2021年4月30日金曜日

バインダーが少ないPMがMIMより精度が悪い理由

 一般焼結部品PM(die compaction powder metallurgy)は粉末を金型(ダイ)に入れて加圧成形する。添加するバインダー量は、鉄系で約0.5wt%以下であり、MIMのバインダー量の10分の1と少ない。そのため成形収縮も少なく「PM成形体の精度はMIM成形体より約2倍高い」。しかし、焼結体の精度は逆転し、「MIM焼結体の精度がPM焼結体より5~10倍高くなる」 なぜそうなるのか。

その理由は「PM成形体の密度が斑で不均一、密度傾斜がある」ためである。なぜそうなるのか。それは、PMは2.5次元加圧のため肉厚の差が密度に影響する。厚い部位は密度が低く、薄い部位が密度が高くなるためである。

しかし、PM技術も発展しており、近年ではCNCサーボ利用の分割制御金型(ダイ)や回転ダイが開発され、この密度傾斜は改善されつつある。さらに、PMはサイジング技術(転造、再圧縮、焼結鍛造)によりMIMより精度を上げることもできる。ブッシュやギヤ等はMIMよりはるかに高い精度を実現させている。PMとMIMは互いに長所短所があり共存共栄の存在である。


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2021年4月25日日曜日

PIM粉末の特性と長所短所

 ジャーマン先生の本を復習する。PIM(MIM、CIM)用粉末が具備すべき代表的仕様は、「サイズは20μm未満であること」「充填密度が理論値の60%に近くあること」「粉末の凝集がないこと」「球形の等軸粉末equiaxed powderであること」である。また、表面と体積の比率(比表面積)は粒子サイズに反比例するので、粒子サイズの選定は重要である。なぜなら、微細粉末になるほど焼結は大幅に改善される反面比表面積が大きくなるため粒子間の摩擦が増加し流動性が低下し成形が難しくなるからである。 PIM粉末の特性とその長所・短所表の通りである。

参考:Injection Molding Metal &Ceramics by R.M.German,A.Bose

【珈琲ブレイ句】表3.6を観ると「やはり溶媒脱脂がいいよね」と感じますね。MIM品質を向上させるには微細粉末が必要ですが短所として「脱脂を速くできない」欠点があるからです。溶媒脱脂なら6~8時間で脱ワックスが可能です。ここでブラウン体をスポンジ構造にできれば、後の加熱脱バインダー揮散ガスの排気が容易になります。 話が変わりますが、出典元のジャーマン先生の本は1997年出版です。当時と今を比較すると大きく技術が進歩している分野があることに気が付きます。それは「水アトマイズ粉末」です。特に日本製水アトマイズ粉末は素晴らしく、球形で衛星が少なく微細で安価と三拍子そろった優れものを開発しています。一方ドイツでもユニークな製法を発明しています、それはガスと水のハイブリッド・アトマイズです。関連リンクを貼っておきます。◆ 理想的なMIM粉末の10の定義 ◆ アトミックスのアトマイズ技術を掘り下げる ◆ ガスと水のハイブリッドアトマイズ法を掘り下げる


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2021年4月24日土曜日

緻密化に重要な焼結昇温速度設計

 固相焼結は4つの拡散と1つの塑性流動で行われる。4つの拡散とは、表面拡散、蒸発拡散、粒界拡散、体積拡散である。この5つの拡散流動の総量が緻密化のための総原子エネルギーである。このなかで一番緻密化に寄与するものは「粒界拡散」であり、寄与しないものが「表面拡散」である。緻密化に寄与しない表面拡散は低い焼結温度で支配的になる。もし、表面拡散にエネルギーを使い果たすと、緻密化が遅れて密度が低い焼結体になる。

『緻密化のための焼結昇温速度設計』とは次のステップで設計することである。①低温域では急速加熱を行い、表面拡散を押さえる ②中間温度で昇温速度をゆっくりに設定し、粒子成長が進みにくい間に緻密化を促進さる ③最後に焼結温度(MAX)では保持時間を短くし粒子成長を最小化させる。

【珈琲ブレイ句】これは昨日、ジャーマン先生の本「Injection Molding of Metals and Ceramics」をちゃんと翻訳し、じっくり読みこむことで理解できた焼結テクニックなのです。衝撃的気づきです。現役時代の焼結プログラムは、約1000℃以降「焼結速度一定」にしていました。低温・中間域で昇温速度を変化させる発想がなかったのです。残念ながら、このジャーマン先生の教えを検証するチャンスを逃しました。誰か検証してみてはいかかでしょうか。ちなみに、17-4PHでの温度域の目安は、低温~1250℃、中間~1300℃、焼結温度1340℃くらいだと推察されます。

