2026年10月5日月曜日

MIMフィードストックの健全性へのリサイクルの影響

近年発表されたハンガリーの大学とMIMメーカーAFTとの共同研究を共有します。 この論文は、MIMフィードストックの再利用(リサイクル)が、熱分解特性、レオロジー特性、収縮率等に与える影響を定量的に評価しています。

《MIM仕様》

粉末:4605、 バインダー量:45VOL%、 バインダー成分(推定):P-W55wt%、PP25wt%、SA5wt%、C-WAX15wt%

試験片:ASTM準拠 ISO2740のAタイプ(穴あき)

脱脂焼結時間:30H 「内訳:一次脱脂:加熱脱脂(~230℃)×5H、二次脱脂:加熱脱脂(~630℃)×7H、焼結1330℃、雰囲気:N2 」

《試験分析内容》「成形→粉砕→成形」をリサイクル1回とする。連続リサイクル8回分までの試験分析を行う。

MFI(Meit Fow Index)、SEM-EDS(微細構造解析-元素分析)、DSC(示差走査熱量測定)、TGA(熱重量分析)、収縮率

《結果》

・再生4サイクルまで、標準的な射出条件で熱的および流動特性は維持される。

・収縮率は再生4サイクルまで一気に上昇している。これはSAやWAX類の蒸発によるものである。

・WAX類の蒸発により粘度は上昇すること、PP高分子のポリマー鎖が再生で切断され粘度が低下すること、両者が相殺して粘度が維持されている。

参考文献:”Impact of recycling on polymer binder integrity in metal injection molding”, György Ledniczky, Ferenc Ronkay, Pál Hansághy & Zoltán Weltsch, Scientific Reports |  (2025) 15:21600 

【珈琲ブレイ句】WAX類の蒸発を炭素量測定により検証しており、素晴らしい論文です。

少し疑問点もあります。このバインダーは実際にAFT Hungary Ltd.でMIM製造に使われているのでしょうか? おそらく研究用の材料だと思われます。なぜなら、バインダーが多すぎるのです。

もう一つの疑問は、一次・二次の加熱脱脂の焼結(シングルステップ系)で30Hで完了しています。ポリマーがPPではないかもしれません。POMあるいはPMMAの可能性があります。

【補足】 実際のMIM現場では、リサイクルだけを単純に繰り返すことは行われていません。リサイクルを繰り返す度に、バージン材を定量混ぜて成形材料としています。そうすることで1回目から安定した品質を確保することができます。 詳細は「MIM指南書P84 4.1.3 リターン材の利用法」を参照してください。

【BLOG目次】

【MIM指南書】

【MIM技術伝道士HP】



2026年10月1日木曜日

マイクロMIM(μ-MIM)の粉末はナノサイズが有利

微細な金属粉末を使用することは、マイクロMIM(μ-MIM)において重要な寸法精度や表面特性を改善するための有力な方法です。これは、微細な金属粉末は、焼結温度を低下させるこができるので、結晶粒の成長を抑制できるからです。MIMプロセスにナノ粒子を適用する特徴をまとめると・・・

利点は、①低温焼結における相対密度の向上 ②焼結温度の低下 ③焼結体の結晶粒径の微細化 ④硬度の向上 ⑤表面特性の改善 などが挙げられます。 

一方、課題は、①フィードストックの粘度上昇 ②酸化 ③凝集が存在しやすいなどがあります。


【珈琲ブレイ句】結晶粒径が小さいことによる効果、「摩耗深さ」の事例を共有しておきます。

ナノ粉末は焼結温度650℃で相対密度が96%になり結晶粒径が0.97μmと微細なので、摩耗深さは約2.1μmと僅かです。一方、マイクロMIMで主流の粒径3μmの粉末では、焼結温度1100℃で、摩耗深さは3倍の約6.2μmになっています。

ナノ粉末は今までのMIMと異なり焼結温度が600℃代であることを学びました。ナノ粉末は別世界ですね!

《補足)》このブログで「マイクロMIM」に限定したのは、ナノ粉末のコストが高価(1kgあたり数十万円)だからです。

参考文献:" Advantages and Limitations of Using Nano Sized Powders for Powder  Injection Molding Process  : A Review "    Javad Rajabia, Norhamidi Muhamada, Abu Bakar Sulong a, Abdolali Fayyaza, Azizah Wahia aDepartment of Mechanical and Materials Engineering, Faculty of Engineering and Built Environment, Universiti Kebangsaan Malaysia, 43600 Bangi, Selangor, Malaysia, 59 (2012) 137–140 | www.jurnalteknologi.utm.my | eISSN 2180–3722 | ISSN 0127–9696 



2026年9月15日火曜日

歯科矯正用シングルブラケット製造におけるMIMの多因子最適化

 歯科用矯正ブラケットのMIM成形において、Moldflowシミュレーションと応答表面法(RSM)を組み合わせ、体積収縮や未充填欠陥を最小化する金型温度・溶融温度・射出速度・ゲート位置を最適化した事例を共有します。

"Multi-factor optimization on metal injection molding in orthodontic single brackets manufacturing"   The International Journal of Advanced Manufacturing Technology (2026年)

始めに、Moldflowシミュレーションと応答曲面法(RSM)を組み合わせ、単一の歯科矯正用ブラケット製造における金型温度、溶融樹脂温度、流速、射出位置といったMIM成形工程の主要パラメータの最適化を行っています。

さらに、中心複合計画法(Central Composite Design, CCD)を用いて、溶融温度、射出速度を連続量として扱い、応答の形を連続的な曲面としてモデル化して最適値を見つけています。

【MIMフィードストック】

Moldflow Synergy 2018の材料ライブラリより。JKMB-MIM-1グレードのステンレス粉末原料、バインダー:38.5vol%、溶融密度:4.8922g/cm3、固体密度 5.1824g/cm3

【因子と水準】

溶融温度: 100、125,150,175,200℃

金型温度: 10、15,20,25,30℃

射出速度: 20,60,100,140,180 cm3/s

ゲート位置:  ボトムゲート、サイドゲート


図3.歯科用矯正ブラケットのゲート (a)サイドゲート (b)ボトムゲート

【最適値(特性値:収縮率が小さい、充填率が高い)】
溶融温度:137.89℃、金型温度:25℃、射出速度:127.56cm3/s、ゲート:ボトムゲート
【確認実験】予測値とシミュレーション値の差:3%未満

【珈琲ブレイ句】
 歯科用矯正ブラケットはサイドゲートで製造したことがありますが、この研究ではボトムゲートが良いという結論です。ボトムゲートにするにはホットランナー金型になりますね。

 大変勉強になるすばらしい研究論文ですが、3つ気になるところがあるのでメモしておきます。
①金型温度の水準が低すぎないでしょうか? 
②確認実験を「実物の成形体」でも行っているのか?
③ホットランナーでボトムゲートにした時のエジェクターの配置が気になります。この小さな部品で実現させるには、相当な「金型方案設計技術」が必要です。