2022年9月30日金曜日

ひまし油をMIMに使った特許の話し

 【珈琲ブレイ句】天然油のひまし油は、OH基、二重結合、エステル結合をもつ多機能油です。とくに金属表面と化学結合する(-OH)のでMIM用微細粉末の表面にコーティングすれば、MIMフィードストックの滑剤(界面活性剤)、分散剤として大活躍できるはずだと考えました。まず国内特許を調べてみました。結果は?やっぱり!先願、ひまし油をMIMに使ったものがありました*1。その請求項は、ひまし油単体ではなく落花生油やオリーブ油などの混合物として使うものです。なぜ、ひまし油単体ではないのかと推察すると「他の油と混ぜると固まる性質*2を利用しているところでしょう。これは成形体表面への染み出し対策?ですね、たぶん。素敵なアイデアです。

*1 大型金属粉末射出成形体の製造方法、日本ピストンリング、小野産業、2013/4出願、特許。

*2 固めるテンプルはひまし油が原料です。

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2022年9月29日木曜日

圧縮成形はMIMに使えるのか?

 圧縮成形(コンプレッション成形)とは、熱硬化系樹脂やゴム等を加熱と加圧で金型キャビティ形状を転写させる成形である。最大のメリットは金型費が安い、油圧プレス機で成形できる、金属部品のインサート成形もできるところ。デメリットは、一方向加圧なので複雑な形状が難しい、バリが出やすい、サイクルタイムが長いところ。

【珈琲ブレイ句】圧縮成形はMIMに使えるのか? 結論、MIM成形に使っていました。それは、MIM材料開発の予備実験として少量の粉砕材料で円板状の試験片を造っていました。初め、検査部門の粉末試料成形機を借りていましたが、いつでも自由に使えるように加熱・加圧装置を自作しました。MIMフィードストックは熱可塑性なので圧縮成形後に保圧を掛けながらの長時間冷却が必要なのが難点ですが、ちょこっと試作品を作るのにたいへん重宝しました。

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2022年9月24日土曜日

BJTバインダージェットの仲間たちを考える

 金属3DプリンターのMIM Like AM(Sinter based AM,Multi-step process,Indirect process)分類のひとつにBJT(Binder Jetting)がある。これは、粉末を一層分敷き詰めて、バインダーをジェット印刷し、それを繰り返すことで積層していくものである。積層体は脱脂・焼結させて金属部品をつくる。

さらにBJTの仲間がいる。それは、CMF(Cold  Metal Fusion)だ。BJTとの違いは、バインダーをコーティングした金属粉末を使うところだ。粉末表面のバインダーを低エネルギーのレーザーで溶かして積層していく。積層体の脱脂・焼結はBJTと同じ。

さらにもう一つ仲間は、SJT(Solvent Jetting)だ。CMFとの違いは粉末表面のバインダーを溶媒で溶かし再架橋させるところ。積層体の脱脂・焼結はBJTと同じ。

【珈琲ブレイ句】パウダーベッドの悩みは、粉末を均等に一層敷き詰める技術だと思われます。MIM Like AMで使う場合「微細粉末」を使う必要があるのですが、粉末は細かい程、流動性が悪くなるのです。(だから粉末とバインダーをペーストにして流動性を確保させたVPP液槽光重合やスクリーン印刷が登場しています。)コーテッド粉末の課題は、コーテッド粉末にすることで粉体流動性を向上させることができるか、いかに安価に作ることができるかでしょう。そして期待する未来は、超微細粉末を混ぜたおにぎり(10μm程度の顆粒)ができると差別化できるような気がしています。日本のアトマイズ粉末メーカーが本気になれば実現できる!? ~と無責任に空想するのです。

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2022年9月19日月曜日

溶媒脱脂の膨潤抑制剤とは?

