2024年10月30日水曜日

品質工学と実験計画法の違い

 【珈琲ブレイ句】このBLOGでは、多くの品質工学(タグチメソッド)を使ったMIMのパラメータ設計の事例を紹介しています。タグチメソッドとして紹介していますが、実は純粋な品質工学ではなくて従来の数理統計学を使った実験計画法の事例が多く含まれています。この傾向は特に海外の論文に多く散見されます。なぜそうなのか考えると、その理由は田口玄一先生の業績が偉大すぎたからだと思っています。

品質工学は、「タグチメソッド」とも呼ばれています。タグチメソッドは田口玄一先生が独自に開発した革新的かつ独創的な工学です。一方、数理統計学者の必読書でバイブルの「実験計画法上・下 丸善」の著者も田口玄一先生なのです。どちらも田口玄一先生の業績なのです。というわけで海外で「タグチメソッド」が名前から作られているので、品質工学と実験計画法の区別があいまいになっていると思われます。どちらもたいへん素晴らしいのですが、目的・手法が異なるのです。この2つは何が違うのかをまとめておきます。



従来の実験計画法では左図のAを最適解としますが 品質工学では、Bが最適解と考えます。品質工学では、市場に潜む外乱誤差・環境誤差の下でシステムの出力品質が安定する設計を追求するためです、つまりロバスト性(頑健性)の高い設計品質を求めるのです。出力の最大値はAですが、AとBの入力のバラツキを考えると、出力のバラツキはBの方が少ないことを読み取ってください。ベストではなくベターを選んで誤差に対する頑健性を追求しています。

2024年10月29日火曜日

4方式のMEXの特徴をまとめる

MIM-Like AM(Sinterbased Metal AM)のMEX積層3Dプリンターは、大きく4種類に分類できる。その特徴をまとめておく。

『フィラメント方式』巻き線状の成形材料を使って溶融積層するもの。射出機構は、材料側面をギヤ等を使って送り出す。成形材料を巻き線にするために、相対的に粉末量が少なめでバインダーは柔軟性が高く、事前に予熱して軟化させることが推奨される。また一部では、材料の外周にスキン層70μmを形成させて折れや削れを防止させているものがある。積層装置は、格安で手に入るので入門者にやさしい。また高価な量産機もある。

『プランジャー方式』棒状の成形材料を使って溶融積層するもの。射出機構は、溶かした棒状材料をプランジャで押し出す。成形材料はMIMフィードストックに近いものが使える。メーカーの用意した材料を使う。装置は高価。

『スクリュー方式』ペレットあるいは粉砕した成形材料を溶融積層するもの。加熱したシリンダーの中のスクリューで成形材料を移送しながら溶かす。溶融材はスクリュー内で加圧されるので脱気効果や若干の再混錬も期待できる。射出機構はスクリューの回転により送り出す。成形材料はMIMフィードストックに近いものが使える。材料の自由度が高く自作の粉砕材料も使える。装置は高価。

『プリプラ方式』スクリュー方式とプランジャー方式を合体させもの。竪型のプリプラ射出成型機にXYテーブルを取り付けたイメージ。

 【珈琲ブレイ句】量産が目的であれば、プリプラ方式が理想の方式だと感じています。MIMフィードストックが使えるので積層体の密度を高く成形することができれば、文字通り「MIM-Like AM」「ほぼMIM」が実現できるからです。たぶん日本の射出成形機メーカーは、密かに開発中ですよね!? made in JAPAN  期待しています。


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MIMの精度は2つの分けて考えること

 【珈琲ブレイ句】MIMの精度(カタヨリ+分散)は、2つに分けて考えるようにしています。そのイメージを図にしましたので載せておきます。SLUMP変形は「バインダー仕様設計問題」と「粉末量設計問題」、そして、収縮は「粉末量設計問題」です。粉末量はCSL(CPVP)から決定すべき設計パラメータです。


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2024年10月28日月曜日

品質とは

 【珈琲ブレイ句】「品質」についてJISで確認すると、『製品やサービスが使用目的を満たしているかどうかを決定するための評価の対象となる固有の性質・性能の全体:JIS Z 8101』ということです。ここまで抽象化されていると、どんなことにも、いつの時代であっても真理ですね。ものすごく深い。

