2021年10月31日日曜日

MEXのFPFを深堀する

金属フィラメントが可能な FFFの家庭用入門機は6万円代から購入できる。一方ペレットを使うFPFは、1000~3000万円でプロ仕様である。このペレットのFPFは、ドイツのAIM3Dが有名であるが、国内にもすばらしい装置がある。それは京都のSlab社のもので、Granules Extrusion Modeling方式の積層装置である。Granules(粒、ペレット)を使った溶融積層装置である。この会社はCNC工作機械メーカーなので信頼性が高い。特許明細を観ると、材料の可塑化と移送にはバレルとスクリューを使い、定量等速押出にギヤポンプを採用しているところが差別化技術である。何と言ってもMIMフィードストックを積層できるのが最大のメリットであろう。

【珈琲ブレイ句】CNC工作機械メーカーであれば、FPFの積層装置はどこでも造れるように感じる。とくに射出成形機メーカーであればさらにハードルは低い。妄想だけど、いつも奇抜なプリプラ成形機等を造る日本のS社は開発中かもね??期待してます。

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FPFはFFFより精度が高いのか

MIM-Like AM (Sinterbased AM)のひとつ、溶融積層MEX方式でFPFの方がFFFより精度が高いと推測できるデータをみつけた。それは、チタン専門MIMメーカーのelement22が公開している2種類のMEX用フィードストックによる焼結体(材質:Ti6Al4V)のデータシートである。詳細を下記に転記する。先に結論を述べると、引張強度、降伏強度は同じだが、FPFの方が伸びが大きい。特筆すべきは伸び尺(Scale Factor)が、フィラメントを使うFFFではXY方向とZ方向で異なるが、ペレットを使うFPFの伸び尺はXYZ方向で区別がない。

種類 引張強度 降伏強度MPa 伸び  伸び尺

FFF 1005MPa  920MPa  14%  XY:120.3%,Z:118.3%

FPF 1005MPa  920MPa  17%  115.8%

【珈琲ブレイ句】FFFの伸び尺がXYとZ方向で異なるのは、BASF製フィラメントも同じですが、何故かBASFでは伸び尺(収縮率)はZ方向の方が大きいのです? 技術的に考えれるとBASFのデータの方は納得できるので、もしかするとelement22さんの記載ミスの可能性があります。それより、ここで注目したいのはFPFの伸び尺が115.8%(収縮率13.6%)であることです。凄いことです。これは高精度MIMのフィードストックに肉薄する収縮率です。だから、伸び尺はXYZ方向で同じ*1ということも理解できます。一方FFFではフィラメントとして柔軟性を持たせることが必要なので泣く泣くバインダー量を多くしていると推測できます。

*バインダー量最小化によりスランプ変形が最小化していると推察できる。

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2021年10月28日木曜日

【MIM指南書(増補・セルフ)】蒸気圧曲線の改定

 MIM指南書 P139 図4.27 Niデータを修正しました。Co,Cu,Mnのデータを追加しました。グラフの縦軸と横軸を逆にしました。真空度単位にtorrとPaを併記しました。 下図をエクセルにコピペして倍率80%で印刷してください。


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2021年10月24日日曜日

Emery社のFFF用フィラメント開発の処方箋

世界的な化学屋さんのEmery社が、FFF用のフィラメント(CIM&MIM-like AM)を販売している。もちろん積層体Greenは、溶媒脱脂と加熱脱脂焼結で焼結体Silverにする。開発の処方箋が公開されているので備忘録として記載する。

FFF選定理由:他の3Dプリンターと比較して安価で操作が容易なので最も広く使われている。また、PIM(MIM&CIM)への導線としてFFF材料の入手要求が高まる。

PIMと溶融堆積モデリングのプロセス要件は大幅に異なるため、以下のプロセスの違いに対応するために3D印刷バインダーの処方を適応させる必要がある。◆Significantly lower applied pressure in 3D printing → need more flowable binder(3D印刷での適用圧力が大幅に低い→より流動性の高いバインダーが必要)◆Tool-less processing in 3D printing → need more binder consistency/hold up(3D印刷でのツール不要の処理→より多くのバインダーの一貫性/ホールドアップが必要)◆Layerwise construction in 3D printing → binder for more interlayer adhesion(3Dプリントでの積層構造→層間接着力を高めるバインダー)◆Part adhesion on 3D printer bed → binder to prevent warpage(3Dプリンターベッドへの部品の接着→反りを防ぐためのバインダー)

