2024年5月20日月曜日

Tritone Dominant の工程を図解した

金属ペーストを使った付加製造AMの3Dプリンターである『Tritone Dominant』の工程を図解した。

 【珈琲ブレイ句】これは「mold jet technology」という分類になると思います。ASTMF2793やJIS B9441の用語へまだ登録されていない新しい技術です。積層造形で使われている技術は2つ。1レイヤの型を形成させるバインダージェット技術とその型に金属ペーストを塗布するスクリーン印刷技術です。

凄いと感じる4つのこと。①工程が同時並行で進行するのでマシンタイムが最少化されている。②ペーストであれば微細粉末が使えるので焼結体の品質が高い。SUS316Lで相対密度99%、引張強度591MPa、伸び60%との報告がある。③1レイヤーごとに画像処理で検査を行い欠陥がある場合はミーリングで除去して積層をやり直す。④金属ペーストはボトルに入れられて供給されるので活性金属でも安全。ただし沈殿防止のため使用前にボトルを回転させる必要がある。

近年、この装置を米国のMIM屋さんが導入しました。MIM相当の焼結密度と機械的性質を武器にMIMの代替品として、あるいは、MIM金型仕様決定までの開発研究用の試作品として提案営業を行っています。

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2024年5月19日日曜日

MIM屋がMIM-Like AMを使っている事例

米国のMIM屋『Alpha Sintered Metals 1967(現在APG:Alpha Precision Group)』 がMIM-Like AMを導入している。その事例から読み解いた戦略、戦術、技術方針、提案営業などを列挙する。

●MIM-Like AMは、DesktopMetalのMEX(Studio)とBJT(Shop)を使用し後工程を経験豊富なMIM技術で対応する。ソフトはLive Sinter、焼結変形の問題にも対応。

●3D プリンティングを、顧客向けのソリューションの完全なポートフォリオの一部として提供する。

●市場で専門知識を浸透させるための教育活動にも時間を掛け、それが多くのデザイン会社が使用するツールになると確信している。

●金属 3D プリンティングの市場を成長させるための 3 つの戦術。①MIMの金型製作前に製品の形状をMIM-Like AM品で何回もテストさせ最終製品仕様を決定させる「エンジニアの遊び場」を提供する。②MIM初品生産納期(2か月間)の間に、社内でMIM-Like AM品による先行試作を実施し焼結などの問題を顕在化させ事前に対策する。③生産量が少ない案件は始めからMIM化ではなくMIM-Like AMで受注1個からでも対応し、お客様を魅了させ、製造業ビジネスのパイプをさらに太くする。

●MEX(Studio System)からBJT( Shop System)へデータを展開することでスループット(Throughput:単位時間あたりに処理できるデータ量)を最大化する。

●設計者は設計の最適化を望んでいる。設計者にとって量産 MIM の設計品質を検証するための架け橋としてMIM-Like AMの活用を提案する。

●初品納期短縮化。試作品あるいは初品の納期目標を 2 週間以内とし、場合によっては最短 5 日で対応する。

●最新MIM-Like AM積層装置(Tritone Dominant:ペースト方式)を増設した。高生産性、高品質化をめざす継続的研鑽。


【珈琲ブレイク】APG社は、私がイメージするビジネスモデルを具現化しています。ビジョンが素晴らしい。信念を感じる会社です。


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2024年5月16日木曜日

Ti64を積層するBJT防爆装置が凄い件

 【珈琲ブレイ句】Metal AM材料でニーズの多い材料はアルミとチタンだそうです。それを受けてDesktop Metalは、Ti64を積層する高速BJTを市場発表しました。一番びっくりするのは外観です。その外観は「まるで無菌アイソレータ」です。それは活性金属の微粉末を取り扱うための安全性を考えた防爆対策の結果です。積層装置全体がケースで覆われており、内部に不活性ガスを充満し外気(酸素)と隔離しています。ただ作業が無菌アイソレータと同様に装置前面に接続されたゴム手袋を通して行う必要があり、ちょっと大変そうです。しかし、この徹底的な安全対策には脱帽です。

PS.活性金属の微粉末を使用する競業BJTメーカーにも衝撃が走っているのではないでしょうか。ユーザーに対してどのような方式で安全を保障するのか。「安全はすべてに優先する」世の中、商品戦略(装置あるいは粉末の安全化)の練り直しが行われるかもしれませんね。

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2024年5月15日水曜日

MIM-Like AMとMIMとの共進化時代

【珈琲ブレイ句】 MIM(Metal Injection Molding)技術は成熟期の完成された技術です。そこに新しい技術が登場します。MIM品質の再現とさらに大きな形状自由度を有するAM技術です。具体的には ”MIM-Like AM(Sinterbased Matal AM)” です。成熟技術のMIMと新技術のMIM-Like AMを足し算だけでなく掛け算で活用していけばさらに国内MIM市場は大きくなるはずです。

MIM-Like AMとMIMとの共進化時代。それが現在です。この関係をSカーブで図式化してみました。


〇MIMセミナー:2024年6月24日(月)「金属粉末射出成形(MIM)の基礎と製品設計のポイント・最新技術動向および金属3Dプリンタとの共進化」 ◆詳細◆


2024年5月12日日曜日

AM用粉末とMIM用粉末の粒径について

付加製造AMが取り扱う材質は、樹脂、セラミック、金属である。このブログはMIMなので、金属AMとMIMに使う粉末についてまとめておく。

MIM用粉末は球形で微細なほど高密度・高強度に有利で、一般的に平均10μm程度のものが使われている。マイクロMIMでは3μm程度のものが使われている。高タップ密度も重要。

