2020年10月30日金曜日

市販の手動式射出成形機の改造修理

 市販の手動式射出成形機の改造修理を行った。そもそも、この成形機は自作するよりは納期と価格で有利だったので購入されたものである。コスパが大変すばらしいのであるが、欠点がひとつある。それは設計が「スマートすぎる」。武骨でないため、高圧力で射出成形するMIMでは耐えきれずぶっ壊れる部品が続出する。部品を交換していたが、先日ついに大手術が決行された。

・シリンダーとノズルは、ナック材の削り出し品にする。オリジナルの材料供給パイプの肉厚が薄いので補強のステンレス針金を巻く。オリジナルのシリンダーは鋼にニッケルクロムメッキ仕上げで、内筒がテーパになっているものの発砲樹脂や低収縮材の時は材料が抜けない。新シリンダーは両端面セパレートタイプに設計、分解掃除が楽になる。


・トグル回転支点の軸がすぐに曲がるので(なぜか中空)、調質ボルトに交換し、隙間に平座金を挟み、二重ナットで固定。


・材料供給&ピストンガイド部品のヘリサートが抜けた。貫通穴を開けて長いボルトで把持させた。レイアウトの関係でボルトは1本だけ。

プラスチックに挿入されているヘリサートがボルトを強く締めると抜けた。

この部品は黄銅で作り直した方が良いかもしれない。

ハンドルの干渉、ピストンまでの余裕を考えてボルトは1本にする。かなり頑丈になる。ピストンもスムーズに動く。

溝カムをグリースアップして修理完了。

これで、後10年は使えそうである。だんだんINARIの原形が無くなっていく・・。


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2020年10月21日水曜日

二峰分布混合の威力

 Indo-MIMによる二峰分布混合(Bimodal powder mixtures)の報告がある。焼結変形と相対コストの関係から、最善の組み合わせを提案している。

【結論】17-4PH(SUS630)において、平均粒径6μmを25wt%+平均粒径20μmを75wt%配合したときが最善である。

ひとつのグラフにまとめた。




【珈琲ブレイ句】
 この報告のポイントは、混合のひとつに一番細かい3.3μmの粉末を使うものが焼結変形が少ない。しかし、材料キロ単価がものすごく高価(3.5~4倍)なので、量産材料として採用は控えます、ということですね。 数gと小さいものであれば、部品1個当たりのキロ単価は、原価比率から見て大きな差が無いので3.3μmを採用しても良い可能性はありますね。
 それにしても粉末量が70VOL%は凄く多いですね。これも焼結変形が少ない要因ですね。Indo-MIMは限界粉末量CSLを攻めている感じです。凄し。
 二峰分布:二峰充填で粒度比7:1(重量比73:27)の時、粉末の充填密度が86%になる。この27%とこの研究の25%が似ている。『粉末冶金の化学』ジャーマン先生の本(翻訳者:MIM仙人の三浦先生と高木先生)
 

2020年10月16日金曜日

市販アルミ合金フィードストックの実力

 米国のMIMフィードストックメーカー界のAMAZON、すべての種類を揃えているRyer社」のアルミ合金6061のフィールドテストの事例を見つけたのでまとめる。

◆Ryer Part No.:6061-9034US

◆粉末:US Metal Powders社製ガスアトマイズ粉末、D50=12-18μm、<34μm、比表面積<0.4m2/g、Al2O30.5

◆バインダー:ワックス系Ryer-Solvent40VOL%(計算による推定値)

◆一次脱脂:溶媒脱脂(溶媒不明)

◆二次脱脂・焼結:250℃~650℃×1-2H、窒素純度99.99以上(露点-60℃以上)

◆熱処理:T6、溶体化:510℃×30分後水中急冷、時効:180℃×8H

◆結果:焼結密度2.66g/cm398.6%HRB93、引張強度=290-300MPaT6処理後)

◆備考:粉末内のAl2O3の量を最小化すること。微量のMgがアルミ酸化物を還元し焼結密度を向上させる。 6061の融点は652℃なので、焼結温度の精密な管理が重要。


