拡散接合を利用したMIMの二部品一体化技術を表にまとめた。
*1特許5518861
【MIM技術伝道士の深すぎるブログ from 2017】 20年間体で覚えたMIM(金属粉末射出成形)製造技術と技術書や論文で学んだMIM理論やMIM最新情報、さらに金属AM(MIM-Like AM、SBAM分類のMEX、BJT等)情報をわかりやすく解説しています。
拡散接合を利用したMIMの二部品一体化技術を表にまとめた。
*1特許5518861
【珈琲ブレイ句】Co-MIMという語彙を発見したのは13年前の専門誌です。ここでは、Metal Co-Injection Moulding (Co-MIM)となっています。まず、コインジェクション成形とはスキン材とコア材を時間差で射出成形して一体化させる成形技術です。成形機はツインバレル成形機が使われます。この技術を使い二種類のMIMコンパウンドでスキン層のある歯車の試作を発表していました。最近では類似技術でMIMの二色成形が実用化されています。2C-MIM「two Component Metal Injection Moulding」です。
Co-MIMのポイント:①粉末配合量(solids loading)は、相対的にコア材よりスキン材の方を多くしている。②成形温度、射出速度の組み合わせによりスキン層の厚さが管理される。③Fe2Ni(コア)/Fe2NiCr(スキン)とする歯車の試作では、コア材75VOL%でスキン0.5mmを実現できた。スキン厚さが均一になるのは粘度比が0.98~1.1のときである。
参考文献:”Design and Manufacture of Gears with a Skin-Core Structure by Metal Co-Injection Moulding”、hao he, Yimin Li, Pan Liu, Jianguang Zhang、Powder Injection Moulding International March 2010 Vol. 4 No. 1 P50
【珈琲ブレイ句】都立大学日野キャンパス小林研究室(長田先生)に納入・移設されたVHS-CUBEを観てきました。BJTやMEXなどのMIM-Like AM装置とバンドルの脱脂焼結炉とは明らかに異なる秀逸な設計を確認できました。
それは、ワックストラップ装置です(下写真の右側)。冷却ホースのIN-OUTがワックストラップの上蓋に配管されており、その下に低分子ワックスを捕獲する容器が直列に接続されています。これがあれば、MIM-Like AMだけでなくバインダー配合量の多いMIMの脱脂焼結も可能です。研究室ではBJTやMEX造形体だけでなく、溶媒脱脂系のMIM一次脱脂体や3STD(一次脱脂工程省略)系のMIM成形体をCUBE炉で脱脂焼結しています。
30年前の論文であるが、SKH51のMIMを微細炭化物のまま高密度&高強度化させるアイデアが面白いのでまとめておく。
粉末:水アトマイズ、平均粒径9.8μm、比表面積0.81,m2/g、C=1.3,O=0.6
製造条件:バインダー7.5wt%、H2加熱脱脂、真空焼結1170-1240℃、HIP900℃×147MPa×1H
ポイント:真空焼結で低焼結温度1180~1195℃により相対密度93~96%の閉気孔で微細炭化物1~2μmの焼結体を作り、さらにHIP処理を行うことで微細炭化物をそのままに完全緻密化(8.1g/cm3)させる。
参考文献:上田、森村、河野”HIPを加えた射出成形高速度工具鋼の特性について”、粉体および粉末冶金、第40巻第6号、1993/6、P589
【珈琲ブレイ句】液相焼結が支配的な工具鋼は焼結が難しいのです。高密度を狙い焼結温度を上げていくと表面が溶けたり、溶けなくても粒界に炭化物が析出して網目状になり理想の球状化組織ができないのです。この論文はそれを解決するヒントを提供してくれます。
さらにおいしいところは、焼結密度93~96%に相当する焼結温度幅が15℃あるので、炉内温度バラツキの大きな焼結炉でもフルチャージできるところです。この温度域では液相が発生しないため、炭化物が粗大化しません。また、HIPも低温900℃なので、微細炭化物はそのままで変形量も無視できると報告されています。ただひとつ問題があるとすれば、HIP処理が高価なところです。しかし、小物で高付加価値のMIM製品であれば、量産に展開できそうですね。他には、ピン止め効果を利用する方法などもありますので、QCDで選んでください。
ガスアトマイズ粉(GA粉)と水アトマイズ粉末(WA粉)のAlloy718粉末を使用し、標準バインダーAと変更バインダーBとする強度特性の結果は以下の通り。WAは標準バインダーのみ。
《耐力》鍛造≒GA+A>GA+B (WAデータ無し)
《伸び》GA-B>鍛造=GA+A (WAデータ無し)
《疲労強度》GA+A>GA+B>鍛造>WA
参考文献: 尾崎ら、”粉末冶金に基づく素形材製造技術の開発”、IHI技法 Vol.59 No.1(2019) P91
【珈琲ブレイ句】MIM製Inco718において、粉末にガスアトマイズ粉末を使えば鍛造材に匹敵する材料特性を確保できることが報告されています。残念ながらバインダーの詳細が不明ですが、ポイントは残留炭素の影響を受けるということです。なぜなら炭素が残留すると母材強度(耐力)に寄与するNbが炭化物(NbC)に消費されるためです。つまり、脱バインダー性の高いバインダー設計と一次脱脂工法の選択が鍵ということです。
「MIM規格の祖MPIF Standard35」の更新で何が変わったのか?②
MIM-420 HIP&HT が追加(June 2021 Release)
《TYPICAL VALUES:代表値》
従来:MIM-420(HT) 耐力1200MPa 伸び<1% HRC44 ・・
追加:MIM-420(HIP&HT) 耐力1310MPa 伸び8% HRC49 ・・
(HIP:1121℃*103MPa*4H、HT:1010℃窒素ガス加圧冷却*205℃焼き戻し)
【珈琲ブレイ句】熱処理HT前に、HIP(熱間等方圧加圧法)を追加することで従来より耐力が9%向上しています。他の機械的特性(硬度、伸び等)も向上しています(引張は+15%で1586MPa)。ミニマム値でも耐力1172MPaなので凄いです。そもそもこの『SUS420HIP&HTはどんな用途で使われるのでしょうか? 規格化するだけのニーズがあるはずです。』気になるところですが・・超重要保安部品にはHIP&HTがマストと覚えておきます。
「MIM規格の祖MPIF Standard35」の更新で何が変わったのか?
