2024年2月22日木曜日

MIM入門者の必読論文紹介「MIMバインダー設計」

MIM入門者(MIMフィードストック開発)およびMEX用フィラメント開発者に有益な素晴らしい論文を紹介する。下にJ-Stageへのリンクを貼った。

《秀逸なところ》

①溶媒脱脂(パーマテック系)、加熱脱脂(ウイテック系)、NEW加熱脱脂(3STD、シングル系)をほぼ網羅している。

②熱分解温度で3つのグループを提示し「SA,PW,DOP」「PMMA,POM」「PS,PE,ABS,EVA,PP]、その組み合せにより、三段階の熱分解曲線(3STD)の可能性を示している。

③溶媒としてHexanとMEKの脱脂性と脱脂率の違いを明確に解説している。

参考資料:伊藤芳典、針幸達也、佐藤憲治、三浦秀志 ”加熱脱脂および溶媒脱脂を考慮したMIM用バインダの検討” 粉体および粉末冶金 第49巻 第6号 518-521

J-Stage 

【珈琲ブレイ句】この研究論文から、(触媒脱脂法を除く)すべてのMIM製法のフィードストック仕様のヒントを得ることができます。丁寧な良い仕事をされていると感心します。この内容はパテントを気にすることなく有難くいただくことができます。

ひとつだけ気になるところは、「PMMAの膨潤」です。溶媒脱脂とPMMAの組み合わせを選びたい方は、PMMAの膨潤による脱脂中のグリーン体割れの発生の有無を確認した方が無難です。

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2024年2月19日月曜日

高流動性ステンレス粉末

 PM(粉体粉末冶金、圧粉焼結)やPowder Bedを使うMetal-AM(金属3Dプリンター)への応用が期待できる新技術を記録する。

《事例》粉末としてSUS316L(10~40μm)にカーボンコーティング(5ナノメートル厚)することで、安息角が40度から32度に小さくなり、流動性指数(Carr)が80.5から91に向上する。

粉末にカーボンをコーティングする方法:①フロロダルシノールを300℃×2H加熱して炭化させる。 ②SUS316L粉末に重量比で100:1混ぜる。 ③DMF溶剤を加え超音波混合し、イオン的相互作用で自発的にコーティングさせる。 ④DMF溶剤で洗浄・精製して真空乾燥させる。 ⑤窒素800℃×2Hで加熱する。

参考資料:郷田隼、”液相カーボンコーティングによるステンレス鋼粒子の流動性向上” J.Jpn.Soc.Powder Metallury,71(2024)51-55

【珈琲ブレイ句】微粉末になればなるほど粉体流動性は悪くなります。この技術はそれを改善するすばらしい発明です。炭素(黒鉛)は摩擦係数が小さい潤滑剤ですからね。でもコーティングされた炭素がどうなるのか心配になりますが、なんと焼結中に酸化クロムと還元反応(977℃)して無くなり、母材の純度が上がるメリットもあるそうです。

Powder Bedを使うMetal-AM(BJT等)では、微細粉末を精密・正確に1層敷き詰める信頼度が今後の課題になるだろうと予想しています。つまり、要求レベルが上がって、積層体の内部空隙欠陥の発生率が課題(6σ管理、不良率0.3%)になる未来が来るということです。後処理のHIPで解決できますが処理費が高価です。それより始めから粉体の流動性が高ければ粉体の嵩密度は向上し分散は小さくなるはずです。近い将来この技術が脚光を浴びる日が来ると感じています。

蛇足ですが・・別の方法で微粉末の流動性を向上させるアイデアがあります。「概要はこちらのBLOGで・・」

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2024年2月18日日曜日

粉末量SLの限界vs型内圧力vsグリーン体密度

 たいへん素晴らしい論文からグラフを転記する。

横軸が粉末量(Solid Lording)、縦軸(左)が型内圧力、縦軸(右)がグリーン体密度である。

結論:①粉末量SL(Solid Lording)を増加させるとグリーン体密度は比例して増加する。②しかし、さらに粉末量を多くするとグリーン体密度が頂点に達した後に低下する。同時に型内圧力が急激に低下する。この頂点近傍ががCSL(Critical Solid Lording)である。③CSL近傍のグリーン体(成形体)の表面に微細なクラックが発生していた。これは、CSL近傍では溶融粘度の増加および固化速度が大きくなることで、材料への圧力伝達が不足したためと考えられる。

参考文献:田中茂雄大久保健児濱田泰似  金属粉末射出成形法における樹脂流動に関する研究(1)&(2)”、Seikei-Kakou Vol.17 No.2 2005 & Vol.18 No.9 2006


【珈琲ブレイ句】この2つの研究は大変勉強になる秀逸な論文です。成形技術に関するヒントが詰め込まれておりMIM入門者の必読論文として推薦します。

「研究(2)ではMIMフィードストックの最適な粉末量は60VOL%である」と結論を出しています。ただし、使用している粉末の性状(形状、粒度、タップ密度等)によってこの結論は変化するので数字だけ切り取るのは危険です。

