2023年2月24日金曜日

酸化脱脂についての補足

酸化脱脂の事例を追記しておく。純銅粉末、マイクロMIM(D50:0.7μm)、POM・ワックス系バインダー。

脱脂:真空、600℃×0.5H

酸化:大気、300℃×1H (2Cu+O2→2CuO)

還元焼結:Ar+20%H2、300℃×5min(CuO+H2→Cu+H2O)

焼結:Ar+20%H2、700℃×1H

酸化工程で、銅粉末表面に針状の酸化銅(ウイスカ)が生成し、それが焼結の起点になり焼結が進行すると推察される。また、ウイス銅粉末同士を結合させるので脱脂体強度が上がる。

文献:”ナノ銅粉末を用いたNIL犠牲樹脂型インサートMIMによるマイクロ構造体の作成”、西藪、田邊、鹿子、田中、日本機械学会論文集 77巻780号(2011-8)P223

【珈琲ブレイ句】普通なら酸化と脱脂を同時に行うはずですが、この事例では真空で加熱脱脂をしています。この理由は、ナノサイズの粉末を使用している場合、大気雰囲気だと酸化膨張が急激に進むため割れや膨れが発生するためだそうです。なるほど。

でも、銅の焼結には、必ず「酸化脱脂」が必要なのでしょうか? 酸化脱脂の目的は2つ「ブラウン体の強度を上げる」「銅焼結に不利な炭素を除去する」なので、高純度銅を使えば2番目の目的は不要になりそうです。ブラウン体の強度もハンドリングを工夫すればよさそうです。後は焼結体の品質が勝負ですね・・・

関連BLOG:「脱脂酸化」とはどんなものなのか

関連BLOG:脱脂システム「酸化」について

【日曜MIM知るINDEX】 【MIM指南書の部屋】 【MIM技術伝道士HP】

2023年2月23日木曜日

リコーのBJTはアルミが得意

 リコーが積層した6000系のアルミニウム合金(AlSiMg)のデータを記録しておく。

相対密度:97.9%、引張強度:250MPa(T6処理)、熱伝導率:180W/mK

関連BLOG「リコーのAM技術がアルミ合金を積層する」

関連BLOG「リコーのインクジェット積層技術」

【珈琲ブレイク】リコーさんのBJTはアルミ合金へ技術を集中している感じです。アルミに特化すれば差別化できるという戦略でしょうか。英国にお客様体験センターを拡張して販路を広げています。がんばれ日本。

【日曜MIM知るINDEX】MIM指南書増補セルフ

【いつでもオンデマンド講習会】 【MIM技術伝道士HP】

2023年2月22日水曜日

ステンレスの焼結雰囲気は水素が良い理由2

 焼結雰囲気としての純粋な水素は、ほとんどの鉄合金に有益である。とくにステンレスの焼結で最適な雰囲気ガスである。その理由を新しい気づきを加えて下記にもう一度まとめておく。

・水素は、焼結を困難にする粒子表面上の酸化クロム膜を還元し、粒子間の強力な金属結合を可能にする(高密度化)。

・水素を圧コンとすれば焼結温度でクロムの蒸発を抑制できる。

・水素は鉄合金中に溶解するので、残留気孔がガス圧を失い消失する妨げにならない(高密度化)。

文献:”Carbon Control :An important discriminant in Metal Injection Moulding”,R. M.German,Powder Injection Moulding International,March,2015,Vol.9,No.1

関連ブログへのリンク

【日曜MIM知るINDEX】 【MIM指南書の部屋】 【MIM技術伝道士HP】 


2023年2月10日金曜日

相対粉末量と相対粘度について深堀する

 MIMフィードストックの粉末量を最大化することが品質・精度を向上させるためにはマストである。最大粉末量(CSL,CPVP)は実験*1により求めることができる。しかし、この最大粉末量でフィードストックをつくると粘度が無限大となるのでシリンダーがロックし成形することはできない。そのため実際の粉末量は最大粉末量より若干少なく設計される。しかし「若干少なく」とはどのくらいが良いのか? その根拠を探るためグラフを作成し考察する。



《結論》相対粘度が1000となる相対粉末量を採用する。(私見です)

相対粉末量=粉末量/最大粉末量(%)、相対粘度(log10)=粘度/粉末がゼロのときの粘度(%)

リンク:バインダー量を決める最大粉末量(CSL,CPVP)とは

【珈琲ブレイ句】このグラフは指数2,係数1として作図しました。ジャーマン先生の教えでは、最大粉末量CSLが異なるフィードストック(実験では55~76vol%)でもこのグラフ上に載るのです。「相対の世界」なのでそうなるのでしょう。実におもしろい。

