2つ考えてみました。 ①フィードストックの成分に潤滑材が少ない。SAを増やす、PWを付加する。②マイクロMIMの実験ということですが、粉末は普通のMIMに使用するPF10Fです。そのため小さなゲート近傍で金属粉末とバインダーが分離している可能性があります。マイクロMIMであれば、PF5くらいの微細粉末を使ったら結果が変わっていたかもしれません。


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2026年4月21日火曜日

ゲルベース金属3Dプリンティング技術を学ぶ

 米国のスタートアップ 3D Architech Inc. が開発したゲルベースの金属3Dプリンティング技術(GEMM: Gel-enabled metal manufacturing)について少しまとめておきます。同社 の共同創業者兼CEOである 成田 海(なりた かい)氏 が中心となって開発した、従来の金属3Dプリンターの常識を覆す高精度と低コストの両立を実現させた画期的な手法です。

3D Architech, Inc. 

《造形方式》 金属塩を含む特殊なゲル(感光性樹脂)を、光造形3Dプリンターで硬化させた「ゲルの造形物」を、脱脂、焼結還元を経て金属造形物へと置き換える。

《超微細造形》 従来の金属プリンター(MEX,BJT)の解像度が100μm程度であるのに対し、10μm以下という極めて微細な構造(マイクロラティスなど)の造形が可能。

《汎用プリンターの活用》 高価な装置を必要とせず、市販の安価な光造形機(SLA/DLP)でも造形が可能。

【珈琲ブレイ句】3D Architechの積層する金属材料は、金属粉末ではありません。ゲル化分子レベルの金属塩を造形するAM技術です。

目指すターゲットは、髪の毛よりも細い構造を組み合わせた「マイクロアーキテクチャ(微細格子構造)」です。10μm単位の極薄の壁や、複雑に絡み合う微細な管路など、他の方式では物理的に不可能な領域を狙っています。

MIMやMEX、BJTは部品を造形するものですが。3D Architechは、単なる「形」を作るだけでなく、金属の微細構造によって熱交換効率や触媒性能などの物理的な限界値を引き上げる金属の「機能」を再定義する可能性があります

現在、造形物は純金属が主流ですが、数種類の金属塩を使うことで合金も可能らしいです。日本人が発明した新技術に期待しています。

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2026年4月15日水曜日

4605低合金鋼の論文を読んで(カーボンコントロール)

ガスアトマイズ4605粉末、溶媒脱脂系バインダーを使ったMIMフィードストックによる焼結体の焼結密度、硬度、強度を特性とした研究論文( 2019年)です。

(99+) The Effect of Powder Loading and Binder System on the Mechanical, Rheological and Microstructural Properties of 4605 Powder in MIM Process

論文の要旨

4605低合金鋼のMIMにおけるレオロジー特性および機械的特性に及ぼすの粉末充填量の影響を調査した。バインダーはパラフィンワックス(PW)、ポリプロピレン(PP)、カルナバワックス(CW)、ステアリン酸(SA)を異なる割合で配合した2種類を比較した。粉末の配合量は、55、60、65vol%の3種の配合とした。焼結した引張試験片について、引張強度、硬度、密度、レオロジー特性を測定した。その結果、粉末配合量の増加に伴い、引張強度、硬度、密度が増加することがわかった。また、主鎖ポリマーの割合が高いほど、最終部品の機械的特性が向上することが観察された。最適な配合は、PW 55wt%、PP 25wt%、CW 15wt%、SA 5wt%の原料に、粉末を65vol%添加した系であった。試験片はMPIF 50引張試験用形状、ヘプタン溶媒脱脂、二次加熱脱脂・焼結(Ar雰囲気)。

【珈琲ブレイ句】粉末配合量が多いほど引張強度、硬度、密度が高くなっているのは納得できます。  一方、PPの割合が多いほど、同様に引張強度、硬度、密度が増加するという結果には注意が必要だと感じました。この主要因は炭素量で、PPの割合が多いほど炭素量が多くなっていることは論文から読み取れます。4605鋼なのにCが1wt%になっているものもあります(増加した残留炭素が0.5wt%程度ある)。 また、引張強度が高くなれば、衝撃強度は低くなっている可能性があり4605鋼の用途としては不適切な可能性があります 

 低合金鋼において、プロセス設計が不十分な結果として生じた「炭素増加」をポジティブに評価するのは、再現性の観点からも非常に危険です。「炭素による強化」を謳うのであれば、本来は「脱脂・還元を完璧に行い、カーボンフリーにした後に、狙った量のグラファイトを添加して制御したデータ」と比較すべきです。現状のデータは「バインダーが抜けきらなかった副作用を、引張強度、硬度、密度の数値向上で正当化している」という側面が強いのではないでしょうか。つまり 「カーボンコントロールに課題がある」という論点が見落とされている?ということです。

いろいろ学べる、すばらしい論文です。論文から二次脱脂・焼結プログラムFig.2を添付しておきます。MIM指南書P127 図4.22と比較してみてください。なぜバインダーPP類が炭素として残留したのか?


