Niアレルギー問題を解決するNiフリー・ステンレス鋼の要求特性は、当然Niを含まないステンレスであること。さらに、高耐食性、高強度・高靭性、非磁性体であるオーステナイト鋼であること。そのためにはオーステナイト形成元素であるNiの代わりにNi当量の大きなN(窒素)原子を固溶させる代替法がある。
Nを固溶させる方法として、例えばフェライトステンレスに固相窒化処理(固相窒素吸収法*)を行うことでオーステナイト(fcc)化できる。固相窒化処理は、窒素ガス雰囲気で焼鈍を行うだけで実現できる。しかし問題がある。
その問題とは、とにかく時間がかかることである。そのため細線や薄板でのみに応用されている。
しかし(だから)、MIM品であればこの固相窒化処理が展開しやすくなる。その理由は、MIMは微小粉末を使った焼結体であるからである。具体的には、二次脱脂後の仮焼結(800℃)の開放気孔状態のときに窒素をパーシャルガスとして流し固相窒化処理させることができるところである。
さらに、始めから窒素を添加したプレアロイ粉末がBASF社から発売されている(Catamold:PANACEA)ので、母材のN量(<1%)はすでに確保されている。したがって表面のフェライト層だけ固相窒化処理すればよい。
【珈琲ブレイ句】NiフリーステンレスにMIMは有利なのです。でも、MIMで実現させるにはかなり技術的課題も多いのです。たとえば、窒素により一般的な窒化が起こり窒化クロム(Cr2N)が析出すること。焼結速度を大きくし過ぎると表面にフェライト組織が多くなること(焼結密度は上がるけど)などです。でも、これは後処理で消滅させることができます。窒化物対策には、オーステナイト領域まで加熱して急冷させます。表面のフェライト対策は、上記の固相窒化処理を追加することです。
*固相窒素吸収法:Solid state nitriding, Nitrogen absorption treatment, Solution nitriding, High temperature gas nitridig 一般の窒化(表面析出硬化)とは全く別物です。