【珈琲ブレイ句】市販のアルミ合金フィードストックが販売されているんですね。他に2024がカタログに載っています。結構普通に溶媒脱脂と焼結を行えば焼結密度98.2%を達成できるとは驚きです。焼結温度が600℃台と低いので、結合剤は300℃台で分解するポリマーの可能性が高そうです。それから、ポイントは「アルミ表面約4nmの酸化被膜との闘い」ですね。始めからAl2O3の量を最小化することに加え、焼結中の窒素ガスは99.99以上にして水分(H2O)を減らすことが重要であることを学びました。Metal Powders社は始め水溶性バインダーを試して失敗しRyerに製作を依頼した経緯のようです。だからでしょうかRayerのカタログには始めからAqua-MIM(水溶性バインダー)のアルミ合金は存在しません。さらにCata-MIM(触媒バインダー)にもないですね、こちらはアルミが酸で腐食するのかも?しれません。やっぱり溶媒脱脂用バインダーは自由度が高く使いやすい万能バインダーですね。

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リープフロッグ型発展とMIMの未来展望

  リープフロッグ(Leapfrogging)とは、直訳すると「蛙の大きな跳躍」である。事例としては「スマホやオンライン決済などの新しいサービスは、インフラ未整備な新興国の方が先進国より早く受け入れられる。まさに蛙の様に先進国を飛び越えて発展する」。つまり「後から参入した方がお得という分野がある」ということである。

 2020年の今、国内のMIM技術も、「後から参入した方がお得」なのである。蛙飛びのチャンスは今ここにある。

《その理由》

・MIM技術の秘匿性はなくなり「誰でもできる」

・成形材料のMIMフィードストックは市販品を買えばよい

・脱脂・焼結炉も技術的に成熟して高品質なものを入手できる

・金属粉末利用AM技術(MIM用粉末利用の金属3Dプリンター)のブーム急上昇中。この脱脂・焼結はMIM技術なので転用が容易。

『AMからようこそMIMへの時代』が始まっている。


【珈琲ブレイ句】理由にもう一つ付け加えると・・・手前みそになりますが「MIM指南書」が11/1からAMAZONで販売されるから。この本はMIM業界初めてのガイドブックです。東京ガイドブックが今売れているように「MIMの歩き方」と呼ばれる日も遠くはない(妄想)。


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2020年10月13日火曜日

プラスチックのリサイクルから学ぶ

 東南アジアで行われているプラスチックリサイクルは画期的である。内容は以下の通りで、3種類の材料から簡単に煉瓦やタイルなどを製作している。砂を混ぜて強度を上げる複合材料の事例もある。

《材料》1)ポリエチレンの容器や蓋 2)発砲スチロール 3)廃油(食用油)

《配合比》ポリエチレン(HDPE)40%、スチロール10%、廃油50%

《手順》初めに廃油を100~125℃で攪拌加熱する。その後200~230℃中、プラスチックを投入し攪拌、最終的に250~275℃で流しだす。ドロドロで流動性が高いが冷えると硬度が向上する。金型に流し込み冷却固化させて完成。安価な設備で量産ができる。

【珈琲ブレイ句】液体の油を50%も使うところがポイントですね。大胆ですが液体が多いので流動性・作業性が高く、さらに実用性もあるのでブームになっているようです。これってポリマーアロイ化しているんだろうな。

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2020年10月8日木曜日

ナノ粉末を混合させる効果

カルボニルFe(BASF-CIP、4μm)にナノ鉄粉(100nm)を25%混合したMIMの研究から学ぶ。

こんなメリットがあるそうだ。
1 ナノ粒子のローラーベアリング効果で潤滑剤として作用し粉末量が約70VOL%
2 グリーン体強度が7倍向上する
3 800℃未満の低温における初期焼結で、ナノ粉末により粒子接触増加
4 ナノ粉末が粒子拡散に寄与し800-900℃にて劇的に緻密化する 
5 ナノ粉末が焼結体の結晶粒成長を抑制する 
6 1250℃×3H 相対焼結密度96%
7 表面あらさも改善される

粉末量:約70%、バインダー:PW+SA、低温低圧成形:70℃&4Mpa、ウイッキング&加熱脱脂:500℃×2H、焼結:1250℃×3H(水素)

参考: ‘Low temperature Powder Injection Moulding of iron micro-nano powder mixture’ by Woo-Kyung You et. al has been published in Powder Technology 228 (2012) 199-205.