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2026年3月30日月曜日

マルチモーダル粉末配合による高タップ密度化

 バイモーダル粉末配合の概念図を見つけたのでアップします。大きな粉末と小さな粉末を配合することで、配合粉末の嵩密度は、それぞれ単体の嵩密度より高くなり、配合比のどこかに最高密度があることがわかります。


【珈琲ブレイ句】この事例は、2種類(バイモーダル)ですが、3種類だとトライモーダルになり「大豆に小豆を混ぜて、その隙間に胡麻を入れる」イメージです。 広義で、2種類以上をマルチモーダル粉末配合と呼んでいます。

ここで、注意することは、1種類には分布があることです。つまり「単峰分布」なので、実際の配合は上図のように単純なモデルではありません。最大タップ密度となる配合比は、実験で見つける必要があります。

関連BLOG:二峰分布混合の威力

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2026年3月29日日曜日

バインダージェット(BJT)の「グリーン体」を科学する

金属AM(バインダージェット:BJT)に関する非常に興味深いレビュー論文*1に目を通しました。MIM屋にとって、金属-BJTは「金型のいらないMIM」として親しみやすい反面、その「グリーン体」の脆さや密度のバラツキに頭を悩ませることも多いはずです。今回は、論文から見えた「グリーン体造形の科学」を、実務の視点で表にまとめたので共有します。

参考文献*1:“Binder jet additive manufacturing: a review of modelling approaches and experimental observations on green part printing” ,Mohan Sai Ramalingam , K. N. Chaithanya Kumar , Shashank Sharma , Sameehan S. Joshi & Narendra B. Dahotr、(Virtual and Physical Prototyping, 2025)


【珈琲ブレイ句】 結論は、「品質はグリーン体で決まる」です。MIMでも同様ですが、後工程(脱脂・焼結)が高度な工法であっても、成形体(グリーン体)の品質が悪ければ、最終製品の密度も精度も上がりません。

BJTにおけるグリーン体の品質は、大きく分けて以下の3つの相互作用で決まります。

1. 粉末特性: 粒径分布と形状(球形か否か)。

2. バインダー特性: 粘度と表面張力(染み込みやすさ)。

3. プロセス: 層の厚みと液滴の間隔、そしてヘッドの移動速度。

特に興味深いのは、バインダー液滴が粉末床に衝突した瞬間、単なる「染み込み」だけでなく、「慣性による広がり」が初期の解像度を支配するという点です。

2. 計算モデリング(DEM vs CFD)の使い分け

論文では、目に見えないミクロな挙動を解明するために2つの手法が挙げられていました。

DEM(離散要素法): 粉末一つ一つの「粒」を計算します。ローラーで粉を敷く際の「充填のムラ」を予見するのに適しています。

CFD(流体解析): バインダーという「液」の動きを計算します。毛細管現象で粉の隙間にどう浸透するかを可視化します。

最近ではこれらを組み合わせた「マルチフィジックス解析」が進んでおり、現場の「勘」が理論で裏付けられつつあります。

やはり、「《ミクロ》シミュレーション」と「《マクロ》パラメータ設計と検証」の合わせ技で、技術の差別化できることがわかりますね。

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2026年3月24日火曜日

世界のトップレベル「INDO-MIM社のBJT技術」から学ぶこと

INDO-MIM社のBJT(バインダージェット)技術は、間違いなく世界トップレベルにあると感じています。今回、「なぜBJTで相対密度99%を実現できたのか」という切り口から、その驚異的な強みの理由を考察しました。

  • 理由1 ガスアトマイズ粉末の内製化。ASBAnti-Satellite Blower)技術によるサテライトのない真球状粉末の実現。
  • 理由2 マルチモーダル粉末配合による高タップ密度化。関連BLOG:二峰分布混合の威力
  • 理由3 濡れ性・浸透性を向上させた最新バインダーの採用。
  • 理由4 「超音波リコーター」と「チャンバー内の温湿度・静電気管理」による、積層段階での充填率(グリーン体密度)の極限化。
  • 理由5 工具鋼の焼結におけるSSLPSSupersolidus Liquid Phase Sintering:超固相線液相焼結)の採用。

【珈琲ブレイ句】金属BJTの最大のネックは、微細粉末の流動性の低さです。そのため、通常はMIM用より少し大きめの粉末が使われますが、結果として焼結密度が上がりにくいという潜在的課題を抱えています。

INDO-MIMは、この課題を見事に解決しています。超音波を用いたリコート手法は、粉末の流動性を補う最善策と言えるでしょう。もちろん、粉末自体の「サラサラ化」も不可欠です。究極の技術を目指すエンジニアたちが互いに切磋琢磨する姿には、同じ技術者としてワクワクさせられます。

この知見は当然、本業のMIMにもフィードバックされています。後発でありながら、なぜ彼らが世界の頂点に立てたのか。その加速度的な技術開発力は、日本の製造業も大いに見習うべき点があるはずです。Japan is Back