一方、金属AMは大きく2分野に分かれる。それはMIM-Like AM(Sinterbased Matal AM)とDEDである。前者はMIM用粉末の使用を目指している。後者は数倍大きな粉末(50~80μm程度)を使用している。粉末は流動性を重視するため球形を理想とし粉末の流動性を悪化させる微細粉末を取り除いているものもある。


 【珈琲ブレイク】MIMと同様にMIM-Like AMは微細粉末が有利です。しかし(それ故に)MIM-Like AMでは粉末床を使うものは粉末の流動性の課題から微細粉末の使用に限界があると感じています。その問題を解決できるアイデアのひとつが「ペーストにする」です。ペースト状材料を光硬化させるものや、ペースト状フィードストックをMEXで利用する画期的な新工法も登場してきました。さらに通常のMEX装置であればMIMと全く同じ微細粉末を使った市販フィードストック(フィラメント、ペレット、スティック)を使うことも可能です。

『やっぱりMIM屋はペースト積層方式かMEX方式がいいんじゃないかと個人的に思っています。3D積層体(グリーン体)だけ造ったら、後工程の脱脂・焼結は超ベテランなので周回遅れでもすぐにMetalAMのトップ集団に追い付くと思うのです・・。すでに国内のMIMメーカー2社が始めていますね。絶賛応援中!!』

話をもどして・・一方、なぜDEDでは大きな粉末が使われるのでしょうか? その理由を3つ考えてみました。①大きな粉末にすれば粉末床の流動性問題を解消できる。②粉末を溶かすエネルギー(レーザー、電子ビーム)のスポット径が数十~数百μmと大きいので粉末が微細である必要がない。③粉末製造(アトマイズ)では、大きい粉末の方が収率が高いので相対的に安価。

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2024年5月2日木曜日

ウエルドライン

《MIM指南書増補セルフ》

MIM指南書  5.7 ウエルドライン P165の「現象」に下記内容を手書きで追記願います。

「あるいは、X線検査で発見される線状内部欠陥」


【珈琲ブレイ句】ウエルドラインの「現象」欄に外観検査で発見できない内部欠陥のことを書き忘れていました。むしろ大問題になるのは内部欠陥の方です。強度が必要な機能部品を市場で破損させ大問題になったことがあります。すぐに初期流動期間へ戻して、成形体と焼結体両方の全数X線検査を行い流出を防止しました。さらに成形体の温間CIPで不良率を低減させました。最終的にこのウエルドは流動界面であると仮説をたて金型方案の改善*1と成形条件の最適化で完治させることができました。「MIM品質の80%は成形工程で決まる」と確信した出来事でした。

*1 MIM指南書金属粉末射出成形ガイドブックP165【対策】-5項

2024年4月21日日曜日

MIMの還元反応はCOだけなのか?

 【珈琲ブレイク】「焼結密度100%のMIM焼結体はつくれるか」で取り上げたように、不完全緻密化の要因のひとつがCOガスの残留でした。でもガスはCOだけじゃなくてCO2の可能性もあるのではないかと思い、実際に量産品*1を測定しみました。結果は「CO反応として計算した値」とほぼ一致します。計算とは、「ミルシートのCとO」と「焼結体のCとO」の関係からCOガスとして抜けた量を確認するもので、CとOの1モル反応なのでΔOを分子量比1.33で割ってCから引き算*2します。ただし、この結果は完璧に溶媒脱脂と二次脱脂を行っているとき*1(脱脂不足による残留炭素の増加が無いとき)の話です。

*1 溶媒脱脂→N2脱バインダー→真空中還元反応→Ar圧力制御中の焼結

*2 MIM指南書 粉末射出成形ガイドブック P65

《参考》BASFのCIP-CC粉末を水素雰囲気で焼結したときに発生するガスに関する論文がありましたので、その結論だけメモっておきます。水素雰囲気なので還元ガスにH2Oやメタンが登場しています。高温域の還元反応はCOでありCO2は登場していません。

「温度域:生成ガス:反応」の順番です。「200-300℃:CO2:吸着ガス離脱」、「250-520℃:H2O、炭化水素:バインダー分解・還元」、「420-700℃:CH4:メタン化」、「910-1200℃:H2O、CO:還元反応」

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2024年4月13日土曜日

焼結密度100%のMIM焼結体はつくれるか

相対密度100%の焼結体を実現させた秀逸な論文がある。不完全緻密化の仮説を検証で明らかにしている。「相対密度が100%になれない仮説」と「2つの検証実験」を簡潔にまとめておく。カーボニル鉄粉CIPを使った研究論文。

《相対密度が100%になれない仮説》CとOの還元反応で生成するCOガスが気泡として残るから。

《検証1》COガスの素である「C」を初めから少ない粉末を使う。実験ではCが0.00059%のCIPで1400℃焼結体の相対密度が100%になっている。

《検証2》COガスの素である「O」がCと反応するより早く別の酸化物をつくらせる目的で微量の「活性金属」を添加する。実験では、Al,Nb,Ti,Vを各4%添加することで各4種類の相対密度が100%になっている。

 【珈琲ブレイク】焼結密度100%を徹底的に追及したこの研究に脱帽です。CIPは水素還元処理した低炭素の粉末を使えということでしょう。ふたつめの活性金属を添加するアイデアだと結晶粒径がさらに小さくなるというオマケまで付いています。とくにNb添加材は強度も最強になるように感じます。CIP基とする調合合金のSCM鋼やSNCM鋼などの高密度・高強度化へ展開できそうですね。

