2025年6月18日水曜日

MEXのFGFとは?

 【珈琲ブレイ句】「MEX」は「Material Extrusion、溶融積層法」で、たぶん一番普及している3Dプリンター製法です。使用する材料で名称が異なります。次にまとめておきます。

FFF:(Fused Filament Fabrication)フィラメントを使うもの。FDMは商標なので論文などでは使わない方がよいです。

FGF:(Fused Granular Fabrication)顆粒の材料、つまりペレットを使うMEXです。 同じもので、FPFがあります。この「P」には2種類の語源があり、(Fused Pellet Fabrication)と(Fused Particle Fabrication)です。すべてペレット(粉砕粉も含む?)を使うもので同義ですが、今後は「FGF」に収れんしていくと思います。

また、MIM-Like AMとして「FGF」が選ばれると考えています。その理由は、金属粉末を多く含むMEX材料はバインダー量を減らした方が造形品の形状精度が高くなるのですが、FFFよりFGFが有利になるからです。その優位差は、顆粒材で可能だがフィラメントでは難しいことがあるからです。フィラメントでバインダーを極限まで減らすとこんな現象が発生します。①少し曲げると折れる ②ギヤ送りの際に削れる ③流動性が指数関数的に悪くなる。BASFフィラメントは、①②の対策?としてフィラメント表面を軟質樹脂でコーティングしていますが・・これが曲者??なのです。

PS.大阪万博の日本館にある椅子(実用的美術品)は、大型のFGF(エス・ラボ製)で造られています。Reprap*1の自作3Dプリンターから、工業的な大型3D造形まで、MEXがさらに普及していくと思われます。頑張れ日本!!

*1 「Reprap」:Replicating Rapid-prototyper(自己複製高速プロトタイピングマシン)、MEXプリンターを自作できる設計図や、3Dデータ(STL)が無料で公開されています。まさに、ものづくりMEXの民主化です。

2025年6月11日水曜日

2025年6月7日土曜日

ペレットを想定した新しいMEX式3Dプリンター情報

 【珈琲ブレイ句】本日、「特願2022-112054超高速射出点描画による熱溶解積層法」を取り下げました。理由はの2022年6月23日に米国で類似の特許明細書が公開され新規性が無いことが判明したためです。

この米国の特許が秀逸で基本機能だけではなく、せん断速度を高速にして間欠的に射出するところまで私のアイデアと同じでした。仕様書から全体図を抜粋しておきます。先願者様、「あっぱれ!」ここまで同じだと清々しい。

流動性の悪いMetal AMのMEXフィードストックを造形するには高速射出が有利なのです。プリプラ式射出成型機を製造している国内のS社ならすでに試作機があるかもしれません。made in JAPAN 期待しています。

2025年6月3日火曜日

バインダーレスのセラミック積層造形とは

 【珈琲ブレイ句】ニュースイッチ2025年06月03日「キヤノン・金属技研/セラミックス積層造形受託生産はじまる」記事の中のバインダーレスで造形するという文字に釘付けになりました。どういうことなのか調べてみました(空想を含む)。

積層技術は「LB-PBF(Laser Beam Powder Bed Fusion)」、セラミック粉末の流動性を高めるためにキャノンのトナーの技術が応用されているらしい。レーザーを使うがセラミックは高融点なので仮焼結の状態で積層する。つまり、グリーン体は仮焼結品。

焼結は、セラミックに合った通常技術の雰囲気と温度で焼結される。ただし、焼結時間は4分1の50時間に短縮できたそうだ。

BJT方式やMEX方式と比較して、バインダーレスなので、バインダー汚染を気にしなくて良い。高密度であるが収縮率が小さいので高精度(焼結変形2%)。

未確認情報:仮焼結体を液状セラミック(コロイダル、ゾル?)に浸漬し仮焼結体の微小空隙やクラック部に真空含侵させている可能性がある。また、アルミナの基材に融点を下げる補助的な希土類酸化物を添加している可能性がある。

流動性を高めるトナー技術とはなんだろうか? ①重合トナー:液中でトナー粒子を化学的に「成長」させることで製造し、粒子を非常に均一な球形にし、かつ粒径分布を狭くすることができる。②外添剤添加:トナー粒子の表面に、シリカ、酸化チタン、アルミナなどの微細な粒子を付着させ粒子同士の直接的な接触を防ぎ、粒子間の摩擦が低減する。これにより、トナー粉末の凝集を防ぎ、サラサラとした良好な流動性を保つことができる。

とにかく素晴らしい日本の技術です。 ガンバレ日本!!

2025年5月28日水曜日

NEDO 高度な金属積層造形システム技術の開発・実証

【珈琲ブレイ句】NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が推進する経済安全保障重要技術育成プログラムの一環として、「高度な金属積層造形システム技術の開発・実証」が進行中です。その主要テーマの一つにわれらの「Sinterbased Metal AM」のテーマがあります。正式名称は「焼結型積層造形とデジタルプロセス設計を組み合わせた金属3Dプリンタシステムの研究開発」です。

プロジェクト概要と目標:このプロジェクトは、高品質な金属3Dプリンティングを実現するために、以下の3つのプロセスを連動させ、データベースの蓄積と高品質保証体系の確立、および認証化を目指しています。①ホストプロセス: 大型焼結技術、焼結変形解析、HIP(熱間等方圧加圧)利用技術などを用いて、システム全体を統括します。②プリプロセス: アルミ合金製造技術、BJT(結合剤噴射法)用バインダーの高性能化、水アトマイズ製造技術などにより、資材の品質向上を図ります。③インプロセス: BJTによる大型造形技術、造形パラメータの最適化、焼結体物性予測などを実行します。

具体的な取り組み:特に、高速造形とサポートレスを実現する「BJT(結合剤噴射法)」の要素技術開発に注力しています。これにより、輸送機器用アルミ部品やプラント系耐熱部品、さらには金型や治工具といった多種多様なニーズに対応できる、少量多品種生産のための造形技術の確立を目指します。