実験でCSLを求める一般的な方法は、ラボプラストミルで混錬トルクを測定するものです(MIM指南書P69 )。さらに推定式で予備実験用の概略CSLをタップ密度から求めることもできます(MIM指南書P76)。

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2024年2月15日木曜日

MIM-Like AMの仕上工法

 MIM-Like AM(Sinter based Metal AM)とMIMに使える仕上に関する工法をまとめておく。

《表面あらさ向上》バレル(光沢バレル、磁気バレル)/ ショットブラスト(砥粒含有弾性体、シリウス等)/ 光沢研磨(バフ研磨)/  MMP®(Micro Machining Process)

《表面改質(疲労強度向上)》ショットブラスト、ショットピーニング/ レーザーピーニング/ キャビテーションウオータージェットピーニング

【珈琲ブレイ句】TCT-JAPAN 2024で初めて知った工法があります。キャビテーションウオータージェットピーニング(SUGINO)です。ワーク表面に高圧水を噴射させ表面で崩壊する気泡がキャビテーションを発生させるそうです。それは数ギガパスカルの衝撃力で表面に残留応力が残る理屈です。一般のショットピーニングと比較して優れているところが2つあり①洗浄工程が不要②材料組織構造の変化が少ないところだそうです。欠点があるとすれば、ウオータージェット装置が高額なところでしょうか?初めは委託加工からですね・・・。

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2024年2月14日水曜日

金属素形材の試作納期短縮チャレンジ

 TCT-JAPAN 2024に出展していた「超小ロット特急対応」を提案しているメーカーの最短納期は次のとおりである。

PBF(レーザー):7日間、MAX80mm、SUS316L

MEX(フィラメント):14日間、MAX80mm、SUS316L、630、純銅

LW鋳造(3Dモデル):5日間*1、30~500mm、SUS、鋼、アルミ、銅

参考資料:キャステムデジタルキャスト推進室カタログ 

《ことば》PBF:Powder Bed Fusion / MEX:Material Extrusion / LW:Lost Wax(精密鋳造)


【珈琲ブレイ句】短納期を営業ツールとする差別化戦略です。相当攻めている納期ですね。それにしてもロストワックス精密鋳造を利用する商品で納期が5日間というのは驚きです。(逆にMEX製法の14日間が相対的に長く感じます。)

どうすれば5日間でできるのか推理してみましょう。ロットは数個の1ツリー、5層鋳型と仮定すると・・・。

樹脂モデル造形+ツリー組立(1日間)、コーティング(2日間)、脱ロウ・焼成・鋳造(1日間)、切断・仕上・検査・梱包出荷(1日間)であれば5日間は可能です。

工程内・工程間の管理停滞ゼロ、鋳造解析は行わない(あるいは事前に行う)といった感じでしょうか? とにかく攻める営業が凄い!

*1 2024/2/27の同社メールマガジンでは、デジタルキャストの納期が最短10日間となっています。それなら納得できます。5日間は短すぎると感じていました。


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2024年2月13日火曜日

MIM製INCO713LCの熱処理効果

MIM製INCO713LCにおける熱処理の効果について記録する。

焼結体密度:99% (Schunk Sintermetalltechnik 社製)

溶体化処理:真空1200℃×2H後、Arガス冷却

時効処理:925℃×4H

比較材:MIM焼結体(as sintered)、MIM焼結体(溶体化・時効)、鋳造品+HIP

《結果》

焼結体と比較して、高温での Rm と Rp0.2 は熱処理後に増加する。これは、粒界での微細化された γ’ と炭化物の析出に起因すると考えられる。 ただし、延性が大幅に低下する。

 鋳造 + HIPと比較して、MIM IN 713LC は 700°C までの温度で高い強度を示す。 焼結体(as sintered) の延性は、鋳造 + HIPの延性よりも高くなる。 ただし、MIM焼結体(溶体化・時効)の延性は、鋳造 + HIP 処理より試験温度範囲で低くなる。

500℃における回転曲げ疲労特性(83 Hz)では、焼結体(as sintered)MIM焼結体(溶体化・時効)は同等の回転曲げ疲労特性が得られ、鋳造 + HIP と比較して優れた疲労挙動を示した。これは粒界滑りに対する安定性によるものと考えられる。

参考文献:Vol. 10 No. 4 © 2016 Inovar Communications Ltd December 2016 Powder Injection Moulding International 65

【珈琲ブレイ句】MIMは粒界に微細炭化物が析出するため鋳造品より強度や疲労強度が高くなる可能性がある(伸びは熱処理で低下する)という内容です。ただ、比較している鋳造品はHIP処理だけで、溶体化時効が行われていない?ことが気になります。でも一般的にはMIMの方が鋳造(たぶんロストワックス)より組織が微細になることは確かですね。