《広告》ここで少し宣伝をさせてください。私は固体潤滑粉末を0.3wt%混ぜて流動性を向上させるBJT関連特許を持っていてます。現行のBJT装置でも効果(不良率の低減)が期待できます。 現在、社会実装に向けたパートナーを募集中です。ご興味のある方は、ぜひ弊事務所までお声掛けください。

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2026年3月10日火曜日

焼結に使うガスと焼結体品質のまとめ

 MIMの焼結工程における雰囲気と焼結体の密度、および特徴(注意点)をまとめておきます。


【珈琲ブレイ句】〔◎:優れている、〇:◎より劣る、△:普通〕
 Arガスによる焼結体の密度を△としていますが、バッチ式真空焼結炉でArが一番使われていると思います。やはり不活性ガスは扱いやすいのです。導入ガスに期待する効果の代表的なものは、ステンレス鋼であればCr蒸発を抑えるための圧力制御になります。どうしても密度を上げたい方は、密度改善策としてAr+H2が一番密度が高くなるという実験報告(資料1)があります。
 H₂ガスは、酸化物還元(MO + H2 → M + H2O)、粒界拡散促進効果(ネッキング増加、高密度化)が期待できますが、表面の脱炭に注意が必要です。また、可燃性ガスなので排気で燃焼させる必要があります。
 N₂ ガスは、安価で使いやすいですが、炭窒化物形成や固溶(N2 → 2N)作用があるので、焼結体の客先スペックとのすり合わせが必要になる場合があります。逆に窒化物生成や固溶強化を利用する新しい方法も提案できるかもしれません。
 真空は、一般的に焼結密度が高くなる方向なので◎ですが、△は、ステンレス鋼のCr蒸発が気泡として焼結体に閉じ込められる事例報告から引用しています。対策として、真空 + 分圧H2で焼結できれば、高密度で最大級の耐食性を有するステンレス鋼が得られます。

(資料1)Effect of Sintering Temperature and Atmosphere on Corrosion Behavior of MIM 316L Stainless Steel (2011)

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2026年3月8日日曜日

【MIM指南書(増補・セルフ)】Cr量の低下 P138

  【MIM指南書(増補・セルフ)】P138 「Cr量の低下」章へ、下記文章を追加します。印刷してP138とP139の間に貼り付けてください。


使用するガスは、アルゴンガスの他に水素ガスを使う方法がある。メリットは、水素の還元能力に加え、水素原子は小さいので金属の結晶格子内に固溶されるか、焼結体表面から系外へ放出されポアとしての残存が少なく焼結密度が高くなる可能性がある。デメリットは、CrMo鋼等では表面が脱炭し疲労強度が低下する場合がある。また、水素は可燃性ガスのため、炉外排気路に燃焼装置を取り付け完全燃焼させる必要がある。

また、窒素ガスを使う場合の注意点として、窒素ガスは不活性として扱われるが、焼結の高温域(1000℃以上)では多くの金属に対して「反応性ガス」あるいは「合金元素」として振る舞う。17-4PHを純窒素下 1,350°C 前後で焼結した場合、表面に窒化物(Cr2N)が形成され、耐食性が低下した事例がある。また、機械的特性も変化する。メリットは、窒素分子が原子状に解離し結晶格子内に固溶されるか、焼結体表面から系外へ放出されるため原子の大きなアルゴンよりポアとしての残存が少なく焼結密度が相対的に高くなる可能性がある。

また、アルゴン、窒素と水素の混合ガスも使われており、不燃性混合ガスとして「97%Ar+3%H2、96%N2+4%H2」などが使われている。


【MIM指南書(増補・セルフ)


2026年3月4日水曜日

製法が異なるSKD11粉末による二峰分布配合の効果

 私の古い論文ですが共有化します。アトマイズ製法が異なるガスアトマイズ粉末と水アトマイズ粉末を二峰分布配合した研究開発です。

開発の目的:焼結が難しい工具鋼SKD11の品質(寸法、分散、溶け、崩れ、密度、硬度)に対するロバスト性能を向上させることでフルチャージ焼結を実現させる。

《粉末》  水アトマイズ2種とガスアトマイズ1種の配合比研究

《結果》

《結論》
 水アトマイズ粉末の平均粒径をガスアトマイズ粉末よりも小さく設定し、両者の配合比を50:50~75:25とした二峰分布混合粉末を用いることで、焼結温度のバラツキに左右されにくい安定した品質の合金工具鋼(SKD11)を得ることに成功した。

 ポイント:圧力制御のガスを流すためタイトボックス内の温度バラツキは±10℃程度あります。図4の赤丸の配合であれば、この炉内温度の誤差幅20℃であっても、密度誤差幅が0.15g/cm3に収まっています。高炭素の工具鋼であっても高密度で溶けも発生しないフルチャージ生産が可能になりました。

引用論文:”Development of sintered SKD11 compacts with High Robust performance by Metal Injection Molding” Shoji Hachiga, Yoshihiro Shiina
特開2004年052051 金属焼結体の製造方法及び金属焼結体