MIM-17-4PH(SUS630)(November 2022 Release)
《更新箇所》耐食性(g/dm2/day,硫酸)
更新前:<0.005 更新後:0.040
【珈琲ブレイ句】更新前はMIM-316Lと同じレベルの防錆力という評価でしたが、「少しは錆びるよ」という内容に更新されています。これは私の実体験とも合致するので合点が行きます。やっぱり「MIM規格の祖MPIF Standard35」は、謙虚で自己研鑽を続け更新も速い先導者ですね。頼もしい。
この更新にいたる主犯は残留炭素だとおもわれます。そもそもSUS630は316L(LowCabon)の様なC0.03%以下の規格ではないのです。炭素がSUS630の上限0.07%近傍では錆びやすい・・・と理解しました。
Ni基超合金のMIM(INCO713+α)のクリープ破断特性を精密鋳造の世界と比較する。
SC:単結晶 DS:一方向凝固 CC:普通鋳造参考文献:①ロストワックス精密鋳造法(産業図書)P149、 ②MIM: アテクト特開2020-56106【表1】
【珈琲ブレイ句】MIM製Ni基超合金が実用化され始めました。どのくらいの実力なのか? その実用化されたMIMのクリープ破断特性データをロストワックスの世界に重ねてみました。結果は、まだまだ頑張ってほしいレベルであることがわかりました。
DCやSCはジェットエンジン用なのでMIMが活躍することはありません。CCは精密鋳造(LW:ロストワックス、真空鋳造LW)のことですがMIMが戦うべき土俵になります。でもなぜ、MIMのクリープ破断特性はこんなに低いのでしょうか? それは、「結晶組織の大きさの問題」だと推察されます。結晶粒は大きい方がクリープ強度が高くなりますが、MIMは粉末冶金なので製法的に元々結晶粒を大きくしづらいのです。鋳造は冷却凝固の制御で結晶粒を大きくできるし、なんといっても究極はSCの単結晶になるのです。
MIMは粉末冶金であるという製法的特徴を知り、いかにCCと戦うかを考える必要がありそうです。MIMの長所はニアネットシェイプ形状、中空化、マイクロ化ですね。
*MIMはHIPが前提です。密度は99.97%に達し、引張強度はCC(ロストワックス)に肉薄してきます。カーボンの少ないINCO713LCの方が若干引張強度に有利で、残留炭素などに影響する脱脂工程の最適化が重要になるようです。
マイクロMIMとは:微細金属粉末(D50、3μm)を使用し、全体の代表寸法が数mmで5mmの公差±0.01mm、局所寸法数十~数百μm、重量は数百μg、表面あらさRa0.35、相対密度98.5%のものが代表値のひとつである。
マイクロMIM用成形機:プランジャ径(バレル内径、シリンダ内径)<Φ10mmのプリプラ方式(2段スクリュープランジャ射出成形機)。代表例として「Battenfeld の Micro Power 旧:Microsystem 50」「BabyPlast 6/10P」等
《関連ブログ》国産超小型射出成形機μMIV-2の基本仕様
【珈琲ブレイ句】”マイクロMIM”といっても0.001mmオーダーの大きさではなく数ミリで、マイクロのイメージより結構大きいのです。この”マイクロ”は”極小”の概念で使われているようです。*1
通常MIMで使っている射出成形機でマイクロMIMは成形できないのでしょうか? 答えは「通常の射出成形機でマイクロMIMは成形できます。」でもいくつか問題があります。
①スプルー・ランナがマイクロMIM成形体の体積と比較してメチャクチャ大きくなる。(ランナの先端にできた成形体は、”バリ”なのか”製品”なのか区別がつかないほど歩留まりが悪い。)
②キャビティ薄肉部の流動性が悪いので、高速射出が必要になる。*2
③その射出量(計量値)を大きな成形機では正確に制御できない(シリンダー断面積が大きいため)。
④流動性を向上させるために金型温度を高温側へシフトさせる傾向*1があり、大きな金型の場合、昇温降温(ヒートサイクル制御)に時間が掛かりすぎる。
従って、マイクロ用射出成形機はシリンダー径をΦ10mm(Φ5,Φ8)以下にして射出量を正確に管理し、小さな金型に高速で射出成形するのです。シリンダー径が小さいので普通のインラインの様な3ゾーン(供給、可塑化・圧縮、計量・混錬)が造れないため、可塑化を2段スクリュー(プリプラ+計量シリンダ)で行うのです。
近年 Arburg社から、新しいマイクロ用射出成形機が発表されました。 モジュールは、Φ8 mm 射出スクリューと材料を溶融するための 2 番目のスクリューを組み合わせた革新的アイデアで、材料の先入先出しを実現させたものです(材料溜まりの熱劣化問題が発生しない)。射出スクリューにちゃんと逆止弁が付いているのが素敵で可愛いです。
*1:スイスのMIMメーカーParmaco社では、マイクロMIMを「重量が 1 g 未満で、特に微細な機能を備えた部品」と分類している。また「マイクロMIM 部品の製造には従来の MIM 部品と大きな違いは無いが、通常は再加工が不可能なため、マイクロMIM 部品は焼結後にすぐに使用できるようにする必要がある。」との指標を持つ。
*2:MIMフィードストックは、高速射出になるほど粘性が下がる擬塑性流体である。また温度依存性が高い。「MIM指南書 金属粉末射出成形ガイドブック」P92
【珈琲ブレイ句】最近のIncus Hammerシリーズ*1のカタログ値では、表面あらさがRa2となっています。さらにポリシング(光沢バレル?、磁器バレル??)を追加すればRa0.07とのことです。以前は、表面がザラザラでRa5と発表されていたので凄い改善努力です。焼結密度も99.8%(材質不明?)と高くなっています。造形分解能は変わっていないと思われるので、表面あらさを向上させた技術は「微細粉末配合研究、高タップ密度化、CSL研究の成果」だと推察します。(微細粉末が得意な国内MIMメーカーによる技術指導の結果かも?)
実績のある材質は、316L 64チタン*2 真鍮 タングステン 超硬合金 ダイヤモンド とあります。でも、タングステンやダイヤモンドは謎ですね。焼結はどうするのか?つなぎの金属が混ざっているということかな?
