2022年10月30日日曜日

MIMバインダーのどれがいいのか、長所と短所とは?

 【珈琲ブレイ句】現在量産で使われているMIMバインダーは、MIMの元祖パーマテックの溶媒脱脂系、ウイテックの加熱脱脂系、3STD(シングル)系、水脱脂系、さらにバスフ触媒脱脂系です。それぞれ長所と短所があるので、めざす商品群や目的によって何を選ぶかを決める必要があります。「型技術誌に掲載した比較表*1」を少し更新したのでここに備忘録として載せておきます。

*1 ”基礎から学ぶMIM~金型設計から新事業展開まで~” 型技術、2022 Vol.37 No.5 、P099

2022年10月22日土曜日

MIM金型方案のロバスト設計4つのポイント

 ロバストネス(頑健性)とは、不確かな状況でも最高のパフォーマンスを発揮できる能力のこと。たとえば、生物学では「今生き残っている生物は、強いものではない、環境変化に対応できたものだ」、情報工学では「想定外の誤入力やエラーに対応する安全な制御」、品質工学では「外乱(誤差因子)を考慮した制御因子の最適化、SN比の最大化、市場に出ても不良になりにくい製品設計」

【珈琲ブレイ句】技術コンサルタントでは、MIMの成形不良品の相談が一番多いのです。だいたい成形条件(制御因子)を調整すると品質が改善していきます。しかし、課題が残るのです。それは「最適条件の管理幅が狭くなることが多い」ということです。その原因は、金型方案設計(製品VE設計含む)がイマイチなのです。・・ガッカリばかりしていられないので、気を取り直し次に金型を作るときの参考にしてほしいと「頑健性が高くなる金型方案のロバスト設計」の話しを付け加えます。そのロバスト設計のポイントは4つです。①ランナー・スプルーは短く、モジュラス*1を大きくする。②ゲートを大きく、モジュラスを大きくする。③ガス逃げを適所に配置する。そして最後、④製品のモジュラスは小さくする。この4つが完璧ならば、成形条件(製造規格)の巾が広がり、誰が作業しても、多少の外乱・環境ばらつきがあっても、安定した良品を作り続けることができるのです。これができる素敵な金型設計者がひとり会社にいると現場は助かるのです。

*1モジュラス:体積 ÷ 冷却に寄与する表面積

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2022年10月20日木曜日

MEX用金属フィラメント「JLOX-316L」を掘り下げる

 フィラメント径:2.85mm、材質:SUS316L、脱バインダー: ソルベントバス 99.5%、時間: T 45ºC で 12 時間、焼結:水素雰囲気下1340~1380℃

《特徴》焼結密度≧7.5g/cm3、引張強さ Rm 300N/mm2、脱脂減量 4~4.5%、AMF: 1.168/1.666、積層条件: 135ºC ノズル <0.4mm 、層厚 0.05-0.3mm

【珈琲ブレイ句】このフィラメントの一次脱脂は、BASF系フィラメントの触媒脱脂ではありません。溶媒脱脂です。アセトン浴で 12 時間脱脂 (肉厚 10 mm まで)、焼結ガスは、この316Lでは水素(他に 42CrMo4鋼ではN2 )を推奨しています。ホビーからセミプロまで幅広いユーザーへMteal AMが広がっていく、そんな夜明けを感じます。(アセトンの沸点56℃、密度0.784)

関連リンク『Metal AMとMIMの共存共栄の時代』

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2022年10月15日土曜日

【MIM指南書(増補・セルフ)】溶媒比較表

 MIMの溶媒脱脂で実績のある溶媒をまとめました。印刷して、MIM指南書 4.3.1 溶媒抽出脱脂 P120 に挟むように貼ってください。

表はKb値順にしましたが、処理温度との相乗効果があるので実際の溶解能力の順番ではありません。つまり沸点が高ければ高温(ワックス類の融点近傍)で溶媒脱脂ができるので溶解能力に差が出てくることを考慮して選んでください。


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マイクロ波成形はMIMに使えるのか?

