2019年10月30日水曜日

隆盛を極めるMIMメーカーから学ぶべきこと

国内で今、隆盛を極めるMIMメーカーがある。
この会社と斜陽の会社と比較しながら、その違いはなにかを考えてみた。

①MIM製法(バインダシステム)の更新をしている。
 斜陽会社:MIMを立ち上げた経験者の力が強く、従来法に執着する。技術ノウハウを社内でオープンにしない傾向。新しいMIM製法に更新できない。 現場の意見が強すぎて、成形できない、経験が無いのでできないという風潮がある。
 隆盛会社:今のMIM技術を俯瞰し、会社に最適な工法に集約し、更新していく。ビジョンを示し、現場のベクトルを揃える。

②絶えず新しい粉末へ更新していく。
 斜陽会社:金属粉末を変更しない。密度が向上できても収縮率が変わるから採用しない。MIMは管理技術が重要だからと工程変更から逃げる。現状維持が一番大事である。
 隆盛会社:現状維持は当たり前品質。最新技術を採用するための研究・技術開発を継続する。収縮率が変わっても機械的品質や精度を重視する。金型の伸び尺は二次要因(結果)である。

③新しい応用技術を取り入れる。技術伝承。
 斜陽会社:現状維持。個人のノウハウ。技術者退職、設備老朽化。
 隆盛会社:改善・改革志向。常に新しい技術を研究・量産化し、会社に技術を残す。技術マニュアル化、社内勉強会、技術伝承・継承に積極的。

2019年10月24日木曜日

もしもMIMフィードストックメーカーだったら

もしも自分がMIMフィードストックメーカーだったら、どうやって成長すべきか空想してみた。(無責任シリーズ第2弾)

5F分析
【自分:フィードストックメーカー】
MIM工法は何か、溶媒、加熱、触媒
お客様はMIMメーカー、既存、新規開拓
【売り手:材料】
金属粉末メーカーが継続的に開発しているか
QCDでトップか
安定供給できるか(特に、カルボニル粉)
【買い手:お客様】
《既存のMIMメーカー》
撤退・統廃合  国内市場年5%増
MIMフィードストックの自社生産へ切り替えで、お得意様減少
《新規》
自社製品のMIM内製化ニーズがある
プラスチック成形メーカーのMIM新規参入
金属3DプリンターのMIMへの転用(MIM試作から量産へ)
【競合:新規参入MIMフィードストックメーカー】
米国RYER:加熱、溶媒、触媒すべてを揃えるAMAZON戦略
BASF:素人への販売体制、教育センター・試作から量産へ
中国のフィードストック(SS系、触媒)
国内:M社、F社、D社、A社(加熱、SS系、バインダーでの販売)
【競合する代替工法】
MIM用粉末を使用した、3D金属プリンター

まとめ(戦術・戦略)
もしも自分がMIMフィードストックメーカーだったら
・MIM脱脂(国内市場)は、溶媒、加熱に絞る。その技術データを磨く。
・「ここに頼めば大丈夫」ワンテーブル営業、ワンストップ体制。
 材料だけでなく、金型からMIM製造一式すべてのサービス提供。
 MIM業界の「保険の窓口」をめざす。
・素人への販売を考える。MIM事業所の新生を助ける。
 新規が増えなければ市場は増えない。
・新生MIM事業所への設備導入~ノウハウを総合的に提供する。
・金属3Dプリンターを相棒にする。






2019年10月22日火曜日

MIMと変成形加工

MIM単体で高精度化は必要である。しかし、限界がある。それ以上の要求精度には「工法の複合化」が必要である。
二次的複合加工としての「変成形加工」について考える。具体的には、「閉塞鍛造」「プレス加工」「サイジング、コイニング」「転造」などである。

いくつかMIM展開例を紹介する。

閉塞鍛造:正確に計量された材料を金型に入れ閉塞状態で鍛造する。MIMは、たいへん正確に計量された材料であるので、最終工程にて金型でサイジングすることは、究極の閉塞鍛造である。射出成形での金型転写(一次転写)だけで最終製品寸法を保証する「オープンループ制御」には限界がある。この方法は、二次転写でループをクローズドさせる方法である。

プレス加工:板金加工における板材の曲げ加工やシェービング加工。密度が100%ではないMIMは、スプリングバックが無視できるほど小さい。そのため平面プレスで平面度0.05が簡単に出せる。また、除去加工に分類されるかもしれないが、打ち抜きやシェービング加工もできる。

転造:MIMへの応用例としては、外径ネジ転造、切くずがでない溝無タップ加工、外径軸へのスパロール加工(スギノマシン)では、表面粗さが0.8Sになり精度もIT8~9級に管理できる(SUS316L)。

