2026年3月4日水曜日

製法が異なるSKD11粉末による二峰分布配合の効果

 古い論文ですが共有化します。アトマイズ製法が異なるガスアトマイズ粉末と水アトマイズ粉末を二峰分布配合した研究開発です。

開発の目的:焼結が難しい工具鋼SKD11のロバスト性能向上。フルチャージ焼結の品質バラツキを最小化させる。品質:寸法、密度、硬度

《粉末》  水アトマイズ2種とガスアトマイズ1種の配合比研究

《結果》

《結論》
 水アトマイズ粉末の平均粒径をガスアトマイズ粉末よりも小さく設定し、両者の配合比を50:50~75:25とした二峰分布混合粉末を用いることで、焼結温度のバラツキに左右されにくい安定した品質の合金工具鋼(SKD11)を得ることに成功した。

引用論文:”Development of sintered SKD11 compacts with High Robust performance by Metal Injection Molding” Shoji Hachiga, Yoshihiro Shiina
特開2004年052051 金属焼結体の製造方法及び金属焼結体

【珈琲ブレイ句】一般的に「二峰分布(バイモーダル)配合」の採用は、寸法精度や焼結密度の改善に寄与します。
 本研究の真髄は、「二峰分布配合の効果」だけでなく、さらに「焼結特性の異なる粉末の組み合わせ」にあります。ガスアトマイズ粉末と水アトマイズ粉末では、焼結過程におけるネック形成や原子拡散のタイミング・速度、および液相温度が異なります。この焼結特性の異なる2種材を複合させることで、焼結プロセスにおいていわば「アクセルとブレーキ」を同時にコントロールする状態を作り出し、焼結品質の分散を最小化することに成功しました。これにより、かつて課題であった「フルチャージ時のSKD11の溶け」という致命的なトラブルの解消に成功しました。また寸法精度も±0.22%になりました。 付け加えると、一次脱脂は溶媒脱脂等による完璧な炭素コントロールが必要です。

2026年2月26日木曜日

Taguchi-MADMハイブリッド法を用いた3l6LステンレスMIMの最適化

タグチメソッド関係の論文を共有します。

3水準系 L27直行表を使い、グリーン体の3つの特性値(曲げ強度、外観品質、密度)、6つの制御因子(射出圧力、射出温度、粉末充填率、金型温度、保圧、射出速度)のパラメータ設計です。

表題にあるように、この論文の特徴は、MADM手法(多属性意思決定手法)により、3つの特性値を相関係数等を用いた評価により単一の「総合品質スコア(OQS)」に変換しているところです。変換法としてはSAW(Simple Additive Weighting)法が最も適していると判断されています。その結果、3つの特性値の重み付けは、曲げ強度35.7%、外観品質32.2%、密度32.1%とほぼ均等なっています。

【条件】MIMフィードストック:GA-SUS316L、ポリエチレングリコール73 wt%、ポリメタクリレート25 wt%、ステアリン酸2 wt%

【結果】制御因子の水準と最適値は次の通り。


    寄与率順に並べ替える


文献:「Optimization of the Metal Injection Molding Process with 3l6L Stainless Steel Powder and Influence Analysis of Process Parameters Using the Taguchi-MADM-Based Hybrid Method」、Ryong Hui Ri and Won-Chol Yang、ACS Omega 2025, 10, 985−994

【珈琲ブレイ句】近年(2025年)発表の意欲的な実験です。3つの特性値をひとつにするためにNADAMの5つ(SAW, WPM, TOPSIS, GRA, RSR)の中でどれが最適かを見つける研究が論文の半分以上を占めています。
 実験結果の考察をすると、気になるところがひとつあります。それは、粉末充填率は3水準64.5Vol%が一番良いので、さらにその先に最適値が存在するということです。さらに寄与率は4.91%なので、粉末充填率を大きくしても、総合品質に大きな影響は与えず、技術的に収縮率は小さくできるので寸法精度が向上することが期待できます。これは品質工学の転写性を使えば設計できますね。
 論文を読み進めるうちに、グリーン体から一歩進んだ「シルバー体」の世界はどうなっているのだろうと知的好奇心を強く刺激されました。未知の領域への期待を感じさせる素晴らしい論文でした。大変勉強になりました。

2026年2月24日火曜日

PIM専用POMコポリマーFF520は何が凄いのか

 一般的にPOMのコポリマー(ジュラコン)は、ホモ(デルリン)より成形性は良いのですが、PPやHDPEと比較すると相対的に成形性が良くありません。しかし、PIM専用のFF520はその成形性(流動性)の課題を解決しています。さらに、グリーン体強度とのバランスも考えて開発されていることがわかります。流動性と靭性の散布図を描いてみました。


【珈琲ブレイ句】PIMバインダーとして使用するPOMは、成形を容易にするために粘度は可能な限り低くしMFRを高め、焼結前の成形品の損傷を防ぐために靭性(シャルピー衝撃強度)は可能な限り高くする必要があります。FF520は、MIM結合材で使われるPPやHDPEより靭性と流動性が高いのです。

 POMの一次脱脂は触媒脱脂が主流ですが、カタログでは加熱脱脂(500℃,5℃/min,N2,残渣ゼロ)も可能と書いてあります。(注意:加熱脱脂では、実際のPIM脱脂焼結品での検証は必要だと感じています。)BASF系の触媒脱脂用MIMフィードストックであれば、どんどん展開できますね。

◆開発のポイントを推察する◆

①ギリギリまで低分子化:低分子にすれば流動性は向上します。一方強度は低下するので、PPとHDPEを目標ターゲットにして低分子量成分をギリギリまで増やしている。

②分子量分布のナロー化:さらに、全体の分子量分布をシャープ(ナロー)に制御することで、高い流動性を確保しつつ、強度を支える「絡み合い」に必要な最低限の分子鎖を維持している。  

③ホルムアルデヒド対策:流動性が高いので低温で混錬し熱の影響を最小化する。酸化防止剤で安定化させるが、高せん断による局所的高温部で発生するホルムアルデヒドは、捕捉剤(ホルムアルデヒド・スカベンジャー)で化学的に吸着させる。

推察が間違っていたらごめんなさい。

それにしても旭化成ケミカルズの開発力は凄いです!! 頑張れ日本!!

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