2020年12月29日火曜日

MIM収縮率の推移と周辺技術

 近年MIMの収縮率は小さくなっている。MIMフィードストックメーカーの公開情報などをベースに世代の周辺技術との関連をまとめた。


【珈琲ブレイ句】調べてみると市販MIMフィードストックに、収縮率12.66%(M2)というものがありました。それもM2です。CIPベースの二峰分布混合?なのでしょうか、詳細不明ですが天晴れ・あっぱれ・素晴らしいことです。MIM黎明期には、金型の伸び尺は1.20(収縮率16.69%)が主流でした。これが常識だと思っていましたが、それは勘違いだったのです。バインダーが少なくなると射出成形が難しくなっていきますが、明らかに焼結精度は向上していきます。MIM高精度化のためにはバインダーのダイエットは必要なのです。

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2020年12月28日月曜日

成形材料と収縮率の関係(靴屋さんとお客さん)

 高級な靴屋さんに行くと、始めに足のサイズを計ってくれる。それから自分の足にフィットする靴を用意してくれる。決して「この靴に足の方を合わせてください」と言われることは無い。プラスチックの収縮率は、種類によって決まっているPPは1.2とかPEは3.0、POMは2.0など。その材質に合わせて金型は、伸び尺「1/(1-収縮率)」だけ大きく作られる。足に合わせて靴を造る高級靴屋さんのように。

MIMフィードストックも同じである。材料開発のたびに最適な収縮率が新生される。決して既存金型のために、既存の設計標準があるからという理由で、バインダーを足して収縮率を合わせる調整は行わない。 実は昔の自分がそうだったから反省も込め備忘録としてここに書きとめる。


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2020年12月27日日曜日

BASFの高流動性MIMフィードストックを掘り下げる

 MIMフィードストックの3要素、結合剤、潤滑剤、可塑剤を無視して、ほぼ結合材だけで設計されている独創的なMIMバインダーがBASFのそれである。成形性が悪いのであるが近年高流動性MIMフィードストックが開発されている。20年前のデータと比較すると流動性は2~3倍向上し,一般MIMフィードストックと同等の流動性に変異(進化)している。

SUS316L: MI値300-700g/10min(20年前)→1000g/10min(GPLUS)→1300g/10min(EVO)

17-4PH: MI値200-450g/10min(20年前)→1100g/10min(EVO)

MI値:メルトインデックス,Melt flow INDEX, MFRと同義,190℃,荷重21.6Kg、ダイス径は不明?


【珈琲ブレイ句】流動性が高くなった理由は、バインダーを増やしたわけではありません、むしろ高精度化を目指し(CSLを追求し)バインダー量は減らしているのです。ではなぜ、高流動化できたのか。ここからは推測ですが「高流動性のPOMを採用した」ためだと思います。実際に10年ほど前、高流動性POMが登場し少し実験を行ったことがあります。さらに発展して、今現在「超高流動性POM」が販売されています。「超」が付いています、ものすごいのです。となれば「可塑剤、潤滑剤を減らせる」と考えてもよさそうです。上の事例はBASFフィードストックの話しですが、通常のMIMフィードストックであっても次の改善開発のアイデアが考えられます。「結合材を高流動ポリマーに変更することで可塑剤や潤滑剤を減らす、あるいは融点の高いものに変更する。そうすれば、現状と同じ流動性でありながら、金型のワックス汚染を減らせる」かもしれません。

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2020年12月26日土曜日

MIMフィードストックに求められる成形性とは

 MIMフィードストックに求められる成形性を左右する特性を考える。

《モジュラス》高い方が、歪を回復する力は高いので保圧後の冷却収縮における、金型転写性が高くなる。

《粘度》低い方が成形しやすい。低温で成形できる。10^4poise以下。

《温度感応》温度に対する粘度変化は大きい方が成形で有利。可塑化&凝固をコントロールしやすい。

《擬塑性》射出速度を高くすると粘度が下がる。シェアシンニング性。


【珈琲ブレイ句】MIMが成形しやすいフィードストックを開発するためには何を指標にすればよいのか迷うところです。しかし、最近「そんなの関係ない」と考えるようになっている自分に気が付くのです。その原因は、ほぼポリマーだけのBASFフィードストック材料で、量産が行われているためです。強者(つわもの)のBASFフィードストックと比較すれば、一般のMIMフィードストックは、みんな同じ範囲の仲間と考えられるのです。多少の成形性の違いは、成形技術で簡単にカバーできるのです。

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2020年12月24日木曜日

水溶性MIMバインダーのあゆみ

水溶性MIMバインダーの代表的なものを表にする。






【珈琲ブレイ句】ふた昔前、寒天バインダーや、大手MIMメーカーが採用したQuick Set法などが水溶性MIMバインダーとして話題になっていました。今現在、生存しているのか絶滅しているのか? 確実に生きているものがひとつあります。それは、水溶性MIMバインダーとして進化し、量産工法として確立したPEGバインダーです。これは、上表にまとめたように、ゲル化を利用して水を固めるグループではなく、「普通のMIMバインダー」の仲間です。つまり「バインダーのひとつを水溶性のPEGに置き換えた」という話で通常MIM製法の守備範囲の技術です。水溶性バインダーの利点は、溶剤ではなく安全な水を使うところです。欠点は、粉末の酸化問題があるところ。従って採用されている材種は、ステンレス鋼、チタン合金など錆に強いもの限定です。MIMフィードストックメーカーのAMAZON? Ryer社のAquaMIMの鋼種を観てみると、やはり、ステンレス鋼、インコネル、チタン合金に絞られています。