『品質とは、製品やサービスが使用目的を満たしているかどうかを決定するための評価の対象となる固有の性質・性能の全体』


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2024年10月25日金曜日

MIMフィードストック再生材利用のポイント

 MIM成形で発生するグリーン体(成形体)以外の、スプルーとランナーを再生材として利用する方法(リサイクルあるいはリユース)についてポイントのみ箇条書きでまとめておく。

《再生材の利用法》リユース法:粉砕あるいは粒断してバージン(粉末、ペレット)に混合する。リサイクル法:バージン材と再生材を配合し混錬から作り直す。

《再生材配合比》一般的には再生材配合比は50%が主流。50%材の物性保持率は再生回数3回目からほぼ一定の90%に飽和する。

《焼結体密度》新材と再生材の焼結体密度は同等と考えてよい。

《再生材の流動性》流動性は新材より良くなる。低分子化。

《再生材の焼結収縮変動と対策》新材より焼結収縮率は小さくなる。そのためバインダー体積消失相当の樹脂を適量配合しチューニングする必要がある。

《管理特性》フィードストック密度、フィードストックの流動性、焼結体の収集率


【珈琲ブレイ句】MIM方案設計によって発生するスプルーとランナーの比率はMIMメーカーによって異なるので各社固有の再生材混合比率があると思われます。できるだけ再生材が在庫にならないように比率を決めるべきです。

一番現場で問題になるのは、焼結体の寸法不良です。バインダー消失(揮発)による寸法増加。さらに逆方向の、低分子化(流動性向上)に伴う成形体重量微増による寸法微増。これらの総効果による平均値のカタヨリが課題になります。

その課題を解決させる方法として田口メソッド・パラメータ設計が有効であると確信しています。具体的には、誤差因子を再生回数、制御因子に欠損部分の樹脂添加量、成形条件因子を含めた解析結果から、ロバスト性の高い最適な成形条件がわかり、樹脂添加量と収縮率の線形式を計算させることが可能です。

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2024年10月22日火曜日

開発のフロントローディングの波に乗るためには

 【珈琲ブレイ句】最近、『開発のフロントローディング』という言葉が頻繁に出てくるようになりました。これは文字通り「前倒しで開発を進めること」ですが、ひと昔前の「コンカレントエンジニアリング」の上位概念だと解釈しています。

企画・開発段階で設計品質を造りこめば その下流の製造で品質不良の発生が無く 市場でのトラブルも無くせるというものです。開発段階での仕様変更は、変更の自由度が大きく、変更コストが安いのです。一方、下流の製造部での変更になると逆になり、ほとんどの場合、少ししか変更できないのです。さらに重大な不適合が市場に出てリコールにでもなったら経営が傾きます。

そのためには、企画・開発の初期段階で①「デザインレビュー」をすることです。「デザインレビュー」は開発部門だけでなく、関連する生産技術、製造部門、品証部門の意見を集めることが重要です。②コンカレントエンジニアリングとしては、品質工学(パラメータ設計、タグチメソッド)、FMEA、品質機能展開等の活用等があげられます。③また、MIMの射出成形シミュレーションの活用もトライすべきです。④さらに、製品開発者は、RP(Rapid Prototyping)であるMIM Like AM(Sinter-based Metal AM、MEXやBJT等)を活用して、開発段階において実機での機能試験を並行して行えば完璧です。焼結体の形状が決定したら、安心して金型が必要なMIM製造へシフトできるのです。

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2024年10月20日日曜日

超高張力Fe-Ni鋼

『MIM指南書増補セルフ』

 MIM指南書「金属粉末射出成形ガイドブック」6.2 材料別研究論文ダイジェスト 下記内容をA5サイズで印刷し、P204と205の間に挟んでください。粉末鍛造に匹敵する超高張力鋼のMIM研究データです。