文献:林宏爾、林台煥 ”射出成形用カーボニル鉄微粉の真空中焼結における不完全緻密化とその原因” 日本金属学会誌 第54巻 第2号(1990)224-230      (D1825)

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2024年4月3日水曜日

【お知らせ】MIMセミナー6月24日(東京)

 オンラインではなく、会場受講のセミナーを行います。

2024年6月24日(月)  10:30~16:30  

東京都「大井町駅」(中央改札)より徒歩1分

金属粉末射出成形(MIM)の基礎と
製品設計のポイント・最新技術動向
および金属3Dプリンタとの共進化

各製造工程と留意点、最適な材料の選び方、設計事例、不良原因と対策、
MIMと共存共栄が期待される最新金属3D積層装置など

【詳細内容はこちら】

セミナー最後に、名刺交換と個別の質疑応答の時間を設けました。

また、MIM指南書50%割引券をテキストの最終頁に刷り込みます。


2024年3月26日火曜日

ホール・ペッチの経験式とMIM粉末

 ホール・ペッチの経験式は、次の通りである。


珈琲ブレイ句この式の意味するところは、「結晶粒径の1/2乗に逆比例して強度が向上するということです結晶粒径を小さくする方法はひとつは焼結条件の最適化で結晶粒を大きくさせないこと。つまり焼結密度を最大化したらオーバーヒートさせないことですふたつめは初めから細かい粉末をフィードストックに採用することです

この法則の面白いところは、結晶粒径を小さくすれば強度が上がるのですが、約10ナノメートルより小さくなると逆に降伏強度が下がるところです(Hall-Petch Strengthening Limit)。

MIMの粉末は微細粉末でも数ミクロンですから、結晶粒径も数ミクロンが下限なのでホール・ペッチの経験式「結晶粒径の1/2乗に逆比例して強度が向上する」の守備範囲になります。つまり結論は、MIMの粉末は微細なほど結晶粒界を微細にできるので降伏強度が上がるということです。

《注意》高温クリープ強度の場合は、「粒成長を促進させて粒界の量を減らす」ことを提案する論文もあります。また磁気特性向上も結晶粒が大きい方が有利など、特性値により選ぶべき結晶粒径の大小は多様です。

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2024年3月14日木曜日

脱脂欠陥一覧表を工程分類で深堀してみた

座右の書ジャーマン先生の本、7章にまとめられている表7.4を意訳し、さらに対応する工程分類を合体させてマトリックスにした。結果は、脱脂欠陥全23項目の65%(15項目)がフィードストック開発設計製造の課題であった。他には、MIM形状設計の課題が1項目、MIM製造の課題が9項目で39%であった(重複あり)。


【珈琲ブレイ句】脱脂欠陥を無くすためにはMIMフィードストックの品質がものすごく重要であるということがわかります。フィードストックを自作する方は相当根性が必要なので初めは市販品の購入から始めた方が良いかもしれません。MIM設計で考慮すべき具体例は肉厚部位を無くし、応力集中を発生させない形状設計をおこなうことですね。MIM製造でコントロールできる項目が約4割もありますのでMIM製造現場力の見せ所であり、品質管理QC(実験計画法含む)が重要であるということもわかります。

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2024年2月22日木曜日

MIM入門者の必読論文紹介「MIMバインダー設計」

MIM入門者(MIMフィードストック開発)およびMEX用フィラメント開発者に有益な素晴らしい論文を紹介する。下にJ-Stageへのリンクを貼った。

《秀逸なところ》

①溶媒脱脂(パーマテック系)、加熱脱脂(ウイテック系)、NEW加熱脱脂(3STD、シングル系)をほぼ網羅している。

②熱分解温度で3つのグループを提示し「SA,PW,DOP」「PMMA,POM」「PS,PE,ABS,EVA,PP]、その組み合せにより、三段階の熱分解曲線(3STD)の可能性を示している。

③溶媒としてHexanとMEKの脱脂性と脱脂率の違いを明確に解説している。

参考資料:伊藤芳典、針幸達也、佐藤憲治、三浦秀志 ”加熱脱脂および溶媒脱脂を考慮したMIM用バインダの検討” 粉体および粉末冶金 第49巻 第6号 518-521

J-Stage 

【珈琲ブレイ句】この研究論文から、(触媒脱脂法を除く)すべてのMIM製法のフィードストック仕様のヒントを得ることができます。丁寧な良い仕事をされていると感心します。この内容はパテントを気にすることなく有難くいただくことができます。

ひとつだけ気になるところは、「PMMAの膨潤」です。溶媒脱脂とPMMAの組み合わせを選びたい方は、PMMAの膨潤による脱脂中のグリーン体割れの発生の有無を確認した方が無難です。

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2024年2月19日月曜日

高流動性ステンレス粉末

 PM(粉体粉末冶金、圧粉焼結)やPowder Bedを使うMetal-AM(金属3Dプリンター)への応用が期待できる新技術を記録する。

《事例》粉末としてSUS316L(10~40μm)にカーボンコーティング(5ナノメートル厚)することで、安息角が40度から32度に小さくなり、流動性指数(Carr)が80.5から91に向上する。

粉末にカーボンをコーティングする方法:①フロロダルシノールを300℃×2H加熱して炭化させる。 ②SUS316L粉末に重量比で100:1混ぜる。 ③DMF溶剤を加え超音波混合し、イオン的相互作用で自発的にコーティングさせる。 ④DMF溶剤で洗浄・精製して真空乾燥させる。 ⑤窒素800℃×2Hで加熱する。

参考資料:郷田隼、”液相カーボンコーティングによるステンレス鋼粒子の流動性向上” J.Jpn.Soc.Powder Metallury,71(2024)51-55

