2026年5月16日土曜日

技術コンサルタントがネガティブに感じた事例①

《前書き》

 技術コンサルタントとして現場を観察していると、ネガティブで深刻な問題に気づくことがあります。たとえば、「技術のブラックボックス化」や、「勘と経験」に依存した場当たり的な対応への回帰です。コンサルタントの役割は、こうしたリスクを可視化し、背景や原因を整理したうえで、改善策を提案することだと考えています。しかし実際には、提案が十分に受け入れられず、大きな改善につながらないケースも少なくありません。その背景には、現場側の「変化に対する不安」や、「外部からの指摘に対する心理的な抵抗感」があるように感じています。強く指摘すれば関係性を損なうので、現実には難しいバランスが求められます。

 

【珈琲ブレイ句】

 前日のブログでも書きましたが、寸法のチューニング目的で焼結温度を下げる対策などもネガティブな事例です。ここで、もうひとつネガティブな事例を紹介しておきます。

『MIMの脱脂焼結工程で、焼結体にテンパーカラーによる表面変色がついたため、対策として、アルゴン圧力コントロール下での焼結が完了したのち、炉内冷却前に、アルゴン(窒素)を封入して外気圧より炉内の圧力を高くする。その結果テンパーカラーが無くなった。さらに、この条件が標準になっていた。』

現場は「炉内を陽圧(大気圧より高く)にすれば、外気の巻き込み(酸素の侵入)が防げて変色(酸化)を抑えられる」という近視眼的な「対策」です。ここには大きな3つの問題があります。

1. 冶金学的な問題

変色の「真因」の追究が不十分である。

テンパーカラー(酸化被膜による変色)が発生したということは、炉内の高温域、あるいは冷却の特定フェーズにおいて、許容値以上の酸素(または水分)が存在していたことを意味します。その根本原因としては、炉体や配管・バルブからの微小なリーク(外気流入)、アルゴンや窒素ガスの純度不足、あるいはガス導入経路での大気巻き込み等が考えられます。しかし、現在の現場での対応は「(大気が)入ってくるからガス圧を上げて押し返す」という対症療法(応急処置)に留まっています。

2. 設備保全管理の問題

リークの根本原因を特定し、恒久対策を迅速に講じる設備管理体制(システム)が機能していない。

3. プロセス管理(再現性)の欠如

「焼結完了の段階でアルゴンを封入する」という個別のオペレーションが、一時的な応急対策であればやむを得ませんが、現場の裁量に依存したプロセス管理では、長期的な品質の再現性に懸念が残ります。この運用が仮に社内標準として定着しているのであれば、品質管理・QCDを組織的に統制すべき技術部門の「技術統治(技術ガバナンス)」が脆弱である可能性を示唆しています。

関連BLOG:「テンパーカラー」は「MIM設備保全の警告信号」

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2026年5月14日木曜日

MIMの密度は望目特性ではなく望小特性と考える理由

 【珈琲ブレイ句】MIMの成形体密度および焼結体密度をタグチメソッドの特性値として扱う際、私は「望目特性」や「望大特性」ではなく、あえて「望小特性」として捉えるべきだと考えています。その論理的背景について、あくまでも個人的な意見として共有します。

《理由1》品質工学の観点

一般的には、密度は高いほど良いと考えられるため、「望大特性」として扱いたくなります。しかし私は、理論密度から実測密度を差し引いた“密度差”を特性値とし、それを「望小特性」として評価すべきだと考えています。

その理由は、「望大特性」のSN比には、ばらつき評価において平均値の寄与が過度に反映されやすい傾向があるためです。すなわち、平均値が高い条件では、ばらつきの影響が相対的に見えにくくなる場合があります。

一方、「理論値−測定値」という偏差を用いて「望小特性」として扱えば、理論密度への到達度と安定性の双方を、より直接的に評価しやすくなると考えています。

《理由2》MIM技術の観点

また、「望目特性」を選択することには、平均値そのものを調整・管理する意図(いわゆるチューニング)が含まれます。しかし、MIM技術において、特に焼結密度を意図的にコントロールする運用については、私は否定的な経験しか持っていません。

実際に、焼結体寸法を調整する目的で焼結温度を下げるチューニングが行われている現場を見たことがあります。しかし当然ながら、そのような条件ではMIM焼結体の品質は低下し、表面品位だけでなく機械的強度も悪化していました。

私は、MIM焼結体の寸法調整は、焼結条件によって密度を犠牲にして行うべきではなく、バインダー量の微調整によって対応すべきだと考えています。

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2026年5月12日火曜日

あるL27直交表を使った実験の残念なところ

参考文献:Green density optimization of stainless steel powder via metal injection molding by Taguchi method  ,AM Amin1, MHI Ibrahim1, MY Hashim3, OMF Marwah2, MH Othman3, Muhammad Akmal 

 「田口メソッドによる金属射出成形を用いたステンレス鋼粉末のグリーン密度最適化(2017)」と題する研究論文を読んでみました。すばらしい実験なのですが、残念なことが2つあります。

ひとつは、L27直交表の交互作用列に因子が割り付けられているので交互作用と割り付け因子の効果が交絡して評価できないのです。

ふたつめは、特性値である成形体密度が望目特性として分析されています。個人的には成形体密度は理論値に近ければ良いと考えています。そこで、特性値として成形体密度と理論値との差を望小特性として解析してみました。理論値は不明なので、実験内の最大値に+0.004を加えた「5.13g/cm3」としました。

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単独に評価できる因子は、1列A,2列Bと5列Eの3つだけです。Eは誤差としてプーリングしたのでAとBだけの要因効果図を描きました。

A射出温度は第2水準と第3水準の間が良いと判断されます。温度をさらに上げても成形体密度の向上はわずかであることがわかります。むしろ熱劣化の可能性があるので温度を上げすぎない方がよいでしょう。

B射出圧力は、水準2が最適条件です。実験範囲内で射出圧力に上限(最適値)があるということは注目すべき結果です。分散分析で寄与率が28%と一番高く、F検定でも有意であることがわかります。


【珈琲ブレイ句】L27直交表には単独に3因子しか割り付けできません。各列の成分が示す交互作用を研究する直交表です。(余談ですが、どうしても残りの4因子をL27に割り付けたければ3群の交互作用成分の多い列を選ん方が良いと思います。9,10,12,13列)そして確認実験をして再現性を確認する必要があります。

一方、タグチメソッド用のL18直交表であれば、18行の実験で8因子を割り付けることができます(2水準1因子+3水準7因子=8因子)。