2025年12月13日土曜日

型技術1 2026 Volume 41 No.1

 【珈琲ブレイ句】

MEX 方式金属積層造形のパラメーター設計の研究事例が無事に掲載されました。技術誌の発売は12/16(火曜日)。タグチメソッドを使ったパラメータ設計の事例です。


型技術1 2026 Volume 41 No.1

MIM 技術者が解き明かす金属フィラメント3D プリンタ

─L18 直交表を用いたMEX 方式金属積層造形のパラメータ設計─

浜松メタルワークス 谷川啓人、小杉峰弘



2025年12月9日火曜日

新CMF =SLS造形+脱脂+焼結

 CMFとは、Cold Metal Fusionのことです。いろんな方式がありますが、一番お手軽な技術としては、通常のFFF/MEXプリンターを使用し、金属粉末が大量に含まれたバインダーフィラメントを熱で溶かし、層ごとに押し出して積層造形したグリーン体を脱脂焼結するAM技術(Sinter Based Metal AM)があります。

ここでは、新しい技術である『新CMF』を共有化します。新CMFは、MIM用粉末とバインダーを混錬および造粒させて作ったCMF複合フィードストック(40~100μm)を敷き詰めて、レーザーによるSLS造形(Selective Laser Sintering)を行い、溶媒脱脂をして焼結する技術です。

新CMF =SLS造形+脱脂+焼結

MIM用粉末を使っているので焼結密度がMIM相当、バインダー量も35VOL%レベルで、収縮率が14%とMIM相当です。

《新CMFの工程》

①フィーダーモジュール(Powder feed tub)にCMF複合フィードストックを敷き詰めて圧縮する。稼働率を上げるため別工程で行い台車式により次工程②へ移送する。 

フィーダーモジュールをビルドモジュール(Build tub+レーザー照射)装置にセットする。

③レコーター(Recoter)によりフィーダーモジュール上面の1層分だけ盛り上がったCMF複合粉末をかき取り、隣の一層分だけ下がったビルトモジュールの最上部へ移動させ敷き詰める。

(おそらく、レコーターで移動させるCMF複合粉末の量は、移動先のビルトモジュール一層分より多めになっていると推察する。理由は、圧縮して高密度化させるため。溢れた材料は100%リサイクルに回す。)

④ビルトモジュール上部のフュージョンモジュールから、レーザー照射を行いモデルの一断面を焼結する。焼結といってもバインダーを溶かすだけの低温である。 

 (説明では50℃としている。おそらくレーザーのエネルギーが当たった際、ワックスの熱によって高分子結合材が同時に溶融・軟化し、金属粒子間により強固な分子結合を形成すると思われる。あるいは、粉末床の温度が50℃で、レーザー照射部の温度は結合材の軟化点より高いかもしれない。そうであれば、瞬間的に溶融固化させワックス類のブリードを発生させないようにしていると思われる。)

⑤グリーン体を粉末床から取り出して刷毛を使って付着している粉を取る。作業者は防塵マスクをしている。

⑥ウォーターブラスト装置で水ジェットによりグリーン体を洗浄する。

(かなり高圧な水ジェットに耐えられるグリーン体強度を持っていることがわかる。)

⑦溶媒脱脂(LOMI)で一次脱脂を行う。

⑧二次脱脂・焼結 12~15時間

情報元:Headmade Materials社(独)のホームページ および YouTube YouTubeでビルトモジュールと説明している台車は、おそらくPowder feed tub(カセット式粉末床)のことだと思われる。


【珈琲ブレイ句】この『新CMF』は、Sinter Based Metal AMの中でトップ技術の予感がしますフィラメント式MEXは、バインダーが多いので収縮率が大きいという課題があります。また、BJT方式ではMIM用粉末は流動性の問題で使えないため大きな粉末が使われるので焼結密度を高くすることができない課題があります。 一方、この新CMFは、微細なMIM用粉末が使え、その粉末で作ったCMF複合フィードストックの粒径は40~100μmなのでBJTと同様のレコーター方式を採用することができます。

《Headmade Materials社の新CMFの優位性を下にまとめておきます。》

コスト効率:既存の安価なポリマー用SLS装置を利用可能。高価なレーザーや不活性ガスが不要。

高生産性:モジュラー運用により、造形完了後のフィーダーモジュールを素早く交換し、プリンターの稼働率を最大化できる。

安全性の向上:金属粉末がバインダーで包まれているため、微細な金属粉末の取り扱いリスク(粉体爆発性、健康被害)が低減される。

材料リサイクル率:低温造形により、未使用の粉末が熱劣化しにくく、100%に近いリサイクル率を実現。MIMのスプルーランナのリサイクルより有利。

《蛇足》昔、日本のリコーさんが、複合フィードストック粉末を使った溶媒ジェットプリンターを研究開発されていたことがありました。違いは、「溶媒で低分子バインダーを溶かす」ところです。現在、なぜ新CMFは実用化できたのか? その理由を考えると、「レーザーの方がエネルギー量を調整しやすく、溶媒に不溶な材料も使えるためバインダー設計の自由度が高い」ことだと推察しています。


2025年12月3日水曜日

アルミニウム合金の超々ジュラルミンはMIM向き

アルミニウム合金の中で最高クラスの強度を持つ超々ジュラルミン(A7075)は、MIM向きの適材ではないかと感じる最近(2024)の論文を共有化しておきます。

《条件》粉末:A7075アトマイズ粉末、10μm

バインダー:POM(85%)、PP(13%)、SA(2%) 、36VOL%

一次脱脂:触媒、二次脱脂:加熱500℃(N2)、焼結:610℃(N2)

《結果》焼結密度:2.75g/cm3(97.57%)、収縮率:10.77%、引張強度214.8MPa

【珈琲ブレイ句】A7075の引張強度は、C材で270MPaなので約80%の引張強度が出ていることになります。さらに熱処理(T6、溶体化+時効)を行えばおそらく500MPaは超える可能性があります。一方、ロストワックスのAC4C-T6は、約 300 〜 350MPaですから、MIM製A7075(T6)を実用化できれば高強度軽量化ニーズへの魅力的な商品になるのではないでしょうか。

なぜ「超々ジュラルミンはMIM向き」と感じるのかというと、成分中のMg、Si、Cuが良い働きをするからです。焼結温度が610℃になるとマトリックス中のMg2SiとAl2Cuの液相が粉末粒子間の隙間を埋めて、アルミ粉末間の焼結ネック形成が進行していくからです。アルミニウム合金の『液相焼結』に有利な添加物を元々含んでいるのがA7075ということです。

この論文には伸びしろがあります。それは、バインダーが36Vol%と大変多いので、高TD粉末を選び、そのCSLからバインダー量を最少化させる設計を行えば焼結密度をさらに向上させることができると思います*1。結果として引張強度だけでなく、寸法精度も向上できることになります。

参考文献:Microstructure and mechanical property of high-density 7075 Al alloy by compression molding of POM-based feedstock, Heng Zouら、Journal of Materials Research and Technology 32 (2024) 4387–4399 

*1:MIM指南書 P68、3.3バインダー量設計の実際

2025年11月29日土曜日

焼結体の炭素増について

 【珈琲ブレイ句】焼結体の炭素量を規格に入れる量産試作が完了。順調に量産を行っていると、ある日突然に炭素量が規格値をオーバーすることがあります。したがって、市場への流出を防止するためには、焼結ロット単位で炭素分析の抜取検査を実施することが必要です。さらに、焼結体の炭素増加の原因への根本対策を行うことが重要です。

 焼結体の炭素増加の主要因は、「脱脂焼結炉の設備管理上の問題」にあります。これは、二次脱脂工程で発生したバインダーの熱分解ガスが、仮焼結体へ再付着(浸炭)することが原因です。処理チャートを確認することで、その兆候を発見することができます。危険のサインが現れたら、排気系の清掃、ロータリーポンプのオイル交換や分解清掃などを実施し、排気能力を回復させます。さらに、早めの設備管理計画を作り、実行し、常に安心安全な焼結炉を確保できれば万全です。

 詳細な原因と対策については、『MIM指南書』を参照してください。P140「炭素量不適合(high carbon)」、P180「5.19 C%規格外れ」に記載しています。

MIM指南書を見る

2025年11月25日火曜日

MIMは成熟技術を超え「再成長期」の革新技術になった

【珈琲ブレイ句】MIMが革新技術になった理由をまとめておきます。ここで記載するAMとは、金属AMの中の「Sinrerbased Meal AM, MIM Like AM」で、粉末冶金技術が必要な3Dプリンターのことです。

1.MIMは、AMとの相互作用によって新しい価値が生まれている「第二の成長期」である 

 AM向けの金属部品が急増 → MIMメーカーが新市場を獲得

 ・AMでは造形できても、量産コストが合わない部品が多い。

 ・その代替として MIMが「量産版AM」の位置付けになる、つまり AMの成長がMIM市場を押し上げるという構造が生まれている

2. MIMは「量産の最適化」、AMは「形状自由度の極大化」を担当する相互補完関係

 AMとMIMは競合するようでいて、実はコストカーブが大きく異なる

 AMで形状最適化したコンセプトモデル→ 量産工程において MIM による低コスト化という 「AMで作り、MIMで量産する設計フロー」が確立しつつある。

 これは従来の「切削試作 → 金型量産」の構造を置き換える新しい製造プロセスである。

3. 参入障壁である技術的ハードルの高さが逆にMIM企業の価値を上昇させている

 MIMは工程が多く、特に 脱脂条件(バインダー化学),焼結炉の温度・雰囲気管理 ,収縮率の制御(形状予測)など高い技術力が必要。

→ AMの普及により「誰でも金属造形できる」ようになった現在、逆に高度で経験的なMIM技術の希少価値が上がっている

4. AM時代のMIMは“中間工程”として統合される可能性

 次世代の製造プロセスの1つとして、「AMでプリフォーム → MIM的な焼結で仕上げ」というハイブリッドプロセスが拡大成長する。

 AMのネックは造形速度と焼結前処理、 MIMのネックは複雑形状の成形、この2つを組み合わせることで、「AMの自由度の高い複雑形状」と「MIMの高品質・低コストの生産能力」を統合することができる。

 関連BLOG:開発のフロントローディングの波に乗るためには

5.おまけ

  AMで造形した複雑形状のグリーン体をMIMでインサート成形して、脱脂焼結にて拡散接合一体化させることも技術的には可能である。特殊フィルター、高冷却ヒートシンク、流体混合器、異材利用 etc


2025年11月23日日曜日

MEX 方式金属積層造形のパラメーター設計

 【珈琲ブレイ句】『型技術 2026年1月号』(日刊工業新聞社)のテクニカルレポートとして『MEX 方式金属積層造形のパラメーター設計』が発表されます。編集部より事前に教えていただいたタイトルは以下の通りです。

 TECHNICAL REPORT 1
MIM技術者が解き明かす
金属フィラメント3Dプリンター
~L18直交表を用いたMEX方式金属積層造形のパラメータ設計~
浜松メタルワークス(株)谷川啓人、小杉峰弘