参画機関と期間:ヤマハ発動機(幹事企業)、電力中央研究所、大陽日酸、九州大学、都立大学、産業技術総合研究所、三菱マテリアル、金属技研、ASKケミカルズジャパン、ExOne。期間は2024年度から2028年度までの5年間を予定。

今後動向を注目していきます。

2025年5月26日月曜日

エアロエッジ社から学ぶ挑戦できる環境

 【珈琲ブレイ句】栃木県の中小企業「エアロエッジAeroEdge」は、10年前に菊池歯車から卒業して誕生した機械加工メーカーです。MIMとは関係ないのですが、そのチャレンジ精神が凄いのでメモしておきます。◆航空機エンジン用タービンブレード加工で世界一を目指して独立◆技能と技術の掛け算で他社では真似ができない戦力を有する◆加工用工具(ボールエンドミル)から自社で創る徹底した差別化技能・技術◆全数非破壊検査による品質保証◆真空鋳造によるチタンアルミ材再生へ提案型研究開発◆最新MetalAMの導入による新たなビジネスモデル創生

この会社が超一流なのは「現状を変えられない4つの心理障壁が無い」ということだと思います。『ゼロからイチを創る』という失敗を恐れないチャレンジ精神、経営理念があるのです。

「現状を変えられない4つの心理」 

①損失回避:利益を得る喜びより、損失を被る苦痛を強く感じる心理傾向。損失を避けるために非合理的な選択をすることがある。

②保有効果:自分が所有するものに、客観的な価値より高い価値を感じてしまう心理傾向。手に入れたものを失うことへの抵抗感。

③サンクコスト(コンコルド効果):すでに費やした時間やお金に囚われ、たとえ無駄と分かっていても、これまでの投資を正当化するためさらに投資を続けてしまう心理傾向。

④確証バイアス:自分の意見を裏付ける情報ばかりを集め、反証する情報を無視したり軽視したりする心理傾向。



2025年5月21日水曜日

【ご案内】2026年度 長期顧問契約の追加募集

○このブログを通じて、技術の面白さや課題解決のヒントをお届けしていますが、個別具体的な状況においては、より密なサポートが必要となるケースも少なくありません。

○幸いなことに、現在も複数の企業様と長期顧問契約を結ばせていただき、技術的な成長をご支援しています。そして、来年には、新たな企業様をお迎えできる顧問契約の空き枠が生まれる見込みです。

○この機会に、貴社の技術戦略や開発プロジェクトに、私の専門知識を最大限に活用して貢献したいと考えております。詳細なサービス内容や支援実績は、弊所HPにてご確認いただけますので、ぜひご検討ください。

弊所HP◆長期顧問6~12ヶ月◆

2025年5月14日水曜日

Incus LMM方式の金属AMを掘り下げる

PDS(Printing-Debinding-Sintering)、すなわち「Sinterbased-Metal-AM」や「MIM-Like-AM」と呼ばれる脱脂焼結を行う金属AMとしては、MEX方式とBJT方式がよく知られています。しかし、ここではもう一つの実用化技術であるLMM方式の金属3Dプリンターについての疑問を新しいテーマとして掘り下げておきます。本ブログの内容は現時点では『仮説』であり、今後調査を行い結果を改めてご報告する予定です。(独り言:誰か教えてくれないかな。)

概要につきましては、関連ブログ「MIM Like AMのすばらしいLMMを復習する」をご参照ください。

テーマ「なぜ液体フィードストックの中で金属粉末が沈殿しないのか」

《仮説》金属粉末は光硬化性樹脂と混合され、スラリー状あるいはペースト状で使用されます。粉末の沈降を防ぐ技術としては、主に以下の2つが考えられます。①高濃度にする。混合物の粘度を高く保つことで沈降を抑制する。②チキソトロピー性を持たせる。つまり、静止時には高い粘度を保ち、力を加えると粘度が低下する性質を持たせる。

積層後の塊は「ケーキ」と呼ばれていますが、そのケーキから光硬化した3Dモデルだけを取り残すDe-Caking工程の動画を見ると、15分で溶けていく様子が確認できます。このことから、積層装置から取り出したケーキは固体であるがDe-Caking工程で液体に変化する混合物であることがわかります。

さらによく見ると、網の上に置かれたケーキの上部には小型の装置が設置されています。この装置はなんでしょうか? もしかすると振動発生装置の可能性があります。ケーキにチキソトロピー性があれば、空気を伝わった波動エネルギーで液化するはずです。

初めは、コロイダルシリカの応用かなと思いました。ロストワックスのコーティングでは、コロイダルシリカが用いられています。これは、シリカ粒子を電荷的に反発させることで、液体中に分散・浮遊させています。セラミック粉末の場合、この原理の応用は可能ですが、金属粉末では金属イオンの影響により、凝集(ゲル化)が起こりやすいため、同様の手法は難しいでしょう。

ところで、このINCUS方式の最大のメリットは、フィードストックを構成する金属粉末が微細であるほど均質分散の面で有利であるということです。対照的に、BJT方式はマイクロ微細粉末になるほど敷き詰め(Powder spreading)が苦手です。だから、マイクロMIMの太盛さんが3.5DプリンターとしてLMM方式を採用した根拠がここにあると推察しています。

2025年5月11日日曜日

MIM製多孔質チタン合金の製造方法と用途

MIM製多孔質チタン合金の製造方法と用途のポイントをまとめる

《多孔質MIMの製造方法は2つ》

①スペースホルダーを使う方法  スペースホルダー材質:PMMA、NaCl、KCl 、 スペースホルダー除去法:水溶解、加熱分解

 特徴:母材は高温焼結で最高密度が可能。ポーラス形状が異形あるいは球形。パウダースペースホルダーで数ミクロンの球形ポーラス可能。

②スペースホルダーを使はない方法  制御因子 ①粉末粒径** ②焼結温度** ③粉末形状* 

 事例:D50 = 100μm、1000℃焼結、多孔度74 % 、焼結密度1.24g/cm3、C0.03%、O0.27%

《多孔質MIMの特徴》

・ポーラス金属は多孔質で軽量、比表面積が大きい。

・金属の熱・電気伝導性と高い力学的特性を持つ。

・マイクロオーダーの気孔を持つポーラス金属は、多様な機能性部品への応用が期待される(フィルタ、電極、インプラント、ヒートシンク、熱交換器など)。

・ポーラス金属の製造方法は多いが、気孔径が大きいものが多い。

・多くは単純形状素材で二次加工が必要である。そのためネットシェイプでのMIM量産が期待されている。

《多孔質MIMの用途》

・マイクロオーダーの気孔を持つポーラス金属は、多様な機能性部品への応用が期待される(フィルタ、電極、インプラント、スキャフォールド、ヒートシンク、熱交換器など)。