寸法公差と削り代

MIMは、ネットシェープ(net shape)ではない。
MIMは、最終製品寸法に非常に近いニアネットシェープ(near net shape)である。MIM精度向上は継続すべき重要なテーマであるが、現在のMIM精度は、IT10等級レベルである。

それ以上の製品要求精度(嵌合はめあい等)を実現するためには、二次加工が必要である。例えば「変成形加工」「除去加工」などである。

そこで問題になるのは、加工する程度(量)をいくつにするかである。
それは、「転造代、プレス代」「加工代、削り代」などである。

今回は、削り代について考える。JIS-B-0403 鋳造品の一般公差方式及び削り代 の考え方は次の式である。


基準寸法(素材寸法)=仕上がり寸法+RMA+CT/2



仕上がり寸法:製品完成寸法
RMA:要求する削り代(たぶんRequired Machining Allowance)
CT:公差巾

ちなみに、上記JISのロストワックス精密鋳造におけるRMA(等級A)は次の通りである。
最大寸法     RMA(等級A)
  40以下       0.1
40~63以下       0.1
63~100以下     0.2
100~160以下      0.2

MIMは鋳造品の様な抜け勾配が不要なのでRMAは小さくてよいはずだ。どのような設計標準にするかは各社に任せたい。JISにMIM用のRMAは無い。注意:RMAは、小さい方がよいが、発想として偏らず、捨てリブや捨てフランジなど積極的に大きな加工代(部位)を設ける柔軟さが望まれる。

◆MIM公差MTと削り代RMAの参考提案を「MIM指南書 金属粉末射出成形ガイドブック、P41 表2.5」に載せました。2020/11/1


2019年10月11日金曜日

実験用MIM脱脂焼結炉を造るための設計書

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2019年10月9日水曜日

MIM不良に「巣」はあるのか

現役時代、この質問を受けたらこう答えていた。『発生原理は異なりますが、巣のような不良は発生します。」

本当は「MIMには巣は発生しない」。でもお客様のイメージしている「巣」とは内部不良全体を指していることは明白である。

「巣」は鋳造の言葉で「Shrinkage」である。直訳すると「収縮」である。凝固収縮に相当する体積を補給(押し湯)できなくなった時に発生する。内部にできれば「内ひけ、ひけ巣」表面にできれば「外ひけ、ホットスポット、表面ひけ巣」形状が空洞であれば「Shrinkage cavity」と呼ばれたりする。現場ではガス欠陥、カミモノ欠陥も「巣」と呼ぶ。内部欠陥はとりあえず「巣」と呼ばれる。 さらに、健全度レベルで評価される「マイクロシュリンケージ」や「スポンジ状組織」も「巣」である。

MIMの内部欠陥を考えてみる。
・成形肉厚部に発生する成形収縮欠陥(内部に空洞ができる)
・低密度焼結不良(密度が規格に入らない)
・成形工程での空気の巻き込み(丸い空洞、空隙)
・ウエルドや流動すべり面が起因の空隙
・バインダー残りによるガス残存空隙
・還元ガスの残存(丸い空隙)
お客様は原因がなんであろうと「内部不良(巣)」が心配なのである。

2019年10月8日火曜日

MIM不良「膨らみ」を考える

MIM入門講座で質問の多いMIM不良「膨らみ」について考えてみる。

【現象】餅が膨らむように、MIM焼結体の表面に凸上の膨らみが発生する。また表面皮が剥離する。小さな水泡が表面に発生する。

【原因】餅で考えてみる。餅が膨らむ原理は2つの合わせ技である。ひとつは、餅の中の水分が、気体(水蒸気)になり体積が増大する(体積膨張)。ふたつは、餅に粘性があり、気密性が高いため気体が外部に逃げられず、餅の表皮を膨らませる。

 MIMの場合も同じ原理である。原因のひとつめの水分に相当するものは二つ。①-1バインダー(高分子樹脂)の気体化による体積膨張 ①-2還元反応ガス(C+O→CO)による体積膨張 原因のふたつめに相当するのが、表面の焼結による緻密化(閉気孔化)

【対策】
 脱バインダーを完全に行う。還元反応を完全に行う。どちらも対策は同じ、排気系能力の確保(設備保全)、処理時間を延ばす、処理量を減らす。表面が緻密化(閉気孔化)する前に、内部で発生するガスを逃がせば膨らまない。蛇足:セッター面からガスが逃げないために密閉状態(セッターで蓋をされた状態)の内部凹部に膨れが発生することもある。これはセッター面をディンプルにしたり通気性を発現させるアイデアで解決できる。
 《追加2020/05/31》一次脱脂が不足していると、二次脱脂が遅れ、それにより膨れが発生することも付け加えておく。

【製品設計対策】
 安全設計として、「肉厚部位を減らし・肉盗みを設ける」と「膨れ不良は完治できる」。こんなスマート設計された図面を観ると元気がもらえる。