 この技術レポートは、MIMトップメーカーである浜松メタルワークス(旧テイボー)における技術開発テーマのひとつです。L18直交表を使ったタグチメソッド・パラメーター設計なので、複数のパラメーターの効果と傾向の有意性が解明され、最適条件の確認実験と現行条件との利得計算まで行われているはずです。出版は来月12月16日です。


2025年11月22日土曜日

EVAを加熱脱脂した場合の欠点について

EVA(エチレン酢酸ビニル)はMIMバインダーの一成分として重宝されています。その理由は、相溶化・分散性向上だけでなく 、射出成形の流動性を向上させ、さらに成形体の強度を高める効果が大きいためです。しかし、欠点もあります。それは熱分解時に発生する酢酸ガスが、金属を酸化させることです。

実用上、加熱脱脂時に適切な流量の窒素ガスを流すことで問題とならないレベルまで酸化リスクを低減させています。(チタン合金などの活性金属では、ハテナ?です。)

【珈琲ブレイ句】EVAの添加が数%の場合は、大きな問題にはならないということですね。しかし、なんとMIMの元祖であるパーマテックバインダーには、EVAが約2割配合されています。確かに、とても成形性が良く成形体の強度も最高です。さらに焼結体の化学組成も問題ありません。それではどうやって上記の欠点を解決しているのでしょうか? それは温ヘキサンの溶媒脱脂(一次脱脂)でEVAを完全に除去して、二次加熱脱脂以降へEVAを持込ませないのです。流石MIMの元祖パーマテック法は、よく考えられていますね。

2025年11月20日木曜日

混錬でPMMAエマルジョンを使うメリット

混錬前にアセトンでエマルジョン化させたPMMAを使った実験の結果を共有化します。 

《実験仕様》

バインダー:PEG73%+PMMA25%+SA2%、バインダー量=35VOL%

粉末:SUS316L(ANVAL)TD=4.09,CSL=69%

PMMAエマルジョン:PMMA1gに対してアセトン4mlを加えてエマルジョン化

《結果》

①混錬物が粒状(アセトンは蒸発して無くなる)

②PMMAエマルジョンは、粉末バインダーマトリックス中のPMMAの存在を助け、均質性向上、粘度を低下させる。

③温度と圧力に対する感受性を低下させる(ロバスト性向上)。

④PMMAのバックボーンバインダー(金属粉末保持)としての機能を向上させる。

【珈琲ブレイ句】PMMAを事前にアセトンでエマルジョン化すると大きなメリットがあることがわかります。高精度化のためにバインダー量の最少化を狙うのであれば方策のひとつとして検討してもよさそうです。論文では混錬物をそのまま射出成形機に使えると書いてあります。つまり粉砕工程が省略できる可能性があることもメリットですね。一方、アセトンが混錬中に完全蒸発するので安全対策は必要です。

安全対策としては、アセトンは空気より重いので床からの局所排気と作業環境の換気を十分行い、環境中のアセトン濃度を定期的に管理する。火気厳禁遵守。設備を防爆構造にし、静電気のアースをとる等が考えられます。

《蛇足》混錬に苦労するPOMにもこのアイデアが展開できると素敵なのですが、残念ながらPOMは高い結晶性を持つ耐薬品性のエンジニアリングプラスチックなのでエマルジョン化することはほぼ不可能です。

参考論文:”METAL INJECTION MOLDING (MIM) FEEDSTOCK PREPARATION WITH  DRY AND WET MIXING: A  RHEOLOGICAL BEHAVIOUR ” Khairur Rijal Jamaludin ,Norhamidi Muhamad ,Sri Yulis  

2025年11月15日土曜日

金属の材料押出積層造形の強度は積層段階で決まる

 金属の材料押出積層造形(Metal MEX)において、市販のシステムを用いて316Lペーストの堆積と焼結について検討した研究報告があります。初期の積層から固化、最終焼結に至るまでの様々な段階における欠陥の形成と除去の性質について検討されており、結論は、最終強度は脱脂焼結工程ではなく積層工程で決定するということです。さらに、特に興味深い限界値として次の法則を共有化しておきます。

焼結状態からグリーン状態への個々の気孔の収縮、部分的および完全な閉塞の定量的な結果として、気孔が原料金属粒子のD90に相当する大きさより大きい場合、焼結時に完全に閉じることができない。最終部品の性能に大きな影響を与える。

 文献:”Defect evolution and mitigation in metal extrusion additive manufacturing: From deposition to sintering”、Sajad Hosseinimehr ら、Journal of Materials Processing Tech. 329 (2024) 118457

【珈琲ブレイ句】Metal MEXは、開放空間で積層するため、積層材料同士を密着させることが難しいと考えられます。一方、MIMは金型という閉塞空間への高速射出成形なので充填圧力を高くできます。したがって、ガス逃げが完璧であれば気泡を発生させないことも可能です。MEXの積層は相当難しい技術ですね。いかに気孔を無くして積層するかが勝負だということです。

2025年11月10日月曜日

MIMとMEXなど各種金属素形材の強度VS延性地図

 文献:”Defect evolution and mitigation in metal extrusion additive manufacturing: From deposition to sintering”、Sajad Hosseinimehr ら、Journal of Materials Processing Tech. 329 (2024) 118457、Fig. 15. 

【珈琲ブレイ句】文献で報告されている各種素形材のUTS引張強度と破断伸びの地図を載せておきます。強度と延性は二律背反の関係がありますが、やはり溶性材が両立させていることがわかります。次にMIMとMEXもなかなかの成績です。意外なのはPBFの引張強度が高い文献があることです。ただし、この地図には各種の材質が混在しているので「ザックリとした傾向」を見るだけに留めておきます。ちなみに図中のThis workはMEXです。

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2025年11月7日金曜日

AM3Dプリンティングセミナーから学んだこと

 【珈琲ブレイ句】SCSKデジタルエンジニアリングフォーラム2025DAY3に参加しました。いくつかメモしておきます。

技術的分類「Direct:粉末溶融凝固技術」「Indirect:粉末焼結技術」

①レーザー・Direct:スポット径を大小自由に制御できるレーザー発振装置「nLight社、AFX-1000」、《効果》積層時間短縮、品質良好。

②スーパーエンプラ材:SOLIZE PARTNERS社  タグチメソッドのパラメータ設計を使って設計されたミニ四駆の筐体により公式コースで1秒短縮させた。曲げ強度を重視した軽量化設計による。

③鋳造用砂型・Indirect:木村鋳造所、S-MAX(ExOne)、フラン自硬性鋳型、Metal AMとの選定境界線の目安は、鋳鋼20Kg+生産数5個の採用が多い。 生産量が多ければ従来のロストフォーム鋳造へ、小物品は苦手なので光造形3Dモデル利用の精密鋳造(そっくりCAST、DIGITAL CAST)を選ぶ。

④最近はMetal AMで試作だけでなく量産品を製造することも始まっている。その目的・メリットとは、《金型不要》リードタイム短縮、金型管理レス、設計自由度が高い《形状自由度が高い》一体化(小型化、計量化)、要素の高密度化(レイアウト自由度向上、高性能化、小型・軽量化)

データセンターで使用する『高性能ヒートシンク』の量産化はすでに始まっているようだ。

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2025年10月15日水曜日

バインダー量と伸び尺の相関関係推定表

 バインダー量(Vol%)と伸び尺(拡大率、OSF)の相関関係の推定表を載せておきます。【取扱注意】あくまでも推定表であり正確ではありません。


【珈琲ブレイ句】最近、Metal-MEXの研究事例が多く発表され始めました。個人用に、バインダー量を把握するために作った推定表です。相対密度96%の列がMetal-MEX用です。【取扱注意】あくまでも推定表であり正確ではありません。

2025年10月12日日曜日

溶融固体の金属粉末に対する濡れ性評価

溶融状態の固体(樹脂類)の金属粉末に対する濡れ性の相対比較を一覧表にまとめておきます。(注:温度、雰囲気環境によって前後する可能性があります。)

金属粉末(固体側)の条件(γc​)が同じである場合、溶融樹脂(液体側)の表面張力 (γL​) が小さい方が、濡れ性が良いと判断しています。

【珈琲ブレイ句】ワックス系ではステアリン酸SAが極めて金属粉末との濡れ性が高く、ポリマー系ではポリプロピレンPPが高くなっています。これは混錬実験での体感と一致していて「その通り」と納得できるものです。

また、先に金属粉末をSAでコーティングさせると後の混錬が楽になる等の改善は、この「極めて高い濡れ性」のお陰ですね。さらに粉末との「浸透性」という動的側面も関係しているな!と思われます。

濡れ性が悪いPMMAやPOMが主体のバインダーにはSAを添加している事例が散見されます。*1 

*1 MIM指南書 P57 表3.3 事例1

*2 【MIM指南書(増補・セルフ)】表3.3脱脂法別バインダー例 事例追加

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2025年10月11日土曜日

微粒子添加による流動性向上

 316Lステンレス鋼に3wt%のTiC粉末を添加した粉末射出成形フィードストックのレオロジー挙動を、キャピラリーレオメーターを用いて研究した結果。

TiC粒子の微量添加はPIM原料の粘度を低下させる。この効果は固体体積分率の高い系でより顕著である。さらに、流動活性化エネルギーはTiC粒子の添加により低下し、特に高せん断速度において顕著である。

316L:ガスアトマイズ粉末、12.6μm(d50)Osprey  

TiC:4μm(d50)Aldrich 

バインダー:PW53vol%、EVA30vol%、カルナバWAX15vol%、SA2vol%

文献:Investigation of rheological behaviour of 316L stainless steel–3 wt-%TiC powder injection moulding feedstock, M. Khakbiz, A. Simchi and R. Bagheri

【珈琲ブレイ句】TiC微細粉末が、大きなステンレス粉末の間に入り込み「コロ」の働きをするので流動性が改善されると思われます。この応用でTiCの代わりに固体潤滑剤であるメラミンシアヌレートを使っても流動性を向上させることができる可能性を示唆しています。また、メラミンシアヌレートは加熱脱脂中にすべて昇華消失するので焼結体金属成分に残存することはありません。

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2025年10月10日金曜日

溶媒脱脂の溶媒比較一覧表

 MIMやMetal-MEXの溶媒脱脂に使われている溶媒(溶剤)を一覧表にしてまとめておきます。


【珈琲ブレイク】◆バインダーにEVAを配合している場合は、nヘキサンが有利(一次脱脂で溶解できる)であることがわかります。◆Opten-SF79は環境負荷や安全面で優れていることがわかります。◆nヘキサンの洗浄力の数値は小いですが、沸点が高いので高温処理が可能のため溶媒能力を向上させることができます。◆nヘキサン、塩化メチレンを使うものは排気設備を充実させれば安全性を確保できます。◆nヘキサンを使った完全密閉性の溶媒脱脂装置が市販されています。この装置はnヘキサンの蒸留再生機能もあります。溶媒脱脂の溶媒には一長一短がありますね。

