MIMフィードストック材料の流動性評価法で一番好きなのは、キャピラリーフローである。せん断速度と見掛け粘度のグラフで、MIM材は擬塑性流体なので両対数で右下がりの直線になる。直線全体が平行して上に行くほど流動性が悪く、右下がりの傾きが大きい程せん断速度に対する感度が高いということがわかる。しかし、実際の射出成形の射出速度は、せん断速度に直したらどのくらいになるのか直感でわからない。そこで、普通の成形機を事例にして計算してみた。
【MIM技術伝道士の深すぎるブログ from 2017】 20年間体で覚えたMIM(金属粉末射出成形)製造技術と技術書や論文で学んだMIM理論やMIM最新情報、さらに金属AM(MIM-Like AM、SBAM分類のMEX、BJT等)情報をわかりやすく解説しています。
2022年6月27日月曜日
せん断速度と実際の射出速度の関係?
2022年6月26日日曜日
ホットランナー金型について
MIMの成形で、ホットランナー金型を使うことを空想しながら、今後のためにまとめておく。
《利点》①スプルーとランナーが発生しないので再利用を考えなくてよい。②材料歩留りが高いので、安価な大量生産に向いている。③ランナーの固化が無いため保圧を十分かけられる。
《欠点》①金型費が高い。②材料替えの手間がかかる。③マ二ホールドは分解掃除できない。④マニホールド内の滞留材料が炭化しやすい。⑤基本ピンポイントゲートの方案になる。⑥そのためスラグウエルが無いので、炭化物の剥離片が成形体内に入りやすい。
《マニホールド掃除法》マニホールド内の残留炭化物は、燃焼除去させてからクリーニング(超音波溶媒、ドライアイス噴射等)する。 手順:金型分解→ヒーター取外し→マニホールドをオーブンで焼く(大気酸化還元炉500℃)→クリーニング→メンテナンス→ヒータ組込み→ヒーター通電確認→最終組立・調整
【珈琲ブレイ句】同じフィードストックで大量に連続生産できるのであればホットランナーは有益だと感じます。海外品ですが、3STD系MIMでホットランナーを使った中物部品を見たことがあります。さぞかしメンテナンスで現場は天手古舞であろうと思いました。自社に金型工場が無ければマニホールド内の材料替えは相当厄介でしょう、外注でメンテ依頼する体制なら納期も考えて、金型を2セットにするか、マニホールドだけでも2つ以上用意する方が良いのかもしれません。
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MEXなのに表面粗さが良い展示品
【珈琲ブレイ句】先日、ビックサイトで行われた3Dプリンター展を覗くと、MEXの積層造形品なのに、やたらと表面粗さが良い展示品があった。説明を求めると、予想通り表面を磨いていた。結構大変でしょうと問うと、驚く答えが返った来た。その答えは「紙やすりでササーと磨けば短時間でできますよ。」だった。つまり、グリーン体の時に磨いているということであろう。 MIMもグリーン体(あるいはブラウン体)でバリ取は行うし、二次加工までやっちゃう事例もある。泥臭い技術も必要であると再認識できた。
2022年6月25日土曜日
HIPニアネットシェイプ工法を調べてみた
金属技研が提案する「HIPニアネットシェイプ工法」の特許明細書*1を読み解いてまとめておく。
《事例》Metal AM(CMF:Cold Metal Fusion)で製作したチタン合金製の積層体を、缶の中に入れ、その周りをSUS420J2粉末で満たし真空排気後密閉する。その後、缶ごと仮焼結(1050℃×2H、N2)を行い相対密度を60%にする。さらに缶をHIP処理(900℃×120MPa×2H)して緻密化させる。HIP処理塊を缶から取出し、酸処理(塩化第二鉄+硝酸+水)にてSUS420J2を溶かし、チタン合金の3Dモデルだけを取り出す。
【珈琲ブレイ句】MIMはそのままHIP処理か可能*2です。ハイスペックのMIMのいくつかで、全数HIPを行っていました。内部欠陥は完全に消滅し機械的性質が上限側に飽和するので信頼度抜群でした。でも欠点3つ、①HIP処理が高価な事、②納期が長いこと、③若干収縮することです。 ところで、上記事例の技術は特許になっていません。それは、新規性がないためであると推察します。事例では、仮焼結品(相対密度60%)をHIP処理するアイデアですが、金属製品(鋳物等)を缶に入れてセラミック粉末で充填しHIP処理することは大昔から行われているのです。ただ、ひとつ勉強になったことがあります。それは、SUS420J2を酸で溶かしてチタン部品を取り出すという大胆なところです。それなら、逆に反転形状のSUS420J2部品を取り出したいのなら、アルカリ処理でチタンを溶かせばできるということですね。注意:危険作業、局所排気要、産業廃液処理要、良い子は真似しない。
*1 特開2004-149826(未請求)
*2 表面に貫通している内部不良はHIPで完治しません。
2022年6月24日金曜日
【MIM指南書(増補・セルフ)】冷却開始温度の注記追加
【MIM指南書(増補・セルフ)】P134 図4.26