【珈琲ブレイ句】微粉末になればなるほど粉体流動性は悪くなります。この技術はそれを改善するすばらしい発明です。炭素(黒鉛)は摩擦係数が小さい潤滑剤ですからね。でもコーティングされた炭素がどうなるのか心配になりますが、なんと焼結中に酸化クロムと還元反応(977℃)して無くなり、母材の純度が上がるメリットもあるそうです。

Powder Bedを使うMetal-AM(BJT等)では、微細粉末を精密・正確に1層敷き詰める信頼度が今後の課題になるだろうと予想しています。つまり、要求レベルが上がって、積層体の内部空隙欠陥の発生率が課題(6σ管理、不良率0.3%)になる未来が来るということです。後処理のHIPで解決できますが処理費が高価です。それより始めから粉体の流動性が高ければ粉体の嵩密度は向上し分散は小さくなるはずです。近い将来この技術が脚光を浴びる日が来ると感じています。

蛇足ですが・・別の方法で微粉末の流動性を向上させるアイデアがあります。「概要はこちらのBLOGで・・」

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2024年2月18日日曜日

粉末量SLの限界vs型内圧力vsグリーン体密度

 たいへん素晴らしい論文からグラフを転記する。

横軸が粉末量(Solid Lording)、縦軸(左)が型内圧力、縦軸(右)がグリーン体密度である。

結論:①粉末量SL(Solid Lording)を増加させるとグリーン体密度は比例して増加する。②しかし、さらに粉末量を多くするとグリーン体密度が頂点に達した後に低下する。同時に型内圧力が急激に低下する。この頂点近傍ががCSL(Critical Solid Lording)である。③CSL近傍のグリーン体(成形体)の表面に微細なクラックが発生していた。これは、CSL近傍では溶融粘度の増加および固化速度が大きくなることで、材料への圧力伝達が不足したためと考えられる。

参考文献:田中茂雄大久保健児濱田泰似  金属粉末射出成形法における樹脂流動に関する研究(1)&(2)”、Seikei-Kakou Vol.17 No.2 2005 & Vol.18 No.9 2006


【珈琲ブレイ句】この2つの研究は大変勉強になる秀逸な論文です。成形技術に関するヒントが詰め込まれておりMIM入門者の必読論文として推薦します。

「研究(2)ではMIMフィードストックの最適な粉末量は60VOL%である」と結論を出しています。ただし、使用している粉末の性状(形状、粒度、タップ密度等)によってこの結論は変化するので数字だけ切り取るのは危険です。

実験でCSLを求める一般的な方法は、ラボプラストミルで混錬トルクを測定するものです(MIM指南書P69 )。さらに推定式で予備実験用の概略CSLをタップ密度から求めることもできます(MIM指南書P76)。

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2024年2月15日木曜日

MIM-Like AMの仕上工法

 MIM-Like AM(Sinter based Metal AM)とMIMに使える仕上に関する工法をまとめておく。

《表面あらさ向上》バレル(光沢バレル、磁気バレル)/ ショットブラスト(砥粒含有弾性体、シリウス等)/ 光沢研磨(バフ研磨)/  MMP®(Micro Machining Process)

《表面改質(疲労強度向上)》ショットブラスト、ショットピーニング/ レーザーピーニング/ キャビテーションウオータージェットピーニング

【珈琲ブレイ句】TCT-JAPAN 2024で初めて知った工法があります。キャビテーションウオータージェットピーニング(SUGINO)です。ワーク表面に高圧水を噴射させ表面で崩壊する気泡がキャビテーションを発生させるそうです。それは数ギガパスカルの衝撃力で表面に残留応力が残る理屈です。一般のショットピーニングと比較して優れているところが2つあり①洗浄工程が不要②材料組織構造の変化が少ないところだそうです。欠点があるとすれば、ウオータージェット装置が高額なところでしょうか?初めは委託加工からですね・・・。

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2024年2月14日水曜日

金属素形材の試作納期短縮チャレンジ

 TCT-JAPAN 2024に出展していた「超小ロット特急対応」を提案しているメーカーの最短納期は次のとおりである。

PBF(レーザー):7日間、MAX80mm、SUS316L

MEX(フィラメント):14日間、MAX80mm、SUS316L、630、純銅

LW鋳造(3Dモデル):5日間*1、30~500mm、SUS、鋼、アルミ、銅

参考資料:キャステムデジタルキャスト推進室カタログ 

《ことば》PBF:Powder Bed Fusion / MEX:Material Extrusion / LW:Lost Wax(精密鋳造)


【珈琲ブレイ句】短納期を営業ツールとする差別化戦略です。相当攻めている納期ですね。それにしてもロストワックス精密鋳造を利用する商品で納期が5日間というのは驚きです。(逆にMEX製法の14日間が相対的に長く感じます。)

どうすれば5日間でできるのか推理してみましょう。ロットは数個の1ツリー、5層鋳型と仮定すると・・・。

樹脂モデル造形+ツリー組立(1日間)、コーティング(2日間)、脱ロウ・焼成・鋳造(1日間)、切断・仕上・検査・梱包出荷(1日間)であれば5日間は可能です。

工程内・工程間の管理停滞ゼロ、鋳造解析は行わない(あるいは事前に行う)といった感じでしょうか? とにかく攻める営業が凄い!

