2019年3月31日日曜日

焼結ばらつきをどうやって管理するのか③

ロバスト性能を追求するべし
その方法は・・・


《理想》

焼結温度バラツキの影響が少ない(ロバスト性の高い)粉末を使う(設計する)→焼結密度が高く、焼結限界温度範囲が広い粉末を追求する。

手前味噌になりますが、公開情報がありますので興味のある方はこちらをどうそ・・・・

《概要》
ガスアトマイズ粉末と水アトマイズ粉末の粒度と配合比を研究したところ,焼結限界温度範囲を最大化できる配合比があることがわかった。その配合比にすることで、精度IT14等級をIT10等級にすることができた。

工具鋼など炭素が多い材種は、液相焼結が進みやすく難しいのです。従来は不本意ながら炉内温度バラツキがあるため、フルチャージできませんでした。改善後は、粉末の単価が高くなりましたが、フルチャージが可能になり、精度も向上し総合損失を最小化できました。

ロバスト性:品質工学(田口玄一先生)のめざす品質SN比の特徴です。誤差因子と交互作用の影響を受けても品質が安定する設計のこと。この場合、炉内温度バラツキ±10℃(ガス対流を含めたすべて:コントロールできないので誤差因子)があっても炉内すべての配置で焼結寸法が規格±0.5%内であり、かつ機械的性質等も要求スペックに収まることです。




2019年3月26日火曜日

Desktop Metal の話を聞いてきた


丸紅情報システムズ()が販売している金属AMDesktop Metalについて詳細を伺った。
システムは初期ものからグレードアップした「Studio+(プラス)」です。


《特徴まとめ》
・「3Dプリンター」「溶媒脱脂装置」「焼結炉」の3点セットで価格は既存レーザーや電子ビームによる粉末焼結装置より安価。
・クラウドまたはローカルサーバーに接続運用され最新情報のバックアップにより「だれでも簡単にできる」が最大の売り。
・造形エリア 289×189×195mm、ただし製品寸法は100mm角以下を推奨。
・それぞれの装置はコンパクトで通常の事務所に設置することができる。
・リードタイムは3工程で1日から数日。


《技術的に感心したこと》
・フィラメントが鉛筆大のスティックで材料押し出しはこのスティックの端面を押す方式でかなり正確である。粉末は固体状(コンパウンド)で粉体そのものを使わないためクリーン。
・スティックは200本(約5kg)収納されたカートリッジで供給される。カートリッジ交換も容易。
・ノズル径は250μmと400μmを有し、細かい形状造形と単純形状の高速造形を使い分ける。
・精度は±0.8%で、 MIM±0.5% より劣るが ロストワックス±1%より高い。
・肉厚部分は中空リブ構造やハニカム構造にすることで脱脂・焼結品質向上と軽量化ができる。
・金属組織密度9799% (注意:水中アルキメデス法による密度測定値ではない)


もうすぐ国内販売されるそうだ。

この装置でMIM粉末によるAMで試作品を作り、うまくいったらMIMで量産品をつくる流れが私の希望です。 AMからようこそMIMへ」の時代が始まる。 

2019年3月25日月曜日

焼結ばらつきをどうやって管理するのか②

②収縮率を小さくすべし 
その方法は・・・

《理想》
フィードストックのバインダ量を最少化する

∵ バインダ量を減らしていくと焼結体の寸法ばらつきは確実に小さくなります。IT12等級だった材料で、収縮率3%分のバインダ量を減らしたところIT10等級になりました。

ただし、限界があり、クリティカル値より少し多くするのがコツです。*1

【こんな思い込みをしていないでしょうか】
どんな金属材種でもフィードストックの収縮率(伸び尺)が一定に作られていれば,材種を変更してもひとつの金型で対応することができる。

 金型ひとつでいろんな材種を成形できることは確かにメリットはあります。しかし、量産品のばらつきを最小化することの方がメリットは膨大です。

また、同じ材種でも粒度分布、平均径、タップ密度が異なれば最少バインダ量は異なります。

「靴に足を合わせないで、足に合った靴を作るべきです」

*1 バインダーの最少化により当然流動性は低下します。
  ここから射出条件の最適化への道が始まります。






2019年3月21日木曜日

MIM製超合金にはどんなものがあるのか

MIMによる超合金(Superalloy)は、航空宇宙分野の秘匿性のため開示情報は限定的ですが、数少ない公開論文をまとめた特集記事がありました。
参考:Powder Injection Moulding International  March 2013 vol.7 No.1 P53-P66

《第一世代》
Udimet 700
Inconel 718
Inconel 625
Inconel HX

《第二世代》
Inconel 713, 713LC
Nimonic 90
Udimet 720, 720Li
Inconel 100
GMR-235
MAR-M247
N18