【珈琲ブレイ句】一般的に「二峰分布(バイモーダル)配合」の採用は、寸法精度や焼結密度の改善に寄与します。
 本研究の真髄は、「二峰分布配合の効果」だけでなく、さらに「焼結特性の異なる粉末の組み合わせ」にあります。ガスアトマイズ粉末と水アトマイズ粉末では、焼結過程におけるネック形成や原子拡散のタイミング・速度、および液相温度が異なります。この焼結特性の異なる2種材を複合させることで、焼結プロセスにおいていわば「アクセルとブレーキ」を同時にコントロールする状態を作り出し、焼結品質の分散を最小化することに成功しました。これにより、かつて課題であった「フルチャージ時のSKD11の溶け」という致命的なトラブルの解消に成功しました。また寸法精度も±0.22%になりました。 付け加えると、一次脱脂は溶媒脱脂等による完璧な炭素コントロールが必要です。

2026年2月26日木曜日

Taguchi-MADMハイブリッド法を用いた3l6LステンレスMIMの最適化

タグチメソッド関係の論文を共有します。

3水準系 L27直行表を使い、グリーン体の3つの特性値(曲げ強度、外観品質、密度)、6つの制御因子(射出圧力、射出温度、粉末充填率、金型温度、保圧、射出速度)のパラメータ設計です。

表題にあるように、この論文の特徴は、MADM手法(多属性意思決定手法)により、3つの特性値を相関係数等を用いた評価により単一の「総合品質スコア(OQS)」に変換しているところです。変換法としてはSAW(Simple Additive Weighting)法が最も適していると判断されています。その結果、3つの特性値の重み付けは、曲げ強度35.7%、外観品質32.2%、密度32.1%とほぼ均等なっています。

【条件】MIMフィードストック:GA-SUS316L、ポリエチレングリコール73 wt%、ポリメタクリレート25 wt%、ステアリン酸2 wt%

【結果】制御因子の水準と最適値は次の通り。


    寄与率順に並べ替える


文献:「Optimization of the Metal Injection Molding Process with 3l6L Stainless Steel Powder and Influence Analysis of Process Parameters Using the Taguchi-MADM-Based Hybrid Method」、Ryong Hui Ri and Won-Chol Yang、ACS Omega 2025, 10, 985−994

【珈琲ブレイ句】近年(2025年)発表の意欲的な実験です。3つの特性値をひとつにするためにNADAMの5つ(SAW, WPM, TOPSIS, GRA, RSR)の中でどれが最適かを見つける研究が論文の半分以上を占めています。
 実験結果の考察をすると、気になるところがひとつあります。それは、粉末充填率は3水準64.5Vol%が一番良いので、さらにその先に最適値が存在するということです。さらに寄与率は4.91%なので、粉末充填率を大きくしても、総合品質に大きな影響は与えず、技術的に収縮率は小さくできるので寸法精度が向上することが期待できます。これは品質工学の転写性を使えば設計できますね。
 論文を読み進めるうちに、グリーン体から一歩進んだ「シルバー体」の世界はどうなっているのだろうと知的好奇心を強く刺激されました。未知の領域への期待を感じさせる素晴らしい論文でした。大変勉強になりました。

2026年2月24日火曜日

PIM専用POMコポリマーFF520は何が凄いのか

 一般的にPOMのコポリマー(ジュラコン)は、ホモ(デルリン)より成形性は良いのですが、PPやHDPEと比較すると相対的に成形性が良くありません。しかし、PIM専用のFF520はその成形性(流動性)の課題を解決しています。さらに、グリーン体強度とのバランスも考えて開発されていることがわかります。流動性と靭性の散布図を描いてみました。


【珈琲ブレイ句】PIMバインダーとして使用するPOMは、成形を容易にするために粘度は可能な限り低くしMFRを高め、焼結前の成形品の損傷を防ぐために靭性(シャルピー衝撃強度)は可能な限り高くする必要があります。FF520は、MIM結合材で使われるPPやHDPEより靭性と流動性が高いのです。

 POMの一次脱脂は触媒脱脂が主流ですが、カタログでは加熱脱脂(500℃,5℃/min,N2,残渣ゼロ)も可能と書いてあります。(注意:加熱脱脂では、実際のPIM脱脂焼結品での検証は必要だと感じています。)BASF系の触媒脱脂用MIMフィードストックであれば、どんどん展開できますね。

◆開発のポイントを推察する◆

①ギリギリまで低分子化:低分子にすれば流動性は向上します。一方強度は低下するので、PPとHDPEを目標ターゲットにして低分子量成分をギリギリまで増やしている。

②分子量分布のナロー化:さらに、全体の分子量分布をシャープ(ナロー)に制御することで、高い流動性を確保しつつ、強度を支える「絡み合い」に必要な最低限の分子鎖を維持している。  

③ホルムアルデヒド対策:流動性が高いので低温で混錬し熱の影響を最小化する。酸化防止剤で安定化させるが、高せん断による局所的高温部で発生するホルムアルデヒドは、捕捉剤(ホルムアルデヒド・スカベンジャー)で化学的に吸着させる。

推察が間違っていたらごめんなさい。

それにしても旭化成ケミカルズの開発力は凄いです!! 頑張れ日本!!

