焼結性の良し悪しは人によって解釈が異なる。ここに勝手に定義する。
【MIM技術伝道士の深すぎるブログ from 2017】 20年間体で覚えたMIM(金属粉末射出成形)製造技術と技術書や論文で学んだMIM理論やMIM最新情報、さらに金属AM(MIM-Like AM、SBAM分類のMEX、BJT等)情報をわかりやすく解説しています。
2020年11月27日金曜日
焼結性・焼結特性を勝手に定義した
2020年11月23日月曜日
MIMのレオロジーとべき乗指数n
レオロジーとは、変形性と流動性を包含させた造語で、日本語は流動学である。基本法則は、「せん断応力がせん断速度の(n-1)乗に比例する」ことである。これはPower Low(べき乗則モデル)と呼ばれている。
このnはべき乗指数、べき指数(Power Low Index)、せん断感度指数(Shear sensitivity index)と呼ばれ、nによって流体の特徴が決まる。それは次の通りである。
n>1 Shear thickening、ダイラタンシー、「水で浸した片栗粉」
n=1 ニュートン流体、「水」
n<1 Shear thinning (ずり流動), 擬塑性流体、「MIMフィードストック」
◆ポリマー専門BLOGにMIMのn値がわかる論文(Azadeh Farahanchik博士)があるので紹介する。
《要旨》MIMフィードストックのnは1より小さい値をとる。せん断速度(射出成形の速度)が増加すると金属粒子が自由に動き、流れの方向に沿った粒子の配向・秩序化が起こる。これにより、粒子間に閉じ込められた浮遊溶融バインダーの量が減少し粒子間の運動が促進され粘度が低下する。実験範囲内での最良値はn=0.71である。
【珈琲ブレイ句】もしMIMフィードストックのnが1より大きければ、射出成形に不向きなダイラタント流動挙動になっているということです。低速でも高速でも粘度が高いので射出成形が難しい。これは粒子の無秩序化が発生しているということで、上記BLOGでは「slide overring」することができないため粘度が上昇すると説明しています。ところで、スライド・オーバーリングとは何でしょうか??そもそも動詞の扱いでいいのか!と突っ込みたくなりますが・・スマホ画面を指でスライドさせるイメージだと思われますので、たぶん粒子が互いに滑りあう「ずり流動:シェアシンニング」のことですね。このことを考えれば、粉末は球状の方が良いとも言えそうです。そういえば先日、学生さんが成形できないというので話を聞いてみると、ポリマーに数ミリのファイバーを半分混ぜていました。粒子の無秩序のレベルではない・・「え!それは成形できない」と心の中だけでツブヤキマシタ。徹夜実験も無駄ではない、失敗こそ宝なのです。ファイト!
2020年11月21日土曜日
MIM指南書が国会図書館で閲覧可能
2020年11月18日水曜日
MIMに応用したヒートサイクル成形
微細薄肉成形には、ヒートサイクル成形が用いられているが、大きな部品でのMIMへの展開事例があるので紹介する。
《仕様》射出成形メーカーArburg(独)とBASFとの共同研究。試験片寸法:80 mm × 20 mm × 2.5mm、実験材料:Catamold®42CrMo4、金型仕様:ホットランナー、射出温度:183℃、金型ダイナミック温度制御、金型温度High:150~170℃、金型温度Low(押出温度):130℃
《実験結果》成形品の密度差(ゲートに近い部分と遠い部分の密度差)が減少することで焼結収縮率の差も改善された。従来の等温金型130℃の収縮率の差0.6%に対して、ダイナミック温度制御では0.4%に改善された。
【珈琲ブレイ句】この報告は、触媒脱脂のPOM基フィードストックなので金型温度が高温です。金型温度は下がっても130℃で、この温度で押し出すので成形体は相当熱いです。当然ロボットハンドが作業します。金型ダイナミック温度制御とありますが、一般的にはヒートサイクル成形ですね。2014年に福島ハイテクプラザとコラボ*3 で、ヒートサイクルを利用したマイクロMIMの実検を行ったことがあります。確かに、金型温度が射出温度に近い程、成形は楽ちんになりました。上記報告では、残念ながら金型の構造についての詳細はありませんが、たぶん金型全体とキャビティが断熱材で保持され、過熱はヒーター*1で行い、冷却は油媒体ではないかと推察されます。別の関連記事では、試作品のスマートフォンバックハウジングが紹介されていました。最小肉厚1mm、サイクルタイムが1分ということです。このような大きくて薄いフレーム形状を変形なく作ることができるとは脱帽*2です。素晴らしい。
