2026年1月28日水曜日

高粉末充填率の課題(その2)

 前回のBLOGで「高粉末充填率(バインダー最少化)にすれば、MIM品質(転写性、密度、強度)は向上します。」と書きました。この意味を二つの図で説明します。

①バインダー量には最適値があり多くても少なくても精度が向上しないことがわかっています。下図の散布図では、バインダー量が40Vol%近傍に最適値があるという結果になっています。この散布図はクリティカルローディング値が35Vol%程度の粉末の事例だと推察しています。

②高粉末充填率(バインダー最少化)の前提条件として「高タップ密度」がセットです。
もし、高タップ密度の粉末を用意出来たら、下図の様に逆放物線は左下にシフトしていくと考えています。その推定図を添付しておきます。

課題1:どうやって高タップ密度の粉末を作るのか。
課題2:低バインダー量になるほど射出成形が難しくなる。その打開策は何か。

この課題のヒントは、このBLOGのどこかに書いてあります。

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2026年1月27日火曜日

高粉末充填率の課題

 高粉末充填率(バインダー最少化)にすれば、MIM品質(転写性、密度、強度)は向上します。しかし、大きな課題があります。それは「成形が難しくなる」ことです。バインダー量が少なくなればフロー値Qは小さくなり成形欠陥が多くなることがわかっています。図8


この論文からの学びは2つ。成形不良を低減させるには、高粉末充填率(バインダー最少化)になるほど、①金型温度を上げ、②保圧を高くすること。

文献:「金属粉末射出成形(MIM)における成形欠陥におよぼす成形条件,バ インダ添加量,バインダおよび粉末特性の影響」三浦 立、遠 藤 保夫、斑 目 広和、高 森 清次、「粉体および粉末冶金」第42巻 第3号 1995年3月


【珈琲ブレイ句】30年前、粉末充填量は45 vol%程度が一般的でしたが、今や72 vol%を実現できる段階に到達しており、まさにブレイクスルーと言える進化を遂げています。粉末の製造や配合技術はもちろん、それらを支えるバインダーの着実な進化が、この飛躍の不可欠な要素であったことは言うまでもありません。

MIMフィードストックが究極にまで高まった今、次なる焦点が射出成形における転写性の技術開発(成形条件のパラメータ設計)であることは、論を待ちません。

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2026年1月24日土曜日

品質工学における「予想通り」が意味する二つの側面

 「品質工学のパラメータ設計の結果が予想通りだった」という言葉を耳にすることがあります。この言葉には、実は対極にある「二つの意味」が含まれています。

①ポジティブな側面:熟練者の知見を「数値」で検証

ベテラン技術者が長年の経験で培ってきた「勘やコツ」が、SN比という客観的な指標によって裏付けられたケースです。

技能から技術へ: 「なんとなく良い気がする」という属人的な技能を、誰もが活用できる組織の共有資産(技術)へと変換できたことを意味します。

確信を持った意思決定: 経験則にデータという根拠が加わることで、自信を持って次工程へ進めるようになります。


②ネガティブな側面:制御因子の選択が「守り」に入った結果

設計者が「おそらくこれが最適だろう」と予見できる狭い範囲内だけで実験を行ってしまったケースです。

機会損失: パラメータ設計の醍醐味は、常識を疑うような「意外な組み合わせ」から高いロバスト性を見つけ出すことにあります。

改善のヒント: 予想通りの結果しか得られなかった場合は、制御因子の再検討や、既存の水準範囲を超えた「外側」へのシフトを検討すべきです。慣習に縛られない設定こそが、大きな技術突破(ブレークスルー)を生みます。

《裏技》もし、見直したい因子が一つだけなら、最大側へ水準をシフトさせた3水準による6行の実験を行い、元のL18実験(18行)結果の6行を入れ替えて分析する方法もあります。さらに、2水準が同じで1水準だけシフトさせたのなら2行の追加実験でもOKです。


【珈琲ブレイ句】この対極にある①と②は、どちらも次の一手を見極めるための非常に有益なシグナルです。さらに、パラメータ設計の有益性を追加しておきます。

◇「平均値」ではなく「バラツキ」を制御できる: 目標値に合わせる(感度)だけでなく、外乱(ノイズ)に対して動じない条件を見つけるという考え方は、量産現場では最強の武器になります。

◇再現性が高い: 実験計画法DOEと異なり交互作用の研究は行いません。交互作用をほぼ均等に交絡させた混合系L18直交表を使うことで、実験室の結果を、工場(市場)で再現されやすくしています。

◇手戻りが減る: 「作ってみたらダメだった」という後追いの対策ではなく、上流で「壊れにくい組み合わせ」を決めてしまうため、開発期間が短縮されます。

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2026年1月20日火曜日

三峰性粉末80VOL%フィードストックの流動性

 ナノ、サブナノ、およびマイクロ粒子で構成される三峰性粉末80VOL%のフィードストックの流動性データを、2026年1月17日土曜日のキャピラリーフローに重ね比較しました(黄色)。

