2025年12月3日水曜日

アルミニウム合金の超々ジュラルミンはMIM向き

アルミニウム合金の中で最高クラスの強度を持つ超々ジュラルミン(A7075)は、MIM向きの適材ではないかと感じる最近(2024)の論文を共有化しておきます。

《条件》粉末:A7075アトマイズ粉末、10μm

バインダー:POM(85%)、PP(13%)、SA(2%) 、36VOL%

一次脱脂:触媒、二次脱脂:加熱500℃(N2)、焼結:610℃(N2)

《結果》焼結密度:2.75g/cm3(97.57%)、収縮率:10.77%、引張強度214.8MPa

【珈琲ブレイ句】A7075の引張強度は、C材で270MPaなので約80%の引張強度が出ていることになります。さらに熱処理(T6、溶体化+時効)を行えばおそらく500MPaは超える可能性があります。一方、ロストワックスのAC4C-T6は、約 300 〜 350MPaですから、MIM製A7075(T6)を実用化できれば高強度軽量化ニーズへの魅力的な商品になるのではないでしょうか。

なぜ「超々ジュラルミンはMIM向き」と感じるのかというと、成分中のMg、Si、Cuが良い働きをするからです。焼結温度が610℃になるとマトリックス中のMg2SiとAl2Cuの液相が粉末粒子間の隙間を埋めて、アルミ粉末間の焼結ネック形成が進行していくからです。アルミニウム合金の『液相焼結』に有利な添加物を元々含んでいるのがA7075ということです。

この論文には伸びしろがあります。それは、バインダーが36Vol%と大変多いので、高TD粉末を選び、そのCSLからバインダー量を最少化させる設計を行えば焼結密度をさらに向上させることができると思います*1。結果として引張強度だけでなく、寸法精度も向上できることになります。

参考文献:Microstructure and mechanical property of high-density 7075 Al alloy by compression molding of POM-based feedstock, Heng Zouら、Journal of Materials Research and Technology 32 (2024) 4387–4399 

*1:MIM指南書 P68、3.3バインダー量設計の実際

2025年11月29日土曜日

焼結体の炭素増について

 【珈琲ブレイ句】焼結体の炭素量を規格に入れる量産試作が完了。順調に量産を行っていると、ある日突然に炭素量が規格値をオーバーすることがあります。したがって、市場への流出を防止するためには、焼結ロット単位で炭素分析の抜取検査を実施することが必要です。さらに、焼結体の炭素増加の原因への根本対策を行うことが重要です。

 焼結体の炭素増加の主要因は、「脱脂焼結炉の設備管理上の問題」にあります。これは、二次脱脂工程で発生したバインダーの熱分解ガスが、仮焼結体へ再付着(浸炭)することが原因です。処理チャートを確認することで、その兆候を発見することができます。危険のサインが現れたら、排気系の清掃、ロータリーポンプのオイル交換や分解清掃などを実施し、排気能力を回復させます。さらに、早めの設備管理計画を作り、実行し、常に安心安全な焼結炉を確保できれば万全です。

 詳細な原因と対策については、『MIM指南書』を参照してください。P140「炭素量不適合(high carbon)」、P180「5.19 C%規格外れ」に記載しています。

MIM指南書を見る

2025年11月25日火曜日

MIMは成熟技術を超え「再成長期」の革新技術になった

【珈琲ブレイ句】MIMが革新技術になった理由をまとめておきます。ここで記載するAMとは、金属AMの中の「Sinrerbased Meal AM, MIM Like AM」で、粉末冶金技術が必要な3Dプリンターのことです。

1.MIMは、AMとの相互作用によって新しい価値が生まれている「第二の成長期」である 

 AM向けの金属部品が急増 → MIMメーカーが新市場を獲得

 ・AMでは造形できても、量産コストが合わない部品が多い。

 ・その代替として MIMが「量産版AM」の位置付けになる、つまり AMの成長がMIM市場を押し上げるという構造が生まれている

2. MIMは「量産の最適化」、AMは「形状自由度の極大化」を担当する相互補完関係

 AMとMIMは競合するようでいて、実はコストカーブが大きく異なる

 AMで形状最適化したコンセプトモデル→ 量産工程において MIM による低コスト化という 「AMで作り、MIMで量産する設計フロー」が確立しつつある。

 これは従来の「切削試作 → 金型量産」の構造を置き換える新しい製造プロセスである。

3. 参入障壁である技術的ハードルの高さが逆にMIM企業の価値を上昇させている

 MIMは工程が多く、特に 脱脂条件(バインダー化学),焼結炉の温度・雰囲気管理 ,収縮率の制御(形状予測)など高い技術力が必要。

→ AMの普及により「誰でも金属造形できる」ようになった現在、逆に高度で経験的なMIM技術の希少価値が上がっている

4. AM時代のMIMは“中間工程”として統合される可能性

 次世代の製造プロセスの1つとして、「AMでプリフォーム → MIM的な焼結で仕上げ」というハイブリッドプロセスが拡大成長する。

 AMのネックは造形速度と焼結前処理、 MIMのネックは複雑形状の成形、この2つを組み合わせることで、「AMの自由度の高い複雑形状」と「MIMの高品質・低コストの生産能力」を統合することができる。

 関連BLOG:開発のフロントローディングの波に乗るためには

5.おまけ

  AMで造形した複雑形状のグリーン体をMIMでインサート成形して、脱脂焼結にて拡散接合一体化させることも技術的には可能である。特殊フィルター、高冷却ヒートシンク、流体混合器、異材利用 etc