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2021年4月17日土曜日

使い捨て樹脂成形型

「使い捨て樹脂成形型」とはSingle Use Polymer Mouldsの意訳である。樹脂型を「母型」として「本型のキャビティにセット」して「MIM成形」後、「樹脂型ごと取り出し」「MIM脱脂前に樹脂型を溶解除去させ」「以降MIM工程と同じ工程」の工法である。

樹脂型を使ってMIMを成形する事例は国内でも散見できる(C社、T社のマイクロ用犠牲型)。また、中子として成形樹脂中子を使うものは広くMIMで採用されている。当然樹脂型はAM3Dプリンターで形成することが可能である。

使い捨て型の樹脂としては、水溶性のPVAや溶媒可溶のPMMAなどが考えられるが、液体(溶媒)浸漬中の膨潤により成形体を損傷させる可能性がある。しかし、2019年に発表されているAddifabのリトグラフ積層用の樹脂はこの問題を解決していると報じられている。その詳細は不明であるが通常のMIMフィードストックの高温成形が可能で、自社開発の専用溶剤を使えば温度35℃で溶かすことができる。

【珈琲ブレイ句】AM3Dプリンターによる使い捨て樹脂成形型を使う目的・メリットを考えると2つ浮かぶ。1つは金型で成形できない複雑アンダーカット形状の形成ができること。2つめは試作リードタイムを短縮できること。やはり、AMとMIMは切っても切れない共存共栄技術だと痛感する次第です。・・・・ところで「型の使い捨て」は昔から行われています。それは鋳造です。砂型やロストワックス鋳型は、鋳造後に破壊します。技術は温故知新、スパイラル上昇しながら発展していくものですね

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2021年4月14日水曜日

AMのLCMは、ほぼ完璧

LCMとは、リソグラフィーベースのセラミック製造技術(Lithography-based Ceramic Manufacturing)のことである。ほぼ完璧と感じるところを列挙する。 

・表面あらさがRa3μm未満、形状偏差0.1mm未満 ・ハイスペック市場のニーズに合致(医学、歯学、タービンブレード用セラミック中子)・それを実現させるセラミックペーストの商品化(アルミナ、ジルコニア、窒化ケイ素、生分解性β-リン酸三カルシウム、ヒドロキシアパタイト)・焼成密度コントロール(低密度~MAX99%)、高機械的性質の実現 

《機構》スラリーバットの下からREDでレイヤーごとの形状を照射し、光重合で1層だけ硬化させる。プラットホームのガラス面に隙間を空けてRED照射をして1層だけ硬化させる。これを繰り返して3D形状を造形する。YouTube動画で分かるように、スラリー槽(バット)は回転し、邪魔板により粉末の沈殿を防止させている(スラリー密度の均一化)。

 YouTube Lithoz Technologia LCM | Drukarki3D 

 

【珈琲ブレイク】セラミック粉末を使うのがLCM、金属粉末を使うのがLMMでした。LMMのブログは下記リンクで復習へ。セラミック粉末を使うLCMは、ほぼ完璧。でも金属粉末を使うLMMはそこまで評価できません。それは次のような技術の壁があるだろうなと推察しているからです。それは粒径の差、密度の差、焼結技術の差による課題です。スラリー品質の均一性を考えると粉末は微細で密度が小さい方が有利です。セラミック粉末はサブミクロン、アルミナは鉄の約半分の密度なのでスラリー品質管理はセラミック粉末利用の方が金属粉末より有利なのです。焼結もアルミナであれば酸化を気にせず大気炉で脱脂と焼結ができます。このように金属粉末を利用するLMMには乗り越えなければいけない課題があるのです。でも「LMMは凄い第三の柱」であることに変わりはありません。

リンク:粉末冶金AMの第三の柱「LMM」が凄い

こちらのINCUSのLMM装置は上記LCMの引上式プラットホームではなく、パウダーベッド方式の様に1レイヤー積層したら下へ下がっていきます。そしてスラリーをヘラで1層分だけ重ね塗りをしていきます。さらに、この装置が秀逸なのは「スラリーは事前に均一混合し固体化してセットしている」ところです。積層の都度1層分だけ溶かしてスラリー化していると推察できるところです。こうすれば積層中のスラリー攪拌の必要は無くなります。そして下へ動かすプラットホーム方式は密度の大きな金属粉末を利用するための必然なのかもしれません。完璧のために残る課題は、LCMと同等の表面あらさの実現です。がんばれLMM。


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2021年4月13日火曜日

低圧粉末射出成形LPIMとは、その将来性

 低圧粉末射出成形LPIMとは、Low Pressure Powder Injection Mouldingの事である。通常のMIMは、高圧(High Pressure) 射出のHPIMに分類される。そのほとんどはMIMと同じであるが特徴的なMIMとの違いを列挙する。

◆成形圧力は0.11MPa(MIMは50200MPa)◆バインダーの構成は、基剤, 界面活性剤、 増粘剤からなり、MIMで使われている結合剤ポリマーがない◆したがって、脱脂はMIMの1次脱ワックスと2次脱バインダー(ポリマー)ではなく、ウイッキング法による1工程脱脂のみである。

