2022年8月30日火曜日

新しいMetal AM技術 溶融アルミAM(The ElemX AM)

 また新しい工法のMetal AMが登場した。それは、ゼロックス社の溶融アルミAM(The ElemX AM)である。原理は、溶接用のアルミワイヤーを供給材料として溶融し、その液滴を磁気流体力学 を利用して、特定の速度と特定の質量で噴射して積層造形するものである。

【珈琲ブレイ句】AM分類では材料噴射(MJT:Material Jetting)に入ると思われます。MJTの金属AMではXjetがあります。こちらはナノ粉末をジェッティングしてその場で加熱し粉末を融着させていくものでした。このゼロックス法は材料が既存の溶接用ワイヤーであり、粉末と比較して安価であることが最大のメリットだと思われます。さらに、その場で金属積層体が完成すること(脱脂・焼結工程が不要)も魅力があります。課題は高融点金属に展開できるかどうかでしょう。それにしても素晴らしい技術です。

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2022年8月23日火曜日

品質工学パラメータ設計事例5  GRG特性値結合法

 海外の文献でみるMIMのタグチメソッド(L27)。3つの特性値、外観、強度、密度をGRG法で結合。

金属粉末:GA-SUS316L(粗めの二峰分布)

バインダー組成:PEG:73%、PMMA:25%、SA:2%

フィードストック組成:因子C、3水準、64,64.5,65体積%

試験片:不明

特性値:外観、強度、密度 をGRG(Grey relational grade)法により数値化0~1(1が理想)

制御因子:A:射出圧力、B:射出温度、C:粉末量、D:金型温度、E:保圧力、F:射出速度 各3水準 L27  

《結果》A×B、A×C を考慮して最適値はA1B1C1D2E0F2である。さらに粉末量Cは注意が必要で中間の64.5VOL%が選ばれた。

参考文献:Journal of Applied Sciences,2011,Vol.11,Issue:9,P1663-1667, Multiple Performance Optimization for the Best Metal Injection Molding Green Compact

【珈琲ブレイ句】この論文からの学びは2つ。ひとつは、3つの特性値をGRG法を使って0~1の間の数字に結合して解析できちゃうこと。ふたつめは、粉末量が最大の65VOL%ではなく、中間の64.5VOL%が選ばれたこと。粉末の仕様が「A powder metal particle size distributions used is in a bimodal distribution consisting of 70% of coarse powder in a weight fraction.」という程度しか記載が無いのですが、粗い分布を含めた二峰分布ということで、もしかすると粉末量65VOL%は、タップ密度が低く、CSL最大粉末量に接近しておりバインダーが不足ぎみだったという可能性があります。

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2022年8月22日月曜日

品質工学パラメータ設計事例4   MIM不良

 海外の文献でみるMIMのタグチメソッド(L81)。MIM不良を特性値とする成形条件の最適化事例。

金属粉末:WA-SUS316L(D90=10)

バインダー組成:PEG:73%、PMMA:25%、SA:2%

フィードストック組成:粉末62体積%

試験片:引張試験片形状(80×20×t4mm)

特性値:MIM不良(discrete data technique: 離散データ、点数、重み付け)、密度

制御因子:A:射出温度、B:金型温度、C:射出圧力、D:射出速度 各3水準 L81  すべての交互作用を分析する

《結果》MIM不良に対して高度に有意なものはひとつ。金型温度の高温側に最適値がある。密度では、射出温度と金型温度が高度に有意である。どちらも高い方が原料の流動性が向上し、より多くの粉末が金型キャビティに充填されるためである。射出圧力は成形体密度に大きな影響を与えない。これはジャーマン博士の論文と一致する。

参考文献:INTERNATIONAL JOURNAL OF INTEGRATED ENGINEERING VOL. 12 NO. 4 (2020) 210-219, Parametric Optimization of Metal Injection Moulding Process Using Taguchi Method

【珈琲ブレイ句】MIM不良を特性値とする貴重な論文です。不良は計量値ではないので数値変換が必要です。この論文では、13種の成形体不良(Flashing,Weld Line,Cracking等)に点数(重み)を付けて、実験で得た成形体の品質をその点数表を使い(複数あれば合算させて?)数字に変換するものです。ただし、不良と重みの大小を決めるには相当技術力が必要になりますので重み付けの試行錯誤(加法性)が必要になるであろうと感じます(でもすばらしい挑戦的実験です!)。