 不適切な溶媒脱脂条件で発生することがある不良として、膨潤による歪や割れがある。この問題を軽減させる方法として、膨潤抑制剤を溶媒に添加する研究*1が報告されている。実験は、ヘプタンに膨潤抑制剤としてエタノールを10Vol%添加することで、最大膨潤量を、無添加の0.84から0.58に減少させることができた。ただし、除去されるバインダー量が8.3%減少した。

*1:Improvement of the Dimensional Stability of Powder Injection Molded Compacts by Adding Swelling Inhibitor into the Debinding Solven、YANG-LIANG FAN, KUEN-SHYANG HWANG, and SHAO-CHIN SU、 The Minerals, Metals & Materials Society and ASM International 2007

【珈琲ブレイ句】興味深い実験報告です。一次脱脂である溶媒脱脂は、ワックス類(PW,SAなど)を溶かす機能ですが、そのワックス類を溶かすことができないアルコールを溶媒に混ぜることで膨潤を抑制させようというアイデアだと思われます。残念なのは膨潤抑制の効果はあるけれど、脱脂能力が低下しているところです。・・であれば、現実的な対策は、脱脂能力に寄与する2つのパラメータ(温度と時間)を調整する方法の方が近道ではないかと思います。温度を下げて膨潤を押さえ、脱脂能力が下がるので処理時間を伸ばす。この対策の方がアルコールを添加するより扱いやすいかもしれません。さらに付け加えると、バインダーを構成する高分子樹脂自体が膨潤する種類であれば、そもそも溶媒脱脂は不可です。

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2022年9月16日金曜日

射出成形機でも混錬をしているのか?

ヒーター加熱されたバレル(シリンダー)とスクリューで可塑化する構造の射出成形機であれば、混錬もおこなっている。スクリューの機能は、3つのゾーンがあり。①材料を受けてヒーターのある箇所まで移送する供給ゾーン ②ヒーターからの伝熱および剪断熱で材料を可塑化(溶かす)し、空気を供給側に押し出す可塑化・圧縮ゾーン、さらに予備混錬も行う。 ③完全に可塑化された材料を最終混錬し、射出のための計量を行うゾーンになる。このゾーンのスクリューは混錬性を強化するためのいろいろな形状が提案されている。

③を「計量ゾーン」と解説している資料が多いですが、機能的には「混錬」と「計量」の2つが存在している。


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2022年9月12日月曜日

ガスアシスト成形はMIMに使えるのか?

 ガスアシスト成形とは、金型キャビティの体積より少ない成形材料を射出成形し、その直後に高圧ガス(N2など)を成形体の内部あるいは外部に噴射し、未硬化の成形材料を金型キャビテイ内面に押し付け転写固化させるものである。この技術で中空の成形品も造ることができる。メリットは、転写精度の向上、ヒケやソリの改善、薄肉計量化、金型負荷軽減(低圧射出+低型締め力)、PLバリレス、成形サイクル時間の短縮等である。

【珈琲ブレイ句】ガスアシスト成形をMIMに展開できるのか?技術的には可能性があります。ただし、可塑化した成形材料の延性に限界があるので、薄肉で中空のものは困難だと思います。逆に厚物のヒケ対策として、寸法の重要ではない部位にガスポケットを形成させ高圧ガスを充てんさせながら冷却させる。この方法なら可能性がありそうです。どうしても「王道のヒケ対策*1」を実施できない形状の場合に検討する価値がありそうです。

*1 MIM指南書 MIM不良24種の原因と対策 5.10 ヒケ P169

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2022年9月10日土曜日

焼結鍛造法はMIMに使えるのか?

