2017年12月29日金曜日

MIMの射出成形は掟破り

一般的なプラスチック射出成形の不良に「ジェッティング」があります。ゲートから出た材料が「くねくね」と噴射されゲート反対側のキャビティ内面にぶつかり充填されていく現象で不良条件です。正常な射出成形条件では、材料はゲートからでた瞬間に膨らみゲート側からキャビティの奥へと充填していきます(膨らむのはバラス効果と言われます)つまり「ジェッティング」はやってはいけない不良現象です。

しかし MIMの成形はこのジェッティングが発生します。したがって一般的なプラスチック射出成形の常識はMIMには通用しません。掟破りの成形条件の研究が必要になります。


MIM指南書 第5章 MIM不良24種の原因と対策
MIM不良の原因と対策をわかりやすくまとめました(MIM指南書)
《日曜MIM知るINDEX》

2017年12月27日水曜日

MIMの金型の特徴は

MIMに使用する金型は、一般的なプラスチック射出成形とほぼ同じです。金属粉末が多量に入っているのでいくつか注意項目があります。 
・スプールランナはできるだけ短くする
・ゲートはできるだけ大きくする
・抜け勾配はゼロでも可(あったほうが良いが)
・ガス逃げを付ける

ゲート方式の推奨順番(私見)で紹介。
 ①サイドゲート(側面ゲート:2プレート)
 ②スポークゲート(内径に多数サイドゲートを付ける:2プレート) 
 ③ダイレクトゲート(スプールを直接製品に落とす:2プレート)
 ④ピンポイントゲート(端面ゲート:3プレート)

「MIMは保圧が利かない」という方がいますが、ゲート面積が大きいサイドゲートでは保圧が利きます。一方ピンポイントゲートでは保圧はほとんど望めません。この違いはお分かりですね、成形体(製品)よりゲートが早く固化するため保圧が伝達されないためです。(ゲートシール、ゲートフリーズ)

注意:サブマリンゲートは射出圧で金型鋭角部にヒビが入ることがあり避けたほうがよいとおもいます

2017年12月26日火曜日

カルボニル粉とは

粉末にする製造方法のもうひとつの代表選手はカルボニル法です。「Carbonyl」発音は「カルボニル」「カーボニル」BASFが1925年に発明した製法で化学的に粉末を造るそうで、どうも機械工学出身者の私は完全に理解することができません。

Fe(CO)5の液体を蒸発させて粉にするので数μmの細かいものができMIMの粉としては最適です。ただしできる鋼種は「カルボニルFe」と「カルボニルNi」の2種のみ。水素還元の有無で炭素量の異なる物があります。

この2種類(Fe、Ni)で作ったMIM材料でFEN8(Fe+Ni8%)があります。近年ではFEN材は積極的に選定されないようです。理由はFEN材の機械的性質がSCMやSNCM材より劣るためです。別の言い方をすれば、昔はカルボニル粉しかなかったけど近年水アトマイズが高品質で安価になったためです。さらにカルボニル粉と各種の粉末を調合することで高強度の材料が出現しているからです(JMOLD系)。


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MIMの製造技術はいくつあるのか

MIM製法の要は、「いかにして樹脂を焼結前に完全に除去するか」ということです。この技術的な違いは「脱脂技術」と「そのための樹脂選定と配合」になります。
脱脂の方法は3つ「溶媒脱脂」「加熱脱脂」「触媒脱脂」

代表的なMIM製法を上げておきます。
Parmatech法(米)溶媒脱脂 (国内1社)
Witech法(米)加熱脱脂 (国内最多)
BASF法(独)硝酸・触媒脱脂(欧州、中国に多い)
AMAX法(米)溶媒脱脂(国内1社)
VI法(米)真空・加熱脱脂(国内1社)

溶媒と加熱両方経験がありますが、個人的には溶媒脱脂が好きです。理由は2つ。
・大きなものができること ・残留炭素が少ないこと

《ブレイク》
昔には水に溶ける寒天バインダーという優れものがありました。今では採用しているメーカーはほとんどないようです。水は安全で使いやすい反面、廃液処理問題や成形体の錆がネックだったのかも知れません。

