2025年2月28日金曜日

粒径と相対密度の焼結温度依存性

SUS630(水アトマイズ粉末)のMIMにおける、粒径を横軸、相対密度を縦軸にして各焼結温度ごとのグラフに描きなおした。

参考文献:Noriyuki Yasui, Hiroshi Satomi, Hiroshi Fujiwara, Kei Ameyama, Yoshimitsu Kankawa ”The Influence of Powder Size on Mechanical Properties of Small MIM Parts”,2006 POWDER METALLURGY World Congress B02-02-1

【珈琲ブレイ句】グラフを書き直して何を言いたいのかというと、微細粉末であれば焼結温度の炉内バラツキに影響されず高密度が実現できる。ということです。品質工学で言うロバスト性が高いということです。粒径が2.7μmの水アトマイズ粉末であれば、たとえば炉内温度のばらつきが300℃(1350-1050℃)あったとしても焼結相対密度が95%以上になるということです。300℃の炉内温度ばらつきは極端ですが、それでも実際の量産炉の炉内温度バラツキ幅は±10℃、さらにガス対流も加わり実際には±15~20℃程度あるのでMIMの焼結密度が変動します。これが寸法変動につながっています。その影響を小さくするためには微細粉末化が良いということです。

太盛工業さんの「超高精度MIM±0.1%」技術の大黒柱はコレだと推察しています。

最後に、微細粉末の欠点を上げておきます。①粉末のコストが相対的高価になる(でも、部品が小さければ、原価構成上ほとんど問題ない。)。②水アトマイズSUS630粉末において、2.7μmまで微細になるとBCC構造(マルテンサイト)だけでなくFCC構造(オーステナイト)も出現してくる。これは、微細なほど比表面積が大きくなるので水アトマイズによる酸化量が多くなり、微細SiO2が析出するためだと説明されています。結果、硬度が低下していることを裏付けており、おそらく機械的性質も低下する可能性を示唆しています。

《ことば》品質工学における「ロバスト性が高い」とは、製品やシステムが様々な外的要因(ノイズ)の影響を受けても、性能や品質が安定している状態を指します。つまり、変化に強く、ばらつきが少ないことを意味します。

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2025年2月16日日曜日

MIMフィードストック混錬の復習

MIMフィードストックの混錬について、もう一度復習してみた。混錬の方法は識者により微妙に異なるがその4つの目的は同じである。

《MIM混錬4つの目的》1.金属粒子の表面にバインダーを均一にコーティングすること 2.バインダーシステムのすべての成分(ポリマー、湿潤剤、界面活性剤)を均一に混合すること 3.粉末凝集塊を分解すること 4.粉末やバインダーの分離が無い均一なフィードストックを得ること

《Hさんの混錬方法》①高融点のバインダーを加熱する。②残りは、それぞれの融点が低下する順に混合物に追加する。③バインダー成分が混合されたら、金属粉末を追加する。③’一部のシステムでは、高融点バインダーの溶融中、低融点成分の添加前に金属粒子を添加し金属粒子へのバインダーコーティングを優先させる。④原料の最終混合は、原料のガス抜きのために真空中で行う。

《Gさんの混錬方法》混錬作業には2つの方法がある。ひとつは粉末とバインダーを乾式混錬した後に混錬機にプレミックスとして入れる方法。もう一つは、配合機内でバインダーを加熱し溶融させ、そこに粉末を加える方法である。 バッチ式混錬機による後者の方法 ①バインダーは最高溶融温度の成分から始めて加熱下で混錬される。蒸発または劣化を避けるために、融点が低いバインダー成分では、その適温度まで下げてから添加するようにする。②バインダーと混錬する前に界面活性剤を粉末と混錬する。混錬中、表面処理された粉末は溶融バインダーに添加され、液体は毛細管作用により粒子の凝集した塊(クラスター)に吸い上げられる。これは粒子の潤滑性を上げさらに凝集を解く効果がある。熱可塑性バインダーの場合、混錬はせん断が支配的である中間温度で行う。粘性を下げることと混錬物に関連する降伏点を排除することの両方に熱が必要である。高すぎる温度で混錬すると、バインダーが劣化するか、混錬物の粘性が低いために粉末から分離してしまう。

《参考文献》Hさん:Handbook of Metal Injection Molding P80 4.4 Mixing technology、  Gさん:Injection Molding Metals and Ceramics  P25 Chapter Two Feedstock

【珈琲ブレイ句】復習すると新しい気づきがありました。それは、「混錬の最終工程は真空中で行う」の項目です。そこまで拘るのは凄い。ただし、これは混錬機に何を使うかにもよりますね、実際の量産工場では、混錬中に脱気できる加圧混錬機や二軸スクリュー押出機が使われているのでエアーの巻き込みは解消できていると思われます。他の気づきは、液化温度による投入順番の工程設計や、あらかじめ界面活性剤を粉末と混錬しておくなど、使用するバインダーや粉末仕様によって最適な混錬方法が研究されていることです。知っているけど復習することは固定観念を見直すよい方法ですね。

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2025年2月14日金曜日

Niフリーステンレス(窒素吸収法)を掘下げる

母材:フェライト系ステンレスGA粉末 Fe-17Cr-12Mn-3Mo-0.2N

バインダー成分・配合:PW,PP,DOP、30VOL%

MIM成形体の脱脂:加熱400℃、N2

焼結+窒素吸収:室温~980℃まで真空、980~1250℃+窒素導入、焼結温度1250~1300℃+窒素0.2MPa、1200℃+窒素×5H、炉冷

熱処理:1200℃溶体化(オーステナイト化)+900℃5h時効

MIM成分:Niフリーステンレス Fe-17Cr-12Mn-3Mo-1N

引張強度:約1050MPa   硬度:250HV

《比較》Catamold P.A.A.A.C.E.A.

