30年前の論文であるが、SKH51のMIMを微細炭化物のまま高密度&高強度化させるアイデアが面白いのでまとめておく。
粉末:水アトマイズ、平均粒径9.8μm、比表面積0.81,m2/g、C=1.3,O=0.6
製造条件:バインダー7.5wt%、H2加熱脱脂、真空焼結1170-1240℃、HIP900℃×147MPa×1H
ポイント:真空焼結で低焼結温度1180~1195℃により相対密度93~96%の閉気孔で微細炭化物1~2μmの焼結体を作り、さらにHIP処理を行うことで微細炭化物をそのままに完全緻密化(8.1g/cm3)させる。
参考文献:上田、森村、河野”HIPを加えた射出成形高速度工具鋼の特性について”、粉体および粉末冶金、第40巻第6号、1993/6、P589
【珈琲ブレイ句】液相焼結が支配的な工具鋼は焼結が難しいのです。高密度を狙い焼結温度を上げていくと表面が溶けたり、溶けなくても粒界に炭化物が析出して網目状になり理想の球状化組織ができないのです。この論文はそれを解決するヒントを提供してくれます。
さらにおいしいところは、焼結密度93~96%に相当する焼結温度幅が15℃あるので、炉内温度バラツキの大きな焼結炉でもフルチャージできるところです。この温度域では液相が発生しないため、炭化物が粗大化しません。また、HIPも低温900℃なので、微細炭化物はそのままで変形量も無視できると報告されています。ただひとつ問題があるとすれば、HIP処理が高価なところです。しかし、小物で高付加価値のMIM製品であれば、量産に展開できそうですね。他には、ピン止め効果を利用する方法などもありますので、QCDで選んでください。