【珈琲ブレイ句】多孔質MIMの製造方法は、スペースホルダーを使う方法が良いと感じます。理由は、①焼結温度に対するロバスト性が高い(焼結機能窓が広い)からです。スペースホルダーを使わない方法は、「焼結を途中で中断して気孔率を管理する」方法なので、炉内温度バラツキに影響を受ける可能性が高いのです。一方、スペースホルダーを使う方法の焼結条件は母材の最適温度(焼結機能窓)で作られるので品質(引張強度、気孔率)が安定するのです。②さらに、気孔の形状はスペースホルダー形状の転写で、数(気孔率)はスペースホルダーの添加量でコントロールできます。

PS.スペースホルダーの除去方法ですが、塩(NaCL)は水で溶解させる方法が一般的ですが、ある大学では加熱分解で除去しておりました。塩の融点800℃、沸点は1400℃なので二次脱脂後に液化流出して、焼結中に蒸発している感じですね。炉内汚染は大丈夫かな??

2025年5月5日月曜日

MEX方式のUSA情報をまとめた

 

【珈琲ブレイ句】金属MEXをまとめて気づいたこと4つ。

①3Dプリンター造形機は高嶺の華の専用機セットと手の届くOPEN機に分けられます。ただし、OPEN機で造形したものを完全に金属にするためには、後工程の脱脂装置と二次脱脂・焼結炉を準備する必要があります。あるいは、専門業者に依頼する必要があります。

②高嶺の華の造形機は、サポートとの境界面にセラミック剥離層を2色造形する方式なので、焼結後のサポートの分離が容易です。(∵セラミックと金属は拡散接合しない)

高嶺の華のセットには、溶媒脱脂装置を選択することできます。やはり、64Tiなどのカーボンコントロールが厳密に必要な材種では溶媒脱脂(一次脱脂)が必要になるようです。FilametでもPMMAなどの膨潤する樹脂が配合されていなければ溶媒脱脂ができる可能性はありますが未確認です。

材料費は、ロッド(棒材)が一番安価です。相対的にフィラメントにする製造コストの方が高いということでしょうか?

《蛇足:独り言》国内で購入すると、Ultrafuse17-4PHは、25,300円/kg(© 3DFS id.arts)なのでUSAで購入するより少し割高(仕方がない)です。国内唯一の第一セラモ製フィラメントに期待しましょう。さらに、第一セラモではペレットのMEXも扱っているので材料費はさらに安価になる可能性がありそうです。頑張れMade in Japan!!


2025年5月4日日曜日

Filamet(TM)の金属MEXビジネスモデル

【珈琲ブレイ句】米国のThe Virtual Foundry, Incによる金属MEXのビジネスモデルをメモしておきます。金属フィラメントだけでなく、プログラム式電気炉から脱脂焼結セットまで販売しています。金属MEXを楽しめるビジネスモデルの世界がここにあります。アートペンでも積層OKということなので子供に造形してもらってもいいし、FFFプリンターがあれば高専の教材にもなりそうです。 なぜ焼結カーボンでるつぼに蓋をするのか?など冶金学も学べます。そうしてMIMを身近に感じてもらえるようになるはずです。

金属フィラメント:金属11種、Φ1.75&2.85mm (6061,IN718,316L,630他)

3Dプリンター:FFF式、機種を選ばない。アートペンでもOK。

プログラム式小型脱脂焼結炉:1970$、110V、MAX1260℃

自宅で脱脂焼結セット(Filamet™キット):SUS316Lセット/セラミックるつぼ、フィラメント 0.5kg、アルミナ 300mL、スチールブレンド耐火物 1kg、焼結カーボン 0.5kg。

Filamet™キットの脱脂焼結手順:① 《準備》るつぼに 3Dモデルを入れスチールブレンド耐火物で埋める。②《脱脂》 るつぼを電気炉に入れて、204℃×2H、保持2H、427℃×2H、保持2H、炉冷後に取り出す。③《焼結》るつぼ上部を焼結カーボンで埋めて炉に戻す。593℃まで急昇温、保持2H、焼結温度1232℃(SUS)まで2H、保持4H、593℃×6H冷却してヒーターOFF、炉冷

2025年5月3日土曜日

Metal AM 周辺技術の新しい言葉BOX

 【珈琲ブレイ句】最近Metal AMの技術文献の中で、初対面の言葉に出会うことが多くなりました。特に省略語は意味不明です。そこで出会った専門用語を此処に投げ込んでいきます。

「PDS」:Printing, Debinding, and Sintering、3D印刷して脱脂して焼結する工法。つまり「Sinterbased Metal AM」のこと。「MIM-Like AM」も同義。

「MEX」:Material Extrusion、溶融積層法。

「FFF」:Fused Filament Fabrication、フィラメントを使った溶融積層法(MEX)。Fused Deposition Modeling(FDM)が元祖、Stratasys社の特許技術、 Bound Metal Deposition (BMD) のDesktop Metal Studio System 、Atomic Diffusion Additive Manufacturing (ADAM)のMarkforged(Metal X)などがある。ペレット(pellet)を使ったものは(FPF)。

