2022年12月31日土曜日

MIMフィードストック設計事例

 複合HA/Ti6Al4VのMIMフィードストック設計とその混合パラメータの研究事例をここに記録しておく。

《粉末》Ti6Al4V/平均25μm、球形、ハイドロキシアバタイトHA/平均サイズ5μm、複合比率/Ti合金:HA=60:40wt% 、プレミックス30分間

《バインダー》パームステアリン(融点54℃)60wt%、ポリエチレン(融点125℃)40wt%

《臨界粉末量と最適粉末量》CSL(CPVP)=69.5vol% 、最適粉末量(補正後)=67vol%

《実験因子と結果》混錬速度(10,30rpm)、混錬温度(130、150℃)、結果:混錬速度30rpm、混錬温度150℃の時に混錬時間が55分間と最短となりフィードストックの密度が最大化した(2.54g/cm3)

資料:”Effect of mixing parameters on the mixing time and density of composite HA/Ti6Al4V feedstock for powder injection molding”Amir Arifin and Abu Bakar SulongMATEC Web of Conferences , 03003 (2017)

【珈琲ブレイ句】このMIMフィードストックは医療用ニーズ目的で造られています。この報告ではCSLが69.5vol%と大きく、たいへん優秀です。これはTi6Al4Vが25μmに対してHAが5μmと小さいため二峰分布になっているためだと推察できます(残念ながらタップ密度は不明)。

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2022年12月30日金曜日

バインダー量を決めるCSLとCPVPとは

 CSLとCPVPはともに「臨界粉末量(最大粉末量)」のことである。臨界粉末量は、粒子が外圧なしにできるだけ密に充填され、粒子間の全空間がバインダーで充填される組成である。ジャーマン先生の本では、CSL(critical solids loading)とある。後年の海外論文には、CPVP(critical powder volume percentage)と表記するものが散見される。CPVPの方が実感として分かりやすい。

新しくバインダー量を設計するときにはCSL,CPVPの測定が必要である。

【珈琲ブレイ句】CSL,CPVPの測定にはラボプラストミルという装置で粉末量を累積増加させながら混錬トルクを計測することで求めることができます。(逆にバインダーを累積増加させる方法があり、私はこちらが好きです。*1)また、CSLはタップ密度と強い相関があるのでこの線形式を使えば粉末のタップ密度からCSLをある程度推定することもできます。興味のある方はMIM指南書 3.3章 バインダー量設計の実際 式1 P74 を参照してください。しかし、プロフェッショナルの方は精密にバインダー設計をする必要があり、そのためにはCSL測定はマストです。CSL値はクリティカルなのでこの割合では成形できません。そこで少しバインダーを多めに設計します。その値はジャーマン先生の本で学べます。

*1MIM指南書とは

ジャーマン先生の本「第2章フィードストック」とは

◆どちらもAMAZONで購入できます◆

「MIM指南書」

MIMのバイブル座右の書「Injection Molding Metals and Ceramics」



2022年12月28日水曜日

MIM成形技術の最適化研究(品質工学)

 品質工学(タグチメソッド)を使った研究報告の概要を記録する。

《実験計画》直交表:L18、制御因子:混錬温度、バインダー割合、金型温度、射出速度、射出圧力、射出筒温度、焼結昇温速度、焼結温度、誤差因子:同一ロット間バラツキ、特性値1:成形体のヒケ(望小特性)、特性値2:引張強度(望大特性)

《コンパウンド仕様》金属粉末:SUS316L、平均10μm、<20μm、水アトマイズ粉末 バインダー:混合ワックス:PMMA=1:1、バインダー量:9,10,11wt%

《結果》特性値1ヒケ:バインダー量だけが有意で、バインダー量が一番少ないものがヒケが少ない。 特性値2引張強度:混錬温度、金型温度、昇温速度、焼結温度の効果が大きい。特に焼結温度が高い程引張強度が高い。(脱脂:ウイッキング大気400℃、焼結:真空1250~1350℃)

《確認実験》最適条件(焼結温度1350℃、昇温速度10℃/h等)の結果、ヒケ18μm、引張強度408MPa

文献:鹿児島県工業技術センター研究報告No.13(1999)、岩本竜一、森田春美、南晃

【珈琲ブレイ句】実験はCIM用の混合ワックス(セルナNE119)とアクリル樹脂PMMA(ダイナールBR105)を140~150℃で脱気しながら攪拌溶解してから金属粉末を3回に分けて混錬しています。一般的なMIMのバインダー量よりかなり多めなのが気になりますが、ヒケに対してバインダー量が少ない方がよいという結論は納得できます。引張強度では焼結温度の一番高い1350℃で最大値を示しています。面白い結果としては、昇温速度5,10,15℃/hの中では中間の10℃/hで引張強度が最大化しているところです。

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2022年12月21日水曜日

PAとEVAのブレンド研究

MIMフィードストックに多用されているPA(パラフィンワックス)とEVA(エチレン酢酸ビニル共重合体)のブレンドに関する論文を掘り下げ結論だけ記録する。製造されたMIMフィードストック組成は、PA,EVA、SA1wt%、結合剤(内容不明)、SUS316L粉末D50-8μm、SL:53VOL%。実験変数:PAとEVAの配合%

《結果》◆PAとEVAのブレンド品だけの曲げ弾性率(ヤング率)は、EVA=35wt%のときに最大(165MPa)になる。ちなみにPW100%とEVA100%のヤング率はどちらも約90MPa。◆MIMフィードストック(EVA35wt%)のヤング率は1635MPa ◆金型温度が高い方が、MIM成形体のヤング率が高くなる。型温度-ヤング率:20℃-1378MPa、30℃-1454MPa、40℃-1623MPa

文献:The Crystallization Behavior and Machanical Properties of Poly and Parafin Wax Blend , Jim Kon and Byoung-Kee Kim,粉体粉末冶金第46巻第8号(1999年8月)P823-829

【珈琲ブレイク】不思議ですね。PA、EVA単体だとヤング率がともに60MPa程度なのにブレンドするとEVA35wt%のとき最大化してヤング率が約2.7倍になるという報告です。個人的にEVAを使うMIMフィードストックが好きなので「やっぱりな!」という感想です。ヤング率が高いと言う事は成形体が固く曲げ変形に強いということです。ほかにも、EVAがホットメルト接着剤に使われていることからも分かるようにEVAの結合力は信頼性が高いのです。でも欠点もあります。それは加熱脱脂で残渣が残りやすいことです。・・でも一次脱脂を溶媒脱脂(沸点が高い溶媒厳守、塩化メチレンはNG)にして完全にEVAを除去すれば問題は回避できます。

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2022年12月10日土曜日

MIM Like AM MEXの改善すべき課題を妄想する

 MIMとほぼ同じ構成(微細粉末+バインダー)の積層材料を使うMEX(FFF、FPF、FDM)には共通する課題がある。それは、積層方向の引張強度の差、積層体の密度の確保が難しい(保圧が効かないため)等である。さらに、新たな潜在的課題に気が付いたのでここに備忘録として記録しておく。

その課題とは、積層材料とくにフィラメント自体の緻密性が確保されていること。つまり、微細な気泡が内在せず、理論フィードストック密度であること。現在市販されているMEX積層装置には、積層材料をノズル直前で圧縮混錬する機能が付いていないため脱気されない。材料内の気泡(ガス)がそのまま積層されてしまうのである。

【珈琲ブレイ句】現在市販されているフィラメントがどのように造られているのかわかりませんが、圧縮混錬で脱気された後にフィラメント化されていてほしいと願うばかりです。つまり高圧縮比をもつスクリューで、完全脱気しながらフィラメントを造る装置であることが理想です。あるいは、将来こんなMEXが登場するかもしれません? ミニ射出成形機(高圧縮スクリュー内蔵)をノズルににした積層装置です。価格は高くなりますが上記課題は解決できるはずです。

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2022年12月6日火曜日

MIM指南書出版2周年記念セール”第二弾”

 MIM入門者の方へ

オンデマンド講習会の受講者の方にも、MIM指南書67%OFFで販売できることになりました。(限定30人)

オンデマンド受講のみ ¥22,000

オンデマンド受講+MIM指南書 ¥52,000

《申込みはこちら》 Tech Design Annex

【オンデマンド:tdo2020121101】金属粉末射出成形(MIM)の基礎と製品設計の勘所

2022年11月28日月曜日

MIM指南書出版2周年記念セール

 金属粉末射出成形ガイドブック「MIM指南書」の初版2020年11月から2周年になります。それを記念して「ありがとうセール」を行います。2022年12月末日まで。《終了しました!》