*1 2024/2/27の同社メールマガジンでは、デジタルキャストの納期が最短10日間となっています。それなら納得できます。5日間は短すぎると感じていました。


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2024年2月13日火曜日

MIM製INCO713LCの熱処理効果

MIM製INCO713LCにおける熱処理の効果について記録する。

焼結体密度:99% (Schunk Sintermetalltechnik 社製)

溶体化処理:真空1200℃×2H後、Arガス冷却

時効処理:925℃×4H

比較材:MIM焼結体(as sintered)、MIM焼結体(溶体化・時効)、鋳造品+HIP

《結果》

焼結体と比較して、高温での Rm と Rp0.2 は熱処理後に増加する。これは、粒界での微細化された γ’ と炭化物の析出に起因すると考えられる。 ただし、延性が大幅に低下する。

 鋳造 + HIPと比較して、MIM IN 713LC は 700°C までの温度で高い強度を示す。 焼結体(as sintered) の延性は、鋳造 + HIPの延性よりも高くなる。 ただし、MIM焼結体(溶体化・時効)の延性は、鋳造 + HIP 処理より試験温度範囲で低くなる。

500℃における回転曲げ疲労特性(83 Hz)では、焼結体(as sintered)MIM焼結体(溶体化・時効)は同等の回転曲げ疲労特性が得られ、鋳造 + HIP と比較して優れた疲労挙動を示した。これは粒界滑りに対する安定性によるものと考えられる。

参考文献:Vol. 10 No. 4 © 2016 Inovar Communications Ltd December 2016 Powder Injection Moulding International 65

【珈琲ブレイ句】MIMは粒界に微細炭化物が析出するため鋳造品より強度や疲労強度が高くなる可能性がある(伸びは熱処理で低下する)という内容です。ただ、比較している鋳造品はHIP処理だけで、溶体化時効が行われていない?ことが気になります。でも一般的にはMIMの方が鋳造(たぶんロストワックス)より組織が微細になることは確かですね。

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2024年2月6日火曜日

MPD方式の優位性を妄想してみる

 【珈琲ブレイ句】新登場したMIM-Like AM(MEX方式)のMPD(Metal Paste Deposition)」を一目みて「!!!まじか!!」。その潜在的パワーを強烈に感じました。

その潜在的パワーの正体(直感的私見)を、「ペレット方式」「フィラメント方式」「ペースト方式(MPD)」の三者で比較しながら文章にまとめておきます。

《優れる1》積層中にバインダーの約90%が蒸発します。蒸発物は水ですが、これは、積層中に開気孔構造体をつくる一次脱脂が完了することを意味しています。他の方式では、溶媒脱脂、触媒脱脂、加熱脱脂が別工程あるいは焼結炉内で必要です。その結果、積層体がすでに開気孔構造体なので肉厚部品の焼結が可能になります。TCT2024展で一辺50mmの立方体(焼結体)が展示されていました。

《優れる2》積層材料(フィードストック)が常温でペースト状なので材料を溶融する必要がなく、凝固収縮によるヒケやボイドの問題が発生しません。他の方式では、160℃程度の加熱溶融からの冷却・凝固収縮が発生します。ただし、空気の巻き込みによるボイドは3方式すべてに発生する可能性があります。

《優れる3》MPDペーストは、常温流動性だけを考慮して設計することができます。一方、フィラメント方式では、フィラメントが積層装置の都合だけの要求で設計される傾向があります。例えば、リール材(コイル材)にするための柔軟性と湾曲性が要求されます。さらに、ノズルへ移送させるギヤ送り機構に耐える表面の強靭性も必要になります。その結果、表面コーティングの付加や、それらによる脱脂性を犠牲にする設計が要求される可能性があります。

《優れる4》常温で積層できるので積層環境の温度を高くする必要が少ないと思われます。他の方式ではテーブルを加熱したり、環境温度を管理したり、フィードストックの温度を高めに設定するなどスキン層の密着性に影響する凝固温度を確保するための環境調整が必要になります。また、積層された造形物に熱履歴の差による残留応力が残り脱脂変形を引き起こす可能性が潜在しています。

《劣る1》MPDのバインダーの主成分は水なので錆びる鋼には使いづらい傾向があります。現在用意されている材質は、316L,17-4PH,INCO625です。開発中としてTool Steel,銅,WCをあげています。Tool Steelは,比較的錆びに強いD2あたりでしょうか?とにかく錆びに強そうな鋼種だけなのです。

《劣る2》3方式すべてに共通しているのですが、ノズルからの噴射速度が低いので積層材料の動粘性を低くする必要がるためバインダー量を(100-CSLvol%)よりかなり多めに設計する必要があります。これは、収縮率が大きくなることであり、スランプ変形も含め焼結体の精度が悪くなります。RAPIDIA社の公開情報では、バインダー(水+α)は約10wt%なので、40VOL%は軽く超えており結構ジャブジャブだと推察されます。

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2024年2月2日金曜日

メタルペースト積層(MPD)を掘下げる

MIM-Like AM(Sinter-based Metal AM)のMEX方式は、材料供給方式が3種類になった。それは、「ペレット方式」「フィラメント方式」そして新しく加わった「ペースト方式」である。

カナダの新興企業(2016年設立)RAPIDIA社が開発したMPD(Metal Paste Deposition)「Conflux-1」の概要仕様を記録する。

販売権:大陽日酸株式会社

積層材:水溶性金属ペースト(316L、17-4PH、Inco625、サポート用セラミック材)の入ったカセット(1L)で供給、

積層方式:金属ペーストの押出しによるMEX方式

積層速度:50g/H

積層物硬化方法:一層積層ごとにハロゲンランプにて加熱乾燥

脱脂焼結:脱脂不要、Ar焼結(MAX1400℃)。

【珈琲ブレイ句】TCT展示会2024で実物を見てきました。実際に積層しているところは見られませんでしたが、ソリッドの50mm立方体の焼結体を持たせてもらいました。中実で50mmの焼結体には驚きました。他のMEXやMIMでは製造不可能でしょう。すごい技術が登場してきました。