《用途》
航空機エンジン(圧縮器静翼、ハニカムシール、調整レバー、ロックナット)自動車(ステーターベーン、ターボチャージャー)

《課題》
    特性データがまだ不十分である。実用化のためには多くのデータが必要
研究が多いのはInconel718 続いてInconel625713である
    MIMバインダーが不純物の最大の供給源となるため、脱脂工程の最適化が必要
事例:ロールスロイスのInconel718製ステーターベーンではPMMAと水溶性バインダーを使い溶媒(水)脱脂と加熱脱脂にて完全にバインダーを除去してから焼結している
    不純物の閾値レベルとその制御方法の規格化が必要
高真空が必要な場合バッチ炉が必要で、処理時間と高コストが課題にな



《追加の課題:あくまでも私見です》
・HIPを行うことが前提
・脱脂は溶媒脱脂が必須
・全数非破壊検査は必要になる
・熱処理が重要(結晶粒・析出物形状管理,溶体化&時効)
・クリープラプチャー試験(高温強度試験)
・高温疲労試験



2019年3月20日水曜日

「焼結ばらつき」はどうやって管理するのか


①焼結炉の炉内温度を管理するべし 

その方法は・・・

《理想》
その方法は、定期的に熱電対を使って温度測定し規格内であることを証明し、外れていたら部品を交換・補修保全する。 

この設備保全は一流の熱処理屋さんは完璧に行っています。しかし、焼結工程の熱履歴の保証が要求されないMIMメーカーではたぶん実施しているところは稀ではないかと思います。


《簡易的炉内温度管理》
簡単に炉内の温度を測定する方法があります。それは・・・
「試験片を焼結して焼結寸法を測定することで温度を知る」
商品名:リファサーモ、TempTab (グリーン体です)
材質は、TempTabSDSを見るとAlmina Oxide 99.8% アルミナで金属ではありません。0.2%がバインダで、MIMではなくCIMの仲間ですね。
使い方:試験片をMIMの量産ロットで焼結して、その寸法を測る。付属の寸法・温度対応表で温度を知る。この対応表は製造ロットごとに作られています。 

長所と短所をまとめておきます。

◆長所◆
・手軽に温度(相対温度)を計れる
・手軽に管理図による管理ができる
・測定が熱電対法に比較して安価
・安価で手軽なので、毎ロット測定することも可能

◆短所◆
・環境によって収縮率が異なる(大気、ガス、真空)
・温度は「相対温度」であって「絶対温度」ではない
   ( 付属の寸法・温度対応表の温度と一致しません
・試験片(焼結体)の寸法測定誤差→数個の平均値化 

《まとめ》
試験片による相対温度計は、管理図による炉内温度管理が手軽にできるので有用である
付属の寸法・温度対応表の温度と一致しないが、線形性*1と再現性があるので相対的温度の物差しとして十分使える。
*1 線形性が成立する温度範囲が狭いので、温度範囲ごとに種類があります。


2019年3月15日金曜日

ジェットエンジン部品におけるMIMの課題

「IHI技報」にMIM部品をジェットエンジンに適用する研究開発が紹介されている。IHIは「ジェットエンジンXF9-1」や「イプシロン・ロケット」を開発している土光イズムの日本企業である(旧:石川島播磨重工業)。本当にMIM部品で実用化を目指してほしいものである。ちなみにIHI自身でもMIM製造を行っている。

材質:INCO718
試作品:高圧圧縮機静翼

《機械的特性》(鍛造材との比較値、数値はグラフから読み取った)
引張強度 96%
高温引張強度 95%
伸び 80%
高温伸び 99%
高温疲労強度は鍛造材より高い(GAガスアトマイズ粉
故意に表面欠陥(Φ0.1mm)を付けても疲労強度に影響しない
金属組織結晶粒径 平均30μm (鍛造材:90μm)
参考文献 IHI技報 Vol.53 (2013)P50-54

《まとめ》
・機械的強度は鍛造材と同等である。
・伸びは劣るが許容範囲である。
・高温疲労強度は鍛造材に勝る(GAガスアトマイズ粉)
 ∵結晶粒微細による  *1
・高温疲労強度は酸素量に依存しWA(水アトマイズ)粉末は劣る
・Φ0.1mm程度の微細孔(ポロシティ)は高温疲労強度に影響しない

《蛇足》
データは、まさかの鍛造材との比較値で数値が伏せられている
隠さなくてもいいのに・・・

《参考値》
 だいたいどのくらいなのか国際規格を調べてみた。

・AMS5917(MIM-INCO718  HIP+溶体化+時効)
 20℃ 引張強1241MPa以上  伸び6%以上
649℃ 引張強931MPa以上  伸び6%以上 