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2026年2月13日金曜日

田口メソッドを用いた金属射出成形プロセスのパラメータ最適化

近年のMIMに関するタグチメソッドの事例を共有します。

《表題》田口メソッドを用いた金属射出成形プロセスのパラメータ最適化

《実験仕様》

制御因子:4因子(射出温度A、金型温度B、射出圧力C、流量DTable

直交表 L81

特性値:2つ(成形体欠陥Table2、成形体密度)

バインダー:PEG,PMMA,SA

粉末、粉末量:水アトマイズSUS316L62Vol

《結果》

成形欠陥に対する最適条件は、射出温度:150℃、金型温度:70℃、射出圧力:550bar、流量:15cm³/sA1B2C0D1

成形密度に対する最適条件は、射出温度:160℃、金型温度:70℃、射出圧力:650bar、流量:10cm³/sA2B2C1D0

 文献:「Parametric Optimization of Metal Injection Moulding Process Using Taguchi Method」Tan Koon Tatt, Norhamidi Muhamad, Che Hassan Che Haron, Abu Bakar Sulong, INTERNATIONAL JOURNAL OF INTEGRATED ENGINEERING VOL. 12 NO. 4 (2020) 210-219

【珈琲ブレイ句】この事例はL81という巨大な直交表を使い、4つの因子のすべての交互作用を研究している意欲的な実験です。成形体の欠陥と密度を特性値として、各々の最適条件を示しています。 交互作用の影響を考慮して選んだと思われますが最適値の選定には疑問があり、私ならA3(射出温度160℃、B3(金型温度70℃)を選びます。

 興味深いのは、特性値とする成形体欠陥の重み付け「Score(表2)」です。この欠陥の重みの技術的根拠が知りたいところです。 

 また、表題に「 Using Taguchi Method」とありますが、この事例は実験計画法とタグチメソッド(品質工学)が混在しています(海外論文に多い傾向)。品質工学では交互作用の研究は行いません。 MIMの製造現場では、実用的で再現性のあるベターな最適条件が必要なので、タグチメソッド(品質工学)で開発された混合系直交表L18が広く使われています。

 いずれにしても、すばらしい論文で、たいへん勉強になりました。

関連BLOG:品質工学と実験計画法の違い

D2179

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2026年2月7日土曜日

なぜm-MIM射出成形機はバリが出ないのか

 Sodickの「m-MIM射出成形機」はバリが出ないと公言しています。その理由をまとめておきます。結論から先に書いています。

《バリが出ない理由》

 m-MIM射出成形機は、プリプラ式で、射出量が正確だから。

 プリプラ式:射出量=スプルー+ランナ+成形体+バラツキΔ微小

 インライン式:射出量=スプルー+ランナ+成形体+バラツキΔ有

 バラツキΔ=バリ


《なぜプリプラ式は、正確な量をバラツキなく射出成形できるの?》

プリプラ式は、スクリューと射出シリンダが独立していて、インライン式の3点セット(逆止リング)が無いため正確に射出成形ができる。 



プリプラ式(下図)での逆流防止には逆止弁を使いますが、Sodickでは逆止弁の機能を前後可動スクリュー先端で行っており、さらに逆流防止機能を向上させている。



《インライン式3点セットの特徴》

「計量工程」と「射出工程」で「逆止リングが少し移動する」ため、成形材料の逆流を完全に防げないという構造上の特徴があり、さらに、成形を続けると逆止リングとスペーサーが摩耗して、逆流が多くなっていくという管理課題もある。


【珈琲ブレイ句】決してインライン式を否定するものではありません。プラスチック成形ではインライン式の射出成形機が90%以上で主流です。プラスチックは成形性が良く、材料自体の圧縮性が高いため、3点セットの特徴(逆流のバラツキ)も大きな問題にはなりません。

一方、MIMフィードストックは60〜70vol%が金属粉末であり、プラスチックに比べて圧縮しにくいため、射出量のバラツキを材料側で吸収できません。特に小さなMIM品の場合には、その傾向が顕著です。

 関連BLOG:MIMフィードストックにバラス効果はあるのか?


《主流であるインライン式射出成形機の欠点を最小化する3つの方法》

①成形品の大きさに合わせた射出成形機を使う

 小さい部品には、小型の成形機(大きさに合わて相対的精度上げる)

 関連BLOG:なぜマイクロMIMは専用の小型射出成形機を使うのか

②逆止リングの外径寸法設計の最適化

 関連BLOG:成形品重量ばらつきを与える「計量不安定因子」

 関連BLOG:プリプラ方式の射出成形機が改善された

③3点セットの寿命管理(ショット数管理で逆止リングとスペーサーを交換する)


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2026年1月28日水曜日

高粉末充填率の課題(その2)

