2023年4月28日金曜日

MIM Like AM (FFF)の「Metal-X」がMIMを超えた?

 Markforged社が公開しているマテリアルデータシートにおいて、Metal-XのSUS630の引張強度がMIMのそれを超えている。その値は下記である。

《Markforged H900》 引張強度:1250MPa、伸び:6%

《MIM H900》*1 引張強度:1190MPa、伸び:6%

*1:MPIF standard35の典型的な参照値


【珈琲ブレイ句】MIM Like AM(Sinterbased Metal AM)の中では、MEX(FFF,FPF,FDM)方式がMIMに一番近いと考えているので、個人的にはこの結果は十分納得できます。ただ、データシートの組織写真が、MIMだけ粗すぎる感が否めません。焼結温度が高すぎるかも?です。MIMと同じ金属粉末を使い、同じ条件で脱脂・焼結をすれば、少なくとも金属組織は同じにならないと変ですよね。でもすばらしいことです。

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2023年4月27日木曜日

ガスアトマイズについて少し深堀する

ガスアトマイズは、きれいな球体でサテライトがない粉末をつくることができる。その製造の特徴を少しまとめる。

◆アトマイズ形態は装置のガス噴射ノズルの仕様によって異なるが、ある報告では、液滴形成が一次と二次に分かれるため多峰分布になるものがある。

◆使用する気体の温度が高いほど速度が速くなり、分子量が小さいほど速度が速くなり、平均粒径が小さくなる。

◆したがって、ガスとしてヘリウム、窒素、アルゴンを使った場合、ヘリウムを使ったアトマイズ粉の平均粒径が一番小さく、次に窒素、アルゴンの順に大きくなる。

◆溶湯温度が高いほど平均粒径が小さくなる。

◆溶湯量(Metal Flow Late)が少ないほど平均粒径が小さくなる。

◆ガス量(Gas/Metal Flow Late)が多いほど平均粒径が小さくなる。 


【珈琲ブレイ句】ガスアトマイズ粉末は、完全球体でサテライトが無く、酸素量も少ないので大好きなんですが、MIM粉末(平均粒径10μm程度)を想定すると、微細粉末の収率が悪く、さらに微細方向へ分布をシフトさせるためには溶湯量を減らし、ガス量を多くする必要があるなど、コスト高になる条件ばかりで、微細粉末化が割高になることが容易に想像でます・・・・。

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2023年4月17日月曜日

オーステナイトSUS部品だけど錆びやすい?なぜ?

オーステナイトSUS(SUS304等)なのに、短時間で錆が発生することがある。その原因をまとめる。

◆加工誘起マルテンサイト説:二次工程として、大きく変形させる加工を加えると作用部位が局所的にマルテンサイトに変化する。磁石がくっつく。

◆デルタフェライト析出説:クロム炭化物が粒界に析出している。磁石がくっつく。これは、600~800℃で保持したことによる鋭敏化現象である。(固溶化処理を追加すれば鋭敏化は解消できる。)

◆炭素量大過ぎ説:オーステナイト組織でも、炭素が多量に入っていれば錆びやすくなる(CrがCと結合して防錆に寄与するCr原子が減少するため)。主原因はバインダー起因の炭素で、一次・二次脱脂不足の場合が多い。

【珈琲ブレイ句】前にも書いたかもしれませんが、SUS303系ステンレスの焼結後のガス冷を700℃から始めるプログラムにしていました。大きなトラブルは一度も発生しませんでしたが、恐ろしい鋭敏化の可能性もあったのです。焼結後のガス冷は、900~1000℃から始めた方が安全だったと、今さらですが思っています。「なんちゃって溶体化処理」にもなりますし・・・。但しC>0.3%の鋼はNGです。焼きが入るため(硬度が中途半端に高くなる)。

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MIM用の引張試験片

 研究機関によってさまざまな寸法形状の引張試験片が使われているが、ISOにMIM用の引張試験片が規格化されているので、これから新しく金型をつくる方は参考にしていただきたい。


