水素を脱脂に使った経験が無い。またその目的・意味もよく分からなかったのであるが、専門誌に興味深い論文を見つけたので、この機会に勉強する。
ヨーロッパの研究機関フラウンホーファーIFAMによる、水素を使った二次脱脂・焼結の論文である。この論文は量産MIM脱脂焼結炉の排気を質量分析する試みが主目的であるが、この二次脱脂に水素を使っているので、この部分だけ抜き出してみる。実験は水素とArとの混合比を5水準に変えている。
【条件】粉末:BASFカルボニル粉、OM+CC+Ni (FEN2、C=0.35%)、バインダー:ポリアミド系、一次脱脂:溶媒脱脂、焼結体炭素測定:LECO
【結論】この実験では、水素100%で炭素が0.006%に減少している。Ar100%で炭素は0.321%で粉末の炭素0.35%とほぼ同じである。
【注目すべき事】水素にArを混ぜていくと、炭素が上昇し50:50~25:75では、粉末の炭素量より多くなっていることが面白い。中途半端の水素混合は炭素減少目的では逆効果ということだ。*1
【蛇足推定】このデータは二次脱脂と焼結中にガスを流しているので、もし真空還元工程を入れていたらどうなるのか推定してみる。混合粉末の酸素=0.27%と仮定して計算すると。
100:0=0% 75:25=0% 50:50=0.20% 25:75=0.30% 0:100=0%
【まとめ】二次脱脂に水素を使うと、炭素をゼロに近づけることができる。ただし、Arと混合させ水素濃度を落とすとその効果は減少するどころか、逆に炭素を増加させることがある。
*1 論文には理由は不明としながら仮説を述べている。意訳すると・・理由は2つ。ひとつは、水素100%の分解強度のピーク温度が300℃と一番低く、水素濃度が少なくなるとその分解強度(分解量)は減少し、分解カーブ(分布)は緩やかになり、温度も高い方へシフトする。ふたつめは、水素が粉末表面をクリーニングするため、残留バインダーが奇麗な表面と反応(浸炭)する。それはα鉄からγ鉄への相転移のタイミングと脱脂後期の残存部分と同期するため炭素が増加する。水素100%の時は、低温ですべてバインダーが分解されるのでこの影響を受けない。あくまで仮説の意訳。
《参考文献》Dr Thomas Hartwing : Powder Injection Moulding International March 2010 vol.4 No.1 P43
【珈琲ブレイ句】研究機関で量産炉を使い、その排気をインプロセスで質量分析する研究は素晴らしい試みです。ただ、一点気になるのは、ガスを大量に流しているところ。たぶん排気分析するためにガス流量が必要なのかなと思いました。量産でこんなにジャブジャブ流したらランニングコストが半端ない。それも窒素より高価なアルゴンだし。