 マイクロ波成形とは、マイクロ波を使って、型に入れた微細ペレットあるいは粉末の熱可塑性樹脂を溶かし、型のキャビティ形状を転写させ冷却固化する成形法である。《事例》マスターモデルをシリコン型に転写して、その型の中に熱可塑性樹脂をいれる。シリコン型ごと電子レンジに入れ、中の樹脂を可塑化したのち、冷却・固化させる。《メリット》短納期試作に有効、射出成形で発生する配向や流れ跡がない均等品質を実現。光硬化樹脂ではなく多種多様な熱可塑性樹脂で成形できる(繊維複合も可能)。

【珈琲ブレイ句】MIMフィードストックは電子レンジで溶けるので、粉末にして使えばマイクロ波成形は実現できそうです。でも、いくつか課題が見つかります。①成形体を加圧する仕掛けが必要 ②温度管理技術の確立(昇温、飽和、冷却)③成形体の均等加熱技術の確立

【蛇足】シリコン転写と言えば・・大昔、次の方法でMIM用試作金型を造っていました。マスターモデル→シリコン転写→石膏転写→アルミ合金鋳造転写→EP機械加工→金型ホルダーへセット→MIM射出成形。数百個のMIM成形が可能でした。

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2022年10月14日金曜日

Metal X(FFF)のフィラメントの曲率半径が凄い

 MIM like AMのMEXである『Metal X』はフィラメントを使っている金属積層3Dプリンター(FFF)である。一番売れている材種のSUS630(17-4PH)のフィラメントが始めに改良された。改良された特性は、フィラメントの柔軟性である。SUS630積層焼結体の機械的性質はMIM相当で、引張強度:1050MPa、1250MPa(HT)、硬度:30HRC、36HRC(HT)である。

【珈琲ブレイ句】開発初期のMetalXは、山形県の研究機関に導入されていますが、初期のフィラメントが折れやすくフィラメントを加熱して柔軟性を出していたと聞いたことがあります。しかし、この課題を克服するフィラメントが研究開発され、ついに上市されたのです。文献で発表された写真から曲率半径を目測すると、15~20mm程度です。ものすごく柔軟性があるのです。Metal Xは溶媒脱脂*1 を使う方式なので、残渣の心配をする必要が無い(溶媒で溶ける)柔らかな接着剤系のポリマーが使えるということかな? 焼結中の残留炭素の管理ができて使いやすそうだ。

*1 溶媒:Opten SF-79 不燃性、高Kb値=103、低表面張力、低GWP

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2022年10月11日火曜日

BASFのMIMフィードストック新材料THORとは

 BASFから新発売Catamold THOR。これはマルエージング鋼である。発表によると機械的性質は次の通り、密度:7.7g/cm3、最大引張強度:1600MPa、伸び:5%、硬度:HRC51 熱処理:マルテンサイトからのエージング処理

THOR:Tough,Hard,Oriented,Resistant タフと硬さを目指した高強度鋼

【珈琲ブレイ句】◆この発表を見た時の第一印象は、「軍事産業でマルエージング鋼のMIMが本格的に採用され始めたな!」です。マルエージング鋼は輸出規制が掛かるほどのパワーのある材料なのです。どこの国でも購入できるものではないでしょう。この鋼の弱点をあえて探せば、錆びる(Cr無)ところ。◆勉強のため、代わりに使えそうな一般材を考えてみましょう。どうせ錆びるなら高強度の一般材料4605鋼*1と比較してみます。密度:95%、最大引張強度:1500~1900MPa、伸び:0.34%、硬度:?、C=0.4% 熱処理:900℃焼入焼戻し。硬度が不明ですが、炭素が0.4%あるのでHRC50~55は大丈夫ですね!伸びを重視するなら焼き戻し温度を上げれば少し改善できるかも?硬度は落ちるけど。◆THORのもう一つの弱点は材料が高価!たぶん4605の方が安いので、これがVE提案のカギになるかも?

*1.馬場、三浦ら、粉体粉末冶金43(1996)863-867&粉体粉末冶金44(1997)1014-1018

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2022年10月10日月曜日

なぜ溶媒脱脂推しなのか説明します

 【珈琲ブレイ句】私の好きな一次脱脂法は、溶媒脱脂です。触媒脱脂も同じ理由で好きですが、お手軽な溶媒脱脂が一位です。溶媒脱脂には、水ではなく溶媒を使うことで簡単に蒸留再生することもできるのです。二位が触媒脱脂、そして三位が3STD法(三段階加熱脱脂法:一次脱脂工程を省略できる大変すばらしい技術)です。そして四位が従来の大気加熱脱脂法です。