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品質工学パラメータ設計事例3 成形体密度 SN比と感度

 海外の文献でみるMIMのタグチメソッド(L27)。射出条件の最適化事例。SN比だけでなく感度の分析も行われている。

金属粉末:WA-SUS316L(平均6.0、D90=10.65、TD=8.05)

バインダー組成:PP:60%、RWL derivatives(密度0.90,融点50℃):40% 2成分

フィードストック組成:粉末60体積%(CPVC:64.8体積%)

試験片:引張試験片形状(寸法不明)

特性値:成形体密度n=3、望目特性SN比、感度(平均値)

制御因子:A:射出温度、B:射出圧力、C金型温度、D:冷却時間、E:射出速度、F:射出時間、G:保圧時間 各3水準 L27

《結果》最適水準の組合せで密度5.10g/ccを達成(最悪条件では4.99g/ccレベル)。確認実験で再現性0.4%以内を確認。制御因子はSN比と感度の両方に影響するので両立する水準を決めている。

参考文献:MATEC Web of Conferences 135, 00038 (2017)Green density optimization of stainless steel powder via metal injection molding by Taguchi method

ことば:CPVC Critical Powder Volume Concentration、CSL(Critical Solid Loading)最大(臨界)粉末量と同義

【珈琲ブレイク】この論文はバラツキを減らす研究(SN比)と、平均値を調整する研究(感度)の両方検討されています。特性値が密度ですが、密度が高くなれば当然、内部不良は無くなり、成形体強度も最大化できるはずです。制御因子はバラツキ改善と平均値調整の両方に影響してしまうのですが、平均値を調整したければ「射出温度」が使えそうだということがわかります。技術的に考えると熱膨張収縮を利用するという事かな?


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2022年8月21日日曜日

品質工学パラメータ設計事例2  小物の成形

 海外の文献でみるMIMのタグチメソッド(L27)。射出条件の最適化事例。

金属粉末:WA-SUS316L(PF10F、D90=10.65、TD=8.05)

バインダー組成:PMMA:25%、PEG:73%、SA:2%、

フィードストック組成:粉末61.5体積%

試験片:全長9、厚さ0.8、ゲート高さ0.32(mm) バーベル形状

特性値:成形体強度(二点保持破断試験)n=5、望大特性SN比

制御因子:A:射出圧力、B:射出温度、C金型温度、D:射出時間、E:保圧時間 各3水準 L27  交互作用の研究も行う

《結果》A×C、E を誤差としてプーリング、有意なものは 

B×C 射出温度と金型温度の交互作用 

A×B 射出圧力と射出温度の交互作用

D 射出時間

最適条件=A1B1C2D0  

参考文献:International Journal of Mechanical and Materials Engineering (IJMME), Vol. 5 (2010), No.2, 282-289, OPTIMIZATION OF MICRO METAL INJECTION MOLDING FOR HIGHEST GREEN STRENGTH BY USING TAGUCHI METHOD

【珈琲ブレイ句】具体的な最適値の記載は省略しています。この論文からの学びは次の事です。成形体の強度を上げるためには、高い射出圧力と高い射出温度、さらに高い金型温度が良いと考えがちですが、そこには交互作用があるということです。高すぎても低すぎてもダメで、因子の組合せの妙(交互作用)というものがあるという事です。MIM成形材料はバインダーと粉末の混合体なのでハードな条件になると成分が分離してしまうという事でしょう。

 面白いのは、一つだけ交互作用が無く単独で制御できる因子があることです。それは射出時間です。射出時間が一番短いほど成形体強度が高くなっています。この理屈を推察してみると、「射出時間が短い」ということは「射出速度が速い」ということなので「見掛け粘度が低い」つまり「流動性が高い」条件で射出成形せよ!ということでしょう。(擬塑性流体

 また、一般的に保圧時間が長い程、成形体強度は高くなります。しかし、この論文では保圧時間の効果がなく誤差にプーリングしています。これは、ゲートが小さい(薄い)ので、すぐにフリーズし保圧が効かないためであると推察できます。この気づきは、ピンポイントゲートのように保圧が効かないものには射出速度でカバーできるということを示唆していますね。