 前回のBLOGで「高粉末充填率(バインダー最少化)にすれば、MIM品質(転写性、密度、強度)は向上します。」と書きました。この意味を二つの図で説明します。

①バインダー量には最適値があり多くても少なくても精度が向上しないことがわかっています。下図の散布図では、バインダー量が40Vol%近傍に最適値があるという結果になっています。この散布図はクリティカルローディング値が35Vol%程度の粉末の事例だと推察しています。

②高粉末充填率(バインダー最少化)の前提条件として「高タップ密度」がセットです。
もし、高タップ密度の粉末を用意出来たら、下図の様に逆放物線は左下にシフトしていくと考えています。その推定図を添付しておきます。

課題1:どうやって高タップ密度の粉末を作るのか。
課題2:低バインダー量になるほど射出成形が難しくなる。その打開策は何か。

この課題のヒントは、このBLOGのどこかに書いてあります。

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2026年1月27日火曜日

高粉末充填率の課題

 高粉末充填率(バインダー最少化)にすれば、MIM品質(転写性、密度、強度)は向上します。しかし、大きな課題があります。それは「成形が難しくなる」ことです。バインダー量が少なくなればフロー値Qは小さくなり成形欠陥が多くなることがわかっています。図8


この論文からの学びは2つ。成形不良を低減させるには、高粉末充填率(バインダー最少化)になるほど、①金型温度を上げ、②保圧を高くすること。

文献:「金属粉末射出成形(MIM)における成形欠陥におよぼす成形条件,バ インダ添加量,バインダおよび粉末特性の影響」三浦 立、遠 藤 保夫、斑 目 広和、高 森 清次、「粉体および粉末冶金」第42巻 第3号 1995年3月


【珈琲ブレイ句】30年前、粉末充填量は45 vol%程度が一般的でしたが、今や72 vol%を実現できる段階に到達しており、まさにブレイクスルーと言える進化を遂げています。粉末の製造や配合技術はもちろん、それらを支えるバインダーの着実な進化が、この飛躍の不可欠な要素であったことは言うまでもありません。

MIMフィードストックが究極にまで高まった今、次なる焦点が射出成形における転写性の技術開発(成形条件のパラメータ設計)であることは、論を待ちません。

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2026年1月24日土曜日

品質工学における「予想通り」が意味する二つの側面

 「品質工学のパラメータ設計の結果が予想通りだった」という言葉を耳にすることがあります。この言葉には、実は対極にある「二つの意味」が含まれています。

①ポジティブな側面:熟練者の知見を「数値」で検証

ベテラン技術者が長年の経験で培ってきた「勘やコツ」が、SN比という客観的な指標によって裏付けられたケースです。

技能から技術へ: 「なんとなく良い気がする」という属人的な技能を、誰もが活用できる組織の共有資産(技術)へと変換できたことを意味します。

確信を持った意思決定: 経験則にデータという根拠が加わることで、自信を持って次工程へ進めるようになります。


②ネガティブな側面:制御因子の選択が「守り」に入った結果

設計者が「おそらくこれが最適だろう」と予見できる狭い範囲内だけで実験を行ってしまったケースです。

機会損失: パラメータ設計の醍醐味は、常識を疑うような「意外な組み合わせ」から高いロバスト性を見つけ出すことにあります。

改善のヒント: 予想通りの結果しか得られなかった場合は、制御因子の再検討や、既存の水準範囲を超えた「外側」へのシフトを検討すべきです。慣習に縛られない設定こそが、大きな技術突破(ブレークスルー)を生みます。

《裏技》もし、見直したい因子が一つだけなら、最大側へ水準をシフトさせた3水準による6行の実験を行い、元のL18実験(18行)結果の6行を入れ替えて分析する方法もあります。さらに、2水準が同じで1水準だけシフトさせたのなら2行の追加実験でもOKです。


【珈琲ブレイ句】この対極にある①と②は、どちらも次の一手を見極めるための非常に有益なシグナルです。さらに、パラメータ設計の有益性を追加しておきます。

◇「平均値」ではなく「バラツキ」を制御できる: 目標値に合わせる(感度)だけでなく、外乱(ノイズ)に対して動じない条件を見つけるという考え方は、量産現場では最強の武器になります。

◇再現性が高い: 実験計画法DOEと異なり交互作用の研究は行いません。交互作用をほぼ均等に交絡させた混合系L18直交表を使うことで、実験室の結果を、工場(市場)で再現されやすくしています。

◇手戻りが減る: 「作ってみたらダメだった」という後追いの対策ではなく、上流で「壊れにくい組み合わせ」を決めてしまうため、開発期間が短縮されます。

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2026年1月20日火曜日

三峰性粉末80VOL%フィードストックの流動性

 ナノ、サブナノ、およびマイクロ粒子で構成される三峰性粉末80VOL%のフィードストックの流動性データを、2026年1月17日土曜日のキャピラリーフローに重ね比較しました(黄色)。

粉末は、アルファ酸化鉄マイクロ粉末をボールミル(with アルコール、ジルコニアビーズ)で粉砕し、粉砕紛(サブナノ粉末)とスラリー(ナノ粉末)に分け、水素還元にて二峰性粉末を製造する。その二峰性粉末25%と球状Fe粉末(5~10μm)75%を配合し、バインダー(PW75%+SA25%)と混錬して三峰性粉末フィードストックを製造する。