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2024年2月6日火曜日

MPD方式の優位性を妄想してみる

 【珈琲ブレイ句】新登場したMIM-Like AM(MEX方式)のMPD(Metal Paste Deposition)」を一目みて「!!!まじか!!」。その潜在的パワーを強烈に感じました。

その潜在的パワーの正体(直感的私見)を、「ペレット方式」「フィラメント方式」「ペースト方式(MPD)」の三者で比較しながら文章にまとめておきます。

《優れる1》積層中にバインダーの約90%が蒸発します。蒸発物は水ですが、これは、積層中に開気孔構造体をつくる一次脱脂が完了することを意味しています。他の方式では、溶媒脱脂、触媒脱脂、加熱脱脂が別工程あるいは焼結炉内で必要です。その結果、積層体がすでに開気孔構造体なので肉厚部品の焼結が可能になります。TCT2024展で一辺50mmの立方体(焼結体)が展示されていました。

《優れる2》積層材料(フィードストック)が常温でペースト状なので材料を溶融する必要がなく、凝固収縮によるヒケやボイドの問題が発生しません。他の方式では、160℃程度の加熱溶融からの冷却・凝固収縮が発生します。ただし、空気の巻き込みによるボイドは3方式すべてに発生する可能性があります。

《優れる3》MPDペーストは、常温流動性だけを考慮して設計することができます。一方、フィラメント方式では、フィラメントが積層装置の都合だけの要求で設計される傾向があります。例えば、リール材(コイル材)にするための柔軟性と湾曲性が要求されます。さらに、ノズルへ移送させるギヤ送り機構に耐える表面の強靭性も必要になります。その結果、表面コーティングの付加や、それらによる脱脂性を犠牲にする設計が要求される可能性があります。

《優れる4》常温で積層できるので積層環境の温度を高くする必要が少ないと思われます。他の方式ではテーブルを加熱したり、環境温度を管理したり、フィードストックの温度を高めに設定するなどスキン層の密着性に影響する凝固温度を確保するための環境調整が必要になります。また、積層された造形物に熱履歴の差による残留応力が残り脱脂変形を引き起こす可能性が潜在しています。

《劣る1》MPDのバインダーの主成分は水なので錆びる鋼には使いづらい傾向があります。現在用意されている材質は、316L,17-4PH,INCO625です。開発中としてTool Steel,銅,WCをあげています。Tool Steelは,比較的錆びに強いD2あたりでしょうか?とにかく錆びに強そうな鋼種だけなのです。

《劣る2》3方式すべてに共通しているのですが、ノズルからの噴射速度が低いので積層材料の動粘性を低くする必要がるためバインダー量を(100-CSLvol%)よりかなり多めに設計する必要があります。これは、収縮率が大きくなることであり、スランプ変形も含め焼結体の精度が悪くなります。RAPIDIA社の公開情報では、バインダー(水+α)は約10wt%なので、40VOL%は軽く超えており結構ジャブジャブだと推察されます。

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2024年2月2日金曜日

メタルペースト積層(MPD)を掘下げる

MIM-Like AM(Sinter-based Metal AM)のMEX方式は、材料供給方式が3種類になった。それは、「ペレット方式」「フィラメント方式」そして新しく加わった「ペースト方式」である。

カナダの新興企業(2016年設立)RAPIDIA社が開発したMPD(Metal Paste Deposition)「Conflux-1」の概要仕様を記録する。

販売権:大陽日酸株式会社

積層材:水溶性金属ペースト(316L、17-4PH、Inco625、サポート用セラミック材)の入ったカセット(1L)で供給、

積層方式:金属ペーストの押出しによるMEX方式

積層速度:50g/H

積層物硬化方法:一層積層ごとにハロゲンランプにて加熱乾燥

脱脂焼結:脱脂不要、Ar焼結(MAX1400℃)。

【珈琲ブレイ句】TCT展示会2024で実物を見てきました。実際に積層しているところは見られませんでしたが、ソリッドの50mm立方体の焼結体を持たせてもらいました。中実で50mmの焼結体には驚きました。他のMEXやMIMでは製造不可能でしょう。すごい技術が登場してきました。

なぜこんなことができるのかというと、文字通りほぼ脱脂が不要だからです。ペーストは約10wt%の水分と金属粉末で作られていて、積層直後の加熱乾燥で水分が蒸発し約1%の結合剤だけが残ります(これが一次脱脂と考えることができる)。この状態は和菓子の「おこし」状態でスカスカな構造体(開気孔構造体)なのです。だから50mm立方体の焼結体が膨れや破裂することなく焼結できるのでしょう。説明によると1%残る結合剤は、粉末と粉末の接触点に集合して固化するので積層体(ブラウン体でもある)の強度が高いそうです。

課題があるとすれば、やはり水を使っているので錆びを嫌う鋼種は無理っぽいところでしょう。しかしメリットの方が大きいと思われます。超肉厚部品ができる。さらに憶測ですが積層雰囲気の温度管理が容易で温度履歴差で発生する残留応力による変形も少なくなるような気がします。とにかく今後の注目技術です。

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