2021年9月11日土曜日

なぜ工具鋼はMIMで造るのが難しいのか

 ◆MIM入門の材料はSUS316Lである。コスパが優れた国産の球状微細水アトマイズ粉末(D50=10μm、TD>4)を使えば、高品質のMIMを造ることができる。◆しかし、工具鋼(SKD11、SKH51等)にチャレンジすると問題が発生することが多い。一番の問題は、寸法精度(バラツキ)の低下、次に、溶け、デンドライト化、炭化物の巨大化等がある。◆なぜか? 一番の原因は、炭素量が多いからである。炭素量の少ない鋼は、固相線の下で焼結(固相焼結)ができる。一方、上記の工具鋼は固相線を越え液相線の下の相*1で焼結することになり、そこでは液相も混在するため、固相焼結の様に拡散が支配する「ゆっくりな世界」が崩れるためである。それをコントロールするために必要な技術は3つ。①精密な温度制御ができるMIM用真空バッチ焼結炉が必要。②溶媒脱脂や触媒脱脂により完全にバインダーを除去させ残留炭素を極少化させる。③還元反応を管理できるMIM用真空バッチ焼結炉が必要。

【珈琲ブレイ句】手前みそになりますが、昔々、SUS440C、SKD11、SKH51で、炉内温度の影響を受けない(ロバスト性能が高い)混合粉末法*2 *3を開発しました。焼結機能窓(焼結限界温度範囲)を最大化する粉末配合により、量産でフルバッチ焼結ができました(溶媒脱脂+真空脱脂焼結)。少し材料費が高くなりますが、精度が高く不良も減少するので、損失関数(品質とコストのバランス)で評価し量産材料として採用することができました。ちなみに特許化していないので、Freeです!参考になれば幸いです。

*1 Super-Solidus Liquid Phase (SSLP)

*2 特開2004-052051 、論文:Development of Sintered SKD11 compacts with High Robust performance by Metal Injection Molding": J. Jpn. Soc. Powder Powder Metallurgy, 52(2005)717-721.

*3 素形材誌の関連記事

【日曜MIM知るINDEX】 【MIM指南書の部屋】 【MIM技術伝道士HP】