粉末は、アルファ酸化鉄マイクロ粉末をボールミル(with アルコール、ジルコニアビーズ)で粉砕し、粉砕紛(サブナノ粉末)とスラリー(ナノ粉末)に分け、水素還元にて二峰性粉末を製造する。その二峰性粉末25%と球状Fe粉末(5~10μm)75%を配合し、バインダー(PW75%+SA25%)と混錬して三峰性粉末フィードストックを製造する。

引用文献:“Study of solid loading of feedstock using trimodal iron powders for extrusion based additive manufacturing”、Heungseok Oh , Taehyeob Im1, Jungsuk Pyo, Jai‑sung Lee & Caroline Sunyong Lee、Scientific Reports   (2023) 13:4819

【珈琲ブレイ句】この三峰性粉末のフィードストック研究は、MEX用のフィードストックが目的ですがMIMにも展開できる内容です。論文では、MEXに最適な金属粉末充填率は74VOL%としています。これはノズルからの流出速度(射出速度)が、低いためではないかと推察しています。

MIM用バインダーにするためには、WAXの半分程度を結合材に置き換える必要があるので流動性は悪化し、多少グラフの傾きが小さくなりますが、MIMは高速射出なので問題なく射出成形できると思われます。射出成形のせん断速度(LOG)は、4~5 (1/s)なのでグラフの延長線上の右端になります。

 『ナノ、サブナノ、およびマイクロ粒子で構成される三峰性粉末であれば、金属粉末充填率80VOL%も可能である。』ということを気づかせてくれる素晴らしい研究論文です。

D2153

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2026年1月18日日曜日

世界の 金属MEXフィラメント一覧表(汎用品のみ)2026

世界の 金属MEXフィラメントの中から、MEX装置バンドルの専用品を除いた汎用品を一覧表にまとめてみました。



 【珈琲ブレイ句】標準的存在のBASF仕様の展開と、MIMの元祖である溶媒脱脂の応用が主流であることが読み取れます。加熱脱脂も存在していますが、Desktop Metalのバンドル材では溶媒脱脂用と加熱脱脂用の2種類が用意されています。その理由を推察する必要がありそうです。

2026年1月17日土曜日

粉末充填率72vol%は実現できる

 【珈琲ブレイ句】MIMのワックス系フィードストックにおける金属粉末充填率(PL:Powder Loading)を4水準(60, 64, 68, 72vol%)で比較した研究論文*1では、PL68vol%が最適であると結論付けられています。その理由は、機械的性質、焼結体密度、焼結体硬度のすべてにおいてPL72vol%が最高値を示しているものの、PL68vol%の方が「成形不良率が低い」という点を重視したためです。

しかし、私はPL72vol%を最適値とすべきだと考えます。論文内のキャピラリーフローデータを両対数グラフ(下図)にしたところ、PL72vol%においても理想的な擬塑性流体であることが確認できました。また、せん断速度100 1/s  以上の領域で成形限界粘度の指標である1000 Pa⋅s を下回っており、成形性は十分に確保されていると判断できるからです。

参考までに、成形上級者向けのBASF Catamold 17-4PH(180℃)のグラフを重ねてみると、粉末充填率72vol%(ワックス系)は、Catamold 17-4PH(180℃)と、同等以上であることがわかります。

確かに成形は簡単ではありませんが、「成形条件のパラメータ設計」を行いロバスト性能の高い最適条件を導き出していれば、研究論文の結論は変わっていたはずです。

キーワード:高CL化=高精度化、品質工学(タグチメソッド)=パラメータ設計

*1 「Effect of powder loading on metal injection molding stainless steels」/ Yimin Li, Liujun Li, K.A. Khalil / Journal of Materials Processing Technology 183 (2007) 432–439

粉末:17-4PHステンレス鋼、ガスアトマイズ粉末、球状、d10 = 5、d50 = 12、d80 = 22μm、TD=4.70g/cm3、バインダー:65%PW + 30%EVA + 5%SA、混錬:175℃、横型50トン成形機(最大成形圧力160bar)、金型4種

D2153

2026年1月15日木曜日

規格内でも品質に差があるとは?

LCL下限規格とUCL上限規格の範囲内にある3つのミカンはすべて合格品です。どれも同じ品質でしょうか? 

引用:https://sixsigmastudyguide.com/taguchi-robust-design/

このミカンの事例は、「規格内でも品質に差がある」ことを直感的に説明してくれます。

本家の品質工学では、損失関数として次の図のように定義しています。


引用:開発設計現場で使う品質工学(5)過剰品質の防止や安全の設計(損失関数)、長谷部光雄、日本ゴム協会誌、第88巻 第12号(2015)

【珈琲ブレイ句】従来の品質管理でもCpk工程能力指数をバラツキ改善の尺度にしていますが、品質工学は「損失コスト」を計算式にいれて、規格内であっても逆放物線の「損失L」を内包していると考えるところが秀逸なのです。

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2026年1月14日水曜日

マルチ3Dプリンター「3DCeram のM.A.T.」を掘り下げる

2026年1月、新東工業はドイツのBosch Advanced Ceramics社を買収しました。同社はセラミックや金属の精密積層部品を受託製造する企業です。2017年に買収した仏3DCeram社(3Dプリンター製造)と合わせ、今回の買収により、製造の4Mすべてをグループ内で網羅する垂直統合型の体制が完成したことになります。

