2025年11月20日木曜日

混錬でPMMAエマルジョンを使うメリット

混錬前にアセトンでエマルジョン化させたPMMAを使った実験の結果を共有化します。 

《実験仕様》

バインダー:PEG73%+PMMA25%+SA2%、バインダー量=35VOL%

粉末:SUS316L(ANVAL)TD=4.09,CSL=69%

PMMAエマルジョン:PMMA1gに対してアセトン4mlを加えてエマルジョン化

《結果》

①混錬物が粒状(アセトンは蒸発して無くなる)

②PMMAエマルジョンは、粉末バインダーマトリックス中のPMMAの存在を助け、均質性向上、粘度を低下させる。

③温度と圧力に対する感受性を低下させる(ロバスト性向上)。

④PMMAのバックボーンバインダー(金属粉末保持)としての機能を向上させる。

【珈琲ブレイ句】PMMAを事前にアセトンでエマルジョン化すると大きなメリットがあることがわかります。高精度化のためにバインダー量の最少化を狙うのであれば方策のひとつとして検討してもよさそうです。論文では混錬物をそのまま射出成形機に使えると書いてあります。つまり粉砕工程が省略できる可能性があることもメリットですね。一方、アセトンが混錬中に完全蒸発するので安全対策は必要です。

安全対策としては、アセトンは空気より重いので床からの局所排気と作業環境の喚起を十分行い、環境中のアセトン濃度を定期的に管理する。火気厳禁遵守。設備を防爆構造にし、静電気のアースをとる等が考えられます。

《蛇足》混錬に苦労するPOMにもこのアイデアが展開できると素敵なのですが、残念ながらPOMは高い結晶性を持つ耐薬品性のエンジニアリングプラスチックなのでエマルジョン化することはほぼ不可能です。

参考論文:”METAL INJECTION MOLDING (MIM) FEEDSTOCK PREPARATION WITH  DRY AND WET MIXING: A  RHEOLOGICAL BEHAVIOUR ” Khairur Rijal Jamaludin ,Norhamidi Muhamad ,Sri Yulis  

2025年11月15日土曜日

金属の材料押出積層造形の強度は積層段階で決まる

 金属の材料押出積層造形(Metal MEX)において、市販のシステムを用いて316Lペーストの堆積と焼結について検討した研究報告があります。初期の積層から固化、最終焼結に至るまでの様々な段階における欠陥の形成と除去の性質について検討されており、結論は、最終強度は脱脂焼結工程ではなく積層工程で決定するということです。さらに、特に興味深い限界値として次の法則を共有化しておきます。

焼結状態からグリーン状態への個々の気孔の収縮、部分的および完全な閉塞の定量的な結果として、気孔が原料金属粒子のD90に相当する大きさより大きい場合、焼結時に完全に閉じることができない。最終部品の性能に大きな影響を与える。

 文献:”Defect evolution and mitigation in metal extrusion additive manufacturing: From deposition to sintering”、Sajad Hosseinimehr ら、Journal of Materials Processing Tech. 329 (2024) 118457

【珈琲ブレイ句】Metal MEXは、開放空間で積層するため、積層材料同士を密着させることが難しいと考えられます。一方、MIMは金型という閉塞空間への高速射出成形なので充填圧力を高くできます。したがって、ガス逃げが完璧であれば気泡を発生させないことも可能です。MEXの積層は相当難しい技術ですね。いかに気孔を無くして積層するかが勝負だということです。

2025年11月10日月曜日

MIMとMEXなど各種金属素形材の強度VS延性地図

 文献:”Defect evolution and mitigation in metal extrusion additive manufacturing: From deposition to sintering”、Sajad Hosseinimehr ら、Journal of Materials Processing Tech. 329 (2024) 118457、Fig. 15. 

【珈琲ブレイ句】文献で報告されている各種素形材のUTS引張強度と破断伸びの地図を載せておきます。強度と延性は二律背反の関係がありますが、やはり溶性材が両立させていることがわかります。次にMIMとMEXもなかなかの成績です。意外なのはPBFの引張強度が高い文献があることです。ただし、この地図には各種の材質が混在しているので「ザックリとした傾向」を見るだけに留めておきます。ちなみに図中のThis workはMEXです。

MIM技術伝道士のHP