【材質】超高張力Fe-Ni鋼, Fe-4~8Ni・0.4C,混合,

   CIP: 3.65μ, WA-Ni: 6.43μ

【バインダー/配合比】

 APP:PW:CW:SA=20:69:10:1,  50~60VOL%

【1次脱脂条件】溶媒,ヘプタン, 60℃×4H

【2次脱脂,焼結条件】加熱, Ar, 600℃×1H,

 予備900℃×0.5H,真空, 1250℃×1H

【熱処理条件】Ar, 900℃×0.5H,油冷, Ar, 200t℃×1H

【焼結密度】95%以上, HV600

【機械的性質】 引張強度MPa&疲労強度MPa

 Fe_4Ni・0.4C : 1900, 520

 Fe-6Ni"0.4C : 2040, 650

 Fe-8Ni-0.4C : 1660, 611

 参考 4600 : 2120, 650

【備考】Ni6%で4600粉末鍛造鋼に匹敵する引張強度と疲労強度を得られた。

【文献】三浦秀史,長田稔子, Ziqi Song, 安井健太,工藤健太郎,”Fatigue properties of MIM super-high strengthened Fe・Ni steels with heterogeneous microstructures, POWDERMET2C116 Conference, June 5-8, 2016, Boston, Massachusetts, USA" ,Powder Injection Moulding International September 2016

チタン合金(Ti-6Al-4V)

 『MIM指南書増補セルフ』

 MIM指南書「金属粉末射出成形ガイドブック」6.2 材料別研究論文ダイジェスト 下記内容をA5サイズで印刷し適切な大きさに切り抜いて、P224の下へ貼り付けてください。

【材質】Ti-6Al-4V+1%C, AP&C,プラズマA, <25μm

【バインダー/配合比】NRC独自,グラファイト1%添加

【1次脱脂条件】溶媒

【2次脱脂,焼結条件】加熱800-900で, 1250℃x 8H,真空

【焼結密度】97.4‰ 1%C添力で緻密化最大化, HRC31

【機械的性質】YS=761MPa, UTS = 1055MPa,伸び= 14.4%.

 ASTM F2885 : YS=680MPa, UTS = 780MPa,伸び>10%

 ASTM F2885(HIP):YS=830MPa, UTS 900MPa,伸び>10%

【備考】TiCが粒界を固定し,さらに微細化作用,機械的性質向上,

 耐摩耗性も向しAP&Cにより1%炭素添加技術で特許出願。

【文献】March 2016 Powder Injection Moulding International

 Vol.10 No.1 P71   

CCM合金 Co30Cr6Mo

『MIM指南書増補セルフ』

 MIM指南書「金属粉末射出成形ガイドブック」6.2 材料別研究論文ダイジェスト 下記内容をA5サイズで印刷し、P216と217の間に挟んでください。人工関節で使用されるCCM合金のMIM研究データです。

【材質】CCM合金(Co30Cr6Mo),WA平均20μm

【バインダー/配合比】33vol%(パームステアリン40vol%,LDPE60vol%)

【1次脱脂条件】溶媒脱脂,n-ヘプタン×15分

【2次脱脂、焼結条件】加熱脱脂:Ar,2℃/分,450℃×1時間

 焼結:2℃/分,1350℃×2時間

【焼結密度】93%(1350℃) 参考:87%(1300℃),76%(1250℃)

【機械的性質】US=700±20MPa,PS=490MPa,伸び=10%,硬度540Hv

【備考】Co30Cr6Moの融点1390℃、亀裂防止のため加熱は低速のこと。

 ISO 5832-4規格:US≧665MPa,PS≧450MPa,伸び>8%

【文献】Azizah WAHI,”Effect of Sintering Temperature on Density, Hardness and Strength of MIM Co30Cr6Mo Biomedical Alloy” J. Jpn. Soc. Powder Powder Metallurgy Vol. 63, No. 7



2024年10月19日土曜日

2C-MIM実験を考察する「17-4PH+316L 」

 《実験条件》バインダー(パームステアリン酸:PE=50:50)、粉末量は臨界粉末体積率 (CPVP) 測定から決定された(SS17-4PH=72VOL%、SS316L=64VOL%)、金型は引張試験片で2種材料を中央で合流させる。金型温度=35℃、射出温度=150~175℃、保圧=145~150bar、一次脱脂:溶媒(ヘプタン60℃×5H)、加熱脱脂(500℃)、一次・二次連続加熱脱脂・焼結(加熱脱脂16H、500℃×1H+焼結1250℃×3H、全行程時間65時間)