《AMAZON》 価格 ¥91,300(税込み、送料込み

《直接購入》

初めて購入する方*1:20%OFF ¥73,000(税・送料込み)

2冊目購入の方*2:67%OFF ¥30,000(税・送料込み)3冊まで、一人1冊座右の書。

直接購入方法:弊所HP記載のアドレスへ申し込んでください。「出版2周年セール価格希望」と明記してください。

*1:初めて購入する方で、購入数2冊の場合は¥103,000(税・送料込み)

*2:2冊目購入とは、すでに1冊購入済の方(企業様)です。AMAZONから購入した方は、その領収書をダウンロードしたもので確認させてください。

◆こんな方々に読まれています◆ 

・MIMメーカーの人材育成、社内教育資料として。技術、製造、品証で各1冊。(キーパーソン一人一冊座右の書)

・MIMフィードストックのレシピの見直し、自社製造の糧として

・これからMIMの製造を始めるための工程設計のため

・金属AM(MEX、BJT)の脱脂・焼結条件の最適化研究のため

・MIM不良の原因を探るため、仮説と検証・対策計画のため


2022年11月19日土曜日

【無料・解説抜き刷り】Metal AMとMIMの共存共栄の時代

「Metal AMとMIMの共存共栄の時代」の抜き刷りを無料で希望者に差し上げています。

終了しました。 こちらで公開を始めました(2023/08/10)

《申込み》弊所HPの無料相談欄に記載のメールアドレスへ申し込んでください。送料も無料です。

抜き刷りサンプル(ぷらすとす日本塑性加工学会誌、第5巻第53号2022-5別刷)



2022年11月18日金曜日

まったく新しい金属3Dプリンター2種

ASTM F2793-12AのAM標準プロセスカテギリー(8種類、2022年現在)に含まれない全く新しい金属3Dプリンターを2つここに記録しておく。

電気化学付加製造(Electrochemical additive manufacturing):イオン電導性電解質と電気通電により導電性表面に金属コーティングを行うもの。電解液を満たした注射器形状容器の中にプラス電極(例えば硫酸銅)を入れ、注射器先端と積層物表面との隙間にできる電解液滴にマイナス電気を印加することで局所的に金属(例えば銅)を堆積(メッキ)させて造形するもの。

選択的粉末堆積法(Selective Powder Deposition 3D Printing process):坩堝の中にセラミック粉末(サポート)と金属粉末(造形物)を造形物形状になるように選択的に敷き詰めていく。積層後に含侵用金属(インフィルメタル)を上面に載せて坩堝ごと加熱炉に入れ、含侵金属を溶融させ、金属造形物のみへ含侵させるもの。

【珈琲ブレイ句】両方とも安価(100万円未満)な装置を実現できる可能性があります。また、前者は微細な造形物を造れるメリットがあります。デメリットは原理がメッキなので金属はCu、Ni等で合金は採用できないところです。後者のメリットはとにかく手軽に金属造形物ができるところ。まるでサンドアートを作る感覚なのです。メリットでありデメリットなのは、金属粉末は焼結しないところ(体積収縮しない)、インフィルメタルで含侵させた金属体であることがデメリットですが、超硬WC粉末を造形できればメリットになりますね。

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2022年11月14日月曜日

Metal AMだけが活躍する世界

 Metal AM分類の中の「Indirect」の「Sinter Based Metal AM」である「MIM Like AM」は5種類存在する。それは、材料押出法(MEX)、液槽光重合法、スクリーン印刷光重合法、融解積層法(CMF,Solbent Jet)、バインダージェット法(BJT)である。すべて金属粉末を使用して脱脂焼結を行うもので、MIMの兄弟達である。したがって世界的な3Dプリンターブームの中、MIM Like AMの導入からMIMへシフトしていく流れは自然なことであろう。また、Metal AMで試作(RP:Rapid prototype)だけを行い量産は既存技術(精密鋳造、粉末冶金、鍛造等)へシフトする流れも同様であろう。

しかし、Metal AM だけしかできない全く新しい技術がある。それは次のような要求を満たすものでありMetal AMだけが活躍する世界である。

・超多部品一体化

・超複雑三次元形状(力学的理想形状の実現)

・ラティス構造による高強度軽量化


【珈琲ブレイ句】このMetal AMだけしか作れない世界は必ず残り成長していきます。それは内燃機関、ロケットエンジン、人工衛星、航空機、中空ブレードなどの超ハイスペック品やスーパーアロイ品に使われていくことでしょう。まったくMIMでは製造できない世界なのです。それから「だけ」ではありませんがコスパで有利なものとしては、一点ものオーダーメイド(テーラーメイド)の新規品や複製品の製造です。とにかくMetal AMはすばらしすぎます、脱帽です。

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2022年11月7日月曜日

MIM焼結サポートをAMで製作した事例

 MIMの脱脂焼結中に変形は発生する。これは重力と摩擦力によるものなので、バインダーCSL設計を最適化しても地球上では完全に回避することはできない。特に薄物やオーバーハング量が多い製品の変形は深刻な問題である。この一般的対策は、セラミックサポートを使い変形を最小化するものである。変形防止の効果は絶大であるが、セミックサポートの製作納期が2か月程度かかること、金型費用の負担が発生するなどの課題がある。この課題を解決した事例がある。

英国のMIMメーカーが、3DプリンターMEXで製造したセラミックサポートを使った事例をここに備忘録としてまとておく。情報はMIMバインダーも製造しているエメリー社の公開報告による。

《セラミックサポート》フィラメントΦ2.85mm(アルミナD50-0.6μm、純度99.7%、エメリーバインダーシステム(LOXIOL2472+PAコポリマー等)、アルミナ約80wt%)、MEX積層造形(グリーン密度2.53g/cm3、積層温度160-170℃、造形速度20-50mm/s、ノズル径0.4-0.6mm、層厚0.1mm、充填密度30%)、脱脂(アセトン42℃×24H、室内乾燥3-5H)、予備焼結(大気1250℃、二次脱脂500-600℃含む)、本焼結(大気1540℃)、焼結体品質(平坦度0.1mm、表面粗さ2-2.5Ra)

《MIM焼結》MIM部品をAMセラミックサポートにセットして1300℃で焼結(金属材質不明)、セラミックサポートの寿命(少なくとも14回での劣化はみられない)

【珈琲ブレイ句】最近のMetal AMのMEX(Desktop Metal等)では、製品とサポートを同時に積層して脱脂焼結し、サポートは使い捨てという提案が実用化されています。このアイデアをMIM製造に展開するアイデアがすぐに思いつきますが、この活用事例では、「セラミックサポートは複数回再利用する」というところがセールスポイントですね。MIMメーカーがこのセラミックサポートを内製するなら、MEXの他に、溶媒脱脂槽と大気炉1600℃の準備が必要になります。

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2022年10月30日日曜日

MIMバインダーのどれがいいのか、長所と短所とは?

 【珈琲ブレイ句】現在量産で使われているMIMバインダーは、MIMの元祖パーマテックの溶媒脱脂系、ウイテックの加熱脱脂系、3STD(シングル)系、水脱脂系、さらにバスフ触媒脱脂系です。それぞれ長所と短所があるので、めざす商品群や目的によって何を選ぶかを決める必要があります。「型技術誌に掲載した比較表*1」を少し更新したのでここに備忘録として載せておきます。

*1 ”基礎から学ぶMIM~金型設計から新事業展開まで~” 型技術、2022 Vol.37 No.5 、P099

2022年10月22日土曜日

MIM金型方案のロバスト設計4つのポイント

 ロバストネス(頑健性)とは、不確かな状況でも最高のパフォーマンスを発揮できる能力のこと。たとえば、生物学では「今生き残っている生物は、強いものではない、環境変化に対応できたものだ」、情報工学では「想定外の誤入力やエラーに対応する安全な制御」、品質工学では「外乱(誤差因子)を考慮した制御因子の最適化、SN比の最大化、市場に出ても不良になりにくい製品設計」

【珈琲ブレイ句】技術コンサルタントでは、MIMの成形不良品の相談が一番多いのです。だいたい成形条件(制御因子)を調整すると品質が改善していきます。しかし、課題が残るのです。それは「最適条件の管理幅が狭くなることが多い」ということです。その原因は、金型方案設計(製品VE設計含む)がイマイチなのです。・・ガッカリばかりしていられないので、気を取り直し次に金型を作るときの参考にしてほしいと「頑健性が高くなる金型方案のロバスト設計」の話しを付け加えます。そのロバスト設計のポイントは4つです。①ランナー・スプルーは短く、モジュラス*1を大きくする。②ゲートを大きく、モジュラスを大きくする。③ガス逃げを適所に配置する。そして最後、④製品のモジュラスは小さくする。この4つが完璧ならば、成形条件(製造規格)の巾が広がり、誰が作業しても、多少の外乱・環境ばらつきがあっても、安定した良品を作り続けることができるのです。これができる素敵な金型設計者がひとり会社にいると現場は助かるのです。