「3F」:FFFのこと。Fが3つだから。

「FPF」:Fused Pellet Fabrication、 材料にペレットを使った溶融積層法(MEX)。FGFと同義。

「FGF」:Fused granulate fabrication 、 粒状の材料を使った溶融積層法(MEX)。FFFと同義だが、最近はFGFを使った文献が多くなっている。

Studio SystemのDual Extrusionプリンターとしての未来を妄想する

 【珈琲ブレイ句】Disk Top MeatalのStudio Systemは、MEX方式ですが、サポートセラミック層も積層するのでDual Extrusionプリンター(二重押出プリンター、2色プリンター)です。このセラミックの代わりに違う材種の金属材料ロッドを使えば、二材種金属造形体を理論的には造れるはずです。

そうすれば、耐摩耗性材料だけを表面に点在させたり、機能傾斜材料(FGM: Functionally Graded Materials) も製造できます。2C-MIMの量産化はすでに行われているので面白いテーマだと妄想しています。イメージは『箱根寄木細工構造』です。新しい機能材料が誕生する予感がします。

課題としては、異なる金属材料の融点、熱膨張率、焼結特性が異なるので、積層間の剥離や変形、焼結時の割れなどの問題が発生する可能性があります。でも、優先材と補完材をはっきり区別すれば、優先材の焼結条件は決められるはずです。

注意:ただし、現時点ではDesktop Metalが公式に異なる金属材料同士を積層するアプリケーションや、そのための具体的な材料の組み合わせ、プリントプロファイルなどを提供しているという情報は確認できません。

関連BLOG: 2C-MIMとは?

関連BLOG:2C-MIMの課題をまとめる

2025年5月2日金曜日

MEX溶融積層式3Dプリンター用BASFフィラメントのメモ

 【珈琲ブレイ句】アメリカ合衆国におけるMEX溶融積層FFF用のBASFフィラメント(Ultrafuse)に関連する技術とビジネス情報をそのままメモしておきます。 多少の疑問もありますが、最後の「脱脂焼結サービス」というビジネスモデルがいいですね。これが日本でも流行れば、もっとMetalAM(MEX)の理解者が増え、その先にあるQCDで有利なMIMの利用者がさらに増える近未来が見えてきます。脱脂焼結の一回無料券は魅力ですよね。 日本のMIMメーカーにも、ビジネスモデルを更新するチャンスが来ていると思うのです。トップダウンのMIMメーカーはすでに更新中ですね。

《フィラメント》金属含有量80%以上、直径1.75mmと2.85mmの2種類、厳しい公差が求められる場合はニアネットシェイプ加工(例えば焼結後にねじ山を切る必要)が必要。

《材質》316Lと17-4 PHの2種類

《3Dプリンター》印刷には、密閉された加熱チャンバーと少なくとも100℃まで加熱可能な加熱ベッドを備えた3Dプリンターの使用を推奨。印刷ベッドはガラス製で、Dimafixベッド接着剤の仕様を推奨。

《積層条件》加熱ベッド温度: 100 - 120℃、ホットエンド温度: 215-235℃、ノズル径: 0.4mm、ノズル材質:硬化鋼、部品冷却なし:レイヤー冷却により印刷中に反りが生じる可能性有り、推奨レイヤー高さ: 0.10 - 0.25mm [高密度の場合は0.15以下]、推奨速度: 15 - 40 mm/s、充填: 100% 、最も均一でしっかりとした充填を実現するために、形状に応じてラインまたは同心円パターンのいずれかを推奨。充填物に隙間やボイドがあると、脱脂および焼結プロセス中に不具合が発生する可能性がある。

《部品設計ポイント》片面を平坦にし、部品の厚さが均一になるようにすることを推奨。薄肉やオーバーハングは避ける。部品の体積は100mm³以内に収める。高さと幅の比を3:1未満にすることで、脱脂および焼結中の部品の崩壊を防止できる。部品の拡大率は、X/Y方向で最終寸法の+120%、Z方向で+126%。

《形状サポートについて》オーバーハング角度が45°を超える場合はサポートの使用を推奨。サポートと同じ材料を使用(サポート充填構造は密度が約70%である必要がある)。サポートは、グリーンパーツの状態でも焼結後でも取り外すことができる。グリーンパーツからサポート材を取り外す前に、脱脂と焼結の戦略を検討する必要がある。

《脱脂・焼結》脱脂は、気化硝酸を用いる触媒脱バインダープロセス。市販の焼成炉を用いて純水素環境で焼結。

 触媒脱バインダーは、数百℃程度の温度でガス状の酸雰囲気下で一次ポリマーを分解。BASFプロセスでは、120℃、硝酸濃度98%以上で脱バインダーを行う。50リットルの脱バインダー炉を基準に、硝酸供給量(通常30ml/h)とパージガス供給量(500l/h)により安全な処理が実現できる。反応生成物は天然ガスの炎で600℃を超える高温で燃焼され、成形体は完全に脱脂体となる。脱バインダー損失が10.5%未満に達した時点で、脱バインダープロセスは終了する。これは、このプロセス全体のために特別に設計された密閉型制御システム内で行われる。

 脱脂体は次に焼結工程へ送られる。焼結とは、脱脂体に残った金属粉末を熱によって固体金属に変える工程である。特別に設計された炉では、金属の融点よりわずかに低い温度に設定され、脱脂体から二次バインダーを除去し、その後、金属粒子が融合される。

 焼結は、100%クリーンで乾燥した水素雰囲気で行う必要がある。典型的な焼結サイクルは、次の条件である。① 室温 - 5 K/分 - 600°C、1時間保持 ② 600°C - 5 K/分 - 1380°C、3時間保持 ③ 炉内冷却

《焼結密度》316L: 7850 kg/m³ / 490.1 lb/ft³ 、17-4 PH: ≥ 7g/cm³

《脱脂焼結サービス》出力した部品は、脱バインダーと焼結のためにサービスプロバイダーに送る必要がある。部品を出力・洗浄し、郵送して、予定された処理後に返送されるのを待つ。現在、部品は月に2回処理されている。