*1 ISO/ASTM分類:バット光重合プロセスvat photopolymerization process (VPP)
*2 64Ti:粉末量55Vol%、3点曲≒13MPa、Ra2μm
関連BLOG
MIM(lot500、as sintered)で最短リードタイムは3日間である。
成形8H+溶媒脱脂8H(1日)+二次脱脂・焼結23H(1日)+仕上・検査・出荷3H(1日)=3日間
《ことば》
タクトタイム(ピッチタイム)=稼働時間÷必要生産数
サイクルタイム=稼働時間÷実際の生産数 (理想:タクトタイム=サイクルタイム)
リードタイム(生産リードタイム)=製造手配から出荷までのすべての工程に掛かる期間
【珈琲ブレイ句】リードタイム3日間を成立させるために必要な条件があります。それは、製造ロット500個、成形作業と同時並行でゲート類仕上げ・外観検査して脱脂トレイに並べる(工程間仕掛ゼロ)、脱脂は多種混在処理、2次脱脂焼結は同材質混在処理です。一次脱脂工程省略法を選べば、さらに半日リードタイムを短縮することが可能です。
多品種少量生産には、セル生産方式(屋台方式)が有効です。一番魅力的なのは「短納期」を実現できること。さらに、作業者の責任感と士気が向上する効果が期待できます。MIM生産の場合は、脱脂と焼結がバッチ生産になるのですが、多ロット混在処理ができれば、工程間仕掛在庫を最少化できるはずです。
一方、大量生産のメリットは、ロボット化が容易、段取り替えの最少化、工程外注化によるコスト低減などがありますが、デメリットとして工程間仕掛在庫が、膨大になる傾向があります。当然納期が数か月掛かります。
多品種少量の国内製MIMは、海外との差別化として、リピート納期は(3日間は無理として)数週間であってほしいものです。
【珈琲ブレイ句】2023年10月4日~6日メタルジャパン「高機能金属展」 "あれ”を観るために幕張メッセまで足を運びました。。
”あれ”とは、C.Mobile技術を使ったMEX装置(FPF)の実用機です。しかし、残念ながら展示はありませんでした。
ただし、成形サンプル品の中にC.Mobile技術を使ったMIM成形品があったのは収穫でした。どこかのMIMメーカーに導入されているとのことでした。サンプルは引張試験片で、おそらくサイドゲートなのでランナーが必要になります。
C.Mobileを使ったMEX装置(FPF)の開発は着実に進んでいると信じていますよ。頑張れエプソンテックフォルム㈱!!
《ことば》C.Mobile:逆回転臼方式の可塑化円盤とプリプラ式射出ユニットおよびホットランナーで構成された超小型射出成型機。金型界のエジソン竹内宏博士の発明。現在の名称は「AE-M3、AE-M10」。
第43回研究進歩賞(2018年度)の論文(九州大学)を表にまとめる。
引用文献:工藤健太郎、品川一成、三浦秀志、”金属粉末射出成形Ti-6Al-4Vの高疲労強度とその支配因子の解明”、「粉体および粉末冶金」第70巻第7号(2023)319-325
「ことば」水素化・脱水素化処理(HDH、Hydride-Dehydride):チタン合金を水素雰囲気中で加熱し水素を吸収させ、その後脱水素焼鈍によって水素を除去する熱処理。この処理でチタン合金の組織を微細化することができる。
【珈琲ブレイ句】この論文は原料粉末、合金組成、焼結手法、熱処理の組合せにより高疲労強度を目指したものです。その支配因子ごとの効果を疲労強度順に表としてまとめました。いろんな因子がありますが、64チタン合金の疲労強度を向上させる共通するポイントは2つです。それは、①組織を微細化させること。②高密度化処理をおこなうことです。高密度化(HIP)処理を行うと組織が少し大きくなるのですが、気孔を潰すことによる疲労強度向上のプラス効果がより大きいのです。
MIM用フィードストックは、金属粉末や高・低分子樹脂バインダー、可塑剤、潤滑剤などを加熱混錬して造られる。混錬物は粉砕あるいは造粒されて成形材料となる。そのときの材料投入手順はどうすればよいのか?
《結論》加圧混錬機に材料を投入する順番はいろいろである。
方法A:①高融点バインダーから低融点バインダーを順次投入 ②金属粉末を徐々に投入していく ③すべての金属粉末投入後に低融点添加物や可塑剤などを添加する
方法B:①加圧混錬機を予熱する ②金属粉末を投入し予熱温度まで加熱する ③バインダーを少しづつ投入する ④揮発性の可塑剤等は混錬最後に投入する
方法C:①すべての材料をミキサーに掛けて予備混合する ②加圧混錬機に全量投入する
《参考文献》方法A:渡辺、岩橋、下平、”金属射出成形活用ハンドブック”、P21、㈱ユーテス 方法B:斎藤ら、”金属粉体の射出成形技術”、P74、㈱総合技術センター
【珈琲ブレイ句】専門家によって順番がかなり違うので面白いですね。自分の経験では、溶けづらい樹脂(例えばPOM)がレシピに入っていたら「方法A」を選んでいました。PPやPEが主体ならどれでもOKで、「方法C」で量産を行っているところもあります。結局、自社のバインダーレシピに最適な投入方法は自分で調べるしかないようです。
共通するポイントはあります。それは、揮発性があり低粘性(あるいは液体)の可塑剤類は最後に添加するというところでしょう。
混錬物の品質の良し悪しは、表面性状の電子顕微鏡観察、ペレット密度のバラツキを特性値とし、管理項目は投入手順、混錬時間や混錬トルクになると思われます。
3つ前のブログで、Formlabs 社(米国)が開発した3Dプリンター用アルミナレジン「Alumina 4N」について深堀したが、収縮率が不明だった。そこで、別の類似する公開論文を深堀することでその謎に迫る。
アルミナ:平均粒径 0.61μm
焼結助剤:Mg、平均粒径0.05μm、アルミナに対して500ppm添加
造形用樹脂:アクリルモノマー、モノマーオイル、光重合開始剤、分散剤
固形分濃度:35VOL% (見かけ粘度<3000mpa・s)
3Dプリンター:下面照射型DLP式光造形法(積層ピッチ25~150μm)
焼成:昇温速度1℃/分、1600~1750℃、大気焼成炉
『結果』
相対密度:97%(XY)、95~96%(Z)
曲げ強度:400MPa(XY)、360MPa(Z)
収縮率:24.0%(XY)、25.1%(Z)
参考:香川県産業技術センター横田耕三ら、型技術 第37巻 第7号 2022年6月号 P078-081、横田耕三ら、粉体工学会誌、Vol.53(2016)、pp.492-498
【珈琲ブレイ句】「Alumina 4N」は同じ方式なので収縮率は24~25%程度だと推察できました。さらに、この香川県産業技術センター横田さんのデータは曲げ強度400MPaなので「Alumina 4N」に匹敵しています。
セラミック粉末はサブミクロンなので(比表面積が大きいので)バインダー量がMIMより多量に必要で、収縮率が25%になっているようです。これは、MIM(収縮率13~15%)と比較するとかなり大きいです。収縮率を小さくするため固形分濃度を上げると見かけ粘度が高くなり、固形分濃度を50VOL%程度にするとペーストになるため光造形底面のモデリングピッチに流入しなくなるそうです。下面照射型DLP式光造形法には粘度に限界があるのです。
一方、MEX方式であれば、ペースト状態が必要なので、固形分濃度を限界(CSL)近傍まで上げることも可能でしょう。結果として収縮率を極限まで小さくすることができるので、相対的に精度(スランプ変形)も向上する可能性があります。このときの副作用は加熱脱脂時間が延びること??