*1モジュラス:体積 ÷ 冷却に寄与する表面積

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2022年10月20日木曜日

MEX用金属フィラメント「JLOX-316L」を掘り下げる

 フィラメント径:2.85mm、材質:SUS316L、脱バインダー: ソルベントバス 99.5%、時間: T 45ºC で 12 時間、焼結:水素雰囲気下1340~1380℃

《特徴》焼結密度≧7.5g/cm3、引張強さ Rm 300N/mm2、脱脂減量 4~4.5%、AMF: 1.168/1.666、積層条件: 135ºC ノズル <0.4mm 、層厚 0.05-0.3mm

【珈琲ブレイ句】このフィラメントの一次脱脂は、BASF系フィラメントの触媒脱脂ではありません。溶媒脱脂です。アセトン浴で 12 時間脱脂 (肉厚 10 mm まで)、焼結ガスは、この316Lでは水素(他に 42CrMo4鋼ではN2 )を推奨しています。ホビーからセミプロまで幅広いユーザーへMteal AMが広がっていく、そんな夜明けを感じます。(アセトンの沸点56℃、密度0.784)

関連リンク『Metal AMとMIMの共存共栄の時代』

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2022年10月15日土曜日

【MIM指南書(増補・セルフ)】溶媒比較表

 MIMの溶媒脱脂で実績のある溶媒をまとめました。印刷して、MIM指南書 4.3.1 溶媒抽出脱脂 P120 に挟むように貼ってください。

表はKb値順にしましたが、処理温度との相乗効果があるので実際の溶解能力の順番ではありません。つまり沸点が高ければ高温(ワックス類の融点近傍)で溶媒脱脂ができるので溶解能力に差が出てくることを考慮して選んでください。


 【MIM指南書の部屋】


マイクロ波成形はMIMに使えるのか?

 マイクロ波成形とは、マイクロ波を使って、型に入れた微細ペレットあるいは粉末の熱可塑性樹脂を溶かし、型のキャビティ形状を転写させ冷却固化する成形法である。《事例》マスターモデルをシリコン型に転写して、その型の中に熱可塑性樹脂をいれる。シリコン型ごと電子レンジに入れ、中の樹脂を可塑化したのち、冷却・固化させる。《メリット》短納期試作に有効、射出成形で発生する配向や流れ跡がない均等品質を実現。光硬化樹脂ではなく多種多様な熱可塑性樹脂で成形できる(繊維複合も可能)。

【珈琲ブレイ句】MIMフィードストックは電子レンジで溶けるので、粉末にして使えばマイクロ波成形は実現できそうです。でも、いくつか課題が見つかります。①成形体を加圧する仕掛けが必要 ②温度管理技術の確立(昇温、飽和、冷却)③成形体の均等加熱技術の確立

【蛇足】シリコン転写と言えば・・大昔、次の方法でMIM用試作金型を造っていました。マスターモデル→シリコン転写→石膏転写→アルミ合金鋳造転写→EP機械加工→金型ホルダーへセット→MIM射出成形。数百個のMIM成形が可能でした。

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2022年10月14日金曜日

Metal X(FFF)のフィラメントの曲率半径が凄い

 MIM like AMのMEXである『Metal X』はフィラメントを使っている金属積層3Dプリンター(FFF)である。一番売れている材種のSUS630(17-4PH)のフィラメントが始めに改良された。改良された特性は、フィラメントの柔軟性である。SUS630積層焼結体の機械的性質はMIM相当で、引張強度:1050MPa、1250MPa(HT)、硬度:30HRC、36HRC(HT)である。

【珈琲ブレイ句】開発初期のMetalXは、山形県の研究機関に導入されていますが、初期のフィラメントが折れやすくフィラメントを加熱して柔軟性を出していたと聞いたことがあります。しかし、この課題を克服するフィラメントが研究開発され、ついに上市されたのです。文献で発表された写真から曲率半径を目測すると、15~20mm程度です。ものすごく柔軟性があるのです。Metal Xは溶媒脱脂*1 を使う方式なので、残渣の心配をする必要が無い(溶媒で溶ける)柔らかな接着剤系のポリマーが使えるということかな? 焼結中の残留炭素の管理ができて使いやすそうだ。

*1 溶媒:Opten SF-79 不燃性、高Kb値=103、低表面張力、低GWP

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2022年10月11日火曜日

BASFのMIMフィードストック新材料THORとは

 BASFから新発売Catamold THOR。これはマルエージング鋼である。発表によると機械的性質は次の通り、密度:7.7g/cm3、最大引張強度:1600MPa、伸び:5%、硬度:HRC51 熱処理:マルテンサイトからのエージング処理

THOR:Tough,Hard,Oriented,Resistant タフと硬さを目指した高強度鋼

【珈琲ブレイ句】◆この発表を見た時の第一印象は、「軍事産業でマルエージング鋼のMIMが本格的に採用され始めたな!」です。マルエージング鋼は輸出規制が掛かるほどのパワーのある材料なのです。どこの国でも購入できるものではないでしょう。この鋼の弱点をあえて探せば、錆びる(Cr無)ところ。◆勉強のため、代わりに使えそうな一般材を考えてみましょう。どうせ錆びるなら高強度の一般材料4605鋼*1と比較してみます。密度:95%、最大引張強度:1500~1900MPa、伸び:0.34%、硬度:?、C=0.4% 熱処理:900℃焼入焼戻し。硬度が不明ですが、炭素が0.4%あるのでHRC50~55は大丈夫ですね!伸びを重視するなら焼き戻し温度を上げれば少し改善できるかも?硬度は落ちるけど。◆THORのもう一つの弱点は材料が高価!たぶん4605の方が安いので、これがVE提案のカギになるかも?

*1.馬場、三浦ら、粉体粉末冶金43(1996)863-867&粉体粉末冶金44(1997)1014-1018

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2022年10月10日月曜日

なぜ溶媒脱脂推しなのか説明します

 【珈琲ブレイ句】私の好きな一次脱脂法は、溶媒脱脂です。触媒脱脂も同じ理由で好きですが、お手軽な溶媒脱脂が一位です。溶媒脱脂には、水ではなく溶媒を使うことで簡単に蒸留再生することもできるのです。二位が触媒脱脂、そして三位が3STD法(三段階加熱脱脂法:一次脱脂工程を省略できる大変すばらしい技術)です。そして四位が従来の大気加熱脱脂法です。

なぜ、すばらしい3STD法が一位にならないのか? その理由は、「カーボンコントロールが難しい」ところです。こんな大失敗を経験しました。厚さ3mm程度の浸炭用鋼(C=0.15%)のMIM部品を量産で数千個おじゃんにしたことです。生産試作までは完璧でしたが、量産へ移行し安心していた時にそれは起こりました。数ロット連続で炭素上限規格NG(C=0.3%)を出荷していたのです。原因は、脱脂焼結炉の設備管理の問題なのです。すこしでも排気能力が低下するとカーボンが残るのです。量産製造現場で、真空ポンプやワックストラップおよび排気系統を日常管理するのは苦しいのです。それ以来、カーボンコントロールが必要な鋼種での3STDバインダーは量産標準バインダーから外しました。小さなステンレス部品での3STD法は百人力なのですが完璧ではないのです。

さらに、カーボンコントロールが困難な、チタン合金や超合金の一部では、溶媒脱脂、触媒脱脂は、絶対に必要です。理由は、一次脱脂を完璧に行う必要があるためです。なぜならば、チタンやアルミは活性金属だからです。どんな論文やトップMIMメーカーの実績をみても、溶媒脱脂(水脱脂含む)と触媒脱脂が採用されています。

MIM一次脱脂は、完璧なものがありません。QCDの何を重視するかで適不適が左右されます。MIMを極めるならば、MIM一次脱脂は二刀流が最低必要でしよう。

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2022年10月9日日曜日

射出圧縮成形はMIMに使えるのか?