《フィラメント価格(USD)》Ultrafuse 316L 1.75mmまたは2.85mm 3kg:465ドル、Ultrafuse 17-4 PH 1.75mmまたは2.85mm 3kg:349ドル 1kg:129ドル(価格はmatterhackers.comより)

《価格設定(USD)》フィラメント1スプールには、Ultrafuseで3Dプリントしたグリーンパーツ(最大1kg)の脱脂・焼結1回分に相当する処理チケットが1枚無料で付属している。追加の処理チケットは50米ドルで購入でき、同じ条件が適用される。パーツは北米ではDSH Technologies、欧州ではElnik SystemsとAMPC Solutionsで処理される。DSH echnologiesに直接脱脂・焼結サービスを依頼した場合は、1サイクルあたり1,500ドルの料金がかかる。


2025年4月15日火曜日

AMリーディングカンパニーNano Dimension社

 【珈琲ブレイ句】『AMからようこそMIMへ』金属AMとMIMの連携が一段と活発になってきました。 

そこで、AMのリーディングカンパニーであるNano Dimension 社の買収経歴をメモしておきます。これで技術の深い専門性と鋭い視点が融合し、さらにAM技術が飛躍的に向上することでしょう。

Nano Dimension社

 2024/9 Mark Forged社を買収

 2025/4 Desk Top Metal社を買収

   2021/11 Desk Top Metal社がEX-ONE社を買収


《関連BLOG》

AMからようこそMIMへの棲み分けについて

これぞ「AMからようこそMIMへ」という記述を見つけた

Desktop Metal Studio system2 が溶媒脱脂工程省略化

2025年4月13日日曜日

中空MIMの始まりをまとめる

 【珈琲ブレイ句】MIMは、金型のスライドコアで成形できない中空部品を作ることができます。方法は2つ。 ①複数部品を組み立てて拡散接合で一体化する方法。②中子を使って二重成形し、中子を一次脱脂(水、触媒)あるいは二次脱脂(加熱)で消失させて焼結する方法です。

今回は、②の中子を使う中空MIMに関する最新の公開情報と特許情報を再調査し年代の古い順番に並べてみました。◎:特許が現在有効なもの

1977 日本楽器製造 粉末冶金PM+CIP→焼結

1989 マツダ(焼結カム)

1989 住重テクノセンター

1991 オリンパス光学

1991 セイコーエプソ

1992 住友重機械工業

1992 小松製作所

1995 北川鉄工所

1995 東洋機械金属

1997 西原章夫(リニアガイド)

1998 オリンパス

1998 インジェックス

2008 JUKI(特許消滅、動圧軸受)

2010 清水製作所

2010 Megamet Solid Metals社(MIM2010会議発表、インペラ、触媒脱脂)

2010 BASF(触媒脱脂)

2011 IHI

2012 キャステム(◎フィラー添加)

2013 太盛工業(◎、流体素子、加熱脱脂)

2013 浜松メタルワークス(旧テイボー、世界PM2024発表、水脱脂

2020 積水化学(◎中子用PVA、水脱脂)

2021 第一セラモ(◎3Dプリンタ中子

【中子材質】水脱脂:ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリルアミド(polyacrylamide)、ポリアクリル酸(PAA)他、 加熱脱脂:アクリル(PMMA)他、 触媒脱脂:ポリアセタール(POM) 

関連BLOG:中子を利用するMIMの特許を調べた(2020)

関連BLOG:アンダーカット形状を形成するための技術の流れ

2025年4月12日土曜日

溶媒脱脂に使うヘキサンは危険なのか?

 【珈琲ブレイ句】MIMの溶媒脱脂で使う溶媒の代表は、Nヘキサンです。しかし、常温で引火性があり危険だから使わない! と言われたことがあります。自動車のガソリンを自分で給油して、そのまま平気で運転している人に言われるとショックです。 そこで、危険の代名詞「水素」と「ヘキサン」と「ガソリン」の危険比べをしてみましょう。

ガソリン:可燃範囲は1.4%から7.6%。引火点は-40℃。

ヘキサン:可燃範囲は1.1%から7.5%であり、ガソリンとほぼ同程度。引火点は-22℃でありガソリンより高い。

水素:空気中の濃度が4%から75%という非常に広い範囲で可燃性大、無色・無臭。

結論:危険なのは、水素、ガソリン、ヘキサンの順です。すべて危険ですが適切に管理すれば問題ないのです。 今からヘキサンを使った溶媒脱脂を始めるならお薦めは、ドイツ製のLOMI社の溶媒脱脂装置かな? 機能だけでなく安全性でも優秀です。さらに汚染溶媒を蒸留再生までしてくれます。補足:ヘキサンは吸引すると神経系の障害を引き起こす可能性があるので、ブラウン体に残ったヘキサンの蒸発を考慮して天井に局所排気を付ければ安心です。

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2025年3月25日火曜日

変動係数CVとSN比の違い

 【珈琲ブレイ句】ジャーマン先生は寸法管理にはCV(変動係数)で評価せよと説いています。CV(%)=(標準偏差S)÷(平均U)×100です。ジャーマン先生は典型的な値として±0.3%としています。

《注意》CVは実験計画法や品質工学などの最適化実験のために解析する場合の特性値として計算にはそのまま使えません。その理由はCVには加法性が無いためです。それを可能にしたものが田口玄一先生が提唱するSN比です。SN比をザックリ説明するとCVを対数の世界にしたものです。対数の世界にすると加法性が出てくるので計算できるのです。真数に戻したければ逆対数の計算、つまり指数変換を行います。

関連BLOG:品質は「分散」と「平均値」の合わせ技で決まります

関連BLOG:MIMの公差はどのくらい

関連BLOG:精度に関係する用語を学び直して図示化した

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金属粉末射出成形法によるロバスト性の高いSKD11の創製