引用文献:“Study of solid loading of feedstock using trimodal iron powders for extrusion based additive manufacturing”、Heungseok Oh , Taehyeob Im1, Jungsuk Pyo, Jai‑sung Lee & Caroline Sunyong Lee、Scientific Reports   (2023) 13:4819

【珈琲ブレイ句】この三峰性粉末のフィードストック研究は、MEX用のフィードストックが目的ですがMIMにも展開できる内容です。論文では、MEXに最適な金属粉末充填率は74VOL%としています。これはノズルからの流出速度(射出速度)が、低いためではないかと推察しています。

MIM用バインダーにするためには、WAXの半分程度を結合材に置き換える必要があるので流動性は悪化し、多少グラフの傾きが小さくなりますが、MIMは高速射出なので問題なく射出成形できると思われます。射出成形のせん断速度(LOG)は、4~5 (1/s)なのでグラフの延長線上の右端になります。

 『ナノ、サブナノ、およびマイクロ粒子で構成される三峰性粉末であれば、金属粉末充填率80VOL%も可能である。』ということを気づかせてくれる素晴らしい研究論文です。

D2153

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2026年1月18日日曜日

世界の 金属MEXフィラメント一覧表(汎用品のみ)2026

世界の 金属MEXフィラメントの中から、MEX装置バンドルの専用品を除いた汎用品を一覧表にまとめてみました。



 【珈琲ブレイ句】標準的存在のBASF仕様の展開と、MIMの元祖である溶媒脱脂の応用が主流であることが読み取れます。加熱脱脂も存在していますが、Desktop Metalのバンドル材では溶媒脱脂用と加熱脱脂用の2種類が用意されています。その理由を推察する必要がありそうです。

2026年1月17日土曜日

粉末充填率72vol%は実現できる

 【珈琲ブレイ句】MIMのワックス系フィードストックにおける金属粉末充填率(PL:Powder Loading)を4水準(60, 64, 68, 72vol%)で比較した研究論文*1では、PL68vol%が最適であると結論付けられています。その理由は、機械的性質、焼結体密度、焼結体硬度のすべてにおいてPL72vol%が最高値を示しているものの、PL68vol%の方が「成形不良率が低い」という点を重視したためです。

しかし、私はPL72vol%を最適値とすべきだと考えます。論文内のキャピラリーフローデータを両対数グラフ(下図)にしたところ、PL72vol%においても理想的な擬塑性流体であることが確認できました。また、せん断速度100 1/s  以上の領域で成形限界粘度の指標である1000 Pa⋅s を下回っており、成形性は十分に確保されていると判断できるからです。

参考までに、成形上級者向けのBASF Catamold 17-4PH(180℃)のグラフを重ねてみると、粉末充填率72vol%(ワックス系)は、Catamold 17-4PH(180℃)と、同等以上であることがわかります。

確かに成形は簡単ではありませんが、「成形条件のパラメータ設計」を行いロバスト性能の高い最適条件を導き出していれば、研究論文の結論は変わっていたはずです。

キーワード:高CL化=高精度化、品質工学(タグチメソッド)=パラメータ設計

*1 「Effect of powder loading on metal injection molding stainless steels」/ Yimin Li, Liujun Li, K.A. Khalil / Journal of Materials Processing Technology 183 (2007) 432–439

粉末:17-4PHステンレス鋼、ガスアトマイズ粉末、球状、d10 = 5、d50 = 12、d80 = 22μm、TD=4.70g/cm3、バインダー:65%PW + 30%EVA + 5%SA、混錬:175℃、横型50トン成形機(最大成形圧力160bar)、金型4種

D2153

2026年1月15日木曜日

規格内でも品質に差があるとは?

LCL下限規格とUCL上限規格の範囲内にある3つのミカンはすべて合格品です。どれも同じ品質でしょうか? 

引用:https://sixsigmastudyguide.com/taguchi-robust-design/

このミカンの事例は、「規格内でも品質に差がある」ことを直感的に説明してくれます。

本家の品質工学では、損失関数として次の図のように定義しています。


引用:開発設計現場で使う品質工学(5)過剰品質の防止や安全の設計(損失関数)、長谷部光雄、日本ゴム協会誌、第88巻 第12号(2015)

【珈琲ブレイ句】従来の品質管理でもCpk工程能力指数をバラツキ改善の尺度にしていますが、品質工学は「損失コスト」を計算式にいれて、規格内であっても逆放物線の「損失L」を内包していると考えるところが秀逸なのです。

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2026年1月14日水曜日

マルチ3Dプリンター「3DCeram のM.A.T.」を掘り下げる

2026年1月、新東工業はドイツのBosch Advanced Ceramics社を買収しました。同社はセラミックや金属の精密積層部品を受託製造する企業です。2017年に買収した仏3DCeram社(3Dプリンター製造)と合わせ、今回の買収により、製造の4Mすべてをグループ内で網羅する垂直統合型の体制が完成したことになります。

