「PP-PE系樹脂バインダーは、変形や残炭の問題が起こりやすく、POM系樹脂バインダーに変更するとこの問題が解決する」について考えてみた。
《変形問題》
確かにPOMの方がPPやPEより脱脂中の熱変形は少ないので正解である。ただし、フィードストックに含有するバインダー量が多いとその差は顕著であるが、限りなくバインダー量を最少化(CSL設計)すると差は僅かである。
《残渣問題》
大気中300℃で40時間加熱したときPOMの残渣(炭化物)は8%に対して、PPは91%、PEは100%ある*1)。POMの燃焼性は抜群によい。しかし、MIMの比較環境は大気ではない。二次脱脂工程のN2パーシャル環境での比較になる。
MIM加熱脱脂を想定した比較結果は次の通りである*2)。窒素フロー20ml/min,昇 温速度5℃/minでの熱分解温度-TGカーブより
POM: 減量率≒0.17(%/s) Weight loss100% 熱分解温度≒330℃
PP : 減量率≒0.15(%/s) Weight loss100% 熱分解温度≒420℃
PE: 減量率≒0.22(%/s) Weight loss100% 熱分解温度≒460℃
すべての樹脂で残渣は無い。 熱分解する速度(減量率=TG最大傾斜)が一番良いのはPE、POM、PPの順になる。POMは大気中の燃焼性は抜群であるが、N2雰囲気ではPOMの熱分解はPEに劣っている。
ここで注目すべきことは、熱分解温度がPOMは低いので、例えばPOMとPPを組み合わせれば、段階的熱分解を実現できる。これがPOM系樹脂バインダーのメリットである。・・と説明していただければ納得できる。
*1)プラスチックの300℃における炭化過程に関する研究 藤沢健 長野県工技センター研報 No.10,p.M1-M5 (2015)
*2)加熱脱脂 および溶媒脱脂 を考慮したMIM用バインの検討 伊藤芳典ら 「粉体お
よび粉末冶金」第49巻 第6号
【珈琲ブレイ句】
「PP-PE系樹脂バインダーは、変形や残炭の問題が起こりやすい」のはたぶん加熱脱脂の世界での比較だと思われます。つまり前者が大気加熱脱脂+二次脱脂・焼結、後者が3STD法(SS系)の一次二次連続加熱脱脂・焼結(真空炉)の場合の比較です。一方、一次脱脂で溶媒脱脂をして、適切に二次脱脂(加熱)すればPP-PE系でも炭素は残りません。残るとすれば排気系のトラブルか、処理重量が過剰のいずれかで、設備管理、工程管理の問題です。