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2020年12月22日火曜日

MIM製ハイスの焼結機能窓を拡げる添加物

 ハイス(高速度鋼SKH51M2)をMIMで製作するのは、かなり難しい。焼結スランプ,溶け,デンドライトの発生,結晶粒肥大化,網目状炭化物など克服すべき課題が多いからである。必ず必要なことは一次脱脂および二次脱脂を確実に行い、還元も考慮したカーボンコントロールを行う事である。さらに、材料設計段階で解決する手段がある。それは,炭化物(WCTiCTaCNbC)をフィードストックに添加することである。結果、焼結機能窓が最大40ºC拡大し、結晶粒の成長を抑制することができる。Powder Injection Moulding International June 2010  Vol. 4 No. 2 P6

 

【珈琲ブレイ句】MIMは粉末冶金なのでどんな合金でも製造できる。これがMIM材料開発の強みです。いろんな炭化物を添加したハイスを独自で作れば世の中の役に立つということです。たとえば高硬度の炭化物を添加すれば耐摩耗性向上も期待できるはずです。話が変わりますが、コバルト合金の精密鋳造で、似たような目的で組織微細化材を使っていました。この微細化材はコバルトブルーという粉末で、油絵の具に使われているものです。この粉末を種にして結晶が成長していきます。細かい結晶が成長したところで凝固を終了させれば微細組織の完成です。粉末は面白いですね。

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2020年12月18日金曜日

MIMは脱脂工程でも収縮している

MIMの収縮は、焼結工程だけでなく脱脂工程でも発生している。非接触レーザー測定で精密に測定したジャーマン先生の実検報告がある。

【材質】SUS316L,15μm,30×12×t6mm 【バインダー/配合】60%-PW,32%-PP,8%-PE,40VOL% 【一次脱脂】溶媒,ヘプタン,55℃×4H 【二次脱脂】大気加熱

【寸法変化】

溶媒脱脂中:+1%程度膨張し、時間的変動は無い

加熱脱脂中:+0.2%膨張(80℃)した後、100℃から急激に収縮が始まり約150℃で最大収縮-1.5%。その後は、多少熱膨張で相殺されていくがバーンアウト450℃時点で、最終-1%の収縮がある。

【なぜ加熱脱脂中に収縮するのか】3つの理由

1.液化結合剤(ポリマー)の表面張力による合体 2.および毛細管現象による粉末粒子の再配列 3.結合剤の熱分解揮散による体積減少 


【珈琲ブレイ句】MIMの収縮率は13~15%と大きく、そのすべてが焼結工程で発生していると考えがちですが、二次加熱脱脂でも1.5%程度収縮している。その原因は、粉末粒子の再配列ということです。なるほど結合剤と言えども、ポリマーは軟化・溶融し液化するので、毛細管現象や液体表面張力などに影響を受けるということです。ジャーマン先生の教えでは、MIM部品の設計は「均一な肉厚設計」をすること、「加熱脱脂の最終温度近傍では昇温速度を落とすこと」とあり、100%納得できますが、さらに私見として付け加えると、やはりバインダー量を最小化(粒子間距離の最小化)することが粒子の再配列現象を極小化するので変形には有利であることが推察されます。また、蛇足ですが、樹脂中子を二重成形したアンダーカット形成品であると、樹脂中子の熱膨張と、MIM成形体の収縮が逆方向に作用するので割れの発生が考えられます。加熱前に完全に樹脂中子は除去した方がベターだという考察もできます。


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2020年12月2日水曜日

リコーのAM技術がアルミ合金を積層する

樹脂コーテッド粉末を使う独創的なAM-3Dプリンターを開発しているリコーが、アルミ合金にチャレンジしている。《方式》パウダーベッド、インクジェット、積層84μm。 《粉末》樹脂コーテッドAl-Si合金粉末(平均35μm) 《工程》溶媒(水?)脱脂+焼結(液相焼結、液相20~30%)

《結果》相対密度=98%、結晶粒=50μm、引張強度=100MPa、熱伝導率=188w/mk  純アルミの強度とアルミ鋳造品相当の結晶粒と熱伝導率を達成できた。

【珈琲ブレイ句】メイドインジャパンで頑張っているリコーさん。樹脂コーティング粉末を使う独創的技術が良いですね。このメリットは2つ。1つは、架橋性・濡れ性向上により積層体の強度が高くなること。2つめは、粉体の防爆性・安全性向上。2wt%コーティングすれば粉体着火しないそうです。やっぱり粉末粒径は35μmはMIMと比較すると粗いですね。粉末流動性を考えるとパウダーベッドの限界なのでしょうか。しかし、この粉末で相対密度98%を叩き出していることに驚きを隠せません。どうやって焼結しているのでしょうか?? 液相焼結がキーワードの様です。かなり長時間焼結保持しているようなので、「スランプ変形」との闘いがありそうです。 がんばれ!メイドインジャパン!応援しています。

《追加情報》2023年春、開発関係者の話では樹脂コーテッド粉末の使用は「お休み」になっていました。いろいろあったみたいです。

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