《結果》溶媒脱脂品は接合が不十分。加熱脱脂品は溶け発生。一次・二次連続加熱脱脂・焼結品は接合に成功した。

参考資料:Najlaa Nazihah Mas’ood1, Abu Bakar Sulong1, Norhamidi Muhamad, Farhana Mohd Foudzi, Farrahshaida Mohd Salleh,”The Study of Sintering Behavior of Stainless Steel 17-4PH-Stainless Steel 316L for Two Materials Powders Injection Molding (2C-PIM) Process ” Journal of Mechanical Engineering Vol 16(3), 67-77, 2019  

【珈琲ブレイ句】この論文からの学びは2つ。ひとつは、焼結プロセス中の収縮挙動を膨張計で測定しSS17-4PHとSS316Lがほぼ一致することを確認していること。二つ目は臨界粉末体積率 (CPVP) から決定された粉末量がSS17-4PH=72VOL%、SS316L=64VOL%であること(SS17-4PHの72VOL%は凄く多い!!すばらしい!! 粉末仕様が不明なのが残念。)。失敗事例として溶媒脱脂で接合面に隙間が発生したとの報告がありますが、そもそも”金型温度35℃”が低すぎると感じます。成形体の接合面がミクロ的に密着していなかった可能性がありますパームステアリン酸の融点55℃の金型温度で保圧による融着をさせた方がよかったのでは?)。また、成功した連続加熱脱脂焼結の時間が65時間はかなり長いですね、バインダー仕様が単純なのが原因でしよう。現在、日本製の市販バインダーと脱脂焼結炉なら24H未満も十分可能です。すばらしい研究論文です。たいへん勉強になりました。

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2024年10月15日火曜日

WORLD PM2024 YOKOHAMA展示会のみどころ

展示会場で凄いと思ったもの4選。2024/10/15

①大手樹脂メーカーから『MIMの素』が発売される。MIM用粉末にこの「MIMの素」をブレンドして混錬・造粒(粉砕)すればMIMフィードストックができる。商品名:TENAC-P PT120(3STD系)、TENAC-C FF520(BASF系)、Asahi KASEI

MIM専用プリプラ式射出成型機。射出成形時のプランジャのロック停止問題を解消し、副作用の材料漏れを防ぐプランジャガイドが追加された。漏れを防ぐ理屈は、射出圧を利用してガイドを弾性変形(くさび効果)させ、ガイドとプランジャの隙間を絞ることによる。したがって、射出と材料漏れを止めるタイミングは完全に同期する。商品名:m-MIM(マイクロミム)、SODICK

③-1 高タップ密度水アトマイズ粉末(酸素も少なめ)。平均粒径8.5μm、TD4.6g/cc、比表面積0.25m2/g、酸素量2900ppm 商品名:AT316L-H PF-13F、ATMIX

③-2《後日送られてきたデータシートより》高タップ密度水アトマイズ粉末、平均粒径8.56μm、TD4.76g/cc、比表面積0.24m2/g、酸素量2400ppm 商品名:AKT316L-S3(8) 三菱製鋼

④プラズマ粉末球状化装置。融点が高い金属や酸化しやすい金属*を超高温(3000℃超)で粉末化する。(*タングステン、チタン合金、アルミ合金、タンタル)球状でサテライトやコンタミが無い。すでに完成された成熟技術であるが現在AM用粉末としてその有益性が再認識されている。TEKNA

 【珈琲ブレイ句】ついに大手樹脂メーカーから「MIMの素」が発売されました。MIMを始める敷居がかなり低くなりました。従来から「MIMの素」は存在していましたが、原料の大手樹脂メーカー自ら商品化したのは凄いことです。まだキャピラリーフローのデータが発表されていなかったのが残念ですが、自社開発の超流動性POMを使っているはずですから成形性は抜群に良いはずです。

