2022年7月26日火曜日

なぜ日本製の水アトマイズ粉末は優れているのか

 1997に出版されたジャーマン先生の本には、水アトマイズは不定形であるとされていた。しかし、当時の国内粉末メーカーでは、すでに球状微細粉末を製造することができた。ではなぜ、球状微細粉末の量産化までにタイムラグがあったのか? 各社の論文や特許明細書を読み込んだ結果から推論しまとめておく。

《微細で球状化させるポイントと課題》水ジェットの噴射圧力を1000kg/cm2以上に高くし、かつ、噴射角を小さくする。しかし、微細球状粉末の量が少ない(収率が悪い)ため、コストが高くなりガスアトマイズ粉末に勝てなかった。

《微細球状粉末で収率を上げる》微細粉末にするためには、次の項目を最適化すればよい。射出圧力、水量、噴射角度、ノズル形状 この中では、スギノマシンのHPにあるような超高圧高速水ジェットを採用し、さらにノズル形状を改善して収率を上げたと推察される。たとえば、溶湯を複数に分けて落としたり、逆三角錐に広げたりすること。

【珈琲ブレイ句】日本の水アトマイズ粉末は、絶え間ない技術者の努力により研究開発・改善が行われ、今では、間違いなく世界を先導していますね。海外ではガスアトマイズと水アトマイズを直列にした革新的なものが生まれていますが、直感ですが、コストでは日本の水アトマイズが有利だと思われます。

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2022年7月19日火曜日

特願2022-112054 超高速射出点描画による熱溶融積層法

 MEX(FFF,FPF,FDF)の最大の欠点を克服する特許の出願を行いました。ご興味のあるMEX開発メーカー様は弊所へ問い合わせてください。

【特許について相談する】

MEXの最大の欠点は、『射出速度を速くできないこと』です。なぜならば、造形速度と強い相関があるためです。本特許は、射出速度と造形速度を完全に独立させて制御するアイデアです。それを実現させるための方法は、一言で言えば『点描画』です。デジタル映像のほとんどは、点の集合でできています。光でさえ(波でもあり)点の集合です。同様にデジタル技術の申し子であるMEXは、点描画で高速造形するべきだと考えています。

【明細書の抜粋:請求項および図は除く】出願日 R4/06/26

【発明の名称】超高速射出点描画による熱溶解積層法

【技術分野】 

【0001】

本発明は、付加製造技術における熱溶解積層法による立体造形物の製造方法に関する。

【背景技術】

【0002】

3Dプリンターは、コンピュータで作成された三次元の造形データを元に、造形材料を順次積層して立体物を造形する装置であり、数種類の方式が知られている。中でも、熱溶解積層法(Material Extrusion 以下MEX法)は、熱可塑性樹脂などの材料を溶かして3D積層物をレイヤーごとに作成する3D印刷方法である。積層材料は熱可塑性樹脂だけでなく、金属粉末やセラミック粉末等と樹脂を混錬して作った成形材料(フィラメントやペレット)が使われている。

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0003】

  従来のMEX法は、ノズルから溶融した材料を連続的に射出し、印刷プラットフォームをX Y軸移動制御して1レイヤー分のスライス形状を印刷するものである。その機構の制限として、射出速度は印刷速度に拘束されるという課題がある。その射出速度は、例えば、レイヤー厚さ0.3mmで印刷速度が37mm/秒のとき、射出速度は27mm/秒と一義的に決まり、射出速度だけを独立して設定することはできない。

【0004】

  積層材料が樹脂の場合であれば流動性は高く射出が容易であるが、樹脂と粉末や繊維等の複合材の場合は流動性が悪くなり、射出が困難になる場合がある。

例えば、図1に示すように、金属粉末を多量に混錬した成形材料は、その粉末配合量が増えると、見掛け粘度が指数関数的に増加し射出流動性が著しく悪くなる。現状のMEX法では、射出限界とされる見掛け粘度10poiseを達成できるせん断速度10~101/秒)を出す機能があるが、現実は、積層品質不良(レイヤー界面の不完全密着や分離、微少空隙の残存、外郭波打ち、インフィル形成不良)の対策として、印刷速度を下げる調整が多く行われる。その結果として射出速度(せん断速度と同義)が連動して遅くなるため、見掛け粘度が悪い状態の中で試行錯誤の改善が行われるという課題がある。