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2025年9月30日火曜日

【広告】入門者向けのMIM入門講座(オンデマンド)

3つの目標のひとつ『MIMを知ってもらう』活動の一環です。オンデマンドによるMIM入門講座をご案内させていただきます。

Tech Design 『金属粉末射出成形(MIM)の基礎と製品設計の勘所』

【視聴期間】お申込みから4週間(何度でも視聴できます)

【動画時間】2時間30分

【配 信】 当社Webサイト 1アカウント22,000円(税込)

【テキスト】 印刷・製本したものを郵送

残りの二つの目標は『MIMを始めたい人をバックアップする。』『MIMの品質を向上させ、製造不良を低減させる。』です。スパイラルアップを狙っている中上級者の方は当HPから本格的な講習会(質疑応答あり)や、一日の技術コンサルタント(One-Day顧問)を選んでください。お待ちしております。

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2025年9月16日火曜日

混錬造粒回数と粘度の関係

MIMフィードストックにおいて二軸スクリュー押出機による造粒を繰り返した時の粘度に関するデータを共有化します。

《結論》①混錬造粒は、3回繰り返した時が粘度が最小化し、そのバラツキ(標準偏差)も最小化(品質最大化)する。 ②しかし、4回めには、粘度および標準偏差が悪化する。この原因はバインダー成分の劣化によるものと考えられる。(私見:高分子は低分子化するので粘度は低下方向だが、レオロジー改善目的のPWが蒸発により減少するため粘度上昇する。PWの粘度上昇効果が相対的に大きい。)


MIMフィードストック:粉末4605(TD=4.2、D50=3.92)、CSL=58vol%(粉末量=CSL-2=56vol%)、PW,PP,PE,SA系   混錬造粒機:二軸スクリュー押出機(145~160℃、30rpm) 粘度測定機:トルクレオメーター

【珈琲ブレイ句】混錬(バインダーの混合、粉末の凝集の分解、粉末とバインダーの濡れの均一化)を徹底的に行えばMIMフィードストックの品質が安定することを示唆しています。しかし、バインダーの劣化があり限界があることがわかります。このデータを量産へ、どのように展開すれば良いでしょうか? 素直に、二軸スクリュー押出機で3回造粒する。混錬時間条件を上げる。混錬時間を伸ばす。いずれにしてもMIMフィードストック製造は、最終的なMIM品質の向上を目指したQCD方針で4Mを設計した方がよさそうです。実は射出成形機は混錬機能があるので再生材は2回目の材料に相当する可能性があります。ですから、再生材の配合比率の設計も同時に考える必要があります。

参考文献:”Rheological and Thermal Characterization of AISI 4605 Low‑Alloy Steel Feedstock for Metal Injection Molding Process”、Ali Askari他、Metals and Materials International (2019)

関連BLOG:2回造粒したMIMフィードストックの方が品質が安定する

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2025年9月14日日曜日

量産品のMIM精度を考える

 【珈琲ブレイ句】MIMメーカーのカタログに書かれているMIMの精度には±0.5%が多いですが、なかには±0.3%のものがあります。

この違いは、4M(Man,Machine,Material、Method)の違いですが、そもそも標準偏差の推定に使っているデータが、「粉末材料ロット内」のデータなのか、「粉末材料ロット間を含むビッグデータ」なのかで大きく違いが出てきます。

ここに、材料製造ロットが50のビッグデータで計算した精度があったので記載しておきます。

材料:市販MIMフィードストック Catamold310N

拡大率(oversize factor):1.1669

収縮率と精度:14.3% ±0.3% (材料製造ロット数:50)

私見:材料(Material)だけで±0.3%も変動するので、残りの3Mを考慮するとMIM完成品の精度が±0.5%(as sintered)は納得できますね。(さらに精度が必要な部位は二次転写や機械加工が行われています。)

《参考文献》①Analysis of Shrinkage in Metal Injection Molding 、ADVANCED TECHNOLOGIES AND MATERIALS VOL. 49, NO.1 (2024), 1-5 ②The Effect of the Holding Pressure Profile on the Metal Injection Molded Component  Dimensions after Sintering   ,ISSN 1846-6168 (Print), ISSN 1848-5588 (Online)    

関連BLOG:MIMの公差はどのくらい 

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2025年9月11日木曜日

ピンポイントゲートは保圧が効かないのか

 【珈琲ブレイ句】最近の論文から学んだこと。研究目的とは違うのですが、大きな気づきがあったのでまとめておきます。

論文は2つ「①焼結体寸法における保圧の影響」と「②MIMの収縮率分析」、どちらも同じ研究者で、同じ金型を使っています。その金型は特殊な方案で、相対的にものすごく大きなスプールランナの先にピンポイントゲート、成形体(1.27g)を配置した4個取りの金型です。

L16実験(射出速度、型温、保圧の3因子2水準)の結果、型温と保圧の交互作用だけがF検定で有意になっています。いろいろ仮説・考察をされていますが、私の仮説は「ピンポイントゲートには保圧は効かない」です。逆に言えば、私の仮説の検証実験になっていると感じました。不偏性のあるMIMの収縮率分析を研究するのであれば、適切な方案設計の金型を使うことが絶対条件だと感じました。

なぜ、「ピンポイントゲートには保圧は効かない」のか。

それは金型温度を下げる程、ゲートが早くフリーズするからです。ゲートフリーズはゲートの断面積が小さいほど早く進行します。最適な寸法はMIM指南書P49にゲート寸法計算式を載せていますので参考にしてください。どうしてもピンポイントゲートを採用するときは、保圧を諦めて、ロバスト性は低下しますが金型温度と射出速度で管理する方法になると思います。

《ことば》ゲートフリーズ(gate freeze、gate freeze-off、ゲートシールと同義)金型内でゲート部分の材料が完全に固化し、それ以上材料が流れなくなる状態

《参考論文》①The Effect of the Holding Pressure Profile on the Metal Injection Molded Component Dimensions after Sintering(2024)   ②The Effect of the Holding Pressure Profile on the Metal Injection Molding Component(2020) / Emir Saric他

MIM指南書のもくじ

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2025年9月6日土曜日

MEX3DプリンターによるTi64の脱脂速度の影響

PolyMIM社のMIM用ペレットとAIM3Dプリンターを使い押出積層造形をしたグリーン体の二次加熱脱脂速度が焼結密度と機械的性質に影響することを解明した論文(2024年)から学びます。

《AIM3D条件》層厚:0.05mm、印刷速度:20mm/s、流量:120%、材料温度:196℃、ベッド温度:60℃、充填密度:100%

《脱脂焼結条件》材料:PolyMIM-64Ti、一次脱脂:水脱脂(60℃×12H)、二次加熱脱脂(2,5,10℃/分、Ar、500℃まで)、焼結(20℃/分、1300℃×1H、Ar)冷却:20℃/分

《結論》二次加熱脱脂の加熱速度は遅いほど焼結密度が向上し、機械的性質も向上する。

【珈琲ブレイ句】ハイエンドでフラッグシップである「AIM3Dプリンター」の実力は凄いですね。市販のMIMフィードストックを使って3D積層しています。積層条件のポイントは、おそらく流量を標準より120%と多くしているところでしょう?「なんちゃって保圧」を掛けていると思われます。

Poly-MIM(水脱脂PEGバインダー)は、市販の高精度MIMフィードストックですが、論文内の画像解析ではバインダー量38.5Vol%としているので、おそらく、バインダー量の多い拡大率1.1515の方を使っていると思われます。他にPOMバインダー(触媒脱脂)もありますが、MIMでもPoly-POMは成形が難しいので選ばれなかった可能性があります。

なぜ、二次加熱脱脂の速度が最終的な焼結密度に影響を与えるのかを共有化しておきます。

「脱脂速度が速すぎると、粒子の再配置が起こり、孤立した大きな粒子間空隙が発生し、焼結結合が閉じにくくなる。」∵二次加熱脱脂中の脱脂速度が大きいほどひずみ速度が大きい(文献図3-a)。

文献:”Analyzing the Debinding Step of Ti64 Parts Fabricated by 3D Printing Extrusion” by Ana Silvia González-Pedraza メキシコ国立技術研究所、他、2024/5

PS. MIMの二次脱脂と焼結条件(量産条件)は、MIM指南書(P127図4.22、工程NO.4)に載せています。さらに高密度化を狙っている二次加熱脱脂速度であることを確認できます。

MIM指南書のもくじ

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2025年8月31日日曜日

JIS Z 8403:1996 製品の品質特性(品質工学)を学ぶ

JIS Z 8403:1996 製品の品質特性―規格値の決め方通則」の目次・構成を記載しておきます。

①製品の品質特性 規格値の決め方 P1-4

②付属書1 製品の品質とコストとのバランスの取り方 P5-9

③付属書2 品質水準の検討及び改善方法(L18)P10-18

④付属書3 特性値の測定能力の検討及び改善方法(L18)P19-27

⑤適用事例 P29-34

複写機の濃度、マイクロスイッチの復帰力、半導体デバイスDRAMのリフレッシュ周期、壁用吹付塗料の特性、プラスチック複合材料のフィラー含有率の許容差、ガラス繊維強化PCの分子量の許容差、衣料用布地の収縮率

⑥解説 P35-93

 【珈琲ブレイ句】このJISは、品質工学(田口玄一先生)ですが、タイトルにそれとわかる言葉がありません。当時はまだTM研やTMフォーラムでタグチメソッドを研究中でもあり、一般的な固有名詞になっていないという判断だと思われます。しかし、具体的な田口先生のお考え(タグチメソッド)は、付属書や解説としてすべて盛り込まれています。

このように、この規格は、品質工学(タグチメソッド)の考え方に基づき、損失関数や機能性の品質といった概念を日本の産業界に普及させる目的で制定されたものです。 この日本独自の品質工学を習得して海外技術・品質と差別化していきたいものです。

エンジニアの座右の書なので是非購入することを薦めいたします。

JIS Z 8403-1996  製品の品質特性− 規格値の決め方通則

2025年8月30日土曜日

射出成形品の取出しロボットハンドのアイデア

射出成形品(MIM)の取出しロボットハンドにおける潜在的課題と解決手段のアイデアを共有化します。

《課題》射出成形の自動化のためにロボットアームを使った取り出しが行われている。多くの場合「スプルーをロボットハンドで把持する」方法が採用されている。しかし、多くのMIMメーカーでは、製品が小さい場合、射出量に対するスプルー・ランナの割合が50%を超えるものが散見される。そこにはリターン再生50%さえも維持できないという潜在的課題がある。

《解決手段》ロボットハンドを「磁石のON-OFF方式」に置き替える。この方式であれば、スルー・ランナが存在しないホットランナー成形体でも把持することができる。


 【珈琲ブレイ句】このアイデアを採用すれば、ロボットアーム把持のためにスプルーを大きくする必要がなくなるので、リターン再生比率20~30%を優先させた方案設計が可能になります。