とりあえず③の粉末と、MIM指南書P76の(2)式で推定した量の「MIMの素」を混合すれば相当良いものができると思います。

《蛇足》m-MIM射出成型機のプランジャガイドは弾性変形しない可能性もあるなぁと感じましたが黙って聞いていました。初めから15μm程度のクリアランス設計であれば流入しないので問題無しでしょう。個人的には従来タイプの材料漏れは気になりませんでした。理由は3つ、材料漏れ量がたいへん少ないこと。プランジャとシリンダー間の材料は絶対に逆流しないので材料替え混入が無いこと。さらに残留時間も短いので熱履歴による炭化膨張によるロックを防止できるためです。申し訳ないけど、クリアランスが大きすぎるのでm-MIM成形機は選びません、従来の仕様をベースに逆止弁外径を適量*1だけ細くしてもらいます(あくまでも私見です)。

*1 関連BLOG

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2024年10月14日月曜日

二峰混合の威力2(耐変形)

 二峰混合の威力第二弾、スランプ変形に関する論文の結果のみ記録する。《粉末3種》「F」WA-AKT316L(2.5)平均粒径2.67μm、「M」WA-AT316-H(PF-5F)平均粒径4.46μm、「L」GA-316L平均粒径13.57μm、《実験の二峰混合粉末》F:L50%、M:L50%、L100%(比較用)、バインダー量31VOL%統一《脱脂焼結条件》1次脱脂:ヘプタン蒸気58℃×4H、二次脱脂:600℃×2H、焼結1350℃×2H、Ar 《結果(変形量)》L100%≒0.9mm>M:L50%≒0.4mm>F:L50%≒0.3mm

【珈琲ブレイ句】F:L50%が一番変形が少ないという結果であり納得です。ただ、すべてのフィードストックはバインダー量が31VOL%なので「L」ではバインダーが多め、「F」では少なめの可能性があるように感じます。でも、各CSL+2~5VOL%のバインダー量設計によるフィードストックで同じ実験をしても順位は変わらないでしょう(有意差は多少減る?)。また、配合比も50%だけでなくその中間に最適解があるように感じます。

《野面積み効果》二峰混合の威力は、微細粉末が大きな粉末を固定する接触点を多くできることです。これは、鶴ヶ城や浜松城の野面積み(のらづみ)のように、大きな石と石の間にできた隙間に小さな石を詰めることで重力が分散され強度が高くなることと同じだと考えます。

参考文献:T. Osada, R, Sakurai, R. Hashikawa, F. Tsumori, H. Miura, K. Toda: “Deformation Control of Large Sized MIM Parts by Charging the Powder Size Distortion” Japan Society of Powder and Powder Metallurgy, Vol. 62, No.3 (2015) pp. 108-113

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2024年10月10日木曜日

相対密度を考える2(高密度化)

 【珈琲ブレイ句】◆焼結で高密度化させるためには一番何が必要か考えてみました。現在の結論(私見)は「グリーン体密度を大きくすること」これは「粉末の粒子間の接触点数の総和を増やすこと」です。具体的には2つ。「微細粉末を使う」もう一つの方向は「二峰分布配合、多峰分布配合」です。そしてこれらを使うフィードストックは「可能な限りCSLに近いバインダー量」にすることです。焼結体が高密度化するだけでなく高精度化も両立できます。◆数十μmの大きな粉末では焼結密度は上がりません。一方、十µmから数µmで密度が向上しますが、さらに細かくサブミクロンにしても逆に高密度化に貢献しません。また、微細粉末になるほど必要なバインダー量は増加し(収縮が大きくなり)焼結体の精度を低下させる恐れがあります。「二峰分布配合」「多峰分布配合」はMIMだけでなくMIM-Like AM(Sinter based Metal AM、BJT、MEX)もたぶん同じです。

関連BLOG「二峰分布混合の威力

関連BLOG「二峰分布混合の威力2(耐変形)

◆大きめの粉末に微細粉末を混ぜる二峰分布配合はMIMフィードストックで実際に使われています。MIMやMEXはバインダーと混錬するので問題になりませんが、パウダーベッドを使うBJTでは微細粉末の流動性が問題になってきます。粉末床のかさ密度が向上しないので、グリーン体の密度を最大化できない課題があると思われます

