2019年11月24日日曜日

新生MIM事業化支援活動

国内のMIM初心者メーカーに新しいMM製造ラインを立ち上げる。新生MIM事業化のお手伝いをしている。現在国内MIMメーカーは30社程度しかなく20年前から撤退統合で数は横ばいである。しかし、後から始めた中国ではその10倍以上MIM事業が誕生している。 なぜか・・・

理由は2つ

①やっぱり「MIMはすばらしい」から
②今からMIMを始める方がよいから

それはなぜか、

①は常識なので省略して ②の理由として2つ挙げる

ひとつ:ターゲットとするMM製品に最適なMIMシステム(溶媒、触媒、加熱)を選べる(すべてのMIM製法特許が切れており誰でも使える)(後だしジャンケンは絶対に勝てる)
ふたつ:社内に過去の実績から生まれる軋轢*1(あつれき)が無い、自由に製造技術を最適化できる(白紙に絵を描ける)

◆新生MIM事業でも技術的には今こそ有利◆

MIMを社内で始めたいという相談には次のステップをおすすめしている
Step1 最小の投資で、MIMを体験してもらう 「MIMお試しセット」
Step2 MIM設備一式導入(モデルライン)量産試作期間
Step3 本格量産
Step4 MIM設備増設、作業者スキル熟成 
Step5 生産量が月産500kgを超えてきたら、MMフィードストック内製化もあり
    

【珈琲ブレイ句】
 *1 の 軋轢の素は「現状を変えられない心理」が働くためです。その心理は4つ。 ①損失回避 ②保有効果 ③サンクコスト(コンコルド効果) ④確証バイアス その結果「現状がそんなに悪くないのにわざわざ変える必要がない」となるのです。現状維持も難しいのですが、さらなる継続的発展をいつも考えていることが重要です。大企業になるほど軌道修正が難しいのです。これから始めるところには、この軋轢がないので有利なのです。

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2019年11月22日金曜日

MIMバインダーのネガティブな事象

MIMバインダーのネガティブな事象。それは安全面の課題を克服する必要がある。 どのMIMバインダーも問題を抱えている。まとめてみた。

【溶媒脱脂】
課題:引火性溶剤の安全管理が必要。引火しない溶媒の廃液・再処理問題。
対策:装置の密閉化、局所排気、防爆仕様、安全管理者による教育・管理。沸点が低い溶媒であれば自家製装置で蒸留再生ができる。

【加熱脱脂、触媒脱脂】
課題:脱脂で揮散するバインダーガスの安全管理。特にPOM分解ガスはホルムアルデヒドである。
対策:排気ガスの完全燃焼。

《珈琲ブレイ句》
他に水脱脂バインダーがあります。これであれば上記問題がかなり低減されます。とにかく水なので安全です。しかし完璧ではなく少し問題があります。それは「廃液処理」。そのまま下水に流せません。それから水なので「錆びる粉末」には相性があいません。でもクリーンなイメージの研究事例では、チタン合金に広く使われています。いずれにしてもこれらのネガティブ事象は、技術でポジティブ変換できます。そして必ず実施して管理を維持すればなんら問題にならないのです。課題を知り適切な対応をすること。


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MIMバインダーを復習して感じたこと

今まで当たり前のように親しく付き合ってきたMIMバインダーの面々。改めてその性格や生い立ちを調べてみた。ついでに世の中に発表されている多数のMIMバインダーシステムと比較してみた。

すごいと感心したことふたつ。
「元祖MIMバインダーはよくできている」「新しいMIMバインダーの着眼点がすばらしい」

「元祖MIMバインダーはよくできている」
3つの機能を明確に配合している。成形体の強度を保つ「結合剤(熱可塑性樹脂)」「ポリマーを柔らかくする可塑剤」「成形性を高める滑剤」そして、それらの絶妙な配合比。

「新しいMIMバインダーの着眼点がすばらしい」2つ
・やはり「BASF法」ポリマーだけで構成するは発想が吹っ飛んでいる。
POMの熱分解性に着眼して一次脱脂工程を省略した「SS系」。