射出圧縮成形とは、射出成形において金型型締め動作を利用し、射出完了直前のタイミングで金型キャビティを加圧する射出成形と加圧成形の複合技術である。CDやDVDの微細形状の転写に使われている。特徴は次の通りである。円板で中央ゲートの成形体の実験*1の場合、一般射出成形と比較して金型内圧の平均は約半分になり、さらに分布が均一になる。そのため、成形収縮率も均一になり成形体(円板)の肉厚が均一になる。

【珈琲ブレイ句】MIMで使いたいと考えている技術のひとつです。それは本来の目的と違うのですが、製品設計でどうしても対策が打てないときの最後のアイデアです。その課題とは「ゲートフリーズする肉厚品のヒケ防止」で、その対策に射出成形圧縮が最後の対策手段に成りえます。具体的には、保圧の代わりにキャビティの一部を加圧に使う局所加圧というアイデアです。他の効果としては「ガス逃げ」の作用は絶大なので、ガスの巻き込みや断熱圧縮による焼けの対策に使えることでしょう。課題は2つ。①キャビティ可動部の摺動可能な嵌合設計と②射出と型締めのタイミングをとる方法をどうやって確立するのかですね。大型の肉厚部品や大きな薄物部品のMIMに展開されることを期待しています。

*1 射出圧縮成形における樹脂流動性について、斎藤、松本、阿部、成形加工 第10巻 第6号 1998 P389


2022年10月1日土曜日

工具鋼こそMIMの差別化材料だ!

 【珈琲ブレイ句】昔々、一万回転で動く機械が開発された。その摺動部品は普通の鋼では耐えられなかった。そこで耐摩耗材料探しが行われた。そして耐久試験で残った最後の材料がダイス鋼だった。量産準備として素形材を鍛造で試作した。しかし大失敗。鍛造金型が割れるためだ。仕方が無く削り出しで量産初期を乗り切り、次の量産材としてロストワックスを選んだ。しばらくすると潜在的問題が浮上する。それは、工具鋼を工具鋼(HSS,WC)で加工するので、すぐに高価なエンドミル等が摩耗してしまう。加工する量を減らすニーズが出てきた。最後にたどり着いた素形材がMIMである。(その後、自分がMIMの技術者に転身するとは面白いものである。)今、改めておもう。超耐久部品の材料に、高速度鋼(ハイス、粉末ハイス)、SKD(ダイス鋼)を選べば、ほぼ間違いない。ニアネットシャープのMIMがその素形材に適任だ。工具鋼こそMIMの差別化材料だ!

注意:開発設計者は、工具鋼を造れるMIMメーカーを探す必要があります。キーワードは、球状炭化物、炭素量(脱炭の有無)、カーボンコントロール技術、超固相液相焼結(SLPS)

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2022年9月30日金曜日

ひまし油をMIMに使った特許の話し

 【珈琲ブレイ句】天然油のひまし油は、OH基、二重結合、エステル結合をもつ多機能油です。とくに金属表面と化学結合する(-OH)のでMIM用微細粉末の表面にコーティングすれば、MIMフィードストックの滑剤(界面活性剤)、分散剤として大活躍できるはずだと考えました。まず国内特許を調べてみました。結果は?やっぱり!先願、ひまし油をMIMに使ったものがありました*1。その請求項は、ひまし油単体ではなく落花生油やオリーブ油などの混合物として使うものです。なぜ、ひまし油単体ではないのかと推察すると「他の油と混ぜると固まる性質*2を利用しているところでしょう。これは成形体表面への染み出し対策?ですね、たぶん。素敵なアイデアです。

*1 大型金属粉末射出成形体の製造方法、日本ピストンリング、小野産業、2013/4出願、特許。

*2 固めるテンプルはひまし油が原料です。

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2022年9月29日木曜日

圧縮成形はMIMに使えるのか?

 圧縮成形(コンプレッション成形)とは、熱硬化系樹脂やゴム等を加熱と加圧で金型キャビティ形状を転写させる成形である。最大のメリットは金型費が安い、油圧プレス機で成形できる、金属部品のインサート成形もできるところ。デメリットは、一方向加圧なので複雑な形状が難しい、バリが出やすい、サイクルタイムが長いところ。

【珈琲ブレイ句】圧縮成形はMIMに使えるのか? 結論、MIM成形に使っていました。それは、MIM材料開発の予備実験として少量の粉砕材料で円板状の試験片を造っていました。初め、検査部門の粉末試料成形機を借りていましたが、いつでも自由に使えるように加熱・加圧装置を自作しました。MIMフィードストックは熱可塑性なので圧縮成形後に保圧を掛けながらの長時間冷却が必要なのが難点ですが、ちょこっと試作品を作るのにたいへん重宝しました。

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2022年9月24日土曜日

BJTバインダージェットの仲間たちを考える

 金属3DプリンターのMIM Like AM(Sinter based AM,Multi-step process,Indirect process)分類のひとつにBJT(Binder Jetting)がある。これは、粉末を一層分敷き詰めて、バインダーをジェット印刷し、それを繰り返すことで積層していくものである。積層体は脱脂・焼結させて金属部品をつくる。

さらにBJTの仲間がいる。それは、CMF(Cold  Metal Fusion)だ。BJTとの違いは、バインダーをコーティングした金属粉末を使うところだ。粉末表面のバインダーを低エネルギーのレーザーで溶かして積層していく。積層体の脱脂・焼結はBJTと同じ。

さらにもう一つ仲間は、SJT(Solvent Jetting)だ。CMFとの違いは粉末表面のバインダーを溶媒で溶かし再架橋させるところ。積層体の脱脂・焼結はBJTと同じ。

【珈琲ブレイ句】パウダーベッドの悩みは、粉末を均等に一層敷き詰める技術だと思われます。MIM Like AMで使う場合「微細粉末」を使う必要があるのですが、粉末は細かい程、流動性が悪くなるのです。(だから粉末とバインダーをペーストにして流動性を確保させたVPP液槽光重合やスクリーン印刷が登場しています。)コーテッド粉末の課題は、コーテッド粉末にすることで粉体流動性を向上させることができるか、いかに安価に作ることができるかでしょう。そして期待する未来は、超微細粉末を混ぜたおにぎり(10μm程度の顆粒)ができると差別化できるような気がしています。日本のアトマイズ粉末メーカーが本気になれば実現できる!? ~と無責任に空想するのです。

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2022年9月19日月曜日

溶媒脱脂の膨潤抑制剤とは?

 不適切な溶媒脱脂条件で発生することがある不良として、膨潤による歪や割れがある。この問題を軽減させる方法として、膨潤抑制剤を溶媒に添加する研究*1が報告されている。実験は、ヘプタンに膨潤抑制剤としてエタノールを10Vol%添加することで、最大膨潤量を、無添加の0.84から0.58に減少させることができた。ただし、除去されるバインダー量が8.3%減少した。

*1:Improvement of the Dimensional Stability of Powder Injection Molded Compacts by Adding Swelling Inhibitor into the Debinding Solven、YANG-LIANG FAN, KUEN-SHYANG HWANG, and SHAO-CHIN SU、 The Minerals, Metals & Materials Society and ASM International 2007

【珈琲ブレイ句】興味深い実験報告です。一次脱脂である溶媒脱脂は、ワックス類(PW,SAなど)を溶かす機能ですが、そのワックス類を溶かすことができないアルコールを溶媒に混ぜることで膨潤を抑制させようというアイデアだと思われます。残念なのは膨潤抑制の効果はあるけれど、脱脂能力が低下しているところです。・・であれば、現実的な対策は、脱脂能力に寄与する2つのパラメータ(温度と時間)を調整する方法の方が近道ではないかと思います。温度を下げて膨潤を押さえ、脱脂能力が下がるので処理時間を伸ばす。この対策の方がアルコールを添加するより扱いやすいかもしれません。さらに付け加えると、バインダーを構成する高分子樹脂自体が膨潤する種類であれば、そもそも溶媒脱脂は不可です。

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2022年9月16日金曜日

射出成形機でも混錬をしているのか?

ヒーター加熱されたバレル(シリンダー)とスクリューで可塑化する構造の射出成形機であれば、混錬もおこなっている。スクリューの機能は、3つのゾーンがあり。①材料を受けてヒーターのある箇所まで移送する供給ゾーン ②ヒーターからの伝熱および剪断熱で材料を可塑化(溶かす)し、空気を供給側に押し出す可塑化・圧縮ゾーン、さらに予備混錬も行う。 ③完全に可塑化された材料を最終混錬し、射出のための計量を行うゾーンになる。このゾーンのスクリューは混錬性を強化するためのいろいろな形状が提案されている。

③を「計量ゾーン」と解説している資料が多いですが、機能的には「混錬」と「計量」の2つが存在している。


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2022年9月12日月曜日

ガスアシスト成形はMIMに使えるのか?