Sinter based Metal AM(MIM-like AM)と機械加工が合体したハイブリッド機を2つ記録しておく。( 注:溶射・溶融積層装置とマシニングセンターのハイブリッドではない。)
【MEX+高速マシニングセンター】Mantle社(サンフランシスコ)の「P200」 →関連BLOG
【BJT+多軸高速ボールエンドミル】3DEO社(カリフォルニア)の「Intelligent Layering」
Intelligent Layeringは、100 μm の粉末層を堆積し、端から端まで均一にバインダー(紫外線硬化)が噴射され、光硬化された層ごとに多軸の高速エンドミルで加工する。削り出されたグリーン体は脱脂焼結される。残った粉末層は再生する。
【珈琲ブレイ句】Intelligent LayeringのBJTは、従来のBJTのように選択的にバインダーを噴射するものではなく、粉末層全体に振り掛け含侵層を作りエンドミルで部品を掘り出すことを繰り返すものです。メチャクチャ贅沢な感じです。一方、P200はMEX造形の削り代部分を機械加工するので歩留まりは相対的に良いと感じます。
これらのハイブリッドの利点は精度ですね。MEXやBJTより一桁以上精度が良くなるでしょう。
でも、機械加工削り出しと比較すれば、精度はかなり低下します。理由は焼結収縮による誤差が加わるためです。それでは、機械加工と比較してメリットを考えてみましょう。まず、工具寿命が格段に延びる。 材料費削減メリットは無いかも?(粉末は溶性材より数十倍高い)。高速加工削り出しの方が脱脂焼結(1~2日間)が無い分だけリードタイムが短い。 結論、QCDで機械加工の削り出しに勝てないような気がします・・?
でも、最大のメリットが発現する条件が2つあります。それは①「難削材の部品を作る」時ですね。グリーン体を削るのは難削材粉末でも容易なのです。②機械加工では原理的にできない中空形状の3D造形ができるところです。
さらに、MIMへの展開が目的の試作部品の製造であれば大歓迎です。がんばれ!ハイブリッドMIM-likeAM。
現在、MIMで活用されている3つのシミュレーションソフト名を記しておく。
「Moldex3D」 Core Tech System(台)
「SIGMASOFT MIM&CIM」(独)
「Mold Flow Inside」AUTODESK(米)
【珈琲ブレイ句】国内では、先陣を切って実用化研究を重ねた太盛工業が2014年から「Moldex3D」 を採用しています。「SIGMASOFT MIM&CIM」は米国のOptiMIMが採用しています。そして、老舗AUTODESKからもMIMとCIMのCAEソフト「Mold Flow Inside」が発表されています。こちらは日本法人がありますね。
これらのソフトがあれば、金型方案設計前に、流動解析、変形解析を行い「ランナ方案、ゲート位置、ガス逃げの位置、成形条件の最適化、等」を行うことができるのです。
でも「ソフトを買ってすぐに実践で使えるのか?」 当然、多少の実用化研究・合わせこみ(プロパティ調整、チューニング)が必要になるはずです。また、オペレーターとして3次元CAD利用技術者(2級以上)がいてほしいです。
Mold Flow Insideで使うプロパティの一部を記載しておきます。カッコ()はデフォルト値。粉末平均径(10μm)、最大粉末体積濃度(68%)、粒子応力係数Kn(3.0)、流れ方向・垂直方向、カール方向の法線応力(実験値)
MIM金属粉末射出成形では、試作品を1個作るためにも「金型」が必要である。安価に作りたい場合は、試作用の金型を用意しているMIMメーカー*1を利用する方法がある。たとえば、キャビティ金型だけをカセット化し、金型材質はジュラルミン材で高速MC削り出しで製作する。あるいは、キャビティ金型を樹脂の3Dプリンターで造形する。試作評価後に量産金型を造ることになる。また、海外では、Mantle社の金型製造システムが試行されている。他には、カーボン3D積層金型や、電子レンジで硬化させたセラミック粉末積層金型もMIMで利用できる可能性がある。
*1:金型工場を自社で持っている国内MIMメーカーJ社、C社等で、このビジネスモデルあり
【珈琲ブレイ句】ロストワックスの試作品は1個から製作可能です。それはワックスモデルを3Dプリンターで造形すればよいからです。そう考えると、試作品をMIM-Like AM(Sinterbased Metal AM、MEX、BJT 等)で作り、機能評価して合格したらMIM用金型を製作するという、シフトアップ作戦が有益だと思います。品質はMIMの方が若干良いので機能品質的にシフトアップは容易ですし、大量生産できるのでコストも安くなります。
この戦略を取っている国内MIMメーカーも数社存在します。海外ではIndo-MIMが有名です。逆にMIM-Like AMメーカーがMIMを始めた海外メーカーも存在します。
ロストワックス精密鋳造で1個の鋳造品を製作する方法を紹介する。
ロストワックスの製造工程を説明する。ワックス成形体の射出成形→ワックスツリーの組み立て(押し湯・湯道・ゲート方案)→セラミック鋳型造形(セラミックスラリー+セラミックサンド)→脱ワックス(ワックス成形体とワックスツリーを溶かし出す)→セラミック鋳型焼成→鋳造→鋳造部品の切断→表面仕上げ→熱処理、検査等
上記の製造ラインの「ワックス成形体」を「3Dプリンターによるワックス積層体あるいはポリマー樹脂積層体」に置き換えるだけである。
【珈琲ブレイ句】この基本的な工法は、30年ほど前に米国のロストワックスメーカーですでに実施されている確立した技術なのです。国内でこのサービスを行っているメーカーを2社紹介しておきます。①JUKI会津(そっくりCAST)②CASTEM(DIGITAL CAST)ワックス成形体の製造方法が異なるので、詳細は各社に問い合わせてください。(たぶん①の方が大きいものができるのと表面あらさも少し良いと思います。)数種類のパラメータが異なる試作品をロストワックスで作り、試作評価後に金型を造れば、開発期間が短縮できるので垂直立ち上げに貢献できます。また、3Dスキャニングデータから部品とそっくりな再生品を造ることも可能です。
MIM用の金型を内製化するために必要な4Mを妄想する。さらに、MIM-like AMへの展開・発展性も考慮する。
Man:3D-CAD利用技術者、CAD-CAM設計者、機械加工技能士(NCフライス盤、平面研削盤、マシニングセンタ、精密器具製作等)、金型製作技能士(プラスチック成形用金型製作)、プラスチック射出成型技能士(方案設計および成形体品質確認)
Machin(加工):ワイヤー放電加工機、放電加工機、放電穴明機、高速回転高精密マシニングセンタ、NC竪型フライス、ボール盤、等
Machine(測定検査):定盤、ダイヤルゲージ類、ブロックゲージ、マイクロメータ、デジタルノギス、三次元測定機、二次元測定器、工具顕微鏡、等
Machine(MIM-Like AM):BJT、MEX、3Dスキャナー
Material:プレシジョンプレート類、MC工具類、セラミック砥石、ウッドスティック、研磨ペースト 等