《珈琲ブレイ句》 実は元祖君には、秘密の鼻薬が微量加えられています。これは樹脂の劣化を防止するためです。目的を考えると二つ、「製造中のフィードストック劣化防止」と「リターン材利用による粘度劣化防止」だと考えています。一方BASFでは、想像ですが、ポリマーを共重合等させて、可塑剤や滑剤を不要とする樹脂に変化させていると思われます。名目の「POM+PE」だけでは、再現できないと思われます。

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2019年11月16日土曜日

3DプリンターEX-ONE(小田原)を見学した

その工場は小田原の海岸が見渡せる高台にあり、たいへん奇麗な工場(展示)であった。小型機Innoventが3台、HIPER製3D用焼結炉1台。Innoventの1台は出荷調整中とのこと。

高級な金属溶融積層装置(Arcamなど)は航空機や医療などをターゲットにしているが、このEX-ONEは違う。

『鍋釜スプーンを作る』がキャッチコピーである。 
すごいです。

国内大企業の研究開発部門に導入されている。MIMメーカーも導入を検討しているようである。見学当日の午前中にはMIM屋の社長さんが来られていたそうだ。

最後にこの会社のよいところ
『3Dプリンターだけを販売してくれる』ところ
だからMIMメーカーに敷居が低い。MIMメーカーが導入すれば、お客様もついてくる。キャッシュレス化PAYPAY戦略に似ている。カード端末不要で敷居が低い、さらにサービス先行逃げ切り独占化。

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2019年11月12日火曜日

MIMが溶ける融点降下

炭素量が多い鋼のMIMは量産焼結工程で溶けることがある。

その原因のひとつに、炭素量が増えることによる融点降下がある。
炭素は融点を下げる力が強く、0.1wt%増えると融点が6.5℃下がる。注1)

炭素が増える原因は、バインダーが炭素として焼結体に残るためである。 バインダーが残る原因は、脱バインダー不足。 脱バインダー不足の原因は、排気系能力低下あるいは、処理量を多くしたため等である。

SUS440Cの炭素規格は、0.95~1.20wt%であるので、上限と下限では融点が17℃も違うのである。高炭素鋼のMIMの製造が難しいのは、このカーボンコントロールが難しいからである。

注1)C<1.7wt%のとき。母材炭素量が多いと、さらに融点降下が大きくなる。例えば、母材Cが4.1wt%を超えるものでは、0.1wt%のC増加で融点は10℃降下する。

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2019年11月9日土曜日

手動射出成型機INARIでMIM成形をする

 大学で小さい手動射出成型機を購入した。数百グラムの粉末でMIM成形体をつくるためである。 メカトロニクス組立キットを企画提供している『ORIJINALMIND CO. JP』のものである。自分で製作するより安いので先生に提案したら即購入することになった。

【組立】ダウンロードしたマニュアルを観ながら組み立てる。ブランク品の組み立てではないので、3時間掛かる。

【成形トライ】MIMの混錬物小片を入れて射出成形。結果はショートショットで失敗。ゲートまで材料が届かず固化停止。無謀にも温度を250℃まで上げる。これが逆効果、全くピストンが動かなくなる。 原因:フィードストックが熱劣化し流動性がなくなった。また、金型温度が低い。

【予備実験】シリンダーに粉末だけを入れて熱電対を仕込み昇温実験を行った。170℃まで20分間掛かることが判明する。

【成形再トライ】フィードストックを粉砕機に掛け粉末化。金型を熱風ヒーター(220℃)で加熱して射出成形を試みる。 金型温度70℃でキャビティに材料が流れる。さらに過熱し金型温度110℃でフル充填ができた。温度を下げていき90℃まで下げられた。