 ガスアシスト成形とは、金型キャビティの体積より少ない成形材料を射出成形し、その直後に高圧ガス(N2など)を成形体の内部あるいは外部に噴射し、未硬化の成形材料を金型キャビテイ内面に押し付け転写固化させるものである。この技術で中空の成形品も造ることができる。メリットは、転写精度の向上、ヒケやソリの改善、薄肉計量化、金型負荷軽減(低圧射出+低型締め力)、PLバリレス、成形サイクル時間の短縮等である。

【珈琲ブレイ句】ガスアシスト成形をMIMに展開できるのか?技術的には可能性があります。ただし、可塑化した成形材料の延性に限界があるので、薄肉で中空のものは困難だと思います。逆に厚物のヒケ対策として、寸法の重要ではない部位にガスポケットを形成させ高圧ガスを充てんさせながら冷却させる。この方法なら可能性がありそうです。どうしても「王道のヒケ対策*1」を実施できない形状の場合に検討する価値がありそうです。

*1 MIM指南書 MIM不良24種の原因と対策 5.10 ヒケ P169

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2022年9月10日土曜日

焼結鍛造法はMIMに使えるのか?

 焼結鍛造法とは、粉末冶金と鍛造のハイブリッド技術である。粉末冶金で予備焼結体(Preform)を作り、それを冷間鍛造や熱間鍛造するものである。メリットは3つ。高精度、高密度(7.8g/cc、Fe,Ni,Mo.C)そして、予備焼結体の重量(体積)を正確に管理すれば、鍛造のバリが発生しない。デメリットは材料費(予備焼結体)が、PM粉末の3~5倍高いことであるが、メリットの方が大きい自動車部品を中心に量産化されている。

【珈琲ブレイ句】MIMへの展開を考えると、一番のハードルは材料費ですね。MIMは微細粉末なので上記予備焼結体の3~5倍は高価になります。それでも、MIMの最大の特徴である3次元形状の形成技術は、2.5次元しかできない鍛造と差別化することができます。つまり、3次元形状のMIM部品(仮焼結体)を作り、一部だけ鍛造を行うというアイデアは可能性がありそうです。よく考えると、現在行われているMIMのサイジングは、焼結鍛造法なのかもしれません。すでにやっているとも言えそうです。

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リターン材のリサイクルとリユースをまとめる

MIMのスプルーやランナーは、バージン材に一定量混合させてリターン材として使われている。配合量の考え方は拙著*1に記載しているのでそちらを参考にしていただき、ここでは、現行実施されている2つの方法と日本製の装置をつかったアイデアを紹介する。

ことば: 再生利用がリサイクル。再利用がリユース。

①リサイクル法:バージン材の混錬材として再生材を一定量配合しMIMフィードストックとして混錬から造り直す方法

②リユース法1:計量されたバージン材とスプルーやランナーを高速ミリング(粉砕機)により粉砕し粉末化(粉末+粒)して利用する方法

③リユース法2:スプルーとランナーを粒断機にかけて疑似ペレットを造り、バージンのペレットと疑似ペレットを混合機の個別のホッパーにいれ自動計量・混合させる方法

*1 金属粉末射出成形ガイドブック MIM指南書 P84 4.1.3

【珈琲ブレイ句】MIMフィードストックにペレットが登場したのは、たぶん2000年ころではないだろうか。日本のMIMフィードストック専門のメーカーが登場してからだと思う。それ以降市販MIMフィードストックは、どのメーカーもペレットが主流になっている。そもそも、MIMメーカーの元祖や老舗は粉砕粉末を使っていた(今でも使っている)。大学の研究室でも粉砕粉末を使っているので焼結体の品質に影響はないはずである。ペレット化の理由を考えると、成形機スクリューへの安定供給の課題(ブリッジの発生、計量時間変動)、材料の自動搬送技術課題、粉体流動性の課題などからの逃避であろうか? 商品として粉末よりペレットの方がカッコイイからかもしれない?? 謎である。

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2022年9月5日月曜日

シンターハードニングはMIMに使えるのか?

 シンターハードニングとは、粉末冶金で、加圧成形した成形体を焼結炉内で焼結したのち連続してガス急冷させて焼入れを行う技術である。最近では自動車部品の量産化に採用されている。粉末材料の成分は、焼入れ性の良いNi、Mo、CrおよびMnなどを添加させる。さらに炭素として黒鉛を0.3~0.8%添加させる。バインダー(潤滑剤)は、0.8%程度。焼結後、オーステナイト変態点で保持し、直後にガス冷却室へ移動。ガスを噴射しマルテンサイト変態点以下に急冷(2℃/秒以上)させる。

【珈琲ブレイ句】このシンターハードニング技術をMIMに応用できないか無責任に考えてみた。MIM粉末で使えそうなのは、CrとMoが多くて炭素0.4%のSCM440かな? MIM用真空脱脂焼結炉の冷却機構だと急冷は難しいけど、窒素ガスを大量に入れてファンを回せばなんとかなるかも? 実験しないと正確にはわからないが、間違いなく硬度はあがるので客先仕様を中硬度、中強度にしていただければ量産化できる可能性がありそうです。また、焼き戻しはどうするのかという課題もあります(疲労破壊試験が必要だろう)。さらに、大きな懸念がひとつ。それは精度。MIMは焼結密度が高いので硬度が高いとサイジングが効かないのです。いくつもハードルがあり、お客様との共同開発のアプローチが必要であることがわかりました。

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2022年8月30日火曜日

新しいMetal AM技術 溶融アルミAM(The ElemX AM)

 また新しい工法のMetal AMが登場した。それは、ゼロックス社の溶融アルミAM(The ElemX AM)である。原理は、溶接用のアルミワイヤーを供給材料として溶融し、その液滴を磁気流体力学 を利用して、特定の速度と特定の質量で噴射して積層造形するものである。

【珈琲ブレイ句】AM分類では材料噴射(MJT:Material Jetting)に入ると思われます。MJTの金属AMではXjetがあります。こちらはナノ粉末をジェッティングしてその場で加熱し粉末を融着させていくものでした。このゼロックス法は材料が既存の溶接用ワイヤーであり、粉末と比較して安価であることが最大のメリットだと思われます。さらに、その場で金属積層体が完成すること(脱脂・焼結工程が不要)も魅力があります。課題は高融点金属に展開できるかどうかでしょう。それにしても素晴らしい技術です。

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2022年8月23日火曜日

品質工学パラメータ設計事例5  GRG特性値結合法

 海外の文献でみるMIMのタグチメソッド(L27)。3つの特性値、外観、強度、密度をGRG法で結合。

金属粉末:GA-SUS316L(粗めの二峰分布)

バインダー組成:PEG:73%、PMMA:25%、SA:2%

フィードストック組成:因子C、3水準、64,64.5,65体積%

試験片:不明

特性値:外観、強度、密度 をGRG(Grey relational grade)法により数値化0~1(1が理想)

制御因子:A:射出圧力、B:射出温度、C:粉末量、D:金型温度、E:保圧力、F:射出速度 各3水準 L27  

《結果》A×B、A×C を考慮して最適値はA1B1C1D2E0F2である。さらに粉末量Cは注意が必要で中間の64.5VOL%が選ばれた。

参考文献:Journal of Applied Sciences,2011,Vol.11,Issue:9,P1663-1667, Multiple Performance Optimization for the Best Metal Injection Molding Green Compact

【珈琲ブレイ句】この論文からの学びは2つ。ひとつは、3つの特性値をGRG法を使って0~1の間の数字に結合して解析できちゃうこと。ふたつめは、粉末量が最大の65VOL%ではなく、中間の64.5VOL%が選ばれたこと。粉末の仕様が「A powder metal particle size distributions used is in a bimodal distribution consisting of 70% of coarse powder in a weight fraction.」という程度しか記載が無いのですが、粗い分布を含めた二峰分布ということで、もしかすると粉末量65VOL%は、タップ密度が低く、CSL最大粉末量に接近しておりバインダーが不足ぎみだったという可能性があります。

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2022年8月22日月曜日

品質工学パラメータ設計事例4   MIM不良

 海外の文献でみるMIMのタグチメソッド(L81)。MIM不良を特性値とする成形条件の最適化事例。

金属粉末:WA-SUS316L(D90=10)

バインダー組成:PEG:73%、PMMA:25%、SA:2%

フィードストック組成:粉末62体積%

試験片:引張試験片形状(80×20×t4mm)

特性値:MIM不良(discrete data technique: 離散データ、点数、重み付け)、密度

制御因子:A:射出温度、B:金型温度、C:射出圧力、D:射出速度 各3水準 L81  すべての交互作用を分析する

《結果》MIM不良に対して高度に有意なものはひとつ。金型温度の高温側に最適値がある。密度では、射出温度と金型温度が高度に有意である。どちらも高い方が原料の流動性が向上し、より多くの粉末が金型キャビティに充填されるためである。射出圧力は成形体密度に大きな影響を与えない。これはジャーマン博士の論文と一致する。