オープンアクセス論文になっているので掲載ページを載せておきます。

J-Stage 粉体および粉末冶金 2005 年 52 巻 10 号 p. 717-721

【珈琲ブレイ句】20年前の量産技術開発論文です(なつかしい)。開発目的は、MIM-SKD11をフルチャージで脱脂焼結できるロバスト性の高い高精度材料の開発です。量産技術開発なのでQCDで評価しベストではなくベターな仕様を量産材に採用しています。この事例は、ピン止め添加材を使っていないのでJIS規格内の材料です。超高速回転の工業用部品に採用されています。惚れ惚れする球状化組織ができますよ。

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2025年3月8日土曜日

バインダー分離(偏析)について掘下げる

MIM指南書、第5章 MIM不良の原因と対策の25番目として185頁と186頁間に追加します。

5.25 バインダー分離による不良

Powder-binder separation

金属射出成形 (MIM) における「バインダー分離(偏析)」とは、射出成形プロセス中にバインダー材料が金属粉末から分離すること。その結果、原料内でバインダーが不均一に分散され、密度の不一致や潜在的な弱い領域により、最終的な焼結部品に欠陥を生じさせる可能性がある。

【現象】

1 収縮の不均一

 部品の様々な領域でバインダー量が不均一になるため、焼結収縮率がそれらの領域で異なる。そのため、最終部品の反りや歪も加わり寸法が不正確になる。

2 焼結密度不均一

 バインダーが少ない領域の多孔性が高くなり、部品の強度と機械的特性を低下させる。また、薄肉部分にバインダーが独立した微少片となり、焼結後ピンホールや凹み不良となる。

【原因】

バインダー分離は、粉末とバインダーの不適切な混合、原料の流動性(レオロジー)の悪さ、射出時のせん断速度の高さ、粉末粒子サイズのばらつき、金型設計の問題などの要因によって発生する。

【対策】

1 原料配合の最適化:適切なレオロジーと粒子サイズ分布を持つ適切なバインダーシステムを選択する。

2 混合プロセス制御:金属粉末とバインダーを完全に混合して、均一な混合物を実現する。

3 金型設計の考慮事項:射出時のせん断力を最小限に抑えるために、適切なゲート位置とフロー パスを使用して金型を設計する。

4 成形射出条件:射出圧力と流量を調整して、原料の均一な分配を確保する。

【珈琲ブレイ句】バインダーの分離による不良として体験したことがあるのは、薄肉部分の収縮率が大きくなることによる寸法マイナスNGだけです。しかし、昨日、あるMIM講習会で発表された改善事例では、1mm厚部分に独立したバインダーの微少片が見つかり(CTスキャン)、焼結後にピンホールや凹み不良となるものでした。フィードストックの品質には問題が無く、射出成形で分離バインダーの微少片が発生するという事例に初めて会いました。この事例の対策は、バインダーの配合設計から見直したそうです。

◆バインダー分離の評価方法について◆ ①ジャーマン先生の本のP152 Fig.6.17 にジグザグ金型の試験は、成形性と粉末結合剤分離の両方を測定できる有益な方法だと紹介されています。ジャーマン先生の本 ②こちらもジャーマン先生が絡んでいる論文ですが、キャピラリーフローを測定すれば判定できるというもので、バインダー分離が発生するフィードストックは、せん断速度を1000(1/s)以上大きくしていくと見掛け粘度が下がらないで逆に上昇していくので評価できます。(”The effects of material attributes on powder–binder separation phenomena in powder injection molding”  Tirumani S. Shivashanka, Ravi K. Enneti , Seong-Jin Park , Randall M. German , Sundar V. Atre)




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2025年3月4日火曜日

MIM精度の工程展開

 【珈琲ブレイ句】精度を改善するときは、「正確さ」と「精密さ」に分解する必要があります。正確さは平均値、精密さは分散のことです。それからMIMの場合は、「変形」(スランプ)が絡んできますので厄介です。それらがどの工程で発生するのかを表にまとめているので紹介します。工程FMEAをやられている向上心の高いエンジニアさんの参考になれば幸いです。


引用:拙著、型技術連載(2021年第5回)MIM入門、タイトル:基礎から学ぶMIM金属粉末射出成形入門、サブタイトル:金型設計から新事業展開まで、表3 MIM精度の工程展開

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2025年2月28日金曜日

粒径と相対密度の焼結温度依存性

SUS630(水アトマイズ粉末)のMIMにおける、粒径を横軸、相対密度を縦軸にして各焼結温度ごとのグラフに描きなおした。

参考文献:Noriyuki Yasui, Hiroshi Satomi, Hiroshi Fujiwara, Kei Ameyama, Yoshimitsu Kankawa ”The Influence of Powder Size on Mechanical Properties of Small MIM Parts”,2006 POWDER METALLURGY World Congress B02-02-1

【珈琲ブレイ句】座標を粒径と相対密度の二次元グラフに描き直した目的は、微細粉末であれば焼結温度の炉内バラツキに影響されず高密度が実現できることを直感でわかるようにしたかったのです。品質工学で言うロバスト性が高いということです。粒径が2.7μmの水アトマイズ粉末であれば、たとえば炉内温度のばらつきが300℃(1350-1050℃)あったとしても焼結相対密度が95%以上になるということです。300℃の炉内温度ばらつきは極端ですが、それでも実際の量産炉の炉内温度バラツキ幅は±10℃、さらにガス対流も加わり実際には±15~20℃程度あるのでMIMの焼結密度が変動します。これが寸法変動につながっています。その影響を小さくするための一つの策として微細粉末化が良いということです。

太盛工業さんの「超高精度MIM±0.1%」技術の大黒柱はコレだと推察しています。

最後に、「SUS630粉末」の上記研究における、微細粉末化の欠点を上げておきます。①粉末のコストが相対的高価になる(でも、部品が小さければ、原価構成上ほとんど問題ない。)。②水アトマイズ「SUS630粉末」において、2.7μmまで微細になるとBCC構造(マルテンサイト)だけでなくFCC構造(オーステナイト)も出現してくる。これは、微細なほど比表面積が大きくなるので水アトマイズによる酸化量が多くなり、微細SiO2が析出するためだと説明されています。結果、硬度が低下していることを裏付けており、おそらく機械的性質も低下する可能性を示唆しています。

関連ブログ:高精度化に必要な「焼結機能窓 sintering window」とは?