SUS316Lなどのオーステナイトステンレス鋼は非磁性なので「磁力」は使えないよ!とのツッコミがありそうですね。でも、水アトマイズMIM粉末*1)だと磁性があるので大丈夫です。みなさん試してみてください。うまくいけば、金型も小型にでき、さらに射出成型機も小型化できる可能性があります。、MIM工場・生産技術のQCDも改善することができます。

1)磁性が発生する理屈は、水アトマイズ粉末粒子が急激な冷却を受けることで、結晶構造の一部がオーステナイト(非磁性)からマルテンサイト(磁性)に変態する「加工誘起マルテンサイト変態」が起こるためです。

2)特許を調べたら「磁石のON-OFF方式」の公開特許(1994年)がありました。MIM成形体との接触面はテフロン板でその背後にある永久磁石が接触・分離移動する原理です。特開平06-192703「射出成形体の取り出し方法及び装置」株式会社トーキン

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2025年8月13日水曜日

MIMバインダーシステムのバインダー(結合剤)割合の比較

 【珈琲ブレイ句】各種のMIMバインダーシステムが存在します。この違いは『一次脱脂方法が異なるだけである』と言っても過言ではありません。その違いがわかる比較図を作ったので共有化しておきます。

キーテクノロジーは「 open pore channels 」の形成です。溶媒脱脂用のバインダーにはWax類が相対的に多いですね。これは、二次脱脂用排気経路(結合剤Bの熱分解ガス排気)が多くなる設計ということです。さらに、この目的だけでみるとBASFは断トツです。・・・でも個人的には溶媒脱脂が一番好きです。

バインダーシステム=W+B=ワックス類+結合剤(高分子樹脂)

open pore channels=二次脱脂用排気経路(結合剤熱分解ガスの排気経路)


関連BLOG:脱脂の意味を正確に理解しよう

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2025年8月8日金曜日

損失関数を学ぶ(品質はコスト)

 【珈琲ブレイ句】品質を損失コストに変換するのが損失関数です。田口玄一先生が提唱したものです。天才は考えることが凄いです。イメージ図(普通特性)を添付しておきます。少し解説すると、従来(Traditional)の概念では、規格内なら合格、規格から外れたら不良として損失が発生していました。しかし、合格でも規格ギリギリのものは、不良とほぼ同じ程度の損失を内包しています。したがって、損失がゼロ(No loss)なのは目標品質(Target valure)のもので、目標から離れるほど自乗で損失が大きくなっていきます。これが損失関数(Taguchi)です。



だから、合格しているからといって安心することなく日常的にバラツキの改善をして工程能力を上げるのです。この継続が技術力の差になるはずです。(改善したら、損失関数で改善金額も計算できるので、その改善効果金額を次の改善に使うこともできます。正のやる気スパイラル上昇。)

以下に参考資料を上げておきます。JISは絶対おすすめです。

JIS Z 8403-1996  製品の品質特性− 規格値の決め方通則』 規格値の決め方だけでなく、L18直交表を使った改善の手順が事例を使って紹介されています。

『品質工学ノート―実験計画法入門/開発と品質工学ー東京大学ものづくり経営研究センター』


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2025年8月3日日曜日

臨界粉末量CSLが71%の高精度化事例

 【珈琲ブレイ句】2017年の研究論文に、CSLが71Vol%というデータを見つけたのでメモしておきます。ジャーマン先生の教えにより実際のバインダー量は、3Vol%多めの32Vol%にしています(100-71+3=32)。このMIMフィードストックであれば、10mm寸法で、精度±3σ=0.03mm以上の高精度化が実現できる可能性があります。 使用している粉末はサンドビック社のSS17-4PH粉体(平均6.7μm、98%22μmアンダー、タップ密度不明)、粉末の写真は、球形粉末でサテライトが多少付着しているもので、現在、特別なものではありません。このレベルですと最新の国内水アトマイズ粉末の方がサテライトも少なく、おそらく安価なので有利でしよう。

《気づき》拡大率が1.20程度であれば、粉末を見直し、CSLを測定して、バインダー量を最少化すれば高精度化が実現できそうです。ただし、収縮率(拡大率、伸び尺)が変わるので現行の金型は使えなくなります。したがって、「困難上等」クラスの信念と覚悟が必要です。


参考書:MIM指南書 P68 3.3 バインダー量設計の実際

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2025年8月1日金曜日

技術成熟度TRLについて勉強する

【珈琲ブレイ句】近年Metal AMの発展は凄まじいものがあります。MIM-Like AMでも、多種多様の新しい工法が登場しています。でもその完成度は個々に違います。そのレベルを示すものさしとして応用できる「TRL」をここに共有化しておきます。この物差しで新工法を層別できそうです。 SBAMのBJTとMEXはTRL8~TRL9の完成された技術ですね。


 TRL(技術成熟度レベル)Technology Readiness Level

TRL1:基本原理の観測と報告 - 新しいアイデアの着想段階。

TRL2:技術コンセプトの策定 - アイデアの具体的な応用方法を検討。

TRL3:概念実証 - 要素技術の試作と実験室での概念検証。

TRL4:実験室での技術検証 - 要素技術を統合し、実験室で検証。

TRL5:使用環境に応じた条件での技術検証 - 試験環境で動作確認。

TRL6:使用環境に応じた条件での技術実証 - 試験環境で継続的に動作確認。

TRL7:実運転条件下でのプロトタイプシステム実証 - 実際の運用環境でプロトタイプを実証。

TRL8:システム完成・認証 - 市販可能な実機が完成し、認証される。

TRL9:システム運用 - 市場投入され、実際に運用されている。


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2025年7月30日水曜日

ゲルキャスティングを深堀する

Metal AM分類の焼結を行うSinterbased Metal AM(SBAM)の仲間のゲルキャスティング(Gel Casting)を掘下げます。

ゲルキャスティングは型を使うのでAMじゃないと突っ込まれそうですが、今回は型を3Dプリンターで作ることでAMの仲間として紹介します。特徴は、大物が可能(真空乾燥が一次脱脂となるため)、安価、複雑形状、少量生産向きです。

《工程概要》①3Dプリンターで樹脂型を作る→②ゲルフィードストックを流し込→③60℃で加熱し固化→④型から外す(離型できないものはそのまま次工程へ)→⑤室温で真空乾燥→⑥(型を熱分解)+二次脱脂・焼結

《材料の一例》モノマー:アクリルアミド、架橋剤:メチレンビスアクリルアミド。モノマーのラジカル重合反応の開始剤:過硫酸アンモニウム、触媒、分散剤、金属粉末(MIM用粉末)

《ゲルスラリーの作成》モノマーと架橋剤を30:1の固定質量比で混合しゲル形成剤を調製する。次に、室温でゲル形成剤を脱イオン水に溶解しプレミックス溶液を調製する。さらに、大型で高密度の金属粉末の沈降を防ぐため、プレミックスには適切な懸濁剤を使用する。次に、金属粉末と消泡剤をプレミックス溶液に添加する。得られたスラリーを窒素雰囲気下で24時間ボールミル粉砕し、低粘度で均質なスラリーを作る。

《成形~焼結》真空脱気後、開始剤と触媒を添加したスラリーを型に流し込み、60℃で2時間保持することでゼラチン反応を十分に進行させ、スラリーが所定の形状とサイズの部品に固化することを確認する。脱型後、成形体を室温で真空乾燥させ、金属粉末の一般的な焼結条件で焼結する。成形品が脱型できない場合は、樹脂型ごと焼結炉に入れて熱分解消失させる。

【珈琲ブレイ句】3Dプリンターの型ごと熱分解消失させるのは私の思い付きですが技術的には可能*1です。また型に流し込むという手軽さが魅力的ですよね。下記の研究事例ではGA粉末SUS316L(平均径17.4μm、TD=4.9g/cm3)で焼結密度(水素雰囲気中1350℃×2時間)=7.75g/cm3、TS=493MPa(>MPIF:455MPa)を出しておりかなり優秀です。

参考文献:Journal of University of Science and Technology Beijing Volume 14, Number 6, December 2007, Page 507 ,Yan Li, Zhimeng Guo, and Junjie Hao ,Materials Science and Engineering School, University of Science and Technology Beijing, Beijing 100083, China (Received 2006-12-15) 

*1 MIMにおける樹脂中子の熱分解で実績がある。残渣が残らない樹脂の選定や樹脂の熱膨張の影響を逃がすような型設計が必要。

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2025年7月25日金曜日

MEXで使う金属コンパウンドの4つの形状について

 【珈琲ブレイ句】Sinterbased Metal AMの中の、MEX方式の3Dプリンターに使用する金属コンパウンドの形状が4種類あることについて共有化します。

《①フィラメント》現在大ヒットしているのは、装置が安価なFFF方式のものです。つまりフィラメントを使うもの。フィラメントには、最終の焼結体の品質(形状精度、化学成分)に絞った開発ができない事情があります。それは、フィラメントとして折れないこと、ギヤ送りが可能なことなどのフィラメントとしての要求品質をクリアする必要があることです。したがって、一番普及する可能性が高いFFF方式の実力の最適化(焼結体の最終品質をどこまで上げることができるのか、技術成熟度レベルTRL8から9へ)が注目されており、一番の市場ニーズです。

《②棒状》丸い鉛筆状の金属コンパウンドを使うStudioSystemのBMD方式(Bound Metal Deposition)があります。国内では「さかきテクノセンター」に、BMD方式のStudioSystem2が導入されています。最新の「ver.2」ですが、ちゃんと溶媒脱脂装置もセットで購入しています。理由は、おそらく多種材料に対応するためには溶媒脱脂が必要という判断ですね、流石です。10月上旬に、さかきテクノセンター所蔵の金属3Dプリンタの実演も見学できるようです。下記リンクへ。

さかきテクノセンターのBMD方式StudioSystem2の仕様

さかきモノづくり展2025/10/3-4 開催中は常時StudioSystemの実演を見ることができるそうです、見てきたらここで報告します。

《③ペレット》粉砕材やペレットを使う3D-MEX(FPF方式)はすでに登場しており、高価な設備です。いかに安価にするのかが普及の課題でしょう。この材料はMIMの高精度フィードストックを転用することができる可能性があります。

関連BLOG:ペレットを想定した新しいMEX式3Dプリンター情報

《④ペースト》最後に固体ではないペースト状のコンパウンドを積層するMPD方式(Metal Paste Deposition)を仲間に加えておきます。2024年の展示会で知りました。ペーストは約10wt%の水分と金属粉末で作られ積層直後の加熱乾燥(ハロゲンランプ)で水分を蒸発させ約1%の結合剤だけを残すものです。「積層体がいきなりブラウン体」という差別化技術が魅力です。でも課題もあります、下のBOLGで確認してください。