*1 加熱も冷却も液体を使っていることが判明しました。過熱が油、冷却が水。
*2 フレームの内側に、多点のサイドゲートを配置しているようです。
2020年11月12日木曜日
工法分類からMIMを俯瞰してみた
ものをづくり技術全体からMIMを観る。
2020年11月10日火曜日
品質工学を使ったMIM脱脂実験
前2報と同じインドの2大学で行われた品質工学を使った実験。今回は品質工学シリーズの最後になるMIM脱脂実験のパラメータ設計の事例である。
【実験条件】L9直交表(3因子×3水準)、特性値:焼結密度、因子:(水脱脂温度、加熱脱脂温度、加熱脱脂保持時間)材質:SUS316L(ガスアトマイズ粉、OSPREY、D50=13μ、<53μ99.2%、TD=5.0g/cc)、バインダー:PMMA:PEG:PW:SA=65:8:25:2、脱脂:水脱脂→乾燥→加熱脱脂(アルミナ粉末中)→徐冷
因子 |
水準1 |
水準2 |
水準3 |
水脱脂温度 |
50℃ |
60 |
70 |
加熱脱脂温度 |
300℃ |
350 |
400 |
加熱脱脂保持時間 |
240min |
300 |
360 |
【結果】3因子のうち2因子が有意になった。「水脱脂温度(86%)」と「加熱脱脂温度(13%)」である。加熱保持時間は誤差にプーリングさせる。()の%数字は、この実験範囲内の寄与率。 要因効果図は、SN比ではなく特性値そのままで作図する。
【珈琲ブレイ句】バインダー組成は(PMMA+PEG+PW+SA)です。論文では水脱脂(温水)で、PEGとPWを溶すと書かれておりますが、PWパラフィンワックスが50~70℃のお湯に溶けたとしても、溶けだすでしょうか?疑問です。たぶんPEGだけが溶けていると推測しています。さらに面白いのはアルミ粉末中でポリマーの加熱脱脂・徐冷をしています。これにより変形が少ないという事です。
実験結果の水温が高い方が、脱脂能力は高くなるので納得できます。加熱脱脂では一番温度の高い400℃が最適解です。これもPMMAの熱分解温度の中央値が350℃と考えれば400℃以上は必要なので納得できます。
焼結体の炭素量が記載されていないのが残念ですが、脱脂が不十分で炭素量が増加し焼結密度が低下したということですね。炭素量増加による融点降下で密度が高くなるように感じますが、別の論文でも同じような報告があり、SUS630の事例で、C=0.2%よりC=0.1%の方が焼結密度および焼結応答(レスポンス)が高くなっていました。低炭素鋼の世界ではこの傾向があると思われます。
参考文献:http://technical.cloud-journals.com/index.php/IJAMME/article/view/Tech-585
品質工学を使ったMIM成形実験
前報と同じインドの2大学で行われた品質工学を使った実験。今回はMIMの成形実験のパラメータ設計、最適化の事例である。
【実験条件】変形L27直交表(3水準×8因子)、特性値:衝撃強度、8因子:(射出圧力、射出温度、金型温度、保圧、射出速度、粉末量、保圧時間、冷却時間)材質:SUS316L(ガスアトマイズ粉、OSPREY、D50=13μ、<53μ99.2%、TD=5.0g/cc)、バインダー:(PMMA、PEG、SA 3種配合比不明)脱脂:水脱脂60℃×6H→乾燥→加熱脱脂350℃(アルミナ粉末中)→徐冷、予備焼結:900℃×1H、焼結:1360℃×1.5H(真空)
因子 |
水準1 |
水準2 |
水準3 |
射出圧力 |
50MPa |
60 |
70 |
射出温度 |
140℃ |
150 |
160 |
金型温度 |
45℃ |
50 |
55 |
保圧 |
65MPa |
70 |
75 |
射出速度 |
5cm/s |
10 |
15 |
粉末量 |
60VOL% |
61.5 |
63 |
保圧時間 |
5sec |
10 |
15 |
冷却時間 |
5sec |
8 |
11 |
【結果】有意になったものは3つ「射出圧力(28%)」「金型温度(11%)」「粉末量(5%)」である。その他の因子は誤差にプーリングさせる。()の%数字は、この実験範囲内の寄与率。 要因効果図は、SN比ではなく特性値そのままで作図する。
【珈琲ブレイ句】衝撃強度を高めるには、「射出圧力を高くする」「金型温度を上げる」この2つは100%納得できますね、確実に成形密度が向上し、内部欠陥(ウエルド等)が減少する効果が期待できるからです。ただ、有意であった「粉末量」は、真ん中の水準61.5VOL%が最適となっています。この数字が微妙にハテナ?なのです。粉末TD=5.0g/ccにしては、全体的に粉末量が少なく感じる。