【0005】

本発明は、上記課題を解決させることを目的とする。

【課題を解決するための手段】

【0006】

本発明は、超高速射出による点描画によるMEX法で造形物を製造する方法を見出した。

【0007】

MEX法の3Dプリンターにおいて、シリンダー(バレル)内で熱溶解した材料を、ピストンによる射出速度を独立して制御できる機構において、ピストンを間欠的に一回射出量だけ打ち出す、その点描画印刷の反復により三次元造形させていくものである。ピストン加圧は、超高速に上下し、射出時のせん断速度は10~101/秒)にする。このせん断速度は、一般的なプラスチック射出成形機技術で使用されているレベルであり、例えば、油圧サーボ機構、ボールネジとサーボ機構、回転カムと従動ピストン機構等により達成させる。 

【発明の効果】

【0008】

 金属粉末を50~70VOL%と樹脂(滑剤、可塑剤、ポリマー)を混錬して作った成形材料(フィラメントやペレット)を使った射出は、擬塑性流体の性質を有し、せん断速度を上げると粘度が低下する性質がある。このせん断速度を上げることは、射出速度を上げることと同義である。図1の流動性を評価するキャピログラフでわかるように、せん断速度が低い時には見掛け粘度は非常に高い。また、金属粉末を多量に混錬した成形材料は、その粉末配合量が増えると、見掛け粘度が指数関数的に増加する。

しかし、粉末が多量に配合された材料でも、せん断速度10~101/秒)の超高速射出で行えば、見掛け粘度が急激に下がり、射出性が向上し積層造形品質を向上させることができる。

【0009】

 さらに、粉末配合量を限界まで増やすこと(バインダー量を最少化すること)ができれば、粉末粒子間距離が最小化でき、粒子の接触点数が増加し積層体(グリーン体)のハンドリング強度をあげることができる。そして、次工程で脱脂および焼結をして金属焼結体(シルバー体)が作られるが、バインダー量が最少であれば収縮率が最小化できるので、焼結体の機械的性質および寸法精度を向上させることができる。

【図面の簡単な説明】

【0010】

【図1】5種類の材料の溶融粘度キャピログラフ

【図2】本実施形態における立体造形物の製造方法の概念図である。

【図3】ノズル近傍拡大図

【図4】間欠射出のピストン移動量タイムチャート

【図5】間欠印刷移動距離の説明図

      ◆図は省略◆

【特許について相談する】

2022年7月17日日曜日

Metal AM とMIMの共存共栄の事例

 国内MIM関連メーカーから、MIM Like AMを商品にしたものが出現し始めている。私が気が付いた順番で、ここに記録していく。

・太盛工業(MIMメーカー):LMM方式のIncus社HAMMER LAB35、LMM方式なのでBJTでは使えない超微細粉末が技術的に可能。従ってマイクロMIMにも発展しそうな予感がする。 

・第一セラモ(フィードストックメーカー):FPF用フィードストック販売、S-Lab(FPF機)と島津産機システムズ(脱脂焼結炉)、近畿大学との共同研究開発品。

・CASTEM(MIMメーカー):DIGITAL SINTER、たぶんFFFでBASF系フィラメントを積層してMIM技術で触媒脱脂&焼結。材種は、SUS316L(相当)、SUS630。


【珈琲ブレイ句】新しいことにチャレンジするレスポンスが良い即応力のある企業は、やっぱり大企業系ではないですね。中小企業の活気に期待するばかりです。HPを見ても、とくにCASTEMさんのHPは日進月歩で刷新されており、自社のMIM Like AM技術に付けた「DIGITAL SINTER」というネーミングも素敵です。「新しいビジネスモデルに名前を付けること」それは差別化の基本なのです。流石!