参考文献:INTERNATIONAL JOURNAL OF INTEGRATED ENGINEERING VOL. 12 NO. 4 (2020) 210-219, Parametric Optimization of Metal Injection Moulding Process Using Taguchi Method

【珈琲ブレイ句】MIM不良を特性値とする貴重な論文です。不良は計量値ではないので数値変換が必要です。この論文では、13種の成形体不良(Flashing,Weld Line,Cracking等)に点数(重み)を付けて、実験で得た成形体の品質をその点数表を使い(複数あれば合算させて?)数字に変換するものです。ただし、不良と重みの大小を決めるには相当技術力が必要になりますので重み付けの試行錯誤(加法性)が必要になるであろうと感じます(でもすばらしい挑戦的実験です!)。

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品質工学パラメータ設計事例3 成形体密度 SN比と感度

 海外の文献でみるMIMのタグチメソッド(L27)。射出条件の最適化事例。SN比だけでなく感度の分析も行われている。

金属粉末:WA-SUS316L(平均6.0、D90=10.65、TD=8.05)

バインダー組成:PP:60%、RWL derivatives(密度0.90,融点50℃):40% 2成分

フィードストック組成:粉末60体積%(CPVC:64.8体積%)

試験片:引張試験片形状(寸法不明)

特性値:成形体密度n=3、望目特性SN比、感度(平均値)

制御因子:A:射出温度、B:射出圧力、C金型温度、D:冷却時間、E:射出速度、F:射出時間、G:保圧時間 各3水準 L27

《結果》最適水準の組合せで密度5.10g/ccを達成(最悪条件では4.99g/ccレベル)。確認実験で再現性0.4%以内を確認。制御因子はSN比と感度の両方に影響するので両立する水準を決めている。

参考文献:MATEC Web of Conferences 135, 00038 (2017)Green density optimization of stainless steel powder via metal injection molding by Taguchi method

ことば:CPVC Critical Powder Volume Concentration、CSL(Critical Solid Loading)最大(臨界)粉末量と同義

【珈琲ブレイク】この論文はバラツキを減らす研究(SN比)と、平均値を調整する研究(感度)の両方検討されています。特性値が密度ですが、密度が高くなれば当然、内部不良は無くなり、成形体強度も最大化できるはずです。制御因子はバラツキ改善と平均値調整の両方に影響してしまうのですが、平均値を調整したければ「射出温度」が使えそうだということがわかります。技術的に考えると熱膨張収縮を利用するという事かな?


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2022年8月21日日曜日

品質工学パラメータ設計事例2  小物の成形

 海外の文献でみるMIMのタグチメソッド(L27)。射出条件の最適化事例。

金属粉末:WA-SUS316L(PF10F、D90=10.65、TD=8.05)

バインダー組成:PMMA:25%、PEG:73%、SA:2%、

フィードストック組成:粉末61.5体積%

試験片:全長9、厚さ0.8、ゲート高さ0.32(mm) バーベル形状

特性値:成形体強度(二点保持破断試験)n=5、望大特性SN比

制御因子:A:射出圧力、B:射出温度、C金型温度、D:射出時間、E:保圧時間 各3水準 L27  交互作用の研究も行う

《結果》A×C、E を誤差としてプーリング、有意なものは 

B×C 射出温度と金型温度の交互作用 

A×B 射出圧力と射出温度の交互作用

D 射出時間

最適条件=A1B1C2D0  

参考文献:International Journal of Mechanical and Materials Engineering (IJMME), Vol. 5 (2010), No.2, 282-289, OPTIMIZATION OF MICRO METAL INJECTION MOLDING FOR HIGHEST GREEN STRENGTH BY USING TAGUCHI METHOD

【珈琲ブレイ句】具体的な最適値の記載は省略しています。この論文からの学びは次の事です。成形体の強度を上げるためには、高い射出圧力と高い射出温度、さらに高い金型温度が良いと考えがちですが、そこには交互作用があるということです。高すぎても低すぎてもダメで、因子の組合せの妙(交互作用)というものがあるという事です。MIM成形材料はバインダーと粉末の混合体なのでハードな条件になると成分が分離してしまうという事でしょう。

 面白いのは、一つだけ交互作用が無く単独で制御できる因子があることです。それは射出時間です。射出時間が一番短いほど成形体強度が高くなっています。この理屈を推察してみると、「射出時間が短い」ということは「射出速度が速い」ということなので「見掛け粘度が低い」つまり「流動性が高い」条件で射出成形せよ!ということでしょう。(擬塑性流体

 また、一般的に保圧時間が長い程、成形体強度は高くなります。しかし、この論文では保圧時間の効果がなく誤差にプーリングしています。これは、ゲートが小さい(薄い)ので、すぐにフリーズし保圧が効かないためであると推察できます。この気づきは、ピンポイントゲートのように保圧が効かないものには射出速度でカバーできるということを示唆していますね。


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2022年8月20日土曜日

品質工学パラメータ設計事例(タグチメソッド)射出条件最適化

 海外の論文の概要を備忘録として記録する。MIM射出成形条件のパラメータ設計事例である。MIMフィードストックのレシピは、粉末SUS316L(7.93g/cc)、PEG=73wt%、PMMA=25wt%、SA=2wt%でPMMAに若干の溶剤を添加して混錬している。制御因子は、粉末量(63,63.5,64Vol%)、射出圧力、射出温度、金型温度、射出時間、保圧時間、ピストン荷重%である。特性値は、表面品位、曲げ強度、密度である。L18、3水準実験。

《結果・考察》表面品位に対して、金型温度、射出圧力、保圧時間、粉末量はすべて一番大きな水準が良かった。金型温度が高いと、原料表面とキャビティ表面領域のせん断速度が低下するので表面品位が良くなる。曲げ強度(密度)に対しては粉末量が一番多いもの(64Vol%)が良い。平均焼結体密度7.823g/cc(98.6%)、380℃予熱(加熱脱脂?)、1320℃焼結

参考文献: Optimization of Injection Molding and Solvent Debinding Parameters of Stainless Steel Powder (SS316L) Based Feedstok for Metal Injection Molding、Sains Malaysiana 42(12)(2013): 1743–1750

【珈琲ブレイ句】この論文で注目すべきは、粉末量が一番多いものは、表面品位と曲げ強度どちらも最大化できるという事です。やはり、CSLを追求していけばさらに品質が良くなることが期待できます。論文は水脱脂条件の最適化も行っており。水の温度が高すぎると膨張(Swelling)不良が発生し、脱脂時間は長い方が良いが5時間以上やっても同じという内容でした。日本国内でもタグチメソッドや実験計画法を使ったMIM論文が発表されることを期待しています。大規模実験は一見大変そうですが、短期間で技術的知見(因子の有意性、寄与率、水準と特性値の傾向)を得られ、製造条件を最適化することができるのです。

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2022年8月19日金曜日

MIM高精度化のための技術を系統図にまとめる

 備忘録として、MIM高精度化のための技術(Key Words)を系統図にまとめておく。



【珈琲ブレイ句】上記の個々の技術を極めればMIMの精度は向上していきます。幸運なことにそれぞれ副作用(技術間の交互作用)が少ないので、すべてを合算させることができます。そのとき究極のMIM高精度化が実現します。ただし、成形性が悪くなったり、一次脱脂性が悪くなったり等が多少予測されますが、技術的に(基本に返れば)乗り越えられない程の大きな問題ではないと感じています。しかし、一方、狙いの品質はQCDのバランスで目標レベルが決まるという判断もあります。さらに、MIM化のターゲットをどんな産業分野(ハイスペック、一般部品)にするかにも左右されます。

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2022年8月11日木曜日

MIMフィードストックの経時変化について

 都立大学で研究補助をしていたときのある実験結果に驚いたことがある。CSLを求めるためラボプラストミルで混錬トルクの測定*1をしていたときだ。目的業務が一段落したので個人的に入手した「プレミックスバインダー(市販品A)」を使ってMIMフィードストックの混錬トルクを測定してみた。通常であれば、粉末にバインダーを追加するとトルクが一時的に大きくばらつくが、混錬が進むとすぐに飽和(サチレート)する。それがこのプレバインダーでは、混錬トルク値が飽和せずにズルズルと下がり続けるのである。先生が用意した別のプレミックスバインダー(市販品B)では、期待通り飽和するのだった。

【珈琲ブレイ句】市販品Aは、なぜトルクが飽和せずに下がり続けたのか考えてみました。ひとつだけ思い当たることがありす。それは、入手したのが2年以上前だったのです。もし、ポリマーの酸化防止剤(劣化防止剤)が添加されていなかったら分子鎖が連続的に自己分断していくことが考えられます(ラジカル連鎖反応)。その結果、短時間で低分子化し混錬トルクが下がり続けたというのが仮説です。ちなみにロケット用のプラスチック燃料にも酸化防止剤が添加されています。この酸化防止剤*2は、私が現役時代に、MIMフィードストックに添加していたものと同じCAS-NO.でした。

《ことば》プレミックスバインダー:MIM用バインダー仕様でブレンドされた粉末あるいはペレット。金属粉末に配合して混錬すればMIMフィードストックを製作できる。(正式な固有名詞ではありません)

*1 MIM指南書 3.3.4 CSL測定事例 P71

*2 MIM指南書 3.1.2 製法別バインダーのレシピ P57


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2022年8月9日火曜日

【お知らせ】オンデマンドMIM入門・受付開始!