【珈琲ブレイ句】さすが大企業です。処方箋・目標・課題を明確化して開発しています。層間接着力を高めることを重要課題に挙げている、なんとなくEVAが多めの配合設計を示唆しているような?? そして、Emery社のHPを紐解いて嬉しく感じたことが2つ、1つめは、「AMからようこそMIMへ戦略だ」ということ。2つめは、BJTではなくFFFを選んでいること。お手軽なFFFの方が、市場が広く、沢山の方に粉末冶金を体感(味見)していただける。普及のためには知ってもらう事がスタートライン。

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2021年10月22日金曜日

AMからようこそMIMへ「D&Sサービス」とは

 ドイツのElement22社は、6-4チタンを1100℃という低温焼結で相対密度99.5%を叩き出す特許技術を持つチタンに特化したトップMIMメーカーである。2020年の専門誌にD&Sサービスを計画しているとあったが、HPを観ると2021年初旬からD&Sサービスを開始している。

D&Sサービスとは、Debind and Sinter Service のことで、Sinterbased AM-METAL(MIM-Like AM)のグリーン体(積層体)を、溶媒脱脂から焼結まで請け負うビジネスである。MEX(FFF、FDM)用のフィラメント(巻き線)やMEX-FPF用のペレットの販売も同時に行っており、まさに「AMからようこそMIMへビジネス」を具現化している。その実力は、MEX積層体のD&Sで相対密度98%(Typical)を出している。さらに、CMFのチタンも手掛けている。すごい技術力である。

【珈琲ブレイ句】高活性金属のチタンの脱脂焼結は通常の設備では難しいのです。世界トップのチタンMIMメーカーが、AM活用ビジネスモデルに参入し、入り口と出口であるAM材料の提供と焼結の面倒をみる、まさにキセル・ビジネスです。これは完全に差別化戦略で、このファーストペンギンの登場でMIM業界が面白くなってきました。日本国内のMIMメーカーでもD&Sを早く始めればいいのになぁ~と思う今日この頃です。

《ことば》MEX: Material. Extrusion(溶融樹脂積層法)  FFF:Fused Fillament Fabrication    FPF:Fused Pellet Fabrication   FDM: Fused Deposition Modeling(Stratasys, Inc.の登録商標なので最近の文献での使用が減少しています) CMF:Cold Metal Fusion(コーテッド粉末をレーザーで軽く積層し脱脂焼結する)

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2021年10月19日火曜日

式年遷宮にみる技術伝承とMIM指南書の意義

【珈琲ブレイ句】三重県の伊勢神宮では20年ごとに神宮が造り直されている。この式年遷宮の目的は「技術継承」と言われている。技能者(宮大工+大工)はピーク時は約160名で建造に携わり、その後解散するが、30名の宮大工は残し、修繕や準備、新たに参加する技能者の教育を行っているそうだ。まさに計画的に技術伝承を行っているからこそ、伊勢神宮は1300年も続いているのだ。

この20年という期間が肝らしく、30年だとうまく回らないそうだ。でも人の寿命が伸びた現在であれば30年が最適なのかもしれない。偶然ではあるが国内の老舗MIMメーカーの年齢が30年というところが多い。そして残念ながら、いくつかの老舗MIMメーカーが撤退している。MIM事業撤退の原因は、大企業のリストラ計画、設備の老朽更新時期、担当技術者の定年時期に合致しているように感じている。それは、まさに技術伝承の失敗といえるかもしれない。

技能は個人に帰属する、技術は会社に帰属する。技術屋としてやるべき使命、それは「少なくとも自分が得たノウハウを文章化して会社に残して去るべし」だ。そう考えていたので、実験の論文や報告書、失敗事例、改善事例、技術標準書を作り、小さなものではワンポイントアドバイスまでコツコツと文章化してデータベース化し、データベースファイルはエクセルで検索できるようにした。

手前味噌になるが、これらのエッセンスだけをわかりやすく体系的にまとめたものがMIM指南書である。59歳で退職後、都立大学での研究補助業務で得たCSL実験データやすべての国内MIM論文から作ったダイジェストデータを使って増補し、退職から2年後に出版したのがMIM指南書である。