関連BLOG:メタルペースト積層(MPD)を掘下げる


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2025年7月21日月曜日

《特許深堀》MEX方式3Dプリンター用組成物

特許第7552125号(出願2020/7/31)、発明の名称:成形用組成物および三次元造形物の製造方法、特許権者:セイコーエプソン

課題:粘度を低くしても造形物の良好な形状精度を得ることができる成形組成物を提供する

解決手段:粉末とワックスと接着剤と成形成分と可塑剤を含み、接着成分は190℃でMFR200g/10min以上であり、可塑剤の密度が1.0g/cc以下である組成物

実施例1

【珈琲ブレイ句】バインダー成分の一部に「接着成分」という言葉を使っているのがユニークです。まさに「接着剤:BONDFAST(R)」を混ぜています。高分子化学者の発想で金属粉末との化学結合を利用するものです。そのボンドはMFRが高いものが有効で流動性重視の設計になっています。また、可塑剤多めなのでフィラメントとして折れを防止している可能性があります(ただしFFFに使う旨の記載はありません)。凄いところは金属粉末量を多量の65vol%にしているところです(FFFではなくFPF,BMD用かも?)。これで低速射出で積層造形できるのは立派です。この粉末量(バインダー量35VOL%)であれば、収縮率は1.2を切って1.15~1.17程度の高精度が期待できます。ただし、明細書には、脱脂・焼結に関する技術情報が見当たらないので実効性は不明です。

2025年7月20日日曜日

戸田社長の単行本「困難上等」を読んで

 【珈琲ブレイ句】戸田拓夫社長が著した単行本『困難上等』を拝読しました。ロストワックスとMIM製造の中小企業であるCASTEMの社長が綴る内容は非常に興味深く、当時の私の疑問を解消してくれる困難エピソードがいくつかあり、それらを読み解く中で、まさに「腑に落ちる」という感覚を覚えながら一気に読み終えました。

戸田社長の成功の鍵は、PDCAサイクルを回すよりも、「DCAPサイクル」思考で行動する点であり、それが魅力だと感じました。これはまさに、大企業では難しい中小企業ならではの強みでしょう。

2015年から始まった「夢構想発表会」からは、自社商品開発、高付加価値農業、そしてかつてない新技術を生み出す事業が次々と生まれています。これらの事業は、企画書不要で、立ち上げから5年間は本業の利益の5%を企画開発費に回すという点が特徴です。たとえ商品化に至らなくても、決して悪い評価は下さないという徹底ぶりです。まさに行動が先行する「DCAPサイクル」が貫かれています。こうした信念と覚悟があるからこそ、新卒採用に800人もの学生が殺到する魅力的な会社になっているのだと確信しました。

戸田社長の単行本「困難上等」AMAZON


2025年7月19日土曜日

最近のPOMは目が痛くない件

【珈琲ブレイク】先日、都立大学の研究室を訪問した際、興味深い話を耳にしました。最近のPOM(ポリアセタール)を使ったMIMフィードストックの混練作業では、以前のように目が痛くならないそうです。5年前に涙目になりながら混練研究をしていた頃から、POMはかなり進化しているようです。何が改善されたのか調べてみました。

涙目の原因:まず、POMの混練で目が痛くなる原因は、加熱中にPOMからホルムアルデヒドが発生するためでした。これが、かつての涙目の犯人です。

改善の鍵:では、何が改善されたのでしょうか。おそらく、その鍵は「アミン処理」にあると考えられます。海外の論文によると、POMにあらかじめ少量のプロピルアミンを混ぜておくことで、POMが加熱されてホルムアルデヒドが発生した際に、このアミンが「scavenger(捕捉剤)」として働くとのことです。アミンがホルムアルデヒドと化学的に反応し、別の安定した物質に変化することで、ホルムアルデヒドの発生が抑えられるという仕組みです。

現在市販されているMIM用のPOMには、このようなアミンが配合されている可能性が高いと考えられます。この技術によって、作業環境が大きく改善されたのです。

参考文献:On amine treated polyoxymethylene (POM) blends with low formaldehyde emission for metal injection moulding (MIM)  August 2022Journal of Materials Science 57(2):1-11

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2025年7月15日火曜日

MIMのフローマークの原因をシミュレーションソフトで考える

【珈琲ブレイ句】MIM成形において、黒っぽいフローマークやゲート周辺の変色縞が見られることがあります。これらは、粉末濃度の分布差に起因する不良です。この現象について、シミュレーションソフトの解析から考察してみましょう。

不良発生のメカニズム

主要な原因は『せん断率(Shear Rate、せん断勾配、せん断速度)』が金型キャビティの場所によって変動することです。

なぜ、せん断率が変動するのか:ランナを流れてきた材料の流動速度は、流動している場所の断面積で変化します。たとえばゲートの断面積はランナー断面積より相対的に小さいので流動速度(せん断率)は高速化します。

なぜ、せん断率が変動するとフローマークやゲート周辺の変色縞が発生するのか:MIMフィードストックは擬塑性流体です。せん断率(速度、圧力)が高くなると指数関数的に粘度が下がります。つまり流動性が向上します。また、キャビティ内の狭い部分(製品の薄肉部位)ではせん断率が上昇するだけでなくバインダー分離(偏析)が発生し粉末濃度が上昇します。その濃度が局所的にCSLを超えた部位ではダイラタント流体の様な性質が発生し流動が瞬間的に停止すると考えています。また、フローフロントのせん断率が上のいろんな波動の影響を受けます。これらの粉末濃度の差が線状痕として残るのです。

//シミュレーション解析によるアプローチ//

これらの現象をシミュレーションで解析する際の代表的な特性値は、粉末濃度とせん断率の2つです。制御因子は、方案設計(ゲート方式、ゲート位置、ゲートサイズなど)と成形条件(射出温度、金型温度、射出速度、射出時間など)が挙げられます。

注意:ある解析事例では、射出時間を長くすることで粉末濃度差が小さくなりフローマークが低減できることがわかりました。でも、射出時間を長くすること、つまりせん断率を下げることは流動性が悪くなることです。流動性が悪いと他の成形品質の低下を引き起こす可能性があるので、交互作用の研究が必要になります。木を見て森を見ずという研究は避けたいものです。

シミュレーションで森を見る:シミュレーション解析を用いることで、事前に方案と成形条件の最適化が可能となる時代になりました。さらに、田口メソッドのパラメータ設計(2 列間の交互作用が特定の列に現れない混合系直交表L18)を使えば、現場で安定して使える最適条件を設計することができるという確信が強まりました。

おまけ:私が知るMIMで実用化されているシミュレーションソフトは2つ、「SIGMASOFT」と「Moldec3D-PIM」です。

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2025年7月14日月曜日

比重に単位g/cm 3を付ける日本の慣習

 【珈琲ブレイ句】あるMIMメーカーで、比重に単位g/cm 3を付けていたので間違いだと指摘しました。 後日、脳のシステム2が動き出し、もしかすると間違いではない可能性があると思ったのでAIに尋ねてみました。そのAIの回答は「日本国内の慣習から、間違いだと強く否定することはできない。」というものでした。・・・・・エンジニアとしては納得できないけど、日本の慣習なら仕方がない。


《AIの回答》

物理学的な定義: 物理学における「比重 (Specific Gravity)」は、あくまで基準物質(通常は水)に対する密度の「比率」であり、単位が打ち消し合うため無次元量です。したがって、厳密には単位 g/cm3  を付けるのは誤りです。

日本国内の慣習: しかし、特に材料科学や一部の工業分野において、日本の現場では「比重」という言葉が、実質的に「水の密度を 1.0g/cm3 とした場合の、その物質の密度値(単位付き)」という意味で使われることが非常に多いです。これは、水との比較を意識しつつも、具体的な密度値を知りたいという実用的なニーズから生まれた慣習と考えられます。

例:「この部品の比重は7.8g/cm3 だ」といった表現がよく用いられます。これは「密度が7.8g/cm3 であり、これは水の7.8倍の重さだ」という意味合いで使われています。

結論:したがって、学術的な論文や国際的な基準に厳密に従う必要がある場合は、比重に単位を付けるのは避けるべきです。しかし、上司の指示のように日本国内の特定の現場や業界内でのコミュニケーションにおいては、比重に g/cm 3  の単位を付けても「間違いである」と強く指摘されることは少ないでしょう。これは、その業界内での共通認識や慣習として確立されているためです。

関連BLOG:相対密度を考える

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2025年7月4日金曜日

金属3Dプリンター(BJT)研究発表からの学び

 第33回品質工学研究発表大会RQES2025Sより、Sinter Based Metal  AM(MIM Like AM)であるバインダージェットBJT方式の精度向上・安定化に向けた試行検証の発表から技術的ポイントをまとめておく。

《基本機能》信号:CADデータ(STL) 出力:テストピース(角ブロックの45度回転3階建構造)の形状寸法 の転写性(動特性)

《結果1》8種類の誤差因子によるL18実験より、ローラー使用回数と粉末使用回数の2つで寄与率83%を占めている。

《結果2》制御因子としてローラー表面処理6水準を含めた7因子のL18実験より、SN比(精度)の寄与率の高いものは、ローラー回転数(27%)、使用粉末(22%)、ローラー表面処理(17%)、ローラー移動速度(14%)である。

第33回RQES2025S発表番号8「金属3Dプリンタの精度向上・安定化に向けた試行検証」安井太一ら、YKK株式会社 発表日2027/7/3

【珈琲ブレイ句】精度に大きく寄与する因子グループは、「金属粉末(種類、使用回数)」と「リコート(ローラー表面品位、接触速度ベクトル)」が重要であることがわかります。金属粉末では、SN比(精度)が高いものは感度(収縮率)も高い関係があるので、おそらく高タップ密度でかつ流動性が高い球状粉末が有利だと思われます。さらに粉末を繰り返し使用すると造形品質が悪くなっています。また、リコート工程では、ローラーの表面品位と粉末との接触速度ベクトル系が大きく造形精度に影響することがわかります。従って、ローラーの表面をTiN等のPVDコーティングで耐摩耗性を上げて高寿命化し、表面の粗さを超仕上げでサブミクロンにするのが理想的なのかもしれません。すばらしい研究報告でたいへん勉強になりました。


2025年6月26日木曜日

BASFフィラメントは共押出成形で造られているのか問題

 【珈琲ブレイ句】BASFの金属フィラメントUltrafuse®は、数十μmの軟質樹脂がコーティングされていると言ったら、コーティングじゃないよと指摘されました。彼が言うには「共押出成形法(中央を金属フィードストック、外皮を軟質樹脂の同時2色押出成形)」で造っていると言うのです。見てきたのかと突っ込みたくなりましたが、たぶん正解でしょう。

世の中にはすでに2色の樹脂フィラメントは商品化されているので技術的には可能です。

《追考》:押出金型(ノズル、ダイ)の外側を「コーティング・ダイ」と呼ぶことがあるので、外皮をコーティングと表現しても間違いではないようです。

《メモ》Forward-AM社(BASF)が自ら金属フィラメントUltrafuse®の積層を検証した3Dプリンター:Bambu Lab(P1P,P1S,X1-Carbon,X1E)、BCN3D(SigmaR19)、Intamsys(Funmat Pro 410)、Prusa(XL)

CeraFilaフィラメントがUltiMakerに供給される

【珈琲ブレイ句】FFF用のSUS316Lフィラメントとして、第一セラモのCeraFilaが、3Dプリンターの大手「UltiMaker」に供給されることになりました。大きな販路が獲得できたので、さらに多種材への開発展開に弾みがつくことでしょう。

 市販されているFFF金属フィラメントの現状把握をしたのでまとめておきます。頑張れニッポン!