4M(Man,Machine,Material,Method)

 【珈琲ブレイ句】この機会に改めて、3DCeram社の「 M.A.T.(Multi Additive Technology)」という万能(マルチ)3Dプリンターを復習しておきます。

何が万能(マルチ)なのかというと、積層させる材料として3種類 ①フィラメント ペレット ペーストを可能とするアタッチメントが用意されていること。 さらに、除去加工も可能な4役のマルチ・マシンなのです。

小さい体ですが、水冷方式による温調を採用し、XYZ軸にリニアガイドを使った本格的な高剛性・高精度設計の機械です。 それにしても、エンドミル加工をしている姿には感動します。これにより高密度・高精度化が可能になります。

積層


加工

新東工業HPのYouTubeより

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2026年1月8日木曜日

金属粉末配合量と粘度の関係

 「金属粉末配合量VS粘度」の散布図を作りましたので共有化します。粘度はキャピラリーフローデータです。単位変換表も付録で付けました。

【珈琲ブレイ句】粘度は望小特性ではなく望目特性だということを表現したくて作りました。世の中のMIMフィードストックは、理想の粘度200~600Pa・sを満足しています。散布図左の離れ小島3点はアルミ合金です。実際の射出成形では、ワックス系は温度が低め、ポリマー系は温度を高めに設定し、射出速度50%でせん断速度は10^4(1/sec)程度と計測条件10^3(1/sec)より一桁速いので図の粘度より低くなっている(by擬塑性流体)と推察しています。つまり、射出成形条件で、かなりコントロールできるということです。ただし、金型方案設計は最適化(経験則)する必要はあります。

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2026年1月7日水曜日

L9直交表実験を使った論文からの学び

L9直交表を使ったMIMフィードストックの粘度を特性値にした論文を読んでみました。 かなり「?」な部分が多く、それが逆に学びになりました。

 参照文献:「田口実験計画法を用いた金属射出成形(MIM)のための高品質原料調製」「Quality Feedstock Preparation for Metal Injection Molding Using Taguchi Design of Experiment」  Nurun Nahar, Altab Hossain, Imtiaz Ahmed Choudhury, Azuddin Bin Mamat


《実験概要》 

特性値:粘度viscosity (pa・s)  (望小特性)

因子:粉末配合量PC(58,62,66VOL%)、混錬温度TM(120,130,140℃)、混錬速度Ns(35,43,51rpm)

組成:純度99.80%、粒子径19.82µm、相対密度2.699g/cm3のアルミニウム粉末、HDPE/PW/SA=50/46/4の比率

粘度測定方法:Physica alpha分析レオメーターMCR 301(Antom Paar GmbH)

結果:


【珈琲ブレイ句】「はてな?」な部分を考察してみました。

①粘度が望小特性に疑問あり。

②粉末配合量PCは、wt%ではなくてVol%の間違いだと思う。

③3水準系L9の3列には1列と2列の交互作用が現れるけど大丈夫かな? 

④そもそも田口玄一先生の実験計画法と品質工学を混同しているように感じる。

⑤粘度が低すぎる。一桁小さいのはなぜ?

《考察》

◆粘度を望小特性にしたら、粉末配合量が少ないほど必ず良くなる。MIMコンパウンドの粘度は、低すぎても高すぎても良くない。 グリーン体を焼結したシルバー体が最終品質であることを十分考慮した実験を行いたい。

◆実験計画法としてL9の分散分析とF検定をしてみました。



1列(PC:粉末配合量)と2列(TM混錬温度)の交互作用が現れる3列(Ns混錬速度)は誤差レベルでしたので(交互作用もないということ)、誤差にプーリングして分散分析表を作り直した結果は、粉末配合量だけが高度に有意になり、寄与率は93.5%でした。粘度が特性値なので、当然の結果ですね。論文では、粉末配合量PCが一番小さい58Vol%が最適としていますが、この結論は?です。

◆なんで粘度が低すぎるのか、仮説を3つ考えてみました。

①粘度の測定器が、振動式の粘度計のため振幅は非常に小さく粉末同士が噛み合う構造粘性を十分に捉えきれず、サラサラした液体部分(バインダー)の挙動を強く拾ってしったのではないかと思われます。

②MIMフィードストックのように固形分が多い材料(60 vol%など)を振動させると、センサーの表面と粉末の間にバインダーだけの薄い層ができてしまい、 センサーはこの滑りやすい層の抵抗を測ってしまうため、実際のフィードストック全体の粘度よりも、一桁低い数値が出てしまった。

③振動によるチキソトロピーの誘発:MIM材料は、刺激を与えると一時的に粘度が下がる性質(チキソトロピー)を持っているので、連続的な振動を与えることで、粉末のネットワークが壊れ、本来の成形時よりも不自然に流動性が高まった状態を測定している可能性がある。

MIMの粘度測定は、キャピラリー粘度計を使うべきでした。

いろいろ勉強できて、ありがたい論文でした。

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