注記として手書きで追加願います
工程10の炉冷開始温度700℃ に対して、『オーステナイトステンレスの場合は、900℃の方がよい。理由は、鋭敏化温度(600~800℃)区間の滞在時間を極力短くさせるため。』
【珈琲ブレイ句】正直700℃から冷却でオーステナイトステンレス鋼も処理していましたが、よく考えると900℃の方が3つの良いことがあると気が付きました。1つは、上記の鋭敏化を避ける効果が期待できる。2つ目は、処理のサイクル時間を少し短くできる。3つ目は、疑似的溶体化処理ができる。
2022年6月21日火曜日
結晶微細化について無責任に考える
【珈琲ブレイ句】ひとつ前のBLOGで金属酸化物が結晶微細化に貢献する?という論文の話題を載せました。技術分野は異なりますが、ロストワックス精密鋳造でも、スーパーアロイなどでは結晶組織の大きさが問題となり、その微細化のために酸化コバルト粉末(コバルトブルー)等を鋳型初層に使うものがあります*1。溶湯が凝固するときに酸化コバルトを種にして微細な結晶組織をつくるものです。注意点は、せっかくできた微細結晶が、潜熱で成長する前に冷却凝固を終了させることでした。MIMは粉末冶金なので、この技術は関係ないのかもしれませんが、液相焼結が発生する高炭素鋼などの結晶粒界の成長を、ほんとうに抑制する効果があるかもしれません。そうなれば、焼結温度の炉内バラツキに影響を受けない頑健なロバスト性の高い材料ができるかもしれません。以上、備忘録として記載。
*1 ロストワックス精密鋳造法 日本鋳造協会 産業図書 P87
2022年6月9日木曜日
【MIM指南書(増補・セルフ)】気泡 への追記
【MIM指南書(増補・セルフ)】P174 5.14
5.14 気泡 原因3のCOガスに対する対策として下記を追記してください。
【対策】9 Ar雰囲気分圧焼結の圧力を下げる。ただし、Cr等の蒸発に注意(P138)すること。また、関連P142参照のこと。
∵WA-SUS316L(D50=8μm)、焼結Ar雰囲気の分圧を大気圧に設定したときと5Torr(666Pa)の時では、焼結体内に残留する気泡(COによるもの)は、5Torrの方で激減していた。これは、COガス圧力と雰囲気の圧力差が大きい程、焼結体(閉気孔生成期)からCOガスが抜けやすいため。
【珈琲ブレイ句】上の対策の前にやるべきことがあります。それは、MIM部品の肉厚を薄くするスマート設計です。肉厚が薄い方がCOガスは物理的に抜けやすくなるのです。部品のリブ構造化、肉盗み追加等の形状設計が重要です。一方、この論文は次のような副作用を示唆しています。それは、「内側の細孔に閉じ込められたCOガスは、冷却中にシリコン、クロム、鉄などの金属元素で再酸化される。それは、結晶微細化に貢献するので、これらの金属酸化物がなくなると、深刻な粒子成長を引き起こす可能性がある。」というものです(なるほど!でもほんとうかな?)。しかし、一般のSUS316Lで結晶粒子サイズが要求仕様に登場することはほとんどないので、副作用は気にせず焼結密度が上がる方向の上記対策は、お勧めです。
《参考文献》JIN MAN JANG ,WONSIK LEE, SE-HYUN KO , CHULWOONG HAN , HANSHIN CHOI:“OXIDE FORMATION IN METAL INJECTION MOLDING OF 316L STAINLESS STEEL”, ARCHIVES OF METALLURGY AND MATERIALS Volume 60 2015 Issue 2
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2022年6月6日月曜日
歩留りについて
歩留まりを次のように説明している用語解説サイトがある。『歩留り = 良品数 / 製造数』これは部分的に正しいが完全ではない。この式であれば良品率であろう。
正確には『歩留り=製品の出来高 / 原材料の消費量』である。例えば魚屋なら、マグロ一尾を基準とした時の店頭で売れる商品の割合である。商品にならないものは、不良部位、骨の間のロス肉、鱗、骨、尾ひれ等廃棄されるものである。このように不良品だけが計算対象のロスではない。
【珈琲ブレイ句】MIMの場合のロスを考えてみると、成形品のゲートカット片やバリ、工程内不良、製品出荷検査不良がすぐに思いつきます。さらに、成形で発生する「スプルー、ランナー」の再生材(リターン)もロスの一部でしょう。MIMの場合は再生材は100%再利用できるので、工夫(費用は掛かるが)をすればロスを減らせすことがでます。その際の問題・課題は、再生材はバージン材と全く同じものでは無いということです。それは、密度や分子量が微妙に変化しているからです。それを如何にコントローして使い切るかが勝負ですね。ホットランナー金型も使いづらい、多数個取りにすると品質が安定しない、方案設計を見直す、等々。改善テーマは山積みです。《ことば》歩留りの語源。 歩(ぶ:自分の取り分)を如何にたくさん留めるのか。この自分の利益を如何に多くするのかを計る尺度が歩留りの語源だそうです。