Method:3D-CAD利用技術、CAD-CAM設計技術(工程設計)、機械加工技術
【珈琲ブレイ句】金型屋を始めるための4Mは多岐にわたることを再確認できました。金型屋さんは技術と技能の塊です。そう考えるとMIMメーカーが金型屋を始めるには周到な準備と育成期間が必要であることがわかります。初めは金型屋さんと仲良くすることが近道だと思われます。
蛇足ですが・・・金型屋さんがMIMを始める方が楽勝です。なぜなら、成形機と脱脂焼結炉を購入すればMIMを始められるからです。さらに、プラスチック成型屋さんなら、初めから射出成型機とその技能はあるし、金型の知識経験も豊富なので、さらにMIMを始める敷居が低いのです。
Live Sinterは、グリーン体を焼結する際の形状寸法のエラーを予測して修正するための高度なシミュレーション ツールである。
3DCADモデル:①STL、②STEP、③Parasolid スキャニングデータも可
機能:焼結により発生する①重力、②摩擦、③収縮、④歪みを考慮した最終焼結体形状をシミュレーションする。
逆オフセット機能(negative offset geometry):最終焼結体が必要な形状になるように、逆の変形量を補正設計する機能。
スキャニングデータによる逆オフセット:焼結体のスキャニング3Dデータを基準とする、逆オフセット設計により、偏差±0.3%、寸法1%以内に収まる焼結品を生成する。
サポートの最適化設計機能:材料の使用量を大幅に削減すると同時に、必要に応じて歪み補正を行うことができるように最適化されたサポートを生成する。(サポート:変形を最小化させるためのセラミック支え、同材質の犠牲支え・アシスト。)
HIP収縮補正:HIP処理を行うための収縮率補正。
【珈琲ブレイ句】焼結変形を扱うシミュレーションソフトが実用化されているので感激です。これはDesktop MetalのBJTとのバンドルソフトだと思われます。BJTだけでなくMIMでも使える可能性大です。高精度部品を実現するために必要な試行錯誤を排除することができるので素晴らしいソフトです。実用化のためには若干の実物との合わせこみが必要になると思われますが、ソフト単体で購入できるなら、ぜひMIM業界でも使ってほしいソフトです。
日本製ソフトSinterPro (JFCC)の動向や、焼結炉本体のシミュレーションソフトMAGMA Simulating sintering furnacesなどの情報も調査していきます。
【珈琲ブレイ句】「精度」に関するBLOGをここにまとめておきます。
「精度」を因数分解すると「平均」と「分散」です。この2つを分けて考えることが重要です。例えば・・・・・・
BLOG2 品質は「分散」と「平均値」の合わせ技で決まります
BLOG9 バインダーが少ないPMがMIMより精度が悪い理由
BLOG9 金属粉末3D積層装置(金属3Dプリンター)の精度向上について考える
BLOG12 MIM-Like AMが精度でMIMを絶対に越えられない理由
・・・・・以下 品質工学関係BLOG・・・・・
BLOG20 品質工学パラメータ設計事例3 成形体密度 SN比と感度
BLOG22 品質工学パラメータ設計事例5 GRG特性値結合法
これから高精度化のための開発設計技術や現場改善技術を習得したい方は、日本規格協会の品質工学(タグチメソッド)セミナーがお勧めです。とくに動特性(転写性)のSN比によるパラメータ設計が秀逸です。ちなみにSは信号(平均値)Nはノイズ(分散)です。故田口玄一先生のタグチメソッドは、SとNを一つの特性値として解析(L18直行表等)し、高品質かつロバスト性(頑健性)が高い最適なパラメータ設計を行う工学です。
XERION Berlin Laboratories GmbHが取得した特許について掘り下げてみる。英語タイトルは、「APPARATUS FOR DEBINDING AND SINTERING A WORKPIECE」意訳すると「積層造形体の脱脂および焼結のための装置」
装置に関する特許。MEX用フィラメントは市販のBASF-POM系フィラメントを使うもので、特徴は、触媒脱脂に硝酸ではなくシュウ酸を使い、「カートリッジに入れた粉末のシュウ酸を昇華させて脱脂・焼結炉へ供給させるシステム」が請求項のようだ。焼結ガスは、真空、N2、N2+H2。
現在供給されている金属FFFは3種類で、BASFフィラメント(SUS316L、SUS630)、純銅である。
【珈琲ブレイ句】どんな特許なのかと思いましたが、装置に関するもので新規性はあまりなく応用的な特許でした。脱脂速度は硝酸と同等とありますが、シュウ酸の速度は硝酸の3~5割減の可能性*1があります。それにしても、XERIONが提案する The Fusion Factory XSは、持ち運びできる工場がコンセプトで、3つのトランクケースで構成されておりカッコイイです。XERIONのHPの広告写真から受ける印象は、「戦場でMetal AMを活用する」です。MIM-Like AMの技術応用編がもの凄いことになってきました。
*1 BASFジャパン、村山、粉末の射出成形研究会編、粉末の射出成形技術1996、P81
【珈琲ブレイ句】◆BJTの実戦経験はありません。しかし、MIMフィードストック製作過程で知った「金属粉末のやんちゃな性格は痛いほど知っています」。それは、タップ密度測定器を製作してわかったヤンセンの法則の失敗と対策、タップ密度測定誤差の推定・検証・対策など試行錯誤の経験です。◆ある展示会でBJTの動きを観たとき粉末床の粉末密度(かさ密度)に潜在的な課題があることに気づき、それを解決するアイデアが閃いたので忘れないうちに特許にしておきました。この特許は、微細な固体潤滑剤を微量配合させることで流動性を格段に向上させるアイデアです。これは、50μm以上の大きな粉末であれば必要がありません。しかし、10μm以下の微細粉末になると流動性が著しく悪くなるのでこのアイデアがお役に立てると確信しています。◆MIMフィードストックの金型ワックス汚染対策用に入手していたメラミンシアヌレートを金属粉末に微量添加して流動性を確認したところ。メチャクチャ効果があることがわかりました。そのときの実験映像をアップしておきます。
【珈琲ブレイ句】無料配布していた抜き刷り冊子の在庫が尽きましたので、著作者本人としてここに解説論文を公開します。タイトルは「Metal AMとMIMの共存共栄の時代」英題では意訳して「MIM reassessment by Metal AM」としました。・・「MIM-like AMからようこそMIMへ」としたかったのですが・・いろいろありまして・・
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ぷらすとす(日本塑性加工学会会報誌)第5巻 第53号(2022-5)
Metal AMとMIMの共存共栄の時代(MIM reassessment by Metal AM)
1.はじめに
MIM(金属粉末射出成形)は,付加製造(AM)のブームにより,今後の製造業を支える重要な技術であると再評価されている.MIMの概説と,今後の金属付加製造との関係性について私見を述べる.