《補足》第一セラモのCeraFilaは、島津の脱脂焼結炉を使えば加熱脱脂装置が不要です。BASFのUltrafuseは触媒脱脂装置と脱脂焼結炉が必要になります。



2025年6月25日水曜日

金属積層造形(Metal-AM)は金属粉末射出成形(MIM)の相棒

微細金属粉末市場は、金属粉末射出成形MIMと金属積層造形Metal-AMという二つの主要な先進製造技術によって牽引されている。特に高付加価値部品の製造においてその重要性が増している。今後さらに成長し続ける金属粉末射出成形MIMと金属積層造形Metal-AMについて、それぞれの成長要因と課題をまとめておく。

金属粉末射出成形(MIM)

MIMの成長要因: 複雑で精密な部品への需要増加: 自動車産業(特に電気自動車(EV)部品)、医療機器(外科用器具、整形外科インプラント)、電子機器(小型化部品、高精度コネクタ)、航空宇宙、防衛、消費者向け製品など、多岐にわたる産業で、MIMが提供する複雑な形状、高精度、軽量性、耐久性が求められる。MIMは、単に複雑な部品を作るだけでなく、それを効率的に大量生産できる点が市場での競争優位性となっている。この特性は、少量生産やプロトタイピングに強みを持つMetal AMとの差別化技術であり、MIMは特定のニッチな高付加価値市場ではなく、自動車や家電などの中~大量生産が可能な市場でその真価をより発揮する。  

材料開発の革新: 従来、MIMはステンレス鋼や特定の合金に限定されていたが、新しい金属や合金の導入により、より幅広い業界での使用が可能になっている。  

費用対効果と時間効率: 従来の金属加工技術と比較して、MIMは製品開発サイクルを短縮し、高価な二次加工工程を最少化できるので、コスト効率と時間効率が高いと評価されている。  

高生産量での精密部品製造能力: MIMは、大量生産において精密部品を一貫して製造できるため、多くの産業で採用が進んでいる。  

MIMの課題: 原材料のサプライチェーン問題と価格変動: 高品質の金属粉末およびバインダーのサプライチェーン問題、およびこれらの原材料価格の変動は、MIMの価格高騰につながり、市場成長の主要な課題となっている。これは、MIM市場の成長を阻害するだけでなく、MIM技術の採用を検討する企業にとってのリスク要因となるため、安定した高品質な粉末供給源の確保がMIM産業の持続的成長の鍵となる。  

高額な初期投資: MIMは、特に小規模プロジェクトには不向きな高額な金型投資を伴うため、新規参入や小規模生産の障壁となることがある 。  


金属積層造形(Metal-AM)

Meal-AMの成長要因: 航空宇宙・防衛産業からの需要: 部品の軽量化による効率向上、複雑な部品の製造、材料廃棄物の削減、費用対効果の高い少量生産が可能であるため、航空宇宙・防衛分野で高い需要がある 。  

複雑な形状と設計の柔軟性: 従来の製造方法では困難な複雑な幾何学形状や内部構造を持つ部品の製造が可能であり、設計の自由度が飛躍的に向上する 。  

技術革新とコスト削減: レーザー粉末床溶融結合(L-PBF)の大型化・高効率化、WAAM(Wire Arc Additive Manufacturing、ワイヤアーク積層造形)やコールドスプレー(金属粉末を超音速で噴射し、溶かすことなく基材に衝突させて接合する技術)といった新技術の登場が部品単価の劇的な削減を通じて新たな市場を開拓している。また、材料の改良(例:一次脱脂不要のMEX材料)により、脱脂装置の導入費用や廃棄コストが削減され、環境負荷も低減される可能性がある。  

「Local to Local」製造へのシフト: グローバルサプライチェーンの変化と消費地に近い場所でのモノづくりへの機運の高まりは、3Dプリンターとの親和性が高く、新たなビジネスチャンスを生み出している。  

研究開発と社会実装の加速: サービスや材料分野での技術革新が進み、総合的な製造ソリューションとしてのAM活用が現実味を帯びてきている。各国の規格整備やサプライチェーン構築の進展とともに、製造業全体におけるAMの社会実装が加速すると予想される。  

Meal-AMの課題: 疲労性能の予測と品質保証: AMプロセスに起因する微細構造、多孔性、表面粗さ、残留応力などが疲労性能に影響を与え、予測を困難にしている。製造プロセスの最適化、最終製品の品質保証だけでなく、AMがプロトタイピングから本格的な最終製品製造へと移行する上で、品質と信頼性の確保は最も重要な課題である。特に、航空宇宙や医療といった安全性要求の高い分野での普及には、厳格な品質保証体制と国際的な標準化が不可欠であり、これらの課題への対応がAM市場の持続的な成長を左右する鍵となる。  

高額な初期投資と技術的限界: 金属AMシステムは高額な初期設備投資が必要であり、バインダージェッティング(MBJ)や金属フィラメント押出(FGF、MEX)といった新しい方法には、技術的・経済的な限界が依然として存在している。  ただし、FGFが可能な安価なMEX3Dプリンターが登場しているので積層だけであれば初期投資を下げられる(脱脂・焼結は外注)。

知識と知見の不足: 製造法においては、機械的性質、高経年化の影響、非破壊検査の手法に関する知見が不足していることが指摘されている。  

【珈琲ブレイ句】表題の通り、Metal-AMは、MIMの相棒です。Sinter-based Metal- AM(MIM Like AM)であれば、MIMと同じ微細金属粉末が使われるので、高精度・高密度・高強度の部品を作ることができるのです。 金型投資の不要なFGF(MEX,FFF,FPF,FDM)やBJT、LMM等で試作品を作り、量産はMIMへ移行するというビジネスモデルです。詳細は下記に記載しています。

『Metal AMとMIMの共存共栄の時代』ぷらすとす(日本塑性加工学会会報誌)第5巻 第53号(2022-5)に掲載された拙著です。



2025年6月18日水曜日

MEXのFGFとは?

 【珈琲ブレイ句】「MEX」は「Material Extrusion、溶融積層法」で、たぶん一番普及している3Dプリンター製法です。使用する材料で名称が異なります。次にまとめておきます。

FFF:(Fused Filament Fabrication)フィラメントを使うもの。FDMは商標なので論文などでは使わない方がよいです。

FGF:(Fused Granular Fabrication)顆粒の材料、つまりペレットを使うMEXです。 同じもので、FPFがあります。この「P」には2種類の語源があり、(Fused Pellet Fabrication)と(Fused Particle Fabrication)です。すべてペレット(粉砕粉も含む?)を使うもので同義ですが、今後は「FGF」に収れんしていくと思います。

また、MIM-Like AMのMEXは「FGF」が選ばれると考えています。その理由は、金属粉末を多く含むMEX材料はバインダー量を減らした方が造形品の形状精度が高くなるのですが、FFFよりFGFが有利になるからです。その優位差は、顆粒材で可能だがフィラメントでは難しいことがあるからです。フィラメントでバインダーを極限まで減らすとこんな現象が発生します。①少し曲げると折れる ②ギヤ送りの際に削れる ③流動性が指数関数的に悪くなる。BASFフィラメントは、①②の対策?としてフィラメント表面を軟質樹脂でコーティングしていますが・・これが曲者??なのです。

PS.大阪万博の日本館にある椅子(実用的美術品)は、大型のFGF(エス・ラボ製)で造られています。Reprap*1の自作3Dプリンターから、工業的な大型3D造形まで、MEXがさらに普及していくと思われます。頑張れ日本!!

*1 「Reprap」:Replicating Rapid-prototyper(自己複製高速プロトタイピングマシン)、MEXプリンターを自作できる設計図や、3Dデータ(STL)が無料で公開されています。まさに、ものづくりMEXの民主化です。

2025年6月7日土曜日

ペレットを想定した新しいMEX式3Dプリンター情報

 【珈琲ブレイ句】本日、「特願2022-112054超高速射出点描画による熱溶解積層法」を取り下げました。理由はの2022年6月23日に米国で類似の特許明細書が公開され新規性が無いことが判明したためです。

この米国の特許が秀逸で基本機能だけではなく、せん断速度を高速にして間欠的に射出するところまで私のアイデアと同じでした。仕様書から全体図を抜粋しておきます。先願者様、「あっぱれ!」ここまで同じだと清々しい。

流動性の悪いMetal AMのMEXフィードストックを造形するには高速射出が有利*1なのです。プリプラ式射出成型機を製造している国内のS社ならすでに試作機があるかもしれません。made in JAPAN 期待しています。

*1 MIM指南書 図4.4キャプラリーフロー(せん断速度VS見掛け粘度)を参照してください。Metal AMのMEXフィードストックは擬塑性流体なのです。

2025年6月3日火曜日

バインダーレスのセラミック積層造形とは

 【珈琲ブレイ句】ニュースイッチ2025年06月03日「キヤノン・金属技研/セラミックス積層造形受託生産はじまる」記事の中のバインダーレスで造形するという文字に釘付けになりました。どういうことなのか調べてみました(空想を含む)。

積層技術は「LB-PBF(Laser Beam Powder Bed Fusion)」、セラミック粉末の流動性を高めるためにキャノンのトナーの技術が応用されているらしい。レーザーを使うがセラミックは高融点なので仮焼結の状態で積層する。つまり、グリーン体は仮焼結品。

焼結は、セラミックに合った通常技術の雰囲気と温度で焼結される。ただし、焼結時間は4分1の50時間に短縮できたそうだ。

BJT方式やMEX方式と比較して、バインダーレスなので、バインダー汚染を気にしなくて良い。高密度であるが収縮率が小さいので高精度(焼結変形2%)。

未確認情報:仮焼結体を液状セラミック(コロイダル、ゾル?)に浸漬し仮焼結体の微小空隙やクラック部に真空含侵させている可能性がある。また、アルミナの基材に融点を下げる補助的な希土類酸化物を添加している可能性がある。

流動性を高めるトナー技術とはなんだろうか? ①重合トナー:液中でトナー粒子を化学的に「成長」させることで製造し、粒子を非常に均一な球形にし、かつ粒径分布を狭くすることができる。②外添剤添加:トナー粒子の表面に、シリカ、酸化チタン、アルミナなどの微細な粒子を付着させ粒子同士の直接的な接触を防ぎ、粒子間の摩擦が低減する。これにより、トナー粉末の凝集を防ぎ、サラサラとした良好な流動性を保つことができる。

とにかく素晴らしい日本の技術です。 ガンバレ日本!!