4M(Man,Machine,Material,Method)

 【珈琲ブレイ句】この機会に改めて、3DCeram社の「 M.A.T.(Multi Additive Technology)」という万能(マルチ)3Dプリンターを復習しておきます。

何が万能(マルチ)なのかというと、積層させる材料として3種類 ①フィラメント ペレット ペーストを可能とするアタッチメントが用意されていること。 さらに、除去加工も可能な4役のマルチ・マシンなのです。

小さい体ですが、水冷方式による温調を採用し、XYZ軸にリニアガイドを使った本格的な高剛性・高精度設計の機械です。 それにしても、エンドミル加工をしている姿には感動します。これにより高密度・高精度化が可能になります。

積層


加工

新東工業HPのYouTubeより

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2026年1月8日木曜日

金属粉末配合量と粘度の関係

 「金属粉末配合量VS粘度」の散布図を作りましたので共有化します。粘度はキャピラリーフローデータです。単位変換表も付録で付けました。

【珈琲ブレイ句】粘度は望小特性ではなく望目特性だということを表現したくて作りました。世の中のMIMフィードストックは、理想の粘度200~600Pa・sを満足しています。散布図左の離れ小島3点はアルミ合金です。実際の射出成形では、ワックス系は温度が低め、ポリマー系は温度を高めに設定し、射出速度50%でせん断速度は10^4(1/sec)程度と計測条件10^3(1/sec)より一桁速いので図の粘度より低くなっている(by擬塑性流体)と推察しています。つまり、射出成形条件で、かなりコントロールできるということです。ただし、金型方案設計は最適化(経験則)する必要はあります。

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2026年1月7日水曜日

L9直交表実験を使った論文からの学び

L9直交表を使ったMIMフィードストックの粘度を特性値にした論文を読んでみました。 かなり「?」な部分が多く、それが逆に学びになりました。

 参照文献:「田口実験計画法を用いた金属射出成形(MIM)のための高品質原料調製」「Quality Feedstock Preparation for Metal Injection Molding Using Taguchi Design of Experiment」  Nurun Nahar, Altab Hossain, Imtiaz Ahmed Choudhury, Azuddin Bin Mamat


《実験概要》 

特性値:粘度viscosity (pa・s)  (望小特性)

因子:粉末配合量PC(58,62,66VOL%)、混錬温度TM(120,130,140℃)、混錬速度Ns(35,43,51rpm)

組成:純度99.80%、粒子径19.82µm、相対密度2.699g/cm3のアルミニウム粉末、HDPE/PW/SA=50/46/4の比率

粘度測定方法:Physica alpha分析レオメーターMCR 301(Antom Paar GmbH)

結果:


【珈琲ブレイ句】「はてな?」な部分を考察してみました。

①粘度が望小特性に疑問あり。

②粉末配合量PCは、wt%ではなくてVol%の間違いだと思う。

③3水準系L9の3列には1列と2列の交互作用が現れるけど大丈夫かな? 

④そもそも田口玄一先生の実験計画法と品質工学を混同しているように感じる。

⑤粘度が低すぎる。一桁小さいのはなぜ?

《考察》

◆粘度を望小特性にしたら、粉末配合量が少ないほど必ず良くなる。MIMコンパウンドの粘度は、低すぎても高すぎても良くない。 グリーン体を焼結したシルバー体が最終品質であることを十分考慮した実験を行いたい。

◆実験計画法としてL9の分散分析とF検定をしてみました。



1列(PC:粉末配合量)と2列(TM混錬温度)の交互作用が現れる3列(Ns混錬速度)は誤差レベルでしたので(交互作用もないということ)、誤差にプーリングして分散分析表を作り直した結果は、粉末配合量だけが高度に有意になり、寄与率は93.5%でした。粘度が特性値なので、当然の結果ですね。論文では、粉末配合量PCが一番小さい58Vol%が最適としていますが、この結論は?です。

◆なんで粘度が低すぎるのか、仮説を3つ考えてみました。

①粘度の測定器が、振動式の粘度計のため振幅は非常に小さく粉末同士が噛み合う構造粘性を十分に捉えきれず、サラサラした液体部分(バインダー)の挙動を強く拾ってしったのではないかと思われます。

②MIMフィードストックのように固形分が多い材料(60 vol%など)を振動させると、センサーの表面と粉末の間にバインダーだけの薄い層ができてしまい、 センサーはこの滑りやすい層の抵抗を測ってしまうため、実際のフィードストック全体の粘度よりも、一桁低い数値が出てしまった。

③振動によるチキソトロピーの誘発:MIM材料は、刺激を与えると一時的に粘度が下がる性質(チキソトロピー)を持っているので、連続的な振動を与えることで、粉末のネットワークが壊れ、本来の成形時よりも不自然に流動性が高まった状態を測定している可能性がある。

MIMの粘度測定は、キャピラリー粘度計を使うべきでした。

いろいろ勉強できて、ありがたい論文でした。

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