 追記(2019/3/6)Ti用の環境にやさしいバインダーシステムとして水溶性バインダーを提唱しているところがありました。ニュージーランドのオークランド大学の論文で、PEG(ポリエチレングリコール)とPMMA(ポリメチルメタクリレート)を基本にしており、PEGが水溶性です。PMMAはアクリルの事ですが、ワックスに近い性状で残留物もほとんどないと記載されています。Tiは水と反応しないので良いのかもしれません。


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どんなものがMIMに向いているのか②大きさ編

MIMの最大の弱点は「金属粉末が高価」なことです。金属を10μmの粉末にすることに大きな費用が発生し溶製材の数十倍のキロ単価になります。したがって重量は体積の関数なので寸法が2倍になると8倍×キロ単価になる計算で、材料費の製造原価に占める割合が大きくなっていきます。

MIMとロストワックス精密鋳造を比較すると経験的に30gまではMIMの勝算が高く、それを超えるとロストワックスに機械加工を加えた方が安くなるようです。

ただし、MIMの表面あらさが大変良いので、あるいは精度が高いので完成品で比較すると、MIMにメリットが出てくる大物部品がいくつもあります。素材単価だけの採択判断は早計です。

どんなものがMIMに向いているのか①形状編

三次元形状で複雑であるほどMIMに有利です。(ただし金型で成形できる形状の範囲内*1)複数部品を一体化ができればMIMのメリットがでてきます。

《目安》形状と工法の関係
2次元形状:プレス板金、レーザー板金
2.5次元形状:ファインブランキング、焼結PM
3次元形状(アルミ、亜鉛):ダイカスト
3次元形状(マグネシュウム):チクソーモールディング
3次元形状(鉄鋼*2):MIM金属粉末射出成形
3次元形状(鉄鋼、非鉄):ロストワックス精密鋳造

*1 金型で抜けなくても樹脂中子を使ったアンダーカット形成可
*2 MIMの銅合金やチタン合金を製造しているメーカーが稀にあります

3D金属積層技術とMIM

ついにMIM品質に匹敵する3D金属積層技術が登場しました。
それは2タイプ
①粉末ベッド方式 「ヘガネス-Digital Metal」
②MIMフィラメント積層方式「The Metal X」「Desktop Metal」
詳細は不明ですが、どちらもMIM用金属粉末を使用し、MIMと同様「脱脂」「焼結」を行います。



これらはMIMの代替技術として共存共栄していくことでしょう。
「味見(試作)は3D金属積層品」「量産はMIM」という棲み分けになると思われます。

 ただ老婆心ですが 3D金属積層の課題は「強度」のような気がします。

MIMは金型内に高温高圧で射出成形し成形体の高密度化を目指しますが、
3D金属積層ではこの粉末を密着させる圧力が格段に小さくなるからです。
(3D金属積層には保圧という概念がない)今後も情報収集していきます

2017年12月25日月曜日

アトマイズってなんですか

「atomize」粉末化する。ここでは「溶けた金属を粉末化する」ことになります。粉末化するための冷却媒体に水を使うものが水アトマイズ法になります。タンディッシュの底のノズルから溶けた金属を落としウォータージェット高圧水で造った逆円錐状の内壁にぶつけることで微細粉末を造るものです。小さな水蒸気爆発が連続して起こる感じで相当うるさい装置です。水と混ざった金属粉末は 脱水、還元、粉砕、分級などを経てMIM用金属粉末になります。水の代わりに不活性ガスを使えばガスアトマイズ法になります。

《水アトマイズとガスアトマイズの特徴》
水アトマイズ=安価、酸素が多い、球形のものができる。ガスアトマイズ=水アトマイズより高い、酸素が少ない、よりきれいに球形ができる。酸素は焼結性や焼結後の残留炭素に影響するので重要です。