*1 他の最新報告では、高温クリープ強度を向上させるために「粒成長を促進させて粒界の量を減らす」ことを提案している。これは、応力指数がn = 2.72なので、粒界拡散クリープが支配的であることが理由とのこと。上記の高温疲労強度の向上理由と逆である。「製品の要求仕様により結晶粒径のコントロールが必要だ」ということであろう。
 日比野ら 粉体および粉末冶金 2019 年 66 巻 1 号 p. 17-22) 


《日曜MIM知るINDEX》




品質は「分散」と「平均値」の合わせ技で決まります

「この車は品質が良い」と言ったとき、解釈は2つ
 ①車の仕様が高い(性能、平均値問題)
 ②車の仕様がいつでもどこでも表示通りにバラツキなく再現される(分散問題)

MIMで考えてみましょう
部品なので「精度」に置き換えると

精度=平均値+分散
平均値とは「正確さ」で、分散とは「精密さ」です。

精度=正確さ+精密さ

正確さ:金型製造寸法のカタヨリ、収縮率(伸び尺)設計ミス *1
精密さ:寸法(収縮)ばらつき、変形、密度のばらつき

技術的には「正確さ」は「精密さ」より簡単に解決します。
コントロールが難しいのは「精密さ」です。*2

「精密さ」のコントロールを難しくする犯人はこんな方々です・・・
・金属粉末のロット間ばらつき(新しい工場増設、移転、機械増設や更新など含む)
・樹脂の製造間ばらつき
・フィードストック製造時の材料計量ばらつき
・成形体の重量ばらつき
・脱脂率ばらつきによる炭化量ばらつき
 →融点変動→焼結密度変動
・焼結炉内温度ばらつき
・焼結炉導入ガス流による熱伝導ばらつき
・炉内配置による伝熱3要素のばらつき
など


*1 工程能力指数(Cp,Cpk) 
   Cpは分散だけの評価 Cpkは平均値と分散両方評価します。
 MIMの場合は、金型転写ですから Cpk で評価します。
 ちなみにCpkのkは「カタヨリ」のことで語源は日本語です。
*2 品質工学では「二段階設計法」が秀逸です
 始めに「分散を最小化する設計因子を見つけます(制御因子)」
 次に、平均値に寄与するそれ以外の因子(調整因子)を見つけて
   目標の仕様値に合わせます(チューニング)。


《日曜MIM知るINDEX》





2019年3月12日火曜日

「MIM製動圧型流体軸受け」が特許になっていました

小職の特許が、知らぬ間に特許に昇格していました。

MIM製法による動圧軸受けです。
請求項は犠牲中子(樹脂中子)を使った二重成形です。

2020年9月14日で特許消滅していますので、みなさん気軽に使ってください。

名称
「動圧形流体軸受用スリーブの製造方法および動圧形流体軸受用スリーブ」
登録:特許5084546  出願:特許 2008-037206 (20.2.19)

 4:犠牲中子でヘリンボーンの動圧発生くさびが円周に配置されています
 6:鉄芯で犠牲中子はパイプ状です
 7:動圧流体軸受けのMIM成形体  
 
         《工程》
  成形→ 脱脂→脱バインダー・焼結
  →円筒サイジング→外径加工(内径基準)→内径加工(外径基準)



2019年3月11日月曜日

MIM不良にはどんなものがあるのか

JPMA  G02 のMIM用語には不良に関する語彙が6個しかありません。
もの足りないのでMIM文献を色々調べてまとめました。
今後、定義と原因・対策をまとめていきます。

 blister 膨れ
 burn mark(burnt) 焼け
 crazing 表面剥離
 gate mark  ゲート跡 
 flash(burr、fin) バリ
 flow mark フローマーク
 short shot 
(incomplete filling) 
ショートショット
不完全充填
 residual stress  残留応力
 sink(sink mark) ヒケ
 slumping 崩れ・曲り変形
 sticking in cavity  離型不良
 void ボイド、
内部の空隙
 weld line ウエルドライン

【珈琲ブレイ句】最終的に24種の不良について、原因・対策をMIM指南書にまとめました。2020/11/01

2019年3月2日土曜日

HP Metal Jet の機械的性質

HP Metal Jetの発表プレゼンから材質が読み取れなかったのですが、
九分九厘  SUS316L だと推測して
SUS316LのISO規格と比較してみます。

ISO規格をクリアーしていることがわかります。
表面あらさが少しMIMに劣りますが、立派な成績です。

 引張強度  500MPa  (ISO-MIM規格 450MPa
   耐力  200MPa  (ISO-MIM規格 140MPa
 伸び   40%  (ISO-MIM規格 40%)

 表面あらさ Ra47  (MIMの表面あらさRa23
                        表面あらさはISO規格ではありません