なぜこんなことができるのかというと、文字通りほぼ脱脂が不要だからです。ペーストは約10wt%の水分と金属粉末で作られていて、積層直後の加熱乾燥で水分が蒸発し約1%の結合剤だけが残ります(これが一次脱脂と考えることができる)。この状態は和菓子の「おこし」状態でスカスカな構造体(開気孔構造体)なのです。だから50mm立方体の焼結体が膨れや破裂することなく焼結できるのでしょう。説明によると1%残る結合剤は、粉末と粉末の接触点に集合して固化するので積層体(ブラウン体でもある)の強度が高いそうです。

課題があるとすれば、やはり水を使っているので錆びを嫌う鋼種は無理っぽいところでしょう。しかしメリットの方が大きいと思われます。超肉厚部品ができる。さらに憶測ですが積層雰囲気の温度管理が容易で温度履歴差で発生する残留応力による変形も少なくなるような気がします。とにかく今後の注目技術です。

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2024年1月30日火曜日

一次脱脂は溶媒脱脂と触媒脱脂がベストな理由

 【珈琲ブレイク】MIMは成形、脱脂、焼結で金属の部品が作られます。脱脂は「一次脱脂」と「二次脱脂」に工程分割され、それぞれ目的が異なります。

一次脱脂の目的は、原理が全く異なる溶媒脱脂(水脱脂)と触媒脱脂に共通する表現を使えば「一次脱脂の目的は開気孔構造を作ること」です。このスポンジ構造(多孔質三次元構造体)が、二次脱脂(Debinder)である「加熱脱脂」で発生する多量の体積膨張した分解ガスを逃がす排気経路になります。この排気経路(煙突)が完璧であれば二次加熱脱脂で膨れや割れを防止することが容易になるのです。溶媒脱脂と触媒脱脂の一次脱脂は、表面から内部へ開気孔構造を作りながら進行していくのです。

開気孔構造=二次加熱脱脂の排気経路(煙突)

一方、一次脱脂に加熱脱脂を使う方法は存在し、日々進化しています。私も一部の材質で利用していました。工程日数短縮などコストダウンに貢献してくれるからです。しかし、一次加熱脱脂工程の初期は開気孔構造ではないことをよく理解して脱脂条件を決め、さらに適切なMIM形状を設計する必要があります。さらに、残留炭素が増える傾向がありますので焼結体のC%の管理図によるコントロールと、日常設備管理として脱脂焼結炉の真空排気系能力の維持が必要になります。


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2024年1月28日日曜日

MIM指南書増補セルフ 第5章

 【MIM指南書(増補・セルフ)第5章 MIM不良24種の原因と対策

下記内容を手書きで追加願います。

P158 原因3として「フィードストックの不均質性(poor homogeneity) 粒子間距離のバラツキ」

P158 対策7として「混錬条件(時間、温度、回転数)の見直し。再混錬。」

P161 対策6として「MKS処理(不二製作所)を行い離型抵抗を減らす。」

P163 原因4として「射出圧により型が変形しPL部に隙間が発生した。」

P163 対策5として「サポートピラーを中心部に配置する。」

P165 現象 英語訳として 「joint line」を追記

P170 原因1の誤記訂正 誤:量がい 正:量が多い

P170 原因4として「焼結中のスランプ。例:SUS630の焼結では、1200℃をピークに強度が下がる。」

P170 対策6として「最終焼結温度の保持時間を短くする。」

P174 対策9として「Ar雰囲気分圧焼結の減圧を下げる、例えば5torr(666Pa)、ただしCrなどの蒸発に注意すること(P138)」

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2024年1月25日木曜日

英国CMGのFFF用フィラメント

 英国のMIMメーカーであるCMGが販売しているMetalAM(FFF)用フィラメントの拡大率(伸び尺、scaling factor、oversize shrinkage factor)を記録する。

積層物(グリーン体)の一般的な拡大率  x/y/z %

316L: 118/118/117 %

17-4PH: 119/119/118 %

H13 工具鋼: 119/119/118 %

100Cr6: 119/119/118 %

・ 銅: 119/119/118 %

IN625: 119/119/118 %

IN718: 119/119/118 %

【珈琲ブレイ句】先陣を切ったBASFのようにMIMメーカーがMetalAM用フィラメントを造ることは素晴らしいことです。なぜならMetalAM(Sinterbased Metal AM)が広まれば、連鎖的にMIMも広く普及するからです。

さらに素晴らしいことがあります。それはBASFもそうですが「技術情報を公開している」ことです。そしてどちらも触媒脱脂を採用しており技術的兌換性もあるのです。さらに積層装置は一般のFFF装置で積層できる可能性があり、3Dプリンターの選択肢が広いのです。

《疑問?》CMGの発表しているscaling factor(拡大率、伸び尺)は、z方向が小さくなっています?? Z方向の収縮率は重力の影響で大きくなると思うのですが(拡大率も大きくなる)謎です!!?? ちなみにBASFのUltrafuse316Lの拡大率は、XY120%、Z126%です。

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2024年1月21日日曜日

プラズマアトマイズを掘り下げる②

 AP&Cのプラズマアトマイズ粉末の中でMIM用粉末だけまとめる。

高純度チタンCpTi:   Grade2、粒度分布 (PSD) 0 20 μm(D50=12μm)、O=0.21%、ASTM B348ASTM F67ASTM F1580 に準拠

