2021年2月28日日曜日

2C-MIMとは?

 2C-MIMとは、「two Component Metal Injection Moulding」のことである。つまり、二種類の異なる材料を一体化させたMIMである。成形技術は「二色成形技術」「インサート成形技術」が使われている。この技術はすでに量産技術として確立されている。2016年のEPMA粉末冶金コンポーネントのMIM部門で受賞したものが有名である。それは、ドイツのSchunk社が、可変式ターボチャージャーの調整レーバー用ピンに採用したものである。このピンは二つの要求機能、「ピン外周摺動面に耐摩耗性があること」と「ピン端面に溶接性があること」を実現したものである。2種類の材料は、ピンの内部がSUS316L、外周がステライト12である。

《2C-MIMの活用分野》軟磁性+耐摩耗性、軟磁性非磁性、溶接可能耐摩耗性、耐摩耗性耐熱性、低コスト高コスト、金属セラミック

《技術的課題》・高密度で均一な収縮率の材料(フィードストック)の開発 ・二色成形金型(インサート成形)および成形技術の最適化 ・二種材に共通する焼結条件の最適化

【珈琲ブレイ句】上記ピンの切断写真を観ると、外周のステライトを重要視し、内部のSUS316Lの密度が甘い感じがします。やはり、焼結温度は材質により異なるので、どちらかを優先させる必要があるのでしょう。二材質の接合面は完全に拡散して一体化できます。ただし、ウエルドと同じように接合面が密着できないと決して拡散結合しないので、無理な応力が掛かる部品設計への展開は難しいと感じます。先日、Schunk社がYouTubeに2C-MIMをアップしました。下記リンクのYouTubeはたいへん勉強になります。このコンテンツはずばり上記ピンを想定したもので、右側がステライトによるアウター成形、左側がSUS316Lによるインナー成形の金型回転式二色成形です。金型のスライドコア等が省略されたデフォルメ動画なのが残念ですが、雰囲気は伝わりますね。また、自社製溶媒装置の脱脂と焼結工程は動画では省略されています。

YouTube 2C-MIM by Schunk


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2021年2月25日木曜日

Desktop Metal Studio system2 が溶媒脱脂工程省略化

 MIMの世界には、POM系、シングルステップ系、ワンステップ系バインダーあるいは3-STD法と呼ばれる「一次脱脂工程を省略する*1」フィードストックがある。この度、AMの金属粉末MEX(FFF、FDM)方式のDesktop Metal Studio system2 において同様の工法が採用されたシステムが登場した。このシステムでは従来からある「溶媒脱脂:一次脱脂」工程を省略し、積層体を直接焼結炉に投入することができる。

【珈琲ブレイ句】溶媒脱脂が国内導入の足かせになっていた?ので、3-STD法の採用は、この足かせが無くなり、金属粉末FDMシステム導入へのハードルは一気にさげることになります。 実は、大学の実験レベルではすでに行っていましたので、やっと市販品が登場してきたか!という感想です。「AMからようこそMIMへ」の流れには追い風ですのですばらしいことです。ただ気になる部分があります。それは用意されている材質がSUS316Lだけなのです。SUS630、SCM鋼、工具鋼などは従来通り、溶媒脱脂装置で一次脱脂する必要があります。そういえば、MIMの3-STD法の弱点は、炭素を管理する鋼には不向きな部分があるのです。このシステムにも同様の弱点があるのかもしれません。バインダージェットよりMEXが好き。がんばれ!!MEX!!応援します。 

*1 「一次脱脂工程省略」とは、「工程:ステーション」の省略のことで、脱脂自体が省略できることではない。「一次脱脂(脱ワックス)&二次脱脂(脱バインダー)」は当然必要であり、これらの脱脂を焼結炉の中で行う技術。焼結炉には、強力なワックストラップが接続されている。


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2021年2月24日水曜日

未来の技術総選挙 MIMの順位は?

3年前にマッキンゼー&Co.の報告書「Factory of the Future」で未来の技術に関する総選挙が行われた。MIMは何位か!?

《結果》世界の産業を支える未来の技術の1位はAM、2位はMIM
1位 44ポイント AM(Additive manufacturing)成熟度75%
2位 21ポイント MIM(Metal injection molding,)成熟度100%
3位 10ポイント 複合接着剤結合(Composite adhesive bonding)
4位 10ポイント 炭素複合製造CFRP等(Carbon composited production)
5位 9ポイント  スプレーオン回路製造(Spray-on circuit production)

MIM金属射出成形とAM積層造形(金属粉末3Dプリンター)が、幅広い業界において製造を改善する可能性が最も高い技術として投票されていることがわかる。専門家の21%が、MIMは今後5年間で製造に大きな影響を与えると評価している。さらにMIM技術は成熟しており、産業用途への準備が整っている。また専門家の44%は、AMが今後5年間で製造に大きな影響を与えると述べているが、まだ成熟度は低くく技術課題がある考えていることがわかる。

【珈琲ブレイ句】
世界の産業を支える未来技術の1位と2位は「金属粉末を利用した造形技術」であることは大変うれしい限りです。やはり「粉末冶金」の材料開発の高自由度と「3Dプリンター、金型転写」の造形の高自由度が評価されたのでしょう。泣く子も黙る、経営コンサル会社マッキンゼーの報告書なので説得力がありますね。 「AMからようこそMIMへの時代」真っ只中!







