2019年12月31日火曜日

MIMフィードストックの再生材について考える

再生材とは、スプール、ランナをもう一度使うリユース材料のことである。この再生材を発生させないホットランナーがあるが、ほとんどのMIMメーカーは再生材を使っている。その問題と注意点をまとめる。
《問題1》流動特性がバージン材の特性から変化する(粘度が下がる方向)。そのため成形条件を調整する必要がある。その理由:加熱冷却の温度履歴による分子鎖切断、高い圧力・可塑化スクリュウ等による剪断による低分子量化
《問題2》再生材を使った成形品は、焼結寸法が大きくなる。その理由:低分子ワックス等の蒸発揮散により実質バインダー量が少なくなり収縮率が小さくなる。

どうすればよいのか
①再生材とバージン材を配合して量産に使う。その配合比は、その会社の金型方案設計に依存する。粉砕混合あるいは再混練混合。
②ホットランナーにして、再生材を造らない、不良成形体も捨てる。
③再生を繰り返してもバージン材と同じ品質が再現される材料を開発する。

【珈琲ブレイ句】
こんな特許を見つけた、『目的:バージン材、再生材であっても流動性に変質の少ないMIM用原料コンパウンドを得る(特開平8-104903川崎製鉄株式会社)』つぎの方法を使うと再生材の粘度がバージン材と変わらない。その方法は、『混錬した後に、温度を下げ粘度を10000poise以上で10分以上混錬する。』 理屈は「再生材から抽出した粉末はバージン材から抽出した粉末に比較してタップ密度が高くなっていることがわかった。しかもこの変化は定量的にもコンパウンドと粘度変化の主原因と考えるものであった。」とある。


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2019年12月25日水曜日

究極の高精度MIMのための課題を考えた

高精度MIMの目指すべき理想機能を明確化して日々研鑽することは重要である。下の3つの課題を克服できた時、究極の高精度MIMが完成する。

課題1.フィードストックが限界粉末量(最小バインダ量)であること
課題2.臨界粉末量のとき粉末(球体)は点接触するが、射出成形できる最低限の界面活性被膜(ナノ被膜、ナノ粉末)を有し、
課題3.この被膜は脱脂中(900℃まで)に揮散し球体粉末を完全に金属接触させることができる。それ以降粉末のネッキング・焼結へと移行させる。

これらができたとき、収縮率は最小化し精度は最大化する。バインダーの種類に依存しない。


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2019年12月22日日曜日

SS系バインダーの話し

 私がSS系バインダーと呼んでいるものは加熱一次脱脂工程を省略してMIM用真空脱脂焼結炉(SHIMADZU炉)を使い「1工程」で「一次二次脱脂・焼結できるフィードストック・バインダー」のことである。つまりこの「1工程」が「SS:シングルステップ」の語源である。この呼び名は、1997年代に仲間内で使っていたが、後日、登録商標出願されており、正式には「シングルステップシステム®」*1とのことである。こちらは「POM系樹脂バインダー」と同義である*2。
 一方この流れとは別に、SS系バインダーが存在する。それは、第一セラモのフィードストックである。ほぼ同年に特許出願されており、POMを使わない独創的なものである*3。請求項の最大の売りは「自社合成した複合アクリル系樹脂」を採用したところ。さすが製薬会社の流れをくむ会社だけあって化学技術力がある。 このように「SS系バインダー」はPOM系樹脂バインダーだけではない。 どちらも使ったことがあるが、品質では甲乙つけがたく、どちらにも長所短所がある。

*1 現在はIHIの商標です。→2023年5月に確認するとすでに放棄されていた。
*2 POMを90%使っているBASF法は土俵が違う別物です。
*3 現在は、脱脂変形低減目的で少し?POMが入っている特許も持っている。

《おしらせ》
勝手ながらSS系バインダーの呼び名を次の様に(勝手に)改名します。2020/06/24
三段階順次加熱脱脂法(Three-step sequential thermal debinding)
略名:3-STD法