【気づき・まとめ】
・手動式なので射出圧が低い。レバレッジが約8倍なので、ピストン圧は160kg程度しか出せない(Φ20)。
・したがって射出速度が低い。「せん断速度が速いと粘度が下がり、逆に遅いと粘度が高くなる」というMIMフィードストックの性質を体感できる。できるだけ射出速度を上げるため、全体重を掛けて押し下げてみると、確かににゅるにゅるっと」早く成形できる。
・固化による流動性低下を遅らせるために金型温度を90℃まで上げることでMIM材料は成形できる。
・機械加工のボール盤で穴明け作業を行うと材料の性質がわかる。同じように手動式の成形機を使うと、理論を体で理解することができた。擬塑性物質の粘性を体感できる教材が「手動射出成型機INARI」だった。

【追伸2020/03/28】
本格的なバインダーに変えたら、射出成形が難しくなりました。実験用WAX系からポリマー主体の量産バインダーに変更し成形したら、試験片にウエルドが残り、脱脂・焼結で曲がりが発生。手動式成形機の限界を感じています。高圧力・高速度で射出(高剪断)して、動粘度を下げたいのですが、手動では限界があるのです。全体重を掛けたらレバークランク軸が折れました!!(焼入れボルトに交換)。 不本意ながら成形品のハンドリング強度が許す範囲でバインダーのポリマー配合を減らすことにしました。・・・・
【追伸2020/07/11】
バインダー40VOL% まで 成形180℃ 金型温度110℃ ゲート面積2倍 で、保圧が効いて成形品質良くなりました。 金型冷却が大変ですが・・・致し方ない。


《日曜MIM知るINDEX》

INARIを改造した話

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2019年11月6日水曜日

市販のMIMバインダーを混錬して驚いたこと

混錬実験には、比較のため市販のMIMバインダーも使っている。その中で、ある1種の市販バインダーの混錬トルク挙動にはびっくりした。それは、臨界粉末量を超えたところで、混錬トルクが直線的に低下していくのである。

混錬は、剪断の繰り返しであるので高分子の鎖が切れることはあるが、観ている短時間(分単位でわかる程)で、直線的に混錬トルクが減少していくのである。この原因はなんであろうか・・。

仮説がたった。
それは『PPのラジカル連鎖反応による粘度の劣化』だ。たぶん。
これが原因であれば、この連鎖反応の対策は、「発生を止める一次酸化防止剤」あるいは「成長の連鎖を止める二次酸化防止剤」を添加すること。(あくまでも仮説で、検証していません)

とはいっても、初めから粘度低下が少ないPPは、樹脂メーカーが用意しているはずなので専門家へ相談して購入すべし。高分子の選定基準は、分子量の違いだけではないようだ。

2019年11月4日月曜日

自分でMIMフィードストックをつくる

まず、座右の書「ジャーマン先生の本」で復習する。
Injection Molding of Metals and Ceramics   M. German (著), Animesh Bose (著)
本書では、フィードストックは専門メーカーから購入すれば問題ないとしながら、もしつくるならこうあるべきと指標が述べられている。

フィードストックの品質を決める5つの因子
①粉体特性(形状、D50、タップ密度) 
②バインダー組成(脱脂法、射出成形性、脱脂変形)
③粉体とバインダー比(臨界粉末量、寸法精度、収縮率) 
④混合方法(温度、時間、剪断、溶融順番、プレ溶融) 
⑤ペレット化技術(ペレット形状、粉砕粉)

要求される出力特性は2つ
①高い射出成形性
②高い寸法精度
この2つの特性を実現させる手段は、相反する作用として働く。
したがって両立させるバランス追求が肝になる。非線形の最適化問題。

先生の本には次のようにある。
『成形性を向上させるために低分子ポリマーを使用し粘度を下げる。 また、高タップ密度の粉末を使い、粉末中の空隙や空孔を存在させないために、すべての粒子間空間をバインダーで満たす必要がある(臨界粉末量)。 多量のバインダーはフィードストックの粘度を下げるので成形は容易になるが、逆に脱脂での変形が大きくなる。したがって脱脂中の形状を保持し変形をさせない条件は、十分な粒子間相互の接触を確実にすることである。そのためには、粉末とバインダーの比率の最適化が必要である。これが射出成形を成功させるための要である。』
・・・間違いない。同感です。