2026年4月15日水曜日

4605低合金鋼の論文を読んで(カーボンコントロール)

ガスアトマイズ4605粉末、溶媒脱脂系バインダーを使ったMIMフィードストックによる焼結体の焼結密度、硬度、強度を特性とした研究論文( 2019年)です。

(99+) The Effect of Powder Loading and Binder System on the Mechanical, Rheological and Microstructural Properties of 4605 Powder in MIM Process

論文の要旨

4605低合金鋼のMIMにおけるレオロジー特性および機械的特性に及ぼすの粉末充填量の影響を調査した。バインダーはパラフィンワックス(PW)、ポリプロピレン(PP)、カルナバワックス(CW)、ステアリン酸(SA)を異なる割合で配合した2種類を比較した。粉末の配合量は、55、60、65体積%の3種の配合とした。焼結した引張試験片について、引張強度、硬度、密度、レオロジー特性を測定した。その結果、粉末充填量の増加に伴い、引張強度、硬度、密度が増加することがわかった。また、主鎖ポリマーの割合が高いほど、最終部品の機械的特性が向上することが観察された。最適な配合は、PW 55重量%、PP 25重量%、CW 15重量%、SA 5重量%の原料に、粉末を65体積%添加した系であった。試験片はMPIF 50引張試験用形状、ヘプタン溶媒脱脂、二次加熱脱脂・焼結(Ar雰囲気)。

【珈琲ブレイ句】粉末配合量が多いほど引張強度、硬度、密度が高くなっているのは納得できます。  一方、PPの割合が多いほど、同様に引張強度、硬度、密度が増加するという結果には注意が必要だと感じました。この主要因は炭素量で、PPの割合が多いほど炭素量が多くなっていることは論文から読み取れます。4605鋼なのにCが1wt%になっているものもあります(残留炭素が0.5wt%程度)。 また、引張強度が高くなれば、衝撃強度は低くなっている可能性があり4605鋼の用途としては不適切な可能性があります 

 低合金鋼において、プロセス管理が不十分な結果として生じた「炭素増加」をポジティブに評価するのは、再現性の観点からも非常に危険です。「炭素による強化」を謳うのであれば、本来は「脱脂・還元を完璧に行い、カーボンフリーにした後に、狙った量のグラファイトを添加して制御したデータ」と比較すべきです。現状のデータは「バインダーが抜けきらなかった副作用を、引張強度、硬度、密度の数値向上で正当化している」という側面が強いのではないでしょうか。つまり 「カーボンコントロールに課題がある」という論点が見落とされている?ということです。

いろいろ学べる、すばらしい論文です。論文から二次脱脂・焼結プログラムを添付しておきます。MIM指南書P127 図4.22と比較してみてください。なぜPPが炭素として残留したのか?


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2026年3月30日月曜日

マルチモーダル粉末配合による高タップ密度化

 バイモーダル粉末配合の概念図を見つけたのでアップします。大きな粉末と小さな粉末を配合することで、配合粉末の嵩密度は、それぞれ単体の嵩密度より高くなり、配合比のどこかに最高密度があることがわかります。


【珈琲ブレイ句】この事例は、2種類(バイモーダル)ですが、3種類だとトライモーダルになり「大豆に小豆を混ぜて、その隙間に胡麻を入れる」イメージです。 広義で、2種類以上をマルチモーダル粉末配合と呼んでいます。

ここで、注意することは、1種類には分布があることです。つまり「峰」なので、実際の配合は上図のように単純なモデルではありません。最大タップ密度となる配合比は、実験で見つける必要があります。

関連BLOG:二峰分布混合の威力

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2026年3月29日日曜日

バインダージェット(BJT)の「グリーン体」を科学する

金属AM(バインダージェット:BJT)に関する非常に興味深いレビュー論文*1に目を通しました。MIM屋にとって、BJTは「金型のいらないMIM」として親しみやすい反面、その「グリーン体」の脆さや密度のバラツキに頭を悩ませることも多いはずです。今回は、論文から見えた「グリーン体造形の科学」を、実務の視点で表にまとめたので共有します。

参考文献*1:“Binder jet additive manufacturing: a review of modelling approaches and experimental observations on green part printing” ,Mohan Sai Ramalingam , K. N. Chaithanya Kumar , Shashank Sharma , Sameehan S. Joshi & Narendra B. Dahotr、(Virtual and Physical Prototyping, 2025)


【珈琲ブレイ句】 結論は、「グリーン体がすべてを決める」です。MIMでも同様ですが、後工程(脱脂・焼結)が高度な工法であっても、成形体(グリーン体)の品質が悪ければ、最終製品の密度も精度も上がりません。

BJTにおけるグリーン体の品質は、大きく分けて以下の3つの相互作用で決まります。

1. 粉末特性: 粒径分布と形状(球形か否か)。

2. バインダー特性: 粘度と表面張力(染み込みやすさ)。

3. プロセス: 層の厚みと液滴の間隔、そしてヘッドの移動速度。

特に興味深いのは、バインダー液滴が粉末床に衝突した瞬間、単なる「染み込み」だけでなく、「慣性による広がり」が初期の解像度を支配するという点です。

2. 計算モデリング(DEM vs CFD)の使い分け

論文では、目に見えないミクロな挙動を解明するために2つの手法が挙げられていました。

DEM(離散要素法): 粉末一つ一つの「粒」を計算します。ローラーで粉を敷く際の「充填のムラ」を予見するのに適しています。

CFD(流体解析): バインダーという「液」の動きを計算します。毛細管現象で粉の隙間にどう浸透するかを可視化します。

最近ではこれらを組み合わせた「マルチフィジックス解析」が進んでおり、現場の「勘」が理論で裏付けられつつあります。

やはり、「《ミクロ》シミュレーション」と「《マクロ》パラメータ設計と検証」の合わせ技で、技術の差別化できることがわかりますね。

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