2.MIMとは
MIMは,金属粉末を射出成形する技術で,「ミム」あるいは「エムアイエム」と呼ばれている.また,英語表記ではMetal Injection MoldingあるいはMetal Powder Injection
Moldingである.「金属射出」といってもダイカストやチクソーモールディングのように金属を直接射出成形する鋳造ではない.MIM技術はプラスチック射出成形と粉末冶金の複合技術である.また,粉末冶金技術体系で観るとMIMは,図1の位置に分類される.
3.MIMの誕生と歴史
MIM誕生から約40年間における国内技術動向を四世代に分けて説明する.
3.1 第一世代 1980~1990年
Permatech社が,創業から6年後の1979年にMetal Powder Industry Federation(MPIF)の5つの賞のうち2つを受賞すると,世界的にMIMブームとなる.日本国内でも大手企業がその開発に着手したころ,基本特許を持つWitech社が日本法人を設立.多くの日本の会社がWitech社のライセンシーとなる.他方,国内の2社がPermatech社のライセンスを取得.さらに,独自の技術開発を堅持するメーカーも存在した.研究開発は閉鎖的でメーカー間の交流はなかったが,1988年より,大学等の研究論文が発表される.
3.2 第二世代 1991~2000年
自力・他力で量産が開始される.国内MIM市場規模は50億円まで上昇.MIMの基本特許・技術契約が切れ始め,誰でも使えるオープン技術となる.この第二世代が実質国内のMIM元年と言える.さらに,島津メクテム(現在:島津産機システムズ)が加熱脱脂と焼結を連続で行うMIM専用焼結炉を開発すると,それを利用した3STD法(Three step sequential
thermal debinding)が登場する.また,MIM成形材料の外販やMIMコンサルタントが誕生する.大学等の研究も活発に行われ,1997年MIM関係論文数が20編を超え最多となる.
3.3 第三世代 2001年~2016年
年15億円以上のペースでMIM市場は急成長していくが,リーマンショックにより前年2007年のピーク150億円から,2009年には100億円まで激減する.翌年若干回復するが,それ以降2016年まで緩やかに減少.設備の老朽化とMIM担当技術者の定年時期に合わせるかのように撤退・統合が進んでいく.一方,QCD技術の高い企業はさらに発展・進化する.
3.4 第四世代 2017年~現在
2017年からMIM市場が上向きに転じ,年5億円増の回復を示している.超合金のMIM論文が発表されるなど,MIM技術は確実に向上している.一方,2018年にMIMと同じ金属粉末を使った3D積層装置が米国2社から発表されると,AMのブームに乗り各社からMIM粉末を利用した3Dプリンターが出現する.これを機に,AM技術の補完技術,発展技術としてMIMが再評価され始める.
4.MIMの工程概要
MIMといっても現在,量産技術として採用されているMIM製法はひとつではない.それは,MIM技術の要である一次脱脂技術の違いで多種多様の特許が存在するためである.そして現在,量産で採用されている技術は3つに集約されている.それは,「溶媒脱脂」「加熱脱脂」「触媒脱脂」である.その特徴を表1に示す.
4.1 混練工程
平均粒径10 µm程度の微細金属粉末と数種類の有機系バインダー(バインダー配合比33~40 VOL%)を混錬装置(加圧ニーダー)に入れ,バインダーの融解温度で金属粉末の凝集が無くなり粘度が安定するまで混練する.MIMで使われている金属粉末は,微細であればどんな粉末も使用可能であるが,量産材として広く使われているものは,主に3つの製法で作られた金属粉末である.その工法は,カルボニル法,ガスアトマイズ法,水アトマイズ法である.粉末の顕微鏡写真の例を図31)に示す.(左:ガスアトマイズ粉末,右:水アトマイズ粉末,SKD11,平均粒径10 µm)
また,3製法の粉末の特徴を表2に示す.バインダーは,結合剤,潤滑剤,可塑剤の3要素で成り立っており,結合剤は,ポリプロピレン,ポリエチレン,ポリアセタール等のポリマーである.潤滑剤・可塑材はパラフィンワックス,ステアリン酸,フタル酸ジオクチル等である.これらバインダーの組合せが特許技術であり多種多様な脱脂技術の違いを生み出している.
4.2 造粒工程
粘土状の混練物は,造粒装置(ペレタイザー)に掛けられる.ここで,混錬物は加熱軟化後に加圧移送され,直径3 mm程度のダイスを通して押し出される.ダイスから数mm頭を出した混錬物は回転刃物でペレット状に切断され,直後に冷却固化される.この粒状成形材料をフィードストック(コンパウンド,ペレット)と呼ぶ.現在,この成形材料フィードストックは市販されているので,プラスチック射出成形の経験者であれば,自社で誰でもMIMを試行することができる時代になっている.
4.3 粉砕工程
一般的な量産では,混錬した材料(バージン材)単体で射出成形を行うことは少なく,リターン材(スプルー,ランナー)と混ぜて使用する場合が主流である.その配合量は,成形性や最終製品の精度に大きく影響を与えるため,正確な配合量の管理が必要である.バージン材とリターン材を社内規定量配合し,同時に粉砕し成形材料とする.MIMメーカーによっては,バージン材とリターン材を再混錬して造粒工程からやり直すことも行われている.
4.4 射出成形工程(一次転写)
射出成形は,金型のキャビティ形状を転写させる工程である.粉砕混合した成形材料を射出成形機に入れ,160~180 ℃で可塑化し,金型(40~50 ℃)のキャビティ内へ射出成形し保圧を掛けながら成形体を冷却して取り出す.射出成形機は,一般的なプラスチック用射出成形機(バレルやスクリュー等は耐摩耗仕様を推奨)と同じである.射出成形機はインライン方式だけでなくプリプラ方式も使われている.ゲートカットやバリ取りを行った成形品は電子天秤で重量管理を行う,成形体の重量管理(密度管理)は,最終焼結体の寸法精度に直結するので重要である.また,初期流動期間や,客先要求スペックによりX線検査を実施する.成形体をグリーンパーツと呼ぶ.
