2026年7月1日水曜日

射出圧力および流量が成形体特性に及ぼす影響について

「射出圧力および流量が成形体特性に及ぼす影響」という大変優れた論文について、いくつかの発展的な疑問点とその原因について考察いたしました。

参考論文:"Influences of Injection Pressure and Flow Rate to the Green Properties", International Journal of Engineering & Technology, 8 (1.12) (2019) 51-54 

目的:射出圧力と流量が、グリーン体(成形体)の表面欠陥、密度、および強度に及ぼす影響を明らかにする。


実験条件と結果(平均成形体密度)

要因効果図

《疑問点》 流量と成形体密度の要因効果図(Fig,3)において、中間圧力の650barのデータだけが、他の2水準と大きく異なっている。

《原因の仮説》 実験に使用した射出成形機には「油圧式の流量補償機能」が備わっていると推測されます。この機能により設定流量は保証されるものの、実際の射出圧力は設定値から乖離している可能性があります。 具体的には、流量を維持するために成形機側で圧力を制御した結果、一部の条件でいわゆる「圧力飽和状態」に陥っているのではないかと疑っています。これは、実際の圧力波形を観察・比較することで検証可能です。

《対策案》 MIMフィードストックは擬塑性流体であり、流量(せん断速度)を変化させると、見かけ粘度は対数スケールで大きく変動します。 そのため、一律の設定ではなく、各流量水準ごとに「実際の圧力が飽和しない適切な射出圧力(大・中・小)」を個別に割り当てるような「水準組み合わせの最適化」を行うことで、傾向の乱れを解決できると考えます。実験計画にあたっては、事前に多少の予備実験が必要です。

【珈琲ブレイ句】本論文に関する意見ですが、そもそも油圧サーボ射出成形機においては、実験因子として「流量」のみを考慮すれば十分であり、「射出圧力」の設定は不要である可能性が考えられます。むしろ、他の主要な成形条件(金型温度、樹脂温度、保圧など)の影響について、研究のリソースを割いた方がより有意義であると感じました。

また、本実験は二元配置実験の構成なので数理統計学に基づく分散分析を試みました。その結果、F検定において射出圧力および流量のいずれも有意差は確認されませんでした。したがって、要因効果図にみられる傾向は、統計的には誤差範囲にすぎない可能性が高いと考えられます。



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2026年6月26日金曜日

BASFが触媒脱脂の困難を普通に変えたこと

 【珈琲ブレイ句】MIMのバインダー脱脂方法は、これまで世界の研究者・技術者によって様々なアプローチが試みられてきました。

物理的除去法(溶媒抽出脱脂、超臨界流体脱脂)、化学的除去法(触媒分解脱脂、雰囲気ガス反応脱脂)、熱的除去法(加熱熱分解脱脂、ウイッキング法)、電気・電磁的除去法(マイクロ波加熱脱脂)、生物学的除去法(バイオ分解脱脂)などが挙げられますが、量産技術として確立したものは僅かです。

黎明期の量産MIMにおいては、パーマテック法(Permatech)に代表される溶媒脱脂と、ウイテック法(Wiech)に代表される加熱脱脂が主流であり、これらは現在でも広く普及しています。また当時は、アルミナ粉末にグリーン体を埋め込んでバインダーを吸い出すウイッキング法も、一部の量産ラインで採用されていました。

その後、独BASF社からポリアセタール(POM)樹脂をベースとした触媒脱脂法が登場します。高分子樹脂を酸触媒によって固体から直接ガス化させるという奇抜なアイデアには、当時とても衝撃を受けたことを覚えています。ワックス類をほとんど含まないフィードストックゆえに射出成形が困難(金型温度100℃超え)であり、決して主流にはならないだろうと考えていました。

しかし、BASF社は「MIMスクール」を立ち上げて世界中の若い技術者にノウハウを伝授し、「困難を普通に変換させる」ことに成功しました。その結果、BASFの高精度MIM製法は瞬く間に世界へと広がりました。同社の経営・技術戦略には、まさに脱帽するほかありません。

さらに近年では、日本の樹脂メーカーが流動性を大幅に改善したMIM用のPOM樹脂を開発しており、さらなる追い風となっています。

2026年6月23日火曜日

【MIM指南書(増補・セルフ)】5.25バインダーの分離 の追加

  【MIM指南書(増補・セルフ)】 5.25 バインダーの分離 の追加

P157 「第5章 MIM不良24種の原因と対策」の「表5.1MIM不良一覧」へ「5.25 バインダーの分離 」を追加し、MIM不良25種へ 変更してください。

下のページを印刷して、P184とP185の間に挟んでください。。


【珈琲ブレイ句】日本のMIMメーカーによる改善事例の発表で知ったMIM不良です。バインダーが分離・偏析してポーラス状の不良になるという内容で、初めて知った不良でした。この事例をきっかけに、「分離・偏析による不良」を調査しそれらの原因と対策をまとめました。

この事例の対策は、製造条件では解決せず、最終的にバインダーの仕様を変更されていました(仕様の詳細は不明)。結局、最初のレシピの選定が重要だということです。

基本のMIMバインダー仕様は、MIM指南書P57の表3.3にまとめています。