2019年12月19日木曜日

バインダー量と射出成形性を体感する

 手動式の射出成形機INARIで試験片を成形している。やはり体で感じることは良いことだと実感する。

 最初の失敗は全く成形できないことだった。原因のひとつは限界粉末量(Critical Solid Lording) を追求するあまりバインダー量を絞ったため、全体重を掛けて射出しても金型ランナー部でショートした。不本意であるがバインダー量を増やしていき、40vol%まで増やさないと手動で射出成形できない、残念無念だ。でも、腕から伝わる材料が流れる感覚は貴重な体験である。(限界粉末量は諦めていません)

 来年は、MFRメルトフローレイトで粘度を測定する。構成は、島津製万能試験機に手作り治具(200Vヒーター内蔵)を置いて、「なんちゃってMFR」を試行する予定である。いつものようにいろいろ失敗すると思われるが・・楽しみである。

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2019年12月18日水曜日

POM系樹脂バインダーを作ると目が痛くなる

今大学で、POMを使ってMIMフィードストックを作っている。POM君の困ったところが2つある。それは、PPやPEと比較して溶けづらいところ。もう一つは、溶けたときに多少ガスが発生する。このガスは「ホルムアルデヒド」なので目が痛くなる。大量に吸い込むと危険だ。ただこれは、溶解温度が少し高いのと、少量短時間の実験なので局所排気設備を準備していないという程度の悩みである。それにしてもこの超高流動性POMのガス臭は異常だ。
《追伸メモ》POMにおいて、必ず上記悪臭が発生するものではないようだ、190℃の混錬でPOM単体では悪臭は発生しなかった。さらに高温側で発生するのか、他の材料、樹脂との反応で発生するのか・・検証は続く・・(2020/05) 
悪臭の原因がわかりました。温度がPOMの熱分温度の上限を超えたため。設定温度は200℃にしていても、熱電対とヒーターが離れているため、ヒーター近傍が高温になったと考えられます。余熱時間を十分確保することで発生を抑えることができました。2020/06/24


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2019年12月17日火曜日

PP-PE系樹脂バインダーはPOM系樹脂バインダーに劣るのか

PP-PE系樹脂バインダーは、変形や残炭の問題が起こりやすく、POM系樹脂バインダーに変更するとこの問題が解決する」について考えてみた。

《変形問題》
確かにPOMの方がPPPEより脱脂中の熱変形は少ないので正解である。ただし、フィードストックに含有するバインダー量が多いとその差は顕著であるが、限りなくバインダー量を最少化(CSL設計)すると差は僅かである。

《残渣問題》
 大気中300℃で40時間加熱したときPOMの残渣(炭化物)は8%に対して、PP91%、PE100%ある*1)。POMの燃焼性は抜群によい。しかし、MIMの比較環境は大気ではない。二次脱脂工程のN2パーシャル環境での比較になる。
 MIM加熱脱脂を想定した比較結果は次の通りである*2)。窒素フロー20ml/min,昇 温速度5/minでの熱分解温度-TGカーブより
POM: 減量率≒0.17(%/s) Weight loss100% 熱分解温度≒330
PP : 減量率≒0.15(%/s) Weight loss100% 熱分解温度≒420
PE: 減量率≒0.22(%/s) Weight loss100% 熱分解温度≒460
すべての樹脂で残渣は無い。 熱分解する速度(減量率=TG最大傾斜)が一番良いのはPEPOM、PPの順になる。POMは大気中の燃焼性は抜群であるが、N2雰囲気ではPOMの熱分解はPEに劣っている。
ここで注目すべきことは、熱分解温度がPOMは低いので、例えばPOMPPを組み合わせれば、段階的熱分解を実現できる。これがPOM系樹脂バインダーのメリットである。・・と説明していただければ納得できる。

*1)プラスチックの300℃における炭化過程に関する研究 藤沢健 長野県工技センター研報 No.10p.M1-M5 (2015)
*2)加熱脱脂 および溶媒脱脂 を考慮したMIM用バインの検討 伊藤芳典ら 「粉体お よび粉末冶金」第49巻 第6号 