チタン合金(Ti-6Al-4V等) Grade5、PSD= 0  20 μm(D50=13μm)、O=0.21%、ASTM B348ASTM F136ASTM F1580ASTM F2924ASTM F3001AMS 4998準拠

Ni基超合金(718,625):PSD= 0  20 μm(D50=10μm)、O=0.21%、ASTM B472ASTM B637ASTM F3055ASTM F3056AMS 5596AMS 5662AMS 5666に準拠

【珈琲ブレイ句】AP&C社は、大手整形外科メーカーや航空宇宙メーカーと協業で10 年以上の実績があり、品質とコストで競争力のある会社です。ここが造る粉末はサテライトが無く、ほんとうに惚れ惚れする球体です。品質が良い理由は3つ。①材料が高純度ワイヤーで機構的に汚染されない。②正確な材料送り速度と印加エネルギー制御 ③材料投入から不活性ガスAr雰囲気内での噴霧化により酸素汚染を最少化

関連ブログ:プラズマアトマイズを掘り下げる

関連ブログ:日本が発明したアトマイズ法「CFJA法」

【MIM指南書増補セルフ】印刷してP62の表3.8の4行目の下に貼り付けてください。


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2024年1月19日金曜日

水溶性MIMフィードストックを深堀する

 市販されている2種類の水溶性MIMフィードストックを比較した論文(仏CEITT-MDTS研究所)の概要を記録する。

《フィードストック2種》①PolyMIM🄬316L:POLYIM社(ドイツ)平均粒径18μm ②AquaMIM🄬316L:RYER社(アメリカ)平均粒径23μm

《実験条件》一次脱脂:脱塩水浸漬(30,50,70℃×10H)、Zschimmer and Schwarz 酸化防止剤4000(2%)、二次脱脂・焼結:H2雰囲気、600℃×3H+1350℃×2H+炉冷 脱塩水:塩分をフィルタ等で除去した水、蒸留水と区別される)

《水脱脂の結果》水温が高いほど重量減少が大きい。PolyMIMは50℃と70℃の差が少なく、50℃9時間でデータシート値の3.8%減に達した。一方AquaMIMは70℃8時間でデータシート値5.5%に対して5%に達した。

《焼結体の結果》バインダ量TGA測定値%、平均収縮率%、密度(g/cm3)、引張強度(MPa)、降伏強度(MPa)、硬度(HV)は以下の通り

PolyMIM🄬316L:7.68%,14.3%,7.90g/cm3,450MPa,140Mpa,150

AquaMIM🄬316L:7.72%,14.3%,7.87g/cm3,430Mpa,138Mpa,140

     参考文献:PIM-International Vol.5 No.1 March 2011 P53

【珈琲ブレイ句】バインダー組成にどんな水溶性ポリマーが使われているのか不明ですがどちらも9時間程度の温水(50~70℃)で一次脱脂することができています。水脱脂のメカニズムは2つ、「毛細管力」と「濃度勾配からの平衡拡散」です。顕微鏡観察では水脱脂による膨潤や亀裂は観察されません。このように一次脱脂を行うことで加熱脱脂性が有利な「開気孔構造」ができるので、品質問題なく二次脱脂(加熱脱脂)へ移行させることができるということですね。

最終品質ではPolyMIM🄬316Lの機械的性質が少し優れています。この原因は2つ考えられます。①粉末平均径が小さいことが影響している可能性がある。②残留炭素量が相対的に多い可能性がある。

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2024年1月16日火曜日

リファサーモはMIMに使えるか?

 ファインセラミックセンターJFCCが頒布している標準物質「共通熱履歴センサー(リファサーモ)」は、セラミックの大気焼結用に作られた”相対温度計”である。焼成炉の総合的な熱履歴の日常管理(統計的品質管理、管理図等)のための物差しである。リファサーモ(Mタイプ)をMIM脱脂焼結で試したデータを紹介する。


【珈琲ブレイ句】一流の熱処理メーカーではAMS 2750Dに従う温度管理を行い品質保証をおこなっていますが、MIM脱脂焼結炉で同程度の厳しい管理は行っているところは少ないと推察されます。複数の熱電対配線とデータロガーを設置するのは大変時間と手間がかかるのです。それでもMIM焼結品質を保証するためにはMIM脱脂焼結炉の熱履歴管理は必要不可欠です。そのひとつの方策として「リファサーモ」の様な「相対温度計」を量産品と一緒に焼結すれば、炉内定点観測による日常管理(管理図等)が可能になります。

リファサーモの主成分はアルミナ粉末ですが、金属粉末のMIMで使えるか試した結果、グラフ1の様に多項式で近似できることがわかりました。ただし実用化には少々問題がありました。それは、「イマイチMIM焼結体の寸法の感度と一致しない*1」のです。それで使うのをやめ相対温度計を自作することにしました。実際のMIM材料で(Qサーモ)を作る方法です。自社内の設備管理の範囲内でお勧めです。他にもいくつかメリットがありました。このQサーモについては、MIM指南書P152に記載しています。

*1 セラミック粉末と金属粉末との焼結速度傾向に差がある。MIM焼結では不活性ガスを流すので対流の影響を受ける。リファサーモの同一ロット品でも購入日によって差がある(社格±10℃)。

蛇足メモ:米国のOrton Ceramic Foundation が開発した相対温度計”TempTAB”は、大気、不活性雰囲気、還元雰囲気で使えるように設計されているようです。もしかするとMIMでも使えるかも?