【珈琲ブレイ句】
 セメントに「砂利」と「砂」を混ぜると強固なコンクリートになる。そんな二峰分布混合の事例ですね。研究ではナノ粉末を造るのが大変で、ボールミル粉砕後、水素還元し、さらに湿式粉砕して造られている。よくわからないけど大変なことだけは理解できる。ナノ鉄粉の市販品はあるのでしょうか?
 気になるのは驚異的に多い粉末量70VOL%。タッピング密度と比表面積が不明なのですが、ナノ粉末が潤滑剤として作用したことと、バインダーがPWとSAなので「ほぼすべて潤滑剤」だから出た数字かなとも思います。ポリマーを入れる通常MIMでは70VOL%は難しそうですが、量産で採用すれば、低温で粒子接触が増加して中間焼結強度が向上し、収縮変形が少なく高精度化が期待できると思われます。残る課題はナノ粉末のコストと焼結体品質のバランス問題ですね。





2020年10月6日火曜日

MIM粉末・フィードストックにあったら素敵な特性仕様

 MIM粉末やMIMフィードストックのカタログにこんな仕様が載っていた。

材質名、化学成分、粒度特性(TD、D50等)、真密度に続いて・・・・・

《特性値》焼結機能窓50℃(1320±25℃)、相対密度97%

さらに、転写性のSN比まで記載されている。

すごい完璧です。ついに登場したのか!どこのメーカーだ?

ここで目がさめた。夢か。


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2020年10月2日金曜日

粉末の大きさで粉末冶金やAM製法が支配される話

 逆説的結論『粉末冶金の圧粉焼結PMMIMおよび金属3Dプリンターは金属粉末の大きさで決まる』

 【結論】

◇数100ミクロンの粉末:圧粉焼結

10ミクロン:電子ビーム&レーザー式3Dプリンター(Arcam, EOS, etc

◇10ミクロン~数10ミクロン:パウダーベット利用インクジェット金属3Dプリンター(Digital Metal, EX One, etc

◇10ミクロン:フィラメント利用FDM-3Dプリンター(The Metal X, Desktop Metal,

◇10ミクロン:金属粉末射出成形MIM

 【理由】

なぜこんな理屈になるのか

それは、次の様な技術的理由で推測した。

・微粉末だと粉末が流動しないので圧粉成形ができない。

・電子ビームやレーザーのスポット径寸法からみて微粉末は不要だし高価。

・パウダーベッドは粉末流動性に支配される。微粉末になればなるほど難しい。

・フィラメントにするなら微粉末の方が流動性は高く、焼結密度も向上する。


【珈琲ブレイ句】 素人的には、微粉末にすれば焼結密度が上がるのに、何故そうしないのか疑問になりますが、微粉末を圧粉しても形状に高低差があると密度が大きくばらついたり、微粉末の流動性が悪いためパウダーベッドの嵩密度を上げることが難しいなど、周辺技術のレベルに支配されてPMやAM製法が決まってしまうんですね。この中でさらに微細粉末が可能なのは、MIMかな?

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焼結機能窓を使った高品質化の概念図

MIM製造現場の願い。

「標準温度で、炉内のどこに配置しても、焼結密度の規格を満足し、形状寸法の工程能力指数Cpkが1.33以上になってほしい」

 しかし、焼結炉内の伝熱(炉内温度バラツキ、流動ガスなどいろいろ)は、大きく変動する。しかも、ほとんど人間にはコントロールできない*1。老朽化によりヒーターは摩滅していくし、真空排気能力も低下していく。

人間ができることの初めの一歩は

「焼結機能窓の広いMIM粉末材料を選ぶ・開発する」こと*2。

焼結機能窓を使った高品質化の概念図を示す。


【珈琲ブレイ句】
 決してこんなことはないと思いますが・・・粉末ロットごとに試し焼結をして寸法規格に入るように(標準条件を無視して)焼結温度のプログラムを変更する。とりあえず寸法が合格しないと出荷できないので仕方がない。密度が落ちていなければいいのですが、過熱で組織異常はありませんか? こんな粉末使いたくないですよね。結婚相手は冷静に選びたいものです・・・

*1 ただし、こんな技術はあります。1)炉の断面積を小さく奥行きを長くする。輻射熱をできるだけ均等にする。2)ヒーターを3分割や6分割にして独立させて温度制御する。初めからこんなすばらしいMIM用脱脂焼結炉を使えたら良いのですが・・・
*2 焼結機能窓が広くても「焼結密度が低いものはNG」と考えています。通称「スカスカなMIM」は、避けたいものです。

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