《長所》流動性が高いため微細で複雑な形状が可能。安価な射出成形機が使える。安価な金型が使える。小ロット試作が始めやすい。肉厚10mmの大型部品が可能。《短所》脱脂に時間が掛かる(数十時間)。


【珈琲ブレイ句】この低圧粉末成形LPIMは、MIMの入門技術として最適です。難しいところは、拮抗する流動性と分離性をバランスさせる増粘剤配合最適化と加熱脱脂温度VS酸化および還元の研究ぐらいです。バインダーに結合剤を入れないので脱脂変形が心配ですが、脱脂はセラミック粉末の中に入れ毛細現象でバインダーを吸い出す方式(ウイッキング)なので、形状は保持されており変形が少ないことは容易に推察できます。焼結は脱脂体をセラミック粉末から取り出して、真空焼結炉で還元・焼結を行います。「AMからようこそMIMへ」の流れは「AMからようこそLPIMへ、そしてMIMへ」と迂回路を経由させれば大流行しそうです。というのは、LPIM用の金型ならPA樹脂型でも良いのでAMで3Dプリントした金型が使えるからです。優秀な開発者ほどトライしたくなる道程です。


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2021年4月3日土曜日

MIM粉末利用3Dプリンターの伏兵『Metal SLS』とは

Metal SLSとは、 プラスチック粉末をレーザーで溶融(焼結)させて積層する「SLS」方式の装置を使って、コーテッド金属粉末*1を積層し、MIM同様の脱脂と焼結を行うAMの新技術である。溶かすのはバインダーのみ、金属は溶かさないのでCold Metal Fusionと命名されている。 

《工程》粉末ベッドから取り出された積層体(グリーン体)は、高圧エアーブローでクリーニングされる。この積層体の強度は高く(金属は溶けていないバインダーだけの強度)、精度が必要な部位を二次加工(ブランク加工)することができる。以降はMIMの工程と同様に、溶媒脱脂、加熱脱脂真空焼結が行われる。  

《技術》ドイツのHeadmade Materials GmbHの特許。一次脱脂と二次脱脂を行うので少なくとも2種類の樹脂・WAX(あるいはそのポリマーアロイ)を粉末にコーティングしている*1と推察する。脱WAXに溶媒脱脂を使い、脱脂性能だけでなく溶媒は蒸留再利用するので、安価で最善な方法であるとしている。SUS316Lの場合の収縮率は13%である。 

*1 コーティングした粉末ではなくバインダー微細粉末と金属粉末の完全均一混合粉体の可能性はある。 

 

【珈琲ブレイ句】目から鱗。すばらしい技術です。バインダージェットではなく、レーザーを使って積層する。それも金属粉末を溶かすのではなくバインダーだけを溶かして積層する。SLSの特許が切れたと思ったらMIM技術をくっ付けて特許化するとは盲点でした。すでにチタン合金製の自転車ペダルを量産しているそうです。情報が少ないので、パウダーベット内の嵩密度やグリーン体密度および焼結密度がどのくらいになっているのか興味があるところです。収縮率13%ということは、高精度MIMの収縮率と同じレベルですね。チタン合金で量産化しているので技術の成熟度はすでに高い! これで私が把握しているMIM粉末利用の3Dプリンターは4種類になりました。早速、分類表を下記に改定しました。  


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2021年4月1日木曜日

品質工学タグチメソッドとMIM

 品質工学(田口玄一:タグチメソッド)は、文字通り品質を作り込む工学である。量産の高品質と品質の安定性の両方を追求したパラメータ設計が秀逸である。これをMIMに展開するとき、特性値は寸法である。金型の寸法が焼結体寸法に転写することを基本機能に考える。パラメータ設計はL18直交表を使い設計因子は最大8個(3水準7個、2水準1個)割り付けできる。量産の再現性を上げるために故意に量産誤差を外側に割り付ける。金型寸法と焼結体寸法から転写性(SN比動特性)を計算し最適解を見つける。感度βは収縮率になる。

【珈琲ブレイ句】特性値は転写性だけでよいのですか?焼結密度や内部欠陥などは取らなくていいのですか?と質問すれば(故)田口先生は、多分こんな回答をする。「転写性が良ければ他の特性値も良くなる、それが基本機能である。*1」田口先生には見えているのですが、一般技術者は、当然実験するなら補助特性値として、密度やX線写真などできるだけデータは取った方がいいと思います。 日本の天才が創った世界が認める品質工学:タグチメソッドをみんなで活用しよう。

*1 転写性はエネルギー変換ではないので基本機能ではないという意見もありますが、技術者として大変腑に落ちる提案なので、田口先生のひらめき「転写性=基本機能」を支持しています(私見)。


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