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2024年1月10日水曜日

MIMの不良を連関図にまとめた(2/2)

  変形、組織、バリ不良を中心に、不良名とその原因および対策や改善のヒントを連関図にまとめた。(その2)

《MIM指南書・増補セルフ》印刷して"MIM指南書 第5章MIM不良24種の原因と対策 P157" に折りたたんで貼り付けてください。



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2024年1月8日月曜日

MIMの不良を連関図にまとめた(1/2)

 ウエルド、ヒケ、ボイド不良を中心に、不良名とその原因および対策や改善のヒントを連関図にまとめた。

《MIM指南書・増補セルフ》印刷して"MIM指南書 第5章MIM不良24種の原因と対策 P157" に折りたたんで貼り付けてください。



【珈琲ブレイ句】不良に対する原因は独立せず相互に依存しているので連関図としてまとめました。副作用(交互作用)も考慮しながら、原因を推定して「ベターbetter」な対策を試行して結果を確認・検証してください。


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2024年1月5日金曜日

ロー付け剤のMIMへの利用研究

 ステンレス鋼の真空ロー付けで使うNi基ロー付け剤BNi2をMIMへ利用する研究が面白いので記録しておく。

MIM粉末:析出硬化系ニッケル基超合金(IN718?)

高速拡散融点降下剤:Ni基ロー付け剤BNi2粉末Ni-7Cr-4.5Si-3Fe-3B

《実験の趣旨》ニッケル基超合金の固相線より低く低融点合金の融点より高い温度で液相を発生させ、毛細管力で多孔質構造に侵入させ拡散および粒子再配列による緻密化を期待する。最終的にはニッケル基超合金の液相焼結を促進させ結晶粒子を成長させることでクリープ強度の向上を図る。

《結果》BNi2を10wt%添加することで粒子成長が観察されるが、微細構造には有害な非平衡凝固生成物が含まれていた。

参考文献:”Liquid Phase Sintering of a Metal Injection Molded NickelBased Superalloy With Additions of BNi-2 Alloy Powder Using Differential Scanning Calorimetry”  Metallurgical and Materials Transactions A, available online September 8, 2023, 13 pp.

【珈琲ブレイ句】研究結果は課題が残っていますが、今後の研究が期待される面白い内容です。

目的は違いますが、現役時代に銀ローを使ってMIM2部品(SUS316L)の一体化実験を行ったことがあります。焼結中に銀ローが侵入することで一体化するのですが、ロー剤が浸透した部分の収縮率が小さくなりポッコリと膨れてしまいました。結局2つの焼結品を普通に銀ローで一体化させることはできましたが、MIM技術ではなくなりました。

もしかすると、ロー付け粉末を数%添加したMIMフィードストックを作り、これで成形した2つのグリーン体を一体化焼結させると、新たな発見があるかもしれまんね。少なくとも局所ポッコリは無くなります。

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2024年1月2日火曜日

MIMフィードストックの評価項目は何か?

 市販のMIMフィードストックが登場している。また、自作する場合に「どんなMIMフィードストックにすればよいのか」。その評価項目(特性)を列挙しておく。

CSLに基づくバインダー量(Vol%):少ないほど変形が少なく高精度。焼結体の寸法の分散(標準偏差)。

バインダー濡れ性:接触角が小さい方が金属粉末との濡れ性がよい。

フィードストック均質性:フィードストック製造バッチからランダムサンプリングによる密度測定データの分散(標準偏差)、小さい方が均質性が高い。

相溶性:顕微鏡観察、2種の高分子ポリマーの混和性確認。ポリマー島状NG、連続線状Good。

流動性(キャピラリーフロー):せん断速度(log1/sec)VS 見かけ粘度(log poise)。直線が下方向ほど成形しやすい。成形限界粘度10^3poise

熱変形(脱脂・焼結):二点指示の中央変形量、変形量は小さい方が良く高精度。

液状化度:金型のPL等の隙間にバリが発生しない。低分子量、相溶性。

熱分解特性:熱重量分析、温度管理巾の広い傾斜プロファイル。脱脂・焼結炉のプログラム設計基礎データ。

残渣量:バインダーに起因する残留炭素量。バラツキが少ない方がよい。平均値が少ない方が良い、ゼロ望目(低炭素鋼、チタン合金等)。

【珈琲ブレイ句】MIMフィードストックの評価項目はたくさんあります。すべての項目をベストにすることは不可能です。特性値の間に交互作用が存在する組み合わせががあるためです。例えば、バインダー量を最小化すれば流動性は当然悪くなります。PLへの液状体侵入を押さえるために脂肪酸類を減らせば流動性が低下します。総合的な品質バランスを考えてフィードストックを開発する必要があります。

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2024年1月1日月曜日

MIMフィードストック構成材料の機能

MIMフィードストックを構成する材料の機能を連関図としてまとめる。


【珈琲ブレイ句】MIMフィードストックを構成する結合剤はその名の通り金属粉末を結合するものです。しかし各種ある添加物(構成材料)の機能は相互に依存していて単純ではありません。たとえばEVAやEGMAは主結合剤と副結合剤の相溶化剤ですが結合剤と考えることもできます。さらに可塑剤と潤滑剤の機能はかなり被っています。このように複雑なので連関図としてまとめてみました。 

MIMフィードストックのワックス・バインダー類は脱脂工程で完全に消失させてから焼結します。それぞれの熱分解温度を考慮した組み合わせが重要になります。熱分解温度はMIM指南書P132、表4.5に載せていますので参考にしてください。

【MIM指南書増補セルフ】 この図を印刷してMIM指南書のP56とP57の間に挟んでいただけると幸いです。

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