なぜ、すばらしい3STD法が一位にならないのか? その理由は、「カーボンコントロールが難しい」ところです。こんな大失敗を経験しました。厚さ3mm程度の浸炭用鋼(C=0.15%)のMIM部品を量産で数千個おじゃんにしたことです。生産試作までは完璧でしたが、量産へ移行し安心していた時にそれは起こりました。数ロット連続で炭素上限規格NG(C=0.3%)を出荷していたのです。原因は、脱脂焼結炉の設備管理の問題なのです。すこしでも排気能力が低下するとカーボンが残るのです。量産製造現場で、真空ポンプやワックストラップおよび排気系統を日常管理するのは苦しいのです。それ以来、カーボンコントロールが必要な鋼種での3STDバインダーは量産標準バインダーから外しました。小さなステンレス部品での3STD法は百人力なのですが完璧ではないのです。

さらに、カーボンコントロールが困難な、チタン合金や超合金の一部では、溶媒脱脂、触媒脱脂は、絶対に必要です。理由は、一次脱脂を完璧に行う必要があるためです。なぜならば、チタンやアルミは活性金属だからです。どんな論文やトップMIMメーカーの実績をみても、溶媒脱脂(水脱脂含む)と触媒脱脂が採用されています。

MIM一次脱脂は、完璧なものがありません。QCDの何を重視するかで適不適が左右されます。MIMを極めるならば、MIM一次脱脂は二刀流が最低必要でしよう。

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2022年10月9日日曜日

射出圧縮成形はMIMに使えるのか?

射出圧縮成形とは、射出成形において金型型締め動作を利用し、射出完了直前のタイミングで金型キャビティを加圧する射出成形と加圧成形の複合技術である。CDやDVDの微細形状の転写に使われている。特徴は次の通りである。円板で中央ゲートの成形体の実験*1の場合、一般射出成形と比較して金型内圧の平均は約半分になり、さらに分布が均一になる。そのため、成形収縮率も均一になり成形体(円板)の肉厚が均一になる。

【珈琲ブレイ句】MIMで使いたいと考えている技術のひとつです。それは本来の目的と違うのですが、製品設計でどうしても対策が打てないときの最後のアイデアです。その課題とは「ゲートフリーズする肉厚品のヒケ防止」で、その対策に射出成形圧縮が最後の対策手段に成りえます。具体的には、保圧の代わりにキャビティの一部を加圧に使う局所加圧というアイデアです。他の効果としては「ガス逃げ」の作用は絶大なので、ガスの巻き込みや断熱圧縮による焼けの対策に使えることでしょう。課題は2つ。①キャビティ可動部の摺動可能な嵌合設計と②射出と型締めのタイミングをとる方法をどうやって確立するのかですね。大型の肉厚部品や大きな薄物部品のMIMに展開されることを期待しています。

*1 射出圧縮成形における樹脂流動性について、斎藤、松本、阿部、成形加工 第10巻 第6号 1998 P389


2022年10月1日土曜日

工具鋼こそMIMの差別化材料だ!

 【珈琲ブレイ句】昔々、一万回転で動く機械が開発された。その摺動部品は普通の鋼では耐えられなかった。そこで耐摩耗材料探しが行われた。そして耐久試験で残った最後の材料がダイス鋼だった。量産準備として素形材を鍛造で試作した。しかし大失敗。鍛造金型が割れるためだ。仕方が無く削り出しで量産初期を乗り切り、次の量産材としてロストワックスを選んだ。しばらくすると潜在的問題が浮上する。それは、工具鋼を工具鋼(HSS,WC)で加工するので、すぐに高価なエンドミル等が摩耗してしまう。加工する量を減らすニーズが出てきた。最後にたどり着いた素形材がMIMである。(その後、自分がMIMの技術者に転身するとは面白いものである。)今、改めておもう。超耐久部品の材料に、高速度鋼(ハイス、粉末ハイス)、SKD(ダイス鋼)を選べば、ほぼ間違いない。ニアネットシャープのMIMがその素形材に適任だ。工具鋼こそMIMの差別化材料だ!

注意:開発設計者は、工具鋼を造れるMIMメーカーを探す必要があります。キーワードは、球状炭化物、炭素量(脱炭の有無)、カーボンコントロール技術、超固相液相焼結(SLPS)

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