【日曜MIM知るINDEX】 【MIM指南書の部屋】 【MIM技術伝道士HP】 

2023年2月6日月曜日

AM技術総合展を観て(その2)

 【珈琲ブレイ句】MEX方式のMetal AMをチェックしました。まず、”Metal X”は、巻き線フィラメントを使うFFF方式です。基本である積層、溶媒脱脂、焼結を行っているので機械的性質が重要な工具鋼やINCO625などの機能材料でMIM相当の強度・品質を確保していることを、データで確認できました。さらに国内のFASOTEC社で受託造形サービスを受けることができるので体験しやすくなりました。次に双璧の”Desk Top Metal”は、棒状フィラメントを使うFFF方式です。こちらも基本の積層、溶媒脱脂、焼結を行いますが、今は、溶媒脱脂工程を省略(3STD法)する国内戦略へ方向転換中のようです。溶媒脱脂装置を不要とする3STD法は魅力的ですが、工具鋼やINCO625の機械的性質やC%分析のデータは確認したいところです。最後に日本のS-Lab社でペレットを使うFPF方式のMetal AM装置を観たかったのですが、この装置は展示されていませんでした。ペレットで造形できれば断トツで差別化できるんですけど、残念です。

【日曜MIM知るINDEX】 【MIM指南書の部屋】 【MIM技術伝道士HP】 


2023年2月4日土曜日

AM技術総合展を観て

【珈琲ブレイ句】 tctの3Dプリンティング&AM技術の総合展へ最終日の2/3に行ってきました。新たな気づきは3つ。①企業の統合・合併により規模拡大、技術統合 ②加飾という新たなMetal AMニーズの登場(Gショック)最後は③受託サービスの拡大です。

MIMの仲間であるMIM Like AM(Sinterbased Metal AM)でも国内受託サービスが始まっていました。STLデータを送れば、造形、脱脂、焼結して送り返してもらえます。造形はMEX方式で、時間は造形7H、脱脂4H、乾燥1H、焼結30Hということなので最短リードタイムは4~5日+輸送となり早いです。国内で試作できることは素晴らしいことです。値段も結構お手軽でした(1個5万円くらい)。最後にメイドインジャパンで秀逸な設備を一つ。それは「MIM Like AM用小型脱脂焼結炉」です。この脱脂焼結炉はBJTだけでなくMEXも可能でありMIMも脱脂・焼結できます。またコスパもよいのです。技術的に懸念していたタイトボックスは量産炉とほぼ同じ形式に改良されていたので安心しました。

「MIM Like AMからようこそMIMへの時代」関連業界は、その頂上を目指して確実に登っていると実感できました。

【日曜MIM知るINDEX】 【MIM指南書の部屋】 【MIM技術伝道士HP】 

2023年2月2日木曜日

WC-Co フィードストックの射出成形パラメータ設計事例

 田口の直交表L18を使った本格的なパラメータ設計の概要を記録する。

《粉末》超硬合金(WC-Co、D50=4.35μm、10.66g/cc、CPL(CSL)=65Vol%)

《バインダー》パームステアリンPS70%、PE30%

《特性値》動特性y=βM、信号:M射出圧力、出力:y成形体密度

《因子と水準および結果*最良》

 射出率(ccm/s) 10,20 差は微小

 粉末量(vol%) 59,61,63*

 射出温度(℃) 140*,150,160

 保圧(bar) 1700*,1800,1900

《感度β》粉末量***

《確認実験》イニシャル-75.67db、 最適-71.11db 利得4.55db

文献:“Optimization of Injection Molding Parameters for WC-Co Feedstocks”, Sri Yulis M. Amina, Norhamidi Muhamada, Khairur Rijal Jamaludinc , Jurnal Teknologi (Sciences & Engineering) 63:1 (2013), 51–54

【珈琲ブレイ句】本格的なタグチメソッドのパラメータ設計の事例です。何が本格的かというと動特性(y=βM)であること、さらにL18直交表を使っているところです。このL18は交互作用が均等に割り振られた直交表で、交互作用の研究は行わないのです。要因効果図の最良水準で確認して結果をすぐに設計へ展開せよという田口先生の意向でつくられています。この事例の面白いところは、信号Mを射出圧力、出力yを成形体密度にしているところです。y=βMという関係が成り立つという前提(範囲)の実験ですね。 

【日曜MIM知るINDEX】 【MIM指南書の部屋】 【MIM技術伝道士HP】