オンデマンドMIM入門講座(更新版)の受付が始まりました。2022/08/09



おすすめ3つのポイント
・いつでも好きな時に受講できる。時間約2.5時間
・質問を受け付けている。今、MIMで困っていることがあれば、ぜひ!
・MIM指南書「金属粉末射出成形ガイドブック」を割引価格で購入できる。

2022年8月6日土曜日

MIMフィードストック材料・添加剤の機能とKW連関図

 MIMフィードストックは基本的に3つの機能材(結合剤、可塑剤、潤滑剤)で構成されているが、MIM関連の文献には他にもいろいろな機能材名が使われている。頭を整理整頓するために、それらの機能材名と関連するKW(キーワード)を連関図にまとめた。さらにフィードストックの劣化を防ぐ酸化防止剤も必要なので加えた。



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2022年8月5日金曜日

MIM発明者ウイーチの教え

 古い技術誌にRaymond E. Wiech氏の投稿記事(小論文)を見つけた。貴重なのでウイーチ氏の教えをここに記録しておく。

・拡散率は、粒子径の2乗に逆比例するので、収縮および微粉末部の密度の上昇は粉末の粒子径を小さくすると速やかに進み焼結した製品の中に残る穴(ポア?)は小さくなる。射出成形では球状粒子が望ましい。

MIMフィードストックは安全である。しかし、金属粉末は、重量当たりの表面エネルギーが大きいので化学的に活性であり燃焼性がある。粉末の安全策としては、ゆっくり表面に酸化被膜を作り不活性化する。保管はアルゴン中が理想。混合工程は不活性ガスをブレンダーに注入する。

・金型は60℃以上の高温にする。材料約160℃、収縮率(拡大率)1.181、射出圧力はプラスチックより低く、射出速度はプラスチックよりはるかに低くする。***

・シリコン離型剤は焼結品に残渣を残し製品を汚染するので使ってはならない。リサイクルは何回でもできる。

・脱脂法は2種 ①二段法:溶剤抽出(トリクロロエチレン)+炉内加熱脱脂 ②蒸発法(大気加熱一次脱脂のことか???)

・焼結中に脱炭させる設計にする。グラファイト混合も可能。

・普通寸法公差 ±0.3%

・水溶性の例:メチルセルローズ2.0、グリセリン1.0 ホウ酸0.5,水4.5wt%

文献:Raymond E. Wiech,Arnold R.Erickson,合成樹脂 Vol.32 No.8(1986.8)p45-52

【珈琲ブレイ句】当時、MIMに関して誰も深い知識が無いので「粉体爆発が心配」という声が多かったのでしょうか? 粉体の安全性について過剰な安全管理方法を、かなりの文字数を使って提案しています。大量に粉末を取り扱わなければ問題ないと思われます。それでも、拡散率と焼結性の話しは新しい気づきでした。しかし、***成形条件のあたりで多少疑問が湧いてきました。「低く」は「高く」の翻訳ミスのような気がします??・・・。

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MIM指南書増補セルフの表を更新しました。

 更新:2022/08/05 EVAは側鎖分解とランダム分解の区別が曖昧なこと、VA濃度で熱分解温度が異なる事を表に表現しました。




2022年8月1日月曜日

臨界粉末量の極限領域

 【珈琲ブレイ句】

 もしMIMフィードストックを1種類の球体粉末でつくると,充填最大密度(CSL)は,面心立方格子充填の74vol%になる。次に,2種類の球状粉末の場合,その半径比が0.64のとき,充填最大密度は,少し増加し74.8vol%になる。さらに,2種類の半径比を極端に大きくしても(0.29以上)74vol%を超えることができる。

さらに,『粉末冶金の科学』(G RandallM. German (), 三浦秀士&高木研一(翻訳))によると,二峰充填で粒度比71のとき,充填密度が86vol%になるらしい。もし,これで射出成形ができれば,高精度MIMの世界一に違いない。

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2022年7月26日火曜日

なぜ日本製の水アトマイズ粉末は優れているのか

 1997に出版されたジャーマン先生の本には、水アトマイズは不定形であるとされていた。しかし、当時の国内粉末メーカーでは、すでに球状微細粉末を製造することができた。ではなぜ、球状微細粉末の量産化までにタイムラグがあったのか? 各社の論文や特許明細書を読み込んだ結果から推論しまとめておく。

《微細で球状化させるポイントと課題》水ジェットの噴射圧力を1000kg/cm2以上に高くし、かつ、噴射角を小さくする。しかし、微細球状粉末の量が少ない(収率が悪い)ため、コストが高くなりガスアトマイズ粉末に勝てなかった。

《微細球状粉末で収率を上げる》微細粉末にするためには、次の項目を最適化すればよい。射出圧力、水量、噴射角度、ノズル形状 この中では、スギノマシンのHPにあるような超高圧高速水ジェットを採用し、さらにノズル形状を改善して収率を上げたと推察される。たとえば、溶湯を複数に分けて落としたり、逆三角錐に広げたりすること。

【珈琲ブレイ句】日本の水アトマイズ粉末は、絶え間ない技術者の努力により研究開発・改善が行われ、今では、間違いなく世界を先導していますね。海外ではガスアトマイズと水アトマイズを直列にした革新的なものが生まれていますが、直感ですが、コストでは日本の水アトマイズが有利だと思われます。

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2022年7月19日火曜日

特願2022-112054 超高速射出点描画による熱溶融積層法

 MEX(FFF,FPF,FDF)の最大の欠点を克服する特許の出願を行いました。ご興味のあるMEX開発メーカー様は弊所へ問い合わせてください。

【特許について相談する】

MEXの最大の欠点は、『射出速度を速くできないこと』です。なぜならば、造形速度と強い相関があるためです。本特許は、射出速度と造形速度を完全に独立させて制御するアイデアです。それを実現させるための方法は、一言で言えば『点描画』です。デジタル映像のほとんどは、点の集合でできています。光でさえ(波でもあり)点の集合です。同様にデジタル技術の申し子であるMEXは、点描画で高速造形するべきだと考えています。

【明細書の抜粋:請求項および図は除く】出願日 R4/06/26

【発明の名称】超高速射出点描画による熱溶解積層法

【技術分野】 

【0001】

本発明は、付加製造技術における熱溶解積層法による立体造形物の製造方法に関する。

【背景技術】

【0002】

3Dプリンターは、コンピュータで作成された三次元の造形データを元に、造形材料を順次積層して立体物を造形する装置であり、数種類の方式が知られている。中でも、熱溶解積層法(Material Extrusion 以下MEX法)は、熱可塑性樹脂などの材料を溶かして3D積層物をレイヤーごとに作成する3D印刷方法である。積層材料は熱可塑性樹脂だけでなく、金属粉末やセラミック粉末等と樹脂を混錬して作った成形材料(フィラメントやペレット)が使われている。

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0003】

  従来のMEX法は、ノズルから溶融した材料を連続的に射出し、印刷プラットフォームをX Y軸移動制御して1レイヤー分のスライス形状を印刷するものである。その機構の制限として、射出速度は印刷速度に拘束されるという課題がある。その射出速度は、例えば、レイヤー厚さ0.3mmで印刷速度が37mm/秒のとき、射出速度は27mm/秒と一義的に決まり、射出速度だけを独立して設定することはできない。