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2022年8月20日土曜日

品質工学パラメータ設計事例(タグチメソッド)射出条件最適化

 海外の論文の概要を備忘録として記録する。MIM射出成形条件のパラメータ設計事例である。MIMフィードストックのレシピは、粉末SUS316L(7.93g/cc)、PEG=73wt%、PMMA=25wt%、SA=2wt%でPMMAに若干の溶剤を添加して混錬している。制御因子は、粉末量(63,63.5,64Vol%)、射出圧力、射出温度、金型温度、射出時間、保圧時間、ピストン荷重%である。特性値は、表面品位、曲げ強度、密度である。L18、3水準実験。

《結果・考察》表面品位に対して、金型温度、射出圧力、保圧時間、粉末量はすべて一番大きな水準が良かった。金型温度が高いと、原料表面とキャビティ表面領域のせん断速度が低下するので表面品位が良くなる。曲げ強度(密度)に対しては粉末量が一番多いもの(64Vol%)が良い。平均焼結体密度7.823g/cc(98.6%)、380℃予熱(加熱脱脂?)、1320℃焼結

参考文献: Optimization of Injection Molding and Solvent Debinding Parameters of Stainless Steel Powder (SS316L) Based Feedstok for Metal Injection Molding、Sains Malaysiana 42(12)(2013): 1743–1750

【珈琲ブレイ句】この論文で注目すべきは、粉末量が一番多いものは、表面品位と曲げ強度どちらも最大化できるという事です。やはり、CSLを追求していけばさらに品質が良くなることが期待できます。論文は水脱脂条件の最適化も行っており。水の温度が高すぎると膨張(Swelling)不良が発生し、脱脂時間は長い方が良いが5時間以上やっても同じという内容でした。日本国内でもタグチメソッドや実験計画法を使ったMIM論文が発表されることを期待しています。大規模実験は一見大変そうですが、短期間で技術的知見(因子の有意性、寄与率、水準と特性値の傾向)を得られ、製造条件を最適化することができるのです。

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2022年8月19日金曜日

MIM高精度化のための技術を系統図にまとめる

 備忘録として、MIM高精度化のための技術(Key Words)を系統図にまとめておく。



【珈琲ブレイ句】上記の個々の技術を極めればMIMの精度は向上していきます。幸運なことにそれぞれ副作用(技術間の交互作用)が少ないので、すべてを合算させることができます。そのとき究極のMIM高精度化が実現します。ただし、成形性が悪くなったり、一次脱脂性が悪くなったり等が多少予測されますが、技術的に(基本に返れば)乗り越えられない程の大きな問題ではないと感じています。しかし、一方、狙いの品質はQCDのバランスで目標レベルが決まるという判断もあります。さらに、MIM化のターゲットをどんな産業分野(ハイスペック、一般部品)にするかにも左右されます。

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2022年8月11日木曜日

MIMフィードストックの経時変化について

 都立大学で研究補助をしていたときのある実験結果に驚いたことがある。CSLを求めるためラボプラストミルで混錬トルクの測定*1をしていたときだ。目的業務が一段落したので個人的に入手した「プレミックスバインダー(市販品A)」を使ってMIMフィードストックの混錬トルクを測定してみた。通常であれば、粉末にバインダーを追加するとトルクが一時的に大きくばらつくが、混錬が進むとすぐに飽和(サチレート)する。それがこのプレバインダーでは、混錬トルク値が飽和せずにズルズルと下がり続けるのである。先生が用意した別のプレミックスバインダー(市販品B)では、期待通り飽和するのだった。

【珈琲ブレイ句】市販品Aは、なぜトルクが飽和せずに下がり続けたのか考えてみました。ひとつだけ思い当たることがありす。それは、入手したのが2年以上前だったのです。もし、ポリマーの酸化防止剤(劣化防止剤)が添加されていなかったら分子鎖が連続的に自己分断していくことが考えられます(ラジカル連鎖反応)。その結果、短時間で低分子化し混錬トルクが下がり続けたというのが仮説です。ちなみにロケット用のプラスチック燃料にも酸化防止剤が添加されています。この酸化防止剤*2は、私が現役時代に、MIMフィードストックに添加していたものと同じCAS-NO.でした。

《ことば》プレミックスバインダー:MIM用バインダー仕様でブレンドされた粉末あるいはペレット。金属粉末に配合して混錬すればMIMフィードストックを製作できる。(正式な固有名詞ではありません)

*1 MIM指南書 3.3.4 CSL測定事例 P71

*2 MIM指南書 3.1.2 製法別バインダーのレシピ P57


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2022年8月9日火曜日

【お知らせ】オンデマンドMIM入門・受付開始!