【珈琲ブレイ句】
PP-PE系樹脂バインダーは、変形や残炭の問題が起こりやすい」のはたぶん加熱脱脂の世界での比較だと思われます。つまり前者が大気加熱脱脂+二次脱脂・焼結、後者が3STD法(SS系)の一次二次連続加熱脱脂・焼結(真空炉)の場合の比較です。一方、一次脱脂で溶媒脱脂をして、適切に二次脱脂(加熱)すればPP-PE系でも炭素は残りません。残るとすれば排気系のトラブルか、処理重量が過剰のいずれかで、設備管理、工程管理の問題です。



2019年12月13日金曜日

MIM用バインダーが1種類にできない理由

溶媒脱脂と加熱脱脂両方に使えるバインダー(静岡県浜松工業技術センター:伊藤、針幸、佐藤)が2002年に発表されている。実は、この発表以外の実用化されている加熱脱脂バインダーは溶媒脱脂ができるものがほとんどである。一部の例外を除いて。

その例外とは、例えばPOMを主体とするSS系加熱脱脂バインダーである。なぜかというと、「POMは溶媒に膨潤する」から。小さいものは誤魔化せるが、肉厚大物になると溶媒膨潤で割れが発生する。こんな経験がある、依頼実験でPOMが50%以上の成形体をノルマルヘキサン溶媒脱脂したところ地割れが発生しパラパラと一部が崩れた。


MIM指南書 第3章 MIMフィードストックの開発

《日曜MIM知るINDEX》


2019年12月12日木曜日

なぜ溶媒脱脂をリスペクトしているのか

どっぷりと加熱脱脂の量産も経験したが、やはり溶媒脱脂の方が好きである。理由は・・・「溶媒脱脂には飽和点があるから」。

例えば、異なる二人から部屋の掃除を依頼された。一人は「塵ひとつ無いように掃除してくださいね」といわれ、もう一人は「ゴミや埃を20%だけ残すように掃除してくださいね」と頼まれた。どちらが楽であろうか?

この例では、前者が溶媒脱脂、後者が加熱脱脂による一次脱脂工程に相当する。

飽和とは「saturation」で、現場では「サチル」ということがある。溶媒脱脂では、溶媒に溶けるバインダーが完全に溶け切る時間が飽和点になる、この点以降どれだけ時間を掛けても脱脂重量は下がらない。製品の最大肉厚に相当する脱脂時間以上にすれば正確に脱脂率を管理することができる。

ちなみにBASF法にも飽和点がある、POMしか硝酸に反応しない。


《日曜MIM知るINDEX》

第4.3.1 1次脱脂の種類と長所短所
図4.18 自己蒸留機能付き湧出溶媒脱脂装置概念図

2019年12月11日水曜日

日曜MIM知るINDEX

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教えてジャーマン先生
座右の書ジャーマン先生の本を意訳しました。原本読解のお役に立てれば幸いです。
「日曜MIM知る」の目次 ・・・・・・・
【MIM全般】


【MIM材料】

【粉末・原料・造粒】

【成形】


【脱脂】

【焼結】

【品質評価・不良・精度】

【製品設計】

【5S】

【業界分析】

【新生MIM事業化支援】

【AM金属粉末積層】


【その他・お知らせ】


2019年12月10日火曜日

溶媒脱脂は嫌われているのか

私は溶媒脱脂肯定派のひとりである。その理由? それは品質がたいへん良いから、特に焼結体の最終化学成分のコントロールがきる脱脂法の一番手、金メダルだと考えているからである。化学成分が保証できないと望む機械的性質は得られない「名ばかり金属*1」になってしまう。ハイスペックMIMを目指すなら溶媒脱脂が必須であろう。(補足:BASF法も良い、ハイスペック向き。)

国内ではどうも溶媒は嫌われ者のようだ。新規に溶媒脱脂は行わないと決めたMIMメーカーに出会ったり、AM3Dプリンターの溶媒脱脂装置も導入の足かせになっているような話を聞く。