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2021年10月14日木曜日

【MIM指南書(増補・セルフ)】炭素添加について

 MIM指南書 P65 下から3行に手書きで追加願います。

追加文章:「但し、酸素を低減させる目的で炭素(黒鉛)を添加する事例はある。」


【珈琲ブレイク】ステンレス鋼の炭素と酸素の両方を減らせられれば、焼結密度が高くなり、機械的性質では延性が増し、電気化学的に耐食性が向上します。私は低カーボン・ステンレス鋼での黒鉛添加をやったことはありませんが、汚染されていない焼結炉で還元反応を十分担保できれば、黒鉛の微量添加(1000ppm*1)により、耐食性の高いオーステナイトステンレス鋼を造ることができるそうです。

*1 BASF系バインダーによる実検で、バインダー由来の炭素も多めC≒0.17%の時の話しです。他のバインダーシステムでは個々に研究が必要です。参考:PIM International - Powder Injection Moulding Vo.1 No.2 2020 P52


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2021年10月13日水曜日

自己焼結性を有する金属粉末付加製造用材料

 特許の出願番号をいただけたので、特許公開まで、本blogにて先行開示します。パートナー募集中

特願2021-165089  2021/09/03

【発明の名称】自己焼結性を有する金属粉末付加製造用材料

【技術分野】 【0001】バインダーを利用して粉末を積層する付加製造に利用する積層材料

【背景技術】【0002】 粉末焼結を前提とする粉末利用の付加製造技術において、バインダーを利用して粉末を積層する金属粉末付加製造には次の5種類がある。材料押出法(Material Extrusion)、液槽光重合法(Vat Photo Polymerisation)、スクリーン印刷光重合法(Screen Pring)、バインダーコートされた粉末を使った融解積層法(Cold Metal Fusion / Powder Bed Fusion)、バインダー噴射法(Binder Jetting)。これら5種類で造形される積層造形体は、脱脂および焼結を行い最終製品として焼結体が形成される。

【発明が解決しようとする課題】

【0003】これら5種類の造形法は、脱脂工程、焼結工程が必要である。そのため、脱脂工程では、高価な溶媒脱脂装置、あるいは触媒脱脂装置、または加熱脱脂装置が必要である。さらに、焼結工程は、すべての造形法において、さらに高価な焼結炉が必要であり、イニシャルコストとして高額な投資が必要で、小規模の研究・開発・製造、および一般家庭への普及の足かせになっているという課題がある。

【0004】本発明は、家庭用電子レンジを使用して脱脂焼結することで、高額な設備投資を不要とする方法を提供することを目的とする。

【課題を解決するための手段】

【0005】本発明は、金属粉末に誘電損率が高い酸化物、炭化物のマイクロ波自己発熱粉末を配合させた混合粉末に、バインダーを加えて混錬してマイクロ波自己発熱粉末と混合粉末が解凝集し、バインダーの中で粉末が等分散している粉末付加製造のための積層材料を使用する。

【0006】 付加製造法で作られた積層造形体を電子レンジに入れて脱脂および焼結を行う。マイクロ波により積層造形体内部のマイクロ波自己発熱粉末を発熱させ、その熱伝達により、隣接するバインダーを加熱揮散させ脱脂体を形成させた後、隣接する金属粉末を拡散固相焼結や液相焼結させ焼結体を形成させる。

【0007】この積層材料は、材料押出法の場合には、ペレットや粉砕材あるいはフィラメントにして使用する。液槽光重合法、スクリーン印刷光重合法の場合は、バインダーを多めに配合して泥状で使用する。融解積層法、バインダー噴射法の場合はあらかじめ金属粉末にマイクロ波自己発熱粉末を配合させ解凝集および均質分布になるまでミキシングした粉末を粉末床に入れて利用する。

【0008】マイクロ波自己発熱粉末としては、誘電損率が大きい材料でかつ金属拡散反応が少ない材料が望ましく、たとえば、WCFe3O4FeOMnO2SiCCuOTiO2Al2O3等がある。一方、金属粉末の鋼種は選ばないが、一般家庭への普及を考えれば、低融点合金粉末がより望ましい。

【発明の効果】

【0009】 安価な電子レンジで脱脂焼結を実施することができる。 

【図面の簡単な説明】【0010】

【図1】本発明を実施する方法および操作を示した説明図である。

【図2】脱脂段階を示した説明図である。

【図3】焼結初期段階を示した説明図である。

【図4】焼結完了段階を示した説明図である。

【図5】材料配合の一例を示した表図である。

 【実施例】

【0011】 材料押出法による実施例を示す。マイクロ波自己発熱粉末として炭化ケイ素(SiC)を使い、金属粉末として銅(Cu)、亜鉛(Zn)を使った。粉末配合とバインダー配合を図5に示す。この材料を加熱混錬、粉砕した後、材料押出法により積層造形体を造る。

