2025年11月29日土曜日

焼結体の炭素増について

 【珈琲ブレイ句】焼結体の炭素量を規格に入れる量産試作が完了。順調に量産を行っていると、ある日突然に炭素量が規格値をオーバーすることがあります。したがって、市場への流出を防止するためには、焼結ロット単位で炭素分析の抜取検査を実施することが必要です。さらに、焼結体の炭素増加の原因への根本対策を行うことが重要です。

 焼結体の炭素増加の主要因は、「脱脂焼結炉の設備管理上の問題」にあります。これは、二次脱脂工程で発生したバインダーの熱分解ガスが、仮焼結体へ再付着(浸炭)することが原因です。処理チャートを確認することで、その兆候を発見することができます。危険のサインが現れたら、排気系の清掃、ロータリーポンプのオイル交換や分解清掃などを実施し、排気能力を回復させます。さらに、早めの設備管理計画を作り、実行し、常に安心安全な焼結炉を確保できれば万全です。

 詳細な原因と対策については、『MIM指南書』を参照してください。P140「炭素量不適合(high carbon)」、P180「5.19 C%規格外れ」に記載しています。

MIM指南書を見る

2025年11月25日火曜日

MIMは成熟技術を超え「再成長期」の革新技術になった

【珈琲ブレイ句】MIMが革新技術になった理由をまとめておきます。ここで記載するAMとは、金属AMの中の「Sinrerbased Meal AM, MIM Like AM」で、粉末冶金技術が必要な3Dプリンターのことです。

1.MIMは、AMとの相互作用によって新しい価値が生まれている「第二の成長期」である 

 AM向けの金属部品が急増 → MIMメーカーが新市場を獲得

 ・AMでは造形できても、量産コストが合わない部品が多い。

 ・その代替として MIMが「量産版AM」の位置付けになる、つまり AMの成長がMIM市場を押し上げるという構造が生まれている

2. MIMは「量産の最適化」、AMは「形状自由度の極大化」を担当する相互補完関係

 AMとMIMは競合するようでいて、実はコストカーブが大きく異なる

 AMで形状最適化したコンセプトモデル→ 量産工程において MIM による低コスト化という 「AMで作り、MIMで量産する設計フロー」が確立しつつある。

 これは従来の「切削試作 → 金型量産」の構造を置き換える新しい製造プロセスである。

3. 参入障壁である技術的ハードルの高さが逆にMIM企業の価値を上昇させている

 MIMは工程が多く、特に 脱脂条件(バインダー化学),焼結炉の温度・雰囲気管理 ,収縮率の制御(形状予測)など高い技術力が必要。

→ AMの普及により「誰でも金属造形できる」ようになった現在、逆に高度で経験的なMIM技術の希少価値が上がっている

4. AM時代のMIMは“中間工程”として統合される可能性

 次世代の製造プロセスの1つとして、「AMでプリフォーム → MIM的な焼結で仕上げ」というハイブリッドプロセスが拡大成長する。

 AMのネックは造形速度と焼結前処理、 MIMのネックは複雑形状の成形、この2つを組み合わせることで、「AMの自由度の高い複雑形状」と「MIMの高品質・低コストの生産能力」を統合することができる。

 関連BLOG:開発のフロントローディングの波に乗るためには

5.おまけ

  AMで造形した複雑形状のグリーン体をMIMでインサート成形して、脱脂焼結にて拡散接合一体化させることも技術的には可能である。特殊フィルター、高冷却ヒートシンク、流体混合器、異材利用 etc


2025年11月23日日曜日

MEX 方式金属積層造形のパラメーター設計

 【珈琲ブレイ句】『型技術 2026年1月号』(日刊工業新聞社)のテクニカルレポートとして『MEX 方式金属積層造形のパラメーター設計』が発表されます。編集部より事前に教えていただいたタイトルは以下の通りです。

 TECHNICAL REPORT 1
MIM技術者が解き明かす
金属フィラメント3Dプリンター
~L18直交表を用いたMEX方式金属積層造形のパラメータ設計~
浜松メタルワークス(株)谷川啓人、小杉峰弘

 この技術レポートは、MIMトップメーカーである浜松メタルワークス(旧テイボー)における技術開発テーマのひとつです。L18直交表を使ったタグチメソッド・パラメーター設計なので、複数のパラメーターの効果と傾向の有意性が解明され、最適条件の確認実験と現行条件との利得計算まで行われているはずです。出版は来月12月16日です。


2025年11月22日土曜日

EVAを加熱脱脂した場合の欠点について

EVA(エチレン酢酸ビニル)はMIMバインダーの一成分として重宝されています。その理由は、相溶化・分散性向上だけでなく 、射出成形の流動性を向上させ、さらに成形体の強度を高める効果が大きいためです。しかし、欠点もあります。それは熱分解時に発生する酢酸ガスが、金属を酸化させることです。

実用上、加熱脱脂時に適切な流量の窒素ガスを流すことで問題とならないレベルまで酸化リスクを低減させています。(チタン合金などの活性金属では、ハテナ?です。)

【珈琲ブレイ句】EVAの添加が数%の場合は、大きな問題にはならないということですね。しかし、なんとMIMの元祖であるパーマテックバインダーには、EVAが約2割配合されています。確かに、とても成形性が良く成形体の強度も最高です。さらに焼結体の化学組成も問題ありません。それではどうやって上記の欠点を解決しているのでしょうか? それは温ヘキサンの溶媒脱脂(一次脱脂)でEVAを完全に除去して、二次加熱脱脂以降へEVAを持込ませないのです。流石MIMの元祖パーマテック法は、よく考えられていますね。