2021年2月17日水曜日

ワックスWAXについて深堀する

 MIMバインダーの構成材料にはワックスが必要である。そもそもワックスとは何か、何のために添加しているのか・・・頭の中を整理する。

《ワックスとは》20世紀前は、ワックスは蜜蝋のことであったが、現在は下記の様な多種のワックスがある。定義は「固体」で「融点40℃以上で160℃くらいまで」「溶融粘度が低い、10Pas-1以下」などである。







【珈琲ブレイ句】分類上は、ポリエチレンPEやポリプロピレンPPもワックスの仲間に入るのが意外に感じます。ポリエチレンワックスや低密度・低分子量のもので高分子は対象外と考えた方がよさそうです。ワックスと言っても、やはりポリマーであり、天然ワックスと比較すればスリップ性は劣り、一方強度は高い特徴があります。いずれにしても、MIMバインダーとしては、これらの組合せが必要で、合わせ技で目的の機能を創り出す必要があります。上記を主体とするMIMバインダーがワックス系と呼ばれているものですね。 蛇足:分類上OILはワックスではありませんが、液体のオイルをMIMで使う事例はあります。溶媒脱脂、加熱脱脂、触媒脱脂のバインダー配合レシピ表は、下記の「MIM指南書」に載せているので参考にしてください。

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2021年2月14日日曜日

粉末量と焼結収縮率の理論式

 粉末量(Solid Loding)と焼結収縮率(線収縮率)の理論式を相対密度を加えて復習する。





グラフ化する(下図)













【珈琲ブレイ句】グラフは直線ではなく3乗根の関数なので緩やかな曲線になります。また、グラフ内に「粉末量の限界値」と「高精度MIMの領域」を追加してみました。チャレンジすべきテーマが見えてきますね。


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2021年2月5日金曜日

チタン合金(6-4)MIMとラメラ組織

 6-4チタン合金の組織は、長い針状粒子が並んだラメラ組織(パーライト組織)である。しかし、MIMのような粉末冶金の場合、ラメラ組織に成長させる前の球状化組織にすることができる。そのメリットは、組織を針状ではなく球状にすると機械的性質を最大化できるところである。

プラズマアトマイズ粉末のAP&C社による研究論文からの学び。(20μ粉末、UTS≒1000MPa, 伸び≒26%,粒子サイズ≒20μm,密度≒98%)

◆ポイントは約1000℃のβトランザス(β変態温度)◆焼結温度1050℃でUTS(引張強度)& 密度最大化 ◆焼結温度1050℃が粒子サイズ(grain size)微細限界 ◆微細粉末20μアンダーが良いが、40μアンダーでも炭素を1%添加するか、初めからTiCを5%添加すると、球状化させることができる


【珈琲ブレイ句】国内の研究事例で秀逸なものとして、九州大学による6-4チタン合金の研究*1があります。機械的性質は、UTS=910MPa,伸び=14% で優秀です。この実験はMIM用脱脂焼結炉でヒーターとタイトボックスに黒鉛を使っており、「黒鉛炉」でこんな結果が出るのだと驚いたものです。当然、工夫としてMo容器とスポンジチタンで浮遊する酸素と炭素を遮断(吸着、ゲッター)しています。でも、上記研究を知ると、もしかすると炭素を遮断しきれず焼結体に炭素が侵入することで、機械的性質にプラスに働いた可能性がある?かもしれないと思ってきました。ちなみに,上記の「炭素1%およびTiC5%添加」は,AP&C社が特許出願しているようです。

*1 三浦秀士,竹増光家,栞野友紀,伊藤芳典,佐藤憲治:”Ti-6Al-4V射出成形の焼結挙動と機械的性質”,粉体粉末冶金53(2006)815-820


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2021年2月2日火曜日

SUS630の溶体化と時効硬化処理

金属粉末3Dプリンター(Selective Laser Melting )の論文に面白いものを見つけた。積層雰囲気が窒素N2のときとアルゴンArの時では積層材の組織(microstructures)が異なる。N2雰囲気ではγ相のオーステナイト相になり、Ar雰囲気ではα相のマルテンサイト相になる。

その結果、すでにα相になっているAr雰囲気品は、そのまま時効処理で硬度を上げることができる。一方、N2雰囲気で積層したものは、溶体化処理でマルテンサイト化してから時効処理をする必要がある。

参考:Lawrence E. Murr, Edwin Martinez, Jennifer Hernandez, Shane Collins, Krista N. Amato, Sara M. Gaytan, Patrick W. Shindo:”Microstructures and Properties of 17-4 PH Stainless Steel Fabricated by Selective Laser Melting” ,Journal of Materials Research and Technology,J. Mater. Res. Technol. 2012; 1(3):167-177

【珈琲ブレイ句】この論文内容はMIMではないので、そのままMIMへ展開できるのか不明ですが・・・SUS630をAr雰囲気で焼結すれば、溶体化を省略できる可能性があるという事を示唆しているかも???。未検証です。


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