2023年3月31日金曜日

高品質金属粉末をつくるEIGAに注目する

チタン合金や活性金属を含む超合金のような高品質金属の粉末製造法でどれが良いか考察した。その結果、品質とコストでEIGAが一番という結論に至った(私見)。その理由を以下にまとめる。

EIGA(Electrode Induction Melting Inet Gas Atomization)電極誘導ガスアトマイズ法:合金ロッドを回転させ誘導コイルで連続溶融させ直下のガスノズルでアトマイズする方式

理由1:真空、不活性ガスチャンバー内でガスアトマイズするため酸素の汚染が少ない。O=0.10

理由2:高価な合金ワイヤーを使うPA(プラズマアトマイズ)と比較して、EIGAは相対的に安価な合金ロッドを使うため材料費が安い。さらに比表面積の差でワイヤよりロッドの方が酸素量が少ない(100ppm)

理由3:真空誘導溶解不活性ガスアトマイズ法VIGAでチタン合金を扱った場合、溶解炉の耐火物がコンタミとして混入する。EIGAではコンタミは発生しない。

理由4:真球度0.92、サテライトがほとんどつかない、粉末内のガスが少ない(相対密度99.4%)

理由5:プラズマ回転電極法(Plasma Rotating Electrode Process)と比較すると、相対密度99.999%では負けるが、球径 30-150μm(電極棒φ70mm×20,000rpm)と大きいので、微細粉末を指向するならEIGAの方が有利

【珈琲ブレイ句】EIGAは主にL-PBFの金属3D積層(Metal AM)用の粉末をターゲットにしています。そのため粒径は流動性を確保するために大きめの15~45μmを狙って作られています。MIM技術伝道士としては、どうしてもMIM用微細粉末を作れるのかを考えます。EIGAは従来のガスアトマイズ技術を採用しているので技術的には可能であると思われます。

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2023年3月30日木曜日

一部のカルボニル粉にシリカが添加されている理由

 【珈琲ブレイク】MIM黎明期からカルボニル鉄粉が使われています。種類としては還元の有無で(炭素の大小)2種類です。しかし、化学成分を確認するとシリカが微量入ったものがありました。理由を聞いても明確な回答がなく、当然MIM焼結体の化学成分にシリカが残存するので、その種類はMIMに採用しませんでした。

先日ジャーマン先生の本を読み返していたら、その答えが記載されていました。一部のカルボニル粉にシリカを添加する理由は、「粉砕を容易にするため」です。つまりカルボニル粉の製造工程で発生する凝集を解くためです。

実はこのアイデアは、BJT用の粉末で応用されています(日本企業の特許です)。その効果は、凝集を解くだけでなく「粉体の流動性を向上させる」ものです。でも、欠点があります。流動性向上剤である微細なセラミックが焼結体に残存することです。

そして、この欠点を解決するアイデアが登場します。それは、セラミック微細粉末の代わりに固体潤滑剤であるメラミンシアヌレートの微細粉末を微量添加するものです。メラミンシアヌレートは加熱脱脂中に、主に窒素ガスとなり焼結体に残ることはありません。実はこのアイデアも日本の特許です(嫁入り先募集中です)。発明の名称:バインダジェット法に用いる積層造形用金属粉末

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高精度・高密度化が実現するバイモーダル粉末

 バイモーダル(bimodal)粉末とは大きな径の球体粉末と小さな径の球体粉末を適切な配合比で混ぜると、嵩密度(タップ密度)が向上し、粒子間距離が最小化し、接触点が増えるため、脱脂焼結による粉体のすべりが最小化し、焼結密度も向上するものである。実際には粉末は分布を持っているので、二峰分布配合がそれにあたる。さらに、粉末平均径を大中小とするものをtrimodal粉末という。

【珈琲ブレイ句】バイモーダル粉末は、工具鋼のMIMで実際に採用しました。上記の効果の他に、粉末製法の違うものを組み合わせることで、焼結特性をずらすことができ炉内温度バラツキにも強い(ロバスト性が高い)焼結体ができました。ピン止め効果を発現させるものと効果が似ています。 ついでに、trimodal粉末のイメージは、グラスに大豆と小豆さらに胡麻を入れた感じです。グラス内の穀物の総重量(嵩密度)が大きくなるのが直感でわかりますね。