《ことば》品質工学における「ロバスト性が高い」とは、製品やシステムが様々な外的要因(ノイズ)の影響を受けても、性能や品質が安定している状態を指します。つまり、変化に強く、ばらつきが少ないことを意味します。

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2025年2月16日日曜日

MIMフィードストック混錬の復習

MIMフィードストックの混錬について、もう一度復習してみた。混錬の方法は識者により微妙に異なるがその4つの目的は同じである。

《MIM混錬4つの目的》1.金属粒子の表面にバインダーを均一にコーティングすること 2.バインダーシステムのすべての成分(ポリマー、湿潤剤、界面活性剤)を均一に混合すること 3.粉末凝集塊を分解すること 4.粉末やバインダーの分離が無い均一なフィードストックを得ること

《Hさんの混錬方法》①高融点のバインダーを加熱する。②残りは、それぞれの融点が低下する順に混合物に追加する。③バインダー成分が混合されたら、金属粉末を追加する。③’一部のシステムでは、高融点バインダーの溶融中、低融点成分の添加前に金属粒子を添加し金属粒子へのバインダーコーティングを優先させる。④原料の最終混合は、原料のガス抜きのために真空中で行う。

《Gさんの混錬方法》混錬作業には2つの方法がある。ひとつは粉末とバインダーを乾式混錬した後に混錬機にプレミックスとして入れる方法。もう一つは、配合機内でバインダーを加熱し溶融させ、そこに粉末を加える方法である。 バッチ式混錬機による後者の方法 ①バインダーは最高溶融温度の成分から始めて加熱下で混錬される。蒸発または劣化を避けるために、融点が低いバインダー成分では、その適温度まで下げてから添加するようにする。②バインダーと混錬する前に界面活性剤を粉末と混錬する。混錬中、表面処理された粉末は溶融バインダーに添加され、液体は毛細管作用により粒子の凝集した塊(クラスター)に吸い上げられる。これは粒子の潤滑性を上げさらに凝集を解く効果がある。熱可塑性バインダーの場合、混錬はせん断が支配的である中間温度で行う。粘性を下げることと混錬物に関連する降伏点を排除することの両方に熱が必要である。高すぎる温度で混錬すると、バインダーが劣化するか、混錬物の粘性が低いために粉末から分離してしまう。

《参考文献》Hさん:Handbook of Metal Injection Molding P80 4.4 Mixing technology、  Gさん:Injection Molding Metals and Ceramics  P25 Chapter Two Feedstock

【珈琲ブレイ句】復習すると新しい気づきがありました。それは、「混錬の最終工程は真空中で行う」の項目です。そこまで拘るのは凄い。ただし、これは混錬機に何を使うかにもよりますね、実際の量産工場では、混錬中に脱気できる加圧混錬機や二軸スクリュー押出機が使われているのでエアーの巻き込みは解消できていると思われます。他の気づきは、液化温度による投入順番の工程設計や、あらかじめ界面活性剤を粉末と混錬しておくなど、使用するバインダーや粉末仕様によって最適な混錬方法が研究されていることです。知っているけど復習することは固定観念を見直すよい方法ですね。

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2025年2月14日金曜日

Niフリーステンレス(窒素吸収法)を掘下げる

母材:フェライト系ステンレスGA粉末 Fe-17Cr-12Mn-3Mo-0.2N

バインダー成分・配合:PW,PP,DOP、30VOL%

MIM成形体の脱脂:加熱400℃、N2

焼結+窒素吸収:室温~980℃まで真空、980~1250℃+窒素導入、焼結温度1250~1300℃+窒素0.2MPa、1200℃+窒素×5H、炉冷

熱処理:1200℃溶体化(オーステナイト化)+900℃5h時効

MIM成分:Niフリーステンレス Fe-17Cr-12Mn-3Mo-1N

引張強度:約1050MPa   硬度:250HV

《比較》Catamold P.A.A.A.C.E.A.

引張強度:≧1090MPa   硬度:250~300HV

参考:青山陽亮、黒田義和ら ”金属粉末射出成形で作製したオーステナイト計ステンレス鋼の引張特性に及ぼす窒素添加と変形双晶の影響”J.Jpn.Soc.Powdwe Metallurgy Vol.56 No.3 ,特許第5616299号 、 BASF Data Sheet D/CA 017a March 2008 Catamold P.A.A.A.C.E.A.

【珈琲ブレイ句】金属アレルギーに優れ、医療で使うMRIに影響されない非磁性体の要求を叶える「窒素吸収法を使ったニッケルフリーステンレス製造法」は、ガウス㈱の特許(出願2011/8/9)です。フェライトステンレスに窒素を吸収させてクロムの代わりに耐食性を向上させるものです。特許を読み込むと、さらにオーステナイト相を安定させるCuを2~3wt%、強度向上目的の結晶粒微細化のピン留めとしてNbを0.02~0.06wt%添加するのもイイヨと教えてくれます。

Catamold P.A.A.A.C.E.A.のData Sheetを見るとNiが最大0.1wt%加えられています。相対的に強度と硬度が少し高いのはNi微量添加の効果かもしれません。

 

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2025年2月9日日曜日

Desktop Metal BMD Studio SystemによるTi-6Al-4Vの機械的特性

 Desktop Metal社のBMD Studio System(MEX3Dプリンター)で積層したTi-6Al-4Vの機械的特性が、MIMだけでなくロストワックスにも肩を並べているので記録する。