もし国内から「ノルマルヘキサンによる溶媒脱脂がなくなったらどうなるか」

ノルマルヘキサンによる溶媒脱脂がなくなったら→《サラダオイルがなくなる》

サラダオイルはノルマルヘキサン溶媒脱脂で造られている。食品企業に学べば問題解決は簡単ではないのか。

*1 名ばかり金属: JIS規格の粉末を使ったMIMだが、MIM焼結体の化学成分がJIS規格から外れているもの。バインダーが残留して炭素になったり、酸化・還元で酸素と炭素が変動したり、ある種の金属Crなどが蒸発減少したり、触媒脱脂でCoが減少するなど。

【珈琲ブレイ句】
解決のキーワードは「密閉」「蒸留再生」ですね。
水を使った脱脂に変更する。ただし、非鉄向き、錆に注意。



《日曜MIM知るINDEX》

2019年12月9日月曜日

島津MIM用脱脂焼結炉を少し掘り下げる

島津産機システムズのMIM用脱脂焼結炉をなぜリスペクトしているのか。

それは「炉体内部を汚染しないように工夫されている」から。

焼結体を入れる箱を「タイトボックス」と呼んでいる。直訳すると「密閉された箱」。脱バインダーのガス類を密閉し炉外へ排気することを意味している。N2やArは炉内に入ると、断熱材→タイトボックス→ワックストラップ→真空ポンプというルートを通る。決して逆流させない設計思想*1 だ。

量産で困るのが、炉内のコンタミ汚染、特に断熱材の汚染は深刻である。

炉内コンタミが多いと次のような現象が発生する。焼結体表面が灰色や白色になる。この着色がアルミナセッターの蒸発物の場合、昇華コーティングであり、除去が大変になる。

*1 特許明細書の要約:真空脱脂焼結炉が、脱脂時にタイトボックスの外部に微量のガスを導入しつつタイトボックス内部から排気することにより減圧雰囲気とし、脱脂後、先の脱脂時にタイトボックスから漏出したバインダを炉体内部の低い位置から排気もしくは排液することにより炉体内の脱ガスを行なうため、脱脂時には処理物を迅速に処理でき、脱脂後にはタイトボックス内部のクリーンな雰囲気を優先的に確保した上で炉体内部に残存するバインダを液相または気相の状態で外部に排出できる。


《日曜MIM知るINDEX》


2019年11月24日日曜日

新生MIM事業化支援活動

国内のMIM初心者メーカーに新しいMM製造ラインを立ち上げる。新生MIM事業化のお手伝いをしている。現在国内MIMメーカーは30社程度しかなく20年前から撤退統合で数は横ばいである。しかし、後から始めた中国ではその10倍以上MIM事業が誕生している。 なぜか・・・

理由は2つ

①やっぱり「MIMはすばらしい」から
②今からMIMを始める方がよいから

それはなぜか、

①は常識なので省略して ②の理由として2つ挙げる

ひとつ:ターゲットとするMM製品に最適なMIMシステム(溶媒、触媒、加熱)を選べる(すべてのMIM製法特許が切れており誰でも使える)(後だしジャンケンは絶対に勝てる)
ふたつ:社内に過去の実績から生まれる軋轢*1(あつれき)が無い、自由に製造技術を最適化できる(白紙に絵を描ける)

◆新生MIM事業でも技術的には今こそ有利◆

MIMを社内で始めたいという相談には次のステップをおすすめしている
Step1 最小の投資で、MIMを体験してもらう 「MIMお試しセット」
Step2 MIM設備一式導入(モデルライン)量産試作期間
Step3 本格量産
Step4 MIM設備増設、作業者スキル熟成 
Step5 生産量が月産500kgを超えてきたら、MMフィードストック内製化もあり
    

【珈琲ブレイ句】
 *1 の 軋轢の素は「現状を変えられない心理」が働くためです。その心理は4つ。 ①損失回避 ②保有効果 ③サンクコスト(コンコルド効果) ④確証バイアス その結果「現状がそんなに悪くないのにわざわざ変える必要がない」となるのです。現状維持も難しいのですが、さらなる継続的発展をいつも考えていることが重要です。大企業になるほど軌道修正が難しいのです。これから始めるところには、この軋轢がないので有利なのです。

《日曜MIM知るINDEX》