内部欠陥を完治させるためには「保圧」の方が重要じゃないのかと思われた方は上級者です。今回の実検で保圧が有意でないのは「実験の水準巾が狭かった(実験計画の問題)」ためだと思われます。つまり今回の保圧の水準は「すべて保圧が高い」と思われます。「保圧は65MPa以上で差が出ない」と解釈しています。
参考文献:http://technical.cloud-journals.com/index.php/IJAMME/article/view/Tech-331
2020年11月8日日曜日
品質工学を使ったMIM焼結実験
品質工学を使った貴重な論文を見つけた。インドのイノダ工科大学(Praveen Pachauri氏)とアリーガル・ムスリム大学(Mohammed Hamiuddin氏)の共同研究である。
【実験条件】変形L16直交表(4水準×4因子、2水準×1因子)、特性値:衝撃強度、試験片寸法:12×66×t6(mm)切欠無し、4水準因子:(焼結温度、昇温速度、焼結時間、冷却速度)、2水準因子(水素雰囲気焼結、窒素雰囲気焼結)、材質:SUS316L(ガスアトマイズ粉、OSPREY、D50=13μ、<53μ99.2%、TD=5.0g/cc)、バインダー:PMMA:PEG:PW:SA=65:8:25:2、脱脂:溶媒(温水)脱脂→乾燥→加熱脱脂(アルミナ粉末中)→徐冷
因子 |
水準1 |
水準2 |
水準3 |
水準4 |
焼結温度 | 1260℃ |
1300 |
1340 |
1380 |
昇温速度 | 4℃/min |
8 |
12 |
16 |
焼結時間 | 60min |
80 |
100 |
120 |
冷却速度 | 5℃/min |
10 |
15 |
20 |
焼結雰囲気 |
真空 |
N2 |
- |
- |
【結果】有意になったものは4つ「焼結温度(24%)」「昇温速度(10%)」「焼結時間(62%)」「冷却速度(4%)」で、焼結雰囲気は誤差の範囲であった。()の%数字は、この実験範囲内の寄与率。 要因効果図は、SN比ではなく特性値そのままで作図する。
【珈琲ブレイ句】品質工学のアプローチは、直観的にわかりやすいのでMIM製造現場にはありがたいことです。使用している粉末が珍しい仕様で粗い53μまで混入しており、さらに驚くことにTD(タップ密度)が5.0g/ccなのです(もしかすると二峰分布混合?)。焼結密度は7.50~7.60g/ccなので及第点ですが低めですね。学びは「焼結時間」の寄与率が(実験範囲内で)一番大きいこと。それから、冷却速度が遅い方が衝撃強度には有利であること(溶体化から離れる方が衝撃に有利ということか?)。ただ、焼結温度1380℃の衝撃強度が一番高いけど、1340℃での強度低下が気になる、組織の観察は必要ですね。特性値も衝撃値でなく、引張強度と伸びであってほしかった、わがまま言ってすいません。勉強になった、ありがとうございました。
参考文献:http://technical.cloud-journals.com/index.php/IJAMME/article/view/Tech-583
2020年11月3日火曜日
ステンレスは水素雰囲気で焼結すると良い理由
「ステンレス鋼の品質を最大化するためには水素雰囲気での焼結が良い」ジャーマン先生の寄稿から復習する。
理由は2つ
1 酸化クロム膜を還元させる。錆びにくいステンレス鋼の特徴は、高クロム12~20wt%による酸化クロム膜が存在するため防錆能力が高いことである。しかし、焼結の側面から見ると、その膜が負に働き焼結を困難にさせる。水素はこの膜を還元し除去するので焼結性を向上させることができる。反応生成ガスの水蒸気H2Oは炉外へ掃き出される。
2 クロムの蒸発を押さえる。蒸気圧の高いクロムは、真空焼結中に蒸発して減っていく。水素を流すことで真空度を下げて蒸発を防ぐ。
欠点は、高純度水素が高価なこと。
【珈琲ブレイ句】私は、量産品で、水素雰囲気での脱脂・焼結を行ったことはありません。鋼の要求仕様を水素を使わなくとも溶媒1次脱脂、2次脱脂・還元・焼結で、相対密度97%程度のMIM焼結体を造ることができるからです。さらに高見を目指す場合(完全密度化)には水素が必要になるかもしれません。ジャーマン先生は、Ar雰囲気焼結の事を「デフォルト」と表現しています。Ar焼結は基本で、水素焼結は応用の上級者向けという事ですね。
「MIM指南書」内の脱脂焼結条件はデフォルトを基準にしています