【0004】

  積層材料が樹脂の場合であれば流動性は高く射出が容易であるが、樹脂と粉末や繊維等の複合材の場合は流動性が悪くなり、射出が困難になる場合がある。

例えば、図1に示すように、金属粉末を多量に混錬した成形材料は、その粉末配合量が増えると、見掛け粘度が指数関数的に増加し射出流動性が著しく悪くなる。現状のMEX法では、射出限界とされる見掛け粘度10poiseを達成できるせん断速度10~101/秒)を出す機能があるが、現実は、積層品質不良(レイヤー界面の不完全密着や分離、微少空隙の残存、外郭波打ち、インフィル形成不良)の対策として、印刷速度を下げる調整が多く行われる。その結果として射出速度(せん断速度と同義)が連動して遅くなるため、見掛け粘度が悪い状態の中で試行錯誤の改善が行われるという課題がある。

【0005】

本発明は、上記課題を解決させることを目的とする。

【課題を解決するための手段】

【0006】

本発明は、超高速射出による点描画によるMEX法で造形物を製造する方法を見出した。

【0007】

MEX法の3Dプリンターにおいて、シリンダー(バレル)内で熱溶解した材料を、ピストンによる射出速度を独立して制御できる機構において、ピストンを間欠的に一回射出量だけ打ち出す、その点描画印刷の反復により三次元造形させていくものである。ピストン加圧は、超高速に上下し、射出時のせん断速度は10~101/秒)にする。このせん断速度は、一般的なプラスチック射出成形機技術で使用されているレベルであり、例えば、油圧サーボ機構、ボールネジとサーボ機構、回転カムと従動ピストン機構等により達成させる。 

【発明の効果】

【0008】

 金属粉末を50~70VOL%と樹脂(滑剤、可塑剤、ポリマー)を混錬して作った成形材料(フィラメントやペレット)を使った射出は、擬塑性流体の性質を有し、せん断速度を上げると粘度が低下する性質がある。このせん断速度を上げることは、射出速度を上げることと同義である。図1の流動性を評価するキャピログラフでわかるように、せん断速度が低い時には見掛け粘度は非常に高い。また、金属粉末を多量に混錬した成形材料は、その粉末配合量が増えると、見掛け粘度が指数関数的に増加する。

しかし、粉末が多量に配合された材料でも、せん断速度10~101/秒)の超高速射出で行えば、見掛け粘度が急激に下がり、射出性が向上し積層造形品質を向上させることができる。

【0009】

 さらに、粉末配合量を限界まで増やすこと(バインダー量を最少化すること)ができれば、粉末粒子間距離が最小化でき、粒子の接触点数が増加し積層体(グリーン体)のハンドリング強度をあげることができる。そして、次工程で脱脂および焼結をして金属焼結体(シルバー体)が作られるが、バインダー量が最少であれば収縮率が最小化できるので、焼結体の機械的性質および寸法精度を向上させることができる。

【図面の簡単な説明】

【0010】

【図1】5種類の材料の溶融粘度キャピログラフ

【図2】本実施形態における立体造形物の製造方法の概念図である。

【図3】ノズル近傍拡大図

【図4】間欠射出のピストン移動量タイムチャート

【図5】間欠印刷移動距離の説明図

      ◆図は省略◆

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2022年7月17日日曜日

Metal AM とMIMの共存共栄の事例

 国内MIM関連メーカーから、MIM Like AMを商品にしたものが出現し始めている。私が気が付いた順番で、ここに記録していく。

・太盛工業(MIMメーカー):LMM方式のIncus社HAMMER LAB35、LMM方式なのでBJTでは使えない超微細粉末が技術的に可能。従ってマイクロMIMにも発展しそうな予感がする。 

・第一セラモ(フィードストックメーカー):FPF用フィードストック販売、S-Lab(FPF機)と島津産機システムズ(脱脂焼結炉)、近畿大学との共同研究開発品。

・CASTEM(MIMメーカー):DIGITAL SINTER、たぶんFFFでBASF系フィラメントを積層してMIM技術で触媒脱脂&焼結。材種は、SUS316L(相当)、SUS630。


【珈琲ブレイ句】新しいことにチャレンジするレスポンスが良い即応力のある企業は、やっぱり大企業系ではないですね。中小企業の活気に期待するばかりです。HPを見ても、とくにCASTEMさんのHPは日進月歩で刷新されており、自社のMIM Like AM技術に付けた「DIGITAL SINTER」というネーミングも素敵です。「新しいビジネスモデルに名前を付けること」それは差別化の基本なのです。流石!


2022年7月14日木曜日

【MIM指南書(増補・セルフ)】ジャーマン先生の教え 理想的なMIMパウダー

 【MIM指南書(増補・セルフ)】

MIM指南書「金属粉末射出成形ガイドブック」 P61 の表3.7 推奨するMIM用金属粉末の仕様 の 下に、貼り付けてください。


【珈琲ブレイ句】高強度・高精度MIMを目指すならば絶対に必要である4つの仕様を表3.7に明記しています。さらに、ジャーマン先生はそれ以外に6つ加え合計10の仕様が理想的なMIM粉末であるとしています。(ジャーマン先生の本3章 Powders )

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対数正規勾配パラメータに関するBLOG

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【MIM指南書(増補・セルフ)】表3.3脱脂法別バインダー例 事例追加

 【MIM指南書(増補・セルフ)】

MIM指南書「金属粉末射出成形ガイドブック」 P57 表3.3 脱脂法別バインダー例へ 「事例7’」さらに「事例7’’」を追加しました。下の表を印刷して貼り付けてください。(エクセルに貼り付けて53%±微調整で印刷)


【珈琲ブレイ句】最近の公開情報に貴重なレシピを見つけたので事例7’’として追加しました。相溶性が悪いポリマーでMIMフィードストックを作るのは相当苦労するし、混錬が不十分だと成形不良も多くなる傾向があるのです。なるほどな~! と思うところは、相溶性の悪いポリマーには相溶性がが良いポリマーをセットにすること、さらに、「THE接着剤」(ホームセンターでも売っている)も添加しているところです。しかし、このTHE接着剤は、N2加熱脱脂だと少し残渣が残るのですが、添加量が一桁と少ないのでC%増は無視できると判断されたようです。他にも、新しい酸化防止剤を知ることができました。フィードストック設計の参考になる情報です。

2022年7月13日水曜日

バインダー量と伸び尺の関係

 バインダー量(Vol%)と伸び尺(OSF:Oversize Shrinkage Factor)の公開データを見つけたので、グラフ化し備忘録としてここに記録する。参考文献:Powder Injection Moulding International Magazin Vol.16 No.2 P97


【珈琲ブレイ句】ワイドレンジで収縮率のデータが公開されることはめったに無いので、たいへん貴重なデータです。ただ残念なのは、焼結密度の記載がないので実務には直接使えませんが、バインダー設計の参考にはなります。さらに、いくつかの気づきが得られます。バインダー量が、極限まで少ない30Vol%の実績データが存在すること。また、私の経験値よりこのグラフの値は、焼結体密度は低めの傾向であることが読み取れること。近似式は、Y=7×10^-5×X^2+0.0012×X+1.0267 ですが、あくまで参考値として使ってください。Y=伸び尺、X=バインダー量(vol%、体積%)

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2022年7月5日火曜日

脱脂焼結中の収縮変化(溶媒脱脂VS加熱脱脂)

 古い論文に、3STD系と思われる脱脂と焼結における収縮変化を非接触測定したものがあった。この論文は、窒素雰囲気で加熱脱脂・焼結を行ったもので、右肩上がりに1000℃まで、一直線に膨張(1%)し、1000℃をピークに急激に収縮する。一方、ジャーマン先生の溶媒脱脂の実験では、溶媒脱脂で1%膨張し、二次加熱脱脂初期に0.2%膨張し、150℃で-1.5%収縮し、400℃バーンアウトで-1%収縮する報告であった。大きく異なるふたつの実験を一つのグラフに重ねた。 グラフDの二点鎖線は、バーンアウト後は、ABCと同じ傾向であるとした推定である。すべて、バインダー量は40VOL%である。材質SUS316Lは共通。



ジャーマン先生の実験に関する過去のBLOGを見る

【珈琲ブレイ句】ジャーマン先生は脱脂による収縮の理由として、粉末間に残ったバインダーの表面張力や毛細管現象による再配列としているけれど、加熱脱脂では、なぜ収縮は起こらないのでしょうか? 加熱脱脂中に生成される炭素(バーンアウト後C=約0.2%くらい増える)が、接着剤の役割をする、あるいは、高摩擦物質として働いて収縮を阻止しているのかもしれません。いずれにしても、通常は脱脂中の膨張収縮は気にしなくてよいのですが、二色成形(2C-MIM)や中子インサート成形に割れ不良が発生する場合は、少し考えた方が良いかもしれません。

参考文献(Fig.2):川崎製鉄技法 24(1992)2,129-134

Fig.2 の誤記訂正 誤:WS-SUS316L 正:WA-SUS316L(水アトマイズ)

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