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2023年3月28日火曜日

アルミ6061のBJT事例

 Kymera International社が、Sinterbased Metal AM用に開発したアルミ6061粉末を使ったBJT積層の事例を記録する。

粉末:AA6061(Al-Mg-Si)、窒素ガスアトマイズ粉、<63μm、見掛け密度 1.53 g/cm3 、Carney flow 21.0 s/50 g

積層:BJT方式、バインダー2%(重量損失部分として)

脱脂焼結:脱脂:窒素、500℃、25℃/分、1H保持 焼結:窒素、625℃、2℃/分、2H保持

結果:焼結密度:2.67g/cm3(98.9%)、収縮率16%(XY)、21%(Z)

【珈琲ブレイ句】Sinterbased Metal AM(MIM-Like AM)用の粉末で、公称粉末サイズが63μmアンダーと粗いのですが、焼結密度が98.9%であることに驚きました。どんな粒度分布をしているのか見てみたいです。粗い粉末を使う理由は粉末の自由落下による流動性を確保するためですが、漏斗のホールが大きいCarney flow測定で21s/50gとかなり時間がかかっています。MIM用粉末でさらに微細(<20μ)にするとたぶん流動が苦しくなりBJTでは問題になる可能性がありそうです。MIMであれば粉末の自由落下流動性を考慮する必要はありません。そしてMIMの焼結密度はこのデータより上がりそうですね。

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2023年3月15日水曜日

「粉末冶金の科学 」の増刷

【珈琲ブレイ句】 国会図書館で閲覧しているジャーマン先生の本「粉末冶金の科学(翻訳:三浦先生) 1996」が2020年に増刷されているのを知り、座右の書として購入しました。コレクター価格ではなく定価で購入することができてうれしいです。

でも、なぜ今、増刷なのか?

その理由は、たぶん・・「金属粉末を使用した付加製造技術(Metal AM)」の登場で粉末冶金を学び直す人たちが増えたためだと思われます。とくに微細粉末を扱う、Sinter Based Metal AM (=MIM Like AM)関係者の必読書ですね。

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2023年3月12日日曜日

ブドワール反応を身近なもので理解する

 【珈琲ブレイ句】ブドワール反応(ブドワールの平衡式、ブードア平衡)は次の反応式で左から右へ、右から左へ双方向に進みます。CO2+C←→2CO 

MIMバインダーにも使われているパラフィンワックスを使ったローソク(蝋燭)で考えてみましょう。ローソクの炎は完全燃焼部(約1400℃)と不完全燃焼部(約800℃)があります。この不完全燃焼部から一酸化炭素COが発生しています。炎の上に冷えた金属板を被せると「煤(スス)」が付着します。これは、金属板に炭素)が付着し二酸化炭素CO2は逃げていったという事です。ブドワール反応の右から左への反応です。この逆の反応がMIMを焼結するときに発生しているということです。金属粉末の酸素と金属粉末の炭素(およびバインダー由来の炭素)が反応してCOになっているということです。さらにCOは有毒ガスなのでMIM脱脂焼結炉で発生するCOは室外へ完全に排気する必要があることもわかります。

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2023年3月11日土曜日

焼結中の炭素と酸素のブドワール反応

 焼結体の炭素Cと酸素Oの量は、粉末のCとOの量と同じにならない。それはブドワール反応(Boudouard reaction)が起こるためである。

ブドワール反応 : CO2+C ←→ CO

【珈琲ブレイ句】この反応は圧力により変化し真空度が高い程低温でCO反応が優勢になっていきます。通常焼結1.33Paでは、600℃以上でCO反応が支配的になるという報告もありますが、現場の焼結チャートを観察すると900℃あたりからCO反応が激しくなっているのがわかります。実際の焼結品の炭素量は、ほぼCO反応だけで、「CーO/1.33」として計算できます。1.33は1モルのCとOの質量差です。もしこの計算がズレる時は、一次二次脱脂不完全によるバインダー由来の炭素が増えた。あるいは、酸化(錆び含む)で酸素が増えている可能性があります。

参考:”射出成形したSUS316Lステンレス鋼の脱脂、焼結過程におけるC,Oの挙動” 杉山、村田、天野、和出、木村、粉体および粉末冶金、第44巻第5号、416

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