引張強度:≧1090MPa   硬度:250~300HV

参考:青山陽亮、黒田義和ら ”金属粉末射出成形で作製したオーステナイト計ステンレス鋼の引張特性に及ぼす窒素添加と変形双晶の影響”J.Jpn.Soc.Powdwe Metallurgy Vol.56 No.3 ,特許第5616299号 、 BASF Data Sheet D/CA 017a March 2008 Catamold P.A.A.A.C.E.A.

【珈琲ブレイ句】金属アレルギーに優れ、医療で使うMRIに影響されない非磁性体の要求を叶える「窒素吸収法を使ったニッケルフリーステンレス製造法」は、ガウス㈱の特許(出願2011/8/9)です。フェライトステンレスに窒素を吸収させてクロムの代わりに耐食性を向上させるものです。特許を読み込むと、さらにオーステナイト相を安定させるCuを2~3wt%、強度向上目的の結晶粒微細化のピン留めとしてNbを0.02~0.06wt%添加するのもイイヨと教えてくれます。

Catamold P.A.A.A.C.E.A.のData Sheetを見るとNiが最大0.1wt%加えられています。相対的に強度と硬度が少し高いのはNi微量添加の効果かもしれません。

 

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2025年2月9日日曜日

Desktop Metal BMD Studio SystemによるTi-6Al-4Vの機械的特性

 Desktop Metal社のBMD Studio System(MEX3Dプリンター)で積層したTi-6Al-4Vの機械的特性が、MIMだけでなくロストワックスにも肩を並べているので記録する。

試料名:引張強度Mpa、伸び%、相対密度%、酸素%

Desktop Metal BMD製:845MPa、17%、97.5%、酸素量不明

MIM製(細Al-4V調合粉末):930MPa、15.8%、97.5%、0.34%

MIM製(粗Al-4V調合粉末):880Mpa、14.5%、96.7%、0.26%

MIM製(合金粉末):850MPa、13.7%、97.6%、0.23%

ロストワックス(エリー材):890MPa、15.2%、鋳造品、0.15%

参考:MIM:高温学会誌 第36巻 第2号(2010年3月)、三浦秀士、伊藤芳典/ ロストワックス:NASA Technical Paper 3288 1992

【珈琲ブレイ句】金属3Dプリンター(Sinter based Metal AM)のMEX方式で注目しているのがDesktop Metal の「BMD」です。何が気に入っているのかというと、成形材が棒状のフィードストックを使っているところです。◆FFF方式と比較して何が素敵なのかというと・・・。FFF方式は巻き線フィラメントを使っているので、柔軟性を持たせるためにフィラメント内のバインダー量がメチャクチャに多いのです。バインダーが多いとスランプ変形が大きくなり、当然収縮率が大きくなるので焼結寸法精度が悪くなります。◆一方、BMDの成形材料が棒状のフィードストックということは、MIMと同等のフィードストック仕様を展開できるということです。究極のMIM材料はバインダー量を極限まで減らし高精度化を狙っているのですが、それを展開できる可能性があるのです。◆したがって自作したMIMフィードストックで棒を作れば3Dプリントできるのです。ただし、失敗してもメーカーは保証してくれませんので自己責任でチャレンジ!

◆蛇足:BMDのチタン合金製造ではStudio Systemのフルセットつまり、溶媒脱脂装置が使われています。Studio System2.0(溶媒脱脂工程省略)ではカーボンコントロールが難しく活性金属では避けられているようです。

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2025年2月4日火曜日

MIM脱脂焼結炉(HIPER炉)の客観的研究

 【珈琲ブレイ句】MIM脱脂焼結のためのMIM専用炉としては「SHIMAZUが大好きなのですところが近年そっくりな「HIPERが登場していますこの炉が実に優れているのでまとめておきますできるだけ中立・客観的立場でまとめていますが、少し「自分の意見」もいれています。HIPERさんは元島津さんのエンジニアだったそうで基本仕様はSHIMAZU炉流ですしかしユーザー目線でいくつかの改善仕様が組み込まれており島津先生を超えるために死に物狂いで開発をしたんだろうなと感じる名品なのです。

【温度制御】《計測》炉内温度とタイトボックス内温度のダブル計測(カスケード接続)、カスケード制御によりプログラム応答80%。《加熱》独立制御できるヒーターで加熱(マルチゾーン独立温度制御システム)により炉内温度ばらつき<±1℃。「これならJIS化学成分のハイカーボンの鋼でもフルチャージできますね。」

【ガス流制御】《島津炉と逆のガス流れ方式》実験結果では焼結体のバラツキは減少したそうです。「未確認ですが、黒鉛断熱材が汚染される可能性があるので、私は確認できるまで疑心暗鬼です。∵クロム等の蒸発金属汚染問題です。」《その他のガス流制御》いろんなバルブを追加して一次流れ二次流れを設計できるそうです。ガス対流のばらつきを最少化するためのダメ押し対策です。「熱伝達3要素をしっかり理解しコントロールしようという徹底的な攻めの開発姿勢を感じます。」

【設置面積のミニマム化】《標準仕様で電源を炉体の上部に配置》「ユーザーの立場でよく考えられています。こちらは島津さんでも依頼をすればやってくれます。」

「国内商社の数社がHIPERを扱っています。通常メンテナンスは、国内専門業者に頼めば大丈夫でしょう。心配なのは、消耗交換部品ですが、主要部品だけ在庫していれば安心できますね。


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