関連BLOG「バインダージェット法に用いる積層造形用金属粉末材料」

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2024年10月9日水曜日

品質工学パラメータ設計事例7 特性値:焼結密度

 最終焼結密度を特性値としたパラメータ設計の論文を記録する。

《実験計画》粉末:SUS316L、OSPREY、d50=13.0μm、TD=5.0g/cc バインダー:PMMA,PEG,PW,SA(65,8,25,2vol%)脱脂:水脱脂+加熱脱脂(ウイッキング) 試験片:MPIF-50 パラメータ設計:直交表L27,制御因子8種

《結果》寄与率の高いものから、焼結温度:右肩上がり最大1360℃、昇温速度:上凸12℃/min、焼結時間:右肩上がり最大120min、冷却速度:上凸10℃/min、焼結密度:7.6g/cc

参考論文:Praveen Pachauri, Md. Hamiuddin  "THE EFFECT OF SINTERING PROCESS PARAMETRS ON FINAL DENSITY OF SINTRED PARTS PRODUCED BY USING METAL INJECTION MOLDING (MIM)" Noida Insitute of Engineering and Technology, Greater Noida, AMU, Aligarh, India ,TRANSACTIONS OF PMAI, VOL. 43 (2), DECEMBER 2017

【珈琲ブレイ句】パラメータ設計の醍醐味は、水準の効果が上凸の非線形になった時です。この上凸(山)の頂上が最適水準なのです。この報告では焼結温度と冷却速度が上凸になっています。

本題ではないのですが、結果の一部を図示した「Contour Curve」がすばらしい(下図)。2因子を軸とした焼結密度の高低を山の高さ(地形図)として表現したものです。地図では左上と右下に丘の頂上があることがわかります。直交配列実験をしているので2因子の推定値で図示できるわけです、わかりやすくて素敵です。でも、2因子だと地形図として表現できるのですが、3因子だと四次元、4因子だと五次元空間になるので地形図は図示できません。そこで多次元空間を扱うパラメータ設計の登場となるわけです。


関連実験:品質工学を使ったMIM焼結実験(特性値:衝撃強度) 

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2024年10月8日火曜日

品質工学パラメータ設計事例6 Co-30Cr-6MoマイクロMIM

 マレーシア・ペルリス大学のタグチメソッドの論文(2014)を記録する。

《実験計画》粉末:Co-30Cr-6Mo(20μm、TD=5.20g/cm3、CPVP=67Vol%)、バインダー:PS+PE系、バインダー量は不明(33+α Vol%)金型:マイクロダンベル(全長9mm、ダンベル径Φ2.6mm、厚さ0.8mm、ゲート厚さ0.32mm)、直交表:L18、特性値:グリーン体密度の望目特性、制御因子:A射出温度(160,170,180℃)、B射出圧(9,10,11bar)、C金型温度(100,110,120℃)、D射出時間(6,7,8s)、E保圧時間(6,7,8s)

《結果》寄与率の高い順。射出温度は一番高い第3水準の180℃、射出圧は第2、3水準の10~11bar、金型温度一番温度の低い第1水準の100℃。確認実験で推定値内にはいることを確認した。密度=5.222~5.450g/cm3

参考論文:Azizah Wahia, Norhamidi Muhamada, Hafizawati Zakariab ”Optimization of 67% Powder Loading Co-30Cr-6Mo µMIM Part by Taguchi Method ” Department of Mechanical and Materials Engineering, Faculty of Engineering and Built Environment,University Kebangsaan Malaysia

【珈琲ブレイ句】L18を使った正統派のパラメータ設計です。面白いと思ったのは、20μm(たぶん20μmアンダー)の粉末でマイクロMIMの金型を使っているところです。金型のゲート厚は0.32mmと極薄ですが立派に成形できるんですね。実験の範囲内で、射出温度の最大180℃がグリーン体密度を高めます。これは流動性が高くなったためでしょう。次に射出圧は高いほど良いのですが10と11barではあまり差がなくなっているので、多分ゲートが小さすぎるためだと思われます。そして金型温度は一番温度の低い100℃が一番高密度に貢献しています、なぜでしょうか? 交互作用の影響は理解できないこともあります。でも確認実験で再現しているので「なぜそうなるのかがわからなくても」技術としては問題はありません。「Why」を後回しにして「How」で進むのが技術道です。

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