 焼結鍛造法とは、粉末冶金と鍛造のハイブリッド技術である。粉末冶金で予備焼結体(Preform)を作り、それを冷間鍛造や熱間鍛造するものである。メリットは3つ。高精度、高密度(7.8g/cc、Fe,Ni,Mo.C)そして、予備焼結体の重量(体積)を正確に管理すれば、鍛造のバリが発生しない。デメリットは材料費(予備焼結体)が、PM粉末の3~5倍高いことであるが、メリットの方が大きい自動車部品を中心に量産化されている。

【珈琲ブレイ句】MIMへの展開を考えると、一番のハードルは材料費ですね。MIMは微細粉末なので上記予備焼結体の3~5倍は高価になります。それでも、MIMの最大の特徴である3次元形状の形成技術は、2.5次元しかできない鍛造と差別化することができます。つまり、3次元形状のMIM部品(仮焼結体)を作り、一部だけ鍛造を行うというアイデアは可能性がありそうです。よく考えると、現在行われているMIMのサイジングは、焼結鍛造法なのかもしれません。すでにやっているとも言えそうです。

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リターン材のリサイクルとリユースをまとめる

MIMのスプルーやランナーは、バージン材に一定量混合させてリターン材として使われている。配合量の考え方は拙著*1に記載しているのでそちらを参考にしていただき、ここでは、現行実施されている2つの方法と日本製の装置をつかったアイデアを紹介する。

ことば: 再生利用がリサイクル。再利用がリユース。

①リサイクル法:バージン材の混錬材として再生材を一定量配合しMIMフィードストックとして混錬から造り直す方法

②リユース法1:計量されたバージン材とスプルーやランナーを高速ミリング(粉砕機)により粉砕し粉末化(粉末+粒)して利用する方法

③リユース法2:スプルーとランナーを粒断機にかけて疑似ペレットを造り、バージンのペレットと疑似ペレットを混合機の個別のホッパーにいれ自動計量・混合させる方法

*1 金属粉末射出成形ガイドブック MIM指南書 P84 4.1.3

【珈琲ブレイ句】MIMフィードストックにペレットが登場したのは、たぶん2000年ころではないだろうか。日本のMIMフィードストック専門のメーカーが登場してからだと思う。それ以降市販MIMフィードストックは、どのメーカーもペレットが主流になっている。そもそも、MIMメーカーの元祖や老舗は粉砕粉末を使っていた(今でも使っている)。大学の研究室でも粉砕粉末を使っているので焼結体の品質に影響はないはずである。ペレット化の理由を考えると、成形機スクリューへの安定供給の課題(ブリッジの発生、計量時間変動)、材料の自動搬送技術課題、粉体流動性の課題などからの逃避であろうか? 商品として粉末よりペレットの方がカッコイイからかもしれない?? 謎である。

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2022年9月5日月曜日

シンターハードニングはMIMに使えるのか?

 シンターハードニングとは、粉末冶金で、加圧成形した成形体を焼結炉内で焼結したのち連続してガス急冷させて焼入れを行う技術である。最近では自動車部品の量産化に採用されている。粉末材料の成分は、焼入れ性の良いNi、Mo、CrおよびMnなどを添加させる。さらに炭素として黒鉛を0.3~0.8%添加させる。バインダー(潤滑剤)は、0.8%程度。焼結後、オーステナイト変態点で保持し、直後にガス冷却室へ移動。ガスを噴射しマルテンサイト変態点以下に急冷(2℃/秒以上)させる。

【珈琲ブレイ句】このシンターハードニング技術をMIMに応用できないか無責任に考えてみた。MIM粉末で使えそうなのは、CrとMoが多くて炭素0.4%のSCM440かな? MIM用真空脱脂焼結炉の冷却機構だと急冷は難しいけど、窒素ガスを大量に入れてファンを回せばなんとかなるかも? 実験しないと正確にはわからないが、間違いなく硬度はあがるので客先仕様を中硬度、中強度にしていただければ量産化できる可能性がありそうです。また、焼き戻しはどうするのかという課題もあります(疲労破壊試験が必要だろう)。さらに、大きな懸念がひとつ。それは精度。MIMは焼結密度が高いので硬度が高いとサイジングが効かないのです。いくつもハードルがあり、お客様との共同開発のアプローチが必要であることがわかりました。

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