4.5 脱脂工程(一次脱脂,デワックス)
Permatech法は溶媒脱脂である.グリーンパーツをノルマル・ヘキサン湧出槽(湯煎)の中に入れ,ポリマー(結合剤binder)以外のワックス類(潤滑剤・可塑材)を完全に抽出除去する.脱脂前後の重量を計り脱脂率を管理する.一次脱脂をデワックス(De-WAX),脱脂体をブラウンパーツと呼ぶ.
4.6 焼結工程(二次脱脂+焼結)
真空脱脂焼結炉にブラウンパーツを入れて二次脱脂と焼結を1炉の中で連続的に行う.二次脱脂は加熱脱脂であり,溶媒脱脂で除去されない結合剤を加熱揮散させ不活性ガスを流しながら除去させる工程である.300~600 ℃で結合剤であるポリマーは完全に除去できる.その後,連続して還元処理から焼結工程(焼結温度1300 ℃程度,金属により異なる)へとプログラムシーケンスに従い実行させる.この処理は一般材料であれば24時間以内で完了させることができる.二次脱脂をデバインダー(De-Binder),焼結体をシルバーパーツと呼ぶ.
4.7 サイジング工程(二次転写)
MIMの一般公差(±0.5 %)以上の要求仕様に対して,二次転写としてサイジング(コイニング,矯正)を行う.サイジングは,サイジング金型とプレス機などにより行われる.MIMは転写で三次元形状を造る技術であるが,成形金型による一次転写と,最終工程での二次転写により精度をさらに向上させることができる.射出成形だけの「一次転写のみ」をオープンループ制御とすれば,サイジングを追加した「一次転写&二次転写」は,クローズドループ制御に近い概念である.
4.8 二次加工(機械加工)
IT等級で,IT9級以上の精度が必要な場合は,機械加工を行う.機械加工は,フライス加工,研削加工,リーマ加工,ネジ加工,転造加工(スパロール®,ネジ転造)等すべての二次加工が可能である.また,加工性を考慮した,MIM製品設計も重要である.クランプ変形を発生させない,ビビリを発生させない,加工バリを発生させない工夫(30度面取)が望まれる.
4.9 熱処理・表面処理
MIM材は一般溶製材と同等の,熱処理や表面処理を行うことができる.さらに,MIMは粉末冶金であるので工具鋼では理想的な球状化組織を得ることができるので,鋳造品で必要な球状化焼きなましを省略することができる.ひとつだけ注意事項を挙げれば,炭素量の多い工具鋼の黒色酸化処理は,茶褐色になるので購入仕様書等で事前容認が必要である.
4.10 検査工程
焼結密度,寸法検査,化学分析とくにC%の管理は重要である.他に,客先要求仕様の検査を実施する.また,初期流動期間には品質が安定し不良が完治するまで非破壊検査(X線検査,浸透探傷検査,磁気探傷検査等)を行う.また,ハイスペック品では全数非破壊検査を実施するものもある.
5.MIMの長所と短所
5.1 MIMの長所
MIMは製品形状に近いニアネットシェープを実現できる。リードタイムも短く、成形、脱脂、焼結を直列に組めば3日間で出荷できる。また、塑性変形が困難で難削材であるSKDやSKHなどの工具鋼を使った耐摩耗部品をMIM化した事例は多い.さらに奇抜な事例としては樹脂パウダーを使った多孔質金属も造ることができる.
MIMの技術的メリットは「鋳造ではできない組成の金属を造ることができること」である.鋳造では,合金の化学組成配合設計は自由にできない.その理由は,溶質原子が溶ける量に限界(固溶限)があること,限界まで溶けていても溶湯が固化するときにその原子が析出するからである.しかし,粉末合金であれば固溶限に関係なく高合金を造ることができる.例えば,高速度鋼(ハイス)では,粉末ハイスが有名である.粉末冶金で作られた粉末ハイスは,溶製材ハイスよりコバルトを多量に配合させることができるばかりか微細粒子組織が実現できるので機械的特性(高耐摩耗性,高靭性)に優れ,エンドミルやドリルとして使った場合,工具寿命を長くすることができる.さらに金属粉末だけでなくセラミック粉末を混ぜたサーメットや,銅合金であれば炭素繊維を複合させることもできる.このようにMIMは合金設計の潜在能力がたいへん大きい.
5.2 MIMの短所
素形材の母材となる粉末のコストが相対的に高いことが最大の短所である.金属粉末の製造工程の概略を水アトマイズ製法で示すと「溶解→アトマイズ粉末化→乾燥→還元→分級」となり粉末の製造工程は長く,金属材料を溶解して素形材を作るロストワックス精密鋳造(LW)に比較すれば材料費が数倍から十数倍高くなることは容易に理解できる.しかし,小物部品(< 30 g)になれば,製造原価に占める材料費の比率が小さくなるため、品質とコストのバランスからMIMが採用される事例は多い.
金属粉末自体の粉末流動性は悪く,特にMIMで採用する微細粉末は比表面積が増えるためさらに粉末流動性が悪い.それを解消するために潤滑性のあるバインダーを配合させている.射出成形を可能にするためには体積で40 Vol%程度バインダーが必要である.そのため,最終焼結体の寸法になるためにはバインダー体積相当分だけ収縮する.その結果,成形体では高精度であるが焼結体に変化するときに精度が犠牲になる.それでも金属製素形材の中では優秀で,LWの精度よりワンランク高い.
MIM焼結体の相対密度は高く96 %以上であり,4 %に相当する部分はマイクロポアとして残存する.ポアは球体で応力的に安全で機械的強度に大きな影響を与えない.一方,初工程の成形で不良があると最終焼結まで完治されないことがあり,大きな空隙やウエルド等の不良が残ることがある.大きな不良は成形品の重量測定で管理できるが,高品質が要求されるハイスペック品や高機能部品では,成形体や焼結体の非破壊検査(X線検査,磁気探傷検査)が要求される場合がある.
ほとんどの鋼種をMIMで造ることが可能である.国内で発表されている材料一覧を表3に示す.マトリックスの縦軸は鋼種,横軸A~Hは,MIMメーカーを示す.また取り扱っている鋼種に〇を付けている.