【0012】 図1の示すように、セラミック断熱容器本体2内部に設置したアルミナ等のセラミック粉末5の内部へ積層造形体1を埋設させる。セラミック断熱容器トラップ部3の内部にセラミックウール6あるいはメタルウールを設置した後、容器本体2の上部に嵌合させる。さらに容器トラップ部3の上部にセラミック断熱容器蓋4を嵌合させる。一体化した断熱容器全体を電子レンジ7に設置し、出力ワットおよび作用時間を制御しながらマイクロ波を印加させる。

【0013】 第一次脱脂として、低出力100ワットで加熱し、80で積層造形体内部のパラフィンワックスを融解させ、隣接するセラミック粉末5の中へ毛細流動により流動させる。さらに280まで加熱し、残留パラフィンワックスを揮散除去させる。続いて、中出力170ワットで450まで加熱させエチレン酢酸ビニルを熱分解させ積層造形体の中から外へ揮散排出させる。揮散ガスは、断熱容器トラップ部に設置した相対的に温度の低いセラミックウール6に吸着させる。脱バインダー後の概念図を図2に示す。

 【0014】 続いて、高出力1000ワットで加熱し、500Zn粉末を液相化させCu粉末へ拡散流動させる。この概念図を図3に示す。

【0015】 さらに、700まで加熱することで亜鉛銅合金(Zn-Cu合金)に炭化ケイ素(SiC)が等分散する複合材として焼結体が完成する。最後に、印加を停止し室温まで炉冷した後、焼結体を取り出す。焼結体組織の概念図を図4に示す。

・・・・図は省略・・・・

2021年10月12日火曜日

【MIM指南書(増補・セルフ)】MIMレシピへ追加

さらに追加しましたのでこちらを参照してください。2022/07/14 

MIM指南書 表3.3の一番下に貼り付けてください。事例7の内訳詳細です。



エクセルにコピペして、63%+微調整 の大きさで印刷してください。



【珈琲ブレイ句】ポリマーだけの配合では、混ざらないし、射出成形も難しいので、他に何かを添加していると薄々考えていましたが、幸運にも海外論文にバインダーレシピの詳細を発見しました。これは、ポリマーの相溶性を高めるため、また潤滑性を高めるため、この2つの目的で2種の鼻薬が添加されていると理解できるものです。

2021年10月11日月曜日

FFF方式の積層条件パラメータ実験

 海外PIM専門誌*1にFFF方式(溶融フィラメント積層)の引張強度を特性値とする積層条件パラメータ実験の結果が載っている。幸運にも直交データになっているので、三元配置実験(2×3×3)として分散分析してみた。材質はSUS316L。因子(要因)は3つ、ノズル径:PND、ノズル温度:PNT、流量%:FL% すべての因子で大きい方が引張強度に貢献する。F検定してみると、ノズル径と流量%が有意であった。引張試験は積層XY方向のみ。

 *1PIM International 2021 Vol.15 No.3 P107-112

【珈琲ブレイク】実験範囲内の最適条件であるノズル径を0.8mm、ノズル温度を160℃、流量%を130%にすれば、点推定値は484MPaになります。BASFのUltrafuse316Lのカタログ値では、XY方向498MPa、Z方向414MPaなので、この実験は材料も装置も異なりますが再現性があるようです。強度を向上させる要は「体積当たりの接着界面を少なくし、積層材料の層間接着を高め、ボイドを埋める」ことであると推察できます。

この実験条件範囲内に最適値は存在せず、3因子のさらに高い水準に最適値が存在することを示唆しています。ただし、引張強度が特性値の時です。3つの条件を上げていくと形状精度が悪化するような気がしますので、形状精度を特性値とした解析も同時に行うバランス設計が必要でしょう。

MIMであればい保圧を十分かけることで完治できますが、保圧という概念が無いFFF(MEX)は厄介で大きな課題です。二次的に解決できそうな方法があるので紹介しておきます。それは、積層グリーン体にCIP処理すれば強度があがり、XYZ方向差も無くなるように感じます。大変だけど・・トライする方のために、無責任なアドバイスをすれば・・「温度は高め80℃くらい、油圧50~70MPaでも効果が期待できます。」

関連:グリーン体のウエルドを解消させる方法

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