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MIMに使う金属粉末とは

10μm程度の金属粉末であればMIMで使えますが、主に使われているのは次の3種類です。
水アトマイズ粉末(エプソンアトミックス、日本アトマイズ、三菱製鋼、神戸製鋼、大同特殊鋼など)
ガスアトマイズ粉末(BASF、カーペンターなど)
カルボニル(鉄粉、ニッケル粉)(BASF、中国など)

この中ではカルボニル粉が平均粒径が小さく5μm程度以下の微細でMIM向きです。①②は製造された粒度分布から分級(ふるいに掛ける)していきます。そのため求める平均粒径が小さいほど収率は少なくなりコストが高くなっていきます。普通は平均粒径10μmが使われています。分級:数種類の細かい網を振動させてふるいに掛けていき、ふるいのメッシュより細かい粉は、遠心力の差を利用して分級します。

《ブレイク》
青森県の水アトマイズメーカーは技術開発力により収率をあげることに成功し、従来相当以上の品質でコストを下げています。ありがたいことです。

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MIMはPM粉末冶金だと強度が心配

MIMの機械的強度はPM粉末冶金の強度より高く溶製材に匹敵する強度を有しています。

同じ粉末冶金でなぜ強度の差がうまれるのか、それは「焼結密度の差」です。PMの相対密度は80%代で、一方MIMは96%以上あります。

ではなぜ焼結密度に差がうまれるのか、それは「金属粉末の大きさの差」です。
PMで使う粉末の平均粒径は300μm程度、一方MIMは10μm程度。焼結での緻密化が大きく異なるのです。

《珈琲ブレイ句》
粉末冶金PMで高密度を目指す開発も進んでいます。高温高圧で圧縮したり、MIM粉末をおにぎり状にした「高密度造粒プレス焼結(エプソンアトミックス) 」などがあります。MIMの代替工法になりうるのか!?

MIMの製造工程

基本的なMIM製造の工程は次の通り
①射出成形
②脱脂
③焼結
④機械加工、サイジング
⑤出荷検査

最近では②を省略したシングルステップ法があります。脱脂省略といっても作業工程がなくなるということで「加熱脱脂」は③焼結内で行われます。加熱脱脂と焼結を連続して行えるMIM用真空焼結炉を使います。1工程分のコストダウンとリードタイムが短縮できる優れものです。ただし焼結品質に潜在的問題があり注意が必要です。



2017年12月24日日曜日

粉末冶金(焼結品)との違いは?

粉末冶金の体系全体からMIMの位置を確認しましょう。

Ⅰ 粉末冶金PM(Powder Metallurgy)
   Ⅰ-1 圧縮焼結法(狭義のPM 以下PM)
 Ⅰ-2 粉末射出成形法(Powder Injection Molding)
  Ⅰ-2-1 MIM (Metal Injection Molding)
  Ⅰ-2-2 CIM(Ceramics Injection Molding)

それぞれの代表的な製品は
PM:油含侵軸受け、金属フィルター、産業機器部品(相対密度80~90%)
MIM:産業機器部品(相対密度96%以上)
CIM:光ファイバーフェルール

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どうやって射出成形するのか

MIMは10μmの金属粉末を使います。この粉末に樹脂を大量に混ぜることで流動性のある材料(ペレット、フィードストック)を作ります。あとはプラスティック射出成形機で金型へ射出成形します。射出成型機は一般の射出成形機でOKです。ただし成形条件は全く異なるので試行錯誤が必要です。

《日曜MIM知るINDEX》

MIMとは

1970年代米国で生まれた比較的あたらしい技術で、
MIM=Metal Injection Molding

Metal金属粉末
Injection射出
Molding成形
の頭文字でMIM。読みは「ミム」「エムアイエム」です。
20年ほど前には「金属射出成形」と訳されていましたが、後年「粉末」が追加されています。その理由は、下記の《鋳造》との混同・誤解を避けるためだと思います。

Metal Injection といっても金属を直接射出成形するものではなく「アルミダイカスト」や「チクソーモールディング」の仲間の「鋳造(Casting)」ではありません。MIMの技術分野は「プラスチック射出成形」と「粉末冶金」の複合になります。