2026年5月3日日曜日

マイクロ金属射出成形の田口メソッドを使った論文から学ぶ

 田口メソッドを用いたマイクロ金属射出成形における成形体強度を特性値とする射出成形のパラメータ設計より

Single Performance Optimization of Micro Metal Injection Molding for the Highest Green Strength by Using Taguchi Method 、Vol. 2 No. 1 (2010)  International Journal of Integrated Engineering

《実験仕様》

直交表:L27 3水準系

粉末:Epson Atomix SS316L-PF10F(TD:4.06g/cm3、D50:5.96μm)

バインダー(PMMA,PEG,SA:25,73,2)。 

粉末配合:61.5vol%、

テストピース:ダンベル型(外寸9×1.1×t0.8mm)、サイドゲートt0.32mm

特性値、成形体の強度(MPa)、反復5、膨大特性のSN比に変換して分析

《制御因子と水準》

《結果》


コメント:

有意な制御因子は、A、C、A×B


【珈琲ブレイ句】初めにあれ?と感じたのは、タップ密度が低いこと(TD:4.06g/cm3)、2014年のメーカー発表データでは4.5g/cm3ですから相当低いのです。2010年頃の粉末品質が良くないのか、タッピング密度の測定方法が旧式で悪かったのか? どちらかですね。

 本実験からわかることは、成形体の強度を高くするためには、「金型温度は高い方がよい」ということです。 金型温度は実験水準内の外、さらに高い方向に最適解があることがわかります。追加実験と確認実験は必要ですね。

 射出圧力Aと射出温度Bとの間に交互作用が発生しています。その理由を2つ考えてみました。 ①フィードストックの成分に潤滑材が少ない。SAを増やす、PWを付加する。②マイクロMIMの実験ということですが、粉末は普通のMIMに使用するPF10Fです。そのため小さなゲート近傍で金属粉末とバインダーが分離している可能性があります。マイクロMIMであれば、PF5くらいの微細粉末を使ったら結果が変わっていたかもしれません。


『これから、直交表を使った実験を始める方にアドバイス』

 タグチメソッドは交互作用の研究は行わないので、交互作用を全列に交絡させたL18直交表を使うようにしてください。また、分散分析も不要です。昔、田口先生が「分散分析など難しくするから現場が使わないんだ」と仰っていました。要因効果図を描いて最大値の水準を選び確認実験を行って再現性があればOKです。技術の現場は「Why」より「How」を優先させて、スピーディに差別化するところです。

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2026年4月21日火曜日

ゲルベース金属3Dプリンティング技術を学ぶ

 米国のスタートアップ 3D Architech Inc. が開発したゲルベースの金属3Dプリンティング技術(GEMM: Gel-enabled metal manufacturing)について少しまとめておきます。同社 の共同創業者兼CEOである 成田 海(なりた かい)氏 が中心となって開発した、従来の金属3Dプリンターの常識を覆す高精度と低コストの両立を実現させた画期的な手法です。

3D Architech, Inc. 

《造形方式》 金属塩を含む特殊なゲル(感光性樹脂)を、光造形3Dプリンターで硬化させた「ゲルの造形物」を、脱脂、焼結還元を経て金属造形物へと置き換える。

《超微細造形》 従来の金属プリンター(MEX,BJT)の解像度が100μm程度であるのに対し、10μm以下という極めて微細な構造(マイクロラティスなど)の造形が可能。

《汎用プリンターの活用》 高価な装置を必要とせず、市販の安価な光造形機(SLA/DLP)でも造形が可能。

【珈琲ブレイ句】3D Architechの積層する金属材料は、金属粉末ではありません。ゲル化分子レベルの金属塩を造形するAM技術です。

目指すターゲットは、髪の毛よりも細い構造を組み合わせた「マイクロアーキテクチャ(微細格子構造)」です。10μm単位の極薄の壁や、複雑に絡み合う微細な管路など、他の方式では物理的に不可能な領域を狙っています。

MIMやMEX、BJTは部品を造形するものですが。3D Architechは、単なる「形」を作るだけでなく、金属の微細構造によって熱交換効率や触媒性能などの物理的な限界値を引き上げる金属の「機能」を再定義する可能性があります

現在、造形物は純金属が主流ですが、数種類の金属塩を使うことで合金も可能らしいです。日本人が発明した新技術に期待しています。

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2026年4月15日水曜日

4605低合金鋼の論文を読んで(カーボンコントロール)

ガスアトマイズ4605粉末、溶媒脱脂系バインダーを使ったMIMフィードストックによる焼結体の焼結密度、硬度、強度を特性とした研究論文( 2019年)です。

(99+) The Effect of Powder Loading and Binder System on the Mechanical, Rheological and Microstructural Properties of 4605 Powder in MIM Process

論文の要旨

4605低合金鋼のMIMにおけるレオロジー特性および機械的特性に及ぼすの粉末充填量の影響を調査した。バインダーはパラフィンワックス(PW)、ポリプロピレン(PP)、カルナバワックス(CW)、ステアリン酸(SA)を異なる割合で配合した2種類を比較した。粉末の配合量は、55、60、65vol%の3種の配合とした。焼結した引張試験片について、引張強度、硬度、密度、レオロジー特性を測定した。その結果、粉末配合量の増加に伴い、引張強度、硬度、密度が増加することがわかった。また、主鎖ポリマーの割合が高いほど、最終部品の機械的特性が向上することが観察された。最適な配合は、PW 55wt%、PP 25wt%、CW 15wt%、SA 5wt%の原料に、粉末を65vol%添加した系であった。試験片はMPIF 50引張試験用形状、ヘプタン溶媒脱脂、二次加熱脱脂・焼結(Ar雰囲気)。

【珈琲ブレイ句】粉末配合量が多いほど引張強度、硬度、密度が高くなっているのは納得できます。  一方、PPの割合が多いほど、同様に引張強度、硬度、密度が増加するという結果には注意が必要だと感じました。この主要因は炭素量で、PPの割合が多いほど炭素量が多くなっていることは論文から読み取れます。4605鋼なのにCが1wt%になっているものもあります(増加した残留炭素が0.5wt%程度ある)。 また、引張強度が高くなれば、衝撃強度は低くなっている可能性があり4605鋼の用途としては不適切な可能性があります 

 低合金鋼において、プロセス設計が不十分な結果として生じた「炭素増加」をポジティブに評価するのは、再現性の観点からも非常に危険です。「炭素による強化」を謳うのであれば、本来は「脱脂・還元を完璧に行い、カーボンフリーにした後に、狙った量のグラファイトを添加して制御したデータ」と比較すべきです。現状のデータは「バインダーが抜けきらなかった副作用を、引張強度、硬度、密度の数値向上で正当化している」という側面が強いのではないでしょうか。つまり 「カーボンコントロールに課題がある」という論点が見落とされている?ということです。

いろいろ学べる、すばらしい論文です。論文から二次脱脂・焼結プログラムFig.2を添付しておきます。MIM指南書P127 図4.22と比較してみてください。なぜバインダーPP類が炭素として残留したのか?


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