2025年5月28日水曜日

NEDO 高度な金属積層造形システム技術の開発・実証

【珈琲ブレイ句】NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が推進する経済安全保障重要技術育成プログラムの一環として、「高度な金属積層造形システム技術の開発・実証」が進行中です。その主要テーマの一つにわれらの「Sinterbased Metal AM」のテーマがあります。正式名称は「焼結型積層造形とデジタルプロセス設計を組み合わせた金属3Dプリンタシステムの研究開発」です。

プロジェクト概要と目標:このプロジェクトは、高品質な金属3Dプリンティングを実現するために、以下の3つのプロセスを連動させ、データベースの蓄積と高品質保証体系の確立、および認証化を目指しています。①ホストプロセス: 大型焼結技術、焼結変形解析、HIP(熱間等方圧加圧)利用技術などを用いて、システム全体を統括します。②プリプロセス: アルミ合金製造技術、BJT(結合剤噴射法)用バインダーの高性能化、水アトマイズ製造技術などにより、資材の品質向上を図ります。③インプロセス: BJTによる大型造形技術、造形パラメータの最適化、焼結体物性予測などを実行します。

具体的な取り組み:特に、高速造形とサポートレスを実現する「BJT(結合剤噴射法)」の要素技術開発に注力しています。これにより、輸送機器用アルミ部品やプラント系耐熱部品、さらには金型や治工具といった多種多様なニーズに対応できる、少量多品種生産のための造形技術の確立を目指します。

参画機関と期間:ヤマハ発動機(幹事企業)、電力中央研究所、大陽日酸、九州大学、都立大学、産業技術総合研究所、三菱マテリアル、金属技研、ASKケミカルズジャパン、ExOne。期間は2024年度から2028年度までの5年間を予定。

今後動向を注目していきます。

2025年5月26日月曜日

エアロエッジ社から学ぶ挑戦できる環境

 【珈琲ブレイ句】栃木県の中小企業「エアロエッジAeroEdge」は、10年前に菊池歯車から卒業して誕生した機械加工メーカーです。MIMとは関係ないのですが、そのチャレンジ精神が凄いのでメモしておきます。◆航空機エンジン用タービンブレード加工で世界一を目指して独立◆技能と技術の掛け算で他社では真似ができない戦力を有する◆加工用工具(ボールエンドミル)から自社で創る徹底した差別化技能・技術◆全数非破壊検査による品質保証◆真空鋳造によるチタンアルミ材再生へ提案型研究開発◆最新MetalAMの導入による新たなビジネスモデル創生

この会社が超一流なのは「現状を変えられない4つの心理障壁が無い」ということだと思います。『ゼロからイチを創る』という失敗を恐れないチャレンジ精神、経営理念があるのです。

「現状を変えられない4つの心理」 

①損失回避:利益を得る喜びより、損失を被る苦痛を強く感じる心理傾向。損失を避けるために非合理的な選択をすることがある。

②保有効果:自分が所有するものに、客観的な価値より高い価値を感じてしまう心理傾向。手に入れたものを失うことへの抵抗感。

③サンクコスト(コンコルド効果):すでに費やした時間やお金に囚われ、たとえ無駄と分かっていても、これまでの投資を正当化するためさらに投資を続けてしまう心理傾向。

④確証バイアス:自分の意見を裏付ける情報ばかりを集め、反証する情報を無視したり軽視したりする心理傾向。



2025年5月14日水曜日

Incus LMM方式の金属AMを掘り下げる

PDS(Printing-Debinding-Sintering)、すなわち「Sinterbased-Metal-AM」や「MIM-Like-AM」と呼ばれる脱脂焼結を行う金属AMとしては、MEX方式とBJT方式がよく知られています。しかし、ここではもう一つの実用化技術であるLMM方式の金属3Dプリンターについての疑問を新しいテーマとして掘り下げておきます。本ブログの内容は現時点では『仮説』であり、今後調査を行い結果を改めてご報告する予定です。(独り言:誰か教えてくれないかな。)

概要につきましては、関連ブログ「MIM Like AMのすばらしいLMMを復習する」をご参照ください。

テーマ「なぜ液体フィードストックの中で金属粉末が沈殿しないのか」

《仮説》金属粉末は光硬化性樹脂と混合され、スラリー状あるいはペースト状で使用されます。粉末の沈降を防ぐ技術としては、主に以下の2つが考えられます。①高濃度にする。混合物の粘度を高く保つことで沈降を抑制する。②チキソトロピー性を持たせる。つまり、静止時には高い粘度を保ち、力を加えると粘度が低下する性質を持たせる。

積層後の塊は「ケーキ」と呼ばれていますが、そのケーキから光硬化した3Dモデルだけを取り残すDe-Caking工程の動画を見ると、15分で溶けていく様子が確認できます。このことから、積層装置から取り出したケーキは固体であるがDe-Caking工程で液体に変化する混合物であることがわかります。

さらによく見ると、網の上に置かれたケーキの上部には小型の装置が設置されています。この装置はなんでしょうか? もしかすると振動発生装置の可能性があります。ケーキにチキソトロピー性があれば、空気を伝わった波動エネルギーで液化するはずです。

初めは、コロイダルシリカの応用かなと思いました。ロストワックスのコーティングでは、コロイダルシリカが用いられています。これは、シリカ粒子を電荷的に反発させることで、液体中に分散・浮遊させています。セラミック粉末の場合、この原理の応用は可能ですが、金属粉末では金属イオンの影響により、凝集(ゲル化)が起こりやすいため、同様の手法は難しいでしょう。

ところで、このINCUS方式の最大のメリットは、フィードストックを構成する金属粉末が微細であるほど均質分散の面で有利であるということです。対照的に、BJT方式はマイクロ微細粉末になるほど敷き詰め(Powder spreading)が苦手です。だから、マイクロMIMの太盛さんが3.5DプリンターとしてLMM方式を採用した根拠がここにあると推察しています。

2025年5月11日日曜日

MIM製多孔質チタン合金の製造方法と用途

MIM製多孔質チタン合金の製造方法と用途のポイントをまとめる

《多孔質MIMの製造方法は2つ》

①スペースホルダーを使う方法  スペースホルダー材質:PMMA、NaCl、KCl 、 スペースホルダー除去法:水溶解、加熱分解

 特徴:母材は高温焼結で最高密度が可能。ポーラス形状が異形あるいは球形。パウダースペースホルダーで数ミクロンの球形ポーラス可能。

②スペースホルダーを使はない方法  制御因子 ①粉末粒径** ②焼結温度** ③粉末形状* 

 事例:D50 = 100μm、1000℃焼結、多孔度74 % 、焼結密度1.24g/cm3、C0.03%、O0.27%

《多孔質MIMの特徴》

・ポーラス金属は多孔質で軽量、比表面積が大きい。

・金属の熱・電気伝導性と高い力学的特性を持つ。

・マイクロオーダーの気孔を持つポーラス金属は、多様な機能性部品への応用が期待される(フィルタ、電極、インプラント、ヒートシンク、熱交換器など)。

・ポーラス金属の製造方法は多いが、気孔径が大きいものが多い。

・多くは単純形状素材で二次加工が必要である。そのためネットシェイプでのMIM量産が期待されている。

《多孔質MIMの用途》

・マイクロオーダーの気孔を持つポーラス金属は、多様な機能性部品への応用が期待される(フィルタ、電極、インプラント、スキャフォールド、ヒートシンク、熱交換器など)。

【珈琲ブレイ句】多孔質MIMの製造方法は、スペースホルダーを使う方法が良いと感じます。理由は、①焼結温度に対するロバスト性が高い(焼結機能窓が広い)からです。スペースホルダーを使わない方法は、「焼結を途中で中断して気孔率を管理する」方法なので、炉内温度バラツキに影響を受ける可能性が高いのです。一方、スペースホルダーを使う方法の焼結条件は母材の最適温度(焼結機能窓)で作られるので品質(引張強度、気孔率)が安定するのです。②さらに、気孔の形状はスペースホルダー形状の転写で、数(気孔率)はスペースホルダーの添加量でコントロールできます。

PS.スペースホルダーの除去方法ですが、塩(NaCL)は水で溶解させる方法が一般的ですが、ある大学では加熱分解で除去しておりました。塩の融点800℃、沸点は1400℃なので二次脱脂後に液化流出して、焼結中に蒸発している感じですね。炉内汚染は大丈夫かな??

2025年5月5日月曜日

MEX方式のUSA情報をまとめた

 

【珈琲ブレイ句】金属MEXをまとめて気づいたこと4つ。

①3Dプリンター造形機は高嶺の華の専用機セットと手の届くOPEN機に分けられます。ただし、OPEN機で造形したものを完全に金属にするためには、後工程の脱脂装置と二次脱脂・焼結炉を準備する必要があります。あるいは、専門業者に依頼する必要があります。

②高嶺の華の造形機は、サポートとの境界面にセラミック剥離層を2色造形する方式なので、焼結後のサポートの分離が容易です。(∵セラミックと金属は拡散接合しない)

高嶺の華のセットには、溶媒脱脂装置を選択することできます。やはり、64Tiなどのカーボンコントロールが厳密に必要な材種では溶媒脱脂(一次脱脂)が必要になるようです。FilametでもPMMAなどの膨潤する樹脂が配合されていなければ溶媒脱脂ができる可能性はありますが未確認です。

材料費は、ロッド(棒材)が一番安価です。相対的にフィラメントにする製造コストの方が高いということでしょうか?

《蛇足:独り言》国内で購入すると、Ultrafuse17-4PHは、25,300円/kg(© 3DFS id.arts)なのでUSAで購入するより少し割高(仕方がない)です。国内唯一の第一セラモ製フィラメントに期待しましょう。さらに、第一セラモではペレットのMEXも扱っているので材料費はさらに安価になる可能性がありそうです。頑張れMade in Japan!!