試料名:引張強度Mpa、伸び%、相対密度%、酸素%

Desktop Metal BMD製:845MPa、17%、97.5%、酸素量不明

MIM製(細Al-4V調合粉末):930MPa、15.8%、97.5%、0.34%

MIM製(粗Al-4V調合粉末):880Mpa、14.5%、96.7%、0.26%

MIM製(合金粉末):850MPa、13.7%、97.6%、0.23%

ロストワックス(エリー材):890MPa、15.2%、鋳造品、0.15%

参考:MIM:高温学会誌 第36巻 第2号(2010年3月)、三浦秀士、伊藤芳典/ ロストワックス:NASA Technical Paper 3288 1992

【珈琲ブレイ句】金属3Dプリンター(Sinter based Metal AM)のMEX方式で注目しているのがDesktop Metal の「BMD」です。何が気に入っているのかというと、成形材が棒状のフィードストックを使っているところです。◆FFF方式と比較して何が素敵なのかというと・・・。FFF方式は巻き線フィラメントを使っているので、柔軟性を持たせるためにフィラメント内のバインダー量がメチャクチャに多いのです。バインダーが多いとスランプ変形が大きくなり、当然収縮率が大きくなるので焼結寸法精度が悪くなります。◆一方、BMDの成形材料が棒状のフィードストックということは、MIMと同等のフィードストック仕様を展開できるということです。究極のMIM材料はバインダー量を極限まで減らし高精度化を狙っているのですが、それを展開できる可能性があるのです。◆したがって自作したMIMフィードストックで棒を作れば3Dプリントできるのです。ただし、失敗してもメーカーは保証してくれませんので自己責任でチャレンジ!

◆蛇足:BMDのチタン合金製造ではStudio Systemのフルセットつまり、溶媒脱脂装置が使われています。Studio System2.0(溶媒脱脂工程省略)ではカーボンコントロールが難しく活性金属では避けられているようです。

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2025年2月4日火曜日

MIM脱脂焼結炉(HIPER炉)の客観的研究

 【珈琲ブレイ句】MIM脱脂焼結のためのMIM専用炉としては「SHIMAZUが大好きなのですところが近年そっくりな「HIPERが登場していますこの炉が実に優れているのでまとめておきますできるだけ中立・客観的立場でまとめていますが、少し「自分の意見」もいれています。HIPERさんは元島津さんのエンジニアだったそうで基本仕様はSHIMAZU炉流ですしかしユーザー目線でいくつかの改善仕様が組み込まれており島津先生を超えるために死に物狂いで開発をしたんだろうなと感じる名品なのです。

【温度制御】《計測》炉内温度とタイトボックス内温度のダブル計測(カスケード接続)、カスケード制御によりプログラム応答80%。《加熱》独立制御できるヒーターで加熱(マルチゾーン独立温度制御システム)により炉内温度ばらつき<±1℃。「これならJIS化学成分のハイカーボンの鋼でもフルチャージできますね。」

【ガス流制御】《島津炉と逆のガス流れ方式》実験結果では焼結体のバラツキは減少したそうです。「未確認ですが、黒鉛断熱材が汚染される可能性があるので、私は確認できるまで疑心暗鬼です。∵クロム等の蒸発金属汚染問題です。」《その他のガス流制御》いろんなバルブを追加して一次流れ二次流れを設計できるそうです。ガス対流のばらつきを最少化するためのダメ押し対策です。「熱伝達3要素をしっかり理解しコントロールしようという徹底的な攻めの開発姿勢を感じます。」

【設置面積のミニマム化】《標準仕様で電源を炉体の上部に配置》「ユーザーの立場でよく考えられています。こちらは島津さんでも依頼をすればやってくれます。」

「国内商社の数社がHIPERを扱っています。通常メンテナンスは、国内専門業者に頼めば大丈夫でしょう。心配なのは、消耗交換部品ですが、主要部品だけ在庫していれば安心できますね。


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2025年1月12日日曜日

Mg合金のMIM研究事例

活性金属マグネシウム合金のMIM研究の事例を記録しておく。

《粉末》球状ガスアトマイズMg粉末+球状ガスアトマイズMg+10Ca粉末を混合した「Mg-0.9Ca」粉末

《バインダー》PW,SA+PPcoPE(25wt%)

《粉末負荷》74vol% (バインダー36vol%)

《溶媒一次脱脂》ヘキサン45℃×10~15H(LOMI)

《焼結るつぼ》Mg粉末ゲッターで囲った焼結るつぼ内で焼結

《加熱二次脱脂①②③+焼結④》①~300℃、Ar ②~400℃、Ar+5%H2 ③~635℃真空 ④635℃×64H、Ar

《結果》最大引張強度 142 MPa、降伏強度 67 MPa、弾性率 40 GPa、伸び 8%

文献:Metals 2016, 6, 118 ”Metal Injection Molding (MIM) of Magnesium and Its Alloys”Martin WolffThomas Ebel、 Article in Metals-Open Access Metallurgy Journal · May 2016, Helmholtz-Zentrum Geesthacht, Centre for Materials and Coastal Research, Institute of Materials Research, Division Metallic Biomaterials, Max-Planck Straße 1, Geesthacht D-21502, Germany 


【珈琲ブレイ句】Mg合金は生分解性材料としてバイオメディカル用途に非常に適しているのですが、やんちゃな活性金属であり蒸気圧も低いのでMIMとして脱脂・焼結させるのが難しい課題があります。いろいろ工夫されているので勉強になりました。本研究からの学びは6つ。

①焼結助剤としてCaを0.9wt%添加するのが機械的特性上最適。

②Mg粉末ゲッターを使った焼結るつぼ。

③バインダー残留物を完全に除去するため、焼結直前まで真空排気で二次脱脂。 

④Mgの焼結は温度635℃で64時間もの時間が必要。∵Mg粒子表面の酸化被膜が粒子間の拡散を阻害するため。

⑤るつぼ内の温度差(±12K)により、Mgの昇華を管理できないため、±1Kの炉が望まれていた。

⑥バインダーのポリマーとしてポリプロピレンコポリマーポリエチレン(PPcoPE)を使い配合比を25wt%にすることで成形不良(ウエルド等)が減り、機械的特性で有利。

PPとPEの両方の長所を兼ね備えた共重合体高分子ポリオレフィンのポリエチレンコポリマーをMIMへ採用した事例は発見でした。残渣だけでなく成形性が向上したという報告なのでAl合金、Ti合金でも効果がありそうですね。

D1956

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