2022年7月14日木曜日

【MIM指南書(増補・セルフ)】ジャーマン先生の教え 理想的なMIMパウダー

 【MIM指南書(増補・セルフ)】

MIM指南書「金属粉末射出成形ガイドブック」 P61 の表3.7 推奨するMIM用金属粉末の仕様 の 下に、貼り付けてください。


【珈琲ブレイ句】高強度・高精度MIMを目指すならば絶対に必要である4つの仕様を表3.7に明記しています。さらに、ジャーマン先生はそれ以外に6つ加え合計10の仕様が理想的なMIM粉末であるとしています。(ジャーマン先生の本3章 Powders )

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ジャーマン先生の翻訳を見る

対数正規勾配パラメータに関するBLOG

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【MIM指南書(増補・セルフ)】表3.3脱脂法別バインダー例 事例追加

 【MIM指南書(増補・セルフ)】

MIM指南書「金属粉末射出成形ガイドブック」 P57 表3.3 脱脂法別バインダー例へ 「事例7’」さらに「事例7’’」を追加しました。下の表を印刷して貼り付けてください。(エクセルに貼り付けて53%±微調整で印刷)


【珈琲ブレイ句】最近の公開情報に貴重なレシピを見つけたので事例7’’として追加しました。相溶性が悪いポリマーでMIMフィードストックを作るのは相当苦労するし、混錬が不十分だと成形不良も多くなる傾向があるのです。なるほどな~! と思うところは、相溶性の悪いポリマーには相溶性がが良いポリマーをセットにすること、さらに、「THE接着剤」(ホームセンターでも売っている)も添加しているところです。しかし、このTHE接着剤は、N2加熱脱脂だと少し残渣が残るのですが、添加量が一桁と少ないのでC%増は無視できると判断されたようです。他にも、新しい酸化防止剤を知ることができました。フィードストック設計の参考になる情報です。

2022年7月13日水曜日

バインダー量と伸び尺の関係

 バインダー量(Vol%)と伸び尺(OSF:Oversize Shrinkage Factor)の公開データを見つけたので、グラフ化し備忘録としてここに記録する。参考文献:Powder Injection Moulding International Magazin Vol.16 No.2 P97


【珈琲ブレイ句】ワイドレンジで収縮率のデータが公開されることはめったに無いので、たいへん貴重なデータです。ただ残念なのは、焼結密度の記載がないので実務には直接使えませんが、バインダー設計の参考にはなります。さらに、いくつかの気づきが得られます。バインダー量が、極限まで少ない30Vol%の実績データが存在すること。また、私の経験値よりこのグラフの値は、焼結体密度は低めの傾向であることが読み取れること。近似式は、Y=7×10^-5×X^2+0.0012×X+1.0267 ですが、あくまで参考値として使ってください。Y=伸び尺、X=バインダー量(vol%、体積%)

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2022年7月5日火曜日

脱脂焼結中の収縮変化(溶媒脱脂VS加熱脱脂)

 古い論文に、3STD系と思われる脱脂と焼結における収縮変化を非接触測定したものがあった。この論文は、窒素雰囲気で加熱脱脂・焼結を行ったもので、右肩上がりに1000℃まで、一直線に膨張(1%)し、1000℃をピークに急激に収縮する。一方、ジャーマン先生の溶媒脱脂の実験では、溶媒脱脂で1%膨張し、二次加熱脱脂初期に0.2%膨張し、150℃で-1.5%収縮し、400℃バーンアウトで-1%収縮する報告であった。大きく異なるふたつの実験を一つのグラフに重ねた。 グラフDの二点鎖線は、バーンアウト後は、ABCと同じ傾向であるとした推定である。すべて、バインダー量は40VOL%である。材質SUS316Lは共通。



ジャーマン先生の実験に関する過去のBLOGを見る

【珈琲ブレイ句】ジャーマン先生は脱脂による収縮の理由として、粉末間に残ったバインダーの表面張力や毛細管現象による再配列としているけれど、加熱脱脂では、なぜ収縮は起こらないのでしょうか? 加熱脱脂中に生成される炭素(バーンアウト後C=約0.2%くらい増える)が、接着剤の役割をする、あるいは、高摩擦物質として働いて収縮を阻止しているのかもしれません。いずれにしても、通常は脱脂中の膨張収縮は気にしなくてよいのですが、二色成形(2C-MIM)や中子インサート成形に割れ不良が発生する場合は、少し考えた方が良いかもしれません。

参考文献(Fig.2):川崎製鉄技法 24(1992)2,129-134

Fig.2 の誤記訂正 誤:WS-SUS316L 正:WA-SUS316L(水アトマイズ)

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