2025年5月4日日曜日

Filamet(TM)の金属MEXビジネスモデル

【珈琲ブレイ句】米国のThe Virtual Foundry, Incによる金属MEXのビジネスモデルをメモしておきます。金属フィラメントだけでなく、プログラム式電気炉から脱脂焼結セットまで販売しています。金属MEXを楽しめるビジネスモデルの世界がここにあります。アートペンでも積層OKということなので子供に造形してもらってもいいし、FFFプリンターがあれば高専の教材にもなりそうです。 なぜ焼結カーボンでるつぼに蓋をするのか?など冶金学も学べMIMを身近に感じてもらえるようになるはずです。

金属フィラメント:金属11種、Φ1.75&2.85mm (6061,IN718,316L,630他)

3Dプリンター:FFF式、機種を選ばない。アートペンでもOK。

プログラム式小型脱脂焼結炉:1970$、110V、MAX1260℃

自宅で脱脂焼結セット(Filamet™キット):SUS316Lセット/セラミックるつぼ、フィラメント 0.5kg、アルミナ 300mL、スチールブレンド耐火物 1kg、焼結カーボン 0.5kg。

Filamet™キットの脱脂焼結手順:① 《準備》るつぼに 3Dモデルを入れスチールブレンド耐火物で埋める。②《脱脂》 るつぼを電気炉に入れて、204℃×2H、保持2H、427℃×2H、保持2H、炉冷後に取り出す。③《焼結》るつぼ上部を焼結カーボンで埋めて炉に戻す。593℃まで急昇温、保持2H、焼結温度1232℃(SUS)まで2H、保持4H、593℃×6H冷却してヒーターOFF、炉冷

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2025年5月3日土曜日

Metal AM 周辺技術の新しい言葉BOX

 【珈琲ブレイ句】最近Metal AMの技術文献の中で、初対面の言葉に出会うことが多くなりました。特に省略語は意味不明です。そこで出会った専門用語を此処に投げ込んでいきます。

「PDS」:Printing, Debinding, and Sintering、3D印刷して脱脂して焼結する工法。つまり「Sinterbased Metal AM」のこと。「MIM-Like AM」も同義。

「MEX」:Material Extrusion、溶融積層法。

「FFF」:Fused Filament Fabrication、フィラメントを使った溶融積層法(MEX)。Fused Deposition Modeling(FDM)が元祖、Stratasys社の特許技術、 Bound Metal Deposition (BMD) のDesktop Metal Studio System 、Atomic Diffusion Additive Manufacturing (ADAM)のMarkforged(Metal X)などがある。ペレット(pellet)を使ったものは(FPF)。

「3F」:FFFのこと。Fが3つだから。

「FPF」:Fused Pellet Fabrication、 材料にペレットを使った溶融積層法(MEX)。FGFと同義。

「FGF」:Fused granulate fabrication 、 粒状の材料を使った溶融積層法(MEX)。FFFと同義だが、最近はFGFを使った文献が多くなっている。

Studio SystemのDual Extrusionプリンターとしての未来を妄想する

 【珈琲ブレイ句】Disk Top MeatalのStudio Systemは、MEX方式ですが、サポートセラミック層も積層するのでDual Extrusionプリンター(二重押出プリンター、2色プリンター)です。このセラミックの代わりに違う材種の金属材料ロッドを使えば、二材種金属造形体を理論的には造れるはずです。

そうすれば、耐摩耗性材料だけを表面に点在させたり、機能傾斜材料(FGM: Functionally Graded Materials) も製造できます。2C-MIMの量産化はすでに行われているので面白いテーマだと妄想しています。イメージは『箱根寄木細工構造』です。新しい機能材料が誕生する予感がします。

課題としては、異なる金属材料の融点、熱膨張率、焼結特性が異なるので、積層間の剥離や変形、焼結時の割れなどの問題が発生する可能性があります。でも、優先材と補完材をはっきり区別すれば、優先材の焼結条件は決められるはずです。

注意:ただし、現時点ではDesktop Metalが公式に異なる金属材料同士を積層するアプリケーションや、そのための具体的な材料の組み合わせ、プリントプロファイルなどを提供しているという情報は確認できません。

関連BLOG: 2C-MIMとは?

関連BLOG:2C-MIMの課題をまとめる

2025年5月2日金曜日

MEX溶融積層式3Dプリンター用BASFフィラメントのメモ

 【珈琲ブレイ句】アメリカ合衆国におけるMEX溶融積層FFF用のBASFフィラメント(Ultrafuse)に関連する技術とビジネス情報をそのままメモしておきます。 多少の疑問もありますが、最後の「脱脂焼結サービス」というビジネスモデルがいいですね。これが日本でも流行れば、もっとMetalAM(MEX)の理解者が増え、その先にあるQCDで有利なMIMの利用者がさらに増える近未来が見えてきます。脱脂焼結の一回無料券は魅力ですよね。 日本のMIMメーカーにも、ビジネスモデルを更新するチャンスが来ていると思うのです。トップダウンのMIMメーカーはすでに更新中ですね。

《フィラメント》金属含有量80%以上、直径1.75mmと2.85mmの2種類、厳しい公差が求められる場合はニアネットシェイプ加工(例えば焼結後にねじ山を切る必要)が必要。

《材質》316Lと17-4 PHの2種類

《3Dプリンター》印刷には、密閉された加熱チャンバーと少なくとも100℃まで加熱可能な加熱ベッドを備えた3Dプリンターの使用を推奨。印刷ベッドはガラス製で、Dimafixベッド接着剤の仕様を推奨。

《積層条件》加熱ベッド温度: 100 - 120℃、ホットエンド温度: 215-235℃、ノズル径: 0.4mm、ノズル材質:硬化鋼、部品冷却なし:レイヤー冷却により印刷中に反りが生じる可能性有り、推奨レイヤー高さ: 0.10 - 0.25mm [高密度の場合は0.15以下]、推奨速度: 15 - 40 mm/s、充填: 100% 、最も均一でしっかりとした充填を実現するために、形状に応じてラインまたは同心円パターンのいずれかを推奨。充填物に隙間やボイドがあると、脱脂および焼結プロセス中に不具合が発生する可能性がある。

《部品設計ポイント》片面を平坦にし、部品の厚さが均一になるようにすることを推奨。薄肉やオーバーハングは避ける。部品の体積は100mm³以内に収める。高さと幅の比を3:1未満にすることで、脱脂および焼結中の部品の崩壊を防止できる。部品の拡大率は、X/Y方向で最終寸法の+120%、Z方向で+126%。

《形状サポートについて》オーバーハング角度が45°を超える場合はサポートの使用を推奨。サポートと同じ材料を使用(サポート充填構造は密度が約70%である必要がある)。サポートは、グリーンパーツの状態でも焼結後でも取り外すことができる。グリーンパーツからサポート材を取り外す前に、脱脂と焼結の戦略を検討する必要がある。

《脱脂・焼結》脱脂は、気化硝酸を用いる触媒脱バインダープロセス。市販の焼成炉を用いて純水素環境で焼結。

 触媒脱バインダーは、数百℃程度の温度でガス状の酸雰囲気下で一次ポリマーを分解。BASFプロセスでは、120℃、硝酸濃度98%以上で脱バインダーを行う。50リットルの脱バインダー炉を基準に、硝酸供給量(通常30ml/h)とパージガス供給量(500l/h)により安全な処理が実現できる。反応生成物は天然ガスの炎で600℃を超える高温で燃焼され、成形体は完全に脱脂体となる。脱バインダー損失が10.5%未満に達した時点で、脱バインダープロセスは終了する。これは、このプロセス全体のために特別に設計された密閉型制御システム内で行われる。

 脱脂体は次に焼結工程へ送られる。焼結とは、脱脂体に残った金属粉末を熱によって固体金属に変える工程である。特別に設計された炉では、金属の融点よりわずかに低い温度に設定され、脱脂体から二次バインダーを除去し、その後、金属粒子が融合される。

 焼結は、100%クリーンで乾燥した水素雰囲気で行う必要がある。典型的な焼結サイクルは、次の条件である。① 室温 - 5 K/分 - 600°C、1時間保持 ② 600°C - 5 K/分 - 1380°C、3時間保持 ③ 炉内冷却

《焼結密度》316L: 7850 kg/m³ / 490.1 lb/ft³ 、17-4 PH: ≥ 7g/cm³

《脱脂焼結サービス》出力した部品は、脱バインダーと焼結のためにサービスプロバイダーに送る必要がある。部品を出力・洗浄し、郵送して、予定された処理後に返送されるのを待つ。現在、部品は月に2回処理されている。

《フィラメント価格(USD)》Ultrafuse 316L 1.75mmまたは2.85mm 3kg:465ドル、Ultrafuse 17-4 PH 1.75mmまたは2.85mm 3kg:349ドル 1kg:129ドル(価格はmatterhackers.comより)

《価格設定(USD)》フィラメント1スプールには、Ultrafuseで3Dプリントしたグリーンパーツ(最大1kg)の脱脂・焼結1回分に相当する処理チケットが1枚無料で付属している。追加の処理チケットは50米ドルで購入でき、同じ条件が適用される。パーツは北米ではDSH Technologies、欧州ではElnik SystemsとAMPC Solutionsで処理される。DSH echnologiesに直接脱脂・焼結サービスを依頼した場合は、1サイクルあたり1,500ドルの料金がかかる。


2025年4月15日火曜日

AMリーディングカンパニーNano Dimension社

 【珈琲ブレイ句】『AMからようこそMIMへ』金属AMとMIMの連携が一段と活発になってきました。 

そこで、AMのリーディングカンパニーであるNano Dimension 社の買収経歴をメモしておきます。これで技術の深い専門性と鋭い視点が融合し、さらにAM技術が飛躍的に向上することでしょう。

Nano Dimension社

 2024/9 Mark Forged社を買収

 2025/4 Desk Top Metal社を買収

   2021/11 Desk Top Metal社がEX-ONE社を買収

   2025/7 Desk Top Metal社がEX-ONE社をAnzu Partnersの関連会社に売却


《関連BLOG》

AMからようこそMIMへの棲み分けについて

これぞ「AMからようこそMIMへ」という記述を見つけた

Desktop Metal Studio system2 が溶媒脱脂工程省略化

2025年4月13日日曜日

中空MIMの始まりをまとめる

 【珈琲ブレイ句】MIMは、金型のスライドコアで成形できない中空部品を作ることができます。方法は2つ。 ①複数部品を組み立てて拡散接合で一体化する方法。②中子を使って二重成形し、中子を一次脱脂(水、触媒)あるいは二次脱脂(加熱)で消失させて焼結する方法です。

今回は、②の中子を使う中空MIMに関する最新の公開情報と特許情報を再調査し年代の古い順番に並べてみました。◎:特許が現在有効なもの

1977 日本楽器製造 粉末冶金PM+CIP→焼結

1989 マツダ(焼結カム)

1989 住重テクノセンター

1991 オリンパス光学

1991 セイコーエプソ

1992 住友重機械工業

1992 小松製作所

1995 北川鉄工所

1995 東洋機械金属

1997 西原章夫(リニアガイド)

1998 オリンパス

1998 インジェックス

2008 JUKI(特許消滅、動圧軸受)

2010 清水製作所

2010 Megamet Solid Metals社(MIM2010会議発表、インペラ、触媒脱脂)

2010 BASF(触媒脱脂)

2011 IHI

2012 キャステム(◎フィラー添加)

2013 太盛工業(◎、流体素子、加熱脱脂)

2013 浜松メタルワークス(旧テイボー、世界PM2024発表、水脱脂

2020 積水化学(◎中子用PVA、水脱脂)

2021 第一セラモ(◎3Dプリンタ中子

【中子材質】水脱脂:ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリルアミド(polyacrylamide)、ポリアクリル酸(PAA)他、 加熱脱脂:アクリル(PMMA)他、 触媒脱脂:ポリアセタール(POM) 

関連BLOG:中子を利用するMIMの特許を調べた(2020)

関連BLOG:アンダーカット形状を形成するための技術の流れ