MIM市場で使われている材料の内訳は,ステンレス鋼が75%程度で一番多い.SCM系の構造用鋼が12%,磁性材が4%と続き,以下,工具鋼,ヘビーメタル,チタン,純鉄,コバール,その他である.このように多種多様の材料が用意されているが,ほぼ同じ目的機能であれば,市場性の高い材料を選択したほうが品質,コスト,納期で有利である.例えば,錆びにくいステンレス鋼であれば,SUS304やSUS304Lではなく,若干硬度が下がるが,防錆能力が高くコストは同等のSUS316Lを選んだ方がよい.また,表3には無いが近年では,軽量機能部品としてアルミニウム合金(6061,2024)や,航空機ハイスペック部品をターゲットにした超合金(INCO713,INCO718,RENE95)が研究開発されている.
6.近未来の製造業を支える技術
2018年に公開されたMcKinsey & Companyの「Factory of the Future:未来の工場」の中に,未来の産業を支える技術を投票した報告がある.その結果は表4注1)の通りである.そこではMIMの秀逸さが際立っている.
MIMとAMが,幅広い業界において未来の産業を支え,製造を改善する可能性が最も高い技術として選出されていることがわかる.21ポイントを獲得し2位となったMIMは,今後5年間で製造に大きな影響を与えると評価されている.さらにMIMは,すでに完成した成熟技術であり,産業用途への即戦力を持っていると考えられていることに注目したい.これらは,MIMが金属粉末を利用した造形技術なので,粉末冶金の材料開発の高自由度と金型転写による高精度造形が高く評価された結果であると推察する.
一方,44ポイントで1位になったAMは,今後5年間で製造に大きな影響を与えると考えられているが,まだ技術的にはMIMと比較して成熟度が不完全で,発展途上であり技術的課題があると評価されている.また,AM技術の中でMIMと同じ微細金属粉末を使用し,さらにMIM同様の脱脂焼結を行うMIM-Likeな金属付加製造が登場しその実用化が始まっている.このように,未来の産業を支える技術の1位と2位に強く関与しているもの,それがMIM技術である.
注1) Mckinsey & Company:Factory of the Future,Exhibit 5,Top 10 advanced
manufacturing technologies,(2018),9,https://www.mckinsey.com/
7.Metal AMとMIM共存共栄の時代
7.1 MIM-Like AMの種類と機械的性質
AM体系の中のMIM-Like AMの位置付けを図4に示す.AMの中で,金属粉末を利用し金属造形体を造るものを,「Metal-AM」と表記する.さらに,技術的に「Direct」と「Indirect」に分かれる.まず前者のDirectは,粉末溶融凝固・焼結技術を利用するもので,例えばレーザーや電子ビームを使い,粉末を直接的に溶融凝固・焼結させ造形体を形成させるものである.一方,後者のIndirectは,バインダーを介在させて粉末を積層し造形体(Green Part)を造り,MIM技術の脱脂・焼結技術を利用して間接的に金属化させるものである.このIndirectの方法を,「Sinter-based Metal AM,Multi-step process Metal AM
」とする文献もあるが,ここでは,「MIM-Like AM」と表記する.
粉末焼結を前提とする付加製造技術において,バインダーを利用して粉末を積層する三次元積層造形法「MIM-Like AM」には次の5種類がある.材料押出し法(Material Extrusion),液槽光重合法(Vat Photo Polymerisation),スクリーン印刷光重合法(Screen Printing),バインダーコートされた粉末を使った融解積層法(Cold Metal Fusion,Solbent Jetting),バインダー噴射法(Binder Jetting).これらすべての積層造形体(Green Part)は,脱脂および焼結を行い焼結体が造られる.これらMIM-Like AMで使用する金属粉末はMIMとほぼ同じ微細粉末であり,MIMの機械的性質を目標としている.
MIMと比較した機械的性質を表5に示す.MIM規格と同等の機械的性質を有している.ただし積層方向で強度に差があり今後の改善課題もある.この積層方向の差は,積層レイヤー間に断層が残るためであると推察する.この欠点に対するユーザーサイドで可能な補完技術としてはAMの積層造形体をラバーコート後にCIP処理をする,あるいは焼結体(Silver Part)にHIP処理を行うことが考えられる.
MIMとMIM-Like AMの特徴を表6に示す.MIMは高精度で安価な素形材であるが最大の弱点は金型が必要なことである.通常納期は1か月,金額は100万円を超えるため,設計仕様が未確立の開発段階からMIMを採用することが難しい課題があった.しかし,MIM-Like AMであれば,金型が不要で,設計パラメータの異なる数種類の試作品を同時に製作できる.納期も数日で焼結体を得ることができる.設計シミュレーションと同時並行して実体試験を実施できるのでコンカレントエンジニアリング,垂直立ち上げなど製品開発期間の短縮化に貢献できる.
一方,MIM-Like AMの弱点は,表面粗度がRa 8~12と悪いことである.機能部位は機械加工を加えれば解消できるので,実体試験は十分可能であるが,外観部品,意匠部品の場合はやはり欠点となる.一方,MIMであれば表面粗度が大変優れており,素材肌(as sintered)の表面粗度はRa 2である.また金型キャビティ面を鏡面に仕上げれば,表面粗度Ra 1~1.5を出すこともできる.
このように,MIMとMIM-Like AMは,同じ微細金属粉末を使う高強度部品であることが共通であるが,金型の有無,表面粗度の良し悪しなどお互いに長所短所がある.
7.3 MIM-Like AMからMIMへ
世界的な3Dプリンターのブームにより,安価な3Dプリンターが登場し,個人でも入手できる時代になった.そして要求される材料は樹脂から金属に移行することは自然な流れであろう.
近年,MIM-Like AMの材料押出し法(MEX)であれば数十万円で入手することも可能である.積層造形体を受託し脱脂焼結するeコマースビジネスも米国では始まっている.品質を問わなければ脱脂焼結炉も数十万円で購入できる.
AMのブームに乗り,MIM-Like AMが認知され,製品メーカーの研究開発部門等で研究用に導入が進めば金属粉末冶金への認知のハードルは低くなる.その先には,高精度で高表面粗度,安定した機械的性質をもつMIMへ要求がシフトアップしていくであろう.また,MIMメーカー自身がMIM-Like AMを導入した,図5のような新しいビジネスモデルが米国,独国,印国ですでに始まっている.
8.今後
MIMは,AMのブームにより再評価され,MIM-Like AMとともに相互補完し共存共栄の関係を築きながらさらに発展していくことが期待できる.
参考文献
1) 八賀祥司,椎名好弘:粉体および粉末冶金,52-10,(2005),717-721.
2) 八賀祥司:MIM指南書・金属粉末射出成形ガイドブック,(2020),10,ブイツーソリューション.