オンデマンドMIM入門講座(更新版)の受付が始まりました。2022/08/09



おすすめ3つのポイント
・いつでも好きな時に受講できる。時間約2.5時間
・質問を受け付けている。今、MIMで困っていることがあれば、ぜひ!
・MIM指南書「金属粉末射出成形ガイドブック」を割引価格で購入できる。

2022年8月6日土曜日

MIMフィードストック材料・添加剤の機能とKW連関図

 MIMフィードストックは基本的に3つの機能材(結合剤、可塑剤、潤滑剤)で構成されているが、MIM関連の文献には他にもいろいろな機能材名が使われている。頭を整理整頓するために、それらの機能材名と関連するKW(キーワード)を連関図にまとめた。さらにフィードストックの劣化を防ぐ酸化防止剤も必要なので加えた。



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2022年8月5日金曜日

MIM発明者ウイーチの教え

 古い技術誌にRaymond E. Wiech氏の投稿記事(小論文)を見つけた。貴重なのでウイーチ氏の教えをここに記録しておく。

・拡散率は、粒子径の2乗に逆比例するので、収縮および微粉末部の密度の上昇は粉末の粒子径を小さくすると速やかに進み焼結した製品の中に残る穴(ポア?)は小さくなる。射出成形では球状粒子が望ましい。

MIMフィードストックは安全である。しかし、金属粉末は、重量当たりの表面エネルギーが大きいので化学的に活性であり燃焼性がある。粉末の安全策としては、ゆっくり表面に酸化被膜を作り不活性化する。保管はアルゴン中が理想。混合工程は不活性ガスをブレンダーに注入する。

・金型は60℃以上の高温にする。材料約160℃、収縮率(拡大率)1.181、射出圧力はプラスチックより低く、射出速度はプラスチックよりはるかに低くする。***

・シリコン離型剤は焼結品に残渣を残し製品を汚染するので使ってはならない。リサイクルは何回でもできる。

・脱脂法は2種 ①二段法:溶剤抽出(トリクロロエチレン)+炉内加熱脱脂 ②蒸発法(大気加熱一次脱脂のことか???)

・焼結中に脱炭させる設計にする。グラファイト混合も可能。

・普通寸法公差 ±0.3%

・水溶性の例:メチルセルローズ2.0、グリセリン1.0 ホウ酸0.5,水4.5wt%

文献:Raymond E. Wiech,Arnold R.Erickson,合成樹脂 Vol.32 No.8(1986.8)p45-52

【珈琲ブレイ句】当時、MIMに関して誰も深い知識が無いので「粉体爆発が心配」という声が多かったのでしょうか? 粉体の安全性について過剰な安全管理方法を、かなりの文字数を使って提案しています。大量に粉末を取り扱わなければ問題ないと思われます。それでも、拡散率と焼結性の話しは新しい気づきでした。しかし、***成形条件のあたりで多少疑問が湧いてきました。「低く」は「高く」の翻訳ミスのような気がします??・・・。

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MIM指南書増補セルフの表を更新しました。

 更新:2022/08/05 EVAは側鎖分解とランダム分解の区別が曖昧なこと、VA濃度で熱分解温度が異なる事を表に表現しました。




2022年8月1日月曜日

臨界粉末量の極限領域

 【珈琲ブレイ句】

 もしMIMフィードストックを1種類の球体粉末でつくると,充填最大密度(CSL)は,面心立方格子充填の74vol%になる。次に,2種類の球状粉末の場合,その半径比が0.64のとき,充填最大密度は,少し増加し74.8vol%になる。さらに,2種類の半径比を極端に大きくしても(0.29以上)74vol%を超えることができる。

さらに,『粉末冶金の科学』(G RandallM. German (), 三浦秀士&高木研一(翻訳))によると,二峰充填で粒度比71のとき,充填密度が86vol%になるらしい。もし,これで射出成形ができれば,高精度MIMの世界一に違いない。

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