2025年11月20日木曜日

混錬でPMMAエマルジョンを使うメリット

混錬前にアセトンでエマルジョン化させたPMMAを使った実験の結果を共有化します。 

《実験仕様》

バインダー:PEG73%+PMMA25%+SA2%、バインダー量=35VOL%

粉末:SUS316L(ANVAL)TD=4.09,CSL=69%

PMMAエマルジョン:PMMA1gに対してアセトン4mlを加えてエマルジョン化

《結果》

①混錬物が粒状(アセトンは蒸発して無くなる)

②PMMAエマルジョンは、粉末バインダーマトリックス中のPMMAの存在を助け、均質性向上、粘度を低下させる。

③温度と圧力に対する感受性を低下させる(ロバスト性向上)。

④PMMAのバックボーンバインダー(金属粉末保持)としての機能を向上させる。

【珈琲ブレイ句】PMMAを事前にアセトンでエマルジョン化すると大きなメリットがあることがわかります。高精度化のためにバインダー量の最少化を狙うのであれば方策のひとつとして検討してもよさそうです。論文では混錬物をそのまま射出成形機に使えると書いてあります。つまり粉砕工程が省略できる可能性があることもメリットですね。一方、アセトンが混錬中に完全蒸発するので安全対策は必要です。

安全対策としては、アセトンは空気より重いので床からの局所排気と作業環境の換気を十分行い、環境中のアセトン濃度を定期的に管理する。火気厳禁遵守。設備を防爆構造にし、静電気のアースをとる等が考えられます。

《蛇足》混錬に苦労するPOMにもこのアイデアが展開できると素敵なのですが、残念ながらPOMは高い結晶性を持つ耐薬品性のエンジニアリングプラスチックなのでエマルジョン化することはほぼ不可能です。

参考論文:”METAL INJECTION MOLDING (MIM) FEEDSTOCK PREPARATION WITH  DRY AND WET MIXING: A  RHEOLOGICAL BEHAVIOUR ” Khairur Rijal Jamaludin ,Norhamidi Muhamad ,Sri Yulis  

2025年11月15日土曜日

金属の材料押出積層造形の強度は積層段階で決まる

 金属の材料押出積層造形(Metal MEX)において、市販のシステムを用いて316Lペーストの堆積と焼結について検討した研究報告があります。初期の積層から固化、最終焼結に至るまでの様々な段階における欠陥の形成と除去の性質について検討されており、結論は、最終強度は脱脂焼結工程ではなく積層工程で決定するということです。さらに、特に興味深い限界値として次の法則を共有化しておきます。

焼結状態からグリーン状態への個々の気孔の収縮、部分的および完全な閉塞の定量的な結果として、気孔が原料金属粒子のD90に相当する大きさより大きい場合、焼結時に完全に閉じることができない。最終部品の性能に大きな影響を与える。

 文献:”Defect evolution and mitigation in metal extrusion additive manufacturing: From deposition to sintering”、Sajad Hosseinimehr ら、Journal of Materials Processing Tech. 329 (2024) 118457

【珈琲ブレイ句】Metal MEXは、開放空間で積層するため、積層材料同士を密着させることが難しいと考えられます。一方、MIMは金型という閉塞空間への高速射出成形なので充填圧力を高くできます。したがって、ガス逃げが完璧であれば気泡を発生させないことも可能です。MEXの積層は相当難しい技術ですね。いかに気孔を無くして積層するかが勝負だということです。

2025年11月10日月曜日

MIMとMEXなど各種金属素形材の強度VS延性地図

 文献:”Defect evolution and mitigation in metal extrusion additive manufacturing: From deposition to sintering”、Sajad Hosseinimehr ら、Journal of Materials Processing Tech. 329 (2024) 118457、Fig. 15. 

【珈琲ブレイ句】文献で報告されている各種素形材のUTS引張強度と破断伸びの地図を載せておきます。強度と延性は二律背反の関係がありますが、やはり溶性材が両立させていることがわかります。次にMIMとMEXもなかなかの成績です。意外なのはPBFの引張強度が高い文献があることです。ただし、この地図には各種の材質が混在しているので「ザックリとした傾向」を見るだけに留めておきます。ちなみに図中のThis workはMEXです。

MIM技術伝道士のHP

2025年11月7日金曜日

AM3Dプリンティングセミナーから学んだこと

 【珈琲ブレイ句】SCSKデジタルエンジニアリングフォーラム2025DAY3に参加しました。いくつかメモしておきます。

技術的分類「Direct:粉末溶融凝固技術」「Indirect:粉末焼結技術」

①レーザー・Direct:スポット径を大小自由に制御できるレーザー発振装置「nLight社、AFX-1000」、《効果》積層時間短縮、品質良好。

②スーパーエンプラ材:SOLIZE PARTNERS社  タグチメソッドのパラメータ設計を使って設計されたミニ四駆の筐体により公式コースで1秒短縮させた。曲げ強度を重視した軽量化設計による。

③鋳造用砂型・Indirect:木村鋳造所、S-MAX(ExOne)、フラン自硬性鋳型、Metal AMとの選定境界線の目安は、鋳鋼20Kg+生産数5個の採用が多い。 生産量が多ければ従来のロストフォーム鋳造へ、小物品は苦手なので光造形3Dモデル利用の精密鋳造(そっくりCAST、DIGITAL CAST)を選ぶ。

④最近はMetal AMで試作だけでなく量産品を製造することも始まっている。その目的・メリットとは、《金型不要》リードタイム短縮、金型管理レス、設計自由度が高い《形状自由度が高い》一体化(小型化、計量化)、要素の高密度化(レイアウト自由度向上、高性能化、小型・軽量化)

データセンターで使用する『高性能ヒートシンク』の量産化はすでに始まっているようだ。

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