【珈琲ブレイク】上図の試験片はISO2740のBタイプです。両サイドの型締めヘッドに穴があるAタイプが、初期に規格化されたけど、ウエルドやクラックの影響で中央部が破断しないことが多発したので、Bタイプが作られたようです。私もBタイプを採用しました。引張試験データのばらつきを低減させるポイントを紹介します。それは、試験片をよく磨く(▽▽▽▽)こと。光沢バレルに入れる方法がお手軽です。

◆JIS Z2551 金属粉末射出成形材料-仕様(2021)も必ず参照してください。真直度などが追加されています。◆

2023年4月15日土曜日

HIP処理でMIMの気泡は完全に消滅できるのか

 【珈琲ブレイ句】MIM焼結体の中に残存する不良として気泡(void)があります。気泡の中身は、真空の場合もありますが、窒素やアルゴン、その他のガスとの複合であると思われます。それを完治させる方法のひとつとしてHIP処理が行われる場合があります。でも、こんな疑問を持ったことはありませんか?

「HIP処理により、気体が含まれている気泡が完全に消滅するのか?」

答えは「HIPで気泡は消滅する」です。

そのメカニズムは次の通りです。「HIP処理中の気泡は、圧縮され鎖状に分断し、端部に気泡が残り、ガスは母材金属へ拡散(固溶)していき、母材の接合面も拡散し一体化する。*1」

もちろん、気泡の内部が真空であればHIP処理時間を短縮することができるそうです。密度100%、機械的性質も確実に向上させることができるので、ハイスペック品にHIPを採用する事例は少なくありません。全数X線検査を行うのか、HIP処理をしてX線検査を廃止するのか。コストバランスが許せば後者に軍配が上がりそうです。

*1 岩崎ら、”HIP処理による鋳造欠陥の消滅条件と品質改善の効果”、鋳物、第60巻(1988)第1号、26-31

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2023年4月3日月曜日

Niフリー・ステンレス鋼にMIMが適している理由

Niアレルギー問題を解決するNiフリー・ステンレス鋼の要求特性は、当然Niを含まないステンレスであること。さらに、高耐食性、高強度・高靭性、非磁性体であるオーステナイト鋼であること。そのためにはオーステナイト形成元素であるNiの代わりにNi当量の大きなN(窒素)原子を固溶させる代替法がある。

Nを固溶させる方法として、例えばフェライトステンレスに固相窒化処理(固相窒素吸収法*)を行うことでオーステナイト(fcc)化できる。固相窒化処理は、窒素ガス雰囲気で焼鈍を行うだけで実現できる。しかし問題がある。

その問題とは、とにかく時間がかかることである。そのため細線や薄板でのみに応用されている。

しかし(だから)、MIM品であればこの固相窒化処理が展開しやすくなる。その理由は、MIMは微小粉末を使った焼結体であるからである。具体的には、二次脱脂後の仮焼結(800℃)の開放気孔状態のときに窒素をパーシャルガスとして流し固相窒化処理させることができるところである。

さらに、始めから窒素を添加したプレアロイ粉末がBASF社から発売されている(Catamold:PANACEA)ので、母材のN量(<1%)はすでに確保されている。したがって表面のフェライト層だけ固相窒化処理すればよい。

【珈琲ブレイ句】NiフリーステンレスにMIMは有利なのです。でも、MIMで実現させるにはかなり技術的課題も多いのです。たとえば、窒素により一般的な窒化が起こり窒化クロム(Cr2N)が析出すること。焼結速度を大きくし過ぎると表面にフェライト組織が多くなること(焼結密度は上がるけど)などです。でも、これは後処理で消滅させることができます。窒化物対策には、オーステナイト領域まで加熱して急冷させます。表面のフェライト対策は、上記の固相窒化処理を追加することです。

*固相窒素吸収法:Solid state nitriding, Nitrogen absorption treatment, Solution nitriding, High temperature gas nitridig 一般の窒化(表面析出硬化)とは全く別物です。

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